オーバーロード 天使の澱 ~100年後の魔導国~   作:空想病

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 屈辱の証である『敗者の烙印』を押されながら、
 あえてゲームを続けたプレイヤーがいたとして、
 そのプレイヤーが、敗者の烙印が無ければなれないクラスを有していたとしたら?
 それはいったい、どんなクラスなのでしょうか?


敵対 -4

/OVERLORD & Fallen Angel …vol.04

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アインズ・ウール・ゴウン……魔導王に作成(つく)られたという上位アンデッド……死の支配者(オーバーロード・)の時間王(クロノスマスター)は、その死骸を晒した。

 この現象は、他のアンデッド──彼等死の支配者(オーバーロード)たちが召喚したものとは、明確な違いを露呈している。

 

「アンデッドの死体が、残る……か」

 

 カワウソは思い返す。

 沈黙の森でヴェルの救出の際に殺してしまった死の騎士(デスナイト)──捕縛部隊に編成された都市駐屯用のものと、まったく同じ現象。あの時は、直後にとんでもない事実を聴かされ、感情のまま粉々に吹き飛ばしてしまったが、召喚作成されたはずのアンデッドモンスターなのに、死体が消滅しないことは共通している。

 だが、奇妙な事実に気づく。気づかされる。

 アインズ・ウール・ゴウンに作成され召喚されたという死の支配者(オーバーロード)たち……彼等が魔法やスキルで召喚し作成したアンデッドたち──骸骨戦士(スケルトンウォリヤー)死の騎兵(デスナイト)死の騎兵(デスキャヴァリエ)蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)地下聖堂の王(クリプトロード)など──は、死体がまったく残っていない。イズラの救援前に、彼が屠った連中の(むくろ)死屍累々(ししるいるい)と転がっていると言ったことはない。カワウソが特殊技術(スキル)で斬砕した時の破片すら、ひとつ残らず消え失せている。アンデッドが現実化したから死体が残っていると仮定するならば、彼等死の支配者(オーバーロード)部隊──アインズ・ウール・ゴウンの手で生み出されたらしい存在たる彼等の生み出した兵団が死体を晒さないというのは、奇妙を通り越して矛盾めいたものを感じてしまう。

 ユグドラシルのゲームだと、召喚や作成されたモンスターというのは一定の時間制限があったものだし、逆襲を受けてやられたら死体は残らない=消滅を余儀なくされる。──それこそ、〈火球〉や〈雷撃〉の魔法攻撃のように、効果が続かなければ消え失せるのと同じように、その場にとどまることのない、いわゆる“攻撃手段”に分類されるものだった。

 ──だとすると。

 アインズ・ウール・ゴウン魔導王が『新たに生み出した』彼等……死の支配者(オーバーロード)は、違うと? 都市などに駐在する『御方たちが作り出した』とかいう中位や下位のアンデッドも?

 経験値を消費して生み出される系統だろうか……それとも、ミカの言う通り……この異世界独自の法則が存在して、召喚作成されるアンデッドたちに永続性が付属しているのか。もし、そうなら、それはどのような法則が働いている。天使の澱(エンジェル・グラウンズ)で、たとえば天使モンスターでも再現可能な技法なのだろうか、否か。

 どうにかして調べたい。

 調べなくてはならないだろう。

 ここに死骸を晒した上位アンデッド──その死骸を回収してでも。

 でないと、こっちは何も手掛かりなしで、未知の多い連中の兵力とぶつからなければならないのだから。

 

『き……貴様らァ!』

 

 厳正に彼我の実力差からくる情報量の不足を憂慮するカワウソの耳に、憤慨に震える音色が届く。

 僚友(りょうゆう)であった時間王を防御陣の下位アンデッドごと殲滅された将軍が怒声を張り上げる。

 

『もはや一人もここから逃げられると思うな!』

 

 堕天使が深く思考する数秒の間に、憤怒に戦慄(わなな)く将軍が、死の騎士(デスナイト)の隊列と剣の向く先を揃える。

 だが、そんな光景を前にしても、カワウソは空恐ろしいほどに平静であった。

 

「逃げる? 何を勘違いしている?」

 

 聖剣をコンと肩に当てる堕天使は、出来の悪い生徒をたしなめる教師のごとき優しさを含めて、述べる。

 

「おまえたちが、俺たちを逃がさないんじゃない。

 俺たちが(・・・・)おまえたちを(・・・・・・)逃がさないんだよ(・・・・・・・・)

 

 あまりにも簡潔な調子で是正を求める堕天使は、挑発的に微笑み続ける。

 そのたびに視線は細く鋭利さを増し、目元の隈はより深く眼窩(がんか)のごとく(くぼ)み、その内側の眼は深淵の漆黒に染まりはてる。

 笑えば笑うほど、微笑めば微笑むほど、本来の堕天使としての表情に──従来の異形種そのものの精神に近づきつつあるような状況を、カワウソは果たして認識できているのかどうか。

 

「せっかく、おあつらえ向きの“戦場”なんだ。この世界で、俺の力がどれだけ使えるのか、実験につきあってもらうぞ」

『──実験だと?』

 

 そう。

 それこそ、今後アインズ・ウール・ゴウンと戦う際に、この異世界での上位アンデッドとの戦闘や、アンデッドの大兵団を相手に、カワウソはどれだけ戦えるのか、確かめておくに越したことはないのだ。

 時間対策については確実に起動すると知れた。では、次の戦闘システムを試す順番である。

 将軍が骨の相貌を苛立ちに歪めた、その時。

 

『ジェ、将軍(ジェネラル)!』

『おお、同胞よ! 一体、何を手間取っ』

 

 ふと、おかしなことに気づいた将軍。

 背後を任せていた──死の天使を守護し回復すべく、後方に待機していた女熾天使の方に攻勢をかけていた無印と賢者(ワイズマン)の方へ、将軍は振り返り、二人の数が減っていることに、気づく。

 共に生み出された同胞の姿は、魔法使いのローブ姿に身を包む無印の死の支配者(オーバーロード)……彼、ひとり、のみ。

 豪奢(ごうしゃ)な──だが、アインズ・ウール・ゴウンという創造主・絶対的な支配者のそれに比べれば格段に劣悪と言える衣装に身を包んでいた賢者の姿は、どこにもない。

 

『おい……賢者(ワイズマン)は、どうした?』

 

 (たず)ねたが、ほぼ直感的に、将軍は解を得ていた。

 だが、それを事実と認識するには、あまりにも信じがたい。

 

『──殺された』死の支配者(オーバーロード)は悔し気に、だが、歴然とした事実のみを語る。『あの女熾天使……アレは、強い』

 

 強すぎるぞ、と。

 アレのせいで、賢者たちの召喚していた上位アンデッドのほとんどは“()られた”と。

 アインズ・ウール・ゴウンの手によって生み出された者として、ありえてはならない……だが、どこまでも厳格に事態を把握できる最上位アンデッドの認知能力のもとで、無印は断固、結論する。

 

『あの女……ただの天使種族ではないぞ!』

『馬鹿な……一体、何があった?』

 

 将軍は疑問しつつも、慎重に交わす言の葉を選ぶ。

『やはり』などと両名が口を滑らせなかったのは、死の支配者(オーバーロード)たちはあくまでイズラの迎撃のみに駆り出された部隊であるから。

 連中の拠点をある程度の監視下に置き、あまつさえ飛竜騎兵の領地での戦闘情報をここで知っている風に話しては、あまりにも不審な挙動に映るだろう。奴らを監視していたことがバレるような言動は厳禁。死の支配者(オーバーロード)という、あまねく不死者を束ねる叡智と手腕を帯びるモンスターは、それぐらいの戦況把握は容易であった。

 しかし。

 目前のカワウソへの注意が散漫になるとわかっていても、将軍は無印の死の支配者(オーバーロード)が向く方に視線を重ねる。

 死の支配者(オーバーロード)の中で、“賢者”と称えられるだけの魔法の知識を蓄えた存在……単純なレベルで言えばLv.90にもなる最高峰の力量の持ち主。

 その賢者(ワイズマン)は、女熾天使・ミカの振るう光の長剣によって、頭蓋から骨盤までを縦に両断され、その骸を二つに分けながら床面に投げ出し、死んでいた。

 

「……光輝の刃(シャイン・エッジ)Ⅱ」

 

 ミカは、主人であるカワウソの修める聖騎士系統の特殊技術(スキル)を発動。重い長剣では不可能なはずの動作──細剣(レイピア)のごとき連続刺突の形で特殊技術(スキル)を発動。残像のように滞空し静止する光刃が、瞬間、雨霰のごとく死の支配者(オーバーロード)の死骸に変わってしまったそれに降り注ぐ。

 死の支配者(オーバーロード)の賢者(・ワイズマン)は、死体の骨も残らず浄化され、消し飛んでいった。

 熾天使は、堕天使とは違って神聖属性に特化しやすい傾向にあるモンスター。

 だとしても、Lv.90のアンデッドモンスターを、一方的に蹂躙する性能というのは破格の一言でしか言い表せない。

 強力な賢者を先に狩り取るというミカの戦闘選択のおかげで、成り行きに生き残ってしまった死の支配者(オーバーロード)は、賢者の遺したアンデッドたちの〈支配〉の引継ぎには成功していたが、苦々し気に女天使との戦闘を振り返る。

 

『……賢者は、賢者の魔法による蹂躙と、私の生み出す兵団と上位アンデッドたちとの連続攻勢を展開していた……だが、あの熾天使の防御力には、何一つとして通らなかった!』

 

 最初に、イズラというNPCを護り果せた防御壁の性能を思い出す。

 死の天使を凍え潰した冷気属性の魔法をはじめ、こちらの最大規模の魔法をいくつもお見舞いしてやったのに、女は平然と死の天使に防御壁を多重に(ほどこ)して、一転、こちらに逆襲を仕掛けてきた。

 たった一剣。

 ほんの一閃。

 それだけで、賢者が張り巡らせていた魔法の三重防御壁は砕かれ、居並ぶ衛兵の骸骨兵士たちを砕き潰し、蒼褪めた乗り手たちを裁断しながら、賢者の強靭な骨格を──縦に割打していたのだ、と。

 将軍は、愕然としながらミカという熾天使──冷徹な女神のごときその美貌を睨み据える。俄かには信じられない情報だったが、イズラをある程度まで回復させ、多重の防御壁を施し果せたミカの手腕は、疑いようもなく強者の貫録を感じさせる。速度は主人の堕天使ほどではなかったが、とにかく、硬いようだ。

 将軍は死の支配者(オーバーロード)系統の中では珍しい“戦士職”……故に、その風格に滲み出るものを、幾度の戦場を超えてきた「将」として、感得せざるを得なかった。

 

「ミカ」

 

 将軍は意識を堕天使の方角に引っ張り戻す。

 カワウソはミカの戦況を見て取って──あろうことか、とんでもない命令を発した。

 

「おまえの力だと、アンデッドのこいつらを浄化し尽しちまう。あとは俺がやる(・・・・・・・)

 

 だから、さがっていろ──そう、天使たちの首魁は宣言。イズラの防御に専念するよう、命じる。

 女天使は抗弁しようかと眉を顰め、唇を開きかけるが、何もかも諦めたように攻撃姿勢を解いた。

 それでも女天使は、光の長剣を鞘に戻さなかった。主人からの下知に対して、ある種反抗的な態度を取る女の態度を気にしつつも、将軍は堕天使の言動が──()せない。

 仄暗(ほのぐら)い声音で問いを投げる。

 

『貴様、どういうつもりだ?』

「ん……何がだ?」

『前後から挟み撃ちにしてしまえば、我等を容易く掃滅も出来よう……にもかかわらず、何故?』

 

 時間王を屠った堕天使。

 賢者を斬殺した熾天使。

 その両名が前後に位置している現状は、戦術的に見ても敗北に近いと、将軍は冷徹に思考可能。

 なのに、その利を、堕天使は理解できていないわけでもなしに、あろうことか「捨てる」のだ。

 あまりにも不自然。

 あまりにも不可解。

 死の支配者(オーバーロード)たちの退却撤退を期して……というわけがない。

 問われた内容に、カワウソは困ったように首を傾げてしまう。

 

「さっきも言っただろう? ──これは“実験”だ」

 

 自分(カワウソ)の力が、魔導国の上位アンデッド部隊にどれだけ通用するのか……そういう実験だと。

 いっそ嘘寒いほどに、堕天使の柔らかな笑顔が温かみを増す。

 

「せっかく“こうなった”以上は、無理やりにでも付き合ってもらうぞ?」

 

 温かみというよりも、業火の灼熱がごとき狂笑。

 実験への参加を強要するカワウソは、微笑みの色に黒い狂気を(たた)え始める。

 あまりにも醜悪な敵の顔面変化は、死の支配者(オーバーロード)には存在しないはずの肝胆を潰すほどの狂信に(いろど)られていた。

 堕天使にしても、あまりに()っている。

 奴は、アインズ・ウール・ゴウンに敵対するために必要な、己の戦闘能力の確認を、純粋に──純真に──求めていた。

 残存する死の支配者(オーバーロード)二体は、背後の熾天使から溢れ出る“希望のオーラ”以上に、目前に迫り来るちっぽけな堕天使──ユグドラシルの知識上、どう考えても脆弱で卑小で低能な異形種でしかない“降格者”に、圧倒的なほどの危険意識を懐きつつあった。

 だが、彼等は共にアインズ・ウール・ゴウン御方より創造された上位アンデッド。

 自分たちに敗北をもたらすものがいる可能性というものを思考するなど──畏れ多いを通り越して烏滸(おこ)がましいにもほどがある。

 

『──少しばかりッ!』

『──不遜に過ぎるぞ、堕天使ッ!』

 

 

 

 

 

 死の支配者(オーバーロード)無印と将軍(ジェネラル)、二人の激昂を誘発するカワウソの方は、冷静だった。

 自身が特殊技術(スキル)による恩恵でアンデッドなどに特効な正の属性・神聖な信仰系の力……堕天使なのに「神への信仰」=「信仰すべき神を持たねばならない」を条件とする戦闘力を有し、その上、相克関係の属性を持ちながらも、アンデッドたちの負の属性の影響は受け付け得ない。

 おまけに、彼等の装備品というのは、ユグドラシルでよく見る……アンデッドモンスターとしての基準的な初期素体でしか、ない。

 プレイヤーや拠点NPCのような各個体のカスタイマイズや装備変更がされている気配はなく、だとするならば、彼等はユグドラシルのPOPモンスター同然……自分の自由意志と発語能力を有している、出来のいいゲームキャラみたいなものに過ぎない。

 対して、カワウソはユグドラシル内でも稀少と言えるデータ量の武装──神器級(ゴッズ)アイテムを六つ、装備している。

 

第二天(ラキア)

 

 カワウソの保有する神器級(ゴッズ)アイテムの中でも異色な装備である足甲が、さらに速度を向上させる。

 死の支配者(オーバーロード)たちが繰り出す魔法と戦列を、もはや慣れたように回避してしまえる。

 

 ──第二天(ラキア)とは、天国に存在するとされるひとつの階層の名前を示す。

 

 多くの神話や宗教が共通して提唱しているが、天国・天界はいくつもの層に分かれて存在しているとされる。各層にはそこを支配する天使が代表に据えられ、天の支配者である神から与えられた役目を遂行しているとも。ダンテの『神曲』においては、“第一天”から“第七天”のさらに上層に“恒星天”“原動天”“至高天(エンピレオ)”の合計十個の階層があるのだと。これら天の階層名は、ユグドラシル内でも最強レベルの熾天使モンスター、名を「至高天の熾天使(セラフ・ジ・エンピリアン)」系などで採用されている。

 ほかにも多くの逸話や伝承に事欠かない『天国』の記述の中で、カワウソが保有する装備の中に、それを参考に製造された武器が“二つ”存在する。

 

 カワウソが保有する神器級(ゴッズ)アイテムは、六つ。

 

 転移魔法の聖剣“天界門の剣(ソード・オブ・ヘヴンズゲート)”、

 転移魔法の魔剣“魔獄門の剣(ソード・オブ・デモンズゲート)”、

 完全不可知化の外衣(マント)竜殺しの隠れ蓑(タルンカッペ)”、

 状態異常を呑みこむ黒い鎧“欲望(ディザイア)”、

 そして、堕天使専用の足甲“第二天(ラキア)”。

 

 最後に、カワウソが保有する最後の神器級(ゴッズ)アイテムは、鎧の内側……首元に飾られた漆黒の宝玉──名前は、

 

第五天(マティ)

 

 時間王を割り砕いた力の結晶が呼応する。

 再び装備者の意志を受けた首飾り(ネックレス)の魔眼のごとき宝石が、第二天(ラキア)と同じ黒い輝きが相乗するように包まれ、起動────

 

 

 

 ・

 

 

 

 ユグドラシルには無数のギルドが存在していた。

 ギルドごとの活動方針や行動理念、所属するメンバーの趣味嗜好を反映したプレイスタイルを貫きつつ、広大無比なユグドラシルのゲーム世界を闊歩し、冒険の旅を続けていた。

「悪」を貫いた伝説の異形種ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』──天使種族系のPCしか加入できない『セラフィム』──三つの上位ギルドが連合した『トリニティ』──ユグドラシルの未知を探求することに情念を燃やした『ワールド・サーチャーズ』──「2c連合」──「海外ギルド」──「声優ギルド」と、その「親衛隊ギルド(非公式)」──「傭兵魔法職ギルド」──スパイ行為を繰り返してフルボッコを喰らった『燃え上がる三眼』──NPCがすべて“猫”系で統一された『ネコさま大王国』──鶴の旗を掲げた『千年王国』──「アースガルズの天空城を保有したギルド」「ヘルヘイム最奥の氷河城を支配したギルド」「ムスペルヘイムの炎巨人の誕生場というフィールドを支配したギルド」など、様々。

 

 だが、どんなものにも終わりは訪れる。

 栄枯盛衰──ユグドラシルは繁栄を極めたが、故に衰退の時を迎えることは、必定であった。

 

 たとえそれが、ランカーギルドであろうと。

 

 カワウソの装備は、とある天使系上位ランカーギルドが製造した神器級(ゴッズ)アイテム──そのギルドが解散する際に、払い下げ品として購入したものがほとんどだ(“竜殺しの隠れ蓑(タルンカッペ)”に関しては、拠点製造の際に世話になった、とある商業ギルドのプレイヤーから譲渡された「別れの品」である)。

 彼が自分の力で自作できた神器級(ゴッズ)装備は、堕天使の絶対的弱点を覆し得る特性「状態異常の罹患を、自己のステータスに還元してしまう」を与えた鎧“欲望(ディザイア)”だけだ。

 神器級(ゴッズ)を個人で自作するというのは、並大抵の努力ではなし得ない。全身くまなく装備できるほどに量産するなど、もってのほかだ。

 ユグドラシルにおいては神器級(ゴッズ)をひとつも持ち合わせていないなんてプレイヤーも数多く、全身全装備箇所を神器級(ゴッズ)で固めるというのは、よほど良い環境──強力な生産力を持つ拠点や、協力してくれるギルドメンバーに恵まれるなどしなければ、とても達成できない偉業である。

 そんな中で。

 カワウソがアホみたいに貯め込んだ金貨をつぎ込んで購入した神器級(ゴッズ)アイテムの中には、「天国と地獄、それぞれの“門”」を意匠された夫婦(めおと)剣ふたつの他に、製造方針が共通する武装が、ある。

 

 それが、堕天使専用の太腿まで覆う足甲“第二天(ラキア)”と、

 同じく堕天使専用の魔眼のごとき首飾り“第五天(マティ)”──

 

 この二つは、他にも五個の同系統アイテム──合計して七個からなる武装シリーズの一部だ。

 それは“第一天(シャマイン)”~“第七天(アラボト)”までの七つの天国の階層──『エノクの天界訪問』を参考にした、通称“天”シリーズの量産式神器級(ゴッズ)アイテム。それらの他にも様々な神器級(ゴッズ)アイテムを生産・改造する上位ギルドが存在したのだが、ユグドラシル衰退期を迎え、メンバーは満場一致で「解散」──カワウソが、解散するそのギルドのアイテム払い下げ会場を訪問した際、興味を惹かれたのは、三つ(天の最高階層とされる“第七天(アラボト)”はかなり稀少かつ強力な装備だったようなのだが、残念ながら完売していた)。

 堕天使として降格していたカワウソは、比較的格安で特価廉売されていた──それでも、カワウソの懐事情・ゲーム内の財力を考えると全部は買えないので厳選した──「三つ」を購入。うち「二つ」の“第二天”と“第五天”を、自分の両脚と首に装備して、弱い堕天使のステータスを底上げしていたのだ。残る「一つ」はここまで引き連れてきた女天使・ミカに与えており、彼女の防御性能を最高数値にまで──死の支配者(オーバーロード)たちが慄然(りつぜん)とするほどの領域にまで高めている。

 

 第二天と第五天は、エノクによると『堕天使たちの収監所』『神へと反抗した愚か者共の監獄』であったという。

 

 故に、この“第二天(ラキア)”と“第五天(マティ)”は、「堕天使専用」という性質を与えられ、製造元である天使ギルドの堕天使の強化に使われた経緯を持つ。

 

 第二天の主な効能は、速度ステータスの強化。

「堕天使の牢獄から脱獄し果せるための、逃げ足の速度」を。

 

 第五天の主な効能は、体力ステータスの強化。

「監獄での刑罰に耐え抜くために必要な、絶対的な体力」を。

 

 さらに第五天(マティ)は、収獄されていた天使たちが、人間の娘たち=魔女と交わり、異端の巨人(グリゴリ)を生んだという説話から、おもしろい機能を有している。

 それが先ほど見せた時間王の防御兵たちを無に帰した力であり──

 

 そして、これら“天”は複数の同シリーズの武装──自身や仲間とのそれと共鳴させることで、さらなる真価を発揮できる。

 

 それは、

 

 

 

 ・

 

 

 

 二つの黒い輝きが、互いの本格発動に共鳴するがごとく、その輝度を増す。

 悪魔的な造形の足甲が捩れ歪みながら先鋭化し、首飾りの魔眼が黒金の光を溢れさせる。

 黒い堕天使をより黒く禍々(まがまが)しく染め上げていく神器級(ゴッズ)アイテムの(きらめ)き。

 

 異様異質極まる堕天使から浴びせられる重圧(プレッシャー)──戦士の直感的に「ヤバい」雰囲気──を感じ取った将軍(ジェネラル)

 一切の油断なく、迎撃の編隊を己の麾下アンデッドの兵団に飛ばそうとした……瞬間だった。

 

『……っ   ぁ?』

 

 得体の知れない衝撃が、首に走る。

 直後、将軍は、ありえない光景を見た。

 将軍は、自分の鎧装束──全身を、見下ろしていた。

 そこにあるアンデッドの将軍の肉体に、自分の首は、なかった──

 死の支配者(オーバーロード)の将軍(ジェネラル)……彼の頸骨は、()ねられていた。

 

 ありえない。

 

 そう、言葉を、思考を、疑念を紡ぐ間もなく、アンデッド兵団において最強の将軍が、斬撃攻撃に耐性を備えるはずのアンデッドが、無残にも首断たれての敗死を遂げた。

 死の支配者(オーバーロード)の将軍(・ジェネラル)は抹殺された。

 たった一人の堕天使によって。

 

 地に転がった将の瞳、眼窩の火は落ちた。

 

 

 

 

 

 この戦果は、カワウソの、堕天使の圧倒的剣速──強化された身体機能だけの効果では、ない。

 カワウソが所有する二つの神器級(ゴッズ)装備アイテムの共鳴作用──“清濁併吞Ⅴ”を有する堕天使でありながらも、聖騎士などの信仰系の能力に傾注した力──それらの相乗(シナジー)効果によって、今のカワウソは特定の種族や属性に対する最強の力を有するに至っている。

 

 負属性に傾注する魔や闇の存在・種族を一方的に屠る能力。

 

 カワウソという堕天使は、彼の目的を、目標を、願望を叶えるために、“アンデッド殺し”に長けたキャラビルドを完成させたプレイヤーであった。

 

 すべては、あのナザリック地下大墳墓の攻略と、その拠点の主人としてユグドラシルに名を轟かせたギルドの長──ギルド:アインズ・ウール・ゴウンに残存していた最後のプレイヤー……彼との戦いに備えて。

 

「残っているのは、死の支配者(オーバーロード)と、アンデッドが……59、か」

 

 合計60体。

 中位と下位だけで合計100体以上は確実に作成していたはずの戦力は、今では半数以下に。召喚した上位アンデッドに至っては殲滅されたに等しく──16体いた中で、残っているのはLv.70台の地下聖堂の王(クリプトロード)が一体のみ。

 発動条件分も合わせて、ちょうどいい数だと判断できる。

 

「さぁ。最後の“実験”と行こうか?」

 

 キシキシと軋む、堕天使の狂笑。

 実験は、未だ、終わっていない。

 むしろ「これからだ」と言っても過言ではない。

 

『ッ、貴様! こんなことをして、許されると思っているのか!?』

 

 堕天使は笑う。

 随分といまさらなことを。

 どう考えても後戻りなど出来はしない状況だったのだ。

 イズラたちの不手際もあっただろうが、そのおかげで、カワウソは決断を早め、当初からの決意を確固たる形にすることができたと言える。

 遅かれ早かれ、こうなる以外の道はなかったはず。

 だから、

 

「許しなんていらない」

 

 ──否、どちらかと言うと。

 

「許しなんてしない……許しなんて……許し?」

 

 ふと、堕天使は首を思い切り真横に傾けてしまう。

 ──ゴギリ、という骨の音が聞こえたような気もする。

 最上位アンデッドすら吐き気を催すほどの狂態を露にする、異形の堕天使。

 バグったように、堕ちた天使は自分(カワウソ)にとっての禁句を、自己の震える口内で乱造していく。

 

「──許し? 許し?? 許し???」

 

 許し、とは何だろう。

 俺は許した。

 彼等を許した。

 仲間たちを許した。

 裏切り者たちを許した。

 なのに「許しなんてしない」というのは、奇妙千万。

 カワウソはかつて、彼等を、仲間を、裏切り者を、嘘つきたちを、確実に“許した”。

 しようがないこと、仕方のないこと、現実的な判断として、彼等の選択と行為は至極当然のもの。

 カワウソのような妄執に(とりつ)かれる方が、どうかしている。狂っている。頭がおかしい。脳が沸いている。誰だってそう評してアタリマエの、破綻者の所業。

 カワウソは、今でも彼等のことを思う。思わずにはいられない。

 あの別れの日に失ったものを、

 背を向けて立ち去って行った仲間たちを、

 カワウソは思い続けてしまう。──今も。──今でも。

 彼等との誓いを果たしたかった。

 彼等との約束を果たしたかった。

 叶うはずのない夢を追った。

 叶えられない願望を懐いた。

 かつての約束を、誓いを果たそうと、もがいた。

 皆と一緒に冒険する筈だった世界で、あがいた。

 あのナザリック地下大墳墓・第八階層を目指した。

 そのために必要なすべてを揃えたつもりであった。

 拠点NPC十二体に、第八階層攻略の最適解を再現すら、した。

 

 しかし、それでも、尚、届かない。

 

 みんなが笑った。

 誰もがカワウソの愚にもつかない挑戦を嘲笑していった。

 

 「無理だ」

 「無謀だ」

 「無価値」

 「無意味」

 「無茶苦茶」

 「時間の無駄」

 「諦めろ」「諦めろ」「諦めろ」「諦めろ」

 

 あの「難攻不落」「悪のギルド」「第八階層全滅の伝説」に挑み戦うプレイヤーを──『敗者の烙印』という、ギルド崩壊経験者の証……屈辱の×印を頭上に浮かべながらゲームを続けた堕天使・カワウソを理解しなかった。

 (あざわら)った。

 (あなど)った。

 (さげす)んだ。

 笑いものにした。

 (なぶ)り者にした。

 

 ──わかっている。

 そんなことはわかっている。

 わかっていても、()められなかったし、()められなかった。

 

 だって、カワウソには、もう、それしか──なかった。

 ない。

 ない。

 何も、ない。

 現実に家族も友人も恋人もいない──他に執着すべき何物も持ち得なかった、孤独な人生の中で、はじめての、仲間……友達……だった(・・・)。彼等との出会いは、仲間たちとの冒険の思い出は、何にも代えがたい宝となった。優しくて、暖かで、幸せな時間が、そこにはあった。

 でも、

 それはまやかしだった。

 すべては偽りだった。

 ただの錯覚だった。

 馬鹿馬鹿しい。

 くだらない。

 痛々しい。

 惨めだ。

 

 ──だからこそ。

 カワウソは──今、──ここにいる(・・・・・)

 

 思った瞬間、カワウソは今いる場所を思い出した。

 思考時間は数瞬。先日、飛竜騎兵の領地で経験した時と同じ、思考と心理の乖離状態から回復する。折れ曲がっていた首をしゃんと立たせ、過去に向かってとっちらかっていた視線をまっすぐに“前へ”向ける。“今”そこに相対すべき「敵」──その首領、アインズ・ウール・ゴウン魔導王が生み出したという、同一種族のアンデッドモンスターを見止め、奴を“殺す”ための「力」を行使する。

 

「頭の“×印”──『烙印』が消えていても、“(レベル)”がなくなったわけじゃあないようだからな」

 

 死の支配者(オーバーロード)は怪訝な面持ちで──骨の顔だが、たぶんそんな感じ。同じ異形種だと表情が解るのかも──、堕天使に通用するだろう魔法を連発する。召喚主・作成者に応じるかのごとく、居並ぶ残存のアンデッド兵団が攻勢をしかける。幾多の弓矢が射かけられ、大小の魔法がいくつも堕天使の行く手を阻もうとするが、速度特化のLv.100プレイヤーを捉えるには数歩以上足りない。どんなに強力な魔法でも、“当たらなければ、ダメージになどならない”。故の、速度特化だ。

 

 カワウソは、自分の最大の切り札を、その使用が可能か否かの“実験”を試みる。

 

 

 

 ユグドラシルにおいて、『敗者の烙印』を押されたプレイヤー“のみ”が獲得可能な、特殊な職業(クラス)が存在する。

 

 

 

 この『敗者の烙印』がなければなれない職業(クラス)などを、カワウソは特殊な獲得条件を満たすことで取得。それによって、他のユグドラシルプレイヤーにはありえない──非常に稀少な特殊技術(スキル)を使用可能となっている。

 さらに。

 その職業(クラス)レベル由来なのだろう特異な種族レベルまでをもカワウソは手にしており、その第一人者となったことで──彼という堕天使プレイヤーが唯一保有する「世界級(ワールド)アイテム」の発見……ユグドラシルの十二年の歴史上、誰も存在を知り得ないまま終わった超絶の秘宝の入手にまでこぎつけている(与えられ発見した本人は、「恥の上塗りだ」としか思っていないが)。

 

 ギルド:アインズ・ウール・ゴウンの敵対者。

 ギルド:天使の澱(エンジェル・グラウンズ)のプレイヤー、カワウソ。

 

 彼は、ギルド崩壊を経験した敗北者。

 烙印の“×印”を押されながら、熾天使の地位より失墜した堕天使。

『敗者の烙印』を押された「その場」へ向けて、一日も絶やさず錬磨と研鑽を積んだプレイヤー。

 あまりにも実直で明確な“復讐”という特殊なプレイスタイルを貫き続けたが故の、ある種の狂気的な執念の結実と、戦い争いへの欲望ががもたらした職業(クラス)の名は──

 

 

 

「 復讐者(アベンジャー) 」

 

 

 

 堕天使が、呪わし気に顔を歪め、その特殊技術(スキル)の内“ひとつ”を、発動。

 

「 スキル──OVER■■■■■ 」

 

 己の内側に響くだけの、暗く潜めた声に応じて、頭上の赤黒い円環のさらに上に現れたのは、スキル発動条件を示すエフェクト。

 

 それは、血のように紅いローマ数字の──(10)

 

『させるものかぁ!』

 

 一切の情報を知らぬし知り得ぬ無印が、最後に残った死の支配者(オーバーロード)としての責務を果たす。

 しかし、賢者(ワイズマン)であれば警戒を深め、将軍(ジェネラル)であれば撤退も視野に入れただろう未知な強敵の特殊技術(スキル)に対し、ただの死の支配者(オーバーロード)は御方への忠心だけを胸に、名誉ある最後を所望(しょもう)

 その血気と決意に後押しされたアンデッド兵団は、全兵残らずに突撃。死の支配者(オーバーロード)自身も、その特攻の列に加わってしまう。

 敵がどれほど強壮であろうとも、アインズ・ウール・ゴウン御方に直接作成された上位アンデッドが、敵に背を向けることは許されない。

 如何なる特殊技術(スキル)も力も、根こそぎ踏み潰し食い破ってしまえばいい。

 この大軍勢に、あの堕天使一匹が太刀打ちできるはずがない。

 あの女熾天使を後方に待機させた愚を判らせてやる。

 それにはただ正面からの“蹂躙”あるのみ!

 赤黒い円環の上に、Ⅹの数字を頭上に灯すプレイヤーを殺戮すべく、攻撃。

 居丈高に吼え叫ぶ上位者の下知のまま、雑魚アンデッド達が喜び勇んで堕天使の(もと)へ、殺到。

 

 

 …………

 

 

 結果。

 彼等残存するアンデッド兵団……60から減って50体は、即刻同時に……壊滅した。

 

 その壊滅劇には、ありえない現象が伴っていた。

 

 骸骨のアンデッドにはありえないはずの、深紅に濡れる“血”の惨劇──

 まるで屠殺場のごとく、あまりにも(おびただ)しすぎる“死”の色に染まって──

 

 死の支配者(オーバーロード)に召喚作成されていた中位・下位モンスターは、死に果てたことで砕けた骨の端から消滅していったが、彼等は一人残らず“流血”を伴っており、その赤色を戦場に遺した。消滅した後に残る血の量は、骸骨の骨の身体や、実態を持たない死霊(レイス)系統までをも血斑(ちまだら)に染め上げる規模に飛散している。

 そしてさらに、例外が一人。

 神聖なる力による浄化とは程遠い「復讐者」の力が、上位アンデッド死の支配者(オーバーロード)部隊・最後の一体を、“白骨に鮮血が滴る”という奇妙極まる惨殺死体に変えてしまった。

 

 やはりどうやら、ここに来た死の支配者(オーバーロード)たちは、他の召喚とは違う──特別なモノらしい。

 

 打ち捨てられた死骸の様──血の香りが充満する古戦場のごとき様相を呈した地下空間内の光景に、血を浴びた堕天使は納得の首肯を落とす。

 

「──実験は終わりだな。戻るぞ、ミカ、イズラ」

 

 この異世界における復讐者(アベンジャー)の効果発動確認を十分に終えた堕天使は、血の滴る聖剣を血振りして、ボックス内に戻す。ついでに、“即死”させて血を吹き出させた死の支配者(オーバーロード)の死体、首を刎ねられた将軍(ジェネラル)の死体、全身切り刻まれ眉間を穿たれ頭蓋の割れた時間王(クロノスマスター)の死体──それら三体の足首を狩人(ハンター)のアイテム・腰の鎖(レーディング)に自動で繋いで、戦利品(ドロップアイテム)のごとく持ち帰る準備をする。

 復讐者(アベンジャー)特殊技術(スキル)が発動した死体の解析をしたいし、それにどうして時間制限なしにアンデッドモンスターを魔導王陛下とやらが量産可能なのかの研究にも使いたい。他の召喚系の雑魚アンデッドとは明らかに違って、アインズ・ウール・ゴウンに作られたらしい彼等は“死体が残っている”……これはどういうカラクリがあるのか、徹底的に調べておかねば。

 準備を数秒で終えると、血を避けるように宙を舞う熾天使が、頭上から言葉をかけてくれる。

 

「大事、ありませんか?」

「ん? 何がだ、ミカ?」

「……いえ。大事ないというのであるならば、それでいいと判断できます」

「ああ。──イズラの方は?」

「足の再構築は一応やりましたが、まだ戦闘は無理です。拠点に戻してイスラの本格的な治癒を受けさせるべきかと?」

「わかった」

 

 そう率直に返す主人の力を目の当たりにした天使二人は、血の池地獄から歩き去り、悠然と〈転移門(ゲート)〉を開く主人に促されるまま、言葉少なに拠点へ。

 堕天使が手負いのイズラを真っ先に送った、直後。

 ……ふと、カワウソは動力室内の光景を振り返る。

 動く者もなくなった、赤い惨劇を──特殊技術(スキル)の結果を確認。

 カワウソの所感としては、「ユグドラシルよりも血が派手というか、グロくなった?」という印象だ。異世界の現実(リアル)だからこその効果なのだろうか。

 この力は、ユグドラシルでも例を見ない代物。出来れば、敵に──アインズ・ウール・ゴウンには知られたくない・分析されたくないが、さすがにこの量の血液をすべて回収する時間が惜しい。ミカがここに張った封鎖を破る強敵──増援がさらに来る可能性もある。その前に撤退しないと。

 とりあえず、特殊技術(スキル)の発動する現場を見られなかっただけマシとしようか。

 情報系対策は万全。魔導国の監視用ゴーレムも、ミカが全機破壊済み。

 

 この戦闘は、敵の眼に届くことはないはず。

敵感知(センス・エネミー)〉にも反応はない。

生命探知(ディテクト・ライフ)〉も反応がない。

 残っていたアンデッド達はすべて、カワウソが確実に、瞬時に、殺し尽した。

 

『敗者の烙印』保持者のみが習得できる稀少(レア)クラス──復讐者(アベンジャー)──その特殊技術(スキル)で。

 

「──カワウソ様?」

 

 突っ立ったままの主人に、小首を傾げるミカ。

 彼女に促され、彼女を最後の守りとして残したまま、カワウソはイズラの後に続いて、門をくぐる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に残っていた熾天使・ミカも油断なく警戒しつつ立ち去って行った後の動力室内。

 血の惨劇の中に横たわる骸骨たち……不死者として、即死耐性を有するはずのアンデッドたちが抹殺され、その死体より分泌された尋常でない量の赤い液体が、床一面を覆い滴る。

 

 

 

 

 

 

 

 その動力室から、さらに地下へと続く縦穴空間へと続く扉に、骸骨にはありえないはずの鮮血の赤が注がれ落ちる。

 そこで静かに(うごめ)粘体(スライム)が──高い潜伏スキルを有する隠密職のメイドと、彼女の同胞である“アインズの三助”が──二体。

 

 ソリュシャン・イプシロンは、閉じていた左の眼を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ※以下はWeb版:設定より抜粋※

 ちなみにギルド武器とはギルドを作る際に必要となる象徴で、かなり巨大なデータまで搭載することができる。そのため下手すると比類ない武器にもなるが、これを破壊された場合はギルド崩壊ということになる。崩壊した場合、そのギルドに所属していたメンバーは『敗者の烙印』というものを常時、頭上に浮かべることとなる。別に特別な効果は無いが、屈辱の証である。
 この敗者の烙印をなくすには、再び同じメンバーでギルドを立ち上げるしかないという。
 敗者の烙印が無ければなれないクラス、ギルド武器を破壊したことのある者しかなれないクラスなども当然ある。

 ※抜粋終了※

 本作『天使の澱』は上記の設定に“烙印の形は「×印」”“獲得にはさらに特殊条件”“獲得するクラスの名は「復讐者(アベンジャー)」”“職業由来の種族レベル”などを独自設定・独自解釈として組み込んでおります。
 原作とは、著しく異なる可能性がございます。ご了承ください。

 次回は書き溜めが終わり次第投稿予定です。
 皆様、よいお年をお過ごしください。


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