オリ主が挑む定礎復元   作:大根系男子

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純白の花嫁(混沌・狂は伊逹じゃない)

メドゥーサ。

支配する女。

古くはキュベレイと崇められた地母神の末裔。

アカイア、現代でいうギリシャ地方の神霊である。

通常であればそんな存在を聖杯を通して召喚出来る筈もない。

如何に狂った状況であろうとその原理原則は変わらない。

 

メドゥーサ。

支配する女。

それは見たものを石へと変える魔獣の女王。

オリュンポスの神霊によって迫害された土着の女神、その呪われた末路である。

故にこそ彼女は呼び出すことができた。

その身を堕ちた神霊、英雄に破られる定めを持った反英霊として。

だが侮るなかれ。

上級位の英霊たちと遜色のないステータス。

最高峰の魔眼、宝石の瞳「キュベレイ」。

神代に生を受けし幻獣域の魔獣「ペガサス」。

そしてそれを駆る為の手綱「ベルレフォーン」。

其れだけならまだしも此度現界にて得た器は槍兵(ランサー)

故にその手に持つは不死殺しの大鎌「ハルぺー」。

数多の宝具を携える正しく優勝を狙える英霊。

それがメドゥーサだ。

だからこそ汚染され思考が霞み、通常であれば存在しない慢心と増幅された嗜虐心があったとしても木っ端な小娘風情に負けるはずがなかった。

 

―――だが例外があった。

 

「……な、ぜ?」

「何故?何故って貴女どうしたのかしら?」

 

口元に三日月が浮かぶ。

嗤ってしまう。

一体全体何が不思議なのだろうか。

 

「……だっ、て貴女は」

「ええそうね、私はさっきあの子たちの処に行ったわ。そっくりだったでしょ?私の霊子構造と丸っきり同じ構成に編んだ偽物は」

「馬鹿、な……そんな、そんなことッ!」

 

霊子を編む。

自分が生まれた時代にはそんなに難しい話じゃない。

この大源の薄い時代でやるのは聊か草臥れたがまあでも、そこまででもない。

 

「不思議なことかしら?ねえ支配する女(メドゥーサ)、宝石の瞳、悲しい女神、私と同じ母なる大地の末裔よ。貴女もアカイアの英傑ならばご存知でしょう?」

 

つらつらと挙げる名は比較対象としては間違っているだろう。

自分はそこまで万能ではなく、彼らには及ばない。

 

「コルキスの王女メディア、鷹の魔女キルケー、預言視カサンドラ、医聖アスクレピオス。ほら思い出して?彼らは何だって、それこそ神の定めたルールすら時に歪める万能の人だったでしょ?」

 

魔女とは、魔術師とは、そういうものなのだ。

この神秘の薄い世界ではどうだか分からないが、少なくとも神代、そしてそれに限りなく近い時代に生きた術者というのは源泉に触れてきたのだ。

それが当たり前で、故にこそ我らは人ならざる者(魔法使い)として時に崇められ、時に迫害される。

だからこそ大抵のことは、

 

「何だってできるの。彼らに及ばずとも、貴女の魔除けの加護を突破できなくても、大抵のことはこなせるのよ」

 

疑問を紐解こう。

なにせそうマスターに宣言したのだから。

 

「貴女の疑問に答えるわ。大して強くもない竜種擬きが何故不死殺しの呪いを受けないか。答えは簡単、一回死んで新しく生まれ変わってるのよ、この子」

 

無性生殖なの、疲れたり、死んだりしたら自分とそっくり同じ存在を生みだす蚯蚓という生物の特性。

元は小さなごく普通の蚯蚓ですもの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ね?小さな生き物ってすごいわね。

 

「貴女の疑問に答えるわ。魔力に乏しい私がどうやって分身を維持しながら隠れていたのか。答えは簡単、この子の中はねブリテン全土から拾い集めた大源で満たされてるの」

 

ちょっとねばねばしているけれど、土の優しい匂いがするとっても素敵な魔術工房。

それが私が育てて何度も何度も何度も何度も何度も殺して(愛して)は肉体改造してきた実験生物。

ね?やっぱり可愛いでしょ?

 

「貴女の疑問に答えるわ。体当たりしかできないただの蚯蚓がどうして貴女を捉えられたか。答えは簡単、実はね、貴女と殴り合ってるときにそこら中にばら撒いといたの」

 

もし暗殺者が来ても何時でも逃げれるよう。

そう備えて高い羊皮紙と海の果てから届いた高価な重草紙(パピルス)、ばら撒いたのは逃げる為の転移と足止めの為の麻痺の呪詛、それから誘導の呪詛を記したそれよ。

ね?歩きにくかったでしょ?

 

「貴女の疑問に答えるわ。幾ら竜種とはいえ最低階位(Eランク)の神秘如きが貴女をこうして咢で噛み砕かんとする万力に成り得るか。答えは簡単、ずぅっとね、ずーっと、私がこの子の中で強化の魔術を絶え間なく掛けてたから」

 

気づいたかしら?

貴女の加護が強すぎておへそが真っ赤になりそうな私が、顔を真っ赤にして強化の魔術を掛けてたことに。

静かに静かに、ずーと呪ってたのに。

ね?分からなかったでしょ?

 

「そして私は此処に居る。咢を閉められまいと必死に四肢を踏ん張って貴女、とっても素敵よ。顔を野苺みたいにして落ちてきそうな天井(上顎)をお手々で支えて、足を仔馬に震わせて迫って来る大地(下顎)を抑えてる」

「ッ!ッ!?」

「あらあらそんなに怖い顔しちゃ駄目じゃない。ほーら、がんばれ♡がんばれ♡」

 

嗚呼愉しい。

私の宝に手を出した愚か者。

私は王妃、円卓の主人の妻。

だから契約は違えない、そんな、そんな詰まらない(不誠実)な真似はしない。

 

「でも安心してもう大丈夫よ。だって私がここで待ってたもの!貴方の頑張り見てたわ!とってもうちの子じゃ敵いそうに無かったのに気が付けば足を取られてお口の中、あら大変、どうしましょう!?」

「ぎッざ、マぁッ!」

「だけどもう安心。私は嘘はつくけど皆から責任感が強いねって言われるの!だからそれに恥じぬよう()()()()()()()()……あら?忘れちゃったの?ええ嘘!?約束したでしょ!?もう!仕方がないわね、ならもう一度教えてあげる。いい?よく聞いて。貴女はね」

「ぐッがぁ、ああああッ!キャスターァァァッ!」

 

 

―――ぐちゃぐちゃに磨り潰して殺してあげるわ。

 

 

 

ぐちゃりと汚い音が聞こえて、ずりずりと噛みしめながら鋳潰され流れる泥が見えて。

 

「あらやだ、次郎丸?ばっちい物を食べたらちゃんと吐かないとだめよ?」

 

いつも通りアーサー王(藤丸立香)の下に戻るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、キャスター!一体この状況はどういうことなの!?」

 

ふうと人形と自分との置換を終えてマスターの下に戻ってみれば随分遠くまで走ったようだ。

音に聞くコルキスの王女であれば、有り合わせの材料、それこそ地面に転がる石ころ程度でも簡単に削って意識が同調させられる人形ぐらい簡単に作ったでしょうに。

私にはそんなことは不可能だ。

出来たのは表面処理だけして見かけだけ取り繕った人形擬き。

万能とは聞こえがいいが、何でもかんでも出来るわけじゃない。

出来たように見せかける、それが私の万能(限界)なのだから。

 

「どう、と聞かれも困るわ魔術師(メイガス)。可愛い後輩に手ほどきしてあげたいのは山々だけど、私もついさっき召喚されたばかりなーんにも分かってないの」

 

嘘はついてない、本当のこと。

その回答に困ってしまう三人の少女達。

困った、困ったどうしましょ。

まあでも事情が分からなくてもこれだけ分かりやすい目印があるなら然して問題はない。

 

「取り敢えずあっちの方に行ってみましょうか?英霊を呼ぶなんて馬鹿げた儀式、おまけに要石は真贋は分からないけれど聖杯。それならそんな厄ネタを置ける場所に行きましょ?」

 

いつの間にか来ていた山の麓。

指さしたのは山の中腹。

魔力で強化した視界に広がるのは莫大な魔力の上流部。

まず間違いなくあそこが本命だろう。

 

『僕もその意見に賛成だ、ギネヴィア王妃。こちらで確認したところあの山の奥から膨大な魔力反応が検出された。今この街でこれだけの規模をしでかせる魔力の源はまず間違いなくあそこにある』

 

ふむ、随分と()()()()()()()()()がする。

 

「あら貴方は?」

『僕はそこにいる三人と同じく人理継続保障機関フィニス・カルデアに所属する者ですよ、王妃。名前はロマニ・アーキマン』

「へえ、人理継続保障機関……」

 

それはまた随分と、

 

「人理の調整者を名乗りますか……成程、今一つ分からない状況ですがどうも厄介事なのね、この聖杯戦争というのは」

「さっき話したでしょ!この特異点Fで起きた聖杯戦争は人理焼却と何かしらの関わりがある。この問題を調査して私たちは2016年以降の人類の存続を保障しなきゃいけないのよ」

「あらありがとう……ええとキャロライン?」

「マリー!オルガマリーよっ!何で藤丸とマシュは覚えて私は憶えてないのよ!?さっき自己紹介したでしょ!」

「ああ!そうそうごめんなさいマリー!私ったらもうっ恥ずかしいわ」

 

よし誤魔化せた。

問題はない。

取り敢えず名前と所属を聞いた。

如何やら自分のマスターはとんでもないことに人類の未来を守る大役を担っているらしい。

実にいい。

人の道を進むマスター。

聖杯の騎士の後継たる無垢の少女。

何だか愉快なお嬢さん。

うん、愉しくなってきた。

何だかとっても気分もがいいし、さくさく進めたいところ。

 

「さっ、早く行きましょう!」

 

そういって貼ってある結界を踏みにじりながら一歩踏み出して、足を止める。

暗い顔をして少女たちが止まっている。

 

「どうかしたの?」

 

そう聞けば、マシュが口を重たく開いた。

まるで至らぬ自分を恥じる様に。

 

「キャスターさん、私は、その……まだ宝具を使えないんです」

「んん?……えっと、そうね、それがどうかしたの?」

「え?……いえ、ですから英霊の真価たる宝具がまだ使用できなくて……情けないことにこの力を貸してくれている方からまだ、聞けていないんです。宝具の名も、私に力を貸してくれた恩人のお名前も……」

 

「……あのむっつりめ。親子揃って何て面倒な性格なんでしょう」

 

ふぁっきん、思わず親子二人に文句を頭の中で言う。

小声で言ったから当然届いていない、だからマシュは気落ちしたように下を見ている。

すかさずマスターが励ましていた。

 

「ほら!それはその、私がマスターとして未熟なせいだからさ!」

「いえ、これは私自身の所為です。決して先輩の所為なんかじゃありません!」

「でもマスターは私だし……やっぱりマシュは悪くない!」

「いえ!これは私の所為です、先輩は一つも悪い所なんてありません!」

 

いや私が、いえいえ私が漫才の様に互いが自分を責める。

なんてまあ不器用なのか。

いっそ眩しい程に美しい。

とはいえこのままでは埒が明かない。

ぱんぱんと手を叩いてさっさと階段を上っていく。

速足の速度で進む私に遅れながらも三人は着いてきた。

その気配を感じながら後ろを向いたまま声を掛ける。

 

「別に誰の所為でもなければ、誰が悪いわけじゃないわ」

 

そう言いながら歩を進める。

鼻に突く泥の匂い。

近いなと思いながら何処か見知った気配を感じ嘔吐感と嗚咽の気配を感じる。

それに無理やり蓋をして言葉を続けた。

当然歩みは止めない。

もうすぐ入口だ。

 

「宝具が人を選ぶのか、それとも人が宝具を選ぶのか。それは分からないけれど、使用者とその宝具は血肉の様に深い繋がりがあるの。意図して人が爪や髪を伸ばせぬように、意図して己の四肢を動かすように。必要な時に必要な分だけ宝具っていうのは働いてくれるの」

 

最後の一段、その手前で止まりくるりと回る。

下の段にいる幼く無垢な少女の手を取って、言葉を届ける。

それがきっと王妃としての役目で、同じマスターに仕える仲間としての精一杯の助言。

 

「貴女の大切なもの、大切な人。守りたいと思うもの、守りたいと願うもの。決して心から離さずに戦いなさい。そうすればきっと貴女の中の英霊は応えてくれるから」

「っ!……はいっ!」

「良い返事ね、私、貴女の返事が大好きよ」

 

さて、あの時と同じように待ってくれる素敵な御人。

あんまり待たせるのも悪いから、

 

「さ、私は此処まで。合図をするから()()()()()()()()()

「キャスター?それどういう……」

「先約があるの。お礼を言わなくちゃいけないの、だからね、後は貴方たちだけで行って頂戴な」

 

光る。

言葉に仕込んだ魔術が発動し早駆けの加護が起動する。

これで後はあの子が来れば問題ない。

 

「まさか貴女!?」

「言いっこなしよ、キャロライン?大丈夫、()()()()()()()()()()()()()

 

光る。

必勝の加護。

使い慣れたそれは寸分違わず効果を発揮してくれる。

 

「……キャスター」

「ええ、なぁにマスター?」

「背中、お願いね」

「ッッ!……ええ勿論、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。安心して、そういうの得意なの」

 

光る。

守護、そして連理の加護。

ああしかし本当に、この子は人をやる気にさせるのが上手な子だ。

気力は十分、仕込みも完了。

あとは仕上げ御覧じろ。

 

「さあ!行くわよ次郎丸!」

 

「へ?」

「え?」

「うぇ?」

 

FOOOOOOOOO(やったるでー)!」

 

景気よく下から昇ってきたとぐろ巻きみみず(次郎丸)

その背にひょいっと三人を掴んで飛び乗り、境内に飛び込む。

 

「え!?なに!?この子っ次郎丸って名前なの!!?」

「そうよー、かわいいでしょー」

「どこがッ!?嗚呼もうこれだから英霊は嫌なの!レフッ!レフッ!早く助けて!」

「そうですか?私はよく似合ってると思いますが……」

「「マシュ!?」

 

どうやら理解者が増えたよう。

ギネヴィアとってもハッピーよ。

さあ入口まで目前。

案の定そこに居たのは真紅の弓兵。

魔法の一歩手前まで迫る大禁呪の担い手。

不完全な状態で先の戦いで見せられなかった宝具を前にしても別段変化はない。

弓を引き矢を番える。

嗚呼そうでしょう。

そうするでしょうとも。

 

「させないけれどね」

 

矢に宿る膨大な神秘、自分の防壁ではどう考えても防げない。

ならやることは単純。

 

「三名様()()()()()()!」

Foooooooooooo(嬢ちゃんたち気ぃつけてなぁ~)

 

「ちょ!?」

 

誰の声だか、まあいいか。

しかし伊逹に十年以上一緒に暮らしていない。

こちらの意図を読み取り次郎丸は、先導の加護を載せておいた三人を入口へと弾き飛ばす。

加護が働いて、入口の奥の方まで加速しながら行くことだろう。

当然その射線上は巨体で潰す。

それに気づいてか舌打ち入れて弓兵は、次郎丸ごと撃ち貫かんとする。

 

()()()()()()()()()()()()()()ッ!」

 

当然それも邪魔する。

次郎丸の巨体に隠れ、彼を盾として発動するのは前回も使ったもの。

周囲の大源をその場で結晶(マナプリズム)化させ即席の地雷、爆雷となす。

 

「くっ!」

 

轟音が響く。

次郎丸も巻き込まれその身を削られる。

だがそれで勝利が拾えるのなら安いことをお互い等に知っている。

 

「……やれやれ、驚くほど悪辣だな、君という女は」

「あらそう?必要な犠牲なら切って捨てるなんて当り前じゃない?」

「……不必要に痛めつけてメドゥーサを殺した君に言われると正直反吐が出るよ。なあ」

 

―――裏切りの女王(ギネヴィア)よ。

 

無言で返した。

そう蔑称がつく未来は知っている。

そして実際に役目を果たせなかった己は結末は違えど、その通りに違いない。

だからこそ無言で返した。

それにどう思ったのか、弓兵は気にした風もなく言葉を語る。

どこか惜別と、今度は侮蔑がこもっていた。

 

「しかし大それた化け物だ。耐久で劣るとはいえあのメドゥーサを()()()()()殺すとはな。それだけの竜種だ、君もそれに任せて彼女たちの処に行った方がよかったのではないかな?」

「本気で言ってるのかしら?竜殺しだろうと英傑殺しだろうと、それこそ不死殺しだって用意してみせる貴方相手にこの子一人じゃ荷が重い、そんなの分かり切ってるでしょ?」

「ほう、それは騎士王相手にあの三人で勝算があると、そう言い切るか。流石は嘗て()()を殺しただけはあるな」

「問題ないのよ。私が()と向き合えないように、彼もあの娘とは相性が悪いもの」

「向き合えない、か……どの口が言うかと思えば、浅ましい女だよ、君は」

 

やはりあの時息の根を止めるべきだったと告げる彼の勘違いを正す。

弓兵は正しい。

私は彼に合わせる顔がない、それは合っている。

けれど彼の下に行かなかったのはもっと根本的で単純に、()()()()()()()()()()()

 

「一つ、そうたった一つ、貴方の間違えを治してあげるわ弓兵」

「……何?」

 

そう違うのだ。

ここで背中を守ることこそがこの広い場所で戦うことが、そして彼女に刃を向けないことが必要なのだ。

 

「私はね、王妃なの」

「……何を」

「王から王権の代行を許された者。それが私、王妃ギネヴィア。先に逝った今でもその約定は続いていた。……では問題です、我が国の王権の証とはなんでしょうか?」

「まさかッ!?」

 

そう正解は至って明快。

右手に呼び出すのは王の留守を預かる者の証。

故にこそ、これは王に向かって振ることはできない。

仮初の主人、されど正当な権利として振るうことを許された身だからこそ登録された切り札。

 

「起きなさい、王剣(クラレント)。全力全開を許すわ、しっかり気張りなさいなッ!」

「貴様はっ何処まで彼女をッ!」

 

何か言っているようだが聞こえない。

腕を振って数十の剣が弾丸となって来るが問題ない。

それより早く『魔力充填』が全開起動し、宝具の真名が開帳される。

 

「―――過剰充填・王剣執行(クラレント・オーバーロード)ッッ!!」

 

刹那、肉体が音を置き去る。

 

かの湖の騎士が振るう星造りの聖剣。

その絶技を真似て、王剣の持つ『増幅』という特性を暴走させる。

足元からこの身を通して流れ込む魔力を増幅させ、かの常勝の剣に迫る光輝をそのまま身体活性と威力上昇に回す。

結果として、

 

「貴様は本当に愚かだな、ギネヴィアッ!そんな自滅ありきの方法で一体何が得られる!?」

 

腱を、筋を、肉を引き千切り魔術回路を焼き払う形で莫大な魔力が注がれていく。

元から低いステータスでも平均クラスのサーヴァント程度には至れるだろう。

 

「愚か?ふふっ可笑しいわ。私のやり方が間違っているなら、さあこの場の最善は、愚かでない方法は何だというのかしら?」

「チィッ!」

 

故に、弓兵の懐に飛び込み続け固有結界の展開も妨害できる。

剣戟を繰り出す。

降り注ぐ剣に突き刺されながら、それでも役目を全うする地面に繋がった足場(とぐろ巻くみみず)を踏みしめ加速を続ける。

魔術合戦なぞどうにもならない。

幾ら増幅したとしても弓兵の矢の方が早く重く多すぎる。

 

一合を重ね二合で押し切り三合目には凌駕する。

三騎士相手に白兵戦を挑んで見せる。

力任せに振るうのではなく、速度に委ね、己の技術を思うが儘に振るう。

 

「まさかッ!君の時代は女王陛下も剣を習うのかッ!?」

「知らないのね、私、大抵のことは何でもできるの。勿論、剣術だってねッ!」

 

身体能力が劣り幾ら技量があろうと体力が無かったあの頃とは違う。

手慰みに習っておいて本当に良かった。

 

上段、双剣により防がれる剣ごと砕く。

次の一太刀はより流麗により鋭く。

幅広とは言えリーチが違う。

加速が付けば問題ない。

 

十全な魔力で押し上げられた身体機能で漸く、漸く、

 

「彼らの剣技に近づける!」

「何をッ!?」

 

大切な思い出、沢山、そう沢山見たわ。

ずっと真似したかった。

ずっと己の中に仕舞いたかった騎士たちの動き。

やっと、やっと真似ができる。

 

「今ね、私とっても絶好調なのよ……さあもっとダンスと洒落込みましょうッ!」

 

一度距離を離し吶喊。

弾丸の様に跳び込めば、私の方が一皮分反応が早い。

横薙ぎ、当然防がれる。

只の剣ならもう一振りのほうではいお仕舞いだ。

ならちょっと早いし啖呵を切っておいてなんだけど、私の方からお仕舞いにしましょう。

 

「吼えなさいッ!」

「がッ!?」

 

―――閃光が世界を飲む。

 

言葉を載せて己の腕も焼きながら暴走する魔力を解き放った。

それは星光に手を伸ばす輝き。

ブリテンすべての民を守る護国の煌き。

獲った、その確信があった。

 

「驚いた。あの哀れな女がこうまで気狂いとはな」

 

声がする。

ああ糞、

 

「だがやはり貴様を生かしたのは失敗だった。あの哀れな姿の方がよほど美しかった。今の貴様は見るに堪えん。だからこそ、仕込んでおいて正解だったよ」

 

届かなかったか。

 

「───So as I pray, unlimited blade works」

 

閃光が閉じると、剣の世界が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、もうこれ以上は無意味だと貴様にも理解できるだろう?」

 

見なくても分かる。

己の五体は焼け焦げ自慢の髪も台無しだ。

 

「見ろ、貴様が子と語った芋虫はどうなった?何の役にも立たずに転がっている」

 

出し切れるだけのことはやった。

勝利、守護、早駆け。

彼女たちにかけ、そして連理の加護によって互いが負けぬ限り強化を相乗し合うように簡易的な誓約(ゲッシュ)もかけた。

己を捧げて王剣を見っとも無くも暴走させて。

大事な子を踏み台にして壁にして。

それでも己一人ではこの男に勝てない。

 

「……もういいだろう。君は十分やった。いい加減、その見苦しい献身は止めたまえ」

 

献身。

成程確かに。

助けられた恩義に報いるためとはいえ、中々どうして身を献上し尽すほどに頑張ったではないか。

ならば此処が潮時か。

もう、限界だ。

 

「ええ本当、これだけやっても敵いそうにないわ」

 

弓兵、貴女の仰る通り。

私はもう貴方に敵わない。

だけど、だけど、

 

「でもごめんなさい。見っとも無く足掻くのは私の専売特許なの。これまで捨てたら、今度こそ何もかも失っちゃう」

 

ずっと、ずっと、生き汚く、見っとも無く生きてきた。

今更、今更こんな場所でその習性を変えるのはどだい無理な話なわけで。

だから、そうだから

 

「けどもう無理ね。どんなに足掻いても勝てそうにないわ」

 

―――だから私も、切り札を切りましょうか。

 

その言葉に答えず弓兵は剣を指揮する。

既に彼の頭上には千を越える葬列が行儀よく待っている。

まあでも答えてくれないのなら勝手に進めればいい。

 

「王妃が告げる……()()()()()とぐろ巻くみみず(ワームソイル・エンジン)

 

只一声。

ただ死ねと命ずる。

それに恭しく頭を下げて、次郎丸は活動を停止した。

ここまで頑張ったのだから、これ以上裂かれる痛み何て必要ないだろう。

お疲れさまと心の中で告げる。

その間、彼は何をするわけでもない。

待ってくれている。

麻痺した思考と膨れた本能、なるほどこの泥は容易く人の心を解かす毒だ。

そして膨れた本能の先が『他者に優しくするだなんて』、嗚呼彼は何て素敵な人。

だからこそその思考が最後の欠片に繋がる。

 

「汝、我が身を寄る辺とし、我が意、我が理に答えるならば。そうね、こうしましょ」

 

彼女の身体から探り当てたこの戦争の始まりの痕跡。

即ち英霊との契約を自己流に変えて悟られぬように告げる。

けれど残念、どうやら彼は気づいてしまったよう。

ならば言葉は簡潔に。

こんなところが折衷案かしらね?

 

「一緒にお風呂に入る、っていうのはどうかしら!ねえ?」

 

 

 

―――ランサー?

 

 

 

冷たい鋼の暴漢が襲い掛かるその刹那、私の身体を風が攫った。

抱きかかえてくれる柔らかい肢体は自分の物よりずっと豊満で瑞々しい。

悔しくなんかない、ないったらない。

()()()()()()()()()()()()()()からか、ちょっとべっちょりしてるし。

そんな私に静かな声が降り注ぐ。

 

「その言葉、決して違わぬというならば良いでしょう。いい加減私も良いように扱き使われるのは癪ですし。……今この一度だけ貴女の騎馬となって戦場を駆け、爪牙となって敵を切り裂きましょう」

「わあ頼もしい。ええ、ええ勿論よ!私は大噓つきの魔女だけれど約束だけは守るわ。だって知ってるでしょ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ええ、そうですね。まさかあんな辱めを受けるとは思いませんでした」

「えーいいじゃない。慣れたらそんなに悪くないわよ」

「……今後騎士王への見方を変える必要があるようですね。随分とまぁお盛んと言いますか、倒錯的というか」

「首絞めよりはよくないかしら?」

「それは貴女の勘違いでしょう?」

 

ぶーぶーと文句を垂れても頑なに聞き届いてはくれない女神様。

懐かしい円卓でのぐだぐだ感にも似た空気に頬も緩む。

これから命の取り合いだっていうのに、全く一体どうしたものかしら。

そんな緩い思考に怒りに濡れた声が喝を入れてくれた。

 

 

「……そうか、そういうことか。貴様、魔術師(キャスター)ッ!誤魔化したのだなッ穢したのだなッ!敗北し聖杯に還るはずの霊体(死体)を弄ったかッ!!」

 

弓兵が激昂する。

何を怒ったのかと思えば成程、至極真っ当な物だった。

本当に目の前の男は泥に侵されているのか甚だ疑問だが。

 

死体を弄る。

 

其れは人類にとっての禁忌だ。

人が人として進化していく中で得たもの、人を人足らしめる一要因。

それが死者を想う心だ。

故にその死を穢すものを人は決して許さない、生物として遺伝子に深く刻みつけられた本能なのだ。

だからこそ数多ある魔術系統の中でも死霊魔術は飛び切り倦厭されてしまうのだ。

とはいえ、こと今回の件に関して私は

 

「そう怒らないで……そうね、貴女の疑問に答えましょう。答えは簡単、そもそも私はランサーを殺してない。私が磨り潰したのは聖杯に還る用に剥離したランサーの泥。それを核にして次郎丸に貯蔵してある大源で着飾ったの。それでも足りなかったんだけど、()()()()()()()()()()辺り一面泥まみれだから材料がたくさんあって助かっちゃった」

「馬鹿な!あの泥を、霊体から剥離するなどッ!?」

「ええ出来なかったわよ。だから次郎丸で吸収したのよ。知ってる?みみずってね、食べた毒素をそっくりそのまま吸収するの」

 

どう?ちゃんと役に立つ子でしょ?とウインクしてやれば何故か愕然とした顔で呆ける弓兵。

全くそんな風に女の子の言葉に呆けるのは告白だけで十分だと王妃は思います。

は?年齢的にその発言はキツイ?ぶっ飛ばすぞゴリラ。

脳内に現れた年下巨乳好きという怨敵に反吐を吐いているとランサーが言葉を引き継いでくれる。

 

 

「磨り潰すと言った割りに亀甲縛りで蚯蚓の体内に放り込まれた時はどうしたものかと思いましたがね。……まあ見てくれを度外視すれば、土地に恵みを与える者である蚯蚓と地母神の末路たる私の相性はそう悪くありませんから、時間は掛かりましたがすっかり綺麗に取れましたよ」

 

ですがもう二度と体験したくありませんねというか蚯蚓って幾ら相性が良いから蚯蚓って…となぜかへこんでいる。

不思議ね?なんでかしら?

まあでも本当に単純なこと。

汚染されたことでパスがつながったのならそっくりそのまま原因を取り除いてやればパスは消えてる。

そうすれば誰とも繋がっていない野良サーヴァントの出来上がり、レンジでチンする必要なんかどこにも無い。

隠しておくのも楽だし、パスがないことをいいことに再契約だってちょちょいのちょいだ。

 

「後は簡単、出来上がった泥んこランサーを適当に磨り潰して聖杯に誤認させる。残った綺麗な方のランサーは次郎丸のお腹の中で待機。ね?簡単でしょ?私ね土いじりって、昔から大得意なの!」

 

さあ話は終わりと手を叩く。

未だ呆けた弓兵。

それぐらい油断してくれなきゃ途方もない魔力を宿した固有結界持ちになんか到底勝てっこない。

大鎌を向け四肢に力を入れるランサーを見て私も覚悟を決める。

 

「さあこれで準備は整った。あの子たちが勝ちを取るまで付き合ってもらうわ、アーチャー。私、大変残念だけどこういう地味な負け戦で勝ちを拾うの得意なのよ」

「……成程、貴女は()()ブリテンの出ですものね。……心中お察しします」

「やめて、言わないで」

 

ええい糞と思わないでもないが気を引き締める。

さあ大一番。

霊子構成をほんの僅かに弄って残った小源と王剣とを直結させる。

増幅の王権は歓喜の声を挙げて再起動し光を湛え刀身を焼け焦がす。

さっきまで程といかなくてもこれで十分時間は稼げる。

常勝の王、その妻たるものが必勝を誓ったのだ。

負け戦など慣れた物、だが最後の勝ちは貰っていくぞ。

何も残らぬ身なれども、最後に貰った借りだけは忘れない。

 

―――さあ、勝ちを盗りに行こう。それがきっと素敵な明日につながるのだから。

 

「ではでは愉しいお茶の時間です。……王妃の歓待、確り受け取ってくださいな?」

 

開戦の合図は初戦よりもずっとかっこよく決まった。




書けば書くほどわかる冬木市在住の葛木メディアさんの凄さ。
そして書けば書くほど増える次郎丸の描写。

後日談はまた明日にでも。
その時にはステータスも一緒に載せます

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