咲-saki- 四葉編 episode of side-M 作:ホーラ
和葉良かったです。
授業が始まって3日目、入学式の次の日の午後。
私たちA組は通称「射撃場」と呼ばれる遠隔魔法用実習室で、実技の授業があった。
今日、新入生は専門課程の見学だったはずだ。
A組は私と深雪のいるクラスであり、私と深雪は九校戦でとても目立っているので、大勢の新入生が射撃場に詰めかけた。その中には水波、七草の双子、そしてなんと七宝君の姿もある。
去年、私はこの時間本を読んでいたので知らないが、深雪曰く去年は七草先輩の実習があったらしい。
今日の実習は、移動魔法で小さいゴム弾を飛ばし、ランダムに設置された50個全ての的にどれだけ早く当てることができるかという実習である。
この実習は動かないものに対する素早い魔法照準、魔法発動のスピードなどを鍛えるものであり、それはスピードシューティングに似ているが、向こうは当てた数、こちらは早さを競うものであるので少し違った。
そしてこの実習はペアを組んで、お互いに早さを競い合い互いに高めていくものなのだが、そうなると当然、
「お姉様、今日は負けませんよ」
「ううん、いつも通り勝つのは私」
深雪と私が組むのは必然であった。
咲と深雪、主席と次席を同じクラスにしたのは、お互いに1年の時の実習において、同じレベルの練習相手がいなかったのが理由の一つにある。咲はよく深雪の練習相手として、座学の時間、実習に連れ出されていた。これは幾分か問題視されていたが、同じクラスにしたら丸く収まることにクラス分けを担当した人が気づいたのだ。
「じゃあ先にやらせて貰うわね」
先んずれば人を制す。私が今回は先行だ。
今回の実技の内容的にはスピード系がいいだろう。私は2人の神依をする
新子憧
阿知賀女子の1年であり、阿知賀唯一の無能力者でもある。だから弱いかというとそんなことはなく解説のプロにも阿知賀で一番上手いと言われるぐらい麻雀のセンスがある。麻雀のスタイルは鳴きスタイルであり、手役より速さを求めるタイプ。
なのでこのキャラを神依すると私の魔法力の魔法発動スピードが大幅に上昇した。
そして末原も纏うことにより干渉力を犠牲にし、能力による魔法発動スピード上昇も上乗せさせた。
「スピードで負けられない!」
私は一つずつゴム弾を放ち、的に当てていく。そのスピードは他の生徒と一線を画するスピードであり、目標タイムが40秒、平均クリアタイムが大体30〜40秒、早くても20秒強であるのだが、私のクリアタイムは10秒程度であった。
私の魔法の発動の早さにほとんどの1年生は度肝を抜かれているようだ。というか深雪以外の同じA組の人も私の実習を見て驚いている。
「どう、深雪?」
「さすがはお姉様です」
いつも通り私を褒める深雪であったが、どこかいつもと違う。
「でも、お姉様にしては甘いですね。この勝負私の勝ちです」
私が勝利を確信した時に浮かべる笑みにそっくりな笑みを携えた深雪がそこにはいた。
「え?私のスピードに深雪勝てるのかしら?」
「お姉様、この実習はただ単にスピード勝負だけじゃありませんよ」
深雪がそういい残し、実習台に立ち魔法を発動する。
深雪が行ったのは深雪自身の最高照準数18をフルに使い一気に18の的にゴム弾を当てる魔法であった。確かに私がいかに早く魔法を発動しようと、私は50個の的に当てるのに最低50回の魔法を使わなくてはいけない。しかし深雪のように複数の弾を一気に的に飛ばせば、魔法の使う回数は減るはずである。
深雪は3回魔法を発動し、わずか3秒でこの実習をクリアした。
準決勝の憧も末原も和了る数は多かったのに稼ぎ負けたのは、点数が低かったからであり、魔法の発動は早かったのに弾を飛ばす数で負けるという、この世界でも咲原作通りに神依が破られるという面がある。
深雪が私に勝ったことにより、実習場がざわめく。この場にいる人で私が深雪に負けたことを見たことあるのは、ほのかだけだ。一高では私の不敗神話が流れていたのだが、それは破られることとなった。
「深雪やるわね…」
「お姉様めちゃめちゃ悔しそうですね」
今回、深雪相手に初めて二重神依を発動したのに一発で負けてしまった。とても悔しい。
私たちはもう既に目標タイムをクリアしたので授業の課題は終わりだ。あとはまだクリアしていない人の邪魔をしない程度なら自由に過ごしていいのだが、悔しいのである提案をする。
「深雪、参考記録でいいからもう一回やらしてくれないかしら?」
私に勝って嬉しそうな深雪は首を縦に振ってくれる。こうなったら本気だ。順番を待っている間に私は憧を解除し新たな神依をする。
弘世菫
白糸台のシャープシューター(通称SSS)と呼ばれる打ち手であり、打ち方は狙った相手の不要牌に的を絞り、その相手から直撃を取るというものである。
これをこの世界に置き換えると、狙ったところに魔法が飛ぶというものである。
そんな強くない能力と思われるかもしれないが、そんなことはない。この能力は一度目標の方向に目を向ければ、目標をイメージするだけで勝手に魔法が自動的に飛んでいくのだ。例でいうと昨年のモノリスコード。咲は遠距離魔法で相手選手を射抜いたが、咲の目は達也のような目ではないので、1km先の相手を見ることはできない。しかしこの神依をすることで、相手の選手をイメージし遠距離狙撃を可能としたのだ。
今回の場合でいうと50個の的が目標。
私の順番が来て計測開始の音がなると、私は50個のゴム弾を私の魔法の支配下に置く。その瞬間、ゴム弾がそれぞれ50個の的に向けて飛び立った。
計測終了のブザーがなる。タイムは0.78秒。弾を飛ぶ速さを突き詰めればもっと早くできそうだ。
「咲…それずるいよ…」
「お姉様、それは反則です…」
私の魔法を見たほのかと深雪がそう言ってくる。私と深雪は簡単にできるが、複数の対象を狙って魔法を放つのは高等技術である。深雪でも18が限界であり、達也は30前後。普段の私は16、神依しても正面にあるものしか狙えない。
確かにずると言われればずるであろう。
会場全体が驚いている中で琢磨が馬鹿にしたような目で自分を一瞥し、会場から出て行くのを咲は視界の隅で捉えていた。
毎年新入生総代がメンバー入りする生徒会には入試次席の泉美を迎え入れることに決定した。新入生総代の琢磨は服部の推薦により、部活連の所属となった。本人も部活で鍛えたいと言っていたし妥当な人選であろう。
香澄は教職員推薦で風紀委員会入りした。
多少のアクシデントがあったが、大きすぎる問題は特になく、あの時期がやってきた。
そう新入部員勧誘週間である。(今年は平和ですねと呟いたあずさの言葉を去年騒動を起こしたその当事者の咲は聞かなかったことにした)
この時期だけはデモンストレーションのためにCADの携帯が許可されるので、新入生の取り合いで魔法の打ち合いになったり、殴り合いになったりすることは珍しくない。一種の無法地帯だ。
それらの対処に生徒会、部活連、風紀委員会総出で見回りを行う。
騒動は毎年起こるのだが、多少のルール破りが黙認されているのには理由がある。
学校側としては九校戦の戦績を上げてもらいたいという目論見があるから。そのためには魔法系部活に入って、魔法を鍛えてもらうのが一番であるので、新入生の入部率を高めるためにか黙認されているのだ。
そして、クラブ予算も活動実績や大会成績や九校戦の実績により、支給される活動費が左右される。それがあるので、優秀な部員を確保するために成績優秀者を自分の部活に入れたがる。
学校の思惑は成功してると言えるだろう。
新勧初日は珍しいことに大きな問題なく終わった。平和なままで終わって欲しいとあずさは願っていたが、そうは上手くいかないのが新勧である。
二日目、達也と深雪は部活連本部に待機していた。勧誘活動のトラブルが発生した時、実力行使込みで対応するためである。深雪の実力は誰1人として疑う余地のないものであり、達也もモノリスコードなどで実力を証明済みだ。
実力行使といえば咲がいるのだが、咲を本部においておくより、一番トラブルが起きる場所に置いておく方が効果的なのは去年で実証済みなので、昨年と同じ場所で見回りすることになっている。
その咲は文芸部と書かれた看板をベンチに置いて、自分もそのベンチに座り本を読んでいるだけであったが。
そんなのんびりしている咲とは裏腹に、兄妹2人は本部で、ロボ研のガレージでトラブルが発生したとの情報を聞き、現場へ急行した。
達也が争いの原因となった新入生と知り合いだったので、達也が到着したことによりロボ研とバイク部の争いは解決に向かおうとしていたのだが、すでに言い争いは別の人たちによって行われていた。しかも達也と同じ風紀委員会が関係している。達也にとって頭の痛くなる話であった
「ここは既に部活連執行部が対応しているんだ。風紀委員会はもう用はないはずだ」
琢磨のこれが、言い争いの引き金となるものであった。
状況を説明すると、まず最初に部活連執行部の十三束と執行部見習いの琢磨がロボ研のガレージに駆けつけた。その後、少し遅れて風紀委員会の香澄が到着したという状況である。
香澄は琢磨に帰れというような言葉を言われ一瞬怯んだが、同じ一年生ということがわかると好意的ではない声で言い返す。
「生徒同士の争いごとは風紀委員の担当だったはずよ」
香澄がそう言い放ち、琢磨の横を通り過ぎようとする。
「おい待てよ」
すれ違おうとする香澄の腕に琢磨は手を伸ばしたが、その手は何も掴むことはできなかった。香澄はくるりとターンしてその手を躱したのだ。躱した香澄が得意げな表情を浮かべているのを見て琢磨は頭に血を上らせた。
「鬱陶しいなあ、邪魔なんだけど」
香澄の前に回り込んだ琢磨に対して、香澄が心底うざいと思っているような声をあげる。
「ここは部活連が預かると言ったはずだぞ。七草。それとも直接言われないと分からないのか?お前たちの出る幕じゃないと」
「へえー…私のこと知ってたんだ。七宝君」
意味ありげな目を浮かべながら、相手が口を開く前に言葉を続ける。
「それに邪魔者扱いされてるぐらいわかってるよ?だけど風紀委員は部活連の指示に従わなきゃならないことは無いんだ」
香澄は薄ら笑いを浮かべながら、目は挑戦的な光を放っている。
「七草……喧嘩を売っているのか?」
「喧嘩を売るつもりはないよ。買うことはするけど。どうせ勝つのは私だし」
香澄がそう言うと、それを聞いた琢磨は香澄と同じように薄ら笑いを浮かべる。
「あの厨ニ病の会長がいいそうなセリフだな」
「咲先輩のことを悪くいうの許せないんだけど」
香澄は琢磨とは逆に、怒りで顔を赤くする。実は香澄も咲のファンであったのだ。泉美のように外に出して表現することはないが、心の中ではもっと仲良くしたいとは思っているのである。
2人は袖を捲り上げCADを露出させ、臨戦態勢だ。魔法の撃ちあいが始まるかに思われたその時、
「ちょっと待った、落ち着け七宝!」
「香澄。お前も落ち着け」
琢磨は今まで呆然としていた十三束、香澄は同じ風紀委員の達也が抑えた。
「四葉先輩。邪魔しないでください。咲先輩が馬鹿にされたんですよ?」
「香澄が問題起こしたら、お前に咲の雷が落ちると思うぞ。それでもいいなら勝手にしろ」
達也の言葉に香澄は大人しくなる。香澄は入学式のあの一件で咲が怒ったら怖いだろうということを入学式の日に既に感じていたのだ。
「生徒会はこの件を問題にするつもりはありません。風紀委員会と執行部には私が話を通しておきます」
深雪は香澄が大人しくなったのを見てすかさず助け舟を出す。深雪の眉間には青筋が浮かんでいたのだが。
この件を問題にしないと言われ、ロボ研はガレージへと、バイク部は割り当てられた自分たちのテントの場所に戻っていく。
「七宝。喧嘩を売るのは勝手にすればいいが、喧嘩を売る相手を間違えるなよ」
そう達也は言い残し、達也と深雪は部活連本部に帰還していった。
琢磨…喧嘩を売る相手を間違えるなよ…