狂女戦記 作:ホワイトブリム
改めて私はクレマンティーヌ・エステル。
もうすぐ八歳。女性。処女。たぶん。
両親の事は知らない。捨て子らしいから。まともな形で生まれたとは思えないけれど。
それでもお陰様で奇形児ではなく、五体満足で生まれたようです。
鏡で見た分には以前の顔によく似ている美人さん。瞳が三つあったりはしない
髪形は以前の自分と同じボブカットの金髪。
赤い瞳も以前と同じだが、これは親からの遺伝だろうか。それともデウス様のお力だろうか。
声も同じように聞こえる。
違うとすれば肉体年齢くらいか。
身長と胸は随分と縮んでしまった。それは悲しい事だ。
長年の栄養失調で少し虚弱体質になったかもしれない。それは後々改善されるといいな。
友達は居ないが同期にターニャ・デグレチャフが居る。現在、物凄く置いていかれている。
兵士の才能は無いのかな。接近戦は得意だったはずなんだけれど。
弾の出る武器の扱いは苦手。初めて見るし、使い方は勉強中。
この国は前に居た国とは全く違う。何もかもが初めての経験だ。
国境はどこも激戦区。その点ではモンスター溢れる
どこも見渡す限りの戦場といった
もちろん、自分が見たり聞いたりした範囲では。
だが、いかんせん、身体が慣れていない。どうにも本調子ではないようだ。
人肉を多く食べ過ぎたか。それとも元々が虚弱体質なのか。
数年間の鍛錬はまだ実を結ばない。それはとても残念ではある。
かといってデウス様に頼るのも面白くない。
肉体改造は地味な作業の積み重ねだ。それは転生した身体であっても続けるべきものだと思う。
さすがに暴れるしか能が無い
銃剣より刀剣。
飛び道具より接敵戦闘が好きだ。
★ ★ ★
野外訓練と基礎知識の繰り返しで日々は過ぎていく。
戦略を練るのはいいが命令を下すのは得意ではない。むしろ他人にやらせるより自分で動いた方が効率がいい。だが、組織というものは単独行動に対して厳しい厳格な規則が存在する。
一度受けた命令は安易に拒否できない。
味付けに必要な材料が高騰していて慢性的に不味いらしい。だが、修道院で食べるご飯よりはまともだった。今頃、死体を量産しつつも神に日々の
「エステル二号生っ!」
「はい」
「上官に気付いたら敬礼せんかバカ者!」
容赦なく女だろうと子供だろうと殴ってくる男は見知らぬ上司らしい。
生意気な子供の態度が気に入らないのか、私はけっこう殴られていた。
やり返したいところだが、それをすると軍法会議送りになる、らしい。
小さな身体で大人の
気がついた時はベッドに寝かされていた。
意識が覚醒してくると顔の痛みが
「……目蓋が……」
片方の視界が暗い。目蓋が
軍隊教育というのはさすがにスレイン法国には無かった。
実力主義の社会なので階級で下の者を殴るようなことは無かった筈だ。弱い者ならいざしらず。
士官学校に居る上司の顔など全て覚えているわけが無い。これはどうすればいいのか。
半分視界が塞がったまま廊下を歩いていると見知らぬ全てが上司に見えてきたので手当たり次第に敬礼してみた。
そうして殴られる事無く自分の与えられた二号生達の部屋にたどりつく。
下級士官は大抵が相部屋となっていて私の相棒はターニャ・デグレチャフだった。
彼女以外はほぼ男性なので都合が悪かったのかもしれない。そもそも女性士官は極端に数が少ない。
「……酷い顔になったな」
「お前の未来の姿かもな」
同じ声を良い事に口調を真似てみる。
私の本来の口調は特に
「デグレチャフ二号生。相手が上司だとどうすれば分かる?」
名前を呼ぶ時は
「階級を見ればいいだろう。肩や胸の勲章とか」
自分たち二号学生の肩には専用の階級章が縫い付けられている。最初はそれが何なのか知らなかった。邪魔だとしても勝手に剥ぎ取ってはいけないと教えられた。
確かに年長者は色々と装飾品を付けているなと思った。
世界が違うと常識も変わる。それは分かっていたはずなのだが難儀する事だ。
この難儀する、という言葉がきっと私の口癖になる気がした。
本当に学ぶ事が多くて退屈しない世界だ。