咲-saki- 四葉編 episode of side-M   作:ホーラ

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vs衣


第17局[降臨]

深雪は今まで見たことのない神依に恐怖していた。

今までの神依は人格は姉でなくなっても恐怖することはなかった。

淡に初めてなったときはとんでもないオーラを感じたが、ああいう性格なので恐怖することはなく、普段と同じ通りに振る舞えたのを覚えている。

 

「深雪は衣と遊んでくれるのか?」

 

しかし今回の衣の場合、深雪は圧倒されてしまい言葉に詰まってしまっていた。

 

「どうしてまた衣が出てきたんだ?今まで二つの人格を操っていることはあったが、人格が咲を経由せず変わることはなかったぞ」

 

達也が深雪のためにアシストを出す。

 

「今まで深雪が勝った相手は衣達のように、牌に愛されし子ではなかったからな。普通の神依のときは咲の意識は明瞭であり、自制が効くが、衣達を纏った咲はいわば休眠していていわば幼児。自制が効かないのであろう」

 

達也は言っていることは間違っていないと感じた。今までの天照大神以外の神依のときは他人の前で神依という単語は発しなかった。そして咲は負けず嫌いなので深雪に負けた今、咲の負けず嫌いという性格だけ残っていれば淡より強い神、衣を身に纏うのも理にかなっている。

 

「それで深雪は衣と遊んでくれるのか?」

 

「いつも私がお姉様に勝負を挑んでるんですもの。受けるのは当然です」

 

 

 

 

 

 

 

 

圧倒的オーラを感じ取った真由美と摩利は、練習を一旦休憩しピラーズブレイクの練習会場へと向かっていた。

 

「花音」

「摩利先輩どうしてここに?」

「いやきになることがあってだな」

「さっきの爆発ですか?」

「なんだそれは?」

 

摩利と真由美はさっきの深雪と咲の試合の内容を聞いたのだが、にわかには信じ難かった。まず深雪の絶対安全圏(キャストジャミング)内での魔法の使用、それもニブルヘイムという超高等魔法。その後の咲の爆発魔法と深雪が勝負を決めたインフェルノ。A級魔法師同士の対決でも見ることができないだろう内容だったからだ。

真由美はさらに、深雪が5歳の時に十師族当主に土をつけた咲の神依に勝ったということにも驚いた。確か父親は「大」の力に負けているはずだ

 

「今の状態の咲さんは淡?って人格なのね?」

「いいえ、深雪に負けた後一言二言話した後、光が咲に落ちてきて大気が震えるような気がした後は自分のことを衣と言っていました。深雪も初めて見るらしく困惑していました」

「さっきのはやっぱり咲か」

 

4月に感じ取った気配と似てると思ったが、やはり咲だったのか、と真由美と摩利の意見は一致したようだ。

真由美は親から衣の力は教えてもらっていないので、手にすると四葉や七草に匹敵する力、それをしっかり見ておこうという考えに至った。

 

 

「試合開始」

 

再び達也の声で試合が始まった。先制したのは深雪のニブルヘイム。深雪はさっきのインフェルノとのコンボで一瞬で決着をつけようと考えていた。淡はなんで負けたのか理解していなかったし、なおかつ神依中の記憶は基本その神依の神と咲にしか保存されないと咲自身から聞いていたので、初見では対応できないだろうという算段だ。

 

しかしその作戦は崩れ去った。衣は自分のエリア全体を真空にしそれを維持する魔法を発動した。空気が押しのけられたことにより強風が起きるが問題はそこではない。空気を冷却して空気を凝固させインフェルノで昇華させることで破壊するのが深雪のコンボだったのだが、それを破られてしまった。なので深雪は次の1手を打たなくてはならなかった。

 

最初に相手の氷柱を壊したのは深雪であった。

達也が雫に教えていた共振破壊で干渉力を一本に集中し、衣の情報強化を抜いたのであった。それを繰り返す。衣は守りに集中しているのかも知れないが、攻めて来ない。深雪はこれはチャンスと考え連続して発動し残り一本まで削る。深雪は残り一本に魔法をかけようとしたそのとき。

 

「無聊を託つ。淡を倒したと聞いてうきうきしてたけど乏しいな。闕望したよ、そろそろ御戸開きといこうか」

 

今までは遊びだったという発言の後、圧倒的サイオンの嵐が衣を中心に巻き起こった。

 

急に辺りが暗くなった。空を見ると太陽が消えていた。フィールドに目を戻すと深雪はなんとかして残り一本を倒そうとしているが情報強化の他にも何か魔法がかかっているらしく倒せないようだった。衣はその間壊された氷柱の氷を群体制御で操り空中に何か作っていた。

 

作られたものは満月であった。それはさながら日が沈み満月が登ったようである。この満月を作りきるとまた衣の力が膨れ上がったように感じた。その後流れ星のようなものがチラッと見えると、次の瞬間深雪の氷柱の前4本が破壊されていた。もう一瞬光ると中央4本が破壊された。

 

「昏鐘鳴(こじみ)の音が聞こえるか? 世界が暗れ塞がると共におまえの命脈も尽き果てる!!」

 

残り4本も次の瞬間に破壊された。

 

 

 

 

 

 

「勝者衣」

 

達也は顔には出さなかったがさっきの魔法に驚いていた。周りを暗くした魔法は太陽の光を上空で屈折させることによりエリア一帯を夜に書き換えた。光の攻撃はその応用として逆に光を一点に集めただけなのだが、その魔法に併用して四葉真夜の固有魔法「流星群」が使われていた。威力は控えめであったが、それは叔母のように完全に光をシャットダウンしなかったからであろう。やはり咲の底はまだ見えない。

 

 

「やったー、衣の勝ちだー」

 

試合前や試合中の恐ろしさはどこにもなく、そこにいたのは無邪気に喜ぶ衣であった。

 

「衣ちゃんすごいわね、完敗だわ」

 

深雪の心情が心配であったがそれは後回しだ。

 

「ちゃんではなく、衣お姉さんだ!衣は深雪よりお姉さんなんだぞ!あと馬鹿にしてすまなかった。比べる相手が悪かっただけで、深雪はこの競技なら塵芥どもを鏖殺できるであろうな。」

「大丈夫よ、それで私は誰と比べられたのかしら?」

 

それは達也も気になった。深雪と戦ってつまらないと思うぐらいの力を持った衣が比較する相手が悪かったと言う相手、咲の実力を知りたい達也としても気になるところだ。

 

 

「初めは衣に勝てるのは衣だけだと思っていたがそんなことはなかった。衣に勝てるのはテル、コマキ、覚醒したトーカ、そしてサキだ」

 

 

 

初めて聞く名が2人いた。照は淡も散々ヤバイヤバイ言っていたので知っていた。コマキとトーカと言われた神は初耳であり、もしかしたらどちらかが天照大神の残りの「神」なのかもしれない。

 

「衣ちゃん、サキというのはお姉様のこと?」

「いや、咲の中にはサキという別の人格がいるのだ。咲の人格の中でもサキは特別らしい、なにせ衣に初めて土をつけたのはサキなのだからな!」

 

そのサキを自慢するように衣は言った。

 

「ミユキ、衣は夕餉にエビフライを食べたい。作ってくれるか?」

「作ってあげるわ、タルタルソースもつけて」

「わーい、タルタルだタルタル!」

 

ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ衣の様子を見てさっきの試合を見た後なのに不覚にも可愛い撫でたいと思ってしまうという意見で一致した。

 




無双する試合より深雪との試合の方が書きやすい…


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