鈴音side
シャルロットの話を聞いた翌日、私はラウラと向き合って第3アリーナにいた。そう、ラウラの言っていたタッグパートナーとして認められるための模擬戦だ。
『ラウラちゃん、鈴音ちゃん、二人とも準備はいいわね?』
会長の声が放送席から聞こえてくる。その声にあたしとラウラは首を縦に振る。どうやら会長は試合の判定をしてくれるみたい。簪と本音は観客席で試合を見ている。
「あたしの師匠とあんたの師匠の勝負はあたしの師匠が勝った。だから弟子であるあたしもあんたに勝たせてもらうわ、ラウラ!」
「師匠<レーラァ>は確かにあの時は負けた。だが、その頃よりも師匠はずっとレベルアップしている、その師匠<レーラァ>の技を受け継いだ私が勝ってみせるさ。」
『それじゃあ行くわよ、二人とも!試合開始!』
そう会長が言うとあたしとラウラは互いに相手の方へ走っていき、やがて中央で手4つで組み合う。ISの特性上、あたしはラウラにパワーで勝っていて、そのままラウラを地面に押し付けに行く。
「どう?ラウラ、あたしの甲龍は現行ISトップの100万馬力よ。このままじゃ、あたしが押し切って勝つわよ?」
「流石だな、だがパワーといっても馬力だけではないぞ。」
ラウラはそう言うとあたしと組んでいる手を強く握る。
ビシィ!
するとあたしの甲龍の手にヒビが入る。
「これが師匠<レーラァ>直伝の握力だ!」
そのままラウラはすかさずあたしをアリーナの壁に向けて投げっぱなしジャーマンを放つ。あたしはラウラの握力でこれ以上潰されるのを回避するため、あえて力を抜いてラウラに投げられる。
「甘いわよ!ラウラ!心突錐揉脚!」
壁に蹴りを入れて、ラウラの元へ戻り、ラウラの頭目掛けて、技を繰り出す。するとラウラは地面に仰向けの体勢で寝る。やがてあたしがラウラのちょうど真上に来たあたりで
「甘いのはそちらの…方だ!ハンブルクの黒い霧!」
手の力だけで体を押し上げ、そのまま心突錐揉脚をしているあたしに向かって両脚蹴りを撃つ。バランスを崩したあたしは空中に舞う。
そのまま追撃をしようとラウラは空中に舞ったあたしを追う。
「そうはいかないわよ!ラウラ!」
あたしは衝撃砲を使って、体勢を立て直す。そして、そのままラウラ目掛けて、ヘッドバットをかます。たまらずラウラは体勢を崩し、あたしの方に足を向けた逆さまの状態になる。その足を掴み、ラウラに対して肩車の体勢になる。
「チャーンス!これがあたしの最大技よ!九龍城落地!」
そのままアリーナの地面目掛けて、落下していくあたしとラウラ。
「それがお前の最大技か!なら私もとっておきを出そうじゃないか!」
するとラウラは空いている右手を手刀の形にして、その手を思いっきり後ろに引く。
「腕を弓の如く引き、流れ星の如くに振り降ろす、その壮拳をもって風擦ればーっ、ベルリンに赤い雨が降るーっ!!」
そして、そのままアリーナの地面目掛けて手刀を振り降ろす。
それと同時に地面に激突する!それによって発生する土煙!
やがて晴れるとそこには…抉れた地面、それによって犬神家状態になるのを防ぎ、腕をクロスさせて衝撃を和らげたラウラと九龍城落地を決めたあたしだった。あたしは九龍城落地を解除して、体勢を立て直しラウラに向き合う。一方、ラウラも起き上がり、あたしに向き合う。
「やるわね、まさか九龍城落地を防ぐなんて…」
「伊達に師匠<レーラァ>に教えられていないさ。」
「でも今の九龍城落地、無傷で受けられたわけじゃないでしょ?」
あたしの言葉に図星をつかれたのかうっと動揺するラウラ。確かに犬神家状態は回避した。でも衝撃を和らげた腕、特に右腕はだらりと垂れ下がっている。
「確かに腕はまずいさ。でも私は諦めが悪くてね。」
そう言うとラウラはあたしに向かって突っ込んでくる。あたしはすぐさま左にスライドして避け、ラウラにパンチをかまそうとする。
「狙いは…こっちだ!」
そう言ってあたしのパンチを左で受け止め、そのまま腕を引っ張る。
「お返しだ!!」
そう言ってさっきの意趣返しのようにあたしに向かってヘッドバットを行う。あたしはたまらず足元をふらつかせる。それに対してラウラは左手をあたしの顔に向けて、伸ばしてあたしの頭を掴む。そう、ラウラはブレーンクローを繰り出した。
「これも私の得意技だ!」
ミシミシと鳴っていくあたしの頭、やがてあたしを掴んだまま空中に上がっていき、頭が地面側に来るようにラウラ自身ごと逆さになる。
「後はこの技でフィニッシュだ!」
そうしてアリーナの天井を蹴って、アリーナの地面に向けて落下していく。
「ラウラ、あんたはミスをしたわ!」
そう言ってあたしはパンチのラッシュをラウラの肘に向けて撃つ。
「いいだろう、鈴音!これが最後の勝負だ!私が先に地面に頭を激突させるかお前が先に私の肘を破壊して技から脱出するかいざ尋常に…」
「「勝負!」」
そう言いながらあたしは次々とラウラの肘にパンチのラッシュを叩き込む。ラウラはそれに苦悶の表情を浮かべるも、そのままあたしの頭を掴んで落下していく。
しかし、流石に耐え切れなかったのか、地面まで後1メートルといったところでブレーンクローが緩む。あたしはすぐさま脱出しようとする。しかし、突然あたしの腕が何かに掴まれる。見るとそれはラウラの両手だった。
「そんな簡単に私が離す訳がないだろう?」
そう言ってラウラは掴んだあたしの腕を自分の脇に抱え込む。
「二段構えだったってわけ?上等じゃない、その技じゃあたしとあんたの頭はどっちとも地面に激突する、それで立っていた方が…」
「この模擬戦の勝者だ!行くぞ、ブレーメンサンセット!」
「師匠の弟子としてあんたには負けられないのよ!」
やがてあたしとラウラは地面に激突する!そして、同時に二人ともダウンする。あたしはゆっくりと立ち上がっていく。しかし、ラウラも負けじとあたしに少し遅れて立ち上がる。あたしは完全に立ち上がった後、耐え切れずに倒れていく。
「や、やったぞ!私が、私が勝ったんだ!褒めてくれますよね?師匠<レーラァ>…」
そう勝利宣言をするラウラ、しかしその途中で地面に倒れこむ。あたしは最後の意地で倒れていっている体を起こして最後の力を振り絞って立ち上がる。
『勝者!凰 鈴音!』
そう会長の放送が流れる。あたしはそれを聞くと同時に糸が切れたように地面に横たわることとなった。
『ふ、二人とも?!か、簪ちゃん、とりあえず二人を保健室に連れて行くわよ!』
「わ、分かったよ、お姉ちゃん!本音も手伝って!」
「りょ〜か〜い。」
あたしが最後に聞いた言葉はそれだった。やがてあたしの意識は闇に落ちていった。
鈴音side
「う、うーん。はっ、ここは?!」
あたしは確かラウラとの模擬戦の途中に…周りを見渡して見るとどうやらここは保健室のようだ。そして、隣のベッドには頭に包帯を巻き、両腕にギプスをしたラウラの姿もあった。
「なあ、鈴音。私は…負けたのか?」
「ええ、まああたしも勝ったけど、正直ほぼギリギリの状態だったわ。」
「…師匠<レーラァ>のようには行かないなあ。師匠<レーラァ>もかつて同じような状況になって、相打ちまでは持って行ったというのに…それなのに…私は…あたっ?!」
そんなことを言うラウラに対してあたしはラウラの額にデコピンをする。
「な、何をする?!傷が痛むではないか?!」
「…それに関してはごめん。でも今のあんたの発言は許せない。」
「どこかおかしいところがあったか?」
分からないのか首を傾げるラウラ。それに対してあたしは答える。
「ええ、確かにあんたはあたしに負けた。でもそうやって自分を貶められると本気で戦ったあたしも貶されてる気分になる。誇りたいのよ!あんたとの戦いを!」
思わずラウラの首根っこを掴み、最後の方を思いっきり大声で言うあたし。
「…それはすまなかった。ところでタッグパートナーの件なのだが…」
そういえばタッグパートナーと認めてもらうための模擬戦だったと今更ながら思い出すあたし。
「…私でよければ組もう、鈴音。」
「ええ、よろしくね。ラウラ。」
そう言ってあたしはラウラの手に自分の手を重ねる。今ここに最高のタッグチームが誕生した。
「…見事だったぞ、鈴音。」
そんな最中、この学園ではほぼ聞くことのない男性の声が聞こえる。声が聞こえてきた保健室の扉の方を見るとそこには面長で弁髪をしたどじょうヒゲの男性が立っていた。
「し、師匠?!どうしてここに?!」
「なあに私の仲間の靴ひもがスパーリング中に切れてね。何か嫌な予感がすると思って、ここに来たというわけさ。」
それを聞いてあたしは納得する。師匠の仲間によく悪いことが起きる前に靴ひもが切れる人がいて、その不吉な予感は100パーセント当たっているという凄まじい人がいると聞いたことがあった。
「ここの学校の生徒会長から聞いた。どうやら最高のタッグパートナーを見つけたようだな。」
そう言って師匠はラウラを見る。
「鈴音のこと、よろしく頼むぞ。忘れ形見の弟子よ。」
「…あなたのことは師匠<レーラァ>から聞いています。任せて下さい、絶対に二人で優勝して見せます。」
そのラウラの返事に納得したように首を縦に振る師匠。
「それならば、タッグトーナメントまでに怪我を完治しないといけないな。後1週間だろう?タッグトーナメントまでは」
それを聞いてがっくりとするあたしとラウラ。そうだった、思わず全力でやっちゃったけど、こんな大怪我を負ったんじゃとても1週間では完治なんてしない。いや、師匠達ならなんとかなるだろうけど、あたしとラウラはまだその域にはいない。
「ふふ、そうか。あいつの靴ひもはこれを指していたのか。でも安心しろ!こんな時のためのものを持ってきている。」
そう言って師匠は懐から粉のような物を取り出す。
「これは中国にある終点山というところに生えている霊命木という物を煎じて薬にしたものだ。これの効果は私が保証する。」
そう言って師匠はあたしとラウラに薬を差し出す。でも明らかに健康に良くなさそうな青色の粉で不安になる。しかし、このままではタッグトーナメントで優勝するどころか参加も出来ない。あたしとラウラは顔を見合わせて、二人同時にこくりと頷くと師匠からその薬を受け取る。
翌朝、目覚めるまでの記憶があたしとラウラにはない。
1週間後
鈴音side
今日はタッグトーナメント当日。あたしとラウラは第3アリーナで目のある一年生を探そうと来ている企業や政府のお偉いさんや2、3年生が観客席で視線を選手達に向けてくる中、トーナメント表の前にいた。あの後、目が覚めたら朝だった。そして、包帯を取ってみると傷がすっかり治っていた。効果は確かに凄かったです、師匠。良薬口に苦しとは本当ね。因みに会長の言ったチーム名決めのルールにみんな従ったのか○○ペアとかそう言った単純なのはなかった。専用機持ちだけでも
あたし&ラウラ…ザ・レッドレインズ
簪&本音…リトルシスターズ
一夏&箒…はぐれサムライコンビ
セシリア&シャルロット…エンプレスズ
とそこそこ多彩な名前になった。というか一夏&箒それでいいのかあんたらは。まあ適当に決めたんだろうけどね。
『みんな、集まったわね。それではこれより1年生タッグトーナメントを開始するわよ♪』
などと会長の声が放送席から聞こえてくる。もはや生徒会長より放送席の方が天職に見えるくらいノリノリである。
『今回は例年とは違い、予選を行います。普通にやっちゃうと専用機持ちが有利になっちゃうからね♪そこで専用機持ちがいる4チームは予選を無しにして、それ以外の生徒で予選を行い、その上位4チームが専用機持ちチームの待つ本選に出場できるようにしまーす。』
なるほど、確かにこれならある一定程度の質は期待できる。ぶっちゃけ観客もわかりきった消化試合をされるよりもずっといいしね。
『それじゃあ専用機チームは一旦それぞれ与えられた控え室に行ってね♪』
会長にそう言われたのであたし達を含めた専用機持ちチームはそれぞれ与えられた控え室に向かっていた。
如何でしたか?トーナメントなのに事前特訓とかそのあたりの描写をなくすことになってすみません。理由としては早く試合書きたいとなった結果です。それではまた次回お会いしましょう。