咲-saki- 四葉編 episode of side-M 作:ホーラ
第46局[類似]
西暦2095年も残り1ヶ月。
残り1ヶ月しかないと思うかまだ1ヶ月もあると思うか人それぞれであったが咲達はまだ1ヶ月もあるの方であった。
「何言ってるか意味訳わかんねえ!」
「うるさい、叫ぶな!」
「なんでこれは無理と言われてるのかしら。……ほらイメージしたらできるじゃない」
「咲意味わかんない」
前世もこの世界も共通の天敵、定期試験が近づいているからである。
いつものメンバー9人が集まっているのは雫の屋敷である。集まっているのは勉強会のためであった。
勉強会と言っても筆記試験はレオ以外成績優秀者、レオも普通なだけで基礎魔法理論の科目だけにおいては私がダンラスの順位であった。
「咲さんはなんで基礎魔法理論だけできないのですか?」
「私にとっては魔法はイメージなのよ。イメージ出来なければ出来ないし、イメージ出来たら固有魔法のような特殊な例外以外は基本出来るわ。だから基礎魔法理論は苦手なの」
「精霊魔法を一生かかっても出来るかどうかわからないレベルまで、週2のペースで3ヶ月修行するだけで出来るようになった咲さんが言うと説得力あるよ…」
時々奇声が上がったり私が呆れられたりすることがあるが、和やかなお茶会であった。雫がある話題を投下するまでは。
「え?雫、もう一度お願い」
「実はUSNAに留学することになった」
聞き返したほのかに雫が同じ調子で返す。雫は成績優良者だ。前の世界では優れた生徒はハーバードやマサチューセッツ大などに留学するなどよくあった話だ。流石雫と思っていると達也達は驚いていた。
そういえばこの世界は戦争中であり、魔法師の遺伝子の流出を避けるために魔法師は海外渡航を実質禁止していたということを思い出す。
雫は3ヶ月の交換留学だから許されたと言っていたのでそれなら許されそうだと思ったが、達也の顔には何か裏があるだろうと考えているのが見える。難しいことは神依をしないとさっぱりなので、この件は達也に任せることにした。
数日後、雫の送別会をしたあと、家でその話題が出た。深雪も不審に思っているようだ。私も不審に思っている振りをしておこう。
「俺のマテリアルバーストと咲の神依。やはり放って置けないのだろうな」
「そうですか。お兄様もそうお考えなのですね」
「留学生が来ると言うだけならともかく、この前咲の元にきた叔母上の忠告を合わせれば偶然と考えるのは咲ぐらいだろう」
げっ、バレてた。池田も部長と咲の牌譜見てたまたまだし。と不審に思うことなく言っていたので、もしかして私の知能は池田レベルなのかもしれない。
「まあ何かあってもどうにかしてくれるだろう。咲が」
「そうですね、相手が誰であれ正面から叩き潰しそうですよね。お姉様が」
「他人頼みは良くないわよ2人とも」
2人してニヤリと笑ってこちらを見てくるので、ため息をつきながら答えた。
アンジーシリウスことアンジェリーナシリウス少佐は同朋の処刑を終え、自室に戻りしばらくすると部屋にカノープス少佐が訪れてきた。どうやら特殊任務の見送りにきたらしい。
カノープスは因果な任務は忘れて羽を伸ばしてきてくださいと言っていたが、その言葉を言われた少女は唇を尖らせた。
シリウス少佐は年が変わると開始される特別任務が憂鬱であったのだ。
1つ目は容疑者が戦略級魔法師かどうか探り出せというものだ。担当する容疑者は四葉咲、四葉達也、四葉深雪であり、全員あの四葉である。四葉はすでに1人戦略級魔法師がおり、可能性は十分高いと情報部から言われている。たぶんこれだけでも羽を伸ばせる状況ではない。
2つ目は情報部が人工衛星で観測した特殊な能力を持つ容疑者の1人四葉咲の監視である。もしUSNAに対して脅威となるならば、拉致や暗殺も許されている。
四葉は親族を殺されたことにより大亜連合の前の国を滅ぼしアンタッチャブルと言われている。さらにその力が伸び、今は同盟国だが日本と敵対するようになる前に早いとこ芽を摘もうということなのだろう。もし暗殺や拉致が成功した場合、全員即刻引き上げ四葉と一戦を構えることになっている。
これらの理由から諜報力より戦闘力が重要視され戦略級魔法師の1人でもあり、スターズの総隊長のシリウス少佐が日本に乗り込むことになったのだ。慣れない諜報活動をさせられるのは不服なのだろう。
笑顔でいってらっしゃいと見送るカノープスに、少女は笑顔を無理やり作って答礼した。
西暦2096年の元旦を深雪と達也はいつも通り"2人"で迎えた。なぜ咲がいないかというと毎年咲は本家に神儀を行いに帰省しているからである。
2人は皆と待ち合わせしている場所に向かう。
「わっ、深雪さん綺麗ですね!」
「ありがとう美月」
達也と深雪を出迎えた第一声がこれであった。深雪と同じ振袖姿のほのかは少し深雪の姿に圧倒されたようだ。
「達也もあけましておめでとう」
「よく似合ってるぜ達也、どこの若頭なんだって貫禄だ」
「俺はヤクザではないぞ」
達也の貫禄は確かに10代のものではなかった。実際四葉は魔法界の公的ヤクザみたいなものなのだが、誰も達也の言葉を否定する人はいなかった
「というか幹比古とエリカよく来れたな」
「四葉の名出したらそんなの一発よ、咲に婚約を申し込んでる千葉家としても達也君達と仲良くしときたいんでしょ」
「僕の方もそんな感じ。肝心の咲さんはいないけど」
ここにはいないが咲の力のおかげのようだ。
そんな話をしながら拝殿前の中庭に入ると不意に視線を感じた。ジロジロと見る視線ではなくチラチラと窺い見るような視線。
その相手は金髪碧眼の若い女性であった。
「お兄様何をご覧になっていらっしゃるのですか?」
達也がその女性を観察したのは1秒未満であったのに深雪はそれに気づいた。咲は当然気づかないだろうが、深雪は達也の視線に敏感なのだ。
兄の視線をたどり対象を発見した深雪は、怒ったような不思議なものを見るような目で見る。
「いくらお姉様に似ていて綺麗だからって見とれていたら、お姉様が嫉妬なさいますよ」
そう、その女の子はどこか咲に似ていたのだ。同じく金髪ロングで綺麗で美人であるだけではなく、もっとこう脳筋のような雰囲気が…。
「まあ咲があの格好するわけがないがな」
彼女が着ていたファッションは戦前のギャル系ファッションを適当に混ぜ合わせたような姿。咲は派手な服装はあまり好まず落ち着いた露出の少ない服を好むので、咲のあんな姿を一生見ることは出来ないだろう。
「そうですね、ですがそれだけではないですよね?」
そんな上部だけのことで達也が気にかけないことを知っている。
それを察知したのかもしれない。少女は達也達の方へ歩み始め、何も言わずすれ違い長い階段へ去っていく。
すれ違いざまに意味ありげな目を向けてきたのは目の錯覚ではないはずだ。
シリウス少佐は容疑者とファーストコンタクトを終え生活拠点となるマンションのドアを開ける
「ハローディア(おかえりなさい)、リーナ」
同居人はまだ帰っていないと思っていたが予想に反して中から声がした。リーナとはシリウス少佐の私的な愛称である。
「ただいま、シルヴィ。容疑者のファーストコンタクトは上々、ただ四葉咲はいなかったわ」
シルヴィは私の言葉を聞いていないようでただ棒立ちであった。何か呆れたような目で見ている気もする。
「シルヴィ?」
「リーナ…なんですかそのファッション…」
目立たないようにするためにいろいろ大変だったが、過去一世紀の日本のファッションを調べたということを述べる。シルヴィはこめかみをおさえていた。
「リーナそのファッションはアウトオブデート(時代遅れ)です。私がトレンドなファッションを今日1日ティチャーしましょう」
リーナは一日中苦手なファッションの話を聞くこととなった。
シルヴィの喋り方を戒能プロみたいにしたけど、どちらかというとこれルー大柴だな…
金髪ロング脳筋の咲+ポンコツ=リーナ