咲-saki- 四葉編 episode of side-M   作:ホーラ

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第76局[支援]

帰宅し部屋着に着替えてリビングに戻ると、そこには同じく着替えてソファで寛いでいる達也がいた。

帰り道、達也は何か考えている様子であり、それに深雪も気づいていた。普段と変わらない様子であったのだが確かに悩んでいた。怒りなら理由はわかるのだが悩みは見当がつかないので深雪がリビングにやってくると達也の前に2人で座り聞いてみる。

 

「達也さん、何を悩んでいるの?」

 

ど真ん中ストレートの質問であったので達也も面を食らったようで私を見返す。

 

「七宝のことが少し気になってな」

「あのお姉様への態度は許し難いです」

「深雪、嬉しいけど怖いから抑えて」

 

深雪の目に殺意一歩手前の剣呑な光が宿ったのをみて私が抑える。

 

「確かに、咲への態度はなっていなかった。だけど気になったのはどうして七宝があそこまで強気でいられるのかだ。生徒会入りを断り、七草家に噛みつき、なおかつ生徒会長であり四葉でもある咲を敵に回す」

「何も考えていないのではないのでしょうか」

「違うわね。あの子の目は強い意志を持った目。何も考えていない子があんな目はできないわ」

 

深雪の辛辣な意見に私は否を返す。

 

「どうして咲はあんなこと言われたのにそんなに七宝を買っているんだ」

 

達也がそう言うと深雪も気になるという目で私をみる。

 

「あの子は強い上昇志向があるのよ、誰にも負けたくないっていう。それが私に似ているからかしら。あと十師族になりたいのに私を娶ってなろうとしてないところもプラスポイントね」

「それなら、生徒会に入って人脈を築くのが普通だと思われますが………では何か普通ではない考えがあると、お兄様はそれをお考えでいらしたのですか?」

「まあ、そうなんだが」

 

私の言葉で深雪は達也の考えていることに辿り着いたようだ。

そんな時、水波がコーヒーを持ってきたので達也が水波を引き止める。

 

「水波はどういう印象を七宝琢磨に持っている?」

「身の程もわきまえない愚か者です」

 

水波は間髪も入れず答えた。

どうやら七宝君を買っているのは私だけらしい。

 

「そう考える理由は?」

「咲様を馬鹿にするなど許されるべきことではありません。あの相手との力量差を考えずに噛み付いているのは、まるで狂犬です。あの全方位に対しての見境ない攻撃性は、自分が一番強いと思ってるのではなく、自分が一番強くならなければならないと思い込んでいるようです、まるで誰かに煽てられているかのように」

 

水波も私が馬鹿にされていたことに相当苛立っていたようで、いつになく饒舌に自分の思いを述べた。

 

誰かに煽てられているかのように、一番強くならなければならないと思い込んでいる、そんな水波の意見が確信をついているように感じられるのであった。

 

 

 

 

 

 

七宝君は次の日、学校を休んだ。様々な噂が飛び交っていたが、その中にも正しいと思われるような部分があった。その正しい部分とは上級生との試合のために備えているという点だ。

ミリオンエッジはCADを使用しない群体制御魔法。あらかじめ魔法を発動直前の待機状態に置いておくのだが、その待機状態を維持する方法がユニークで、本に発動直前の状態にある術式をシンボルを書き込んで記録するのだ。

これは、敵の目の前で魔法式をくみ上げる必要がないのが利点であるが、自分でそのシンボルを刻まなくてはならなく、事前準備に大変手間がかかる魔法である。

 

明日の私との対戦に備えて休むことは想定の範囲内であったのだが、達也はまた違うことを考えているように見えた。

 

 

 

 

 

 

その日の夜、1人で達也が出かけ数時間後に帰ってきて言うには、七宝君の後援者は北山家のホームパーティーに会った時の小和村真紀。彼女は七宝君に私達四葉と七草家が今度の師族会議に向けて手を結んでいるかもしれないという嘘の情報を流し、私達にヘイトを向けさせたらしい。七宝君はまんまと手にひらの上で踊らされていたのだ。

そんな小和村真紀に対して達也は七宝君と切れることと、高校生以下には手を出さないことを取り付けたらしい。どうやって脅迫したのか知らないが、あの顔を見るによほどえげつない脅し方をしたに違いない。まあいつものことだが。

 

 

 

 

翌日の土曜日、午後3時。

第三演習室に、服部先輩に連れられて時間通り七宝君がやって来た。

今日の審判は服部先輩。立会人として、深雪。風紀委員会からは沢木先輩と吉田君と達也。部活連としては桐原先輩という錚々たるメンバーが集結している。

 

彼らはいざという時の仲裁役だ。この試合はノータッチルールが採用されているが少し特殊ルールが付け加えられている。

それはミリオンエッジについては使用制限なしというものだ。ミリオンエッジに関しては威力に関係なく使用を止めることはしない。

相手に過度の傷を与えるという結果が明らかになってから、試合を中止するという普通に考えればリスクが大きすぎるルールだ。私は大きなハンデを背負う形になるがそのルールを言い出したのも私だ。

 

七宝君は野外演習用のツナギ姿であるが、私はノータッチルールなのでロングスカートのワンピース。今回は雀明華の神依をするつもりはないのだが、女子生徒用のツナギは密着度が高いので恥ずかしいのだ。そしてこの服には隠し玉がある。

 

服部先輩が私たちの間に立ってルールを説明するが、これは形式的なものだ。

ルールを聞いている間、私の余裕な態度を七宝君は睨みつけている。昨日の後遺症らしきものは見えないのでうまくあの女優がフォローしたのだろう。

 

服部先輩が私たちから離れ手を挙げると、緊張感が一気に高まった。本を抱えている七宝君にとりあえず軽く本気の5%ぐらいのオーラをぶつけておく。しかし、七宝君は負けることなくそれを跳ね返してくる。なかなかやるじゃない。

 

七宝君は私の神の力を信じていないようだし、それなら見せてあげよう。私が神と呼ばれる理由となった神依の力を。

 

「始め!」

 

服部先輩のその声が、室内の静寂を破った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やめて!咲の神依の特殊能力で、ミリオンエッジを焼き払われたら、闇のゲームでモンスターと繋がってる琢磨の精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないで琢磨!あんたが今ここで倒れたら、真紀さんや拓巳との約束はどうなっちゃうの? 本のページはまだ残ってる。ここを耐えれば、咲に勝てるんだから!
次回「琢磨死す」。デュエルスタンバイ!

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