比企谷八幡の憂鬱   作:可愛いは正義

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かなり遅れてしまいすいませんでした。今回の話は伏線です。特別篇での伏線なので登場しますが殆ど出ません。出してほしいと言う意見があればこれからもちょくちょく出るようになるかもしれません。


帰ってきた場所

太陽の眩しい光が顔に当たりうっすらとしていた意識は少しずつ覚醒していく。ジューという何かを炒める音と鼻腔を擽る良い匂いに眼を開けるとうちのキッチンにエプロンを付けたハルヒと小町が朝御飯を作っていた。何故眼が覚めたらキッチンが見えるリビングのソファーの上で寝ていたのかと言えば昨日の夜に遡る。俺とハルヒは俺の家に向かうと小町が家の外で待っていてくれた。こんな時間に外に出るなんて云々の話を一応した俺はハルヒと共に家に入る。まだほんの数ヶ月程しか家から出て時間は経っていない筈なのに何処か懐かしく感じる我が家に安心する。

 

小町が夜食に簡単なご飯を作ってくれてシャワーを浴びた所までは良かったのだが、俺は家を出るときに荷物を全て持っていって現在俺の部屋は物置小屋となっているらしい。

 

ちょっと悲しくなったとか思ってない。

 

そこで寝る場所を決めることになったのだがハルヒは小町の部屋で一緒に、んで親の部屋を俺が勝手に使うわけにもいかずリビングのソファーの上で寝ることになったのだ。

 

ソファーから起き上がり背筋を伸ばすとバキバキと骨が鳴り身体中のあちこちが痛かった。やはりソファーではゆっくり休めないかと思っているとハルヒと目があった。

 

「あ、八幡。おはよう、起きたのね」

 

「お兄ちゃん!ハルヒさんこんなにもお料理上手だったんだね!小町ビックリしたよ!!」

 

朝からテンション高いなと可愛い妹に適当な相槌をうちハルヒの事を名前で呼ぶようになるくらい仲良くなっていた事を知った。

 

「うわー適当ー適当でたー。ハルヒさん、お兄ちゃんっていつもこうなんですか?」

 

「んーそうね。だいたいこんな感じよ」

 

えーと小町ちゃん?本人前にして本人の話を始めるの止めてくれませんかね?

 

「はぁ....お兄ちゃんはちっとも変わってないんだね。小町心配だよ」

 

「変わらないことは良くないこととは限らないだろ?人間変わることで悪事を働くものもいる。そして稀に良いことをするものもいる。だが所詮良いことをする奴なんて一握りだ。そんな中に入ろうなんて無理だしそれならいっその事変わらないことは正義だろ」

 

「変わらない人間なんていないわよ」

 

小町から反論されると思っていたらハルヒから言われ少し気圧される。

 

「私は知ってるもの。八幡は変わったわよ」

 

にこっと笑顔で言ってくるハルヒに俺は心の中でお前が一番変わったよと叫んでいた。

 

「小町邪魔かな?」

 

その話の中で美味しそうな朝御飯をリビングの机の上に並べながら小町が言う。

 

「いや小町ちゃんが邪魔とか有り得ないわよ。私はすっごく楽しいし寧ろ八幡の方が」

 

ちょっとーハルヒさん?確かに小町邪魔とかどう考えても俺の方が邪魔だけど普通に傷付くからね?

 

「ハルヒさん!」

 

感動してハルヒに抱き付く小町を優しく撫でるハルヒ。あれ?俺本当に邪魔なのか?いや待てよ...俺は一応ここが実家なわけだし邪魔なんてことは....。はぁ....一応とか言っちゃう辺り邪魔なの俺なんだよな。

 

「どうしたのお兄ちゃん?顔が酷いよ?」

 

「いや何でも....な」

 

「ふぅ~ん」

 

ここで出ていかない辺り俺も変わったんだろうな。昔の俺なら間違いなく出ていく事を選んだだろうしな。

 

「それじゃ朝御飯食べましょうか!」

 

「おお....」

 

およそ朝御飯の量ではないおかずたちが目の前に拡がっている。朝からこんなに食えるの某テレビに出てくる女の人だけだろ。てかあの人凄いよなあの細い体の何処に入っていってるのか。

 

「えへへ作りすぎちゃった♪」

 

小町が舌を出しながら頭を小突きながら言ってくる。なんだそれ可愛いーな。

 

「まっ作りすぎちゃったけどここには食べ盛りの男が一人いるんだし大丈夫よ!ねっ!」

 

いや、ねっ!って....本気で食べられると思ってるのか?この量を?誰が?俺が?どうしてこうなった....。

 

「い、いただきます...」

 

そして俺は朝から戦場に立つことになった。朝食という名の戦場に。

 

 

「うっぷ.....」

 

「いや~流石八幡ね!」

 

「お兄ちゃん凄いよ!全部食べてくれるとか小町的にポイント高いっ!」

 

小町ちゃん?落ち着こうか...今俺を揺すってはならない....何故なら喉の中枢まで先程の料理たちが逆流しているからだ。

 

「悪いハルヒ....俺は少し休んだ方が良いみたいだ」

 

「そう...それじゃあ私は先に探してくるわね!元気になったら必ず追い付きなさいよ!」

 

元気になるまで待ってくれないのはハルヒらしいなと思いながら学校に行った小町と宇宙人を探しに行ったハルヒがいなくなり何処か寂しくなった我が家のリビングのソファーの上で俺は静かに眼を閉じた。

 

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何時間経過したのだろうか。目を覚ました時には辺りは日が少し落ちていた。携帯を確認するとメールが一件ハルヒから来ていた。

 

まだ来れないの?

 

今千葉駅のショッピングモールにいるから起きたらきなさい!

 

メールが来ていたのは5時。今の時間は5時20分、いないかも知れないがハルヒに向かうとだけ返事をして家を出た。

 

欠伸をしながらMY自転車に股がり懐かしく重いペダルを漕いで走っていると大きめの横断歩道まできた。ここを渡れば千葉駅なのだが信号が

青になるのを待っているとフラフラと明らかに様子がおかしな女の子が歩いてくるのが見えた。信号が点滅して青に替わり横断歩道を渡ろうとしたが大きなトラックがスピードを緩めずに此方に向かっているのが見えた。はっとなり先程の女の子を見るとフラフラと横断歩道を渡っていた。

 

女の子の耳には車の音は聞こえていないのか下を向きながら此方に向かってくる。俺は自転車から降りて気付いた時には女の子を抱き締めて自分が下になるように横断歩道の向かい側に飛んだ。背中を強打したのか痛みが酷い。女の子はキョトンとした顔で此方を見てトラックの音に気付いたのか顔を青くして震えていた。

安心したからなのか先程まで全く感じていなかったのに女の子のハルヒより格段に大きいだろう二つの大きな膨らみが俺のお腹に当たっていることに気付いた。柔らかくそして良い香りも漂ってきて顔が赤くなる。

 

そんな時だった。思いもよらない言葉が返ってきたのは。

 

「どうして....----------?」

 

俺の頭は一瞬で真っ白になり先程女の子が言った言葉は俺の聞き間違いだと思いたいほど有り得ない言葉だった。

 

だが残酷にももう一度彼女の口からその言葉が俺に突き付けられた。

 

「どうして...死なせてくれなかったんですか!?」

 

「.....は?」

 

「きっと...きっと...あのトラックはサブレがあたしを迎えに来たことだったのに....あたしもサブレに....」

 

何を言っていっているのか分からなかった。周りではざわつく人と携帯で写真を取り始める人。俺は苛立ちを隠して女の子を半ば無理矢理近くのサイゼに連れていった。

何も頼まないのも変に定員に怪しまれるのでドリンクバーを二つ頼む。

 

「お前何か飲むか?」

 

「.....いらない。てかどうしてこんな所に」

 

「まあ待ってろって」

 

俺はドリンクバーを取りに行く。なるべく後ろを振り返らずに。帰ることを止めることなんて俺には出来ないしやろうとも思わない。確認をしないなら帰っているだろう、だがもし帰っていないのならその時は少なからず俺を頼っているということだろう。俺はホットコーヒー二つにガムシロと砂糖を2杯ずつ入れてかき混ぜたものを二つ作り元の席を見る。すると女の子は下を向きながら座っていた。涙を流しながら。

 

コトっと女の子の目の前にコーヒーカップを置くと涙を拭いながら顔を上げてきた。涙で眼は腫れて赤くなっており鼻を啜っているその表情を俺は直視出来ずにそらしてしまう。

 

「一応汲んできたから飲みたいときに飲んでくれ」

 

俺は一言言って据わると女の子は直ぐにコーヒーカップを掴み少し飲んだ。

 

「っ!げほっげほ.....甘っ....何これ」

 

「コーヒーだよ。ガムシロと砂糖を二杯ずついれた」

 

俺もコーヒーを飲む。うん甘くてとても美味しい。

 

「いやもうそれコーヒーじゃないからっ!!」

 

「人生生きてりゃ苦いことばっかりだろ?それなら飲物くらいは甘くても良いじゃねーか」

 

俺がそう言いながらコーヒーを飲むと女の子はキョトンとした顔をしている。何かおかしな事言ったか俺?気まずくなり中々コーヒーを置けずに一気飲みしてしまう。

 

「どうして?」

 

「ん?」

 

「どうして見ず知らずのあたしを助けたの?」

 

どうして...か。助けた理由なんてこじつければ何だってある。牽かれそうになってたら助けるだろとか体が勝手に動いていたとか。

 

「助けた理由は俺も良く分からん」

 

「.....」

 

「でもお前震えてただろ?」

 

「え?」

 

「俺が助けた後トラックが走り抜けていくのを見て想像してあんなに震えてたんだろ?」

 

どんなに取り繕っても体が言ってしまっているのだ。生きたいと。

 

「あたしは別に震えてなんか....」

 

「そっかそれならそれでも良いけどな。俺はあの時のお前を見て死にたかったなんて思ってる奴の顔には見えなかったよ」

 

俺は財布から五百円取り出して机に置き立ち上がる。

 

「じゃ俺は行くから」

 

「ちょ、ちょっと待つし!!」

 

「....なんだよ」

 

手首を掴まれて挙動不審になりそうな俺に女の子は告げた。

 

「ご、五百円じゃ足りないよ!」

 

いや確かに三百円くらいするけどさそれくらい良くない?人がちょっとカッコつけて出ていこうとしてるのに出鼻挫かれた気分だ。

 

「そ、それに!」

 

「なんだよ....」

 

先程から携帯が震えている。恐らくハルヒから電話がかかってきているのだろう。

 

「今日は....そのありがとう。あたしさ...1ヶ月位前に飼っていたペットのサブレが車に牽かれちゃったんだ...リールが取れちゃってあたしがちゃんとしてたら良かったのに...だから今日牽かれそうになったのはサブレがあたしの事を怒ってて連れていこうとしてるんだと思ったらやるせなくて...貴方に八つ当たりしちゃった」

 

1ヶ月前か....そう言えば俺がトラックに牽かれて入院したのも1ヶ月位前だったな...ま、関係ないか。

 

「いや...その気にしてないから」

 

「あたし由比ヶ浜結衣」

 

「ああ」

 

「えーと貴方の名前は?」

 

「ああ、俺は比企谷八幡だ」

 

「比企谷君....うんそれじゃヒッキーだね!」

 

なんてネーミングセンスだ...ヒッキーて誰だよ。

 

「いやヒッキーじゃねえから。比企谷だから」

 

「これからよろしくね!ヒッキー!あ、あたし相武校ってとこに通ってるんだけどヒッキーはどの辺?見たとこ高校生ぽいけど」

 

なんかいきなり元気になったな...トークが早すぎてついていけない...。

 

「えーと。俺は元々千葉県出身だけど高校は兵庫の方に行ってるんだ」

 

「えー!?ヒッキー兵庫の高校に通ってるの!?」

 

「ああ」

 

てかヒッキーてかなり馴れ馴れしいよな?そこまでこいつと仲良くない筈なんだが。

 

「そっか...あ!ねえねえ連絡先交換しようよ!」

 

「いや何でだよ...」

 

「良いじゃん!折角なんだしさ!」

 

「じゃお前が入力してくれよ」

 

「結衣...」

 

「え?」

 

「お前じゃなくて結衣」

 

「いや仲良くもないのに女子の名前下で呼ぶとか無理だから」

 

「じゃあせめて由比ヶ浜って呼んでよ...お前なんて他人行儀だし」

 

「いや他人だろ?」

 

むしろ他人じゃない奴なんて本当に少ないけどな。

 

「あたしは少なくとも友達だとは思ってるんだけどな...ヒッキーはあたしの事嫌い?」

 

その質問は難易度高過ぎないですかね...なんだよあたしの事嫌い?って俺の事好きなの?って勘違いするだろうが。まあ俺の事好きになるような事したつもりもないから勘違いする要素も無いんだけどな。

 

「嫌いじゃねーよ。そうだな....普通だな」

 

「普通かぁ....まぁ嫌いじゃないなら良いよねっ!」

 

俺の携帯を半ば無理矢理奪い取り連絡先を打ち込んでいく由比ヶ浜。手馴れているのか物凄く速い。

 

「てかヒッキー良く携帯見せれるよね」

 

「いや今のは由比ヶ浜が勝手に取ったんだろ?別に見られて困るものもないし良いけどな」

 

「ふーん....ん?ねえヒッキー。このハルヒさんって誰?」

 

「ん?ああ知り合いだよ。こいつ待たせててな今から行かなきゃ行けないから急いでるんだよ」

 

「ふ、ふーん...ねえ?そう言えば今日って祝日とかじゃないけどどうしてこんな所にいるの?」

 

「うぐっ....」

 

それを聞かれるのは正直痛い。何て言ったら良いものか。ハルヒを探して兵庫から態々千葉まで来たなんて言えないし...。

 

「普通おかしいよね?まだ6時前だし」

 

「....サボった」

 

「へぇ....因みにハルヒさんってヒッキーと同じで兵庫の高校に通ってる人?」

 

「....」

 

「ふーん....」

 

パタンっと閉じられた携帯を俺に渡した由比ヶ浜は何故か怒っているように感じられた。

 

「ねえヒッキー」

 

「なんだよ...」

 

「あたしも一緒に行っても良いかな?」

 

「............は?」

 

 


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