比企谷八幡の憂鬱 作:可愛いは正義
沢山とお気に入りや評価ありがとうございます。
面白いと大勢のかたに言ってもらえてとても嬉しいです。
これからも頑張って投稿していきと思います。
朝チャイムの音で目を覚ました。
マンションなのでこの部屋の番号を知ってる人の訪問であろう。
だがこの部屋の番号を知ってるのは家族の他には昨日知り合った朝倉涼子だけだ。
携帯で時間を確認しようと画面を見てみると電源が落ちており真っ暗だった。
昨日開きっぱなしのまま寝たのを思い出して頭をかく。
チャイムは未だになっているので確認しに行くと、この部屋の入り口のチャイムではなくマンションの入り口のチャイムが鳴らされており、電話を取り画面に映った人物を見てマンションの入り口を開けた。
画面に映っていたのは引っ越し屋さんだった。
長い間待たせてしまったのか少し不機嫌そうだった。
引っ越し屋さんは次々に荷物を部屋に入れてくれ、俺は邪魔にならないようにベットの上に避難している。
北高の入学式は明日だ。
普段なら録画しておいたプリキュアでも見て一日を終えるのだが今は段ボールの中。
部屋に段ボールの箱が陳列していきどの段ボールに入っているのかすら分からない状態ではかなりの時間と労力が必要になるだろう。だが今の俺には労力の方が欠けていた。
明日からは学校。
なら今日は休みたい、と思うのが学生の性分なのだろうか、俺は段ボールを運び終えていそいそと帰っていく引っ越し業者を見ながら外に行く事を決める。
服を着替え財布と携帯を持って扉を開ける。
何処に行こうか悩んだ末に目的地が分かる場所が一ヶ所しかないことに気が付き自分に呆れる。
「(北高でも見に行くか....)」
受験のために1度だけ北高には行っているので迷うことなく着けるだろう。たぶん。
ただ問題は。
「あそこ登り坂が果てしないんだよなー.....なんだあれ、拷問か訓練なのん?」
「何が訓練なの?」
「うおっ.....て、朝倉か」
一人愚痴ってると後ろから俺の愚痴に返答があり、振り向くと昨日出会った朝倉涼子が鍋を両手に持っていた。
「それで何が訓練なの?」
「あー。北高って知ってるか?」
「知ってるもなにも私は北高に入学したのよ。もしかして比企谷君も?」
まさか同じ年で同じ高校とは思っておらず目を開いて驚いてしまう。
「あ、ああ。ほら、あそこ行くまでの坂道あるだろ?」
「あー、確かに少しきついかもね。でも高校生なんだし少しくらい体を動かした方が良いと思うからちょうど良いんじゃないかしら?」
「俺は基本的に疲れたくないんだよ」
「高校生の台詞には思えないわね....それならどうして千葉から兵庫の高校まできたわけ?」
尤もな質問だった。恐らく俺が逆の立場でも聞いていただろう。でもハルヒの事は言えない。
まだ会ってもいないし、ハルヒと俺の二人きりの秘密にしておきたいから。
「それは色々だ。色々」
「もおー何よそれ。気になるじゃない」
「悪いな。それに俺は今から行くとこがあるからそろそろ行くぞ」
「あら?どこかに行くの?長門さんの部屋で一緒にお鍋でもどうかと思ったのに」
「長門さん?」
「このマンションに住んでるもう一人の住居人で私達と同い年の可愛い女の子よ」
基本的に女子が女子の事を好意的に可愛いと言うときは無い。
言うときは、自分より可愛いくない子に対して第三者にこの子可愛いよね~と言って自分を引き立たせる為に使う。謂わば自分のアクセサリーとして使うのだ。
そしてその時の顔や表情、声のトーンから大体分かってしまうのだが。
朝倉さんは本当にその長門さんとやらが可愛いと思って言っている様だった。
単に性格が良いのかそれとも百合なのか....。
「ん?何か言った?」
「い、いや何でもない」
気付かない間に声に出ていたようだ。
「それじゃ」
「ええ。残念だけどまたね」
「こっちこそ誘ってもらったのに悪いな」
「ううん。それじゃまた誘うね」
朝倉さんの笑顔を見て俺は学校に向かうためマンションのエレベーターを使って降りていく。
確か駅から北側にあったから、駅を目指すか。
マンションから駅までは遠くないので徒歩15分くらいで着く事が出来た。
「人混みやばいな....」
千葉駅も中々だったが、兵庫県の駅も人でごった返していた。
俺はティッシュを配っている女の人に声をかけられないように距離を計りながら歩きなんとか駅を抜けて北高に向かう道に出た。
「はぁ.....疲れた。帰ろうかな」
ようやく道に出たが既に帰りたいと思い始めていた。あとはすぐそこに見えている信号を真っ直ぐわたり地獄の坂道を登れば着くのだが限界だった。
「にょろーんっ!みっくる~早くおいでよぉー!」
「ま、待ってくださーい。はぁはぁ.....」
二人の女の子が信号が青になった道路をわたっていた。一人は八重歯が似合っている美少女でもう一人は......もう一人は....ぜ、前屈してると吸い込まれそうに......じゃない。落ち着け俺。とりあえずどちらも美少女だった。
全く、兵庫には美少女しかいないのか。と思っていると、丁度八重歯の元気が良い女の子が道路をわたりきった所で左から来るトラックの異常に俺は気付いた。
「なんだあのトラック。妙に左右に揺れて......っ!」
トラックの運転手を見ると寝ているのか顔が伏せられておりスピードもどんどん速くなっていった。
このままじゃ、ぶつかる。そう思うよりも早く俺の体は動いていた。
「ふえっ!?」
俺は戻る時間が無いと思いおもいっきり女の子を突き飛ばした。
「みくるーっ!!」
叫び声が聞こえる。
次の瞬間辺りは静かになった。
グシャッ。
......................................................。
何が起きたのか分からない。
俺は宙に浮いて、そして地面に落ちた。
「! ! !!!」
何かを叫んでくれているが何も聞こえない。
瞼は重くなり体は冷たくなっていく。
「は、る.........ひ」
最後にこの言葉を残して意識を手離した。
▼
「(ここは?)」
目が覚めた。
でも何かがおかしい。
周りは見たことがない場所暗くて薄青い空間。
何もない。
俺以外誰もいない。
「(どこだここ......)」
車に跳ねられた事を思い出す。
「(天国か?それとも地獄か?)」
ここが何処なのか考えていると目の前に光の粒子が集まり始めて一人の幼い女の子の形になった。
「は、るひ?」
そこには俺が小学生の時に出会ったハルヒが立っていた。
あの頃と同じ見た目。
同じ服。
初めて会ったときと同じ目。
だがあの時からは3年と少しという時間が経過している。
あの日のままのハルヒに会うなんてあり得ない。
「.......」
ハルヒは何か呟いている。
声は小さくて何を言っているのか聞こえない。
「.......」
「何て言ってるんだ?ハルヒだよな?ハルヒなんだよな?」
「.......」
それでも変わらない。同じ言葉を永遠のように繰り返している。
暫くすると口の動かし方で何を言っているのか聞き取れるようになってきた。
「う?」
「.....」
「うそ、つき.....」
ハルヒは、嘘つきと何回も俺に言っていた。
ここでようやく俺は理解した。
俺は死んだんだな。
「ハルヒ......悪い....」
「....」
「約束破って...一緒に宇宙人探すって言ったのにな.....」
「....」
「許して、はくれないか....」
「...」
ハルヒの声は未だに聞こえないが口の動かしかたが変わった事で違う言葉を言ったことを理解した。
ハルヒがその言葉をいった瞬間だった。
その空間は割れて光が差し込んでくる。
俺はあまりの眩しさに目を閉じた。
「八幡!」
目を閉じたら聞こえる声。
「おい!八幡!」
聞き覚えのある声。
「お兄ちゃん!」
俺の大好きな声。
「八幡!いい加減起きなさい!どれだけ私を待たせるつもりなの!」
俺が探し求めていた---------------------------。
「ハルヒ.....」
「お兄ちゃぁあああん!」
「うおっ!こ、小町......」
俺は抱きついてくる小町の頭を優しく撫でながら夢にまで見た人を見る。
「ふぅ....。やっと目が覚めたのね。遅いわよ、八幡」
「悪いな」
「お、お父さん!取り合えずお医者さん呼んできて!」
「あ、ああ!そうだな!」
父親は慌てて医者を呼びにいった。周りを見る限り病院というのは分かった。
「俺どうしてたんだ」
「あなた、トラックに跳ねられてニ、三日眠りっぱなしだったのよ」
「え、まじで?」
「お兄ちゃん....死んじゃうかと、思った.....」
「小町....悪かったな」
「それじゃ、お母さんも少しお医者さんの所に行ってくるわ。あの人。貴方と一緒で方向音痴だから迷ってると思うし。ほら小町も行くわよ」
「うん」
小町は俺から離れると母親に付いていき病室から出ていった。
気を使わせたかな。
「ハルヒ」
「なによ」
「久し振り、だな」
「ええ、そうね。ほんとに来てくれるとは思わなかったわ」
「約束したからな」
「そっ.....」
ハルヒは窓を開けて空を見上げた。
既に夜になっており空には星が輝いている。
「ねえ、八幡。宇宙人っていると思う?」
こっちを向かずに俺に問いかけてくる。
そんな答え決まってる。
「ああ。いるに決まってる」
「どうしてそう思うの?」
「だって....いないなんてつまらないだろ?」
あの頃のハルヒの言葉を借りて俺とハルヒの物語は始まっていく。
やっと次から学校に行けます.......