咲-saki- 四葉編 episode of side-M   作:ホーラ

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難産だった…

初のサブタイ三文字。バレンタインデーの当て字らしいです。


第55局[情人節]

翌日、リーナは学校を休んだ。パラサイトの宿主だった女性と知り合いだったらしいので、大使館かどこかで尋問を受けてるのかも知れない。

私は昨日の夜パラサイトから情報を聞き出そうとしたが失敗に終わった。パラサイトと私たちの言語は当然違うので、会話ができないのだ。パラサイトは寄生してその人を喋らすことによって会話を可能にしている。私に寄生させるのは流石にリスクが高すぎるので困りどころであった。

 

 

 

2月上旬、凶報が太平洋の向こう、USNAから舞い込んだ

 

「お兄様お姉様これは…」

「雫と同じ情報ね」

「そうだな」

 

凶報はしばらく前に雫がUSNAから教えてたものと酷似していた。そのニュースは政府関係者の内部告発という体であった。

合衆国は朝鮮半島で使用された秘密兵器にたいこうする手段の開発を魔法師に命じた。それに対し、魔法師たちは科学者たちの反対を押し切りマイクロブラックホールの生成実験を強行。異次元からデーモンを呼び寄せ使役し、対抗しようとしたが暴走。

巷間を騒がせている吸血鬼事件はこれが原因らしい。

 

USNAは私のように神依のようなことがしたかったのか。これは爽と神代のイメージがないと無理なのになあと考えているとこれは魔法師排斥が本音らしい。魔女狩りみたいなものだろう。

 

達也は電話コンソールに手を伸ばしかけたがやめた。その相手は全面的に頼れる人ではないのだろう。

 

 

 

朝、私たちはリーナを待ち伏せしていた。来る時間も私の未来視によりわかっている。改札口から出て来たリーナは私と達也がいるのを見て脱兎の如く逃げ出す。

 

「おはようリーナ」

 

それは三歩で失敗に終わったのだが。

 

「人の顔みて逃げ出すなんて酷いわねリーナ」

「ア、ア、アハハ」

 

リーナは笑って誤魔化すようにしたようだ。

 

達也がリーナに話を聞くとどうやら肝心なところは全部嘘っぱちらしい。逆に言うと表面的なところは事実なのだ。

よくある情報操作の典型的なものである。

そんな機密なものを外部の人間から調べられるのか聞いてみるとどうやら「七賢人」という組織らしい。

その組織はUSNA国内の組織なのだそうだが、尻尾は掴めないらしい。組織版ステルスモモみたいなものか。

当然アメリカ側も吸血鬼のことは意図してやったものではないらしく、もし意図したものだったらリーナは許さないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

前世もこの世界も変わらない文化は多い。その一つが明日のバレンタインデーだ。

バレンタインデーを明日に控え、浮ついた空気に包まれる。もちろんその空気は生徒会室にも来ていた。

 

「……光井さん、今日はもう上がってもらっても大丈夫ですよ」

 

先ほどからビープ音が鳴り響いている。ほのかを心配して中条先輩は声をかけたのであった。

 

「ホノカ、貴女は今日帰った方がいいわ」

 

こう主張したのは臨時役員に収まったリーナ。私たちに正体を知られているのに大胆であるが、私を観察するにちょうどいい場所におさまっているので、上からの命令なのかも知れない。

ほのかは気丈に振る舞っていたが最後に深雪に諭されて帰っていった。達也にチョコを作るためであろう。あの様子じゃ明日もかなり緊張していそうだ。

 

「深雪さんは四葉君に渡すとして、咲さんは誰に渡すんですか?」

 

中条先輩は珍しくゴシップ的な話題を振ってくる。

 

「私は面倒くさいので渡さないですね…」

 

渡すのが面倒なのではなく、その後のお礼を言われるのに拘束されるのが面倒くさいのだ。誰かがサンタさんみたいに配ってくれるなら作ってもいいのだが。あと家のことや婚約のしがらみもあるしこういったイベント一つでも面倒くさいことが多い。それを含めてのさっきの言葉であった。

 

「まあ、咲さんは貰う側なんじゃないですか?明日は大きいバック持って来た方がいいよ」

 

私は五十里先輩の意見に溜息を小さくついてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室では渡さないと言ったが、お世話になっている何人かの人には、渡そうと思っている。深雪と達也が寝静まったあと、静かにキッチンに降り、今日の準備を始めた。使うのはある神の神依だ。

 

 

 

 

翌朝、深雪と達也が八雲の寺に行くことになっていたので、深雪に私の分も持たせた。深雪は私が作ったことにびっくりしているようであったが、持って行ってくれる。

本を読みながら1人で留守番していると本家から電話が鳴った。

 

「サキーーー!ハッピーバレンタインデーーー!!」

「………」

 

母だ。この調子なのを見ると、今達也と深雪がいないことはお見通しなのだろう。その諜報能力は別のことに活かしてほしい

 

「私からサキへの分は学校で貰ってね、渡しといたから」

「塩釜先輩から貰えということですね。わかりました」

「それでサキから私への分は?」

「(そんなもの)ないです」

 

私の回答を聞くと、母は末原さんのカタカタと安福の戦犯顔を同時に行う、奇跡の融合を果たした。

 

「……それなら、ホワイトデーにお返ししますよ」

「ホント!?楽しみにしてるわね!」

 

打って変わってピョンピョン跳ねて喜ぶ母は若く見えるが、年を考えてほしい。

 

「それと今、魔法協会はチョコの洪水のようよ。咲さん宛てのチョコが大量に集まってるらしくて、近くの空きビルを保管のために使ってるらしいわ。だけどもうそこの空き部屋もパンパンだそうよ」

「……………」

 

再び閉口してしまう。ビルが一杯になるぐらいってどんな量が送られてきたんだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも通り3人で登校し、学校の最寄り駅で降りると、急に包囲されてしまった。

 

「会長受け取って下さい」

「咲さん、これ受け取って」

「会長」

 

その集団が立ち去ると腕の中には大量のチョコの山ができていた。

 

「お姉様、大人気ですね」

 

深雪の機嫌が悪くなる。深雪は私が取られると思い嫉妬してくれてるのだろう。

貰ったチョコをバックに入れ、度重なる強襲にあいながらも学校に進んでいくと途中でほのかと合流した。

 

「ちょっと深雪、チョコ入れるの手伝ってくれないかしら。達也さんとほのかは先に行っといていいわ」

 

ほのかは達也にチョコを渡しにきたのだろう。ここに私たちがいても邪魔なはずだ。深雪もそれを感じ取ったようで私の考えに乗ってくれた。少し不満そうではあったが。

 

 

教室で待ち伏せしている人たちからもチョコを貰い、少しひと段落して席に着く。

 

「咲〜相変わらず人気者だね〜」

「まあそれなりに…ありがたいことではあるけどもね」

「咲は誰かに作ってきたの?」

「作ってないわね」

 

立場上渡せないことがわかっているのだろう。エイミィは余計な詮索はせずにいてくれた。

 

昼には塩釜先輩と会い、自分の分と母のを渡してきた。塩釜先輩のチョコは手作りであったが、母のは買ったものであった。母が送ってきたものは調べてみると、一粒1000円を越す超高級チョコであり、驚き呆れてしまったのはいうでまでもない。

 

 

達也もかなりの数のチョコを貰ったようで、深雪の機嫌が懸念されたが、家に着くとまずやったことは、私たちのチョコを冷蔵庫に放り込んだだけの冷静な対応であってホッとした。

 

深雪にご飯まで部屋で待っとくようにと言われて待つこと1時間、深雪が作ったのは夕食にチョコを使った料理であった。これなら私と達也の口に確実に入る。

 

「もうチョコはいらないかもしれないけど、私からの変わり種を2人にプレゼント」

「珍しいものを…」

「とても美味しいです、流石ですお姉様」

 

私が2人に渡したのはチョコ大福であった。

これを作った時に神依したキャラは高鴨穏乃。実家は和菓子屋さんなのでチョコ大福となったのだ。本当はキャップを使いたかったが、バレンタインとキャップの組み合わせはなんだか恐ろしかったので、ボツになったのだ。

変わり種だったが、意外と2人に高評価で嬉しく思い、顔を綻ばせ今年のバレンタインは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 




本当に大変だった…キンクリするべきだったかなあ

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