咲-saki- 四葉編 episode of side-M 作:ホーラ
九校戦5日目
今日の種目はクラウドボールとアイスピラーズ予選、私と深雪が出る競技だ。
試合前、私は数の子を食べていると、私が優勝候補なのと深雪の試合がまだなのもあって、渡辺先輩と七草先輩が駆けつけてくれた。
「紺のロングスカートなのね、珍しいわ」
「私は魔法オンリーでそんなに動かないので」
クラウドボールも実は服装は自由だ。しかし、普通は動き回るので半ズボン、ボールが当たった時のためにプロテクターを付けるのが一般的だ。七草先輩のように短いスコートや私のような動きにくいロングスカートの方が稀である。
「今日は本気出すのか?」
昨日のバトルボードの試合をみた渡辺先輩に聞かれる。
「ええ、今日は3種類の技見せますので楽しみにしてて下さい」
この競技はイメージしやすかった。なんたって似たような競技が前世にもあったからである。しかもこの競技にぴったりなそっくりな漫画も。
「達也君や深雪さんが見にこれなくて残念ね」
「残念ですけど仕方がないでしょう、深雪は試合、達也さんは調整で忙しいと思いますから、一回戦目は私が試合してるってことはすぐわかると思いますが」
「ん?どういうことだ」
「まあ楽しみにしてて下さい」
試合開始時間が近づいてきて各選手がコートに立ち始めたが、咲はまだ立っていなかった。真由美達は何をやっているんだ咲は、と思ったその時、突然咲の近くに強風が起こった。咲は手に持っていた日傘を使いその風に乗って空中に飛び上がった。そのまま日傘をパラシュートのように使いコートに降りていく。咲がコートに降りると会場が一気に沸き立った。
「あらあら、すごいパフォーマンスね」
「相手完全に呑まれてるぞ、流石にこれは相手に同情する」
「咲さんはあのパフォーマンスのためにあの術式入れてたんですね…なんで入れてるのか教えてくれなかったのはこのためですか…」
梓は少し落ち込んでいたが、このパフォーマンスをやることで相手に与えるプレッシャーは相当なものだろう。
「咲はどんな戦法取るんだ?」
「それが私にも教えてくれなくて咲さん一人で全部やっちゃったんですよ、練習も一回見学に来ただけで、このルールなら大丈夫、って言ってバトルボードの方に向かっちゃいました」
普通なら馬鹿げた話でちゃんと練習しろというところだが、それをやっているのは咲だ。咲はそれほどクラウドボールに自信があるのであろう。真由美は父親からクラウドボールで対戦したとは聞いていないが、もしかしたら対戦したのかもしれない。そう思えるほどの自信であった。
試合が開始されると同時に咲は歌い出した。その歌声が咲の声を大きくする振動魔法により会場中に響き渡る。しかしそれも大きすぎるわけではなくちょうどいい大きさ。しかもそれがこの会場だけではなく九校戦全体で起こった。
アイスピラーズブレイクの会場で準備をしている達也達は突然咲の歌声が聞こえて顔を上げた。咲はクラウドボールの試合のはずであるからここにいるはずがない。
「お兄様!」
深雪がモニターを見てこちらに呼びかけてくる。映っていたのはクラウドボールのコートで歌う咲であった。咲は周囲に風を起こし歌いながら軽やかに舞っていた。そこは魔法競技の会場ではなくミュージカルさながらであるように見える。会場の観客を映すモニターでは観客の目は咲の姿に、耳は咲の歌声の虜になっているようだ。
「お兄様…これは?」
「いいや俺も知らない」
見たところ歌を歌うと魔法力が上がるぐらいしか想像がつかない。しかも九校戦会場中に響かせるぐらいの大規模魔法を使ってもサイオンが枯渇する様子など感じ取ることはできない。どれほど強力な神依なのかも想像できないほどの力だ。これが咲の本気ということを達也は肌で感じた。
第1セットは咲が全ての打球を相手コートに全て一撃で沈め確保した。
1セット目が終わると咲は歌うのをやめ、会場にお辞儀した。それを境に会場全体が拍手に包まれる。クラウドボールの競技ではあり得ない光景だ。咲は完全に歌声と舞だけで会場全体を掌握してしまった。精神干渉系魔法もびっくりである。
「なんだ、あれは…」
「綺麗な歌声ね、咲さんあんな歌うまいなんて…」
「真由美お前何を見ていたんだ?咲のボールを返した魔法を見てないのか」
真由美はモニターの咲の舞しか見ておらず、魔法を見ていなかった。仕方がないことかもしれない。咲のコートにはボールが映っていなかったからだ。
「中条、何か聞いているか?」
「咲さんは一二回戦は移動系と収束放出系の合成魔法"音速弾"で戦うと言っていましたが、どんな魔法かまではわからないです。作ったであろう四葉君に聞くか咲さんに直接聞くしかないと思いますね」
「まあ2セット目をしっかり見ればいいことだ」
しかし2セット目は相手がサイオン枯渇+心が折れたことにより棄権し、行われることはなかった。
今回の大規模範囲系振動魔法は老師の挑発への返答だ。まず老師が使った範囲系魔法を使いつつ勝つ。私にもその程度の魔法はできるぞという返答である。これがクラウドボールで一番最初にやりたいことであった。老師がどこにいるかわからなかったので九校戦全体を定義したのだが、二回戦はこの会場だけにするつもりだ。
私がボールを返すのに使った魔法は
「音速弾」
まず、相手の撃ってきた球や射出機から出てきた球を移動魔法で停止させる。そこから相手に当たらない位置に発射するためにボールが通る大きさの真空チューブを作る。そして真空チューブを作る過程で押しのけられた空気を利用し偏移解放で発射する。発射された球は普通の偏移解放よりも真空チューブ内で発射されるので速い速度で発射され敵のコートに向かうというわけだ。
なんでこんな面倒くさい術式を使うかというと理由は二つある。
一つ目は1.2回戦レベルなら単純に速い球でも得点を取れるだろうという考えだ。もし見えても魔法の発動が間に合わなければ意味がない。勝負ごとは相手にやりたいことをさせずに自分がやりたいことをして勝つ。それが一番勝率が高い行動だと知っていた。
二つ目は風で相手を吹っ飛ばしてしまってしまい、反則負けにならないようにだ。今の私は「風神」の神依をしているので収束放出系魔法と風の精霊の強化が起こっている。なのでどうしても風系の魔法を使いたかったので真空チューブで敵に当たらないようにするという一つ工程が増えたのであった。面倒くさい術式だが今の私には単一工程魔法と同じぐらい楽であった。
次は二回戦、早く二回戦も終わらして着替えないと。
二回戦も咲の蹂躙であった。咲の使った魔法は移動系収束放出系というヒントからだいたいの工程はわかったが、なぜこんな面倒くさい術式使うかわからなかった。しかも大規模範囲系振動魔法とのマルチキャストでだ。こんな力があるなら単一工程の魔法でも勝てるだろう。
「咲さんは何か意味があってこの魔法を使っているんじゃないかしら。例えば大きな声で歌うと強くなるとか?」
「あの歌に意味がないとは考えづらい、真由美の意見も一理あるな」
二回戦が終わった咲は急いでお手洗いや更衣室の方に向かって行った。二回戦も1セット目で相手の心をへし折り勝利していたので時間はあるがよほど我慢していたのかもしれない。
三回戦試合開始5分前咲はお手洗いの方向から戻ってきた。しかし先程のようにロングスカートの日傘スタイルではなく、髪を一つにまとめ結い上げて半袖半ズボンの格好で今度はラケットを持っていた。それはさながら中性的な美少年のようである。さらに面白いことに瞳は左が赤色、右が青色に変わっていた
咲が右手を上げ、指を鳴らすと魔法が発動する。
\勝つのは氷帝!/\勝者は四葉!/\勝つのは氷帝!/\勝者は四葉!/
その大合唱が会場中から響いた。咲の魔法だ。1.2回戦と咲に魅せられていた観客は自然とその大合唱を口ずさみ、そしてそのうち魔法よりも会場の観客の声の方が大きくなった。
再び右手を上げ指を鳴らすと最初に発動した魔法が消え、それと共に消音魔法が発動され会場全体が静かになる。
「勝つのはこの俺だ」
消音魔法を解除すると黄色い悲鳴が上がる。先程まではミュージカルで歌う神のように綺麗な歌手だったのに、今は劇団四季で活躍するような男装した美少年のような姿。このギャップに会場の女性は落とされたのであった。まあすでに歌手の時点で男女と共に堕ちていたのだが
三回戦が開始される。今度は先程のように咲は歌わない。観客は少しがっかりしたようだったが、次の一連の光景を見て驚愕に置き換わった。
「ほうら凍れ」
咲がそう言った瞬間、相手のコートに小さい氷柱が突き刺さった。
「その氷柱一つ一つがてめえの弱点だ」
咲は相手が打った打球を全て単一工程魔法で、それほど早くない速さで氷柱の位置に返す。観客の誰もがこれは返せるだろと思ったが、相手選手は一歩も動くことができなかった。
咲はそれを繰り返す。相手選手も必死に動こうとしているが体が反応できないようだ。
1セット目残り10秒となり、咲がまた返球すると今度は1球だけ氷柱ではなく普通にバウンドした。しかし相手選手は疲労したのか動けないようで、地面にバウンドしたボールは相手選手の特化型CADにあたりCADを落としてしまう。
そしてCADに当たって跳ね返ったボールは咲のコートに山なりに返っていく。
「破滅への輪舞曲だ、踊ってもらうぜ」
ラケットで打ったボールは返すことができない相手コートに突き刺さった。
「俺様の美技に酔いな」
相手のCADはボールが当たったことにより不具合を起こしていた。咲は三回戦も無失点で突破した。
「なんだ今の咲は…」
「かっこいいわ、咲さん…」
「しっかりしろ真由美!」
「はっ」
今の咲はいつもに比べておかしかった。まあいつもおかしいのだが、いつにも増しておかしかった。あの真由美が咲に見惚れるぐらいだったら観客も当然惚れてしまうだろう。摩利はシュウがいるので魅惑という魔の手から逃れることができたが摩利自身も少し傾きかけるぐらい危なかった。やはり咲は人を引きつける何かがある。
この時もう誰も、相手が不憫だとか氷帝ってなんだよとかすでに考えてなかったのは秘密である。
「出ましたよ、お姉様の女たらしモード」
モニターを見てる深雪は姉の悪口を言ってるようだが顔はニヤニヤを捨てきれていない。見れて嬉しいという顔だ。深雪だって一応女の子である。達也以外にもかっこいいものを見ると一応見惚れることもあるのである。まあ姉だからという点も大きいと思うが。
姉にそれは神依なのかと聞いたことがあるがただのモノマネらしい。男性の神依は一応できるがしないそうだ。
「お兄様、今の神依は」
「ああ、キャップという神だろう。目の色が変わるからわかりやすい神依だ」
キャップもとい福路美穂子
このキャラの能力はいつも閉じてる右目を開けると卓上の全てがわかり癖なども見抜ける。これをこの世界に置き換えると相手の癖や弱点、死角などがわかるという能力になる。
似たような能力に清水谷竜華のゾーンというものがあるがこれも相手の弱点がわかるが癖や死角などはわからない。しかし代わりに体温や呼吸や鼓動などを感じ取れる。今回はモノマネをするために関西弁は使いたくないのと死角を見たかったから、咲はキャップの能力を選んだのだった。
「というか咲今回の勝ち方ひどいな、相手のCADにダメージを与えて勝つなんて」
「かわせなかった方が悪いのではないですか?」
深雪は気づいていない。最後のCADへの攻撃は氷柱がないところへのバウンドだったが、あえて咲が氷柱を置かなかっただけでそこにバウンドされたら死角なので動くことができないということを。
「まあそうだな。また咲の試合が始まったら教えてくれ」
「わかりましたお兄様」
咲も性格が悪い、達也はそう思いCADの調整に戻っていった。
私はとりあえず老師に対してクラウドボールでやりたいことはやった。まず大規模魔法で挨拶の時の魔法の真似をし、意識干渉魔法無しで人々の心を掴む。老師は弱い意識精神干渉系を使って自分の話に取り込んだが、自分はそれ無しでもできるぞという力を見せつけたかったのだった。次の仕込みはバトルボードである。ぶっちゃけもう流しでいいのだが観客も乗ってくれてることだし準決勝はこのまま、決勝の、たぶん愛梨ちゃんとの対決は1.2回戦に戻して戦おう
準決勝のために再び会場に入場すると魔法を使わずともさっき魔法で行なったコールが入った。本当は三回戦で慣れてもらって準決勝でこの状況にしようと思ったのだが案外観客のノリが良くて三回戦は消音魔法を使う羽目になった。今度はどうかなと思いコートにたち右手を上げ指を鳴らす。消音魔法無しでも会場が静かになった。2回目でここまでできるとはすごい。
「勝つのはこの俺だ。」
再び黄色い声が上がる。私はさっきと同じように氷柱の幻影魔法と単一工程魔法で相手を圧倒し最後はCADを不具合にしてまた無失点一セットで勝利した。
私は決勝に向けてまた神依を風神に戻し会場に向かうと同じ一高の里見スバルと会った。クラスは1-Dで九校戦はミラージとクラウドボールにエントリーしている。
「負けちゃったようですね、決勝で会いたかったのに残念だわ…」
愛梨には勝てないだろうとは思っていたが、やはり自分の高校の生徒が負けるのは残念である。
「なあ咲、一色のやつを完膚なきまでに叩き潰してくれないか?」
聞くと愛梨は有名数字付きや名門一族しか認めない人のようである。それは私の信念に反する、ちょっと懲らしめてあげないといけない。
「わかったわ、使おうか迷ってたけど使うわね」
私は新たな神を下ろす。そしてスバルにCADを手渡す
「え?」
「どうやら今の私にはCADは必要ないようです」
決勝は再び日傘スタイルであったが、私が入場すると再びコールがかかった、とりあえず風で決勝のコートまで飛んでいき着地すると同時に右手を上げ指を鳴らす。
「勝つのはこの私」
スカートをつまんで挨拶をするように頭を下げる。再び歓声が沸き起こったのは言うまでもない。
「おい咲、CAD持ってないぞ…」
摩利の一言で会場のモニターで見ているメンバーは慌てる。クラウドボールはスピードとサイオン量が大事な競技である。サイオン量はどうしようもないがCADを持っているか持っていないかはスピードに大きく関わる
「早く持っていってあげなきゃ」
「あ、あの、咲はCADいらないっていって私に手渡してきたんですけど持っていった方がいいでしょうか?」
そこにいたのはクラウドボールで三位を決めた里見スバルがいた
「CADがいらないとかそんなことあるのかしら?」
「古式魔法使いでない限りないな、まあ咲のことだから何かあるのだろう、礼を言うぞ里見」
摩利がそういうと一高メンバーは落ち着きを取り戻し、決勝のスタートを待つモニターの咲を全員で見つめた。
決勝戦がスタートされた
愛梨は移動魔法を得意とする魔法師である、よってボールを移動魔法で打つクラウドボールは咲に勝てる自信を持っていた。咲の一回戦二回戦の球は見えていたし三回戦準決勝の氷柱は自分の死角ということもちゃんと理解していた。
咲が打った打球4球がこちらのコートにくる。速さも普通レベルであり難なく返せるコースだ。バウンド前に返そうとしたが、なぜかうまく魔法がかからず返球するのはバウンド後になってしまった。
「もう貴女の球はネットを超えないわ」
咲が愛梨が打った5球を打ち返しながら言う。
愛梨の球は咲が言う通り4個中1個もネットを超えなかった。次の5球も返したがネットを超えない。
「ファイナルカウンター、ヘカトンケイルの門番」
咲が言った通り3高の選手の打球は一度もネットを超えなかった。上空にあげるロブも急速に落下しネットを超えず咲のポイントとなった。
「どういう仕組みなのかしら?」
「咲の返球はサイオン粒子が周りを囲っている。たぶんあれで魔法がかかりにかくしているのであろう。急速に落下する仕組みは……大亜連合の古式魔法で遅延型術式というやつがあったはずだ、それで相手の返球を落下させていると考えればどうだ?」
摩利の推測に真由美や里見などの他のメンバーは納得したようだった。
第1セットは咲の得点は3高の選手のミスショットだけ、咲は無失点で終わった。
しかし、これまでの相手と違って最後まで戦うようだ。普通ならミスショットしかしてないなら心が折れるはずだがよほど何か消えない炎があるようだ。咲も少し驚いて笑っていた。また何かやるようだ。
2セット目が始まった。咲は再び歌い始めた。観客は聞き惚れているようだが一応優勝が決まるかもしれないセットなので、目を離さないでいる。
咲は1、2回戦同様再び歌いながら舞っていた。咲の返球はさっきと違い、今度はネットを超えるようだが磁石で反発するかのように咲のコートに入らない。咲はCADを持たず舞っているだけでポイントが入っていく。もう既にそこは咲のミュージカルさながらである。
そのまま咲は1セット目と同じように得点は相手のミスショットのみ、咲は無失点で2セット目を取り全てのゲームをパーフェクトでクラウドボールの優勝を飾った。
咲以外のクロスオーバーの解説
全てテニスの王子様の技です
氷の世界
相手の死角を見つけ相手のコートに氷柱を突き刺しそこに打ち込む。その氷柱は死角なので相手は動くことができない。攻略方法は死角をなくす
ヘカトンケイルの門番
ラケットの表面と裏面で二条の回転をかけ返す技。ロブで返してもネットを超えることはない。ファイナルカウンターではなくフィフスカウンターに後半変化したがファイナルカウンターの方がかっこいいのでファイナルカウンターを採用
音速弾
速い球
氷帝
氷の世界を使うキャラがいる学校
今回暴走したのはなんもかんも政府と新井が悪い
今回の神依のキャラ難しいかな?
この世界で魔法で一番大事なものはCAD、それなら麻雀で一番大事な役はと考えればわかるかもしれません