咲-saki- 四葉編 episode of side-M 作:ホーラ
咲と深雪の部屋から出た達也は静かに怒っていた。
達也に残された感情は一つ「深雪と咲を大切に思う感情」だけである
咲があんなに泣くのは初めて見た。咲は優しいが少しイタズラっ子で、時々謎にテンションが上がったりするなど飄々としていて少し感情が捉えづらい。
面倒くさがりやでよくいろいろサボりがちではあるが、他の人のテリトリーに深く入り込まないだけで自分や自分の周りに関係することはこの前のテロリスト一掃のように責任感を持って必ず自分で対処する。達也は咲が何か固い信念を持つように思えた。
咲は今まで能力もありそれでやってこれたのであろうが、今回の事故で割れた、固いものは割れやすい、ダイヤだってそうなのだ。
咲にとっては成長に繋がるかも知れない。しかし咲を泣かしたやつは許さない。
そう覚悟をして部屋に達也は戻った。
九校戦4日目
今日から新人戦が開始される。スケジュールは本戦と同じ順番で行われ、今日はスピードシューティング予選〜決勝とバトルボードの予選が行われる。
私はスピードシューティングの予選を見に来ている。午後から試合なのに大丈夫なのかと突っ込まれるかもしれないが、待ち時間を作って緊張させないようにということらしい(特にほのかに対して)
雫は当然パーフェクトで予選を抜けた。達也が作った能動空中機雷と名付けられた魔法を上手く使いこなしていた。
達也は有効エリア内に何個もの球の魔法範囲を定義し有効エリア内ほとんどを網羅しているようだった。私のと違ってこれなら機材とかを考えずに使える魔法だろう。これハーベストタイムしたら街一個破壊できそうだなあとか危ないことを考えていたが次の競技者が始まったので中断された。次の競技者はエイミィだ
エイミィが使った魔法は硬化魔法と移動魔法。エイミィは狩猟部でありものを動いているものに何か飛ばして射撃するのが得意である。しかしフィールドには空気しかない。七草先輩のようにドライアイス作り出し発射してもいいがいくら射撃が得意だと言っても知覚魔法無しにはパーフェクトは狙いにくい。
そこでとった方法はセオリー通りの的同士をぶつけて壊すという算段だ。
まず最初に飛んで来たクレーを壊さずに移動魔法で空中に制止させる。ある程度溜まったら、それを硬化させ他の的にぶつけるという戦法だ。的同士をぶつける戦法は二つ以上的が飛んでいないとできないが的を硬化することによってぶつける的がなくなることはない。
しかも近くから大きい目標に対して大きいものをぶつけるので外すことも少ない。セオリー通りであるがこれがセオリー通りとしての最終進化系だろう。
この使い方を見て私は壊した的の破片を硬化させ群体制御で操れば後半簡単に的を壊せる魔法をイメージできたが達也に言ったらまた笑われるであろう。
スピードシューティングは予選を皆無事通過し決勝リーグでも他校を圧倒し上位を大きく占める結果となった。午後は1〜4位までを決める試合があるので、もしかしたら1〜3位まで独占するかもしれない。
昼前私とほのかはバトルボードの会場に向かった。途中でエンジニアの中条先輩と会い話すと例年の一年のバトルボード予選はそんなに観客はいないらしいが、今年はほとんど埋まっているらしかった。
「みんな咲を見に来ているんだぞ」
「渡辺先輩、昨日は私の力が至らないばかりですみませんでした」
控え室にその話をしながら入ると昨日怪我をしたはずの渡辺先輩が頭に包帯を巻きながら椅子に座っていた。
「なぜ謝る。お前のおかげで達也くんがすぐ駆けつけることができたし私も後遺症は残らなかった。私の方が感謝したいぐらいだ」
「ありがとうございます、私を見に来ているというより四葉を見にきているということですかね?」
四葉直系魔法師が九校戦に出るのはこれが初、予選といっても注目を集めるだろう。
「お前は自分の容姿を少しでも気にしろ」
私と深雪は魔法界では有名らしい。七草先輩や渡辺先輩のようにファンがいることがわかった。
咲とほのかは準備に向かい控え室は摩利とあずさだけになった
「それで咲は大丈夫なのか?」
「はい、咲さんのCADは完全に上手く調整されていました。私なんかがさわったら逆に崩しちゃうぐらいです」
中条先輩のCAD技術を知っている摩利は少し驚いた。
「まあ咲だったらぶっちぎりで予選を抜けると思うが」
「いいえ、決勝以外はそんなことありませんよと言っていました」
摩利は疑問を覚える。咲の魔法力だったら予選なんて楽勝であろう。なにせ寝てても、十文字や私などたくさんの人間がいても止めれなかったあの事故を止めたのだ。予選で苦戦するようには思えない。
「けど付け足してましたね、"決勝"は楽しみにしてて下さい、と」
つまり決勝以外は流すということか。まあ咲が流しても勝てるのは深雪だけであろう。
そんなことを考えていると試合が始まるようだった、選手達が順番にレース会場に出てくる。咲は第1レース目なのでスタート位置についた。
そこにいたのはまさしく神であった。膝まである薄い金髪の髪を三つ編みでまとめ、体は女らしい曲線美を描いている。深雪が不健康に見えないギリギリの庇護よくをそそる体つきだとしたら、咲はルネサンスの彫像家が丹精込めてつくった女神の彫像のような体つきであった。
咲は圧倒的なオーラを放ち、会場中の人は男女関係なしに咲に見惚れていた
「あれ見ると私も婚約出したくなるな」
冗談であずさにいうとあずさは顔を真っ赤に変えた。しかしあれを見たら婚約を出したくなるのもわかる、それぐらいのオーラであった。
スタートのブザーが鳴ると同時に飛び出したのは、意外にも他の高校の選手であった。
「出遅れたか?」
しかし咲は慌てた様子も見せずのんびり走っているようだ。一位の後ろで風を防ぎながらあくびまでしている始末。真面目にやれと思う摩利だったがコース半ば小さいカーブが連続する場面の前で表情が変わった。一気に一位を抜き去り小さいカーブを綺麗に曲がって行ったのだった。
「今のは?」
「一瞬だけ足元の水を凍らせスノーモービルの要領で曲がっているらしいです。そうすることによって水よりも体が安定して曲がりやすいと咲さんは言っていました。」
スノーモービルというよりはスノーボードだがなと摩利は思って咲を見るとなぜか顔は不満げにしていた、また何か考え事をしながら流して走っているようだが、ゴール前のジャンプ台でスピードを上げた。そのまま飛んだ咲は着地地点に風を起こす魔法を使って着地の衝撃を和らげた。その後のコーナーを抜けた咲はさっきと対照的に少し満足そうであった。
「中条、あの放出系魔法はなんで使うんだ?後ろのやつがいないから波を起こす必要はないとはいっても無駄に魔法を使うだけだろ」
「それが私も知らないんですよ、決勝見たらわかりますと言って」
咲は二周目三周目と少しずつスピードを上げ小さいカーブの連続のところでまた不満そうな顔をして、ジャンプ台のところは何かを確認してるように飛んでいた。
結局、圧倒的1位でゴールした咲は小さいカーブの連続する場所をまた見つめ会場を立ち去っていった。
タイムは去年の新人戦優勝タイムとほとんど同じ。明らかに手を抜いていたのに圧倒的な魔法力だ。
ほのかも初手閃光弾を発射するトリッキーな走りで予選を抜けた。
新人戦女子の結果はスピードシューティングが表彰台独占、バトルボードはどちらも予選突破と幸先の良いスタートとなった。
解説役達也がいないので摩利は達也の応急手当が効いた設定で退院を1日早くしています。九校戦書いてて思う、末原さん出てくるか達也分身してくれ…