比企谷八幡の憂鬱 作:可愛いは正義
俺は今はコンピ研の部室にいる。理由は前回の話を読んでくれ。
なぜこのような回りくどい言い方をしているかと言えばだがコンピ研のパソコンに何重にもファイルが開かれており今もなお継続している。恐らくこれがウイルスなのだろう。というかコンピ研が頑張ってカチャカチャやっているが全く追い付いていない.....つまりこの現状を作ってしまったことへの罪悪感から目をそらして現実逃避をしているのだ。
「あああもう!何がどうなっているんだ!このパソコンは先月購入したばかりでネットすらまともに使っていなかったのに!ウイルスに対してのプログラムだって最新式のプログラムを使用しているはずなのに......」
コンピ研の部長は手を動かすのを止めて立ち上がり俺に近付いてくる。気のせいかとても怖い。一応この人先輩だし今はなんか目が怖い。
「君か!?君が僕達のパソコンにウイルスを流したのか!?」
意外に勘が鋭いコンピ研の部長。だがな残念ながら俺が流したという証拠は無い。
「俺が流したっていう証拠はあるのか?」
俺が言うとコンピ研部長は悔しそうに唸りパソコンを再び叩き出した。叩き出したといっても壊しているのではなくウイルスを端から消去しているのだ。て俺は誰に説明してるんだ?
「さて...ハルヒ。カメラを貸してくれ」
「別に良いけど何に使うの?」
ハルヒにカメラを借りた俺はウイルスが流れているパソコンを撮っていく。
「な、何をしているんだ!?」
叫び出すコンピ研部長。悪いとは思っている。だがこれも朝比奈さんの為だ。代わりに犠牲になってくれ。
「ウイルスが流れているパソコンの証拠を撮ったんだよ。もしこれを先生に見せたらどうなると思う?」
流石にやり過ぎだと思ったのかハルヒが止めてくるが俺はそれを手で制する。コンピ研部長は顔を青くして涙を浮かべ俺を見ている。
「そこで提案だ。このウイルスを完全に直せるやつを俺は知っている。更にこのカメラのデータも消す」
「....だからパソコンを一台寄越せって事、か?」
「そうだ」
コンピ研部長は青い顔からまるで俺を仇のような憎悪で満ちた顔で睨み付けてくる。
「くっ....分かった。好きなのを持っていけ」
「ああ。それじゃハルヒ、後は任せる」
「八幡....」
俺はハルヒの悲しげな声を聞きながらSOS団の部室に戻って長門さんにお願いしてウイルスを消してもらい、使っていたパソコンも消してもらった。ハルヒと朝比奈さんはまだ何かしているのか戻ってこないが俺は用事があると長門さんに伝えて先に帰ることにした。
マンションに着いた俺は風呂に入り今日のことを思い出していた。間違えた事をしただろうか。ハルヒと朝比奈さんの顔を見たとき間違った事をしてしまったのかと思った。それにあんな悲しそうなハルヒの顔は初めてだった。
ちゃぷんと俺は浴槽に顔まで沈め考える。だがあの作戦以外に有効な作戦が思い付かない。ハルヒの作戦では、朝比奈さんが傷付き、ハルヒはコンピ研部長に恨まれるだろう。だがそんな結果は嫌だと思ったから俺は行動に移した。コンピ研の部長には申し訳ないがハルヒも朝比奈さんも傷付かずにすんだんだ良かった筈だ。
俺は浴槽に沈めていた顔をゆっくりとあげて風呂から出て寝間着に着替えた。台所からトントンという包丁で何かを切る音とぐつぐつと煮込んでいる音が聞こえ台所に行くとハルヒがいた。
「あ、八幡。お邪魔してるわよ」
「....おう」
先程の事がありハルヒの顔を直視出来ない俺は自然と目を反らしてしまう。
「どうしたのよ」
「何がだよ...」
「別にあんたが良いなら構わないわよ?でも私から目を背けたって事は気にしてるんでしょ?」
「....」
「沈黙は言葉よりも正直とは良く言ったものね」
ハルヒは包丁を起き、火を止めてから俺の顔を真っ直ぐ見ながら近付いてくる。
「確かにパソコン一式、八幡のやり方で手に入ったわよ?でもね八幡は何も分かってないわ」
「何がだよ...」
「あんたは、私のSOS団の団員なの!あんたが傷付いてたら意味ないでしょ!」
「俺があの場で動かなければ朝比奈さんが傷付いただろ?」
「そうね..それに関しては完全に私のミスだわ。ごめんなさい」
ハルヒが頭を下げて謝罪している姿に驚き俺は目を見開く。
「でも、いけると思ったのよ....ごめんなさい。今日はもう帰るわね」
「ハルヒ...」
ハルヒは鞄を持つと玄関まで行き「またね」と一言だけ呟いて出ていった。俺は暫くその場に立ち尽くすことしか出来なかった。俺はどうして千葉県からここまで来たんだ?ハルヒとの約束を守るためじゃないのか?
このままじゃ会えなくなる。不思議と俺はそう思っていた。明日が来る筈なのに明日じゃないような不思議な感覚が襲ってくる。俺は寝間着のまま部屋を飛び出した。部屋の扉を開けると何故か長門さんがいた。
「あっち....」
小さな声で近くの公園を指差す長門さんにハルヒは公園にいるのか?と聞くとコクリと首を縦にふった。
「さんきゅー....」
俺は一言お礼を言って走り出した。エレベーターのボタンを押すが1階で誰かが押したらしく上がってこない。俺は非常階段の扉を開けて階段を降りて行く。俺の足音が響き呼吸も荒くなっていく。
「ハルヒ....」
俺は階段をかけ降りながらハルヒの名前を呼ぶ。ハルヒに会わなくちゃいけない。それだけを思いながら。
街灯の灯りに照らされている公園には遠目だがベンチに人影があった。
「ハルヒ!」
俺が名前を叫ぶと人影は立ち上がって此方に向かってくる。だが人影は明らかにハルヒより大きな大人の人だった。
街灯の下まで来て灯りに照らされた顔は朝比奈さんが大人になったような女性だった。
「す、すいません....人違いでした」
俺は慌てて謝りハルヒを探すために走り出そうとすると肩を捕まれる。
「ま、待って!ハチ君!」
ハチ君?....誰だそれ。俺の事をハチ君なんて呼んでくる人なんていたか?記憶を小学生まで辿るが一人もいない。
「ハチ君て誰ですか?...俺貴女の事知らないんですけど...人探してるんで良いですかね?」
「あ、そうね。そうだったわね。この頃の時間平面上はまだ呼んでいなかったのね。この頃なら確か...比企谷君だったわよね?」
俺を比企谷君と呼ぶ人物に一人だけ心当たりがあった。
「朝比奈さ...朝比奈みくるさんのお姉さんですか?」
「そうじゃないわ。惜しいけどね。私は朝比奈みくる本人です。今から少しだけ未来から来た、ね」
どうやら朝比奈さんは長門さんの言っていた通り只の人間では無かったようだ。でも何故俺に接触してきたんだ?
「どうして俺に会いに来たんですか?仮に朝比奈さんが未来人だとして未来人が現在の人間と関わるのは大丈夫なんですか?」
「やっぱりハチ君は...あっ、ごめんね。こっちの呼び方に馴れちゃって....比企谷君はいつも核心を突いてくるのね。今も変わってない。答えはイエスよ。この世界の人に何か話すのは禁止されているわ」
「では何故俺に会いに来たのか話してくれますか?きっとハルヒに関係あるんですよね?」
朝比奈さんは少し暗い顔をして言ってきた。
「終わりなき道から抜け出すには見付けるしかないわ...」
「なんの事ですか?」
「ごめんなさい。これ以上は禁則事項です....」
「これ以上は言えないって事ですか?」
黙ったまま頷く朝比奈さん。
「ハルヒは何処にいるんですか?」
「禁則事項です...」
成る程な....。終わりなき道から抜け出すには見付けるしかないわ。か...どういう意味があるのか分からないがハルヒを探せって事だけは分かった。
「ありがとうございました。朝比奈さん。俺はハルヒを探しますね」
「本当にごめんなさいこれ以上は禁則事項で...て、あれ?これ以上は聞かないんですか?」
「言えない理由は分かりませんが言えないのは分かりましたし。ハルヒを探さないといけないのは分かりましたから」
朝比奈さんは驚いた表情を一瞬だけして笑顔で言ってきた。
「本当に貴方に出会えて良かったです」
「え、えと?どういう意味ですか?」
俺は言葉の意味が分からずに聞き返してしまう。朝比奈さんはくすりと笑いながら人差し指を口につけウインクをしながら。
「禁則事項です♪」
俺はその魅力的な表情に一瞬見入ってしまったが慌てて後ろを向いてそれじゃ。と一言だけ言って走り出した。