オリ主が挑む定礎復元   作:大根系男子

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沢山感想ありがとうござます。
ぶっちゃけ感想乞食なので新着感想があるたびにテンションが上がります。
それから誤字報告、誤字する自分が悪いのは分かっているのですが、しっかり読んでくださる方々に本当に本当に感謝の言葉しか出てきません。
皆さん、本当にありがとうございます。


あと、本作のエミヤ先輩は魔改造っていうほどじゃないけど、とあるルートを経てるので強化されてますので、ご注意ください。
詳しくは後書きのマテリアルっぽいもので


第一特異点:邪神百年戦争 オルレアン 女神の狩人
純白の花嫁(アーチャー、残念だけど君、胃酸過多だよ)


成すべきことがあった。

 

人類史、幾千年と刻まれ最早数えることが出来ぬほど広がった可能性の塊。

その全てが焼き尽くされた。

忘却の火によって何もかも失われ辛うじて残ったのは特異点と呼ばれるばらばらの中継地点。

そして起点となったが故に辛うじてその光を繋ぐことが出来た、星の観測者の名を冠するカルデア。

そこに集うは数多の輝き。

刻まれ、時に歴史の中に埋もれながら、それでも人の祈りによって記録された人理の守護者。

束ねるは人類最後の希望、たった一人残ったマスター適正者。

幼い少女だ。

だが、決して彼女は一人ではない。

彼女と共に歩む無垢な騎士が、彼女に寄り添う名医が、彼女を導く賢者がいる。

そしてそんな彼らの影に隠れるように、家族を失い、同僚を喪い、中には恋人を燃やされ、それでも己の出来ることを全うせんとする名も無き職員達。

全員合わせても僅か三十にも満たない彼らが、かつて地球全土を埋め尽くし生態系の頂点にたった人類の生き残りだ。

彼らは一丸となって敵と立ち向かうのだろう、美しい我らが円卓の騎士の様に、己の出来る全てを投げ打ってたった一人残った最後の希望が勝利をつかめる様、力を合わせるのだ。

 

---なんて美しいんだろう、人が生きようとする姿はかくも素晴らしい。

 

だからこそ私に話さなくてはならないことが山ほどある。

彼らには足りないものがある。

物資、時間、体力、そして心の支え。

人間は欲に塗れた生き物だ、自分など分かりやすいだろう。

夫を、子を、友を、民を、国を愛しているからどんなに辛くても走り抜こうとした。

その結果がどうだったのか、私は知り得ないし知ることが出来ない以上自分は王に任された役目を果たせていない半端な裏切り者に過ぎない。

例え不貞を犯して裏切る結末でなくとも、結局ギネヴィア(自分)は裏切り者であるのだ。

……話がそれるのは私の悪い癖だ。

 

「おかあさん」

 

声がかかる。

突然出来た娘だが、まあ可愛いので良しとしよう。

 

「なぁに、ジル?」

 

とかくまあ、人は欲があるから頑張れるのだ。

しなくてはならないという義務感や使命感だけで走り切れる人間は最早正常ではない、ただの病人か、そもそも人間でないのかの何れかだろう。

 

「準備、できたよ」

 

であるなら、心の支えを、日々生きる喜びを、それを失う恐怖を、失わせない為に走らんとする激情を、芽がでるようにしなくてはいけないのだ。

 

緊張でいつになく硬くなっている。

初めての経験に、あの殺人鬼の名を冠す少女が戸惑っている。

歳をとると忘れてしまう、いつだって女の初体験は緊張で始まり達成感と虚無感が綯交ぜになって終わることを。

だからこそ、そっと抱きしめ頭を撫でる。

 

「貴女ならきっとできるわ、ジル」

 

だからこそ、この選択に間違いはない。

私はきっと間違ってない。

 

「うん」

 

これは賭けだ、ただの博打だ。

働き詰めの彼らの心、その火にくべる薪。

 

「さあ時間よ、これも貴女が望んだことですものね……大丈夫、私も頑張りますから」

 

だから言っておいでと背中を押す。

いつもと違う愛らしい服で着飾った娘。

さあお願いよ。

どうかどうか、届いて下さい。

どうかどうか、気づかないで下さい。

手に持つ魔法の紙切れ、それは誰もを魅了する言葉。

これより始まる悦楽の宴、それを指揮する大事な台本。

主演は私の子、きっと出来る、大丈夫。

貴女ならきっと、きっと彼らを癒してあげられる。

さあ私の愛しい子、今こそ女神になりなさいな。

 

ちらりとこちらを見た彼女が小さく書かれた魔法の言葉を、幼く甘い声で、そして私が作ったマイクを持って響かせた。

 

 

 

 

「萌え豚のみっんなー☆今日もきたない汗水たらしておしごとがんばった?ちゃんとしないと解体しちゃうぞ♡」

「っっっ!???」

 

お、ちゃんとカンペ通り言えたわね、初めてやるのに流石私の娘。

お母さん鼻が高いわ!

 

「「「「おおぉぉぉぉぉぉおおおッッ!!!」」」

「うっわぁ、大っきな雄豚さんと雌豚さんがこんなにたくさんっ!みんなそんなにご飯が欲しいんだ!」

「「「「ジルちゃん!ジルちゃん!ジルちゃん!はいっはいっはいっ!」」」

「◯◯◯っっ!◯◯◯◯◯っっ!」

 

わたしたちもアイドルになりたいと言い出すものだからちょっと針仕事と日曜大工と宣伝してみたけど、うんうん流石は私、いい仕事したわ。

達成感で小躍りしそう。

さてさて、と近くの機材を弄り回しながらのギネヴィア特性カラオケルーム(防護結界)の出力を調整する。

さっきから煩く剣を叩きつけている奴がいるからだ。

職員のみんながしっかり愉しめるよう干渉をばっちり遮断してるとは言え、この五日間の傾向から考えればそろそろ矢の一本でも飛んでくるだろうし。

 

「うん、ならわたしたちがんばる!だからその小汚い顔面をみっともなく床にこすりつけて耳の穴をかっぴらいてよく聴いてね!それじゃあいっきょく目!『ブリテンに栄光あれ!アーサー王万歳讃歌』、ちゃんと聞かなきゃ解体するね!それじゃあ逝っくよー♡」

 

「させるかァッ!捩れ狂えッ!偽・螺旋剣Ⅱ(からどぼるぐmk.Ⅱ)ッッ!」

 

 

曲の開始を知らせようとサンプラに手を伸ばしたがそれより早く爆発音。

ジルが曲名を言い終え、さあこれから歌うぞというきに入ってきた不埒者。

全く、どうしてこう彼はワビサビというものを理解出来ないのだろうか、日本人だというのに。

 

 

「もーびっくりしたっ。だめだよ、しろー、そんな事しちゃ」

「アサシンッ!いい加減その呼び方はやめろと言っただろうッ!というか君達何をしてるんだ!?」

「だっておかあさんがそう言えって、しろーって呼ぶとよろこぶよーって言ってたよ?あ、これね、あいどるって言うんだって!おかあさんと一緒に映像保管室(びでおの部屋)で見つけたの!」

 

今日のわたしたちは解体系アイドル、ジル・ザ・プリティだよっと律儀に答えるジャック。

でも惜しい、少し違う。

路地裏で会えるし殺してもらえる解体系アイドル、ジル・ザ・プリティでしょ?

敵が女体で条件さえ揃えば確殺よ?

ルーラー?あれはノーカンよ。

とは言え訂正なんてしたらどうなることか。

 

「ギネヴィアァァッ!出てこいッギネヴィアッ!今日という今日は俺も容赦しないぞッッ!貴様のその捻じ曲がった骨子を叩き直して火曜の燃えるごみと一緒に出してやるッッ!」

 

言われて出てくるわけがない。

あ、明日可燃ごみの日ね、ごみ袋を一つに纏めとかなくちゃ。

カルデアって無駄に広いからちょっと面倒なのよね。

とはいえ、随分元気な声だ。

これにはちょーっと気持ちが緩んでいたカルデア職員にもいい感じに喝が入ったようだ。

 

「あーばれたかー」

「そりゃバレるだろ、王妃様これ見よがしにライブの宣伝(ビラ)配ってたし」

「でもあれ、アーチャーさんには何が書いてあるか分からない術で書いてあるらしいですよ」

「うわー……」

「開発局長も隠蔽工作手伝ってたしねー」

「アーチャーさんが資材取りにレイシフトする時だけ放送したり」

「後はアーチャークラスのサーヴァントだけ見れなくなるポスター作ったりな。まあ今カルデアにアーチャーは一人しかいないから実質エミヤ特攻ポスターだけど」

「しっかしバレちまったから今日はお開きかね?ちょっと早いけど俺、他の連中と交代してくるわ」

「俺は仮眠でも取るかなー」

「あ、女の子組はこの後お風呂行きません?プチ女子会みたいな」

「女の子(暗黒微笑)」

「女子会(嘲笑)」

「何笑ってんだぶっ飛ばすぞいんぽ共っ!」

「帰るか」

「んだんだ」

 

「ダヴィンチィィィィッ!」

 

あ、いい感じにタゲが移ったわね。

ちゃっちゃとジャック拾って逃げましょ。

職員の人たちも、って言っても十人以下のほんの僅かしかいないけど、わいわいがやがや話しながら退場口から出て行く。

それにしてもまったく!

せっかく立香たちも寝静まって余裕が出来たからみんなで愉しもうと思ったのに!

 

「あ、萌え豚さんたち帰っちゃった……」

「何故私を恨めがましく見るんだ、アサシン……」

「本当子どもの遊びを邪魔するなんて酷いわ。()()()()()()?」

「うん。……しろーの意地悪」

「くっ」

「そうねー本当デリカシーに欠けるわよねー。メドゥーサから聞いたあなたの奥さんが見たら泣くんじゃないかしら?」

「しろーのおよめさん、かわいそう……」

「やめろ、やめてくれ、その攻撃は私に効く……心は硝子なんだ……」

「おっと心は硝子だぞ(嗤)」

「ギネヴィアァァァッ!」

 

あ、つい苛めすぎて意識誘導の呪詛が切れっちゃった、ついでに士郎君の堪忍袋も。

 

 

 

 

 

 

 

 

で、今私は士郎君監視の下、トンカントンカン金槌を振るっているわけだ。

未だ爆発の爪痕は深く、おまけに人手も足りない。

そういうわけで私や士郎君のようなサーヴァントまで施設内の修繕に駆り出されている。

それにしても、ちょっと休憩がてら遊んだぐらいで怒るなんて酷い人もいた物ね?

「もーいい加減機嫌直して頂戴よ!」

「断る。貴様がこの連日で繰り返してきた愚行、最早看過しきれるものではない」

「ちょっと!ライブは今日が初めてよ!あっジャック、その釘は駄目よ、悪性殺しの呪い振りかけてるから。向こうの赤い釘取ってきて。あっちは結界用だから貴女が触っても火傷しないから」

「はーい」

「ライブ一つの事ではない!毎日起こしてる騒ぎ全部のことだッ!!」

 

むむむ、はて騒ぎとは一体何のことかしら。

一度手を止め可愛く首を曲げて一生懸命私考えてますポーズを取る。

それに疲れちゃったのか苦し気に呻くアーチャー。

しかも何故かお腹を擦ってる。

変な物でも食べたのかしらね?

 

「召喚された直後の騒ぎはまあ良いだろう。君の女神の神核(特性)上仕方もなかろう」

「あれねー。まーほら、丁度レイシフト前だったし立香もマシュもいい塩梅に緊張ほぐれたからもーまんたいよ」

「だがその後の惨劇は一体なんだ!?手が足りないからと言って召喚した蔓植物(触手)共は女性職員にセクハラするし!」

「マッサージだからノーカンよ、純潔までは奪ってないわ」

「寝ない子はお仕置きだべーと言って『王妃の采配』で無理やり寝室に移転、そのまま仮眠コースは確かに素晴らしい働きだ。休みなしでは作業効率が落ちるからというのはもはや常識だろう……だが見せる夢は大概淫夢ッ!身体を休める筈が男性職員は皆げっそりした顔で出て来るではないかッ!」

「定期的に出すもの出さないと浮気するのよ、男って。うちの屑共がいい例だわ」

「食事ででてきたマッシュポテトッ!どうして君の時代にじゃが芋があるのかは放っておこう。だがなッどうしてごりごりに鍛えた肢体が生えた幻想種擬きが材料なんだ!?二日目あたりから調理スタッフが死んだ目で手足切り落として調理していたのを見た私の気持ちが分かるかッ!」

 

あーそんなの混ざってたのか。

魔術工房としての機能を持つスーパーキューティーみみずちゃんこと次郎丸。

その中に予め収穫して備蓄していた農作物だが、どうやら失敗作も放り込んでしまっていたようで、それを調理要員に渡してしまったらしい。

まあ免疫が付いて大変宜しいのではないかしら?

 

「それから一家に一台と謳ってダ・ヴィンチと作った掃除機!何故形が英国式欠陥戦車(パンジャン・ドラム)なんだ!立香が今のカルデアを見たら卒倒するぞ!」

「ちょっと!英国式最終決戦兵器(パンジャン・ドラム)を馬鹿にしないで!あれさえあればピクト人共も尾葉(しっぽ)巻いて逃げたはずなんだから!」

「できるかッ!というかどうしてブリテンの蛮族はちょいちょいエイリアンみたいな要素が混ざるんだ!?」

 

いやあれ多分人間じゃないっていうか、間違いなくエイリアンっていうか。

普通に考えて神造兵器で星の光や疑似太陽の熱線を叩き込んでもスキルなしで戦闘続行してくるのを同じ人間として認めてやるのはちょっとあれだ、無理だ。

私は万能ですけれど、それでも王妃ちょっと無理って時だって物だってあるのよ。

 

「極めつけは農作プラントの蚯蚓ッ!どうして増殖しているんだ!?今朝見たらまた増えてたぞ!」

「前にお話ししたでしょ?あの子、小さいただのみみずからここまで育てたから蚯蚓という生物の特性をそっくりそのまま引き継いでるのよ。というわけで増殖もできるわ、流石にランクの上昇(成長)はできないけれどね」

「毎朝毎朝ッ食材を取りに行くたびに増えたり、時には増殖途中の見せられない光景を叩きつけられる私の身にもなって見ろ!」

「えー、別にいいじゃない。キャメロット(うち)じゃこんなの日常茶飯事だったわよ。それに職員のみんなだってだいぶ慣れてきたわよ」

「君の国と一緒にするなッ!廊下ですれ違った巨大ワームと朗らかに挨拶を交わす職員がいる国連組織があってたまるかッ!?」

 

「仕方ないじゃない、そうでもしないと()()()()()()()()()()()()()?」

 

その返しで勢いが止まった。

 

「人間じゃない時が止まった超越者。マシュ・キリエライト(デミサーヴァント)なんていう例外を除けば、私たちは生者じゃない」

「分かっているさ、曲がりなりにも我々は英霊の影、サーヴァント。だからそう簡単には揺らがない、成長しない。こと今回に限ればそれは幸いだ、何せどんな状況でも兵器としての己を全うできる」

 

人間に正英雄(望まれよう)反英雄(望まれなかろう)が、正統なる原典(認められていよう)ifの存在(認められていなかろう)が、座に刻まれた以上は『人類史を守るモノ』として確定された存在、それが英霊。

座にいた記憶のない自分はあまり詳しくそして完璧に理解しているわけではないが、それでも分かることはある。

 

例え無辜の民を虐殺した大悪党でも、その功罪や本人の存在そのものが人類史をより強く永く繫栄したと確認されれば、例え誰であっても英霊として認定されてしまう。

人々の願いを受けて造られた人類の始まりの意思、生存本能とでも言うべき延命機構こそが英霊でありその座なのだ。

故に英霊は例え本人がどうであろうと、運命に導かれるように全ての行動が『人類史存続』に繋がってしまう。

だからこそこの英霊を召喚し従える等と言う、世界最高戦力を揃えると宣戦布告しているような組織が認められているのだろう。

何せどんなに戦力を揃えようとそれが人類史継続に繋がらない限り、その暴力を振るうことは出来ないのだから。

 

そして英霊はそんな自分の在り方を良しとする。

例えどんなに人類を嫌おうと、例えどんなに世界全てを呪っていようと、何だかんだ英霊というものは悪を滅ぼすように、先が繋がっていくように戦える人たちなのだ。

だからこそ、彼らは人類史をより強く永く繫栄させる存在なのだと認められるのだろう。

 

とまあ遠い昔に聞きかじったことなのでかなり抜け落ちてる為、目の前の英霊には恥ずかしくて語れない。

のでそれっぽい雰囲気で私分かってますよーと誤魔化す。

結論さえあればいいのだ。

英霊は時が止まった存在。

人類史焼却、そういう人類存続に関わる事態であっても、むしろそういう事態だからこそその精神性が揺らぐことは例外を除けばまずないだろう。

逆に言えば、

 

「私たちみたいな人の域を踏み越えた防衛機構(英霊)ならまだしも只人が人類史焼却(こんな状況)で折れない筈がない。人という生命そのものの拠り所がなくなってるんだから」

 

大地が無ければ蚯蚓は意味をなさず、草は根を伸ばせず、馬は走れない。

空が無ければ鳥は羽ばたく翼を折る他ないだろう。

海が無ければ魚は泳げず、鯨は歌を伝えられない。

物理的な問題だけじゃない、概念的に生きとし生けるものは己の寄る辺がなくなれば()()()になる。

人間であればこの2016年まで絶え間なく歩き続けてきた歴史そのものがそれに当たるのだろう。

だから残され辛うじて生きているカルデアの職員も生きている人間という存在である以上、人類全ての系譜であり記憶である人類史が失われた今、寄る辺を失い下手をすれば心を無くしかねないのだ。

あの輝けるマスターやマシュの様には誰も彼もなれないのだ。

 

「だからこそ、私の胃を犠牲に君がこうして馬鹿騒ぎをやっているのは分かっているつもりだ。恐らくドクターやダ・ヴィンチも分かっているからこそ付き合っているのだろう」

「ま、そういうことよね?馬鹿やって思い出を増やして、何とかこれまであった寄る辺に替わるモノを辛うじて作り己の心を繋ぎ止めるの。ところで胃って何の話?」

「ドクターに会った時に言われたのだよ……」

 

『バイタルデータに異常があったから確認したけど……アーチャー、残念だけど君、胃酸過多だよ。原因はうん……僕にはあの王妃様止められなさそうだから、ごめん』

 

うわあ……。

 

「どうしてサーヴァントにもなって胃酸過多だなんていう情けない霊基の軋ませ方をさせてくれたんだ君は。ストレスで胃薬が手放せない日が来るとは思わなかったぞ」

「……それは、まあ、何ていうか貴重な体験をしたわね。それに髪が抜ける方向でなくてよかったじゃない!うんっ、不幸中の幸いを喜びましょうよ!」

 

そう言えば士郎は手で顔を覆い隠し深々と溜息を吐く。

うん、まあ、がんばれ?

けれど私の心配は筋違いだったようで、彼はほんの少し声色を優しくして語りかけてきた。

 

「それだけではなかろうに。それならこんな茶番染みた馬鹿騒ぎを起こす必要はないだろ?」

「……なんのことかしら?別に私がしたかったからしてるだけよ?立香のいる場所が心を無くしたゾンビだらけになるのがいやなだけ」

「君は本当に……戦闘になると悪辣というか手段も自分の身体もかなぐり捨てる癖に、随分とまあ偽悪的というか」

「……」

 

言葉が若干もたつく。

別にアレに深い意味はない、ないったらない。

だというのに士郎君は言葉を続ける。

 

「非日常、特に戦争というのは人の心に大きな傷と圧迫を与えるものだ。マスターであれば特異点を通して否応なしに免疫が付き、それが心を守る鎧になる。だが、マスターと違って戦場に出れない者達に免疫をつけるならば君がしたように日常を些細な非日常に変えるのが一番なのかもしれないな」

「……」

「大きな声で騒ぐというのはストレス解消にもなる。それにここは閉鎖的な場所だ、変化が起きにくい。それをことあるごとに馬鹿騒ぎを起こすお転婆娘がいれば、心もだいぶ楽になろうさ。おやどうかしたのかね?随分と顔が赤いようだが」

 

何かこっちがやってること全部見透かして肯定されるというのは恥ずかしい。

マテリアルをチラ見したので知っているが、成程、並行世界でこの世全ての悪を抱いた恋人を救っただけのことは有る。

なんかこうすっごい悔しいが、この人はどうやら、相当な正義の味方の様だ。

……なんて返せばいいのかも分からない。

 

「ねー難しいお話、おわった?」

 

と、ちょっぴり気まずい空気を終わらせるように、いいタイミングでジャックが声を掛けてくれた。

でも無性に何故だか、恥ずかしくてその言葉に返せれない。

 

「ああ。君の方も終わったのかね?」

「うんっ!壊れてるばしょ、ちゃんとふさいどいたよー!」

「そうか、助かったよアサシン。……そうだな、ご褒美というには些かあれだが、今日の夕食は君のリクエストに応えるとしよう」

「ほんとにっ!?じゃあねっわたしたちハンバーグがいい!」

 

ああ任された、だなんて微笑みながら目線を合わせる彼はやはり、ちょっと、かっこよかった。

 

 

 

 

 

 

『そんなことがあったんですね……ギネヴィアさんもあんまり悪戯してはいけませんよ』

「分かってるわよー、あんまり言わないで頂戴な?もうお小言はお腹いっぱいなの」

『そんなこと言ってまた明日も変な悪戯するんでしょー。まったく!あんまりエミヤの事苛めちゃだめだよ」

「はいはい分かってます分かってます。それで?貴女たちの方は何か進展あった?」

『はいっ!今日は解呪を終えたジークフリートさんのお力もあってかなり近くまで来ることが出来ました!』

『明日にはいよいよオルレアンまで行くよ。多分明日で全部終わると思う』

 

通信越しに立香たちの力強い声が聞こえる。

私が召喚され、そして彼女たちが十五世紀のフランスへとレイシフトして半月近くが経った。

留守番組と違いある程度強化を済ませて、魔力充填スキル擬きの呪符を持たせたメドゥーサは移動兼緊急時の避難役として着いて行っている。

きっと歩きながら湿布の様に貼ってある呪符の強化で日々強化されているだろう。

 

「そっ、なら最後だからって慢心せず、しっかり気張りなさいな?美味しいご飯つくって待ってるから」

『はいっ!あ、そう言えば今日はドクターはいらっしゃらないんですか?』

「ん?ああ彼ならちょっとお出かけよ」

 

毎晩恒例の定期連絡にも随分と慣れてきている。

近くにドクはいない。

あんまりにも隈が酷く、下手な化粧でも隠し切れていなかったので仮眠を取らせているからだ。

すっごく抵抗したが次郎丸で運ぶかと聞いたら青ざめた顔をしてすごすごと部屋に戻っていった。

それでもどうせもう少ししたら戻ってきてしまうだろう。

職員たちと同じ只人にしてはあんまりにも、そうあんまりにも頑張りすぎていて見ていて綺麗なほどに痛々しい。

本当に、頑張りすぎだ。

 

「しっかしフランスが誇る大英雄と竜殺しの代表格が二人、それから音楽神の申し子に竜種の化身が二人と、随分な戦力になったわね。私たちが居なくても大丈夫じゃない?それにメドゥーサはそっちに行ってるんだし」

『うーん、それでもやっぱり不安かな』

「ちょっと、そんなこと言っちゃだめよ。みんな貴女と戦ってくれる大英雄じゃない。というか聖ジョージとか私が会いたいぐらいなんだけど」

 

聖ジョージ、ゲオルギウス。

ケルトと原始キリスト教がいい感じに、というかぐっちゃぐっちゃに混じり合って混沌とする我がブリテンでもそれはもう英雄視された偉人だ。

できるならサインが欲しかったがそこはうん、大人の余裕でぐっとこらえた。

おらガウェイン、誰が年相応にねだってもいいんですよだ、次郎丸の腹の中に叩き込んで糞ごと海に放り投げるぞ。

私はくーるびゅーてぃーな永遠の17歳、外見幼女とか知ったことではない。

きっとこれから大きくなるのだ、多分、きっと、めいびー。

 

『それは先輩も分かっていますよ。ね?先輩』

「ならジャックや士郎君はともかく私は尚更必要ないじゃない。分かってると思うけど私はこれっぽっちも強化なんてしてないわよ」

 

私が此処に居る最大の理由。

それがカルデアの戦力の強化だった。

勿論施設内の補修や補強、職員たちのメンタルケアやら人手の足りない調理もしているが、正直後回しでもすぐには問題ない。

というか今いる人員を酷使すれば英霊三騎抜けた穴なんて戦闘でもない限り問題ないのだ。

それにも関わらず貴重な戦力を置いていった理由。

 

『エミヤとジャック、もう準備の方は大丈夫そう?』

「ええ勿論。半月も貰ったんですもの、完璧に仕上げたわ」

 

それはカルデアの英霊召喚システムにおける最大の欠陥(デメリット)にして神髄(メリット)

 

―――霊基の劣化。

 

「エミヤの方は霊基再臨も終わらせたし、ジャックにしてもスキルは全部復元したわ。神霊クラスの大英雄でも出てこない限り問題ないでしょうね。今回は中世のフランスだし神秘もかなり薄いから、あの黒い聖女に引っ張られてる竜種以外はそういう大物は出てこないでしょうし」

護国の英雄(ヴラド三世)のような史実系の大英雄も調べる限りもういないようです』

「それは結構なことね」

 

劣化、それこそがこのカルデアにおける最大の問題だった。

便宜上カルデア式と呼んでいる召喚術式、考えた人間は間違いなく天才の類いだろう。

聖杯や魔術基盤に頼らず()()()()とはいえ数多の英雄が集った円卓を起点とすることで時代も洋の東西も問わず数多の英雄を招聘する。

本来召喚者の力量で大きくぶれる霊基を、魔力炉を通すことで召喚者の力量を誤認させそれぞれを最良の霊基(からだ)で呼び出すそれ。

おまけに呼び出す案件が人理修復だなんていう英霊本来の職務なこともあって、願望の有無を問わず英霊が受諾さえすればどんな存在でも呼び出せて知名度補正も無しときた。

自分が冬木でしたずるが馬鹿らしくなる程の反則、そんな大魔術式だ。

とは言え、デメリットがないわけではない。

 

「士郎君の固有結界は面倒な相手が居ても有利な場所に引き込める。ジャックも相手がルーラーとはいえ数値を見る限り貴女のとこにいる聖女様とは随分違うから、宝具もある程度期待できるわ」

 

それが劣化。

呼び出す霊基を最高のステータスで呼べると言ってもそんな大きな霊基を呼べば円卓は無事でも術式が壊れたり、急激な魔力供給で炉の方が不調に陥る。

最悪令呪が効かないような大英雄や大魔術師を呼んでしまった日には、理解が得られなければ反抗されかねない。

だからわざわざ霊基自体に最高状態を記録させた上で劣化させて召喚するのだ。

完成図持ちの未完成の商品を発注して現地で組み立てる、みたいな感じだろうか。

そうして劣化させてやれば後はマスターと相互理解を深めながら最高の状態まで強化もできるし、反抗するなら自害もさせやすい。

 

『ありがとね、ギネヴィア。無理してもらったけど、これで明日に間に合う』

「別にこういうのは魔術師の仕事なんだからいいのよ。だから私なんて戦力、もういらないんじゃない?正直過剰なぐらいだと思うわよ」

 

うん、本当に利に適った方法だ。

即戦力にはならないが間違いなく霊基の劣化はメリットだろう。

だが落とし穴がある。

一つはスキルの使用回数制限。

本来なら英霊の技術でしかないスキルはそれこそよほどの制約でもない限り無制限に使える。

実際私も冬木で自壊寸前まで『魔力充填』を使ったし言葉全部に『話術』を載せられた。

だが今は使うごとに冷却時間(クールダウンタイム)が付いてしまった。

ジャックや士郎君のように白兵戦ができ、宝具も強力な英雄なら問題ないが、スキル頼りでしかも過剰充填・王剣執行(切り札)はスキルを無制限に仕える前提でなければ発動できない。

だからこそ自分を後回しに二人の強化をし続けたのだ。

 

「そもそもサーヴァント階位が第一階位の私じゃ、強化云々を抜きにしても大した活躍は無理に決まってるじゃない」

 

そしてもう一つが円卓を使用したからこその欠点。

選ばれた者のみが座れる円卓、そんな逸話を持つからこそ召喚されるサーヴァント自体にも階位が設定される。

設定された階位によって振るえる力が大きく変わる。

勿論、強化してしまえばあまり関係が無いがそれでも階位が低ければ頭打ちする上限も低い。

つまり第一階位の私は弱っちいのだ。

その選定理由は今一つ分からないが、恐らくは本来英霊が持つ格そのもの。

それから人理修復という大偉業にどれだけ貢献できるかだろう。

最大五階級のそれは、大英雄であれば当然その霊基は上級の階位を得るだろうし、円卓の騎士やそれに連なる者であればそれこそ無条件で第三階位以上だろう。

中には若しかすると余程性格が良くて、マスターの負担を考えて自分から階位を下げる英雄がいるかもしれないが、そんな無茶ができるのは一握りの、それも大英雄だけだろう。

しかもその階位でも十分な働きができるという実力が無くてはいけない。

 

士郎君は疑似サーヴァントとはいえ本来の霊基が守護者という人理救済向けの英霊だから第四階級。

メドゥーサはステータスが高くとも反英霊で、しかもそもそもが神話に描かれた魔獣の女王(ゴルゴーン)よりも劣化した状態で呼ばれているので第三階級。

 

『それ言ってしまうと私も第三階位ですし……』

「まあ階位なんて匂いの付いた文字(フレーバーテキスト)みたいなもんだから、強化しちゃえば問題ないわよ。第三階位なら聖杯で呼ばれた中堅どころとだって殴り合える。でもね私みたいにそもそもの格が低くてしかも上限も低い英雄にとっては死活問題よ」

 

ジャック・ザ・リッパ―。

彼女はもう一つの理由だ。

中身が悲しい繁栄の犠牲者であっても、今なお未解決の事件として世界から信仰を集め、その対女性という特殊性から円卓がかなり補正をかけている。

結果、何と第五階位という大英雄にも比類する上限を得た。

流石子どもの英雄、伸びしろは十分にあるという事だろうか。

やっぱりBBAとは違いますねって言ったゴリラ、今すぐ出てこい。

 

まあざっくり言えば、今の私はスーパー雑魚なのだ、それもびっくりするほど。

 

「だから明日も私はお留守番。それでいいんじゃないかしら?」

 

そう言うと二人は困った顔をして、今度は私を困らせることを言った。

 

『そういう事じゃないんだよ、ギネヴィア。私はね、貴女に居てほしいの。他でもない貴女に、あの時冬木で私たちを守ってくれた貴女に』

『そうです!ギネヴィアさん、一緒にこっちの空を見ましょう。明日皆さんと一緒に世界を守って、このフランスの綺麗な空を!』

『だから、エミヤだけじゃなくて、ジャックだけじゃなくて、ギネヴィアも一緒に来てよ!みんなで勝とうよ!』

 

そんな幼子に諭すように、悔しいことを言ってくれる。

どうしてもこの子たちの言う事には敵わない。

嗚呼もうどうしてこの子たちは、私が欲しい物をくれるのだろう。

どうしてこんなにも、

 

 

―――糞みたいな世界で輝けるのだろうか。

 

 

 

「……そうね、考えておくわ」

 

だなんて火照った顔を隠しながら言うとやったーだなんて騒ぐ二人。

まだ行くだなんて言ってないのに決まったことの様に信じている。

どうやら降参するほかないようだ。

 

挨拶もそこそこに通信を切り上げ、何時の間に居たのか後ろでニヒルに笑っている士郎君を蹴り飛ばし、私は次郎丸を呼ぶ。

 

Foooooooo(あれ母ちゃんどないしたん)?」

「少し貴方の中に籠るわ。今からそうね、六時間ほどしたら教えて頂戴」

Foooo(あいよー)

 

そう言って次郎丸の中に入る。

中は当然ブリテンで集めた魔力が()()()されている。

コストはかかるが召喚しなおせばその度に集めた魔力が修復された状態で召喚できるこの子は戦力としては心許無いが、魔術師としてはこの上なく便利な存在。

だからこそ英霊二騎の霊基を限界まで強化できたのだ。

そして今度は私の番。

一晩で何処まで行けるかは分からないが、

 

「良いわ。貴女(立香)の期待、貴女(マシュ)の願い、叶えて見せようじゃないの」

 

私はギネヴィア、アーサー王の妻。

あの地獄を逃げ出した愚か者でも、あの晩まで戦い抜き民の希望となったもの。

円卓が定めた枠が何するものか!

 

「さあ、気張るわよッ!」

 

そうして魔力を吸い込みながら夜が更ける。

決戦は明日、かのフランスの地だ。




マテリアルが解放されされされsaresasasa。
マてリあルが開放介抱会報解法回峰ささささささささささささsasasasasa.


……くすっ。


まてりあるがかいほうされました。



たった一人の正義の味方。

クラス:アーチャー
マスター:藤丸立香
真名:衛宮士郎/エミヤ
身長/体重:187cm/78kg
出展:不明
地域:現代日本
属性:中立・中庸
カテゴリ:人
性別:男性
イメージカラー:赤
特技:ガラクタいじり、家事全般
好きなもの:愛する奥さんですよ勿論、ね?
苦手なもの:勝手に誘惑してくる雌猫ですよ
天敵:■■桜

弓兵のサーヴァント。とある守護者の殻を被った疑似サーヴァント。
現代日本で自ら守ると誓った少女を生涯をかけて守り抜いた誰も知らない英雄。
その結果この世全ての悪を打ち倒した、神秘薄き世で神殺しをなした無銘の騎士。
でもやっぱり筋力はD、おっと心は硝子だぞ。

【ステータス】
筋力:D 耐久:C 敏捷:C 魔力:B 幸運:D 宝具:?
【クラス別スキル】
対魔力:D
単独行動:B- 本来はBランクだが彼が生前受けた祝福という名の束縛によりランクが低下している。
戦闘時に行動する分には問題ないが女性に声を掛けたりいちゃついたりすると、行動に制限がかかる。
具体的に言うと戦闘には一切支障が出ないが霊基が軋み謎の胃痛に襲われる。
誰の所為かは言うに及ばず。
【保有スキル】
神殺し:D かつて東方の悪神を討ったことで得た特殊スキル。神霊特攻、特に悪神と戦闘する際に補正がかかる。
本来英霊エミヤが持ち得るスキルではないが、彼の寄り身となった名も無き存在が成した功績により獲得した。

鷹の瞳:A

投影魔術:A+
【宝具】
無限の剣製
ランク:E~A
種別:不明
レンジ:不明
最大補足:不明



偽・螺旋剣Ⅱ(からどぼるぐmk.Ⅱ)
ランク:-
対ギネヴィア用懲罰宝具擬き。度重なる騒ぎと奇妙な胃の痛みに耐えかねたアーチャーが召喚されて三日目に改造したもの。ラ○オンボード製でぐんにゃり曲がる。
形こそ彼が愛用する偽・螺旋剣だが材料が材料だけにすごくチープ、でもちゃんと塗装はしてある。
もっぱらギネヴィアが張った結界や生み出した幻想種擬きに打ち込んで壊れた幻想する。
ライオンボードだけだと心許無かった為、心材には彼と生前縁のあった女性教師が愛用した竹刀が使われている。
そのため使うと何処からともなく虎の鳴き声が聞こえるとか。
内包される神秘が少量な上に材料が材料な為、殺傷力は一切ない安心設計、子どもでも安心して使える。



■・■■■■■
ランク:C~A
種別:不明
レンジ:不明
最大補足:不明
遠く遥か海の向こう、数多の豪傑が名を遺した神代において最強の名を欲しいままにした大英雄。
狂い悪神の泥に染められて尚誇りを持ち続けた狂戦士が振るえなかった究極の一。
とある戦いで投影して以降も生涯使い続け、原典に当たる宝具自体が流派とも言うべき形態であったが為に奇跡的に登録された。
それは若しかすると己を討った若き勇者への大英雄からの贈り物なのかもしれない。







若い女の子といちゃいちゃして楽しいですかぁ?
そうですよね、出すもの出さないと男の人って辛いですもんね……。
大丈夫ですよ、すぐ私もそっちに逝きますから?



―――だから待ってて下さいね、士郎さん♡

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