オーバーロード 天使の澱 ~100年後の魔導国~   作:空想病

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/Wyvern Rider …vol.8

 

 

 

 

 

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 ナザリック地下大墳墓にて。

 

 主人であるアインズのいない執務室には、随分と慣れた調子で大画面の映像を覗き込む守護者たちの姿があった。

 映像には、彼等の主人にして、大陸世界を統一した唯一存在・魔導王として君臨すべき御方が、世を忍ぶ仮の姿である冒険者の出で立ちを取って、飛竜騎兵の領地に突如として現れた暴竜の息の根を、完膚なきまでに叩き潰した瞬間が。

 その補助を務める栄誉を与えられたプレイヤーの姿に、五人は一斉に快哉を挙げる。

 

「くふふ……アインズ様の術中に、連中は完璧にはまっているわね」

「まったくでありんすえ、アルベド! 愉快痛快とは、このことでありんす!」

「ウム。我々ノ誇ル御方ガ築キ上ゲシ、アインズ・ウール・ゴウン魔導国──ソシテ、御方ガ創リシ英雄(モモン)ノ素晴ラシサヲ前ニシテ、連中ハ感服ノ限リヲ尽クス。ソレニヨリ、我々ヘノ敵対意識ヲ低減サセ、可能デアルナラバ我々ノ統治下ニ帰属サセヨウトイウ御心ノ深サ。誠ニ、見事!」

「さっすがは! 私たちのアインズ様だね!」

「そ、そうだね。お、お姉ちゃん!」

 

 守護者たちは暇を持て余しているわけではない。

 アルベド、シャルティア、コキュートス、アウラ、マーレ……彼らに与えられた任務は最重要に位置付けられるもの。

 政治・軍事・経済・魔法、あらゆる国の一大事業に関わる重要な役儀を仰せつかっている場合が大半であり、それを滞らせることはアインズが目指す「魔導国の未来の安寧」にとって、決して無視できない損失を生み出す事態に繋がりかねない。無論、魔導国の各教育機関より輩出される優秀な人材を登用することで、ある程度の時間的余裕は取れるのだが、その余裕が、各階層守護者全員ぴったり同じタイミングで休息し、顔を合わせることが叶うという機会を勝ち取る場合というのは、滅多にない。アインズからの緊急招集を受ければ話は別だが、今回の場合は、ほとんどが守護者たちの我意によるところが大きい。

 

「あの連中に対し、アインズ様が秘密裏に接触を図ることを望まれた。そこにはきっと、深い意味がある」

「まぁ、おそらくは。連中を懐柔(かいじゅう)篭絡(ろうらく)しんすことで、魔導国の支配下に組み込み、アインズ・ウール・ゴウンの偉大さを、さらに盤石なものにせんとする意図がありんしょうえ」

 

 満足げに主張するシャルティアの言は、この場にいる全員が了解している規定事項のひとつだ。

 至高の御方々のまとめ役、アインズ・ウール・ゴウンは、100年後に現れた謎のギルドにまで慈悲をかけ、奴らを効率よくアインズ・ウール・ゴウンの支配下におくことで、共に存在することを許そうというのだ。これを慈悲と呼ばずに何と呼べばいいのか、守護者たちにはわからない。

 

 天使ギルド(ギルドの名称は不明な為、とりあえずそのように呼称されている)の連中は、昨日の昼過ぎから、ギルド拠点周囲の土地での積極的な調査活動は行わなくなった。外で活動し、魔法都市に赴いた堕天使などから情報を受けて──というよりも、堕天使が破壊した森が再生しているありさまを目撃したことで、自分たちがどれほどに危機的な状況にあるのかを、漠然とながら察知しているということなのだろう。遅きに失した感はあるが、それぐらいのことを考える知恵は働くようだ。

 以前よりも周到に、高度に、多層に渡って幻術を張り巡らせた鏡の他に、「沈黙の森」の奥部……堕天使の破壊から元通りに再生を果たした地点に設置された新たな鏡が置かれていることも確認済みである。

 いずれの鏡も、幻術を突破しうるナザリックの力によって、情報管理官のもとに常時観察中。鏡には天使ギルドのNPC二体が一定時間ごとに交代しながら防衛しており、平野の方は天使が、森の方は獣たちが守護している。森に増設された方は囮か、さもなければ緊急脱出路か……あるいはシステム・アリアドネを考慮に入れた配置だと推察できる。

 

「でもさ、アルベド、シャルティア。あの黒い飛竜。いったい何なのか、聞いてる?」

「ま、魔竜とか邪竜にしては、その、小さすぎる、よね? 首もあれ、そんな太くないし」

「あれは、きっとアレでありんす。デミウルゴスあたりが仕込んだとかいう」

「確かに。デミウルゴスが何か用意していると、聞いているけれど」

「フム。デミウルゴスデアレバ、アリエルカ」

 

 全員が、アインズ──冒険者モモンによって首切られるという最大級の栄誉を賜ったモンスターの詳細について意見を述べた。

 ちょうど、その時。

 

「やぁ、皆さん。遅れてしまって申し訳ない」

 

 噂をすれば影という、まさに完璧なタイミングで、ナザリック地下大墳墓が誇る最上位悪魔(アーチデヴィル)が、同僚の執事(セバス)に廊下を案内されて執務室に参上した。

 デミウルゴスとセバスの遅い登場に、全員別段の不満を懐くでもなく、二人を迎え入れた。

 アウラは変わらずまっすぐな調子で問う。

 

「何やってたのさ、デミウルゴス?」

 

 第九階層に詰める執事(セバス)は、最後に到着した守護者を迎えに行っていただけで、遅れたということはない。ここにいる全員をこの執務室に案内した老執事は入室して間もなく、デミウルゴス分の紅茶を用意し終えると、執事として相応しい鋼鉄のような立ち姿で、今回の守護者たちの会合に顔を連ねる姿勢を整えた。

 悪魔は微笑みを深めて、闇妖精(ダークエルフ)の乙女に応じる。

 

「アインズ様の久々の“御出陣”ということで、パンドラズ・アクターの政務補助の方をね」

 

 宝物殿の領域守護者である彼は、デミウルゴスやアルベドと並び称される叡智の持ち主。だが、彼は創造主のアインズを含む至高の四十一人が残した“宝物殿”の品々の管理に心血を注ぐことを本分として生み出された存在であるため、長く宝物殿を空けておくことが難しい。パンドラズ・アクター流に言えば「辛抱たまらん」という状態に陥るため、魔導王アインズの姿で政務や公務を円滑に且つ迅速に遂行すべく、彼を補佐しバックアップする要員として、魔導国の大参謀たる悪魔が派遣されたのは、無理からぬ事態であった。何より、完璧完全なるアインズの統治能力には百歩どころか千歩も劣るNPCである彼らが、主人の代役をたった一人でこなすなど不可能なこと。アインズが一時的に抜ける穴を埋めるためには、ナザリックの誇る智者が、最低でも二人体制で臨まなければ、愛する主人の国政に瑕疵(きず)を与えかねない以上、この政務補助体制は絶対に崩すことは許されない。

 最近では三人の智者に並ぶとも称されるほどに研鑽(けんさん)を積んだ“若君”の力も借りることが多くなっているが、「自分などまだまだ」というのが、王太子殿下の人柄の良さを物語っている。

 

 アインズの“モモン”としての出陣は久々な上、それが決定したのは“昨夜”ということもあってか、その擦り合わせ作業にデミウルゴスやアルベドたちが奔走することになったのは、言うまでもないこと。

 勿論、そのことで生じる参謀や宰相をはじめとした各守護者やシモベたちへの負担などについては、不満など出るはずもなかった。むしろ彼らは、主人の願いや望みを叶えるべく創造された存在。その成就のために労を尽くせることをこそ、至上の喜びとするNPC(シモベ)たちなのだ。これまでナザリックの為にアインズが惜しみない愛情と尽力を注いでくれている事実を思えば、感謝こそすれ不満を懐くことなど、シモベにはまったくありえない思考回路である。

 アウラは長く伸びた自分の毛先を、指先でつまみながら頷くしかない。

 

「まぁ、そうだろうとは思ってたけどね」

「それに。彼奴等(きゃつら)天使ギルド連中の動向も、逐一把握しておかなければならない。監視態勢は24時間に渡って継続できるよう、あれ(・・)をはじめ、アインズ様直々に創造した部隊も投入されている現状下ではありますが、油断は許されませんからね。今一度、奴らに関して判っていることを皆さんと共有したいと思い、資料をまとめておきました」

「……ちょ、これを政務補助の合間に用意しなんしたと? この量をでありんすか?」

「ええ、シャルティア。ほんの片手間ですが」

 

 あたりまえに過ぎることを確認しつつ、デミウルゴスが空間から取り出したのは、なかなかの厚みがある書類の束。

 これには、接近できる限りの範囲で──数km圏より外側より空撮しておいた天使ギルドの構成員だろう連中のスナップ写真や行動記録など──その要約(レジュメ)を、ここにいる人数分、用意していた。全員が配られた紙束を手にとり、付属している写真の中の影を記憶していく。

 

 赤黒い円環を戴く堕天使が一体に、

 NPCと思われる者たちが十二と、四匹。

 

 金髪碧眼の女騎士、銀髪褐色の修道女、銀髪美貌の牧人、赤髪片眼鏡の魔術師、暗灰色の髪の黒衣、明灰色の髪の白衣、全身鎧を纏う巨兵、袈裟を着る有髪僧、蒼髪に剣装の少年兵、黒髪黒褐色の巫女、緑髪褐色の踊り子、銃火器を軽々と担ぐ赤ん坊……これらに、フェレットのような小さな獣が四匹、追加される。

 これら以外の存在は、現在までのところ確認されていない。

 この空撮された者らが、拠点の出入口である鏡から飛び出してきたすべてだ。

 

 拠点の内部構造把握や、さらなる拠点構成員……PCやNPCの有無については未知数。事態が事態だけに、無理矢理に突貫していくという策はありえない。魔導国の臣民たる「冒険者」を派遣して調査するというのもナシだ。今は、こちらから奴らに対して付け入る隙を与えるべき時ではないのだから。

 デミウルゴスは簡潔に、100年後に転移してきたギルドの首領についての情報を伝達する。

 

「アインズ様の御推察されるプレイヤーは、この堕天使。

 マルコとのやり取りで判明した個体名、カワウソ。彼の者の従者として常に傍に侍る女天使、この個体名はミカということも解っておりますが、いずれも偽名や偽称の可能性もありますね」

「カワウソって、水辺にすむ動物の?」

「やもしれませんが、確証のない話です、アウラ。ここでは単純に、堕天使とだけ呼んでおきましょう」

 

 デミウルゴスはレジュメの三ページ目を開くよう、同僚たちに求めた。

 

「奴の情報の中で特筆すべきは、堕天使でありながら天使の輪に酷似する装飾を浮かべ、それは戦闘中であろうとも、彼の者から離れることは一切ないこと。ティトゥス司書長やユリを動員して図書館のデータと照合しておりますが、堕天使でありながら“天使の輪”という特徴を戴くことはありえないということが確認されております」

 

 堕天使は強力な物理攻撃や魔法攻撃、状態異常(バッドステータス)に“(もろ)い”特性を持つ。

 それを考えると、奴の装備は中々にスカスカで軽い印象しか見受けられない。

 鎧と足甲は重厚そうだが、その両腕は堕天使の日に焼かれた肌色をさらし、弱点となる頭部をさらした姿でいるというのは、一体どういう了見なのか理解に苦しむ。あれでは超長距離狙撃によるヘッドショットでもくらえば、あっという間に死んでしまうはず。あの赤黒い円環によって、不可視不可知の防御手段が展開されている感じなのだろうか。

 他にもいくつかの推論は成り立つが、現状において確実な情報でもない為、この場では割愛する方がいい。時間は有限。より重要な確定情報をデミウルゴスは(そら)んじた。

 

「あの堕天使プレイヤーは、死の騎士(デス・ナイト)をはじめとする捜索隊や、森を破壊した攻撃方法から察するに、神聖属性に重きを置いた存在であることが推察できます。写真D-01~06で見受けられる剣から放出される光の斬撃は、聖騎士(ホーリーナイト)聖上騎士(パラディン)に連なる攻撃スキルのそれと酷似しておりますね」

「つまり、あの堕天使は、アインズ様とは相反する属性に長じた存在、ということですね?」

「ええ、セバス。その可能性は極めて高い。堕天使の割に、神などへの“信仰”を頼みとする聖騎士というのは奇矯な話ですが、何はともあれ、これは憂慮すべき事態であることに変わりない」

 

 吸血鬼なのに信仰系魔法詠唱者が一人この場に着席しているが、天使種族の信じる神というのと、シャルティアの信じる邪神“カインアベル”とは当然、違う。奴がどんな神を信じているのか、興味は尽きないところだ。

 デミウルゴスは続ける。

 

「ですが、奴がアンデッドにとって危険極まる信仰系職業(クラス)保有者である事実は、アインズ様も当然の如く御承知のこと。既に、アルベドやシャルティアの協力のもと、奴等と接触する上で十分な神聖属性対策と天使への防御手段は講じられており、熾天使の中でも最上級の力を示すものがいなければ、(おそ)れるには値しません」

「で、でも、あの、デミウルゴスさん。えと、こ、このレジュメ、じゅうろく、ページの、その」

「……何が言いたいの、マーレ?」

「マーレは堕天使の従者を務めている女天使を危惧しているのよ、アウラ」

「ええ。少しとびますが、マーレの言う通り十六ページ目をご覧ください」

 

 (うなが)され(ページ)をめくった守護者たち──アウラ、コキュートス、セバスが目を見開いた。

 

「ちょ、デミウルゴス! これヤバいじゃん!」

「ナ、ナントイウコトダ……」

「これは、しかし──」

 

 判別できた種族レベルは、ほんのごく一部でしかなかったのだが、それでも、その情報は守護者全員の意識を縛り上げるのに十分な効果を発揮した。

 

「まさか……あの女天使が、熾天使(セラフィム)ですと?」

 

 デミウルゴスは、執事らしい沈黙を保ちきれなかったセバスの懸念を補説する。

 

「遠方遠隔地からの鑑定ですので、これ以上は調べようがありませんが、ニグレドは数度に渡って、隠密裏に、奴らにそれと悟らせること無く、鑑定を続けてくれました。この情報の精度は確かです」

 

 ユグドラシルでも、ある程度までは敵の「情報」を読むことに長けた魔法や特殊技術(スキル)などが存在しており、それを使って、ユグドラシルプレイヤーは未知なるゲーム世界内で邂逅するモンスターの強さを断定できた。それを流用・強化することで、場合によっては敵対するPC・NPCの正確な種族・職業レベルを鑑定し尽くすことも可能で、その情報をもとにプレイヤーたちは敵の扱うステータスや属性、得意な戦法、弱点などの有無などを推理考察する仕様であったのだ。

 ミカたちに代表される拠点NPCたちは、その仕様上、プレイヤーほど情報系魔法や特殊技術(スキル)に対する対策は、そこまで機能し得ない。が、ナザリックが誇る情報の専門家──情報系魔法に特化したレベル構成のニグレドなどは、自身の身体能力や戦闘手段をほとんど持たない代わりに、その機能を発揮するだけの力を与えられた存在。

 アルベドの姉という立場にある、現ナザリックに存在する全混血児(ハーフ)の乳母的存在として一定の支持を得ている情報系魔法詠唱者の手腕は絶対的だ。デミウルゴスがこの情報に太鼓判を押して当然な確度を誇っている。

 だとしても。

 否、だからこそ。

 得られた情報は、ナザリックのNPCたちに、ある種の危機意識を植え付けるのに十分な可能性を想起させた。

 

「奴等の拠点には、熾天使が満載されている可能性も、否めないということね」

「まったく。……忌まわしいことでありんす」

 

 アルベドとシャルティアがぽつりと零す。

 

 熾天使は、ユグドラシルでも中々レアな異形種(モンスター)として有名であった。

 月天の熾天使(セラフ・ファーストスフィア)から始まり、水星天(セカンドスフィア)金星天(サードスフィア)……恒星天の熾天使(セラフ・エイススフィア)原動天の熾天使(セラフ・ナインススフィア)と続き、最終的には至高天の熾天使(セラフ・ジ・エンピリアン)という最大最上クラスにもなれば、守護者たちの主人たるアインズであっても、警戒して余りある脅威となる。守護者の中の何人かは、まともにぶつかっては勝機など見込めないほどの力を、最高位天使たる熾天使(セラフ)(クラス)は秘めているという、事実。

 唯一の救いというか、付け入る隙となるのは、現在まで確認された純粋な熾天使(セラフィム)というのは、あの黄金の女騎士一体に限定されているところだろう。

 他の連中は鑑定できた限り、智天使(ケルヴィム)主天使(ドミニオン)、あるいはレア度の低い各種天使の他に、精霊(エレメンタル)翼人(バードマン)を複合させた個体が存在し、熾天使なみのレア度というのは、数多の剣を纏う蒼髪の少年兵の保有する“花の動像(フラワー・ゴーレム)”くらいだろうか。

 判別できる全員は、展開されている幻術や装備の影響で合計レベルなどの詳細については判然としていないが、部分的な、主たる種族構成を断片的に読むことだけは可能だった。

 これ以上の探査を敢行するとなると、ニグレドなどには現地にまで──つまり“スレイン平野”にまで足を運ぶことになるだろうが、彼女は情報系魔法に重きを置いたシモベである以上、自力での戦闘には不安が残る。かと言って、護衛体制を盤石整えて行こうとすれば大所帯になってしまい、連中に逆に探知発見されるような事態を招きかねない。

 慎重を期するのであれば、ここで無理をするのは愚の骨頂でしかないのだ。

 

「飛び出してきた連中全員が熾天使でないところから推察するに、連中はそこまで強力なギルドでないのか……あるいは、地上で活動していた連中は、拠点内の雑兵でしかないのか」

 

 可能性としては五分だと、デミウルゴスは評価する。

 地下潜伏型ダンジョン方式のギルド拠点というのは、その強弱に関わらず、そこに至るまでのフィールド──土地の特性や、棲息するモンスターの種類や総数によって、かなりの攻略難易度を誇る。都市や城邑のように、常に衆人環視の目にさらされるような拠点は、一部例外を除いて、得てして攻略しやすい。都市はプレイヤーが常時行き交うのに不都合がない環境が整っていたり、入口が四方八方──場合によっては、上空全周囲から侵入され攻略される危険性が高いことを考えれば、都や城などの拠点はまったく防衛には向かない。よほど強力な守護者を創り上げ、効果的な罠を敷設し、ある程度のフィールド特性──〈飛行〉魔法の禁止や特殊技術(スキル)使用制限など──を得ておかなければ、まるで話にならない。

 とすれば。

 ナザリック同様に地下潜伏型の特徴を持つあの天使ギルドは、生半可な情報で早合点し攻撃するのは、危険を通り越して馬鹿げた話でしかない。

 仮に、飛び出してきた十二体と四匹のすべてがLv.100と仮定するなら、その総数を合計して計算すると、拠点レベルは1600。無論、個体ごとに割り振りにばらつきがあるだろうことを考慮すれば、これよりもさらに低くなるはず。だとすると1200~1400が妥当な数字だろうが、何事も想定される以上の事態をも想定しておかなければ。

 

「我々もまた、油断なく連中と渡り合わねばなりませんことを、皆様にはご理解していただきたく思います」

 

 守護者たちが鋭く頷く様に笑みを深め、直近の問題──堕天使と直接接触しに赴いた主のことについて言及していく。

 改良に改良を重ねた“受肉化”の果実(アイテム)。完全完璧といえる人間の姿に変貌を遂げたアインズは、その装備をはじめ、従者役の孫娘(エルピス)や、すでに堕天使と接触して情報を送ってくれたマルコという、腕利きの護衛がついている。万が一の時には、守護者たちの何人かが緊急出動する態勢も万全となれば、連中が至高の御身を害する可能性は、万に一つも存在しない。

 

「でも、本当に大丈夫かな?」

「そんなに悲観することでもありんせん、アウラ」

 

 デミウルゴスが応じるよりも先に、親友の吸血鬼が闇妖精(ダークエルフ)の乙女を窘めた。

 

「アインズ様は、天使どころか“神”をも超越する存在。あの程度の奴儕(やつばら)に後れを取ることなど」

「そういう増長が危ないって、判って言ってるの。シャルティア?」

 

 シャルティアは思わぬカウンターに表情を「ぐぬぬ」と歪める。

 

「……でも、まぁ。不安がっても仕様がないよね。シャルティアの言う通り、悪く考えすぎるのもあれだし」

「そうよ、アウラ。アインズ様が約束された以上、必ず御帰還なさるわ。愛する私たちのもとに」

 

 同じ王妃として共にある女悪魔にここまで言われては、陽王妃たる乙女は納得するしかない。

 アインズ・ウール・ゴウンに敗北はない。

 そして、アインズが戻ってこない事など、ありえない。

 見上げた大画面では、堕天使の信頼を得たかのように話し込むモモンの姿が映し出されている。一行は至近にあった穀物を満載する倉庫に匿われ、そこで族長たちの到着を待つことになったようだ。

 危険の種子など何処にもない。そう確信させるような遣り取りが交わされていた。

 

「ソレデ、デミウルゴス。今後ノ方針ニツイテハ?」

 

 魔導国の国軍を預かる大将軍に、悪魔は軽く頷く。

 

「基本的には、引き続き監視と観測が続けられることになります。監視対象が増えるのは想定内の事態ではありますが、各都市に散った三体のNPCについては、有事の際にはアインズ様の上位アンデッドを投入することの許可も下りております」

 

 いっそのこと、各地に散った連中の三人をすぐさま拘束してしまえばともコキュートスは主張しかけるが、それはアインズの望む融和策を考えて否決する他ない。

 

「スベテハ、アインズ様ノ御心ノママニ、ダナ」

「ええ。いずれの行程を経るにせよ、あの天使ギルドを掌握することができるのであれば、ナザリックの支配体制に、さらなる力をもたらすことでしょう」

 

 プレイヤーの蘇生実験。

 他ギルドに属するNPCの生態調査。

 この世界における他ギルドへの干渉の可否について。

 

 奴らを懐柔し篭絡した暁には、魔導国は、ナザリック地下大墳墓は、さらなる飛躍と軍拡を遂げるはず。

 アインズはそのための布石として、奴等がナザリックに、魔導国に加わるに相応しい人材かどうかの測量を、自らの目で遂行しようというのだ。これは、デミウルゴスから見ても途方もない慈悲であり、同時に悪魔の大参謀には考えもしなかった──殲滅と蹂躙による暴虐以外の道を、アインズが開拓してくれた深謀遠慮を、如実に物語っている。

 確かに、連中を一気呵成に取り除く際のリスクを考えれば、一度は連中の懐に忍び寄り、急所を一刀のもとで深く抉ってしまった方が、跳ね返ってくる危険は薄まる。熾天使をはじめとした強力な天使モンスターによる反撃を許してしまえば、最悪の場合、国内でいらぬ騒乱や混沌を招き寄せるやも知れない。

 デミウルゴスが、何もアインズ自らが懐に入り込む役をやる必要は、当初思考の端にすら思わなかったのは、ひとえに至高の四十一人のまとめ役にして、自分達ナザリック地下大墳墓のシモベたちが唯一忠誠を尽くせる絶対君主──待ち望んだ継嗣である“若君”もいるが、やはり忠誠の度合いはアインズの方に軍配が上がるもので、それを当の“若君”も「当然」と認めている。父に似て、慈悲深い王太子なのだ──への負担と危難を一切排除したいという、NPCらしい忠道の思いからに他ならなかった。

 無論、連中の首領と目されるあの堕天使が、率先してナザリックの庇護下に(くだ)ることを認め、アインズの支配に従順でいるのであれば、悪魔には何の文句もないのだが。

 しかし。懸念は残る。

 

「で、でも、あの、デミウルゴスさん」

 

 成長した闇妖精の少年……ほとんど青年といってよい同胞が、さらに疑問する。

 

「何です、マーレ?」

「えと、あの人たちが、ナザリックに、その、そう簡単に、くだるのでしょうか?」

 

 果たして、そう上手くいくかどうか。

 マーレが言わんとする懸念は、デミウルゴスの叡智をもってしても、読み切れない。

 

「確かに、無知蒙昧に過ぎる下賤な輩では、我等ナザリック地下大墳墓の威光と支配の素晴らしさを解せず、反発することも十分にありえるでしょう。……かつて、このナザリック地下大墳墓の深部……私が守護する第七階層“溶岩”までを蹂躙し尽くした“プレイヤー”なる存在は、まったくもって、信頼には値しない。……皆さんも、覚えているでしょう? あの“大侵攻”の時を」

 

 刹那、憤怒に焦がれたのは、デミウルゴスだけではない。

 第九階層にいたセバス、第十階層の“玉座”にいたアルベド以外の四名……シャルティア、コキュートス、アウラ、マーレを含めたほとんどの階層守護者たちは、思い出すのも忌まわしき大侵攻──1500人からなるプレイヤーたちの連合に攻められたあの時、あの瞬間に、一度だけ力尽きた。

 自らの無力さを嘆き、敵であるプレイヤーたちの傲慢を呪いながら、彼らは等しく死の(とこ)につくことになった。

 

 ──そうして、すべてが終わった後。

 

 無残にも敗れ去り、無念にも役目を果たしきれなかった、無様な失態を演じた自分(NPC)たちを、御方々は深淵よりも尚深い愛と慈悲によって、復活を遂げさせてくれた。

 ナザリック地下大墳墓という最高の地を再び踏むことを許し、再び御方々のために働き戦うための命を、与えてくれた。

 

『よく戦った』

 

 そう復活した際に御方々から声をかけてくれた瞬間を、

 その時に懐いた尊崇と敬愛の念を、

 守護者たちは、覚えている。

 

「おっと失礼」

 

 目元の雫を悪魔は指の先ですくう。

 誰もそれを咎めることは出来ないのは、彼の胸に宿る感情と感動は、等しく全員が理解できていたからだ。

 

 この方々のために生き、

 この方々のために戦い、

 この方々のために死ぬ。

 こんなにも素晴らしいことが、他にあるはずもない。

 

 見れば、シャルティアも頬を濡らし、コキュートスが極寒の吐息を熱くし、アウラも服の袖で顔を拭い、マーレが鼻をスンと鳴らして嗚咽をこらえる。頷くセバスやアルベドも、彼等の復活を行った現場を目にしており、その時に懐いた想いは、ほとんど同一と言っても良い。

 

 全員が密かに、だが確実に至高の御方々への尊信を深め、唯一残ってくれた主人アインズへの敬服を篤くする傍ら、デミウルゴスは新たな思考を得る。

 

 

 もし……もしも、だが……

 

 

 あの大侵攻に関わるプレイヤーが、自分たちの前に、再び現れたとしたら?

 

 

「──フフ。ありえませんね」

 

 デミウルゴスは失笑を浮かべる。

 1500人からなる攻略部隊の存在は、すでに過去の事。

 あの時にナザリックを侵した連中のことは、思い出すだけで(はらわた)が煮えくりかえるほどの憎悪と憤慨と烈意を掻き立てられるが、あの堕天使には関わりのない話だろう。

 仮に、あの堕天使(カワウソ)が大侵攻に関わっていたとしたら、デミウルゴスは覚えているはず。彼の叡智は第七階層を蹂躙した1000人以上からなるプレイヤーなどの顔、そのひとつひとつを記憶し、そのすべてに対して等しく悪辣な呪詛と侮蔑を懐いてならなかった。自分が守護する”溶岩”の赤熱神殿にまで、たどり着けた天使──堕天使は存在しない。それ以前の階層──特に、第五階層“氷河”と、その地を守護する友・コキュートスの力は、天使にとっては致命的に相性が悪い。

 故に、

 デミウルゴスはカワウソという堕天使プレイヤーなど、当然の如く会ったことがなかった。

 

 

 

 NPCの記憶について補足しておく。

 ──この異世界で復活を遂げたシャルティアは、洗脳され、アインズに敗死するまでの経過を覚えていなかったのは、ひとえに彼女が“ナザリック(がい)”で死んだことが起因しており、ナザリックから外へ出る直前までの記憶は保持していた。これはもともと、ユグドラシルの仕様上、拠点NPCは拠点外で活動することを考慮していない存在だからゆえの事象と、アインズは推測している。

 つまり、“ナザリック(ない)”で起こった戦闘については、NPCたちはたとえ死んでも、忘れることは出来ない。

 そうでなければ、デミウルゴスたちは1500人からなる“大侵攻”を覚えておくことも出来ないはず。

 だが、ここにいる全員が、ナザリック地下大墳墓に特別に創造された、ほとんどすべてのNPCは、そのことを記憶できている。直接、防衛戦に関わることのなかったメイドたちですらもが、神聖不可侵なるナザリックへの侵攻を(くわだ)て、第八階層の”荒野”──自分たちの階層の真上にまで迫った外の存在……プレイヤーを怖れる者と侮っている者が多数派を占めている。

 

 

 

 デミウルゴスは、仄暗(ほのぐら)い可能性を、喜悦とも憎悪ともつかない欲火を、胸の奥底で(たぎ)らせてしまう。

 ──仮に。

 もし仮に、だが。

 あの堕天使(カワウソ)が、何らかの形でナザリックへの侵攻をなそうとした愚物だとしたら?

 

「……いずれにせよ、すべてはアインズ様の御心次第」

 

 連中に対する調査事項をひとつ追加しておくことにしたデミウルゴス。

 

「……ちなみに、なのだが、シャルティア」

「なんでありんすえ?」

「君は、あの堕天使のプレイヤー……本当に見覚えはないのかい?」

 

 シャルティア・ブラッドフォールンは、ナザリック地下大墳墓の第一・第二・第三階層の”墳墓”を守護する真祖の吸血鬼(トゥルー・ヴァンパイア)。必然的に、ナザリックに侵攻しようとする小悪党や盗人共と会敵する機会は多かった。

 だが、

 

「いいえ。見覚えないでありんす?」

 

 これは、シャルティアの記憶力が(つたな)いということではない。

 カワウソは、堕天使の外装(アバター)を作る際、課金などによっていろいろとビジュアル変更を施しており(それであの醜悪な面貌なのは仕様でしかない)、最後にナザリックへと侵入し、シャルティアと一戦交えた時とは違う顔になっている。

 至高の御方々であれば、その見目麗しい造形の冴えを見事看破する死体愛好家(ネクロフィリア)の戦乙女にとって、あの堕天使の面貌は記憶の中に留めておく価値すらない劣愚の肉塊にすぎず、言ってしまえば人間種のプレイヤーとの違いすら判然としない程度の興味しか抱かない(これが至高の御方々であれば、当然のごとく例外的に美しい面貌に認識が改められるのだが)。

 そして、言うまでもないが、カワウソが堕天使になるならない以前から彼個人は侵攻できていない、つまり、面識のないコキュートス以下の階層守護者たちは、カワウソがナザリックに再攻略を挑んだ蛮勇の徒であることすら認識し得ない以上、カワウソのことを知っている存在など、このナザリックに存在するはずもなかったわけで。

 

「やはりそうですか」

 

 そう惜しむ悪魔の参謀の耳もとに、元気な乙女が最後の疑問を投げかけた。

 

「それでさあ。飛竜騎兵の領地に現れた、あの黒いの。デミウルゴスが用意した仕込み?」

「んん? 黒いの?」

「あ、ええと、こ、これです」

 

 遅れてやってきたデミウルゴスは、モモンたちの戦闘映像を確認していない。

 マーレは映像端末を操作し、記録された数分前の映像──モモンとカワウソによって討滅される黒竜の動画──を、今も映し出される生中継(リアルタイム)映像の横、大画面内で二分割された一方に投影する。

 二人のプレイヤーによって討伐される暴走飛竜の姿。

 

「ほぅ……」

 

 それを宝石の眼球で確かめた悪魔が、顎に手を添えて、一言。

 

「何です? この黒い飛竜?」

 

 心底から珍しそうに零れる悪魔の美声。

 

「     え?     」

 

 彼の声の意味を理解できず、アルベドやシャルティアたちが、きょとんと眼を丸くしてしまう。

 そんな同胞たちの様子に、デミウルゴスは心外そうな声音で呟くしかない。

 

「──『え?』ってなんです? 私、何かおかしなことを言いましたか?」

「いや……だって、こういうのって大概は、その?」

「えっと、デミウルゴスさんの仕込み、じゃあ?」

 

 アウラとマーレが疑念するのを、デミウルゴス以外の全員が頷く。

 

「あのですねぇ……私が何もかもを御膳立(おぜんだ)てできると思わないでいただけます?」

 

 それこそ、比較するのもおこがましいことだが、デミウルゴスを超える智謀の持ち主、ナザリック地下大墳墓の絶対支配者であるアインズならまだしも。

 魔導国による大陸統治にしても、アインズという絶対者の手腕・力量によって、デミウルゴスの計画を超越して余りある平和が築かれている。アインズの慈悲によって、いくつの都市が戦乱を不毛と悟り、いくつの種族が救済されてきたのか。──無論、どうしようもない犠牲、アインズの支配の素晴らしさを理解できない愚昧というのも僅かながら存在しているのは事実だが、それすらも乗り越える努力をアインズは常に目指し続けている。デミウルゴス程度では無視して当然の生贄(いけにえ)にすらも、御方は慈悲をかけるとは。

 

「魔竜や邪竜並みの再生速度の下等竜種(ワイバーン)……これが、仕込みでないと?」

「じゃあ超自然的な異常発生ということでありんすか? そんな馬鹿な話がありんすか?」

 

 アルベドとシャルティアが悪魔の仕込みの可能性を想起するのは必然だった。

 悪魔的な造形を施された異様な飛竜の姿。並の飛竜騎兵をものともせず、堕天使に食らいつかんと暴走したアレが、彼の仕込みでないとしたら、一体だれが、なにが、あんな異形を産み落としたというのか。

 

「私は、ほんの少しばかり──“種”を蒔いただけですよ?」

 

 ただ、その蒔いた“種”が、いつ、どこで、どのような“花”を咲かせ“実”を結ぶのかは、わからない。さすがのデミウルゴスですら想像がつかないのだという。

 果たして何が芽吹くのか。最上位悪魔ですら予測不能。

 だからこそ、この仕込みは完璧なのだ(・・・・・・・・・・・)

 

「なるほど、そういうことね」

 

 発言に含まれた意味を受けとった彼並みの智略を誇る女悪魔が、ただ一人だけ頷く。

 

「……ドウイウコトダ?」

「想像がつかない、“種”とは?」

 

 コキュートスとセバスが再疑問する。

 

「アインズ様が推し進める”あの計画”の為、よね?」

 

 女悪魔の告げた、短くも簡潔な単語の意味を、知らない者はいない。デミウルゴス以外の全員が意外そうに瞠目しているが、”計画”という単語を聞いた段階で、ほとんど全員がひとつの確実なる結論を胸に秘めることになる。

 しかし、それがデミウルゴスの仕込みと呼ばれるものとの整合性が取れていないのも事実だ。悪魔の参謀はしようがなしに、確信を込めて告げる。

 

「私が、あの地に宿した仕込み──“種”というのはですね────────」

 

 

 

 

 

 具体的な内容を聞いた者たちは、既に判っていたアルベド以外の全員が、納得を懐くに至った。

 

「確かに、それは必要な事でありんすね」

「マッタク。スグニ解答ニ至レナイ己ガ不甲斐ナイバカリダ」

「しようがないよ、コキュートス。これは私もすぐには解んなかったし」

「えと、あの、き、危険は、ないんでしょうか?」

 

 闇妖精の青年に、デミウルゴスは首肯を送る。

 

「無論、危険でしょうね」

 

 ほぼ全員が目を細めた。

 場合によっては、この仕込みはデミウルゴスの裁量や器量に収まらない案件に発展するやも知れない。アインズの計画に必要な事とはいえ、何がどう影響して、どれほどの事態に発展するのか予測がつかないというのは、酷く不安定な代物であることを如実に表している。

 あるいは、あの黒い飛竜のように。

 突如として意外な形や脅威の姿をとって出現する可能性も、なくはない。

 最悪の場合は、デミウルゴスの手には余る事態にまで、”種”が肥大成長する可能性だ。

 そんなことはありえない。今までは確かにそうだったのだ。

 だが、これが明日の朝には恐るべき怪物を産み落としていないと、誰が保証するのか。

 

「デミウルゴス様。それはあまりにも、無責任な発言では?」

「かもしれないね、セバス。それは解っているとも。だが、それならば君はどうする?」

 

 悪魔は執事を嘲弄するでもなく、まっすぐに見上げる。

 

「アインズ・ウール・ゴウン魔導国を、御方が築き上げた超大国の歩みを、ここで止めることが許されるのかね?」

「それは……」

 

 セバスは口ごもるしかない。

 そんな老執事に対し、悪魔は攻撃とは違う音色を携えて、同胞の異見に一定の理解を示した。それは人々を「教導」するが如き、悪魔の述懐であった。

 

「無論、私も、我が私設部隊を派遣し、市井を管理監視する役目を与えた悪魔たちを隠密裏に放って、最低限の情報を得ている。飛竜騎兵の領地で、セークの族長らがやっていることも理解しているつもりだよ。

 しかし、だからといって、何もかもを制御しようとしても上手くいくはずもないのだよ。それをしようと思えば、魔導国は永遠の停滞を受容するも同然のありさまに陥るだろうね。そんな事態を良しとするのかね、君たちは?

 勿論、仮にアインズ様がそれを望むというのであれば、停滞でも凍結でも何でも請け合うところだが、アインズ様の望まれていることは、皆も知っての通り”発展と進歩”だ。この100年で、国土は完全に奉献され、反抗勢力など吹けば飛ぶ塵埃ほどが精々というところ。これ以上の”発展と進歩”に何が待ち受けているのかは、私が戴いた力をもってしても、正直なところ想像がつかない」

 

 アインズが目指す永遠の魔導国。

 それを成し遂げる為に、この仕込みは必要な事。

 そして、その程度の事を、あの至高の御方々のまとめ役であられる超越者(オーバーロード)が、考えが及んでいないはずもない。

 これまでと同じように。

 

「この世のすべてを、アインズ様に捧げる為に、皆の協力を、伏してお願いしたい」

 

 デミウルゴスの弁舌に感嘆しつつも、その内容の奥にあるアインズへの忠烈を感じ取り頷く一行は、気を引き締めて協議内容の確認……100年後に現れたギルドの情報についての会談を再開しようとした、

 その時。

 

 コンコンコンと、

 

 執務室の扉を叩く音が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




熾天使(セラフ)(クラス)については、書籍一巻でアインズ様が危惧した場面を参考に、恒星天の熾天使(セラフ・エイススフィア)至高天の熾天使(セラフ・ジ・エンピリアン)の間を埋める感じで命名しております。
……果たして今後劇中で登場するのだろうか。

あと、
第一話でもチラッと言ったことですが。
かつてナザリック地下大墳墓に侵攻した1500人からなる討伐隊の件──第八階層での戦闘については、書籍やWeb版を参考にした作者の独自設定、考察などが含まれております。「こんな感じだったんじゃないかなぁ」という程度ですので、そこはご注意ください。

討伐隊の話、書きたいなぁ(いつ書けるのかは不明)

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