オリ主が挑む定礎復元   作:大根系男子

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色々悩みましたが予定通り書いたのを投稿することにしました。
どうしてこうなった


純白の花嫁(すごーい!貴女は猪のフレンズなのね!)

世界は不変であった。

世界は完璧であった。

最早この時代に対界宝具という権能は存在せず、誰かが世界を歪めようと抑止力が人理守護の為働く。

 

「何故だ……」

 

だが誤算があった。

遠き古の世よりこれまでもの間、生命の救済を掲げ、現存する生命を燃やし尽くすことを覚悟した獣がいた。

これは大きな誤算で、抑止力の手を伸ばせる範囲を大きく超えた事態だった。

 

「何故、何故ッ何なのだッ!?」

 

だから抑止力は最後に残った人類に少しでも助力を送ろうとした。

例えば遠い平行世界に居た守護者の同一存在を呼び寄せ、英霊の殻を被せた。

本人は喜んで了承した、『それでその世界の桜を守れるなら』と。

可能だった、何せ時代が継ぎ接ぎなのだ。

()()()()()()()だろうと、余りに不安定な世界だということを逆に利用すれば簡単に招聘できた。

そういう存在なのだ、世界の修正力とは。

 

「何ダこの記憶は!?」

 

同じように点在する特異点ごとを繋ぐため、それぞれの時代を繋ぐため、失われた時間を補填しようとした。

だからあの記憶が流れ込んでしまった。

 

「何だこの思いは!?」

 

アサシンの宝具が胸に届いたが、それが魔術で限定的に使用を可能とした不完全なものだったから。

単独行動を許されるアタランテの霊核はそれでも現界していられた。

 

「嗚呼憎い……」

 

その時、傷ついた霊基にその記憶が入り込んだのだ。

 

「憎いぞ、猛る憎悪が、燻ぶるのだッ!」

 

彼女はそれを通り過ぎたはずだった。

あの戦争でついてしまった一つの疵。

幼き少女の亡霊を宿したが故に狂ったあの悲劇。

座で確かにその情報を知りはした。

 

「知らない知らない知らないッ!私はこんな思いを抱いてはいない!こんな思いはッ!この願いはッ!彼ガ正シテクレタッ!」

 

だが、他ならぬ大英雄の手によって、若草色の彗星が、心を壊した彼女を救ってくれたはずだ。

何よりこの地に召喚された彼女は座にある情報として知っていても、そもそもあのルーマニアに召喚された彼女とは別人なのだからそれに感傷を抱くことなど有るはずがない。

 

「違う違うッ!やめろッ私を曲げるなッ!私の願いを穢してくれるなッ!」

 

だが彼女は狂化が竜の魔女の手で施されていた。

気高い誇りが、英霊としての理性がそもそも薄かった。

だから入ってきた記憶の中の自分と、今ここにいる自分を混同してしまう。

だから間違えてしまう、壊れてしまう。

 

「私の復讐はあの時あやつが終わらせてくれたのだッッッ!!!」

 

復讐心に染まってしまう。

そしてまた、壊れた心に滑り込んできたものが居た。

 

―――AaaaaaAAaAaaaaAAAAAAAAAaaAAAAAaAAAaAaa。

 

彼女の衣が変わる。

淡い若草色が泥に染まったように暗く沈む。

何時の間に発動したのか彼女が忌み嫌った宝具が展開される。

それすらも暗く、暗く泥の中へと変わる。

彼女の意識もまた暗い泥の中に沈み、其処にいるのは心優しい願いを間違った方法で叶えようとする彼女の姿をしたナニカ。

 

「―――嗚呼そうか、そうだった。思い出したぞ聖女よ。思い出したぞ我が愛おしい子よ」

 

赤く脈動する魔力。

その眼もまた神霊の眷属たる証として深紅に輝く。

 

「今行こう、今殺そう、今愛そう。そうだそうだそうだッ!私はそうだった!」

 

彼女は元より純潔の女神に誓いを立てた存在。

それは英霊となった今も変わらない。

だがけれど、彼女が纏う神の香りはアカイアの物ではない。

 

「そうだッ私は全てのッ全ての報われぬ者ヲッ救ワレヌ愛し子を愛サネバナラナイッ!」

 

それはもっと古い原初の記憶。

それはだれも予測していなかった災厄。

此処が連綿と繋がった地続きの歴史から切り離された特異点であったが故に。

 

優しい願い(アタランテ)は、彼女に届いて壊されてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

戦況は一変した。

当然だ。

固有結界『無限の剣製』、数多の宝具を抱きかかえる奇跡の結晶。

彼の持つ切り札の一つ。

多くの海魔は切り裂かれ、焼き払われ、そして竜種も大英雄によって完全に沈黙した。

それでも、未だ戦争は終わらない。

 

「攻めあぐねますね」

「ええ、あの海魔の軍団、本当に邪魔よ」

 

確かに竜は何とかなった。

だが未だ海魔の群れは減ることを知らない。

やはりというか、知識として知っていたが、ジル・ド・レェはあの宝具を持っている。

海魔を召喚するあの魔導書。

知っている、私のいた時代にはなかったが転生する前に得たと思われる知識で知っていた。

青髭と呼ばれた救国の英雄の末路を。

そして彼が手を出した魔術というのがどういう物かを。

 

知っているからこそ、対策は取ったがこの状況では決定打にならない。

あれを屠るには本体が出てこなくてはいけない。

ちまちまと消耗戦を繰り返し、あちらがしびれを切らして本命たる邪神の眷属を呼び寄せるその瞬間まで、戦争は終われない。

がりりと爪を噛む。

いやな癖だ。

自分はこうなると何時もこの癖が出る。

 

あれは危険だ。

名を知らずとも、彼ら古の神々を記した魔導書と聞けばその価値と危険性など幾らでもわかる。

だから早く倒しておきたかったが、どうにも上手くいかないものだ。

リスクは時間が延びればそれだけ増える。

膠着する時間が長ければ長いだけ、マスターやマシュの身に降りかかる危険が増えるのだから。

聖杯からの無限の魔力による無尽蔵の海魔は、無限を冠す固有結界をもってしても打破できず、おまけにこちらにはマスターが居る。

どうにか早く仕留めたかったが、やはり次の札を切らねばならない。

 

「メドゥーサ、お願いできる?」

「ええ、その為に私は貴女の近衛の真似事をしているのですから」

 

本当に、そう本当にこれは悪手だ。

何せ一瞬とは言えマスターを危険に晒すもの。

了解を得ているとはいえ、例えマシュがいるからと言っても、ほんの刹那の時間でも彼女の護衛を少なくするは馬鹿な話だ。

だが、決まれば抜群の効果がある。

何せまだこの地で披露してない切り札(スキル)なのだから。

 

「分断は出来たし、頃合いかしらね?」

「ジークフリートは前線で、聖女と竜種の娘たちもそのサポートに。ゲオルギウスは手筈通りキャスターを抑え込んでいますし、士郎とアマデウスは後方から剣軍と魔術で攪乱していますし。そうですね、この分ならマスターの護衛に回っているあの二人までには意識を向けていないでしょう」

 

戦況は膠着している。

こちらの魔力は無限ではない。

だからこそ風穴を開ける必要がある。

 

「そっ、なら行きましょうか」

「ええ、ギネヴィア。ではどうぞ」

 

メドゥーサの言葉を受けて私は高らかに歌い上げる。

注意が否応なしにこちらに向くように。

そして事前に伝えた作戦の合図なのだと娘が気づくように。

思い切り大声で可愛く叫ぶ。

さあ、キュートにポップに、

 

―――血祭の時間だ。

 

「スーパープリティギネヴィアちゃん!行っきまーす!!」

「可憐かどうかは別としますが、まあ良いでしょう、行きましょう―――騎栄の手綱(ベルレフォーン)ッ!」

 

手を挙げて突撃すると宣言した。

それと同時に私を載せてメドゥーサの天馬が黒い聖女へと突撃する。

 

「んなッ!?」

「ジャンヌゥゥゥッ!」

「申し訳ありませんが、此処を行かせるわけにはいきませんよ、キャスター」

 

当然気づくようにしたのだからキャスターもジャンヌを守りに行こうとするが、キャスター自身は聖ジョージの手で止められる。

上空からの突撃。

だがキャスターは止められても海魔の群れは止まらない。

増殖ではなく互いを貪るように大きく、醜く、肉の壁となって黒い聖女を守ろうとする。

恐らく、この突撃自体は彼女に届かないだろう。

けれど、十分だ。

 

「後ろは任せたわよメドゥーサ!」

「ええ、ご武勇を」

 

よく言うわ。

私が何をするか知ってるくせに。

武勇なんてもの私は一つも振るう気がないというのに。

 

海魔の城壁を突き抜けて、私は地上に降りる。

メドゥーサは再度分裂し後ろから迫る海魔達を押し留める役割に徹する。

さて準備は出来た。

ご機嫌な挨拶といきましょう。

 

「やっほーお元気?いい天気よ、蛸となんか遊んでないで私と遊びましょ?」

「どこがいい天気よッ!?」

 

それはそうか、ちゃんと見ていないが上空は黄昏色に染まっている。

おまけに至る所で血飛沫も舞っていることだ、さぞ壮観だろう。

 

まああんまり問答をする気はない。

それに返事はせずに、愚直に前進。

手に持った王剣を振りかざしながら吶喊する。

 

「チィッ!」

「舌打ちしてると嫌な癖になるわよー」

 

努めて呑気な声で剣を振りかぶり、叩きつける。

黒い聖女も当然、その手に持った旗で応戦し、

 

「ふんッ!そんなちんけな体と魔力で私に害をなせるわけないでしょ!」

「まあ本当、あらやだわ、どうしましょう」

 

当然の如く振り払われる。

自分の貧弱ぶりには情けなくなるが、今はその時ではない。

手から弾き飛ばされそうになったのを何とか掴めた王剣をもう一度構えなおす。

吶喊。

 

「何度も何度も無駄なことをッ!」

 

無駄、その通りだ。

王剣の真名を開放したところで自分のステータスでは彼女には及びもつかない。

どう考えても白兵戦で戦っても埒は飽かない。

だから切り札(スキル)が必要なのだ。

 

「そうね……だから、とっておきよ」

 

『王妃の采配』発動。

 

「なッ!?」

 

嘗て己が招聘した幾多の識者。

それは内政、農作、軍事を問わず、出身も身分も問わず、数多の有能な人間を集めたことに由来するスキル。

カルデア式で呼ばれたこの身では一度使えば暫く使えないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「じゃあね、黒い聖女様?」

 

―――此よりは地獄。

 

静かに彼女たちが死を告げる。

 

この効果は人間観察の派生。

己と向かい合ったものの得手不得手を見抜くこと。

同時に、その人間を必要な役職に配置する事。

 

「霧の中に沈みなさい」

 

―――わたしたちは、炎、雨、力。

 

それがサーヴァントとなったことで強化された。

人を見抜く側面ではなく、王権を以って人に果たすべき勤めを下す。

即ち、

 

―――殺戮を此処に。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

だからこその突撃。

無能な自分がこの場でルーラーに肉薄した理由。

 

霧は濃くなり形を成す。

先程まで迫りくる魔物から主人を守っていた小さな暗殺者。

対女性であれば、格の違いも捨て去る究極の一。

 

「馬鹿なッ!?」

 

―――解体聖母(マリア・ザ・リッパ―)

 

かつて霧の街を不安の渦へと落とし込んだ明けぬ夜の再現が此処に成す。

ジャックの一撃は鋭く彼女の心臓へ向かい、寸分違わず彼女を切り裂いた。

 

「あぁ、そんな……ジル…たす…けて……」

 

そして彼女は光となって散っていった。

 

 

 

「オオオォォォッ!ジャンヌゥッ!ジャンヌッッ!」

 

絶叫が響いた。

 

「ジル……もう止めましょう。貴方がどんな思いを抱いてい「黙レェェッ!」……ッ」

 

零れ落ちそうになる眼球から血涙を流して、傷ついた身体を押して敵は立ち上がる。

 

「オノレ貧夫共メッ!許さぬ、決してッ!決してッ!」

 

ジル・ド・レェの宝具が何を呼ぶのか、それは間違いなく太古の邪神の現身だろう。

此方の戦力ではかなり厳しい戦いが予測できた。

だがそれは備えがあれば問題なく、備えはそもそもカルデアに居た。

だからむしろ、無限に再生する集団(海魔)よりも一個体に集合した邪神(大海魔)こそが勝利の鍵だと考えていた。

 

「聖杯よぉぅッ!我が願望をッ我が復讐を叶える杯よッ!我が身を……否ァッ!我が宝具を以ってここに顕現シナサイッ!」

 

けれど現れたのは異なっていた。

それは邪神よりもずっと、美しく、洗礼されている、

 

「これに至るは邪神に非ず!七十二柱の魔神ナリィッ!」

 

醜悪な魔神だった。

 

 

 

「美味なり。キャスターよ、貴様の憎悪(宝具)、些か以上に礼節は足りぬが実に美味なり」

 

その名は魔導を歩む者ならば決して無視できない言葉。

 

「我は七十二柱の魔神が一柱、ナベリウス。求められるがままに智慧を与え、復讐を以って儚き名誉を回復する者」

 

全能の指輪を神より授けられた偉大な先人が、束ねたとされる太古の魔神。

目の前の存在はその名を冠し、相応の格を持っていた。

 

「望むがいい、人間よ。儚く脆い貴様たちは思うが儘に復讐をするがいい、思うが儘に怨嗟を語るがいい、思うが儘に憎悪に焼かれるがいい」

 

この身では到底勝ち目はないだろう。

 

「この身は神、願いを聞き届けるモノ、悲鳴に手を差し伸べるモノ、決して悲劇を見過ごさぬモノ。乞われた復讐を今果たそう」

 

だが準備は十全だった。

 

「……これは流石に驚きましたね」

「かつて屠り、この時代でも矛を構えたが、あのファフニールですらここまで醜悪ではなかったぞ」

 

まさかこんなモノが現れるとは思わなかった。

皮膚が粟立ち、その神威を感じ取る。

同時にあれが予定と同じく『悪』であり『神』であることが分かる。

だから誰もが好戦的な笑みを浮かべる。

まだ目は死なない。

 

「ちょ、ちょっと!どうするのよ子犬!」

 

……一人は分かっていない子もいるが。

 

「大丈夫だよエリちゃん。だって此処にはエミヤがいるもん」

 

エリザベートを宥めながら、マスターは()()()()()()()()()()()()()

 

野に現れるは忌むべき魔神。

この神秘薄き中世で予測される最悪。

それがキャスターであるジル・ド・レェの持つ『螺湮城教本』によって召喚されるだろう邪神の現身だ。

けれど現れたのはソロモン七十二柱の悪魔の名を冠す魔神だった。

確かに脅威だ。

だがそれは、こちらに神殺しが、それも悪性の神を討った英雄が居ない限りだ。

 

「だからこそ弓兵()がいる」

 

真紅の外套を翻し、彼は己の得物たる双剣を捨てた。

左腕に現れるのは普段使う黒塗りの洋弓ではない。

 

「―――憑依、継承(トレース・オン)

 

魔力が爆ぜるように空気を吼えさせる。

番えるは荒らしき石剣、それを削り込んで造り上げたという矢。

 

「―――真名、装填(トリガー・オフ)

 

構えるは大いなる剛弓、彼自身は知らずともその業の原典が使ったとされる対幻想種用宝具。

彼の本質は投影魔術師だ。

固有結界『無限の剣製』に連なる宝具以外使用することはできない。

 

全行程収斂完了(Anfang/セット)―――」

 

 

本来であれば『エミヤ』という英霊は生涯真作を振るうことは許されない

究極の一を持つことはできない。

だがその原典の神髄は、アカイアの豪傑が生み出した業であり、事実として多くの英雄に受け継がれた物。

だからこそ許された。

 

「我が姉を守りし大英雄の業を此処に」

 

弓兵として召喚された身は、本来全てに全ての状況で使えうる技術の内二つ、即ち彼が生前使用した九つの斬撃の他にその弓兵としての業を与えられた。

 

彼は疑似サーヴァント。

英霊エミヤの殻を背負った名も無い人。

英雄にも守護者にもならずたった一人の愛する人を生涯かけて守り通した並行世界の存在。

彼が成したのはただそれだけ。

だがその果てにたった一人の正義の味方(たった一つの答え)を得て、それ故に彼はそれを持つことを世界から、そして彼の姉を守った大英雄から認められた究極の一。

 

だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()として許されたのだ。

 

 

 

是・射殺す百頭(ナインライヴズ・ブレイドワークス)ッッ!」

 

 

―――瞬間、この世界に神話が再現される。

放たれた一射は九つの竜へと形を変え突き刺さった。

それは呪詛でもなければ魔術でもない。

 

「ぬうぅぅぅッ!!?」

 

ただ殺す。

幾度再生しようと構わない。

この一度で殺す。

再生する為の頭を全て穿つ九つでありながらただ一度の一射。

だからこそ、一度ですべての命を奪うと豪語し成し遂げた英雄の功績。

その功績ゆえに、神秘となった復元阻害の神威と技術が顕現した。

 

「馬鹿な、莫迦な、バカナッ!!何故戻らない、何故修復しないッ!」

 

「それは神が定めたあらゆる試練を成し遂げた大英雄(ヘラクレス)の技術。無限に再生する魔竜を討ったとんでも宝具よ?再生なんて真似させるわけないでしょ?」

「残念ですが貴方が抗うのは無理ですよ、ソロモンの魔神の名を冠す者。何せ士郎が振るうそれにはヘラクレスの技術だけではなく、邪神殺しの神秘(『神殺し』)も載せられている」

 

この世全ての悪を討った彼は伊逹ではありませんとメドゥーサも続けて嬉しそうに自慢する。

 

射殺す百頭という万能宝具に『神殺し』のスキルを載せ一時的にランクを本来(原典)と同じA+まで叩き上げたその連撃は確かに魔神をも穿って見せた。

九つの孔を開けられた魔神はその格を大きく劣化させる。

何せ神たる所以、不死性(再生能力)を失ったのだから。

口に出さずとも分かる。

此処が好機だ。

 

「では俺達も行くとしよう」

「ええ。マスター、タイミングは貴方にお願いしましょう」

 

世界が誇る二騎の竜殺しは剣を構える。

 

「うん。任せて」

 

返答は各々が魔力で返す。

 

「仕方がない、大盤振る舞いだけで良いわ!とびっきりのナンバー聞かせてあげる!」

「勿論です安珍様(マスター)。貴女の主命に応えましょう」

 

竜種の化身はそれぞれの宝具の準備に入る。

 

「さて、私ももう一仕事頑張るとするか」

「やれやれ僕はこういう仕事は慣れていないんだがなぁ、まあでも即興の楽団とは言え随分と素敵な面子だ。―――マリアの名に恥じぬよう、全力で行かせてもらおう」

 

士郎君は弓を再び番える、今度は純粋に破壊力を底上げするための偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

楽聖もまたその指揮棒を振りかぶる。

 

「まさかこの私が魔獣退治とは、正に世は末、といったところですね」

「良いじゃない。折角サーヴァントになって正義の味方の真似事ができるのよ、どうせなら楽しみましょ?」

 

皮肉気にでも嬉しそうに言うメドゥーサに返事をしながら私も魔力を回す。

残念ながらこの場で魔神を打ち倒す切り札はないが、打ち倒すための切り札を強化することはできる。

 

「魔力を回すわ、皆さん存分に振るって頂戴な。―――起きなさい燦然と輝く王剣(クラレント)、仕事の時間よ」

 

真名開放した王剣を滾らせ本来の能力を迸らせる。

魔力と王の威光による強化が自陣の仲間たちに行き渡り、魔力だけでなく気分すらも高揚させる。

問題は無し、と。

 

「馬鹿な、莫迦な、バカナァァァァァアアアッ!!」

 

魔力は高まり、最早空気すら捻じ曲げるほど。

さあ最後の大仕事、よろしくね、立香?

 

「令呪一画を以って我がサーヴァントに告げる―――『私たちに勝利を』ッ!」

 

最高の号令が紡がれると同時に、彼らの宝具は真っすぐに魔神へと向かい、

 

「こんなッコンナッオオオオォォォ……聖女ヨ!我ラガ聖女ヨ!何故!何故!何故ナノダ!?」

「それは私たちがとうに終わっているからです、ジル。例えどんなに辛くともどんなに苦しかったとしても、決して、決して今を懸命に生きている人を穢してはいけない。あの瞬間、私たちが駆け抜けたあの時の輝ける日を、穢してはいけないのです。私は満足しているのです、だから」

 

―――ごめんなさい、ジル。

 

ジャンヌの別れの言葉と共に、魔力の奔流が魔神を跡形も無く消し去った。

 

勝利が、確かな勝利があった。

全員長時間の戦闘と最後の宝具を使ったことで魔力切れを起こしそうになっている。

もうぼろぼろだ。

だが満ち足りた勝利の確信がある。

見れば立香とマシュは手を取り合って笑っている。

士郎君たちもその姿をいつもの皮肉気な笑みを忘れて微笑ましそうに見ている。

 

固有結界が解けるように姿を消す。

戦いは終わった。

さあ約束通り空を見よう。

戦闘でろくすっぽ上を眺めていないのだ。

それはきっときれいな空が見れるだろう。

 

そんな風に私は勝利の美酒に酔痴れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……まだッまだですよ」

 

人の歴史は長く広く、そして深い。

世界は広く揺蕩い遍く可能性を持った。

それは平行世界と呼称され、有ったかもしれない可能性として刻まれた。

 

「まだ息の音があったのか、元帥よ」

 

人理焼却、人の歴史が、営みが、築いてきた時間が失われた悲劇。

人は寄る辺を失えば概念的に意味を失う。

それはこの特異点でも変わらない。

早くしなければ、例え特異点として形が残っていても何時かは人の心が失われ、世界として確立する為の人間という観測者が居なくなる。

 

「まだです、まだこの身は聖杯がある」

 

だから抑止力は最後の力を振り絞って壊れた世界を修繕しようとした。

悪手ではない。

当たり前の方法だ。

記録が無くなったのだから平行世界(余所)から持ってくる、実に当たり前。

それは儚い抵抗、そんなものでは彼の魔術王の企みに抵抗できるはずがない。

それでも抑止力は、足掻いて見せた。

 

「ジル、もういいのです。……せめて、せめてこの手で慈悲を」

 

人の歴史は長く広く、そして深い。

あったかもしれない歴史を乱雑に無我夢中に掻き集めて、失われた時間を補填しようとした。

 

それ故に、本当の悲劇が起こった。

 

気が付かなかったことは悪ではない。

何故ならこの場所に居る敵はもう、目の前で死に体を晒す魔術師と、その前にジャック・ザ・リッパ―の手によって深手を与えられた()()だけなのだから。

あの時逃した弓兵、だが霊核深くまで傷つけられ逃走した存在。

最早何の力も残していない筈の英霊。

だからそんな戦力外の、放っておいても問題の無い存在を無視したことは悪手ではない。

何よりカルデアによってこの戦闘域は観測されている。

例え単独行動によって現界し続け狙撃をしようと、魔力を感知しそれよりも早く警告でき、そして離脱できる騎兵もいた。

 

 

 

『AAAAAAAaaAAAAaaaAAaaaaAAAAa』

「嗚呼、そこに居たのか」

 

 

 

だがそれは、彼女がアタランテのままであった場合。

 

それは特異点故に起こった奇跡(悲劇)

人が寄り身を失ったことで起きた揺り返し。

失った人類史という記憶を世界が何とか補填しようと、微々ながらも掻き集めてしまった並行世界の残滓、辿り着いた異邦人。

外典の記憶(アポクリファ)、中欧で起きた聖杯戦争の記憶が流失し()()この場所に辿り着いてしまった。

彼女のいるこの場所に。

 

『みんなッ!気を付けるんだッ!そちらに一直線に向かう魔力反応があった!』

 

それは狂った彼女と密接に結びつき、彼女をかつてそうしたように本当に意味で狂わせた。

そして憎悪に染まり宿した『この世全ての子に幸福を』という願いが、()()を呼び寄せた。

 

『直ぐに霊基の確認を済ませろ!』

『特定完了しました!これは……アーチャー!?でも、なにこの出鱈目な魔力……ッ!?』

『ちょっと見せ給え!……なんだこれは、こんな魔力、神霊クラスでもなきゃッ!?』

 

その願い(特性)は、()()に似ていた。

だからこそ、()()は応えたのだ。

 

「エミヤ!ギネヴィア!マシュ!」

「分かってるわ!」

「赤原を駆けろ!赤原猟犬(フルンディング)ッ!」

「真名偽装―――仮想宝具ッ展開しますッ!」

 

 

 

「―――邪魔だ」

 

 

 

「ちょッ!?」

「なッ!?」

「くぅッ!?」

 

それは赤原猟犬を()()()()()()()()で叩き折りながらこの場に現れた。

戦闘後で魔力切れを起こしかけているとはいえマシュの宝具と私の結界をただ踏破することで踏みにじってみせたそれ。

見てくれは取り繕っているが、その限界も近いのか身体の至る所から魔力が零れ落ちている。

もうあと数分と現界は不可能だろう。

それでもその威圧感は圧倒的だった。

 

「メドゥーサッ!」

「分かっていますッッ!」

 

見ればわかる。

その身に纏った宝具が随分と格の高い神霊所以のものであることなど。

メドゥーサはすぐさま上空へと立香とマシュを連れて離脱する。

この疲弊した状況でマスターを狙われたのなら一たまりもない。

 

だがそれを無視して彼女は悠然とジル・ド・レェに近づく。

既に天馬に指示を出したメドゥーサも地上に降り立ち行方を見守る。

そう見守ることしかできない。

まるで、それこそ、神の威光に平伏しそうになる身体を支えるように、私たちの誰もが身動きを取れないでいる。

 

「あれは……カリュドーンの猪。そうですか、狂化があるとはいえ其処まで堕ちましたか、麗しの狩人ッ!」

 

聞きしに及ぶその名。

麗しの狩人アタランテ。

ならば彼女がその身に纏う莫大な魔力はきっと、彼女が仕留めたとも譲られたともされる魔猪の毛皮だろう。

だがそれなら、この神威は何だというのか!?

幾ら人知を超えたサーヴァントであろうと、神その物になる宝具を持つ筈がない!

 

「キャスター、敗れたか」

「おお、おおおぉぉぉ!まさか、まさか貴女が残っていたとは!狩人よ!アタランテよ!」

「ああ生きていたとも。おめおめと敗北を啜りここまで生きながらえていたとも」

「何という僥倖!何という幸運!恥じてはいけませぬ、なに、身体が欠けているのなら私を喰らえばよろしい!」

 

そうだなと詰まらなげに呟いた弓兵は目の前の魔術師に手をかける。

 

『拙いっ!魂食いだ!』

 

ドクターの焦った声が聞こえるが私たちは彼女の光に中てられ動けない。

まるで別次元の、最早格がどうこうと考えることができない、そんな存在と対面したような。

そんな畏れに近い感情が渦巻く。

 

『失った霊基を補完するつもりか!急げ!最悪さっきの魔神が復活しかねないぞ!』

 

そうしている間に、魂食いが始まる。

 

「では貰うぞ、救国の大英雄、青髭と恐れられた者よ」

「ええ!ええ!ええ!さあどうぞ!私の身を喰らってこの世界に復讐をッ!我が怨敵に我が復讐をッッ!」

 

ああ、言われずとも、な(AaaaaAaaaa)

 

そう言って弓兵は目の前の男を吸収し始めた。

 

ぐじゅり。

ずじゅり。

ぐぢぃり。

 

不快な音が焼け焦げ崩れた城跡に響く。

そんな筈がない。

魔力を吸い込むのにそんな音が出るはずがない。

にも拘らず幻聴のように聞こえる咀嚼音。

それは余りにも惨たらしく、そして何故かどこまでも崇高な、そう例えるなら母親が懸命に我が子に栄養を与える、そんな姿。

 

誰も彼もがその凄惨で美しい食事に動けないでいる。

余りにも、余りにも、それは酷すぎる。

だから彼女が動いたのは必然だった。

 

「……いくよ」

 

彼女は反英霊、数多の殺人を犯したことで近代社会の脆い防犯意識に結果として警鐘を鳴らした者。

正純な立ち位置に居ないからこそ、そして神の残り香すら薄い近代で生まれた英雄だからこそ。

何より対女性という特異性があったからこそ。

この禁忌とも言える光景にも誰よりも早く立ち向かえる。

 

「こういうのはわたしたちの出番―――解体するよ」

 

再び霧を纏い、吶喊。

如何に強力な宝具で身を包もうと、ジャックが宝具を使えなかろうと、刃は届く。

何せ先の一戦で霊核深くまで傷がついているのはデータで確認されている。

目の前の弓兵は無理やり宝具を使ったからか、神威に反してその身はぼろぼろだ。

どう考えても凶器を阻むだけの余力は残されていない。

例えその身を女神の神威で滾らせようと、彼女の刃は届くと、誰もが思った。

 

 

 

『AaaaaaAAaAaaaaAAAAAAAAAaaAAAAAaAAAaAaa』

「嗚呼、待っていたぞ。愛し子よ」

 

 

 

「え……」

 

誰の声だったかは分からない。

でもだれもがその事実に同じ思いを抱いた。

驚愕―――。

爪がジャックの心臓を貫いていた。

 

「う、あぁ……痛い、よぉ……」

「泣くな子よ、直に痛みは消える。母の腕は暖かろう?」

 

なんだあれは。

なんだこれは。

 

「おかあ、さん……」

「母を求めるか。嗚呼、愛しいな。愛いぞ、嗚呼実に愛い」

 

条件は満たされていた。

それを知る筈もない。

何故ならそれは遠い並行世界で行われた残滓。

外典と称すべき記憶。

 

「たすけ、て……」

「だが駄目だ。此処のままでは汝は幸せになれない」

 

知る由もない。

記憶がある。

聖女が居る。

小さき暗殺者がいる。

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がいる。

 

「おか、あ、さん……」

「だから私が喰らってやろう」

 

だからこその必然。

彼女が神罰の野猪を、世界を越えて再び纏ったのは必然だった。

だがそれで終わらない。

何故なら今の彼女は霊基が砕けかけた存在。

ならばそれを補填しなくていけない。

 

「安心せよ。汝らの歴史は私が貰い受けよう……ああ勿論、お前もだ、キャスター」

 

そう言って掴みだしたジャックの霊核を飲み込んだ。

 

姿が変わる。

屠った筈の邪神。

奪われた少女。

そして聖杯。

欠損した霊基を復元するためにそれら全てを取り込み、彼女はそれを発動する。

 

純潔の女神が下した魔獣の形をした神罰、カリュドーンの猪。

魔術王ソロモンが従えし智慧を司る魔神、ナベリウス、その残滓。

それらの核になるは麗しの狩人、アタランテ。

倫敦に爪痕を残した殺人劇(ジャック・ザ・リッパ―)

仏国に悲劇を成した復讐劇(ジル・ド・レェ)

そして魔術王より齎された聖杯。

それらすべてを吸収することでサーヴァントを越えた存在、複合英霊(ハイ・サーヴァント)

 

本来ならば現れる筈の無い73番目の魔神柱、そう称すべき存在が生まれるはずだった。

 

―――だが彼女はその身にこの世界に流出してしまった神威を宿していた。

 

誰も予期する筈の無い天災。

災厄の獣、二つ目の原罪、その名を冠した彼女が遠きウルクの地で眠っている。

一番目の獣がいるゆえに。

獣の特性、単独顕現。

一度顕現すれば()()()()()()()()()()()()事を可能とする規格外のスキル。

彼女は原初の女神。

神の形に編まれたのならば、乞い乞われた願いに祝福(災厄)を授ける定め。

それは即ち、未だ獣として完全に覚醒していない身であろうと、人理焼却によって時間など最早関係がなくなった特異点で()()見つけた己の理(回帰)と同調する願いを持ったサーヴァントを眷属化するなど容易いという事。

 

だからこそカリュドーンの猪でもなければ魔神柱でもない、全く別の怪物が生まれる。

 

魔神柱顕現。

否、それは神威。

怒りに揺れる女神の天罰。

人の形をした天災。

名付けるならば『災厄の女神』。

 

「我が名は女神カリュドーン。世界に等しく幸福を与えよう。だから、」

 

 

―――全ての子を貰い受ける。

 

汝等では駄目だ。

すべて、すべて不適格だ。

私だ。

私なのだ。

この私こそが母親に相応しい。

さあ還れ。

この私が幸せにする。

だから全ての子どもを喰らおう。

シアワセになる為にこの胎へと還るのだ。

 

「私の中で眠れ、愛し子達よ。汝等みな諸共に母の胎へと還るがいい」

 

 

Magna Mater(地母神顕現)

 

 

それは獣の現身。

遠き神代で原罪が顕現してしまったが為に、その神威をも疑似的に取り込んだ女神。

時代が分裂した特異点。

それぞれの時代に至るまでの歴史が失われてしまったが為に継ぎ接ぎだらけとなったこの世界で、数千年の時代を越えて単独顕現(眷属化)した、最新最古の女神だった。




ティアマト「来ちゃった///」



というわけでタグ通り『難易度ルナティック』です。
とはいえ1章からあんまり難易度高いときついので女神カリュドーンはティアマト程強くないです。
ゲームでいえば、女神ロンゴミニアドぐらい(白目)

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