オリ主が挑む定礎復元   作:大根系男子

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というわけで漸く本筋です。
珍しくグロ注意じゃないけど相変わらず独自設定と伏線のガンギマリなのでご注意下さい。

べつに先々週の零度の炎がかっこよかったから武装チェンジしたわけじゃないよ(目逸らし)


門番は誰かーact.2

―――ごめんなさい。

 

輝きが見えた。

流星のようなまぶしい光だ。

その光景を見て誰かが、私の胸の内で悲鳴を上げた。

その光景を見て誰かが、私の傍で悲鳴を上げた。

ごめんなさい。

その光景を見て私が、誰にも悟られぬように嗚咽を漏らした。

弱い。

弱い。

よわい

ヨワイ。

■い。

嗚呼ごめんなさい。

 

私が■かったから。

ごめんなさい。

私がもっと強ければ。

ごめんなさい。

私の所為です。

ごめんなさい。

また間に合わなかった。

ごめんなさい。

 

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

 

 

嗚呼、どうして。

どうして。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――どうしてこんなに、()は■いのだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、もうさ。何でもアリってやつだよね」

「はい、これは……正直想像していませんでした」

 

先輩の声と共に目を開き、開いてその瞼をより大きく開いた。

第一階層の攻略を終えて一日が経ち、今回の睡眠でも意識の化と同時にこの内面世界に先行してきた私と先輩でしたが……。

 

「これは……お祭り、でしょうか?」

 

現実世界では海寄りを歩いているためか夜風を冷たく雲も非常に重かったのを覚えています。

第一階層は廃墟となった都市部。

それについては現在先輩と記憶の照合を行った上でまとめた所感をドクターロマンに報告して近似する都市を調査してもらっています。

ですが、今目の前に広がるのはそれらとは異なる景色。

立ち並ぶのは橙色の提灯、そして屋台。

香るのは、何かの焼ける香ばしくも甘辛い食欲をそそらせるそれ。

 

「たぶん、そんな感じかなー。マシュはお祭りとか初めてだっけ?」

 

人の往来、賑わいこそないが確かにそれは祭り。

特にマスターの出身である極東、日本という地域のそれに酷似しています。

そしてレイシフトを除いてカルデアから出たことのない私の返答は決まっていました。

 

「はい……そうですね。こういった場所に来るのは初めてです」

 

初めてだ。

黄昏が更に暮れ夜に近い時刻を設定しているのだろうか。

夜を人工の明るさで照らすのは文明が成熟するよりも前から人類が手にしていた技術だけれど、こんな風に薄暗がりを彩るというのは不思議な気分です。

マスターの国の言葉で言えば、風情がある、というのでしたか。

 

「ね、マシュ」

 

そんな風に始めてみる目の前の景色に見惚れているとマスターから声がかかります。

優しく気遣うようで、けど芯の篭った力強い声。

カルデアではこれまで聞くことのなかった、生きている、そう私自身に思い出させてくれるそんな可憐でありながら逞しい、私の大好きな声です。

 

「はい、先輩。どうかされましたか?」

「いやさ、マシュってこういう場所初めてなんでしょ?」

 

どうかしたのでしょうか。

先輩は口元をくいっと引き上げ悪戯気な顔で笑い私の手を引いて歩き始めます。

 

「ちょっと冷やかしてみよ!大丈夫!これも、ちょうさ?って奴だしさ!」

「……はいっ!」

 

先輩の笑顔に釣られ私も笑顔を、浮かべます。

 

「おっ!綿飴!あっちは烏賊焼き!あ、揚げ餅!うわー揃えてくるなぁ」

「この綿飴、でしたか。こんなお菓子が日本にあるとは。見た感じ、大変ふわふわです」

 

浮かべたはずです。

 

「そうそう、ふわふわなんだよー……ってこれ型抜き!?それにうわ、きゅうりの一本漬けとか珍しー」

「きゅうり、の串刺しですね。これはなんというか、随分簡素なような」

「こういうお祭りって夏にやること多いしね。そういう時冷えたきゅうり食べると美味しいんだよー!」

「成るほど。確かにウリ科の食物は水分とカリウムを多く含むと聞きます。加えて成るほど、調味液に短時間つけることで過剰な水分を適度に調節しつつ旨みを凝縮、更に塩化ナトリウムの付与。体を冷やした上で塩分を摂取できる、夏には最適な食品ですね!」

「おーましゅはかしこいなー」

 

でも、何故でしょうか。

 

「せ、せんぱい?急に頭を撫でられてどうかなさったのですか?」

 

じくりと胸が痛んで。

 

「んー……まっいいか。気にしないでね、マシュ」

 

ちゃんと笑えたのか。

 

「はい、先輩」

 

私には分からない。

 

 

 

「一本道だね」

 

先輩の言うとおり石畳の道はどこまでも続いていく。

道の両脇には変わらず屋台が連なるがあまりその様相は変わらない。

そう変わらない。

減らないのだ。

かれこれ体感時間では一時間以上この道を歩いているが、並ぶ商品も種類も形も驚くほどバリエーションが豊かです。

経ることなく何十軒、何百軒と並び続けている。

一つとして同じものはありません。

すべて、まったく違う店が鮮明な形で其処にある。

 

「……あれ?」

「ん?どしたの?」

「いえ……ただ何か」

 

そう今、何か。

何かに引っかかった気がした。

 

「にっしてもさー、ほんと変わんないねぇ、景色。ギネヴィア、お祭り好きだったのかなぁ……見るからにそうか」

「そうですね、あの方はそんな人です」

 

なんだろうか。

なにか。

なにか可笑しい。

 

「……あの、さ」

 

どこか、ちぐはぐな、そんな気がしました。

 

「その、ね?マシュ……あーなんて言ったらいいのかなぁこれ……」

 

私の知る知識の中で、こんなことはあり得ないと。

 

「よしっ!」

 

 

 

 

 

 

 

「マシュってさ、なんか割かしギネヴィアに遠慮ない?」

 

 

 

 

 

 

 

その言葉で思考が凍りつくというのを、私は始めて経験しました。

口がまごつく。

言葉を理解できない。

何を。

どういう。

りかいがおいつかない。

 

「え?いえ、確かにギネヴィアさんは頼もしい仲間ですし年上の方なのでですがあまり遠慮ということは」

 

まくし立てるようになる口を必死に押さえる。

分からない、どうしてこんなに焦ってしまうのか。

分からない、どうしてこんなに必死になって表情筋を固めて愛想のいい表情に固定しようとしているのか。

分からない。

 

「……ふーん。そっか。なら覚えておいて」

 

なんでこんな風に。

 

()()()、なんて言いかたは仲のいい相手に使っちゃ駄目だよ……なんか壁って言うか距離感じてすっごく寂しいからさ」

 

 

取り繕うように。

誤魔化すように。

脅え祈るように。

 

「……はい、マスター。以降注意します」

 

嘘をついているのだろう。

 

 

 

歩く。

石畳は軋むことなくただ其処にある。

無言で進む私と先輩の足音を響かせる反響材となって賑わいのないこの世界の唯一の音を出している。

静かに進んでいきます。

どこまでも細部は異なれど配役の変わらず尽きることのない景色。

 

進む。

この先はいったいどこへ続くのか。

喉が妙に渇く、そういつの間にか私は思考している。

熱いわけでもないのにじとりとした汗が鎧の中を濡らす。

どうしたのだろう。

体調に問題はない、今朝と夜間の通信越しの診断と所感から言っても万全とはいえなくても風邪のような病気に罹患している可能性は極めて低いはず。

だというのに息が自然と上がる。

 

まだ。

 

まだ?

 

まだ!?

 

まだつかない。

早くついて欲しい。

早くこの時間を終えて、此処から離れて、時間をおきたい。

 

だって。

 

だって?

 

……だって。

 

 

マスターの。

マスターの顔を見るのが怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?

 

「なんで?」

 

なんで?

 

「うそ」

 

どうして。

 

「マシュ?ねぇマシュ!?」

 

あり得ない。

そんな、そんな風に思うはずがない。

 

「ねぇ!ねぇってば!」

 

私が、

 

「私が」

 

私が……。

 

そんなに■い筈なんてない。

 

「ッ!くそ!()()()()()()()()()()()!ファンブルだよド畜生!!」

 

黒く、黒く煮詰まっていく。

思考は固まり沈み崩れる。

どろり、どろりと融けていく。

 

花が咲く。

 

「嗚呼もう順番間違えた!」

 

白、黄色、花の開き方も多種多様なそれが石畳を割るようにして這い出て鎌首を擡げる。

その花弁は大地を見つめ決して空を仰がない。

そういう花だと、私は知っていた。

 

「くっそ、もう()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

同じように知っている。

嗚呼そうだ。

■はそんな■い人間なんかじゃない。

嘘をつくような、誤魔化すような、目を逸らすような。

そんな風に大事な人を騙す■い人間で()()()()()()()

何もかもが手遅れとなったときに抱いた呵責に押し潰されてしまうような。

 

「急ぎすぎたッ!」

 

約束一つ守れないような。

 

「マシュ!マシュ聞いて!落ち着いて……大丈夫、大丈夫だよ!」

 

大切な人のなんの力になれないような。

そんななさけなくて。

■い自分であるはずがない。

 

私は。

わたしは。

 

「ワタし……ハ……」

 

「マシュッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止めときな、嬢ちゃん。それ以上はいくらアンタでもディープなもんに呑まれるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に私の頭は冷たい水を注ぎ込まれたかのように明瞭さを取り戻しました。

 

「ひゃっ!?」

 

先輩の短い悲鳴があがったのを聞きいつの間にか()()()()()体に血がめぐり意識が先鋭化する。

なんて間抜け、そんな叱責をすることすら捨て置いて私は声のほうへと手を伸ばしながら振り返り、

 

「……ッ!マスター!?ご無事ですか……へっ?」

 

筋骨両々としてサングラスをかけた偉丈夫に担がれてバイクに乗せられる先輩を発見しました。

 

「わりぃが質問はNo Thank youだ。嬢ちゃんも早く乗ってくれや、折角のタンデムシートとサイドカーだ、とっびきりのゴールデンライディングとしゃれ込もうぜ!」

 

ほら乗った乗ったと背中を押されどこか急ごしらえ感を思い浮かべさせるサイドカーに乗り込む。

そこではたと気づいた。

景色が変わっている。

夕闇に輝いていた縁日に賑わいがある。

だがそれは、人のものではない。

 

「さて、と。久々の運転だ!安心しな大将!俺っちとこの」

 

唸りを上げる、おそらく近代の英霊だと思われる方の、モンスターマシン(宝具)を掻き消すかのような低く重い吼え声が辺りを満たす。

 

「ベアー号がいるんだからなァァッッ!!爆走で逝くぜェッッ!!!」

 

有角。

巨体。

異色の肌。

そして怪力乱神。

 

「Let'sゥッッ!!」

 

まつろう民の果て。

疫病の主人。

百の幻想種を束ねるもの。

亡者にあって亡者にあらず。

幻想種にあって幻想種にあらず。

 

「ROCK’N RooooooooLLッッッ!!!」

 

鬼。

それが、今眼前に現れた数十の敵影の正体だった。

 

 

 

 

 

 

 

「蟠りなくグッドドライブに誘ってやれりゃ最高ってもんだけどよ、ちょっとそいつは無理な相談てなッ!」

 

加速。

加速。

加速。

衝撃を纏って弾丸となって走りながらゴールデンな男は鬼の猛攻を凌ぐ。

その見た目からは想像出来ないほど繊細で緻密なハンドルワークと重量操作、その二つを駆使して本来であれば難しいタンデムとサイドーカーという二重苦を背負ったまま逃走劇を続けた。

 

「おっと自己紹介がまだだったな!俺のことはそう!ゴールデン!そう呼んでくれ!」

 

加速と共に強くなる壁に負けじと大声を張り上げながら吼える。

 

「はい!よろしくお願いします!せ、先輩!大丈夫ですか!!??」

 

が、返事があるのはマシュだけ。

当然だった。

いくらゴールデンが緻密で繊細な技術を駆使して気を使いながら運転していても、いくら立花がその身に対衝撃用の吸収素材を用いた魔術礼装を身に纏っていても無理なものは無理。

 

鬼の群れが金棒や刺又、大槌を降りぬいてくる中でスタンドアップとアクセルターン、おまけにスイッチバイクターンを繰り返されたら

 

「おろろろろろろろろろろろろろろろろろろ」

「せんぱーーーーいっ!!!???」

 

はっきり言って三半規管が逝く。

 

「ヒュー!いいね!俺のゴールデンな一張羅じゃなくて後ろ向いて吐く辺り流石は大将だぜ!」

「そ、そんなこと言ってる場合じゃないですゴールデンさん!一度どこかで止めて「そりゃ無理だ」……え?」

 

だが関係ない。

そう言わんばかりにゴールデンがアクセルを緩めることなく強く握るように、鬼の猛攻はとどまることを知らない。

右から金棒が幾本と降ってくる。

それを難なく避けるが轟音と共に着弾し大地を砕いたそれは砂埃と石礫を周囲に撒き散らかす。

 

「ッ!!」

 

視界が閉ざされる瞬間、その一瞬の隙間をねじ込むように顎を開き大槌を振りかぶりながら砂の暖簾から現れる。

 

「舌ッ!噛まねぇようになァッ!!」

 

フロントアップ。

大型バイクに三人分の重量、おまけにサイドカーつきのその総重量を持ち前の腕力でねじ伏せ車体を持ち上げる。

果たして前輪に備えられ車輪に合わせて回転する丸鋸と大槌が交差する。

 

 

「ッッ!!??くぅぅぅぅっっ!」

 

耳を劈く金属音。

削り取るようにして叫びを上げる破壊音は両者譲らず弾かれる様にして互いの距離を離す。

 

アクセルターン。

僅かにつけた足を滑らせながら360度の回転を成す。

曲芸染みたそれは言われずともゴールデンを名乗る男が騎兵(ライダー)なのだと確信させる高等テクニックだった。

 

「な!わかったろ?とまるブレーキ何ざどこにも置いちゃくれてねぇんだよ!!」

 

得心は、グロッキー状態の立花はそうでもないが、マシュはいった。

猛攻に次ぐ猛攻。

今もなお人間のそれとはまるで尺度の異なる槍が剣が槌が金棒が、異形によって振り下ろされ薙ぎ払われそれをゴールデンによって間一髪で避け続けている。

大砲もかくやと言わんばかりの轟音。

それは豪腕が獲物を振るった、ただそれだけの事実が空気の壁をたたきひしゃげている証左。

当たれば一溜まりもない、なんて悠長なことは言えない。

肉片が散りじりとなるだけでは済まない。

空気を破るほどの豪速は神秘と熱量を宿して溶かすように肉体を焼き焦がす。

当たれば血は沸騰し治癒すら間に合わず絶命する。

そんな攻撃が絶え間などなく、嵐の夜の雷雨が如く断続していた。

 

「でしたら!」

 

そうならば。

 

「いつまでこうしてるんですか!!」

 

猛攻は凌いでいる。

だがそれだけだ。

空気が纏う熱が、大地から砕かれ散弾銃の如く飛び出す石礫が、小さなダメージをゴールデンに蓄積していく。

ただの物理現象ではないのだ。

鬼の発する熱はそれだけで魔力放出と同義。

石礫もまた神秘を宿したこの世界の産物。

つまるところ、この空間にいる、ただそれだけだというのに少しずつ彼らの命は失われる。

一撃で捻り潰されずとも真綿に首を絞められるように、遠くない未来、彼らは命を落とすのだ。

 

だからそれは至極全うな問いで、そしてマシュからしてみれば帰ってきた返答は第一階層での戦いを経た身からすれば創造もしていなかったものだった。

 

「決まってる!()()()()()()()()()()()ッッ!!」

「……え?」

 

見ればゴールデンの顔は口一杯に渋柿でも含んだようだった。

吐き出すように男は言う。

 

「一個上のフロアじゃ上手くいっても()()()()()!俺しかいねぇ!俺一人じゃすんげぇショッキングで情けない話だが()()()()!」

 

勝てない、そうはっきりと英雄は言った。

未だこの男が何者なのかマシュははっきりとは理解していないがそれでも十分に強力な英雄だと肌で感じる魔力とその騎乗センスから理解していた。

とても近代以降の英雄とは思えないほどの腕力を有するこの英雄が。

ここまで何十体もの魔性から自分たちの身を守ってくれた豪傑が。

 

「だから逃げる!そんでもう一人増えるまで毎日これで凌ぐしかねぇ!!」

 

まさか逃げると、勝てないと言うなんてことは想像もしていなかった。

 

その言葉になぜか頭を殴られたような気がして、どうしようもなく頭が白くなる。

マシュに、今のマシュにその言葉はあまりにも劇物だった。

 

 

 

 

「きゃっ!!??」

 

 

 

大地を擦り叩き割るような豪快な音をタイヤが上げ車体は急停止した。

 

思わず声を上げ加速し続け世界を置き去りにした曖昧な景色から明瞭なそれへと戻った周囲を見渡し。

 

「っと悪りぃな……糞ッ!この前来た時はずっとハイウェイだったろうがよッ!!」

 

否。

周囲なぞ見なくても眼前に広がっているそれを見れば理由は分かった。

 

「なんで、そんな、可笑しいです。こんなの……ッ!」

「ああ可笑しいさ、可笑しいんだよこの場所はァッ!」

 

轟々と音を立て荒れ狂う川。

唸り声は牙を剥き出しにして行き止まりになって立ち尽くす彼らを嘲笑うようだった。

それはこの場においてゴールデンしか知らないことだったが現代から数えて70年程前には完全に消滅した今は存在しない川、その再現。

 

名を、堀川という。

 

足音が近づく。

一つや二つではない。

幾つも、幾十も重なり地響きを揺るがし正確な数なぞ分からない。

 

ここが終わり。

終着点。

 

「仕方がねぇ!俺が拵えてきたのがサイドカーだけじゃなくてこいつもだってことを教えてやるよ!」

 

そういって革ジャンの懐から取り出すのは黄金(ゴールデン)で縁取られた黒い弾装のような何かを左手に取り、右手にいつの間にか握る拳鍔(ナックルダスター)へと力任せに挿し込んだ。

 

『ゴォォルゥデンクワァァトリィッジ!』

 

地の底から吼える大熊の如き咆哮が響く。

迫る足音一つ一つよりもなお力強く、雄雄しい。

 

『グォォォォルデン!ヌァックゥルゥゥゥッッッ!!!』

 

いっそ滑稽なほど力強いがそれでもその音はすぐに掻き消される。

足音が近づいてきた。

音が大きくなる。

どうしようもない絶望、それは数だ。

 

勝ち目のない戦場こそ武士の誉れ?

 

成るほど素晴らしい。

 

だが手負いの少女()()を抱えている今の男にそんな言葉は許されない。

数の力に蹂躙されぬよう。

陵辱を許さぬよう。

早く目を覚ましてくれることを祈るほか。

 

もうなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「開け、縁起の終幕。破れ、忌まわしき物忌。嘗て在りし()()()()()()()()()()()()

 

 

---映せ、憎たらしきあの橋(一条戻橋)を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

橋が、出来た。

小さな、ほんの僅か数貫しかないような。

そんな小さな朱色の橋。

 

「早く渡れ。あの不細工共は吾らの配下ではないのだから、いくら吾とて命じたところで()()()()()()()()()()

 

その言葉を聴くよりも早く、駆け出したのは鬼か、それとも男たちか。

バイクに飛び乗り何故か既に目の前まで迫ってきた鬼の手から逃げるように跳ねるように走り出す。

僅か数メートルの距離が途方もなく長く感じ、それでも逃げ切った。

 

 

 

 

向こう岸に着く。

 

気づけば橋はなくなっていた。

鬼たちは喰らえなかった新鮮な肉を惜しんでか対岸で唸りとよだれを地に染込ませている。

怨嗟そのものと言わんばかりのそれは見るだけで目を焼き焦がす呪詛であった。

 

見もせず、マシュはサイドカーから降り立つ。

超加速になれすぎたからか平衡感覚が危うい。

僅かにふらつきながら地に降り立つと、

 

 

 

 

 

 

 

女が居た。

 

「くはっ」

 

嗤い声が聞こえた。

嘲っている。

 

「童が泣いておる」

 

嘲笑している。

 

「おうおう、可哀相になぁ」

 

哀れんでいる。

無様だと嘲りながら、しかしそれが楽しくて仕方がないのだと嬉しげに喜色を唇と目に宿す。

 

「なんとまぁ酷い様だ、なぁ糞餓鬼?」

 

女は言う。

ざまぁないと。

 

「やはりお前は駄目だ。何だったか、嗚呼そうだ。まーさかーりかーついだきんたろうー……か」

 

歌う。

詠う。

謡う。

ころころころころ。

楽しいぞ。

可笑しいぞ。

嗚呼愉快だ。

嗚呼堪らない。

 

---嗚呼なんて。

 

「くかかッ」

 

無様。

 

「くはははははははははははァッッッッッ!!」

 

無様。

 

「これが英雄!これが豪傑!これが童共の焦がれ!これが、こんな女子供の涙一つ掬えぬ阿呆な男が英雄か!……笑わせるなよ、武士。そんな様で我らの首を盗ったのか?ん?」

 

無様。

 

「……嗚呼そうだ、そうだともな。お前は駄目だ。駄目だった、だから此処に居るのであろう?」

「なぁ?」

 

 

---負け犬よ?

 

 

そう言って女はにたにたと嗤いながらこちらの、男となぜかマシュの反応を見やった

 

「……べらべら、と。ゴールデンにゃぁ程遠いじゃねぇか。手前ぇも対して変わらねぇだろうが。ちげぇのか、()()()()

 

茨木童子、そう呼ばれた途端に圧が増す。

世界が軋みをあげる。

まるで生物としての格が違う、そうマシュに悟らせるには十分なものだった。

 

肩が震える。

足元がおぼつかない。

呼吸が激しくなる。

 

何度も戦場を乗り越えた若き戦士は、どうしようもない何かを懸命に封じ込めようと足掻いていた。

 

そんなマシュの様子をちらりと見やって嘆息気に鼻を鳴らしてから今度こそ男のほうを見据え、先の言葉を否定した。

 

「嗚呼違う、違うとも。吾は引いた。自らの意思で辞めたのだ。論ずる必要がどこにある?」

 

それは分からず屋の頑固者をしかるように。

 

「欲しくもない物をちらつかされて、それに向きになって張り合う……そんな馬鹿がどこに居る?」

 

道理を知らぬ幼子を諭すように。

 

「お前は欲しくて仕方がなかったくせに逃げ出した負け犬だがな?ほらどうした?言い返してみよ。惚れた女子と母親を殺せなかった糞餓鬼よ」

 

博打に負けた愚者を蹴落とすように。

 

「まぁよい。お前なぞどうでもいい。端から大した期待なぞしておらん。勝手に吼えて勝手に教えろ。吾は違う。吾はしたいことをする」

 

丁寧な侮蔑で。

 

「分かっておろう?吾は鬼ぞ」

 

はっきりとした侮蔑(悪意)だった。

 

 

 

 

 

 

 

「だからそう、だからだ」

 

期待外れのお前たちはもう要らない。

 

「己の浅ましさも理解しておらぬ乳飲み子から、大事な大事な母親を奪ってやるのは」

 

欲しい、そのきれいな瞳を宿した女だけを。

 

「吾の、鬼の役目よな?」

 

 

 

 

 

 

 

---吾に寄越せ。

 

 

 

 

 

 

 

そう言ってするりと風となった女はシートに持たれた少女を、人類最後のマスター(藤丸立香)を。

 

「あ……いや……うそ……っ」

 

容易く、花でも摘むように。

 

「あ……」

 

奪って消えた。

 

 

 

「嗚呼ああああアアああああああああアあアあアあああああああああああああああアああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

後に残ったのは、曇った硝子をその眼底に宿す少女と苛立たしげな男だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スイセン。

 

和名を水仙。

 

学術名をNarcissus tazetta。

ウェールズの象徴でありその美しさは水辺に佇む仙人が如しと中国では詠われる。

 

 

 

その花言葉は『希望』、『気高さ』、『神秘』。

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――『自己愛』。

 

 

 

 

 

 

 




われはまだあそびたい人「吾の出番だー!」

というわけで茨木ちゃんです。
強化解除、いつもお世話になってます(ほっこり)
なので思いっきり意味深でなんかこいつやべーぞ的な感じのかっこいい茨木ちゃんを書きました!
大丈夫、次話ではきっといつもどおりの陵辱は心地よい……ってブラフマーストラされながら言っちゃう茨木ちゃんに戻るので(レイドボス感)




まあ三話構成で茨木ちゃん除いても残り二人はまじめに1話丸ごと使って攻略しないといけないので、怖い茨木ちゃん演出はすぐ終わります。
そんな感じですが次回もまた読んでくださったらうれしいです!

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