比企谷八幡の憂鬱 作:可愛いは正義
もう少し話を投稿したら特別編で[比企谷八幡の消失]を書きます。そちらにキョンが登場しますのでキョンが気になっている人はお楽しみにです。
春の麗らかな日差しを浴びながら起きた俺はハルヒが作っておいてくれた朝御飯を食べ学校に行くために身支度を整える。
「......はぁ」
玄関まで来て扉を開けようとするがどうにも憂鬱だった。それは昨日朝倉さんと長門さんとあんなことがあったからだろう。
長門さんとの事はこの際気にしないでもなんとかなるが朝倉さんに関してはなんとかなるという域を完全に越えている。あの時の事を思い出すだけで手の震えが止まらなくなるくらいに俺は朝倉さんに恐怖心を持ってしまっていた。
まだ違うクラスなら顔を会わせない事も出来るだろうが同じクラスでマンションまで同じとなると顔を会わせないというのは不可能であろう。俺が学校を休み部屋の中でずっと寝ていても同じマンションで同じクラスの委員長である朝倉さんが俺の部屋に御見舞いに来る可能性も充分にある。今日こそ人に嫌われていない日を恨んだことはないだろう。
出来る限り目を会わせず避けようと心に決めて玄関のドアノブを捻った。
「おはよう♪」
ガチャっ.......バタン。
「..........」
一瞬幻覚と幻聴を見てしまった気がした。うちの玄関を開けたら笑顔の朝倉さんが立っていた。why.....何故だ。
朝倉さんがうちの玄関の前に立っている理由を考えるが何も思い付かない。そもそも仲事態悪くなくてもよくもないはずだ。少し話したという関係で友達ですらない相手の玄関に朝立っているとか.....やだ怖い。
ピンポーンと呼鈴を鳴らされる。心臓にまで響いたその音で体はビクッと反応して一歩後ろに下がってしまう。
「比企谷君、おはよう。そろそろ行かないと学校に遅刻しちゃうし出てきてくれると嬉しいな」
いつもの優しい口調で言ってくる朝倉さん。だが俺の脳裏ではこの言葉はこのように解釈されていた。
”そろそろ出てこないと力ずくで開けちゃうよ?”と.......。
俺はおそるおそる扉を開けると頬を膨らました朝倉さんが立っていた。
「もう!いきなり閉めちゃうなんて酷いなぁ。ちょっと傷付いちゃったよ」
傷付いたなら帰ってくれませんかね....関わらなくていいのでまじで....。
「はぁ...えーと。いきなりだったので」
「いきなり来ちゃった私も悪かったわよね。ごめんなさいね」
「......いえ、もう気にしてないんで」
「そう?それじゃあ一緒に学校行こっか♪」
「は?」
「もう行かないと本当に遅刻になっちゃうよ?それに準備できたから出てきたんでしょ?」
「.....別に一緒に行く理由はないと思いますが」
「んー。それね、理由ならあるのよね。比企谷君、昨日長門さんと話したでしょ?」
あー話しましたね。8割りくらい理解できない話を。
「どんな話をしたのか気になっちゃって。学校着くまで教えて欲しいなって」
「......長門さんに聞けば良いんじゃないですか?」
「それが聞いても教えてくれないのよ。こんなこと今まで無かったのに.....」
そう言えば長門さんは最後に”この時代の人間への情報の伝達は禁じられている”とか言ってたな。
「長門さんが話したくないって言ってるなら俺だって話せないですよ」
「.....まぁそうよね。良いわ、それじゃあ行きましょうか」
「........」
何故そこまでして俺と一緒に登校したがるんだ....。
学校に着くまで周りから色々な感情の籠った視線に晒されながらようやく教室に入るとハルヒはまだ来ていなかった。
俺は自分の席に座りイヤホンを耳につけて机に突っ伏していると肩を誰かに揺すられた。
顔を起こすと目の前には谷.....谷ーなんとかが国木田という奴と一緒に俺に何か言ってきていた。
イヤホンを外すと開口一番に谷なんとかは俺に一言言ってきた。
「お前!朝倉さんと付き合ってるのか!?」
「は?」
朝から頭の中がパンクしそうだった。
俺が?誰と?朝倉さんと?んなことあるわけない。てか一番苦手と言っても良いタイプだ。
「いきなりごめんよ、比企谷君。どうしても気になるって言うからさ」
「でもよ!実際の所どうなんだよ!」
「付き合ってない。そもそも友達になった覚えもない。これで良いだろ?」
「ん?何言ってるんだ?お前らどう考えても友達には見えるぞ?てか普通の友達以上だっての!いいか?よく聞けよ!女ってのはな!好きでもねー、興味すらねーような男と一緒に登校なんてしねーんだよ!!俺なんて!俺なんてな!......ううっ」
いきなり泣き出す谷なんとかさん。
「あははは....まあ付き合ってるかどうかは置いておいても友達じゃないって言うのはどうかと思うよ?」
「......はぁ....悪かったよ。だが深い繋がりはないからな?」
「うん理解したよ。色々とごめんね?」
「.....謝罪は良いから俺の机で号泣してるこいつをなんとかしてくれ」
「あははは.....」
そのあとハルヒと担任が何故か一緒に入ってきたが特に何かあるわけでもなくHRが始まった。
そして時間は過ぎて放課後になり俺は足しげくSOS団の部室に来ている。
現在俺と長門さんは読書。朝比奈さんは辺りをキョロキョロしている。.......こっちが落ち着かない。
バタンッ!と若干恒例になりつつあるハルヒの登場により俺は読んでいた小説に栞を挟んで机においた。
これは以前俺のマンションでハルヒの話を聞かずに小説に熱中していたところ小説を取られあまつさえ窓から捨てられたからだ。
あの時は本当に見付けるのに苦労した。
”私の話を聞かないなんて団員としてあるまじき行為だわ!”とか無茶苦茶なこと言いやがって。
「パソコンを手に入れに行くわよ!」
開口一番にこれである。
「パソコン?」
「そう!この部室には、パソコンもないのよ!信じられる!?」
いやパソコンある部活なんてそもそも殆どないだろうに....。
「この現代化社会にパソコンの一つも無いとは許しがたい事だわ!」
誰の許しが必要なんだよ....ハルヒだよなぁ...。
「それでパソコンなんてどうやって手に入れるんだ?」
「襲うのよ!」
「......どこを?」
「ん?コンピ研に決まってるでしょ!」
決まってるんだ....もしかしてこの学校ではコンピ研とやらに行けばパソコンを貰えるのだろうか。
「どうやって襲う気なんだ?相手だってパソコンくれって言ったって簡単にはくれないだろ?」
「そこは私に任せておきなさいよ!ちゃーんと考えてあるんだから!ほら行くわよ!八幡、みくるちゃん!」
「え、えーと。わたしも行くんですか?」
「あったり前でしょ!みくるちゃんが来てくれないと私の作戦が全部パーになっちゃうんだから!最重要人物よ!」
......凄い嫌な予感がする。
コンピューター研究会。訳してコンピ研とやらはうちの部室の2つ隣であった。
うん不自然なほどに近いな。
ハルヒはドアをノックもせずにガラッとコンピ研の部室を開き一言。
「おっ邪魔しまーす。パソコン一式~頂きにーきましたー。部長は誰?」
「......何か用?」
「コンピューター研究会に用事なんて一つしかないでしょ?一台で良いからパソコン頂戴」
「はあ?一体なんだよ」
「良いじゃない一個くらい。こーんなにあるんだし」
「あのね、てか君達誰?」
「私はSOS団、団長涼宮ハルヒ。後ろにいるのが団員その1とその2よ」
俺と朝比奈さんに指を向けて言ってくるハルヒ。
「と、言うわけだから四の五の言わずに一台寄越せ」
「どういうわけだよ!君ね、どういった事情か知らないけどあげられるはずないだろ?」
そりゃそうだよな.....でも何故かハルヒの顔がどことなく楽しそうなんだが。
ハルヒは朝比奈さんの腕を掴んで部長の隣まで連れていく。俺はこの時点でハルヒが何をするのか気付いてしまった。
いや後から考えても気付いてよかったんだと思う。
「ハルヒ」
俺はハルヒの名前を呼んでいた。
「何よ、八幡。用事なら後にしてくれる?」
「お前のやり方じゃパソコンは手に入らないと言ってもか?」
「っ!.....私が何をしようとしてるのか分かっていてそうな事言うのね」
いや誰だって分かるだろう。部長の隣に態々朝比奈さんを移動させ尚且つ先程からハルヒのポケットからチラチラ覗かせているカメラを見ればこれから録でもない事が起こることは明白だ。
「いや分からない方がおかしいと俺は思うが。それよりも俺がもっと確実な方法でパソコンを手に入れてやる」
「へー....面白そうじゃない。分かったわ」
「じゃあ5分ほど時間をくれ。ハルヒと朝比奈さんはそのまま待機で」
「わ、わかりました」
「分かったわ。我が団員の力今こそ見せなさい!」
「おい何を勝手に「五月蝿い」.....」
コンピ研の部長のもっともなツッコミだったがハルヒの一喝で沈んでるし.....。これハルヒがキレれば一台貰えるんじゃ?
「す、涼宮さん...」
「ほら八幡。早く行ってきなさい、時間過ぎちゃうわよ」
俺はコンピ研の部室から出ると長門さんが帰っていないことを祈りSOS団の部室に戻った。
昨日長門さんから聞いた話が本当であれば長門さんになら可能な筈だ。
駄目だった時は.......俺は心の中で朝比奈さんに合掌した。
部室に戻ると長門さんは、まだ本を呼んでいた。
「な、長門さん」
「......何?」
呼んでいた本をパタンとゆっくり閉じて此方を見て返事を返してくる。
「......コンピ研の部長の情報が知りたいんだが教えてくれるか?」
「コンピュータ研究部部長。現在2年生。年は17歳で「ああ、ちょっと待ってくれ。そういうプロフィール的なのではなくて.....なんて言うか情報が欲しいんだ」両親はホンジュラスにいるため、平凡な3階建てワンルームマンションの3階で一人暮らしをしている」
一人暮らしかぁ.....。
「付き合っている人もいない」
こうやって聞いてると本当に隙がない部長だな....だけどだからこそ一度隙が生まれればこういうタイプは脆くなる。
「長門さん。ハッキングなんてことは」
「可能」
「お願いがある。コンピ研のパソコンに違法なプログラムを閲覧したときに現れるバグ、と言うかウイルスを長門さんが操作して流して欲しい」
「分かった」
でもハッキングってパソコン必要なんだよな....さてどうするか。
「長門さん、パソコンって持ってる?」
「無い」
だよなぁ....。
「でも構築する」
「は?」
「Tdpjldgjmpdpt」
長門さんが何か呟いたら目の前にパソコンが....これコンピ研からもらう必要なくないか?
「......始める。いい?」
コンピ研....恨みはないが泣いてくれ。
「やってくれ」
「...........」
何を目の前でやっているのかサッパリ分からないけど子供の時にキーボードの音が好きでやたら押しまくったことあるけどそれより早い速度でなんかしてる......うんなんかしてる。
「な、なんだこれはぁあああああ!!」
そして聞こえてくるコンピ研部長の叫び声。
「ふぅ.....行きますか」