咲-saki- 四葉編 episode of side-M 作:ホーラ
朝食をとりながら朝の報道番組を見ていると一風変わったニュースが流れた。そのニュースとはアメリカ海軍所属の小型艦船が千葉県沖の日本領海内で漂流していたというニュースだった。これは明らかに本家が手を回したであろう。
それにしても早い。絶対にこの早さは準備をしていた。
その日の夕方、生徒会室の私の元に達也がやってきた。理由は夜間ピクシーを連れ出すために、生徒会長が発行する夜間入校許可証をもらいにきたのだ。これがないと夜間学校に入ることはできない。
私深雪達也で3枚発行したのだが、達也は発行してから私を強制的に家に帰し、残り1枚はほのかに渡した。
ここ最近達也は妙に私に過保護になっており、私をパラサイト関係のメンバーに加えることはなくなった。心配してくれてることは確かであるので家で大人しくしておいた。
翌日、達也と深雪から話を聞くとパラサイトをピクシーでおびき出すことに成功し、パラサイトを確保できそうであったそうなのだが国防軍の邪魔が入ったらしい。達也曰く、面白武器を使う情報部傍諜第三課、七草家の息のかかった部署であるらしい。
達也は七草先輩に封印以外の措置をパラサイトにしないように釘を刺しておくらしい。
しかし悲報が入ったのはその釘を刺した次の日。
『傍諜第三課のスパイ収容施設が襲撃されて、捕まったパラサイトが殺された』
達也に届いた七草先輩のメールにはそう書いてあった。
達也が施設をハッキングして3人で見た映像は私達に衝撃をもたらした。
その内容とは、真紅の髪の少女が次々と施設に捉えられたパラサイトを寄生していると思われる人間を殺していく。明らかに「中身」のことを無視した殺害行動。「容器」を壊すことだけを目的とした、それは処刑であった。
「あれは…リーナですか?」
深雪は私と達也からパレードのことを教えてある。あのよくない画質の映像でリーナとわかったらしい。
「そうね」
暗殺は私もよくやるが、進んでやりたいものではない。命令があるか私の信念に反する時以外はあまりやりたくない仕事だ。
どうみてもリーナには暗殺者の適性がない。それは深雪と達也も同じ意見のようだ。
このまま1日、暗い気持ちで過ごすことになりそうであったが、それを吹き飛ばすよりショッキングなことが直後に起きた。
達也がハッキングしていたモニターに別の映像が浮かび上がったのだ。モニターに映っていたのは金髪碧眼の青年であった。
『ハローハロー、聞こえてる?たぶん聞こえてるだろうし、聞こえてる前提で話させてもらうけど』
こちらにマイクやカメラはない。向こうには聞こえてるかどうか確かめるすべはないのだ。
『自己紹介をしよう。僕の名はレイモンド・セイジ・クラーク。「七賢人」の1人だよ』
元素記号を覚えるときのクラークという名前の人が本当にいるのかと私はずっと思っていたので少し驚いた。でもよく考えると「少年よ、大志を抱け」で有名なクラーク博士がいたことに気づく。
「七賢人か…」
達也と深雪は違うことに驚いているようであった。そういやリーナがこの前そんなこと言ってた気がする。
レイモンドが言うには七賢人はフリズスキャルヴというものを使える7人のオペレーターのことらしい。そしてその7人はフリズスキャルヴのシステム自身が選び、選ばれた人は完全にランダムのようだ。
フリズスキャルヴの説明でなんか難しいことを言っていたが、まあ簡単にいうと全世界のネットワークを一度でも介した全ての情報をググることができるシステムらしい。
この世界ではネットワークが発達しているので一度もネットワークを通らない情報などほとんどないと言っていい。なので全て、例えば軍の秘密文書だって手に入れることができるのだ。チートやチーターやそんなん。
『明日、そちらでは2月19日の夜、第一高校の裏手の演習場に活動中のパラサイトが集まる。そこで殲滅してもらいたい。この情報はシリウスにもつたえてある。協力するかしないかは君たち次第だ』
そんなことも調べれるのか。検索の領域を大きく超えてるように思える。
『期待しているよ。戦略級魔法師「破壊神(ザ・デストロイ)」と神の力を使う者「女神(ヴィーナス)」』
そう最後に言い残しモニターが暗くなった。
深雪が大きく息を吐いた。それほど気を詰めていたらしい。
「お兄様、どうしますか」
「行くしかないだろう」
罠かもしれないが、この吸血鬼事件解決の手がかりになるなら行くしかない。私は達也の新しいあだ名「破壊神」の大袈裟なニックネームに笑いをこらえながらそう思った。
次の日の夜、また私は達也に留守番を言いつけられた。理由はパラサイトはもともと一体であり、パラサイトが集まるということは一つに戻ろうとしているということ。だからパラサイトを持っている私は危ないとのことだった。
私のパラサイトは霞さんを神依してない間はパラサイトを持っていないのだが、それを説明しても達也の許可を取れなかった。
ここ最近の達也は私を過保護に守りすぎである。ここまで守られるほど私は弱くない。
それに逆だ。私は達也たちを守らなくてはいけない。三年前のようなことを引き起こしてはならない。私は神の力を使うのだから魔法に関しては完璧でなければならない。
達也に背き、家を抜け出して学校へ私は来ていた。
フェンスを乗り越え精霊で様子を見てみると、達也達は皆無事なようだが、国防軍だろうか。ある一隊が全滅している。他にも亜夜子ちゃん率いる四葉本家のものや老師などもいてカオスな状況となっている。
老師の姿を見て本当は老師に勝負を仕掛けたいが、今日もまた違うなどと言われて勝負を受けてもらえないのは目に見えている。
それに達也達が危ない。そんなことをしてる場合ではないだろう。
達也とリーナと深雪が相手にしているのはヤマタノオロチのように八つの頭を持つ竜のような姿のパラサイトであった。
吉田君がパラサイトの動きを少しの間封じ、達也は自分の目を介して深雪にパラサイトを見せ、深雪は自身の精神干渉魔法「コキュートス」を放つ。精神そのものに作用する深雪の魔法は霊子全体を凍りつかせるかと思ったが、あと少しのところでパラサイトが分裂し半分しか凍らせられなかった。
「なんだと!?」
「任せて」
達也の驚く声に合わせ、私もコキュートスを放つ。深雪を膝枕していた甲斐があった。
私の放ったコキュートスは分裂したばかりでスタンが入っていたのかもしれない、動きが鈍いパラサイトに直撃し、器を持たないそれは粉々に砕けて虚空に散った。
「お姉様!?」
「はろー深雪、詰めが甘いわよ」
深雪は私が来たことに驚いているようであり目を丸くしている。リーナは私と深雪が使った魔法に衝撃を受けているようだ。
達也はどうか確かめようと達也の方に目を向けようとしたその時、私の頰に鋭い痛みが走る。私が達也に頬を叩かれたのだと気づいたのはその3秒後であった。