咲-saki- 四葉編 episode of side-M 作:ホーラ
森の奥に潜んでいたバックアップチームを殲滅し、リーナを移動中継車に運んで来た時にはもう既にバックアップチームは影も形もなかった。精霊で見回すと何者か気配を殺して潜んでいる監視者がいるが、達也も私も気づかないふりを通す。
「達也、次は何をする」
「叔母上に連絡だ、俺の車に向かうぞ」
達也の車には厳重に暗号化されている本家と通じる音声通信回線がある。それで連絡するのであろう。
『咲様、達也様。どうかいたしましたか?』
「葉山、大義。母君はいるか?」
『奥様はあいにく電話口に出られないご用の最中でいらっしゃいます』
「それは失礼をした」
この時間であれば入浴中であろうか。
『謝罪には及びません。咲様からの電話と聞いたら奥様は泣いて喜びます。それでご用件がおありなのでしょうか?』
確かに、母は珍しい私からの電話があったなら喜びそうだ。
本家に頼るのはあんまり好きではないが今回は横浜の時のようなゴリ押しでどうにかなる状況ではない。
「実は咲が先ほど、USNAの小部隊より攻撃を受けました。第1波は咲がすぐ撃退しましたが、第2波としてアンジーシリウスの攻撃がありまして…」
達也が私の代わりに説明してくれる。確かにこういうことは衣と私には向いていない。
葉山さんがいうには先ほど私たちを監視していたのは七草家の息のかかった国防軍らしい。米軍の件とその件も葉山さんはどうにかしてくれると約束してくれた。葉山さんの約束であるからば大丈夫であるだろう。
四葉家の魔法師は人数こそ少ないが、皆一騎当千の力を持っている。今年は私の加護でさらにそれが強化されている。米軍や七草家や国防軍相手だとしても問題ないであろう。
衣を神依しているので大丈夫なはずだが、念のため達也と一緒にいることとなり、深雪を私も迎えに行く。
私と顔を合わせた瞬間、深雪は怪訝そうな目を私に向けただけだったが、車に乗り込み走り出したところで私にすがりついてきた。
「お姉様、お怪我はありませんかっ?」
「深雪少し落ち着け」
「落ち着いてなどいられません!この臭い…お姉様、リーナと戦われましたね。しかも1vs1ではなく10人以上と交戦された臭いです!」
私と達也は情報を視覚で捉えるが、深雪は触覚で捉える。それに加え、深雪は嗅覚で捉えることもある。焼け飛んだ腕の服も治してるし戦いの痕跡はないはずだが、感じ取られてしまったようだ。
「ミユキ、衣が敗衄するようなことがあると思うか?」
いつもと違う調子で私が言うと深雪はやっと私の神依を感じ取ったようだ。今まで感じ取っていないとはよほど慌てていたのだろう。
「申し訳ございません。お見苦しいところをお見せしました…」
深雪は言葉だけではなく恥ずかしそうに縮こまってしまった。そのサポートに達也が入る。
「でも、咲。腕が吹っ飛んでいたのは事実だろう?どうやって治したんだ?」
「それは密か事だ。咲から言うなと言われているしな」
衣が私との約束を守ってくれた。これからは実戦でも、少しずつ衣を使っていってもいいかもしれない。
「お姉様とお兄様には誰も世界中で勝てないということも承知しております。お姉様とお兄様は不死身のコンビですから」
「衣はミユキには敗衄していないが、咲は何度かミユキに敗滅しているし、タツヤには場の支配が打ち破られ相性が悪い」
「俺は再生分解だけだからな。汎用性は咲や深雪に比べてずっと低いさ」
3人で最強キャラを決めるスレのように不毛な話をしながら帰宅した。