咲-saki- 四葉編 episode of side-M 作:ホーラ
九校戦2日目
2日目の試合予定は男女クラウドボール予選から決勝までと、男女アイスピラーズブレイクの予選の試合が行われる。
クラウドボールでは七草先輩が出場するのと私は選手であるので、当然見に行くのだが、観客席に達也と深雪の姿はない。なぜなら達也は臨時のエンジニアとして七草先輩のスタッフとなりコートにいるのと、深雪は自分が出場するアイスピラーズブレイクの試合を見に行ってるからである。
クラウドボールの全試合を女子は半日で全て消化する。1セット3分、女子は3セットマッチ、男子は5セットマッチで行う。優勝するにはこの競技は32人のトーナメント制であるので最低でも2×5、つまり10セット勝利することが必要だ。
まずボールがボール射出機からランダムで互いのコートに合計9個発射され、それを相手のコートに打ち返しゲームが始まる。相手のコートにバウンドし相手が返せなかったら自分のポイント、相手の返球が自分のコートにバウンドしなかったら自分の得点。得点が入ると得点を入れられた方に入れられた点数分ボールが打ち出され、ボールが合計9個のままラリーが行われる。まあすごく簡単に言えばボール9個でやる魔法テニスだ。
普通はラケットを使用したり少しの失点は関係なしにどんどん攻めるのがこの競技のポイントなのだが、七草先輩は相手の返球を二倍の速度で返すダブルバウンドだけで無失点で勝ち上がっていた。ダブルバウンドはそれほど強力な魔法ではないが返す角度が上手い。あれでは全ての打球に魔法を使うことは難しいだろう。
「氷の世界……」
「ん?どうした咲?」
「いえ、なんでもありません」
横にいるのは渡辺先輩だ。普段七草先輩と憎まれ口を叩いているが試合をちゃんと見てるということはやはり仲はいいのだろう。
「そういえば咲も達也君などと一緒ではないことあるんだな」
「はい、渡辺先輩と最初お会いした時も一人でしたし、本を読む時も一人ですし達也と深雪ほど一緒ではないと思うんですが」
渡辺先輩は私に言われて思い出したようで返答に少し詰まっていた
「あ、その、あれだな、イメージだよイメージ」
「私の魔法はイメージを元にして作ってるのですが渡辺先輩は違うのでしょうか?」
「達也君も同じこと言いそうだ……」
純粋な疑問だったのだがその疑問に対する返答はなかった。
七草先輩は全試合ストレート勝ちで優勝した。
そして女子アイスピラーズブレイクの予選は千代田先輩が危なげなく勝ち抜けた。
九校戦3日目
この日は男女アイスピラーズブレイク決勝と男女バトルボードの決勝が行われる。
「今日の予定は服部先輩が男子第一レース、渡辺先輩が女子第二レース、千代田先輩が女子第一試合で十文字先輩が男子第三試合ね、私はバトルボードの選手だから服部先輩の試合見に行こうと思うけど、達也さんには来て欲しくないと思うから渡辺先輩のレースでまた合流しましょう」
「わかりました、お姉様」
「あ、いたいた、達也君〜」
達也も七草先輩に呼ばれたようだ。今日も3人とも最初は別行動だ。
服部先輩の試合を終え、急いで女子バトルボードの試合に向かっていると枕神怜の能力が発動した。
「5分後の未来変えれるでー」
これは枕神怜の分岐点お知らせモードだ。
これは私が未来を見て対処することによって未来が変わる可能性があるときに発動するモードだ。
5決の分岐する未来を見る怜の能力を枕神怜にもインストールしたのだが、流石にスペックが足りなくてお知らせするだけになってしまったのだ。
私は怜の神依を使い一時間後まで見る。
未来を見たがどうやって対処したらいいかわからない。起こることはわかったがとりあえず場所が悪い。とりあえず達也に連絡するのが先決であろう。
「達也さん」
「咲か、早く来い。渡辺先輩のレース始まるぞ」
「今すぐ第一コーナーの近くの出口に移動して、多分、今ここからじゃそれしか対処する方法わからないわ」
「わかった」
私の声色を受けて、何かが起こると理解してくれた達也は移動してくれたようだ。
未来を見てもどう行動するかで未来は変わっていく。どの未来を作るかは自分次第なのである。
会場に着くと同時に大きな悲鳴が上がった。やはり渡辺先輩と七高の選手がクラッシュしたようだ。
「やっぱりね…」
「お姉様!」
前の方から私を呼ぶ声がして見ると深雪であった。横の席が二人分空いている、達也と私の席であろう。
「お兄様が出て行ったのは」
「そう、私から聞いたから。けど今回は見たのあの電話の前の5分前だったからそれぐらいしか対処の仕様がなかったの…」
分岐点が見れるといっても1日後や一時間後の分岐点が見れるわけではない。分岐点を見る行為も簡単にいえば未来視であるので常時軽い未来視してるのと変わらないのだ。だからサイオン消費量を抑えるために5分後にしていたが、それが仇となった。
分岐点がわかったのに対処の仕方がわからなかった自分が悔しいと感じてる私に、深雪は心配するような目を向けていた。
渡辺先輩には未来が見えていたかのような早さで現れた達也と七草先輩が付き添った。
当然事故により、みんな浮き足だっていたが十文字先輩の一喝でみんな地に足をつけたようだ。
アイスピラーズブレイクは渡辺先輩と仲がいい千代田先輩のメンタルが心配だったが逆に気合が入っているようでそのまま千代田先輩が優勝を飾った。
渡辺先輩は重症ではなく後遺症もないそうだが骨折しており本戦ミラージバットは棄権することになるそうだ。よかったと感じると共にそれならミラージバットが格段に上手い三日月先輩が優勝するだろうなあと予想していた。
夕方達也が昼間のレースを検証したところ魔法の干渉、それも精霊魔法の可能性が高いということだった。
精霊魔法なら自分の魔法であそこからでも対処できた。枕神怜が反応したのはそういうことか。その事実を聞くと、達也と深雪の前で不覚にも自分の至らなさに絶望して泣いてしまった。私は神の力を使うのだから、完璧でなければいけないのに。三年前のようなことを起こしてはいけないのに。
「咲、お前は神のように全知全能ではない。神依などという能力を使うが人間なんだ。自分がなんでも対処しなくてはいけないというわけでもない。そう重荷に思う必要はないんだ」
「でも、でも…私がしっかり対処できていれば…渡辺先輩は」
「渡辺先輩はお前のおかげで重症ではなく後遺症も残らず骨折だけで済んだ。渡辺先輩はお前に感謝していたぞ。だからそんなに気に病むこともないんだ」
達也がいつも私が深雪にするように、私の頭を撫でそのまま部屋を出ていった。私はしばらく泣き、その後泣き疲れて深雪に膝枕してもらいながら眠りに落ちた。
クラウドボール原作のルールだと単一魔法のゴリ押しぐらいしかいいアイデアが思い浮かばなかったので変更しました。このルールだとボールがあっちこっちにいって大変だけどそこは何かダイソンのような魔法で吸収していると考えて下さい。こっちのルールの方が本家クラウドボールより精度もスタミナも必要とするし単一魔法ゴリ押しにならない(ボールがでたら相手のポイントのため)と思うからボール回収が大変以外は魔法競技としてはいい気がする
魔王の目にも涙