咲-saki- 四葉編 episode of side-M   作:ホーラ

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今回は原作準拠
文字数結構書いたのに話全く進んでないな…


第83局[初見]

今年の九校戦は8月3日が前夜祭パーティ、5日に開会、15日閉会の日程になっている。競技日程だけで去年より1日多い11日間だ。

 

ただ日程は変わっても開催場所は変わらない。一高選手団は例年通り、前夜祭パーティ当日午前8時半に学校集合で、そこから大型バスとエンジニア用の作業者に分かれ会場に隣接された去年も泊まったホテルに行く段取りである。

 

今年の達也は深雪の圧力で強引に大型バスの方に乗ることになり(達也は技術スタッフも兼ねているので問題ないのだが)、今作業車の前で銀髪の一年生に移動中の注意をしているようだ。

 

私は窓からその姿を見ていたがふと横からの視線が気になって一旦目を離した。

 

「どうしたの、深雪?」

「いえ、お姉様お加減はいかがですか?」

 

どうやら横に座っている深雪は私のことを心配してくれていたらしい。

 

「流石に最近の睡眠不足はきついわね。残りの事務任せていいかしら?」

 

私が言う事務とは会長が本来やるべき仕事であるが、点呼はバスに乗る前に取るので実際はほとんどない。なので何かもしあったら深雪に任せて寝ようと考えたのだ。

 

「大丈夫です、深雪にお任せください」

 

深雪が微笑みながら返答してくれたので私は久しぶりにゆっくり寝ることにした。

 

 

 

バスは私が未来視した通り途中事故もなく、私たちは無事ホテルに着くことができた。細かなトラブルも起こらず全て予定通りに進み、また面倒なイベントが始まろうとしていた。

 

「サボっちゃダメ?」

「ダメです」

 

前夜祭パーティ、また気が重くなるイベントだ。

 

「お願い深雪」

「…… だ、ダメです」

 

上目遣いを使って可愛くお願いしたのだがダメだった。こうなったら最後の手段だ。

 

「見逃してくれたらキスしてあげるから」

「キ、キ、キ、キス?!!?!」

 

よし上手くいった。深雪は私の言葉に脳内でショートを起こしてる今がチャンスだ。

 

「冗談よ深雪」

 

私は逃げるために部屋のドアを開ける。

36計逃げるに如かず、逃げるが勝ち、先手必勝。

 

「ゲッ」

「人の顔を見てゲッとは大層な挨拶だな」

 

つい思ったことを口に出してしまった。ドアを開けた先には達也がいたのだ。深雪があらかじめ私が逃げると読んで、達也を配置したのだろう。後手必敗…

「お姉様」

 

おそるおそる後ろを振り返ると笑みを浮かべた深雪がこちらを見ていた。目は笑っていなかったが。

 

「さっきの発言はどういうことでしょうか?」

「そんなにして欲しかったの?」

「そ、そんな訳ではありませんが…」

 

私の言葉に深雪は再び顔を赤くした。

 

「そろそろ時間だ行くぞ」

 

達也が呆れたように私たちを見ながらこう言ってこの場は流れることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

達也、深雪、水波の3人が前夜祭パーティーの会場に入場すると入口近くの生徒の視線を一点に集めた。当然この3人の中で一番注目されているのは絶世の美女である深雪だが、引けを取らないぐらい達也も注目されていた。単に四葉というだけではなく去年のエンジニアとしての評判も各校に広まっているのだ。水波はそんな2人と一緒にいるので同じような視線を受けて落ち着かないようだが、ふと異変に気付いて達也に声をかけた。

 

「達也様、咲様はどこへ?」

「いつものことだ、問題ない」

 

達也は手を軽く振って答える。どうやら水波はパーティーで咲が姿をくらますことを知らなかったようだ。水波はボディーガードとして護衛対象が見えないのは不安なのだろうが、近くにいるのは見えているし別に出席はしているのだから問題はないだろう。

 

前夜祭パーティは立食形式とは言ったものの、前夜祭の段階では各校固まっている。生徒会や部活連の顔役(生徒会の顔役は咲があずさに任せた)は挨拶回りをするのだが、開始前であるのでまだそのような者は各校いなかった。

 

達也の隣には深雪がおり、その深雪は達也の肩に刺繍されたエンブレムを見て嬉しそうに微笑んでいた。

 

「深雪、何がおかしいんだい?」

 

愛想笑いか本物の笑顔か、咲と深雪限定だが達也は見分けることができる。なぜかいきなり急に浮かべた嬉しそうな微笑みの理由が気になり、達也はそう声をかけた。

 

「いえ、お兄様の魔工科の制服がよくお似合いで、深雪は嬉しくなってしまったのです」

「どうしたんだ、改めて。もう四カ月も見ているはずだろう?」

 

近くで聞いていた水波はなんなんだこの人は、という冷たい目をしていたが、この場において彼女は少数派、というか1人であった。

 

「達也さん、私もそう思います!」

「私も」

 

威勢良く深雪の意見に賛同したほのかに続いて、雫も同じ意見。

 

「そうだね、去年は借り物だったせいかな。なんとなくしっくり来ていなかった感じだったよ」

「そーだねー」

 

スバルと英美もこれに同意する。ここにいる二年生女子全員は同じ意見であるようだった。

 

「達也なんかに花は似合わないからね、プププ」

 

といったような最後の二年生女子の笑い声が小さく後ろから聞こえたような気がするが達也はスルーした。

今、達也の周りには咲をのぞいた二年女子の選手が勢ぞろいしていた。傍からみたらハーレム状態である。同じ二年生の男子、十三束と森崎、そしてモノリスコードの選手に選ばれた幹久古は部活と風紀委員会の先輩である沢木に捕まって三年生の中に囚われている。

 

達也は別に女性が苦手ではないが、美少女と呼ばれる娘ばかりという状況はやはり落ち着かないものであった。

ジロジロと女子を見る訳にもいかないので達也は会場をぐるりと見回して見ると、同じように女子生徒に囲まれている知人を見つけた。

その人物も達也に気づいたようで達也に向かって歩いて来た。

 

「お久しぶりです。四葉さん」

「ええ、ご無沙汰しています、一条さん」

 

達也に声を最初にかけるのではなく、将輝は深雪に対して声をかけた。緊張した声で挨拶した将輝に対し、完璧な愛想笑いの深雪。将輝は咲に婚約を申し込んでいるはずだがと思ったが、同じぐらい美少女の深雪に対して目移りするのはおかしいことではないだろう。

そんなことを考えられるぐらいの間が一瞬あくがそれを取りなしたのは吉祥寺であった。

 

「横浜以来ですね、変わりなさそうで何よりです、四葉達也君」

「そちらも壮健そうだな、吉祥寺」

 

ややぶっきらぼうだが、達也にしてはそれなりに友好的な表情で応じ、そのまま隣へ顔を向ける。

 

「そして一条も。横浜では大活躍だったと聞いているぞ。さすがはクリムゾン・プリンスだ」

「その呼び名、やめてもらえないか?」

 

達也が彼の2つ名を呼ぶと少し嫌そうに顔をしかめた。

 

「嫌なのか?からかっているわけではないんだが」

「仰々しいのは嫌いなんだよ。普通に一条でいいだろ」

「わかった」

 

素直に達也が答えると将輝は意外感を示したが口にしたのは別のことであった。

 

「ところで今日のパーティは欠席しているのか?」

 

主語がない文ではあったが、達也は正確にその文でさしている人物を理解していた。

 

「咲さんの姿が見えなくて一目見ようと各校楽しみにしていた人が肩を落としているんだよ」

 

咲はこの会場に入る前からステルスモモを発動しているので気づいている人は知覚能力を持つ選手だけであろう。もしかしたら咲に気づけるのは達也自身だけかもしれない。

 

「一応、この会場にはいるんだがな。ちゃんと探したのか?」

「彼女がいたら人垣ができるに決まっているんだからすぐにわかるだろ!それに四高の机付近で咲さんが見当たらなくて大騒ぎしている生徒がいたんだぞ」

 

四高、咲が見当たらなくて大騒ぎ、誰のことかわかった気がしたがその件について関わると頭が痛くなることは確定なのでその件に関しては咲に任せることにした。

 

「まあいい、ところで四葉っと、この呼び方で構わないか?」

「無論だ」

 

三人の側では一高と三高の女子の間で交流しており、深雪に対して少し遠慮気味に見えたが和気藹々とお喋りをしている。

そんな声をBGMに将輝が声のトーンを低めて達也に話しかけた。

 

「今年の九校戦、何か変だと思わないか?」

 

かなり唐突な話題であったが彼は大真面目であり、横の吉祥寺も同じような表情だ。

 

「そんなにおかしいのか?俺は去年しか知らないからよく分からないのだが」

 

達也の言っていることは半分嘘である。将輝が言っていることはほとんど見当がついていたがそれが正解という保証はない。達也は将輝の口からもっとはっきりした意見を聞きたいということを考えたのであった。

 

「競技種目の変更はまだわかる」

「運営要領も種目変更を前提としていますからね」

挨拶だけで済ませるつもりはなかったらしく、吉祥寺も会話に参加して来た

 

「戦闘的な面に偏っているが、国際情勢を考えれば妥当だとは思う」

「ですが最後の競技、スティープルチェース・クロスカントリーだけは違います」

 

将輝と吉祥寺が交互に言葉を達也に投げかけていく。

 

「そう、あれは他の競技と比べて行き過ぎていて、異質だ」

「あれは元々森林ゲリラ戦の訓練として陸軍の訓練で行われるもので、スティープルチェースと名前が付いているのも不思議なぐらいです。公開されている情報も少なく、大雑把なことしかわかりませんでしたが、長さ4kmというのは現役の部隊でもほとんどやることがない大規模演習用のメニューであるようですね」

「それを高校生の競技会、しかも疲労が残っているだろう最終日に行うなんてリスクが高すぎる」

「おまけに二年生以上全員参加です」

「おかしな点は他にもあるがこの競技は観客やケーブルの視聴者に見せるためではない、何か別の目的があるとしか思えない」

 

2人の話を聞きながら達也はかなり本気で感心していた。彼は差出人不明のメールによって九校戦の裏を調べ始めた。だがこの2人は、おそらく自分たちの思考だけで九校戦の裏にある意思を感じ取っている。

 

「それは一条家と調べた結果か?」

「ん?いや、そこまでは、そんな必要あるのか?」

「気になることがあって調べる手段があるなら調べたほうがいい、割けるだけのリソースがないなら仕方ないがな」

 

達也は挑発したつもりはなかったが将輝がそう受け取っても仕方がない言い方であった。

 

「その程度の余力は常に残してある!俺が言いたいのはそこまでする必要があるのかということだ!」

「知らない方がいいこともある、なんて言うがあれは嘘だ。九校戦最終日のスティープルチェースまでは12日。十分とは言えないが何もできないと諦めなければならない程短くないと思うが」

 

咲にこの件について秘密にしている自分が言うのかと思った達也だがそんなことは顔に出すわけがない。

 

「将輝、ここは四葉君の言う通りかもしれない、僕たちの手には余るけど剛毅さんなら何がわかるかもしれない」

 

剛毅、というのは一条の父親、つまり一条家の当主だ。吉祥寺の意見は達也の意見を支持するものであった。

 

「わかった、家の連中に調べさせてみよう」

 

将輝は吉祥寺ではなく達也の方に向かってそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

達也たち三人がそんな話をしている同じ頃、咲は去年と同じく隅っこでジュース片手に会場を見回していた。最初の方は一高のテーブル付近にいたのだが、達也達のところへ一条が来たのできな臭い話をするんじゃないかと感じ取り、逃げてきたのだ。

君子、危うきに近寄らず。面倒ごとは達也に処理してもらおうと考えた結果だ。それにしても今年は中々見つからないと咲は喜んでいた。去年は九鬼先輩にすぐ見つかったのだが今年は探知系能力持ちの生徒がすくないのかもしれない。このまま見つからずに過ごしたいと思ったが、そうは簡単に問屋が卸さなかった。

達也から離れて少し時間が経った後のことである。

 

「んん……//」

 

不意に身体を駆け巡る快感にモモの神依が解除される。新たな神依が発動するがそれは一瞬だけ。咲はこの一瞬で理解した。つまりこれは…

 

「やっっっっっっと見つかったよ、お姉ちゃあああん」

 

こういうことだと。咲は抱きついて来ようとする自分の神依を解除した張本人のみなもにチョップをかまそうとするが、みなもはそれを加速魔法で躱す。その勢いを保ったまま、みなもは咲に腹にシノチャースタイルの頭突きをかましながら抱きついた。

 

「久しぶりのお姉ちゃんの匂い、今のうちに堪能しないと」

「………」

 

みなもと咲が会うのは、実に8ヶ月ぶりなので会えなかった分シスコンぶり(気持ち悪さともいう)にも拍車がかかっていたのだが、咲は痛みで悶絶して突っ込むことができなかった。咲が声が出せるようになる頃には咲はみなもの餌食になっていた。

 

「…み、、みなも久しぶりね…」

 

みなもは書類上は第四高校に入学していることになっている。みなもは十四使徒(劉雲徳が去年のマテリアルバーストで戦死したので十三使徒の方が正しい)である都合上、行動はなるべく知られない方が重要であるので、普段は四葉本家で通信教育という風に教育を受けている。しかし、九校戦はみなもの頼みもあり第四高校の選手として出場することとなったのだ。

 

「お姉ちゃん、僕がいるのに中々出てきてくれないだもん。酷くない?」

「私がこういう場嫌いなの知ってるでしょ」

 

咲はみなもに抱きつかれながらそう答える。みなもはマタタビを嗅いだ猫のような顔をしていて、その抱きつかれている咲も満更ではない表情をしている。みなもは当然として、咲もシスコンであるので久しぶりに会えて嬉しいのだ。

 

「そういえば、お姉ちゃんに紹介したい人たちがいるんだけどいい?」

 

少したわいもない会話をした後、みなもは何か思い出したようにそう話を切り出した。

 

「いいわよ」

「おーい、2人ともこっちこっち」

 

なるほどそうきたか。

 

「お初にお目にかかります、黒羽亜夜子と申します。去年の咲先輩の九校戦の姿を見て一度お会いしたいと思っていましたの」

「初めまして、黒羽文矢と言います。姉とは双子で自分は弟になります」

「2人は四校で同級生、魔法の使い方もかなり上手いよ」

 

九校戦でやれと咲たちが言われた命令の1つに黒羽姉弟との接触がある。

秘密主義の四葉家。知られているのは当主の真夜と咲たち三人、筆頭執事の葉山ぐらいだ。『黒羽』は四葉家の中で諜報を担う分家である。四葉家の数少ない光である咲との関係を知られるのは闇に潜む黒羽としても困るだろう。だが同じ高校生である以上、接触することはあるので、関係を持つことが必要だ。なので今回は『みなもの友達』として紹介された。その意図を汲み取れない咲ではない。

 

「初めまして、四葉咲です。みなも共々どうぞ仲良くしてくださいね」

 

咲は綺麗に一礼して答えた。実際は知り合いなので何度も顔を見合わしているはずなのだが、優美なその姿を見て文弥が顔を赤く染めたことを責めることは誰もできないだろう。

 

「達也お兄様にも挨拶したいらしいんだけどアポ取れる?お姉ちゃん」

「余裕よ、余裕」

 

咲は三人を引き連れて達也の方へ歩いていく

 

「一条さん、お久しぶりです」

「…咲さん、ご無沙汰しています」

「ねえねえ、ちょっと時間取れる?」

 

咲は達也達三人が話しているところに向かって行き、一条と挨拶したあと、くいくいと達也の腕を引いた。都合よく一条達との話がひと段落ついたところを見計らったのだ。咲に話しかけられた一条は驚いた顔をしていたので三人でそんな深い話をしていたのかと咲は少し気になったが、重要な案件ではないのでスルーした。

 

「なんだ?」

「四高の一年生が達也さんに挨拶したいって」

「俺にか?ああ、わかった」

 

達也が腑に落ちた理由とは別の理由で将輝と吉祥寺も納得顔をしている。咲の妹の『みなも』が四高に席を置いていることは九校戦の生徒なら知っているし、それだけ「四高」と「達也の実績」は親和性の高いものであった。

 

「一条さん。吉祥寺さん、少し達也さんを借りて行きます」

 

「え、ええ。大丈夫です。ちょうど話も終わったところですし」

 

深雪の時と同じく緊張してしまった将輝に対して完璧な淑女の笑みで一礼して、咲はみなもが待っているところへ先導する。

 

「またな、一条」

 

達也の投げかけた声に返事は返ってこなかった。将輝は咲の微笑みによって棒立ちになっていた。

 

 

 

「初めまして、四葉先輩。黒羽文弥です」

「初めまして、黒羽亜夜子と申します。文弥とは双子の姉、弟の関係になります。よろしくお願い致します、四葉先輩」

 

咲とみなもに紹介され、文弥と亜夜子が達也に対して咲の時と同じように初対面の挨拶をする。2人の初めましては不自然さが全くなかった。

 

「初めまして、四葉達也です。みなもや咲とはいとこの関係にあたる」

 

しかしそれは達也も同じだ。

 

「しかし、俺は一高生だ。2人の先輩ではないんだが」

「学校が違っていても四葉さんは魔法師としての先輩です」

「四高生とはいってもわたくしたち姉弟は技術系が余り得意ではないですが、それでもよろしければご指導をいただけませんか?わたくしも弟も先輩の技に感銘を覚えましたの」

「九校戦中は無理だが別の機会なら構わない」

「本当ですか!?」

「ありがとうございます」

 

2人は無事、咲・達也と他人同士という印象を残して四高生徒の集団に戻っていった。

 

 

 

 

そんなお芝居の後、達也は目の前の事態に頭を悩ませていた。

 

「お姉様から離れなさい」

「深雪姉様はいつもお姉ちゃんを独り占めしてるんだから今日ぐらい僕に譲るべきだと思うよ」

「けど、みなもちゃんみたいにそんなにベタベタしてないわ」

「それは深雪姉様が勝手にしてないだけ、僕は好きなようにするだけさ」

「お姉様も困っているわ、ね?お姉様」

「別に困ってないわよ。深雪、今日はいいじゃない?みなもも私と久しぶりに会ったんだし」

 

この3人が揃うと毎回起こる事象。それは咲の取り合いである。

毎回みなもが咲とベタベタし深雪がそれに怒り、口論が起きるというのが鉄板パターンだ。その当人、咲はこの2人には特別に甘い人間であるのでだいたい収集がつかない。今回はみなも優勢であり勝ち誇った笑みを浮かべており、対照的に深雪は唇を噛み締めている。

この口論は止めないといくらでも続くので毎回達也が裁定を下さなくてはいけないのだ。

 

「深雪、今日ぐらいはみなもに譲ってあげたらどうだ?」

「ですが!?……わかりました…」

 

深雪は達也にそう言われ肩を落とししょんぼりしているが、あんまり会えないんだからと達也としては珍しく咲と深雪以外に気を使った。まあ感情論を無視してもみなもの意見の方が筋が通っていると考えられたのだが。

 

「じゃあお姉ちゃん連れて行くから。またね達也お兄様、深雪姉様」

 

みなもは咲と腕を組みながら第一高校とは違うテーブルに歩いていった。

 

 

 

 

 

 

達也と深雪が一高のテーブルに戻ると話題は咲の話であった。

 

「咲ってあんな風に笑うことあるんだね」

「あの咲はお姉様ってよりお姉ちゃん」

 

それがほのかと雫の感想であった。

 

「雫のいうとおりいつもの咲ではないなあれは」

「仲がいいんだね〜あの2人」

 

スバルとエイミィも自分の感想を述べたが達也としてはやめて欲しかった。

 

「そうね」

 

友人たちの言葉を聞きさらに怒りを募らせた深雪の小さい呟きに4人は震え、そして慌てた。どうにかしないといけないと。

 

「み、深雪と一緒にいる時も楽しそうだよ咲は」

「い、いつもの深雪と一緒にいる咲もお姉様っていう感じでいいんだがな」

「咲は深雪のことも大好きだと思うよ〜」

 

「咲はみなものことを妹と見てるけど深雪のことはもっと何か違う大切なものと見てる気がする」

「大切なもの…」

 

慌てて付け足したほのか、スバル、エイミィの言葉で深雪の機嫌はだいぶ上昇傾向で、自身も弟を持つ姉、雫の言葉で深雪の機嫌は完全に治ったようだ。達也は少しホッとすると同時に来賓の挨拶が始まった。

錚々たる顔ぶれの後、例年なら九島烈が最後を締めくくるのだが、今年はないまま来賓挨拶は終わった。

 

雫が聞いてきたところには具合が悪くなったらしいが、九島家の計画を掴んでいる達也にはそれが偽りとしか思えなかった。

 

 

 




22巻面白かったですし、映画も楽しみです。
映画にリーナが出てくると最近知って歓喜しました(リーナは二番目に好きです)

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