今回は序盤にグロテスクな描写がありますのでご注意下さい
『たすけ、て……』
娘が。
『おか、あ、さん……』
死んだ。
「ロマニ。ジャックは、
殺された。
惨たらしく、心臓を掴みだされて、餌を貪る家畜のように喰われた。
殺そう。
それが逆に思考をクリアにしてくれた。
神霊やそれに準ずる存在。
そんな上位者と対峙して肉体も精神も畏怖で雁字搦めになっていた。
それが今吹き飛んで、だからまず真っ先に娘の無事を尋ねた。
『……いや、駄目だッ。まだ帰還できない……完全に疑似霊核を奪われているッ!』
疑似霊核。
カルデアがマシュに施した
英霊を人間が扱うための保険。
召喚時に霊基本体をカルデアに登録することで生成されるそれをレイシフトさせることで、本人を直接レイシフトさせるのではなく疑似霊核を仲介して再召喚する。
そして疑似霊核は破壊されるかカルデアに戻るまで残り続ける。
制約として同時に霊核を持つ存在を使役はできないが、戦闘時に死亡しても何度でも再召喚が可能となり、貴重な戦力を失うこともなく、戦力の立て直しも容易に可能となる。
逆に言えば、一度生みだした疑似霊核が敵の手に渡ればカルデアに帰還することも敵わないということ。
「やってくれるじゃない畜生風情がッ」
殺された。
嗚呼許せない。
殺そう。
それでも心の何処かでそれは割り切れる理性がある。
それはそうだ、我々はサーヴァント。
人理を修復する為の、敵を殺す為の兵器なのだから。
割り切れるが、それとこれとは別問題で、おまけに、
「来なさい、
私の娘の死を玩んだ。
殺そう。
そうだ、殺そう。
「
「ありがとう……
海魔との戦いで幾つも小さくない傷を作った
その傷ついた身に、慈しむように手をそっと添えて、
「ッ!?ギネヴィアッ何をッ!?」
ずじゅりと土の香りのする肉が口内に溢れ、口で受け止められなかった汁がぽつりぽつりと顎を伝って零れていく。
殺そう。
喉を嚥下し臓腑へ収まる。
殺すのだ。
我が子を殺し愚弄し喰らった仇の前で、自分も生きた我が子を喰らう。
殺さなくては。
恥も外聞も忘れただ無心に喰らい、肉を貪る。
例えどんな手であっても。
周りがその光景でようやく動き出し、咎めるよりも先にまた凍り付いていた。
己の手によってでなくても。
どうでもいいことだ、これが最適解なのだから。
生を玩ぶ神を、家族を奪った化け物を、決して決して許すことなど、
そうして身を半分ほど抉るようにして食べ終えて、服の中に仕舞っておいた布巾で汚れた口元を拭い、
「ちょっと
肉片と体液が付着したそれも口に頬り込み、一息で飲み込んだ。
これでようやく準備は完了だ。
嗚呼やっと殺せる。
使い果たした筈の魔力が補完される。
「あら?どうしたの?」
見れば、悠然と構えているのはこれから狩られる分際の畜生だけで、周囲の英雄たちは誰も彼もが戸惑うように唖然としている。
何故私の仇を、あの愚か者を誰も殺しに行かないのだろう。
ああ、みーんな魔力がないからか。
なら、安心させてあげなくちゃ。
「大丈夫よ、今魔力を回すから。その為に
さあ奪還だ、私の娘を取り返して、神を名乗った愚か者を狩るとしよう。
「ふむ、もう待つのは良いだろうか?女神を待たせたのだ、それなりの物は見せてくれるのだろう」
煩いな、何か獣が吼えている。
だから返事はしない。
周りを見回し、声を掛けるのは仲間に対してだけだ。
「さて皆さん?準備はいいかしら……返事が無くて寂しいわ。
まあでも、どうでもいいか。
魔術回路が軋みながら起動する。
殺せれば、それでいい。
真名の解放と同時に『魔力充填』と『陣地作成』を起動させ、スキルその物を
陽は落ち、月と星が輝く空の下で、その輝きを受ける様に大地から溢れた魔力が闇夜を照らす。
「……成程、確かに理には適っているか」
「僕としては耳を切り落としたい気分だけどね」
「ええ、やり方に聊か疑問を覚えますが、今この時は忘れましょう。感謝します、王妃殿」
「まっ、あれぐらい大したことないわよ。これでアイツ倒せるなら安いもんじゃない?」
「ドラ娘に同意するのは癪ですが、そのようですね」
「どういたしまして、皆さま。さあ士郎君達も早く行ってらっしゃい」
機能を拡大・変容する形で増幅させた陣地作成スキル、そして魔力充填によって、彼らに大地から魔力が一時的に、そして常時付与される。
魔力を漲らせた仲間たち。
そう長くは持たないが、それでも今は十分だろう。
必要なら、宝具をまた喰えばいい。
「そうですね、今は目の前のことを。皆さん、もう少しだけこの地の、人類の為に力をッ」
「……言いたいことは山ほどあるが後回しだ、行くとしよう」
その言葉で彼らは各々の得物を握って飛び出していく。
あのアマデウスすら指揮棒を力強く握りしめている。
けれど、顔を伏せたまま、メドゥーサは動かない。
早く、早く、殺しに行かなくちゃいけないのに。
大勢で蹂躙して、生娘の様に啼かせて、そうだ、ジャックの霊核を取り戻したら腹を裂いて子宮を抉り取ってやるのもいいかもしれない。
真なる母親、笑わせるなよ下郎。
あの身の程も知らない化け物の事だ、抜き取られて目の前で母の証を潰されればさぞいい声を上げるだろう。
そうだそうだ、それがいい。
死を玩んだのだ。
生を愚弄したのだ。
娘を奪ったのだ。
だから、これは当然の報いだ。
だって、そうでしょう?
―――復讐は果たさなくてはいけない。
だというのにちっとも動かないメドゥーサに少し苛立って、声を投げる。
「ちょっと!みんな行ってしまったわよ?私ももうちょっと供給が安定したらすぐに向かうから、気にせずはやくいきなさ「ドクター、貴方の行為はやはり正解でした」はぁ?」
この期に及んで何を言うのか。
ロマニがどうしたというのだろう。
「
良く聞こえないが何だというのか。
「ぶつくさ言ってると小皺がふえちゃうわよー。……もういいわッ!私の方も準備万端、一緒に狩りに行きましょう?」
声を掛けても返事はない。
早く殺さなくちゃいけないのに。
生かしているのが、目の前に存在するのが、悲鳴を上げてしまう程悍ましいというのに、何を立ち竦んでいるのだろうか。
だから私は彼女を放って駆けだした。
さあ、娘を返してもらいましょう。
「……ダ・ヴィンチ、今の映像は」
『大丈夫だ、こちらで内密に観測していたバイタルデータが変化した時点で遮断しておいた。立夏やマシュ達は勿論、こっちのスタッフも見ちゃいないさ。それにこの会話も誤魔化してる』
「賢明な判断です……目の前の女神とやらについての計測は大丈夫でしたか?」
『すまない、映像を遮断していたからたった今観測計器を復帰させたんだ。女神についてはこれからになるよ』
「分かりました」
『……最悪、これ以上精神汚染が進むようなら君が彼女の疑似霊核を破壊してくれ。戦闘でなくても、平時のカルデアでは彼女は必要な人材だ』
「分かっています」
『すまない、メドゥーサ君』
「お気になさらず、私は彼女の友達、ですから。貴方方は計測の方に力を入れてください」
そんな言葉が風に乗って、私の耳に届く前に消えた。
「ふむ、待たされたからには上等な贄が出されると期待したのだがな」
女神とやらが何かを呟く。
どうだっていい。
「格好つけて出てきたが、正面切って殴り合うのは僕にはちょっと荷が重すぎるかなッ!」
「あら?それなら得意の演奏で皆を応援してあげて」
「ギネヴィア、君はッ?」
「私はか弱い女の子ですもの、精々小狡く邪魔してやるわ」
「そうかいッ!」
飛ぶように風を切って走り後方の戦列に加わる。
前では白刃を煌かせながら士郎君たちの様に近接戦に長けた英霊が武を振るっている。
目の前の畜生はその攻勢に防戦を強いられ、躱すので精一杯。
多勢に無勢、と言ったところか。
とはいえ、あれだけの英霊を相手によく交わしている。
成程、カリュドーンの猪を冠すだけはあるだろう。
あれは野を這う害獣のそれだ。
忌々しくも農作物を荒らし、時に民に害成すブリテンでは見知った猪の動き。
それが女の形を模って這いずっている。
先に来ていたアマデウスの横に並ぶ。
言葉通り、アマデウスは指揮棒を振るって賦活を施す音楽魔術を響かせる。
なら自分は簡単だ。
あれの動きを邪魔してやればいい。
「修復後のことは今だけ目を瞑って頂戴な。どうせうちより土地は有るんですもの……
魔力を練り上げる。
空間拡張を施した袖の内に隠しておいた種を撒きながら
『Jiiiiiiiiiiii!』
宝具のような意思を持つことはできず、ただ繁殖するだけの雑草、数は二十と七。
数だけ多くて、その癖、大地に根を張る所為で処理が遅れれば土地が傷つく。
これまでは土地を破壊すれば人理修復をしても歴史に爪痕を残しかねないから使わなかったが、どうでもいい。
そもガリアはブリテンより土地が多いのだ。
この一区画が十年程不毛の地になっても、許してもらおう。
蔓で編まれた木竜達はその触手を伸ばし、竜頭を擡げながら茨で出来た牙を剥く。
「殺しなさい。ああそれから、邪魔はしないように」
返事はなくただ機械の様に命じられたままに動き出す。
隣でうひゃーと嫌そうな声をアマデウスが出してるが仕方がない。
忌々しいことだが、目の前のアレは女神を名乗るだけあって相応の格のようなのだから。
出し惜しみなんてしていられない。
作戦なんてものも、一つもない突発的な戦闘だ。
何より、娘を奪われた。
なら、何をしたって、何を踏みにじったって、家族を取り戻さなくちゃいけない。
『諸君、朗報だ!如何やらその女神様だが魔力こそ莫大だが、霊基自体はアタランテの物だ』
「それでは聖杯の恩恵、それにあの様子では
レオナルドの声が戦場に響き、続いて遅れてやって来たメドゥーサの言葉にロマニが合意した。
それは確かに幸いな知らせであっただ。
如何に魔力が莫大で、格こそ神霊に近づこうと、まだあの女はサーヴァントの霊基の範疇に収まっている。
『その通りだ、メドゥーサ。如何やらあの女神は名前や魔力こそ神霊に準ずるほどだけど、霊基自体は前に観測されたアタランテのそれだよ。多すぎる魔力も聖杯から供給されたものだろう』
『そして英霊十騎を相手に立ち回っていられる能力強化は名前の通りカリュドーンの猪、女神から人間を間引くために遣わされた天罰が宝具化したものによるのだろうさ。とは言え高ランクの狂化でも付与されたのか、それともあんな無理やりな魂喰いで霊基が傷ついたのか……理由はまだ定かじゃないが湯水のように、それこそ肉体が自壊しかねない勢いで宝具の連続使用をしている』
暴走と呼ぶに相応しいだろう、そう肩を竦めて言うレオナルドの言葉で理解する。
「カリュドーンの猪と言えばアルゴー船の勇士達ですら手を拱いたそうですが、それでも不死の類ではありませんね」
「と言う事は、このまま殴り切れば勝てるってことでいいのかな?何だか随分とあっけない終曲のようだが」
「あらいいじゃない」
速く済むのはいいことだ。
何せそれだけ娘が早く帰ってきて、それだけ長く相手を苦しめられるのだから。
なら自分もガンバラネバ。
「ついでにもう一働きしましょう、かッ!」
魔力を撃ち出す為の陣が空中に描かれる。
王剣を掲げる。
目の前で剣と槍を交わしながら、その毛皮で炎を防いでいる敵へ向けてそれを振り抜き、号令を掛ける。
「
言葉を受けて頭上から光線は放たれる。
魔術は幾ら大地から受け取っていようと限度がある。
そもそも王剣を起動させながらの魔術行使では威力にも限界がある。
だがそれでも目晦まし程度にはなる。
当然、その意を酌んで魔力で編まれた弾丸は避けようとする女神の動きを阻害する。
ほらもう避けられない。
髪を焦がし、皮膚を裂き、毛皮を砕く。
不死ではない。
魂喰いでどれほど強化しようと、不死でなければいくらでも勝ち目はある。
「あはっ」
先程の海魔とは逆に、今度はこちらが数で勝った。
ああ早く、あの母なんぞと宣う愚者の肢体を切り落とせないだろうか。
「ふむ……やはり駄目だな」
そんな考えは、
「肥えた鼠の方が腹も膨れると思って待ってはみたが、鼠ではなく蟻だったか」
目の前で膨れ上がった魔力で霧散した。
「鼠なら狩りにもなるが、蟻を踏み潰さぬよう歩くのは少しばかり疲れた……ん?ああ、この
魔力だけではない。
形が変わる。
魔獣の毛皮を纏っただけの人型が、冒し食まれるようにして人皮と獣皮が交わる。
溢れる魔力は夜空より尚深い闇色の靄へなり果てその身を包む。
人の肢体が獣の如き、それでいて体格と不揃いな物へと変じる。
「変わらんモノだ、お前たちは。アルテミスが私を地上に贈ったその時から幾星霜か、哀れなアタランテの願いはまだ叶わない。挙句の果てに自分たちが取り零した膿に首を絞められ全て燃やされるとは。本当に矮小で惰弱で、胸を打つほどに不出来な子らだよ、
一歩踏み出す。
地が悲鳴を上げ、作成した陣地が捻じ曲がり自陣に魔力を供給し続けてきた術式が崩壊する。
魔術行使ではなく、ただ存在するその
意識がないはずの木竜たちが狂ったように自らの身体に茨を突き立てる。
今自分で死ななくてはもっと悲惨な目に合うとそう感じ取ったように。
「どれ、戯れだ。母はこう見えて身重なのでな、少し」
―――身体を動かすとしよう。
宣告通り、風が吹いた。
「ぐぅッッ!」
「ゲオルギウスッッ!?」
その動きを、ただ前進するという挙動を咄嗟に防いだ聖ジョージの剣、それを握っていた腕は捩れた様に在らぬ方向へ折れ曲がる。
「嗚呼すぐ壊れてくれるなよ、異教徒よ。これでは私も少し困ってしまう、適度な運動とやらは子を胎に抱えていても必要な物なのでな」
初めからそこにいたように私たちの遥か後ろに降り立つ女神。
何てことはない、ただ走って、最高位の竜殺しが僅かに対応する隙しかなかった。
あの魔物がこの場にいる誰よりも速かったという事。
焦燥が汗となって落ちる。
「そう言えば、奏楽と言うのは胎児に良いと聞いたな……どうだ音楽家よ?」
「さあ?どうだろぅッ!?」
膨大な魔力を前に一度演奏が止まってしまったアマデウスも今一度魔術を行使するが、それを楽しむようにして、踊るように一歩を踏んだ女は、
「困ったものだ、母が聞いているというのに返事をしないとは。―――
その一歩で間合いを詰め、彼の胸に添えた手を押し出した。
「がっ、はァッ!?」
「アマデウスッ!」
転がり、吹き飛ばされた彼からの返事は帰ってこない。
衝撃で土が抉れ、倒れ伏してまま身じろぎ一つしない。
魔力付与の術式も切れ、最後の要だったアマデウスの音楽魔術による支援すらなくなった
それでもやれることはある。
「ならもう一回ッ!
「いけませんッギネヴィアさんッ!!」
少しでも強化を施さねばいけない、そう思って残り僅かな魔力を篭め真名を開放しようとした時にはもう剣が手から滑り落ちていた。
違う、
「なぁッ!?」
剣を掴んでいた自分の右腕を喰い千切られたのだ。
「ギネヴィアさん!今治療をッ!」
「ルーラーそちらは任せたッ!ライダー行くぞッ!!」
痛い。
焼けたように傷口が騒ぎ、喰い千切られた衝撃で骨も骨格を歪めながら引きずり出されている。
それでも感覚がある程度麻痺している自分でなら耐えられる。
ああでもこれはいったい何なのか。
「不味い腕だな、味がない」
それは迫る士郎君とメドゥーサを見て嗤う女の後ろにあった。
見れば背部より月光を浴びて濃い影を作りながら踊る尾、否、竜蛇のような咢を持って揺れるそれを尾と呼んでいいのか。
『魔力変動値、急速に変化ッ!霊基の変質が止まりませんッッ!!』
『こんな、こんなことがあり得るのか!?ついさっきまで、只の英霊だったんだぞ!!』
『手を抜かれてたんだ!いいから手を動かせロマニッ!最悪、ここで何もかもご破算だ!』
その言葉がどんな意味だったのかは分からないが、
「チィッ!」
「これ程とは……ッ!」
双剣を砕かれ、短剣を飴菓子の様に丸められて、そのまま弾き飛ばされた仲間の姿を見て、目の前の存在が勝算なんてものを何一つ描けないそんな相手と殺しあっているのだと今更だが理解できた。
「そッれならァッッ!!」
先程まで鳴り響いていたアマデウスが鳴らしていた音楽魔術とは違うただ吼えるような叫び。
私の『話術』の上位互換とも言うべき宝具、『
竜の系譜にある者だけが許される特権、呼吸をすることで莫大な魔力を生み出す。
そしてその大源を圧縮・具現することで生み出される天災こそが至高の竜種たる所以、即ち
「忌々しいな、竜の息吹か。蝮風情が竜であるからという理由だけで
叫びは大地を捲り上げ、正しく竜のそれと称すに相応しい威力で魔物を捉えて。
無造作に振るわれた敵の腕によって霧散した。
「う、そ……」
「嘘?嘘な物か、これが現実だ」
渾身の一撃が露と消えて呆けたようにほんの刹那エリザベートが立ち尽くした。
その時にはもう彼方に居た魔物は、彼女の目の前にいた。
「ッ!?こんのォォッ!!」
間合いが近すぎる。
槍を獲物とするエリザベートの判断は正しかった。
だから再度宝具を発動させながら、その反動で後方に跳んで、
「汝の声は聊か以上に騒がしいな、これでは我が子が目を覚ましてしまうだろう?」
その時にはもう、目の前に居た筈の魔物が彼女の頭上で鋭爪を奔らせていた。
「退きなさいッ!!」
その爪がエリザベートに触れる直前、近くに居た清姫が押し退け割り込み、
「ッッ!?あああああああッ!」
容易く切り裂かれた。
「竜と聞いて手心を加えてやるのも如何かと思ったが、やはり蝮か」
「それ程竜種と相対したというのなら、是も貰っていけッ―――
黄昏に沈む神代の輝きがジークフリートの手から放たれる。
一度ではない、数度連続で放たれるそれは夜にあって尚明るく世界を照らす。
魔力供給が途絶えた状況で連続解放できる宝具の燃費、そしてそれを寸分違わず敵目掛けて放つ剣士の技量。
間違いなく絶技であり、
「これは
それを全て夜空へと飛び上がって回避して無力化するなど、思いもしなかった。
「神とは願い乞われた祈りに応えるモノ、故に私も
腕から延びる先程まではなかった翼。
それを優雅に広げた女は、下卑た、それでいて異様なほど愛に溢れた笑顔を向けてきた。
風が吹いてほんの僅か、時計の針が一回りするよりも短い間に私たちの戦列はあっけなく崩れ、地に伏せそれを仰ぐことしか出来ない。
『撤退だ、今すぐその場から離れるんだッッ!!宝具の、それも高出力の魔力反応だッ!』
ロマニの言葉は焦燥で満ちていた。
言われなくても、誰もが分かる。
敗北だ、もう誰もあの宝具を迎え撃てるだけの余力も魔力も残っていない。
「闇天の弓よ、災厄を満たせ」
巨大化した腕を突き破るようにして漆黒の弓が顕現し、
「
夜空を埋め尽くす星の様に、数えることすら敵わぬ矢の軍勢が地上に降り注いで、
「ごめん、なさい……ジャック」
私たちは文字通り敗北した。
猪に車をお釈迦にされた時のことを思い出しながら書きました(ド田舎感)
まあ礼装なしで女神に挑んだらこうなるよなって感じです