銀眼の魔女と光頭のハゲ   作:一文字

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明日0時に次話を投稿するけどそれ以降は続かない。

・機械類やサイボーグ
 生きていないため、妖気を持たない。主人公ちゃんの弱点の1つ。


ハゲの集団と勘違い

 同居人に面倒くさいのを押しつけるつもりがむしろ自分につきまとうようになった件について。

 

「どうかなさいましたか?」

「いや……」

 

 お前の事だお前の。

 メモ帳を片手に側に立つジェノスを見やる。本来ジェノスはサイタマの弟子だが、ジェノスが近くにいるとサイタマの手柄を疑われてしまうためサイタマのヒーロー活動中は別行動をとっているのだ。それでどうして私の所にいるかというと、

 

「先生の代わり……と言ったら失礼ですが、空き時間はクリスさんの姿を見て勉強させていだだきます」

 

 ということらしい。

 正直に言って邪魔である。近くに気配があるといまいちくつろげないし、行動や姿勢などを逐一メモに取られるのでやりにくいことこの上ない。今も適当なビルの上で日向ぼっこ中だが、いつもと違い隣にはメモ帳を構えたジェノスが居る。

 サイタマには至急C級からB級に昇格してジェノスを連れて行ってほしいものだ。ジェノスが側に居るのは家事を終わらせた後の空き時間のみだが、それでもまじまじと観察されるのは嫌なものだ。

 

「それにしても……クリスさんは横にならないのですね。よければ座布団を持ってきますが」

「いや、結構だ。性分でな。柔らかいものに背中を預けるのは落ち着かないんだ」

「なるほど……!」

 

 ガリガリとメモを取るジェノス。その眼差しは真剣そのものである。自分の発言1つすらその場で詳細なメモを取られるとか、よほど心が広いか鈍感じゃなかったら我慢できない状況だ。

 まったく、もう誰でも良いからこの状況をなんとかしてくれないだろうか。と、思ったところで私のポケットから電子音が鳴る。

 

「うん?」

「電話ですね。席を外しましょうか」

「いや、別にかまわないさ」

 

 どうせ隠すような相手は電話のアドレスに登録されていない。ズボンのポケットに入れていた携帯電話を取り出して画面を見ると『担当ちゃん』の文字が。この携帯は私がA級に昇格したときに協会に頼んで支給してもらったものであるが、貰ったときからこの名前で登録されていた。ちなみに、他に登録されていたのは『ヒーロー教会』のみである。まあその回線も最近になって『担当ちゃん』に統合されたのだが。

 

『あ、もしもしクーちゃん?』

「その呼び方は止めろ」

『あ、ごめんごめん。間違えちゃった☆』

「で、何の用だ?」

『あ、うん。実は頼み事があって』

「うん?協会が頼み事か?」

 

 『依頼』ならともかく、『頼み事』とは変な表現だ。普通、ヒーロー教会からの要請は『依頼』という形で通達される。それが無いということは……何だろうな?

 

『今回は私の個人的な頼み事だからねー。

 実はE市で複数のヒーロー同士で乱闘騒ぎが起きててね。ヒーローが暴れてる悪人を放っぽってそんなことをしてると協会のイメージも悪くなるからすぐに収めてほしいんだよねー』

「悪人だと?」

『あれ、クーちゃん知らなかった?今、桃源団とかいうのがF市で暴れてるんだよ』

「その呼び方は……」

 

 と、視界に何かを捉える。あれは……ビルの屋上が砕けている?壊れ方からして地面から飛んでいった何かがぶつかったみたいだ。

 

「ああ、今確認した。先に桃源団へ向かわなくていいのか?」

『ああ、それねー。未確認情報なんだけど、実はC級ヒーローの小競り合いにも桃源団が関わってるらしいんだよ。しかもバカみたいに強い奴。だからヒーローの方を優先で』

 

 なるほど、どうしてF市に近いE市でヒーローたちが油を売っているのかと思ったら桃源団が関わってたのか。にしてもこれは渡りに船だな。

 

「丁度いい。桃源団の方にも人をよこそう。おい、ジェノス」

『え?クーちゃん一人じゃないの?珍しい……』

「おい」

『あ、ごめんクーちゃん。許して☆』

 

 許して☆じゃないが。……いや、やめよう。私が1人(ボッチ)じゃないのは実際珍しいし。

 

「では」

 

 通話を止め、ポケットにしまうとジェノスに顔を向ける。頼み事の気配を察したのか、ジェノスはメモをしまい背筋を伸ばしていた。

 

「ジェノス、お前はF市へ行き桃源団という悪人たちを止めてくれ。私はE市へ行きヒーロー同士の乱闘騒ぎを止める」

「わかりました!」

「よし、急ぐぞ」

「はい!」

 

 ジェノスを厄介払いできて丁度よかった。今回ばかりは事件もタイミングがよかったな。早速屋上を蹴り、全速力でE市に向かう。

 ジェノスが見えなくなったところで気づいた。担当の呼び方修正し忘れた……ま、いっか。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「くそ!なんだアイツ!強い!」

「桃源団め!お前らの好きにはさせないぞ!」

「そうだそうだ!」

「おとなしくヒーロー様に捕まれぇ!」

「だーっ!くそ!だから、俺は桃源団じゃねー!!」

 

 何やってんだあいつ。

 ヒーロー同士が乱闘してるというから来れば、そこにいたのはよく見知った同居人だった。どういうことか桃源団に間違われて他のヒーローから狙われているらしい。つまり、ヒーローの乱闘に関わっているという桃源団員はサイタマ(あいつ)か。そりゃバカみたいに強いわ。

 E市の駅前広場。ある程度開けたそこで、近くのビルの屋上から数十人のヒーローに囲まれるサイタマを見る。どうやらヒーローを殴るわけにもいかず、話も聞いてもらえないで足止めを喰らっているようだ。

 

「へっ!ここはA級の俺に任せな!」

「ああっ!A級ヒーローのタンクトップベジタリアンが行ったぞ!」

「うらぁ!」

「押さえ込んだ!」

「よっしゃあ!」

「離せコラァ!」

「ああっ!あっさりぶん投げられた!」

「弱え!」

 

 お、ベジタリアンさんもいる。こうして顔を見るのは巨人の時以来だ。

 

「くそぅ!桃源団め!悪はこの赤鼻が許さないぞ!他のヒーローの(かたき)はこの赤鼻が取ってみせる!」

「見てください!桃源団にヒーローたちが苦戦しています!この町はどうなってしまうのでしょうか!」

「すげーな、見ろよあれ」

「人が宙を舞うとか、アニメかよ……」

「おいおい、一人相手にどんだけ手こずってんだよ。ヒーローもっとしっかりしろ-!」

「そうだそうだー!ちゃんとやれー!」

 

 

 おお、テレビカメラとアナウンサーまでいるじゃないか。野次馬も結構いるみたいだし、こんだけ目立ってたらヒーローも寄ってくるわ。

 

「囲め囲め!相手は一人だ!数でたたみかけろ!」

「サスペンダーストーム!」

「囲めっつってんだろ!俺らに当たる!」

「危ねーなおい。だから話を……」

「ぐわっ」

「あっさりぶん投げられた!」

「バカは放っとけ!」

「クソが……!ナメんなあっ!」

「ベジタリアンが行った!」

「だから俺の話を聞けって!」

「またあっさりぶん投げられた!」

「弱え!」

 

 ……どうやって収拾をつけよう。

 

 

 ◇◇◇

 

 

『ジェノス、お前はF市へ行き桃源団という悪人たちを止めてくれ』

 

 F市に向かいつつ先ほどのクリスさんの言葉を思い返す。俺の記憶が確かなら、クリスさんがあそこまで強い口調で指示を出したのは初めてだ。クリスさんの語調を強くする何かが桃源団にはあるのだろうか……。

 考えつつ騒ぎに向かって道路を走っていると、瓦礫の山へ行き着く。ガラスの多さや瓦礫の形状から元はおそらく高層ビジネスビルか。

 瓦礫からは今も救助が行われていることから、崩れてからそれほど時間が経っているのではないのだろう。野次馬を誘導している警官にあたりをつけて声を掛ける。

 

「あ、あんたは?」

「S級ヒーローのジェノスだ。何があった?」

「ヒーローか!桃源団だよ!奴らがやったんだ!」

「桃源団が……」

 

 少なくとも高層ビルを崩すほどの力があるのか。災害レベルは最低で虎か……鬼にも届くかもしれない。

 他には、と周囲を見回し、よく見ると、桃源団がやったのであろう破壊の痕跡が一直線に続いていた。これでは行き先が丸わかりだ。あまり頭はよくないようだ。……いや、サイタマ先生やクリスさんのように印象とは違った本質を持つ人間もいる。決めつけるのはまだ早いな。

 

「頼む!奴らを、桃源団を止めてくれ!あいつらは町を破壊しながらあっちへ向かった!このビルだけじゃない。もっと多くのものを破壊する!

 俺はあんな奴ら相手に何もできないが、あんた、ヒーローなんだろ!」

「ああ、俺は元からそのつもりでーーー!?」

 

 警官に答えていると桃源団が向かった先に高エネルギー反応を感知する。サイボーグか!

 センサーの感知を一方向に向けて精度を上げると、複数の高エネルギーの励起を感じ取る。これは戦闘態勢に入ったサイボーグの反応パターンに酷似していた。

 

「1つ、いいか。桃源団はサイボーグか?」

「あ、ああ。そういえば、蒸気がでたり、妙な服を着ていたような……」

「そうか」

「あ、おい!」

 

 炉の稼働率を上げ。エネルギー反応の元に全速力で走る。

 町を破壊するサイボーグ……複数犯らしいが、共通項が多すぎる。もしも桃源団に()がいるなら……。

 

「焼却する……!」

 

 ジェノスが桃源団に到着するまで、あと3分---。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「なんだ貴様らは---」

「ちっ。目撃者か」

「まあ、消せばよかろう」

「ふん、どうやらお前たちもハンマーヘッド(そいつ)に用があったらしいな。俺はハンマーヘッドが死んでいれば後はどうでもいい……だが」

 

 サイボーグらに対し、ソニックが笑う。辺りの空気が殺気を帯びたものに変わった。

 

(頭蓋骨が固くてよかったけど……助けて母ちゃん)

 

 ハンマーヘッドの死んだふりが見破られるまで、あと5分。

 

「お前らの態度が気にくわん。死ね」

「なんだこいつ。消すか」

「いやまて、こいつの素性がわからない」

「とりあえず殺しておくべきだ」

「しかし……」

「おい貴様ら、ふざけているのか」

「ちょっと待て。判断が合わないだと?」

「バグか?組織に判断を---」

「貴様ら……!」

 

 サイボーグ対ソニックまで、あと1分---。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 とりあえず、サイタマ以外のヒーローを止めることにしよう。ビルの手すりに乗りながら考える。

 問題はどうやって止めるかだが……。

 

「おらあ!」

「だから、俺の話を聞けって!」

「黙れ桃源団め!悪はこの赤鼻が許さない!」

「だぁーーっっ!!」

 

 サイタマが他のヒーローにどうにかできるとは思えないので、乱闘騒ぎを尻目にじっくりと考え込む。いきなり前に出て、サイタマを指さし「こいつは桃源団じゃない」とか言ってもこの場は収まらない気がする。しかし、だからといって他に案は……。

 

「く、ク、ソ、があぁぁぁぁぁ!!」

「ああ!お見えでしょうか!タンクトップベジタリアンが桃源団員に向かって突っ込みました!」

「またかよ!」

「いいかげん俺の話を聞けっての!」

「またぶん投げられた!」

「何回目だよ!」

「ヒーローたちは圧倒されつつも、誰も倒れず奮闘しています!」

「確かに、どんだけぶん投げられてんだ。これで何回目だよ」

「こんだけ戦って怪我人いないとか、さすがにヤラセじゃね?」

「何のヤラセだよ馬鹿か」

「いや、わかんねーけど」

 

 おっ、これだ。

 こうしてはいられないとすぐにビルから広場へと飛び降りる。って、あっ。やべえ。

 

「くそっ。何なんだテメエは!」

「だから俺は---むぎゅっ」

 

 ベジタリアンさんに言い返そうと立ち止まったサイタマの頭を踏み台にして着地する。サイタマの頭が広場の床に叩きつけられ、蜘蛛の巣状のひびが入った。

 すまんサイタマ。目測を誤ってしまった。まあ、サイタマはこれくらいじゃ死なないからいいとして、

 

「………………」

 

 一気に静まりかえってしまったこの空気はどうしたらいいのだろうか。

 




・主人公ちゃん
 サイタマにジェノスを押しつけるつもりがよりつきまとわれる結果になった。中身はポンコツであるため、言動に深い考えはない。

・ジェノス
 サイタマほどではないが、常識外れに強い主人公ちゃんについても強さの研究の対象としている。色々と主人公ちゃんの言動を深読みしている。

・サイタマ
 見回りをしていたところ桃源団に間違われ、他のヒーローとの戦闘に突入。怪人相手のように殴ることもできず手間取っている。

・モブヒーロー
 はぐれ桃源団がいると聞き集まってきたヒーローたち。主にC級が集まったがB級が数名、A級が1名混じっている。

・ハンマーヘッド
 死んだふりでソニックから逃げるものの、サイボーグたちにスーツの機能を停止させられてしまう。死んだふりをしているが、今もなお命の危機に直面している。

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