銀眼の魔女と光頭のハゲ   作:一文字

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初めて評価に色が付いたので勢いで投稿。続かない。

・妖気
 この世界の生物が持っている力。生き物なら身体から発しているが怪人は特に強い。妖気が強いほど力がある。


モスキート(小)娘とサイボーグ男

「馬鹿な……なぜ……ここ、が……」

 

 ここ最近、蚊が大量発生していることについて、まさかとは思っていたがやはり怪人の仕業だったらしい。

 かすかな妖気を頼りに郊外の森を探したところ、大量のヤブ蚊に囲まれる幼児ほどの小さな怪人がいたのでぶった切る。するとヤブ蚊たちはまとまりを失ってどこかへ飛び立ってしまった。

 他に怪人が居ないことを確認して懐の携帯電話を取りだしヒーロー教会の番号へかける。

 

『はい、もしもし?どしたのクーちゃん』

「……担当(おまえ)か。窓口はどうした」

『クーちゃんがあんまりにも頻繁に報告入れてくるから専用回線にしちゃった☆』

 

 しちゃった☆じゃないだろ。

 この担当、ノリが軽すぎである。

 

『あ、そうそう。クーちゃんまたランキング上がってたよ』

「いくつだ?あとその呼び方はやめろ」

『一気に4つ。A級では珍しいくらいの上がり幅だねー。それで?どったのクーちゃん』

 

 ああ、そうだった。本来の用事を思い出す。担当に蚊を操る怪人を倒したこと、その場所を伝えると、担当は手早く回収を手配する。

 担当(こいつ)は仕事に余分が多いだけで、実はできる奴なのだ。その余分さで差し引き0になっているようだが。

 

『いやー。今年は蚊が多いと思ってたけど。実はその怪人のせいだったのかねー?』

「さあな」

 

 蚊の怪人が今のこいつだけとは限らないし、蚊の統制を取っていた司令塔がいただけで蚊の大量発生自体は自然現象の可能性もある。

 どちらにしても頭を潰したのだし、多少は蚊の数も減るだろうが。いや、減ってほしい。

 やせ我慢してるけど、山を歩いているうちにけっこうな数の蚊に刺されてしまった。隠れていない二の腕とか、森に入ってすぐに刺されたのかもう既にかゆくなってきている。私は普通の人と体質が違うため薬が効きにくいため我慢するしかないのである。

 

 

『おーい?もしもーし?』

 

 おっといけない。

 考え事の間に担当を不審に思わせてしまったようだ。

 

「なんでもない。では」

『あっちょっ』

 

 さて、蚊取り線香でも買って帰ろうかね。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 と、思っていた時もありました。

 

「ヒーローのクレイモアだな。お前にはいくつか聞きたいことがある」

「誰だお前」

 

 郊外から町へ向かおうとした矢先に妙な奴に絡まれてしまった。道を塞ぐように立つ話しかけてきた金髪の青年を見やる。

 

「お前……サイボーグだな」

 

 いや、違うが。なんか面倒くさい気配がする。

 

「どこの生まれだ。他にサイボーグは何体いる?」

 

 当たり前だが、私に機械の仲間の心当たりはない。

 

「町を破壊するサイボーグを知っているか?」

「うるさい」

「---!」

 

 お前は会話のキャッチボールをしろ。

 身体からは生きていたら発されている妖気が感じられないし、腕が機械じみてるからこいつもサイボーグなのだろう。切羽詰まった雰囲気から訳ありと見た。切羽詰まりすぎていきなり臨戦態勢に入っているけど、私は悪くないはずだ。

 

「私はそんな奴らは知らんし、サイボーグでもない」

「ふん、嘘が下手だな。上手くエネルギー反応を隠しているようだが……。怪人の補足能力、継戦能力……鍛えた人間としてはおかしすぎる」

「……」

 

 私が人ではないという事に関しては当たりである。

 前の世界で私がいた組織は人体改造された、今の世界で半人半妖と言われる半怪人の戦士たちを集めて妖魔と呼ばれる化け物を狩る組織だった。つまり、私もそこで普通の人間から半人半妖へと改造を受けている。

 怪人の発する妖気を感知でき、妖力解放で身体能力が上がるのは半人半妖の基本スキルだし、食事も少なくて良いなど継戦能力に優れているのもそれに付随したものだ。

 

「……いいだろう。話さないなら、聞き出すまでだ」

 

 金髪はあっけにとられて黙る私に一瞬で肉薄する。流石サイボーグと言うべきか、中々速い。

 

「---マシンガンブロー!」

 

 まるで雨のような拳の連撃は当たればただではすまないだろう。地面を蹴り後ろに回避する。

 すると金髪は両足を前後に開き、こちらに掌を突き出す。

 

「焼却」

 

 金髪が言うと同時、突き出された掌が光り、光が吹き出す。

 これはこの世界に来たときに似たものを見たことがあるぞ。あれと同じなら爆弾的な何かだろう。私にとってはこの程度なら大丈夫である。

 背中の大剣(クレイモア)を抜剣。そのまま爆風を切り払う。衝撃波で目の前から爆風をそらすもその奥からも爆風が。しょうがないので連続で大剣を振り、爆風が止むまで防御し続ける。

 思い込みが激しすぎるというか、本当に面倒くさい奴に絡まれてしまった。

 

「---なっ!?」

 

 だから隙だらけの金髪の手足はぶった切っておこうね。

 爆風の発射が終わったのを見計らい、すれ違いざまに手足を切り取って行動不能にすると、金髪は驚愕の声とともに崩れ落ちる。

 

「話を聞け。私はサイボーグじゃない」

「そんな話を信じられると?」

 

 まあ信じられたら攻撃してこないわな。

 地面に伏したままこちらを睨む金髪に納得する。何か証拠になるものは……あった。

 

「ほらよ」

「……!」

 

 シャツを腹からまくる。金髪には私の傷、ひいては生身の肉体が見えているはずだ。

 これは半人半妖の作り方に起因するのだが、まあ大ざっぱに言うと身体の前面を縦に切り開いて妖魔の肉を詰め込んだ人間が半人半妖なのだ。半人半妖になってからの傷は妖力を集中させれば直すことができるものの、その身体は切り開かれた状態で完成してしまっている。つまり、半人半妖は縦に裂かれた身体を糸で縫い合わせた状態がデフォルトなのだ。そんな状態の私の腹を見たのだからきっと内臓まで見えたことだろうし、私が生身である何よりの証明になるだろう。

 

「やっと納得したか。じゃあな」

「な、ちょっと待った!なぜトドメを刺さない!」

「ふん。なんとなく、さ」

 

 帰ろうとしたら呼び止められたので返事をしたら信じられないといった表情になる金髪。そんな顔されても本当になんとなくだからね?

 

「待ってくれ……!俺はサイボーグのジェノスという!弟子にしてほしい!」

「は?」

「お願いします!」

「やだね」

「そこをなんとか!」

「くどい」

 

 もう付き合いきれない。

 災害レベル鬼の怪人を倒すよりも強い疲労感を抱え、私は帰路を急ぐのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 それから数日後。

 

「こんにちは先生!こちらがサイタマさんですね」

「おい」

「ああ、そうだ。今日一日彼に付いて勉強するといい」

 

 最寄りのスーパーが開いてから一時間ほどの時間である。サイタマの家に金髪---ジェノスの姿があった。

 

「わかりました。サイタマさん、今日はよろしくお願いします」

「なあ、おい」

「よく見れば私がお前の師匠に相応しいと言った理由がわかるだろう」

 

 あれから数日間。ジェノスは私の行く先々に現れた。

 怪人退治の現場、日向ぼっこしているビルの屋上、お気に入りのクレープ屋---そして言うのだ『弟子にしてください』と。何回も、何回も。

 毎日毎日、ジェノスは弟子入りを頼み込みに来た。正直なところ非常にうんざりしたので、サイタマに押しつけることにしたのだ。強くなりたいようだし丁度良いだろう。

 

「こいつ誰?」

「ジェノスだ、強くなりたいらしい」

「……なんで俺に付いてくることになってんだ?」

「直接見た方が手っ取り早い」

「俺の意見は」

「暇なんだからいいだろ」

「てめえ……」

 

 実際、死ぬほど暇なので言い返せないサイタマ。

 ふとジェノスを見やると、覇気のないサイタマを見て『こいつ本当に大丈夫なのか』と思っているようだ。それでもなにも言わないのは私の大恩人でもあるので敬意を払うようにと言っておいたからだろう。まあ実際、普段のサイタマは気の抜けた顔をしているからしょうがないだろう。

 

「……ん。A市に怪人だ」

「しゃーねーなー、行くか……何だっけ」

「ジェノスです!」

 

 なお、やはりワンパンだった模様。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 それからさらに数日後。

今日は出歩かず、サイタマの家でのんびりとテレビを見ている

 一日サイタマと居たジェノスは結局、サイタマに弟子入りすることに決めたらしい。最初は渋ったサイタマもジェノスの勢いに押される形で師匠関係になったようだ。

 

「どうぞ、先生。お茶です。クレイモアさんもどうぞ」

「お、センキュー」

 

 弟子入りから数日後、荷物を持ってきたジェノスは住み込みでサイタマの強さを学ぶと息巻き、弟子としてサイタマとついでに私の世話をしてくれていた。

 道具を片づけるジェノスがそういえばと口を開く。

 

「クレイモアさんの本名は何とおっしゃるんですか?」

「クリスだ」

「あ?お前ってクレイモアって名前なんじゃねーのか」

「いや、それはヒーローネームですよ。一緒に暮らしている先生でもご存じなかったのですか?」

「……ヒーローネーム?何それ」

「え?いや……趣味でヒーローとは……まさか……」

 

 サイタマの言葉に愕然とするジェノス。私はうすうす知っていたがジェノスは知らなかったらしい。

 

「こいつはヒーロー名簿に登録してないぞ。趣味だからな」

「ヒーロー名簿?」

「それも知らなかったのですか!?」

 

 そもそも職業『ヒーロー』は認可制である。テストをくぐり抜けた者がヒーロー教会に認められ、ヒーロー名簿に登録されることで初めてプロと言える。ヒーロー名簿に登録していないヒーローなんて免許を持たない自称医師と同じくらいうさんくさいのだ。

 

「知らなかった……道理で知名度が低いと……」

 

 そんなことをジェノスに説明されること数分。サイタマはすっかりヘコんでいた。意外と人気を気にしていたようである。

 いつものん気なサイタマがここまで落ち込むのは珍しい。

 

「落ち込んでないで、今度のヒーロー試験受けに行けばいいだろ」

「ああ……ジェノスは登録してないのか?」

「はい、ですが俺は」

「お前も登録してサイタマを支えてくれないか?」

「いきましょう!」

「おい」

 

 サイタマの顔に押しつけやがったなテメーと書いてあるが、無視だ。サイタマが協会に出かけている間ジェノスと2人きりとか嫌だぞ私は。

 

「そうすればクリスさんとも行動しやすくなりますしね!」




・主人公ちゃん
 生肌を見せるもダークファンタジー世界出身は格が違った。割と女を捨てている実年齢●●(ピー)歳。もったいぶった割に軽く本名が判明した。

・担当ちゃん
 ふざけすぎて金髪サイボーグ男がクレイモアをかぎ回っている情報を伝える前に電話を切られてしまった。なお『ま、いっか』と一切気にしていない様子。

・サイタマ
 見回りの後、ジェノスに頼まれて少し手合わせをした。それが弟子誕生のきっかけだと知らずに……。

・ジェノス
 サイタマの怪人退治を見て、底が知りたいと手合わせをしてもらうも底が知れないという結果に。サイタマの弟子になることを決意した。一応、主人公ちゃんにもサイタマの次くらいに敬意を払っている。しつこい。

・モスキート(小)娘
 蚊を操り力を貯めて身を潜めていたが、主人公ちゃんの感知には敵わなかった。多分今回の話で一番不幸。

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