狂女戦記   作:ホワイトブリム

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#017

 act 17 

 

 実験再開まで残り三日となった日に普段使用している演算宝珠で射撃訓練などを(おこな)った。

 空中での姿勢制御と武技(ぶぎ)との併用による戦闘方法の確立。

 実験の成否に関わらず、鍛錬は続けなければ(なま)ってしまう。

 戦士として活動していた記憶がある以上は日課として染み付いている。それをすぐに()められるほど気持ちの切り替えは簡単には出来ないようだ。

 身体は小さくなってしまったけれど、悪い気はしない。

 爆発事故が無くて安心しているだけかもしれないけれど。

 無茶な鍛錬を続けても短期間で強くなりはしない。もちろん食事もしっかり取り、休息もする。

 身体が小さい分、体力も少ないけれど、数時間の戦闘には耐えられるようだ。

 突進力は演算宝珠に任せるとしても空中戦闘は時間がかかる。

 昼ごろに休息と食事に入る。

 無理に食べてきた為に肉類はだいぶ抵抗無く食べられるようになってきた。

 

「この国の食糧事情は早く改善しないと兵士の士気に関わる。それには戦場を減らす必要がある」

「周り全てが敵なんだってね」

 

 子供二人が食堂で社会の勉強。

 はた目には違和感の無い風景なのだが、小さな外見とは裏腹に二人は本物の軍人。

 魔導に長けた『ターニャ・デグレチャフ』少尉と『クレマンティーヌ・エステル』少尉。

 見た目は違うが声がそっくりという不思議な関係に研究スタッフは驚いていた。

 無線でも区別がほぼ出来ないくらいだ。

 二人同時に計測する場合は担当を離す必要がある。

 

「帝国の激戦区は西のラインと北方のノルデン。いずれは南方も加わる、()()()と予想される」

「東は?」

ノルデンが片付いたら東も動くかもしれない」

 

 東には大国『ルーシー連邦』がある。現時点では戦況を窺う程度で本格的な動きは軍内部でも掴んでいない。

 西の国家『フランソワ共和国』と領土侵犯で戦闘になった北方の『レガドニア協商連合』と北西の島国『アルビオン連合王国』と南方の『イルドア王国』に南東の『ダキア大公国』が帝国における仮想敵国だ。

 囲まれている状態で各国が同盟などを結ばれると苦境に立たされる事態となる。

 戦争するには金と物資が重要だ。

 各個撃破すればいいのだが、一方に力を傾ければ当然、防御が弱くなる部分が発生する。だからこそ戦力を分散させた状態で相対するしか無い。ゆえに戦いが長期化してしまう。

 

「現在の帝国は相手国に攻め入るまでの戦力は無い。あったとしても侵略行為になる」

 

 攻め入るだけの大義名分が無ければ無理な話しだ、とデグレチャフは言った。

 領土を少しずつ搾取する方法が無難だとも言える。

 当然、保全管理は簡単ではない。奪われた土地を奪い返そうと戦力を投入するのは必然だ。

 

「戦争しながら食糧問題を解決しなければならない。政治だけで国は豊かにはならないということだ」

 

 少なくとも戦場がある限り作物を育てている場合ではない。

 農地を確保するには戦場を遠ざけるのが一番良いのだが、それは現在進行形の話しになっている。

 現場は分かっている。後は実行するだけだと。

 

「疲弊した兵士を大勢抱えていては自滅しか無い。だからこそ戦況を変える一撃が欲しいと上は考えている筈だ」

 

 その方法が兵士に爆弾をくくりつける厄介な事態となっている。

 もう少し安全であればデグレチャフとて文句は言わない。

 命令に従うのが軍隊組織というものだ。それは頭では分かっているし、文句は無い。

 だが、さすがに欠陥品を何とかしてくれないと困る。

 自殺志願者になりたくて来たわけではない。

 いくら祖国を勝利に導く為とはいえ、開発主任の性格くらいはどうにかしてほしい。

 


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