ようやく仕事が落ち着きPCに向かう時間が取れるようになりました。
しかしあれですね、FGO。
知らぬ間に2部始まってたんですね。
というか1.5部を1年で駆け抜けてたんですね、びっくり。
無駄話はさておき。
だいぶ遅くなってしましたが、皆様とお約束していた短編を漸く書けましたので投稿します。
後編はまたどこかの夜にでも、遠くならないうちに。
あ、今回本筋には全く関係ないですがオリキャラが一人(一匹?)でますので理解ください
おいらが母ちゃんと一緒にカルデアっちゅう所に来て随分になる。
気づいたら新しい妹も増えておいらも嬉しい限り……だったけども。
最近その新しい妹は元気がない。
人工的な陽光が降り注ぐ農場ででっぷりと大きく育った甘藍を収獲するその横顔は今だって曇ったまま無言だ。
おいらも気を利かせて後ろでジャグリングしたり変顔、目も鼻もないから口を開けるぐらいだけど、したりしてるけど沈黙したまま。
ちょっと息苦しいんよ。
「……ねぇ、次郎丸」
「
「……」
無言。
やっと話しかけてくれたけど、すぐに黙った。
困るんや、そない元気のない姿は。
おいらまでお腹が痛ぅとなる。
「
「ねぇ、お母さん、大丈夫かな……?」
お母さん。
おいら達の母親。
勿論おいらともジャックとも、そして此処にはいない妹とも血は繋がってない。
あの人に血の繋がった家族はもう居ない。
そんな人だ。
せやけど、紛れもなくおいら達の母親だった。
そんな人は今、カルデアに帰って来て暫くしてから眠ったままになってる。
何でも桜さんの治療を受けとるんだとか。
まあ、久し振りにあんな風な暴走したんやから仕方ないんやろうけど。
でもそんなの、妹が知るはずないしな。
円卓の連中あたりなら卓の角で殴れば治るの知ってるし、どっちかでも姐さんがいれば違うんやろうけど。
とはいえなぁ。
いっくらおいらが大丈夫って言っても不安は払拭できへんやろうしな……。
んー、どないしたもんやろ……。
あ、せや。
がきんちょが顔暗くしとるんやら楽しい話が一番やな。
吟遊詩人の真似事も素話も初めてやさかい、えらい緊張するけど、でも可愛い妹のためやしな。
しっかし何話そうか。
母ちゃんが海で怪獣釣った話にしようか。
それとも母ちゃん達がデート中に光の御子と草むらでエンカウントしてWデートした話がええやろか。
他にはモーちゃんとピクニックした話でもええな。
……流石にモルガンと親権争いしに行ったらなんかエライ修羅場というか泥沼三角関係展開になった話はあかんな。
おいらはおもろかったけど、ランスロットの兄さんは顔真っ白やったし。
……うん、よしっ。
あれでいこう。
あれがええわ。
おいら冴えとるなぁ!
よっしゃ。
「
「昔話?」
「
そう、これは昔話や。
おいらがまだ小さな小さな、ただの蚯蚓だった頃の話。
おいら達の母ちゃん、王妃ギネヴィアが笑顔で居てくれた日々。
「
おいらと、母ちゃんの出会いの話。
冬。
その冬、温暖なエリンにしては珍しく大寒と豪雪に見舞われた。
寒い。
碌な自我も自意識もない蚯蚓が本能でまず感じ取ったのはそれだった。
不作だった。
田畑は枯れたように陰り、野山を彩るはずの瑞々しい果実もまた息を忘れたように実らなかった。
最も身近に感じる死とは何か。
それは飢えだ。
空腹感は心を蝕み影を落とす。
人もそうであるのだから、野山を駈ける獣達も同様であった。
分厚い雪と氷の下にある地面。
それを穿り返してようやく見つけ出せた草の根、それだけが獣たちの御馳走になるほど。
だから地中から放り出されて猪に喰い殺されなかったのが果たして幸運だったのだろう。
少なくとも凍えた体を噛み千切られながら死に向かっていく痛みを感じることはない。
代わりに感じるのは身を引き裂く寒さだけ、そして飢えによる遅々とした死。
須臾と感じる致命の痛みと死、怠慢な苦痛と数瞬ごとに枯れていく命。
なるほどより生命が生き永らえさせられる、その一点だけ見ればそれはきっと蚯蚓にとって幸運なのだろう。
皮肉なほどに、馬鹿馬鹿しいほどに、残酷なほどに。
ただただ生きているだけだった。
飢えを満たすわけでもない。
生を全うするわけでもない。
心の臓が動き体液が巡り僅かばかりの脳が寒さを感じる。
生命活動、たんぱく質の塊が規定された機能を繰り返しているだけ。
無様な、実に無様な姿。
そこに心はない。
希望を拠り所として苦痛には耐えられない。
そこに夢はない。
生きて叶えたいという欲がない。
そこに救いはない。
弱肉強食?
馬鹿馬鹿しい話である。
自然の摂理とはそもそも一定基準の強さを持たない者に
救いはなく、夢はなく、ただただ苦痛だけがある生の時間。
痛い。
苦しい。
寒い。
辛い。
寒い。
寒い。
寒い。
寒い。
寒い。
寒い。
寒い。
寒い。
寒い。
寒い。
寒い。
寒い。
寒い。
さむい。
さむい。
嗚呼さむい。
苦痛だけが息を吸い吐くようにして浮かんでは消えぬまま積もり続ける。
一片の隙間もなく思考を埋め尽くす。
絶望という二文字が氷雪という物理的な形と苦痛を伴って目の前で、その肌でひしと感じる。
蚯蚓の終わりは間違いなく今日この日であった。
ただ一つ、縋るべきもの等という思考すら知らない蚯蚓が。
寒さでその思考が凍える他なかった蚯蚓が。
希望などと言えたものではない、もっと曖昧で脆弱で不確かな。
―――た、すけ、て
そんなどこの誰に放つわけでもなければ蚯蚓の霊格では見えもしない神への祈りでもない、ただ死への恐怖と苦痛から逃れたい一心で放った四文字がなければ。
今日この日で蚯蚓の短い生は終りであった。
悲鳴が聞こえる。
若い男の阿鼻叫喚とした声だ。
連なるように吠えたてるような重厚な地鳴りがする。
音は低く大地を揺らす。
その速度は決して早くはないがブリテンの地を揺るがす。
重量。
ただ重いという理由で厚く張った氷が悲鳴を上げて切り裂かれる。
昼夜問わず吹き荒れていた凍てつく吐息がその巨体によって蹴散らされる。
まるで冬という自然そのものを蹂躙するかのような軍靴の音。
嬌声があがる。
嬉しいのだ!素晴らしいのだ!私を見よ!私はここにいる!
そう言わんばかりの天を突かんがばかりの高笑い。
死神を引き連れた魔女、はたまた数世紀後に逸話として完成される
どちらにせよ、音だけでその暴威が大地ごと蚯蚓を踏み砕き圧死させるのは容易に想像できる。
音は近づく。
終りは近い。
救いを求め、ここまで生き延びた蚯蚓へ贈られた褒美。
無様な末路。
女の笑い声と共に轟音は一個の楽団となって世界を奏でる。
男の悲鳴はセカンドかサードか、はたまた音にもならぬ下手なオーボエ吹きか。
どちらにせよ甲高く叫ぶその声が楽団を彩るには聊かばかり艶が足りず。
死が迫る。
終りは近づく。
重々しくも審判は、
「あら、随分小さいのね?」
下された。
「王妃ィィィィィィィッッッッッッ!御ッ止まァりィヲォォォォォッッッッッ!!!!!!」
「あらやだアグラヴェインだわ。ごめんなさいね?ちょっと撒い……んんっ貴方を出迎える準備をしていたら遅くなってしまったの」
まるで麗らかな春の日差しのように暖かで心地の良い何かが己を優しく包み込む。
生きていることが不思議なほどに凍り付き細胞が壊死しつつあった体が癒される。
それは土の中にいる己の種族ではまともに感じるはずのない、太陽の輝きであった。
「しっかし寒いわねー!今年の冬は特に酷いわ。各地の領土から嘆願書が何枚着たことか」
「ぞればぁッ!王妃がァッ!!勝手に各村に食料贈りつけて心配した農民からのものでしょうがァァァァァッッッッッッ!!!!!」
「別にいいでしょ、農業試験場は私の管轄なんだから。あとレディの後ろから走りながら声かけるの、ダサいからやめなさい」
「誰のぜいでずがアァァァァッッッッ!!!!そして限度があるでしょうがァァァッッッ!!!!誰が半年分も贈れなんて言ったんですかアァァァァァッッッッッ!!!!!」
「あーあー聞っこえーませーん!」
振動を感じる。
陽だまりが歩みを始めたのだと蚯蚓は何となく理解した。
理解するが心地よさでうまく頭が回らない。
泥のように眠りに沈みそうになる。
「さて行きましょうか、今日ばかりはログレスの王妃としてではなく」
とんという僅か衝撃と重力からの解放で蚯蚓は微睡からほんの少しだけ解放された。
蚯蚓は起きようとする。
何となくだ。
理由は定かではない。
ただ自分の感じる陽だまりに対してこのまま眠ってしまうのが、何となく不義理な気がして。
ただそれだけを思って頭を上げた。
「イングルウッドが墓守、その末裔。地母神グウェンフィファルの巫女として。今を懸命に生きる大地の子へ約束するわ」
そしてあるはずもない瞳を開くようにして、陽だまりを見た。
「もう大丈夫。これからは私と一緒よ」
淡い空色は陽だまりのような微笑みを浮かべていた。
年端もいかない優しげな少女が陽だまりであった。
春。
「
振り向きもせず田畑を耕す巨体から重低音が鳴った。
麗らかな、あの日の暖かさを思い出させる長閑な日。
農民は勿論、各村々の中でもとりわけ優秀な成績を収めた人間が所属する国立中央農業試験場で次郎丸と名付けられた蚯蚓は己の先達から声をかけられた。
出鼻を挫かれびくりとしながら次郎丸は牙と巨体がチャームポイント(byギネヴィア)の太郎丸に話しかけた。
「
それはいっそ三文芝居か与太話のような光景だ。
何せ大人の掌程度の大きさの蚯蚓が山のような巨体に話しかけているのだから。
対する山も笑い話だ。
確かにブリテン、否、ユーラシア大陸にそれがいても可笑しくはないだろう。
だがそれは数十万年前に滅んでいるはずの、そんな嘗て地上を制した今は幻想となった存在だった。
「
第一貴様のする
振り向き毛深いながら器用に呆れ顔を作って太郎丸は言う。
実際終わっていた。
王妃に拾われ早数か月。
閉じた冬は終り新たな芽吹きの季節となった。
以前の三倍ほどにまで肥え言語も解すようになった次郎丸は輸入された同種を率い土を肥やす仕事を請け負っていた。
各地から回収した土に潜り込み、通常の三倍の速度で分解、発酵させ良質な土へと変える。
痩せ土、獲るだけ無駄と揶揄される祖国ブリテンの大地。
だが蚯蚓という種族はそういう土のほうが食いでがある。
故、次郎丸は今、時間はかかるが少しずつ良質な土地を生み出す一助を担っている。
このことでブリテンに宅配業者という新たな職も生まれたのは細やかながら経済面に良い風が流れることとなった。
衣食住が確保されていようが職がなければ人は住めないのだ。
そんなわけで今日もえっちらおっちら部下を率いて土を食べていたのだが、少し前にノルマを終えてしまった。
後に残ったのは完全に発酵して食える場所の無くなった土だけだ。
つまり暇なのだ。
時刻はまだ昼下がり。
十分に働く時間がある。
にもかかわらずやることはない。
だが目の前では己の先達が働いている。
「
「
だからこそ躊躇いがちに声を出した次郎丸に被せるようにして太郎丸は告げる。
「
「
「
出来の悪い弟を諭すそれに次郎丸も言葉が詰まった。
実際ノルマはきっちり終わらせた。
これ以上すれば配分が変わり他業種の人材にも迷惑がかかるだろう。
そもそも自分一人が逸っても部下はついてこない。
「
要するに、太郎丸の言うとおりだった。
「
「
意気消沈し肩、はないのでそれらしい部位を、落として王城へと帰りだす次郎丸の後ろ姿に声がかかった。
振り向けば大きな背がある。
次郎丸を見ないまま、太郎丸は告げる。
「
不器用な激励だった。
「……
応えは小さくも強く歩みは確かに。
口元にはあの日の母のように笑みを浮かべ。
次郎丸は王城へと歩み始めた。
夏。
「あ-……私に何か用だろうか」
うだるような暑さとひり付く日差しに焦がされる、そんな夏だった。
それに反し王城は快適な室温が保たれていた。
ここランスロット卿がノックオンが聞こえるまで居た執務室でもそれは同じ。
だがランスロット卿の汗は止まらない。
何せ、
「
扉の先に謎の言語を発する怪生物が居るのだから。
「
何か喋ってる。
ランスロット・デュ・ラック。
騎士の誉れアーサー王が誇りし円卓の騎士が第四席。
ログレス王国の最高武官の一角であり外交の任を任せられ王妃の職務上の補佐を最も潤滑に行うことのできる希少な人材。
若かりし頃に流浪した経験から見聞も広くまた多種の言語を操る。
そして純粋な剣士として、そして平均化した場合で見たときの円卓最高戦力の将。
完璧な騎士。
それがランスロットである。
そのランスロットが困っていた。
「
敵は体長15cm。
個体名は次郎丸。
無性。
体色、淡い桜色。
種族名、蚯蚓。
ただし、謎の言語を解しここ数か月ほど中央試験場で働いていると聞く。
そんな蚯蚓である。
決して幻想種ではない。
なんだこいつ。
「
困ってるのはこっちだ。
無論、言葉は何一つ理解できていないが。
顎を伝っていく汗が滴となって床を濡らす。
無意識につばを飲み込んだ。
百戦錬磨、一騎当千の騎士たるランスロットが。
極度の緊張状態にあった。
なんかもうてんぱっていた。
夜の天下無双が、愛妻にばれるたびに泣かれて啼かされるのは最早直轄領の風物詩である、びっくりするぐらい焦っていた。
こんなに焦っているのは任務で帰宅が遅くなり妻との7回目の結婚記念日を祝うのに遅れそうになっていらいだった、結局帰り着いたのはその日の深夜で無事に0時丁度に祝いの言葉を言えたらしい。
なんだこいつ。
「
分からない。
疑問符は頭を駆け巡る。
ランスロットは頑張っていた。
のっそのっそとこちらに向かってくる、ちょっとでかい、道端で見つけたら女子供なら悲鳴を上げるサイズ感のでっぷりとした蚯蚓。
控えめに言ってもホラーだ。
ちなみに次郎丸本人は満面の笑みだ。
にこやかに友好の意を示している、つもりだ。
「
そしてランスロットの足元まで来た。
悲鳴を上げなかったのはランスロットの強さだろう。
そしていい加減この混沌とした状況への終止符を打つべく。
ランスロットは口を開こうとして、それより早く口を開いた次郎丸の言葉で開いた口を閉じた。
「
―――兄さん、なんか信頼できる気がすんねん
強く。
強く。
血が滲むほどに唇を噛み締める。
別にその言葉の意味が分かったわけじゃない。
理解できるはずもない。
ただ。
本当にただ、何となくだ。
何となく言われている言葉が理解できて、
「……あー、糞っ」
柄にもなく、荒れた言葉がこぼれた。
髪をくしゃりと右手で掴んで掻き乱す。
左手所在なさ気にぶらつかせ、閉じたり開いたりして。
足元にいるその小さな生き物がそんな自分の様子を不安げにみていることに気づいて。
だからだろう。
ため息と共に諦めとも呆れともつかない、そんな妻の前でしか出さない本当に情けなくてどこにでもいる青年ランスロットとして唇を解いた。
「本当、貴方たちには振り回されてばかりだ」
突かれた老人のような口調で、けれど初恋に胸をときめかせる少女のように、まだ見ぬ大地を目指す少年のように。
ランスロットという男は苦笑いを浮かべて次郎丸を部屋に招き入れた。
その後次郎丸は
「また貴様のやらかしかァァァッッッ!!!ラァンッスロッットォォォォッッッッ!!!!!」という怒声と共に腹部を抑えながら剣を振り回して湖の騎士を追いかける鉄の騎士の姿が見られたとかなんとか。
ちなみに当のギネヴィアは王と共に大きくなった息子を見て大喜びだったとのこと。
???「わ、吾の出番どこ……?」
というわけで遅くなりました。
普段は出せない円卓連中に温めていた太郎、次郎、三郎ネタが書けてだいぶホクホクな作者です。
次回はもう少し円卓とギネヴィアについてしっかり書いていきます(多分)
本編?
も、もうちょっと待っててください(震え声)