咲-saki- 四葉編 episode of side-M   作:ホーラ

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恒星炉は何度読んでもイマイチイメージできなかったのでキンクリしました


第74局[衝突]

琢磨は「新秩序」を目指す同盟者、小和村真紀との密談を終え、帰宅した。

時刻は二十三時、そんな時間に帰宅した琢磨だったが、使用人から書斎の父親に呼ばれていると告げられる。面倒だとは思うのだが、無視するわけにはいかないので、父の書斎へ足を向けた。

 

書斎に入るなり、デスクに座っている父、七宝拓巳にソファーに掛けるように言われる。琢磨がソファーに座ると拓巳も移動し、琢磨の対面に腰を下ろす。

 

「高校はどうだ、琢磨。楽しんでいるか?」

 

こんな時間に呼び出しておいて世間話とは何事かと琢磨は思った。これが話の切り口であることはわかっていたが、ムッとした感情が理性に勝ったのである。

 

「親父、何度も言っているはずだ。俺にとって高校は楽しみに行くものじゃない」

 

そんな息子のセリフに拓巳はやれやれという顔を見せる。

 

「お前は強情だな、琢磨。何もそう肩肘をはらんでもいいのに」

「親父こそなんでそんなに暢気でいられるんだ!次の十師族選定会議は来年に控えてるっていうのに。このままではまた風見鶏の七草に十師族の地位をかっさらわれて、俺たち七宝はあいつらの下風に甘んじなければいけなくなるんだぞ!」

 

力の抜けた拓巳の態度に、琢磨は苛立ちを爆発させた。

 

「師族選定会議は二十八家から十家を選ぶものだ。七草家だけにこだわっても意味がないぐらいわかるだろうに」

 

拓巳がこの話をするのは、もう何度目かわからない。しかし琢磨が首を縦に振ったことはなかった。一体誰が琢磨にそんな妄執を植え付けたのは拓巳としては気になるところではあった。

 

「三枝が『三』を裏切って、なおかつ『七』の研究結果を盗み取って十師族の地位を手に入れたのは事実じゃないか!」

「『七草』が『三草』だったのは十師族体制が定められる前の話だ。老師がその体制を提唱された時には既に『七草』は『七草』で、二十八家の中でも他の二十七家…いや、二十六家と比べ頭一つ抜きん出ていた」

 

「その抜きん出た能力を持っていたのは、第三と第七、両方の研究所の研究成果をつまみ食いしたからじゃないか。第三研の最終作品でありながら第三研を抜け出し、七宝が基礎理論段階から開発に携わっていた『群体制御』を我が物顏で使っている。三矢も三日月も七夕も七瀬も、七草にまとめて虚仮にされているんだぞ!親父はどうしてそれなのに平気なんだ!?」

「琢磨、七草も我々と同じ実験体だったんだぞ」

 

苦い声で言われた指摘に、琢磨は絶句する。

 

「彼らもまた作られた存在だ。ただ彼らは単なる実験体に甘んじていた他の二十六家と違い、四葉家と同じく自らの道を選び取った。それは責められることではなく、褒められるべきことだ。……あと四葉といえば四葉咲殿に失礼なことはしていないか?」

 

七草の話から咲の話に話題が移る。

 

「どうして親父はそんなにあいつに気を使うんだよ。同じ二十八家のたかが高校生じゃないか!」

 

琢磨が咲を敵視している理由がこれであった。相手は四葉であり、同じ二十八家としてある程度尊敬を払うべきだとは琢磨も思うのだが、父親や父親の側近達の咲に対しての特別視が度を過ぎていると思ったのだ。二十八家の当主である父が高校生にそれほど気を使う、それが琢磨には許せなかった。

 

「神を敬うのは当然のことだろう」

 

拓巳がそういうが、琢磨はその言葉に顔を顰める。琢磨が咲を軽蔑する理由、それがこれであった。

現代魔法にも古式魔法にも神と呼ばれるものは存在しない。神話上には神が存在するが、常識的に考えて琢磨は咲が神の力を使うとは考えられなかった。ただ単に固有魔法を使って、それを神の力と自称している痛い奴だと琢磨は考えていたのだ。

 

実は神代小蒔と獅子原爽の神依を除けば琢磨の考えはあっているので、咲は否定できないのだが。

 

入学する前はこの2つしか感じていなかったのだが、咲と関わるうちに得体の知れない気持ちが自分の中に生まれていたのが琢磨自身わかっていた。そんな気持ちを吹き飛ばすために他の四葉の2人を無視して、強く咲に当たっているという理由もある。

 

「七草に固執するのは勝手だが、四葉、特に咲殿とは敵対するな」

「親父達は神なんてものを信じるているのか」

「お前は咲殿の魔法を見たことがあるか」

 

琢磨の質問に拓巳が質問で返す。

 

「ああ。せいぜい50個程度を操る群体制御をだった。あれぐらいで神の力とは笑わしてくれる」

 

あの時咲が行ったのはゴム弾50個の群体制御と50の的への照準であったのだが、琢磨は50の的への照準をしたことがなかったので群体制御だけで判断したのであった。50ならミリオンエッジと比べて桁が5つも足りないのでその点では琢磨が優っている。

 

「……お前に対していい薬となるかもしれんな。それはそうと、琢磨。明日は学校を休め」

「いきなり何を言いだすんだ」

 

咲の本当の力を知らない琢磨との主張のズレにどうしようもないことに気づいた拓巳は本題を切り出した。いきなり命令された琢磨は不審感を覚える。

 

「明日、野党の神田議員が一高へ視察に訪れる」

 

拓巳は琢磨が不審に思うことは承知していたので、もったいぶることなく理由を話す。

 

「野党の神田?人権主義者で反魔法主義者のあいつか?」

「そうだ。マスコミを連れてな」

「何のために」

「魔法を強制されている少年少女達の人権を守るためのパフォーマンスだろう」

「人権!?」

 

琢磨はある程度答えを予測していたが、吐き捨てずにはいられなかった。

 

「お前の言いたいこともわかる。だが、相手は曲がりなりにも国会議員だ。問題を起こすのはまずい」

 

マスコミを連れてくるあたり、何か一つでも小さい事故が起きれば、それを針小棒大に書き立てるだろう。そしてメディアが発信することに聴衆は影響されやすい。

 

「いくら気にくわない相手だからって、何も考えず喧嘩を売ったりはしない。そこまでガキじゃない」

「相手の方から挑発してきてもか?」

「…っ。当たり前だ。そう簡単に挑発に乗るものか」

 

ちなみに咲は、負けるのが怖いの?と挑発されるとすぐに乗るので、琢磨ですら挑発に対しての抵抗は咲よりあった。

 

「ならばいい。そこまで言い切るのなら自分の言葉に責任を持てよ。この件は七草が対処する。くれぐれも余計な手出しをするなよ」

 

拓巳はこの情報を言うタイミングを計っていたのだ。

 

「七草が!?」

 

案の定、激しい反発を琢磨がしめす。

 

「自分の言葉に責任を持て」

 

既に琢磨は言質を取られている。

 

「ーー分かったよ!」

 

琢磨はそうとしか答えようがなかった。

 

 

 

 

 

 

4月25日

まるで神田議員とマスコミが来校するかが分かっていたように四葉達也の発案で、四葉咲が生徒会長を務める生徒会主導の元、恒星炉実験が行われた。

実験は成功したのだが、実験の詳細をよく分かっていなかったマスコミが『灼熱のハロウィン』のような秘密兵器のような実験かと、終始悪意のある質問が見られた。しかし、廿楽の理論的な反論に何も言うことができず、神田議員は本来の意図から外れる発言を記憶されてからはたまらないということから、逃げるように退散した。

 

 

翌日の26日

昨日の実験に対する報道の中には、水爆実験に挑戦かのようなセンセーショナル狙いのタイトルのついた記事もあったが、好意的な記事の方が多かった。

中でもFLTと並ぶCADの大手、ローゼン・マギクラフト日本支社長、エルンスト・ローゼンがこの実験を大きく評価したことが一高の中でも話題になっていた。

 

これにより、一高の生徒の気分は高揚した。その日の一高では、同じ学校の生徒が社会から認められたという事実が、若い彼らの承認要求を満たしていた。

しかし、もちろん例外もいる。琢磨だ。

 

琢磨は実験に咲ではなく自分でもなく七草を使ったのが気に入らなかった。四葉と七草は仲が悪いはずだが、もしかしたら今度の師族会議のために一時的に手を結んだのかもしれないと穿った見方をするほどに。

クラブの活動中も、このせいで集中できずに術式が雑になり、いつもできることを失敗して余計に苛立ちをためていた。

 

だから間が悪かったとしか言えないだろう。

 

クラブが終わり、自分のCADを受け取って下校する途中、風紀委員会本部へ戻ろうとしているのだろう七草香澄に遭遇した。風紀委員は新入部員勧誘週間もおわって、当番制に戻っており、1人で見回っていた。だから、香澄がちらりと一瞥しただけで何も言わずすれ違おうとしたのは少しもおかしくはない。しかし、それは一昨日からストレスを貯めていた琢磨にとって間が悪かった。

 

「七草、うまくやったもんだな」

 

琢磨は香澄が自分のことを鼻先で笑ったと感じた。

 

「何のこと?」

 

そう足を止め言い返す香澄は琢磨の目にはとぼけているように写った。

 

「昨日の公開実験のことさ。ローゼンの日本支社長にまで注目されるなんてすごいじゃないか」

「公開実験?あんたなにか勘違いしてない、七宝?」

 

香澄は琢磨の悪意に対する不快感を隠そうともせずに反論する。

 

「とぼけるなよ。魔法師を否定している国会議員がやってくると知っていて、昨日のことを仕組んだんだろう。四葉を利用してうまく名前を売ったものだぜ」

「利用ですって?変な言いがかりはやめてくれない」

 

香澄の反論は少し歯切れが悪いものであったので、自分の推理が正しいと判断する。琢磨の言ったことは半分あっていたのだが、四葉を利用したとか名前を売るとかについては言いがかりである。

 

「迂闊だったよ。あの人たちは魔法科高校だけではなく魔法界で有名人だったもんな。さすが七草、抜け目がない。姉に続いて、色仕掛けで四葉を引き入れたのか?お前たち双子は見てくれだけは一流だからな」

「ふざけるな!」

 

香澄がいきなり爆発するように啖呵をきる。その剣幕は琢磨が一瞬ひるむぐらいのものであったが、香澄が逆上したのは一瞬だけであった。

 

「誑し込むとか色仕掛けとか、随分七宝は下品なことを思いつくんだね。あんたこそ、可愛い顔してるんだからツバメにでもなったら?まあ、今時ツバメ飼ってるのなんて頭お花畑の色ボケ芸能人ぐらいのものだろうけど」

 

今度は琢磨の顔を赤くする番であった。

香澄が揶揄した年上の女の愛人になっている男を指す「ツバメ」という単語は、最近芸能ニュースを騒がせた某ベテラン女優の買春事件を借用したに過ぎない。

だが琢磨には、小和村真紀との関係を指摘されたとしか思えなかった。

 

「…喧嘩を売っているのか、七草」

「先に売ってきたのはあんたでしょ、七宝。それに言ったじゃない。二度と売ろうという気が起きないぐらい、安く買い叩いてあげるって」

 

睨み合う2人の右手は左の袖口にかかっている。2人が使用するCADはともにブレスレットタイプであり、それがそこに装着されている。

 

「そこの二人、何をしているんだ!」

「二人とも、手を下ろしなさい」

 

魔法の撃ちあいになろうとした瞬間、琢磨の背後から男子生徒の声、香澄の背後から女子生徒の声の制止がかかる。

琢磨は左袖をまくりながらいつでもCADを使用できるように振り返り、一方香澄は右手を下ろして振り返った。

琢磨の視界では、見覚えのある上級生が厳しい顔で左の懐に右手を差し入れているのが見えた。ショルダーホルスターに収めた拳銃形態の特化型CADを抜こうとしていると判断した琢磨は反射的に反撃しようとする。

彼の右手はまだホルスターから抜き切っておらず、自分はCADのスイッチに触れている。

勝ったと考えた直後、身体を前後に揺さぶられ脳震盪を起こして、目眩に襲われた琢磨は膝をついた。

 

 

香澄は自分が向けられているわけではないが戦闘用魔法が発動されたことに緊張する。

 

「ドロウレス…」

 

香澄の口から呟きが漏れる。琢磨を抑えたのは香澄と同じ風紀委員会の森崎であった。特化型は汎用型よりスピードに優れているが、すでに構えていた琢磨に対して、その差は意味がないと香澄は見ていた。普通に魔法を使っていたのなら。

 

その形勢をひっくり返し、琢磨に膝をつかせることを可能にしたのは、拳銃形態CADの高等技術「ドロウレス」。これはホルスターに入れたまま自分の感覚だけで魔法を放つ技術であり、簡単そうに思えるが拳銃形態のCADは照準補助機能を持つために、抜かずに打つのは思ったより難しい。それを特化型CADの発動の速さの利点を損なわず実行してみせた。

 

正直言って、香澄は今まで森崎をあまり評価していなかった。魔法発動は速いとはいえ入学二日目に見た神速というのがふさわしい圧倒的速さを持つ咲よりははるかに遅く、そこそこでしかない。

しかし、上級生は持って生まれた能力関係なしにこれぐらい当たり前にやってのけるのだと香澄は感心していた。自分も頑張らなきゃと思ってた矢先。

 

「香澄」

「北山先輩…」

 

ムッとした顔をしている雫に後ろから声をかけられ、背筋を伸ばした。

 

 

 

 

 

今日の自分の分の生徒会業務を終わらせ、持ってきていた本がちょうど読み終わった時、雫が風紀委員会室から上がってきた。今日雫は非番だったはずと疑問に思うが雫自身の言葉によって解決した。

 

「香澄と七宝が魔法の撃ちあいになりかけた。事情聴取のために誰か来てくれない?」

 

それを聞いた生徒会メンバー+私と深雪の帰りを待つために生徒会室にいた達也はこめかみを押さえる。みんな頭が痛いようだ。

 

「じゃあ、面白そうだし私が行こうかしら。ちょうど本も読み終わったところだし」

 

七宝君の狂犬ぶりは見てて面白いので、手が空いていた私が行くことになる。

 

 

雫に連れられて風紀委員会本部に入るとそこには、当事者2人と取り押さえた森崎君、風紀委員長の千代田先輩、部活連からは服部先輩と十三束君が集まっていた。

 

「最初に言っとくわ。香澄は完全な未遂だから、退学の可能性はないけど、停学の可能性はある。未遂とはいえ、CADの操作に入っていた七宝は最悪退学ね」

 

千代田先輩の宣告を2人は黙って聞いている。CAD使わなくても魔法が使える私はずっと未遂に入りそうなものだが、話が絡まることは目に見えているので黙っておく。

 

「それを念頭に置いて、何が原因だったのか話しなさい」

 

思考を読み取る神依はないので聞くしかないだろう。

 

「七宝君が七草家を侮辱しました」

「七草から耐え難い侮辱を受けました」

 

どちらが先に因縁をつけたかわからないが、お互いにお互いの家を侮辱したのだろう。四葉が馬鹿にされても怒ることはないが(当主があんな人なので)、深雪やみなもが馬鹿にされたら私も怒るかも知れない。

 

千代田先輩は互いに目を合わせようとしない2人の態度に頭を抱えている。

 

「はぁ、服部。どうすればいいと思う?」

「七宝は部活連であり身内だ。俺が判定するのは公平ではないだろう」

「それをいうなら香澄は風紀委員会の身内よ」

「だったら第三者、生徒会に裁定してもらおう」

 

2人の目は私に向く。ここに来た時点でこの展開は予期できていた。

 

「決闘で決着をつければどうでしょうか?」

 

私はちょっとウキウキしながら言う。決闘で決着をつけるという言葉を、この世界にやって来てからずっと言いたかったのだが、普通に言ったら失笑ものなので、チャンスを伺っていたのがようやく実を結んだ。

 

「それって2人を見逃すってこと?」

「話し合いで解決できないことは実力で決める。それが当校では推奨されていると渡辺先輩から聞きました。お互いの誇りがかかっているなら、実力で白黒つけたほうが面倒くさくなくていいかと」

 

香澄と七宝君以外は納得顔であった。何せ私は去年入学早々先輩に喧嘩を仕掛けているのである。いかにも私らしいという目で私を見ていた。

 

千代田先輩も服部先輩も私の意見に賛同してくれて、生徒会主導の下、実習室を借りて白黒はっきりつけることとなった。

 

私は試合承認書面などを書かなくてはいけないので生徒会室に戻ろうとすると、後ろから声をかけられる。

 

「会長、一つお願いがあります」

「七宝、不服なのか?」

咎めたのは十三束君である。

 

「いえ、七草との試合を許して頂けるならばお願いがあります」

「何かしら」

 

七宝君は本来条件をつけられる立場にない。それが逆に私の興味を誘った。

 

「相手を七草香澄だけではなく、七草香澄、七草泉美の2人にして下さい」

「あんた、私のことを馬鹿にしているの?」

 

香澄が乱暴な口ぶりになるのも当然だろう。

そんな七宝君の提案に思わず笑ってしまった。そんな私に全員の視線が集まる

 

「笑ってしまってごめんなさい七宝君。去年の私の1vs10を思い出しちゃって。七宝君はこう言いたいのよね。七草家と七宝家の誇りをかけた試合だから相手の全力、七草の双子を相手にしたいと」

「……その通りです」

 

自分の提案を馬鹿にされたと七宝君は最初思ったようで顔を赤くしたが、私が何を言いたいか理解していたのがわかると元の顔に戻る。逆に少し警戒した目を送って来たが。

 

「香澄ちゃんもそれでいい?」

「構いません」

「ではそのように、審判は私がしますね」

 

私は軽やかに生徒会室の階段を上った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




†新秩序†のほうがよっぽど厨二病な気がする

琢磨可愛い顔って香澄に言われていたけど普通な気がするんですけどどうなんですかね

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