オリ主が挑む定礎復元   作:大根系男子

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2話連続?投稿なので前話から呼んでやって下さい。
今回は特にグロテスクな描写はないはず


英雄

「酷い面だな、立香よ」

 

ぱちんと意識が割れた。

眼を覚ます。

何処とも知れない、けど凡その見当はつく、廃墟で私は眼を覚ます。

 

「……此処は?」

「眼が覚めて直ぐに状況把握、否、自身の推測に対する正誤の擦り合わせとは随分戦士らしいではないか」

「……そういうの良いから、早く教えて。スカサハ」

 

特に気の利いた返事なんて出来そうになくて。

私はスカサハに雑な問いを投げかける。

それに嘆息して、スカサハは答えてくれた。

 

「ああ教えるとも、此処はお主が昨晩辿り着いた門から少しばかし離れた廃ビルの中だ。どれ、昼間の行軍は小競り合い程度で特に消耗もなく順調に進んだのであろう?ならば英気は十二分な筈……ほれ、今日こそあの『SG』の攻略と行こうぞ」

「……マシュは?」

 

英気が十二分?

そんなわけない。

此処に来たくなんかなかった。

気持ち悪い、居たくない。

そうだ、私は居たくないんだ。

 

「マシュならばもう暫く此方には来ぬぞ……言ったであろう、この世界は少しばかし時間が狂っていると。儂はこれでもそれなりの権限があってな……無論制約も多いが眠りに就いた二人の内、お主だけを先に呼ぶことなぞ造作もない」

 

何だそれ。

 

「おや、如何かしたか?ん?ほれ、何時もの勝気な顔は如何した」

「……毎日隠れながらの行軍で疲れてるの……どうせ、それぐらいの事わかるんでしょ?」

 

昼間の殆どは森や崖を息を凝らしての行軍だ。

それも全く戦えない子どもや老人だっている人たちを引き連れて。

そして夜は此のよくわかんない場所での戦闘。

正直に言えば、疲れる。

肉体以上に、精神的にきついのだ。

そしてそんな昼間の様子を、スカサハは知っているのだろう。

 

それなのにマシュが居ない。

私一人しかいない。

それがこんなに心細いことだとは、今まで思ったこともなかった。

だって、必ず誰かが隣にいてくれたのだから。

 

「おやおや。そんな調子では『SG』の攻略なぞ夢のまた夢だぞ……ああ言い忘れていた、と言うよりも先刻承知の上だと思っていたのだがな。『SG』を攻略せねば、ギネヴィアは()()()()だぞ」

「ッ!……そんなこと言うために私ひとり先に呼んだの……ッ?」

 

()()()()

つまりそれは、あの時アルテラを殺したあの姿のままという事だろう。

けたけたと嗤いながら体中を捻じ曲げ血を吹き出しながら戦う、あの。

あの……ッ。

 

 

 

……嗚呼、()()だ。

 

また思ってしまう。

■いと。

そうだ、そうなのだ。

 

だけど、()()()()()()()()()()()()()

 

「いいや。言ったであろう、先刻承知の上だろうと。儂にしてみれば先に言ったのは確認のようなものでな」

「じゃあ何で!」

 

思考の隙間を縫うようにスカサハが声を垂らす。

それは見ないふりをしていたものに気づきそうになっていた自分にとって、蜘蛛の糸のようだった。

 

だから取り繕うように噛みつく。

見っとも無く八つ当たりをする。

どうしてと。

 

「お主に用があるのだ、立香。いや何、時間は取らせんよ……これもまた確認であり、『SG』攻略の、否、ギネヴィアを救うというのなら最も重要な心故な」

 

お主に用があるのだ立香、そう言いきられる。

なんだそれ。

何で、如何して、

 

「私なんかに何の用があるって言うのよ……」

 

こんな私に何の用だって言うのだろう。

声が、情けないぐらいに掠れた。

何だというのだ。

これ以上何を求めるのだ。

 

そんな弱気に、スカサハは鼻で笑って心の底から詰まらなさそうに言った。

言われてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「無論決まっておろう……未だ耳を塞いで駄々を捏ねる馬鹿娘ではあの英雄を救うことなぞ万に一つとてあり得ん」

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

「分からんか、なら簡潔に言うてやろう……化け物となったサーヴァント程度に()()()()()のお主ではギネヴィアは救えんよ、立香」

 

それは、全く予想しなかったもので。

そして、心の奥底で認めていたものだった。

 

「なに、よ…それ……」

 

認めたくない。

認められない。

いやだ、いや。

他人に自分の心を暴かれるなんて。

自分の弱い、■い部分を見られるなんて。

 

けど、スカサハは止まってくれない。

今度は蜘蛛の糸じゃなくて、言葉の刃が降りかかる。

 

「お主、此処に来てから一度でもあの娘に会いたいと言ったか?」

 

そんなことない、そう言い返したかった。

でも思い出さなくたって分かる。

そんな事、一度だって思ってもない。

 

刃の雨は、まだ止まってくれない。

 

「救いたいと思ったことは?会話をしたいと、伝えたいとそう思ったことは?」

「……ああ言わずとも分かる、一度とて考えたことなかろう」

「この人理修復という偉業を前にし流されるまま()()となったのと同じ。此処でもお主はただ流されるまま、何の願いも何の祈りも持たず、否、それに全て蓋をして見て見ぬ振りをしている」

 

 

 

「聞くぞ、藤丸立香。お主は一体、何の為に此処に居る?」

 

 

 

「……そんなのっ」

 

分からない。

私には何も分からない。

初めは巻き込まれただけ。

アウトレットモールで献血をやっているのを眺めていた時にぶつかった人。

その人に魔術を見せてもらって何の因果か私にも魔術回路がちょっぴりあって。

そんな平凡な日常から偶然カルデアに招かれて、そのままドカンだ。

気づけば人類滅亡の大舞台、そんな場所で人類最後のマスターとして戦う羽目になった。

全部成り行きだ。

何一つ自分の意志なんてこれまでなかったはずだ。

私には。

私にッ。

 

「分かるわけないでしょ!分かんない分かんない分かんないッ!分かんないよォッ!」

 

自分の意志なんて!

自分の願いなんて!

そんな物、私にだって分かりっこない!

 

「皆して勝手だよッ!何が人類の希望だ!何が人類最後のマスターだ!何が魔術だ!何が特異点だ!何が英霊だよッ!」

 

勝手に巻き込んで、勝手に祭り上げて。

私に一体何が出来る。

私に一体何が出来た!?

私が。

 

「家族も友達ももう居ない!また明日連絡するねって約束も守れない!海外だからって心配してくれた人も、がんばれって応援してくれた人ももう居ない!」

 

そうだ、怖い。

家族もいない。

友達もいない。

ちょっと前までいた筈の日常が、あったはずの幸せがある日突然『はい、今日から貴方が人類最後のマスターでーす』って言われて無くなった。

ふざけるな!

ないないない!

何にも、大事な物はもう何にもない!

 

……だけど。

でも……ッ。

 

 

「なのに漸くできた新しい友達は勝手に傷ついていく!マシュも……ギネヴィアもッ!」

 

それでもカルデアで過ごした毎日は楽しかった。

そりゃあ戦うのは怖かった、死にそうになるのも仲間や友達が傷つくのも嫌だった。

けど、楽しかったのだ。

馬鹿みたいにはしゃいで、馬鹿みたいな話して。

ファンタジー映画の真似事みたいな魔法に触れて。

寂しい、辛い、そんな心に空いた穴を一からやっと埋めることができた。

 

「それなのにギネヴィアはまた勝手に突っ走る!勝手に怪我する勝手に背負うッ!」

 

それなのにギネヴィアは何時も無茶をする。

いやだいやだいやだ!

なんで勝手に頑張るの?

なんで勝手に苦しむの?

下手な作り笑いなんてとっくに気づいてた。

それでも無理を押して頑張ってる姿を見たら何にも言えなかった。

それでも私たちと一緒に居る時の笑顔は本物だと思った。

 

だから、

 

「気持ち悪いよ!何よあの姿!化け物みたいになってまで戦って!化け物みたいに嗤って」

 

気持ち悪い。

化け物みたいだ。

怪物みたいだ。

怖い。

ちょっと前まで一緒に笑いあっていたあの子が、血みどろになってまで相手を殺そうとするその姿が、恐ろしかった。

 

でも、

 

「……それなのにどうして……どうしてごめんねなんて言うのよぉ……」

 

なんで、あんな泣きそうな顔で謝るのよ。

……ああ違う、分かってる。

同じだ、ギネヴィアだってそうなんだ。

怖かったんだ、苦しかったんだ。

何時も無理して戦ってるのだって知っていた。

戦場に立つのだって初めてだっていうのも知っていた。

けど一緒にいると楽しくて、幸せで、だから無理して戦場に連れ出して。

全部私の所為なのに。

 

マシュが無理してアルテラに向かっていったのも私の所為。

その結果倒れたマシュと約束して私を守るためにギネヴィアが怪物になったのも私の所為。

そして、そんな姿を私に見せてしまった事を謝らせたのだって、全部私の所為だ。

 

「……気持ち悪いよぉ……何で、なんで大丈夫って言えなかったんだろう」

 

そうだ。

一番気持ち悪いのは私だ。

あの時何も出来なかった自分が。

 

「なんで泣いてるあの子を止められなかったんだろう」

 

これまでずっと支えてくれて、どんな場所でも命を懸けて私を守ってくれた友達を。

 

「何で怖いって思っちゃうんだよぉ……」

 

自分の意志で私と初めて契約してくれた大切な仲間を。

 

「私だけ……私だけだ……」

 

キモチワルイ。

私だけが怖がった。

全部、全部。

私の為に頑張ってくれたことなのに。

身体を張って守ってくれた友達を。

 

「あの子を、ギネヴィアを、友達を怖いって思ったの……あの時泣いてたのに、あの時悲鳴を上げてたのに、あの時一番辛そうにしてたのに……」

 

怖いと、そう思う私が一番怖くて醜くて、気持ち悪くて仕方がない。

だから会いたくない。

会えない。

こんな醜い私が、一体どんな顔でギネヴィアに会いに行けばいいのか分からない。

 

「怖いって、そう思って何も出来なかった。気持ち悪いって、思っちゃった。ゴメンナサイって言ってくれたのに、手の一つだって掴んであげられなかった」

 

私は、無力だ。

 

項垂れると地面が見えた。

罅割れたタイルを見て、ああ自分もこんな風に壊れてしまったらどんなに楽だろうと柄にもないことを考えていると。

 

「其れだ、其れを隠すな。どうせ此処にはお前と()以外誰も居らん。マシュは元よりフェルグス達も外に出払っておる」

 

ゆっくりと暖かいものが私を包んでくれた。

 

「あ……」

「故、恥じるな。着飾るな。渾身の想いで吐き出したお前の想いは決して間違いではない」

 

暖かい、優しい抱擁だった。

 

「人は恐れる生き物だ。暗闇を恐れ火を求めた。飢えを嫌って武器を作り狩りを成した。無知を嫌い学を学んだ。孤独を恐れて言葉を編んだ……そうだ、恐ろしい、そう思う事に何を恥じることがあるか」

「あぁ……」

 

「言葉を編んでも理解に至らぬからこそ人は人と語り合う。分かるか?人と人との繋がり、その初めにすら恐れはある。だからこそ時に、愛しき友にすら恐怖を抱くことはある。それは()()()()()()なのだ」

「うぅ……」

 

「人は『違う』ものを恐れ忌み嫌う。怖かっただろう、恐ろしかっただろう……馬鹿な(優しい)娘だ、お前はその上でそんなその気持ちを抱いた己こそを本当に恐れた。友を恐れた自分自身の醜さこそを恐れた」

「うぅ……ッ!」

 

「だがそれすらも当たり前の事なのだ、そしてそんな当たり前の優しさをお前が持ち合わせていることがひどく私には眩しい。それ程までに、恐れたことを恐れてしまう程に相手を思いやれる関係を築いたお前たちが尊い」

「うぅぁぁぁぁっ!」

 

「泣け泣け、誰も見ておらん。安心せよ、お主の優しさは醜さではない。お前の気持ちは決して気持ち悪くはない

……大丈夫だ、今のお前ならきっと真っ直ぐな気持ちで向き合える、会いに行けるよ、立香」

 

 

 

 

 

 

赤くなった目元を隠すように擦って廃墟を出た。

 

「先輩!先に来られていたのですね!」

 

そこにはマシュとフェルグスたちが待っていた。

フェルグスとディルムッドを見てすごく座りが悪くなる、というか恥ずかしい。

何せフェルグスたちには酷く身勝手な八つ当たりをしてしまった。

そのことを謝りたくて口を開こうとしたが、フェルグスはそれを軽く手で制す。

分かっている、そう言うような態度で。

そして彼は嬉しそうに細い目をもっと細めて豪快に、でも優し気に話してくれた。

 

「良い眼、好い面構えだ、マスター。俺は一等その面差しを好むところだな、お主はどうだ?輝く顔よ」

「無論好ましく、そしてそれ以上に我が事のように誇らしいに他ありません―――そうです、マスター。そうして顔を上げて進む姿こそ、例え未だ闇の中であっても其れこそ貴方に相応しい」

 

……恥ずかしい。

なんだか家族に謝ったときに笑って頭を撫でてもらったのを思い出してしまう。

そんな気恥ずかしさだった。

 

「お前達、語らいは充分か?」

 

否と、そうフェルグスは吠え背を向ける。

どしどしと足音を響かせながら此方を向くことなく門へと向かって行く。

 

「まだ微塵の欠片も語り足らんなぁ、が、あまり言葉を尽くすと言うのは如何にも俺の性に合わんッ!」

「然り。我等はマスターの従者に違いありませんがその前に騎士であり武人であり、そして戦さ場を駆ける男。ならば」

「そうともッ!語るならば言葉ではなく背中で。尽くすならば戦働きでと云うものよッ!」

 

その背に呆れたような声をかけながらスカサハも門へと歩いていく。

 

「全く、これだから男共というのは……」

 

その姿に少しだけマシュと顔を合わせ、小さく頷いてから、私たちも続く。

 

ああ、これから行くんだろう。

正直怖い。

どんな顔をして会えばいいのだろう。

私はあの子の手を取れなかった。

そればかりか此処でも傷つけられ死んだ顔をして眠っているギネヴィアを助けようとしないばかりか矢張り気持ち悪いと思ってしまった。

ああ、私は弱い人間だ。

だけど、ううん、でも。

行かなくちゃ。

きっとその先にある筈だ。

私が今、ずっと思ってきた、見ないようにしてきた気持ちが。

 

だから歩く。

 

歩く。

下卑た嗤い声が聞こえる。

歩く。

肉を叩いて、骨を砕いて、血を啜る音が聞こえる

歩く。

凌辱のサバトが見える。

 

昨日と同じ場所まで来るのにそう時間はかからなかった。

そこには昨日と同じように眠ったまま幻霊たちに貪られるギネヴィアが居る。

酷い景色だ。

吐きそうだ。

でも、もう耐えられる。

直視できる。

目を逸らさない、逸らしたくない!

 

「この一線だ」

 

スカサハが立ち止まった。

 

「お前達の眼には見えぬだろうが此処には線が引かれている。此処を越えれば、ギネヴィアは我等を害す獣に成り替わる」

 

つまりは戦闘だな、とフェルグスが何だか嬉しそうに、なんて言うんだろう妙に懐かしそうに、笑う。

 

何だろう、このああやっぱりかみたいな感じ。

もう、何でこういうとこまでアイツは面倒くさい子なんだろう。

本当にもうっ。

 

「囚われの姫君を救い出すには何時だって難関があるものですよ、マスター」

「そういうことだ……で、立香?我らに示す言葉でもあるか?」

 

ディルムッドの言葉に賛同する形でスカサハが聞いてくる。

それに私はまだ胸を張ってこたえられる願いを見つけられていない。

 

だけど、

 

「まだ分かんないことだらけで、全然どうしたいのかだって分かんない。だけどギネヴィアをあんな傷だらけの姿で、何より今も傷つけられてるギネヴィアを見て見ぬ振りだけはしたくない!」

 

そうだから、

 

「あの門を超えてちゃんと昼間の世界でギネヴィアに会いたい!話したい!」

 

嘘一つない。

私自身の気持ちだ。

 

「だから、皆、力を貸して」

 

後ろから力強い、応という声が聞こえて。

私は一歩踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あなたはだぁれ?」

 

声がした、ギネヴィアの身体を貪っていった幻霊たちが時が止まった様に立ち尽くした。

 

「―――わたしはだぁれ?」

 

眼が開いた、獣のようなそれがこちらを認める。

 

「―――あなたはわたし」

 

声がした、それは遠い誰かに向けて。

 

「わたしはおまえ」

 

声がした、それは真っ直ぐにスカサハに向かうようで。

 

「そうね、そうよね、そうかしら、そうだとも」

 

鎖が解けていく、幻霊たちがもがき苦しみながら泥に変わっていく。

 

「ああ憎いな、苦しいな、愛おしいな」

 

光が沈む、泥となった幻霊たちをギネヴィアが飲み干していく。

 

「だったらいいわ―――あなたを産んであげましょう」

 

唇が笑った、心の底からの憎悪を吐き出すように。

 

「そうね、あなたのおなまえは―――」

 

姿が変わった。

 

「憎い」

 

芋虫が纏う其れのような。

 

「憎い憎い」

 

臨月の妊婦の胎のような。

 

「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨ッッッ!!!」

 

泥でできた繭がギネヴィアを包んでその姿を完全に隠す。

分かるのは漏れ出す声だけ。

 

「お前が憎い、お前が憎いぞッスカサハァァァッッッ!!」

「よくもあの人をッよくも我が子をッッ!」

「其の面、其の霊基、其の存在ッッ!諸共須らく憎いィィッッッ!」

 

聞いたことのあるギネヴィアの声ではない。

ギネヴィアの喉から出ている筈の音はスカサハのそれに似ていた。

怨嗟に塗れた、そう例えるならば()()()()()()()()のそれみたいな。

その音を聞いたスカサハは臆するどころか呆れたように、そして何処か心の底から不愉快そうに鼻で笑った。

 

「やれやれ()()()と言えど土台は私の記憶であろうにな、よくもまぁ随分と()()()()()()()()()を晒すではないか」

 

猿真似。

じゃあアレはきっと、

 

「復讐を―――嗚呼我が子を見殺しにしたこの女に復讐をッ!」

「そうだ、私の形、私の有り様、私の名前―――」

「そうよ、あなたのイレモノ、あなたのオモイ、あなたのナマエは―――」

 

繭が、

 

 

 

 

 

 

 

 

―――オイフェ。

 

 

 

 

 

 

 

 

破けた。

 

姿が完全に変わる。

泥の繭を破って出てきたのは見知ったギネヴィアじゃない。

髪色こそくすんだ銀色だけれど、その姿はよく知っている。

全身を赤黒く染め上げた彼女は、スカサハにそっくりだった。

 

マシュが聞こえた名前に反応する。

 

「ッ!オイフェ、と言えばスカサハさんの……」

「うむ、我が血と魂を分けし姉妹にして背反存在。我が不肖の弟子クー・フーリンの愛妻にして奴の勝利を以って稚児を孕んだ者」

 

複雑な関係だ。

だけどケルト神話をあまり知らない私には、あんな憎悪に満ち溢れた目をオイフェと呼ばれた彼女がする理由が分からない。

けどその答えはスカサハが教えてくれた。

 

「そして……スカサハさんが()()()()とされる愛弟子、クー・フーリンの長子コンラの母……ですね」

「下手に取り繕らわずとも良いぞ、マシュ。そうだ、私は二人の弟子を見送った。親に殺される運命にあった子を、謀略の果てに何もかも奪われて死ぬ運命にあった英雄を。そんな親子の終わりを知りながら、私は見殺しにしたのだからな」

 

憎んでいるのも当然かもしれんな、とスカサハは言う。

それは軽い口調であったけれど、強い強い哀愁が根底にあるのはよく分かる。

 

だがとスカサハは続ける。

 

「最もあれは紛い物、門番と成れなかった私の能力を掠め写すのに()()()()()()()を選んだに過ぎん……元よりあれも私と同じく全うな手段ではサーヴァントにはなれんのでな、ただ憎んでいるというレッテルを貼り付けられて復讐心を核に幻霊を捏ねくり回して造った出来の悪い贋作。謂わば()()()よ」

 

とはいえとスカサハは力のこもった声で続ける。

 

「油断するなよ、一度とはいえ私の膝を地に着ける程度の能力はある。宝具こそ使えんがそれ以外は私其の物の能力だ」

 

緊張が走る。

オイフェはスカサハの槍よりもずっと暗い血色の槍を呼び出して獣のように荒い吐息と凍てつくような憎悪でこちら見ている。

嗚呼怖い。

でも、

 

「さあ、()()()()。至高の采配を見せて魅せろ。何思うがまま、感じたまま。お前の本心をぶつけてやれ。それしか出来ぬのではない、その愚直なまでの真っすぐさがお前の長所であり、それこそが至高の輝きに他ならぬのだから」

 

ぽんと頭の上に乗せられた手で強張った身体が解れる。

見れば不敵な笑みを浮かべたスカサハが居る。

後ろからは寒々しい憎悪なんて吹き飛ばす熱い闘気を感じる。

 

だから私も、にやりと笑って告げるのだ。

 

「言われなくたってッ……行くよッ皆んなッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「AAAaaAAAAAaaaaァァァァァァァァッッッ!!!」

 

叫びと共にオイフェが迫る。

眼で追える速度じゃない。

動物のような声そのままの動き。

だけど、私の隣にはマシュが居る!

 

「マシュ!」

「了解!」

 

言葉を放つのとほぼ同時に鈍い衝撃音。

盾を削る勢いで毒々しい色と棘を纏った呪槍が、マシュの盾とぶつかる。

 

「ッ!やぁぁぁッッ!!」

 

その衝撃はマシュの身体ごと地面へと押し潰そうとするほど。

でも足元が揺らぎそうになってもマシュはそれを押し返して、オイフェを弾き飛ばす。

 

初撃はあげた、だから次は私たちの番。

 

「スカサハ!」

「先鋒はしかと勤め上げよう……何、これでも聊か以上に業腹でな。幾ら姉妹仲が悪いとはいえ……」

 

朱槍を呼び出し、調子を確認するようにくるりと手の中で回すスカサハ。

その立ち振る舞いはオイフェ(偽物)何かとは違って流麗。

けどその猛りは、それこそオイフェ以上に静かだけど力強い。

 

「そのような出来の悪い偽物風情でマスターの居る私に勝てる等と思い上がってもらうのは甚だ不愉快なのでなァッ!」

 

言葉と共に神速の勢いで飛び出す。

二色の赤がぶつかり合い、一歩遅れて金属音が聞こえる。

 

「フェルグス!ディルムッド!」

 

言えば通じる筈だ。

まだあって間もないけど、マスターと呼んでくれる。

ならその信頼を、私も全力で信じる。

 

「応さ!皆までいうなよ、マスター。前衛の補佐は任せておけ!」

「マスター、貴女は我らの戦いをしかと見届けてくれ!それこそが我らの力となるのですから!」

 

フェルグスは剣、剣なのだろうか?、うん、剣を持って。

ディルムッドは二つの槍を持って。

互いに肩を並べる様に走り出す。

 

「マシュ、行ける?」

「……分かりました、やって見せます!」

 

返事は一歩遅れて心配と、だけど信頼が綯交ぜになったもので帰ってきた

マシュが駆けだし、すぐさま二色の閃光に三人の力強い光が混ざった。

此処から先は私一人だ。

戦場から目を逸らさないまま自分出来ることを考える。

令呪は残り三画。

身に纏っているのは魔術礼装・カルデア(カルデアの制服)

搭載術式(マスタースキル)は『瞬間強化』『応急手当』『緊急回避』。

安全圏なんかじゃない。

スカサハの槍から漏れて、マシュの盾が取りこぼせば直ぐにあのオイフェは私を喰らいに来るだろう。

スカサハへの憎悪を謳っておきながら、何となくそんな気がする。

だって中身はきっとギネヴィアだから。

理由は分からないけど、そんな気がするのだ。

 

鈍く、恐ろしい程に力強い重低音が聞こえる。

 

此処に居るのは私一人だ。

何時も傍にいて守ってくれるマシュは居ない。

何時も一緒にいてくれるギネヴィアも居ない。

たった一人でいつ死ぬか分からない場所に立っている。

 

歌が聞こえる、獣の叫びだ。

 

「Solve vincla reis!Profer lumen caecis!」

 

その声を聴く度に身体が震える。

ああ怖いよ。

それでも負けない、負けられない。

 

「Mala nostra pelle!Bona cuncta posce!!」

 

いいや違う。

 

「ディルムッドッ!」

「承知!」

 

負けたくない。

戦闘なんてちゃんとは見れない。

ステータス越しに見た彼らのステータスは、カルデア(うち)のメドゥーサと同格以上。

幾ら魔術礼装で視力や情報収集能力を補っているからって限界はある。

だからもう直観だ。

パス越しに感じる5人の高ぶり()を感じ取って采配を伝える。

 

「切り裂けッ!必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)ッッ!!」

「Monstra te esse matrem.Sumat per te preceッッ!??」

 

歌が中断する。

オイフェの腹をディルムッドが朽ち葉色の槍が引き裂く、

オイフェは開いた傷口を止めようと、あの時アルテラと戦った時に見たギネヴィアのように、再生させようとする。

肉の蠢く音が聞こえるはずだった。

 

「甘いッ!破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)ッッ!!」

 

その前にディルムッドの紅薔薇がなぞる様に切り裂いて、肉の再生が止まった。

 

「AAAAAaAAAAAAAAaaaAAAAaaaa!?AAAAAaAAAAAAAAaaaAAAAaaaa!?AAAAaaaaaAaaaAAAaaAAAAaaaa!??」

 

オイフェはすぐさまその場を飛びのき、必死に胎を触りながら絶叫する。

 

「如何した、御子の寵姫よ。例えお前が偽りであろうと、今この時は影の国最強の戦士の筈だ……そんな様ではッ」

 

そんな隙を見逃す最速(A+)ではない。

 

「戦士の名が泣くぞッ!ギネヴィアッッ!!」

「Qui pro nobis natusッTULIT esse tuusッッ!!」

 

ディルムッドは叫び槍の連撃を繰り出す。

それに応じてオイフェも呪槍を押し出す。

 

「やるなッ!それでこそ我が槍も冴え渡るッ!」

「AAAAaAAAAAAAaAAAAAAAAAaaaaAaaaaAaaaaAaaaaAaaaa!!」

 

点のような矛先同士がまるで予定調和のようにぶつかり合う。

衝突面から絶え間なく火花が弾け、小さな火の粉が二人の顔を照らす。

 

「嗚呼、悪くない。背には守るべき主が居て―――ッ」

 

対照的だ。

 

「AAAAAAAAAAaAAAAaAAAaaAAAAAaaaaaAAAAaAaAaAaAaAaAa!!」

 

スカサハと同じ美貌を苦し気に歪めるオイフェと。

 

「主はこの背を信頼してくれるッ!そして競い合うのは貴様かッ!何よりッ」

 

心の底から、

 

「此度の戦は幼き少女の心を守るが為!これを喜ばぬ男が何処にいるッ!!」

 

嬉しそうなディルムッド。

 

「応、全くだ!騎士の、戦士の本懐とは正しく是よ!」

 

そこに剣、もうドリルでいいや。

唸りを上げて螺旋が加わる。

そう一人じゃない。

皆で戦ってるのだから!

 

「如何した如何した!もっと気張らんか!」

「Virgo singularis!Inter omnes mitis!」

 

横からは槍が、前からは剣が。

鋭く、そして重くオイフェへと襲い掛かる。

それを苦し気に防ぎ、一振りで足りないと思ったんだろう、スカサハと同じように剣や短槍を次々と出しては防ぐ。

だがそれでもジリ貧だ。

オイフェが相手取るのは間違いなく大英雄。

そう簡単に、というか中身はギネヴィアなんだから!スカサハの力をコピーしたって勝てるはずがない!

 

「Nos culpis solutos!Mites fac et castos!!」

 

それに気づいたのだろうか、それともいつの間にか戦線から姿を消しているスカサハに気づいたのかオイフェが二人と距離を放そうと跳躍する。

 

「憤ッ!」

「Ut videntes Jesuッ!??」

 

だけどそれよりも高くフェルグスは飛び上がる。

真下へと放った剣の切っ先は自重と魔力を加算して加速。

その勢いそのままにオイフェを叩き落とした。

 

墜落したオイフェと、屈強な体からは信じられない程しなやかな動きで着地するフェルグス。

そして這い蹲るオイフェへと声をかけながら吶喊する。

好機だ。

 

「足りん……足りんぞギネヴィア!貴様の想い!貴様の覚悟は!」

「AAAAAaAAAAAaaAAAAAAAAAAaaァァァァァァァ!!!!」

「フェルグスさん!」

「むっ!?」

 

畳みかけようと、そう声を張り上げるより早くマシュが駆ける。

構えた盾を真っ直ぐにつき飛ばそうとしている。

だけど倒れ伏したスカサハそっくりの美貌、その口元が吊り上がるのを見て、

 

「ッマス「点火(Access)ッ、緊急回避ッ!」いい判断だッ!」

「ひゃっ!」

「AAaaaAAAaaaaa!」

 

罠だったのだろう、迫りくる瞬間に背後から無数の槍を召喚してマシュへと放つ。

それを緊急回避をしようして無理やり戦闘圏内から私の横まで回避させる。

空間跳躍の真似事だと、かつてこれを作った技術スタッフ達とダ・ヴィンチちゃんの技術力に呆れ半分賞賛していたギネヴィアの顔がちらつく。

それだけ凄いものだから、回収する勢いも凄くて、マシュは尻もちついている。

 

「うむうむ、フェルグスの言う通り良い判断だ―――マシュ、お前は少し休むといい」

 

何処にいたのか、いつの間にかマシュの手を取って助け起こすスカサハが言う。

 

「スカサハさんっそれはっ!」

()()()()()()……今暫く見ておくとよい。アルスターの、誇り高い先達(ケルト)の戦士が如何なるものかというのをな」

 

今後の益にもなろうと言ってスカサハは口を閉じた。

 

戦場では、低く、腹の奥底にまで轟く声でフェルグスが謳い上げる様にして戦っていた。

 

「無我夢中も悪くない。投げやりになる時もあるだろう」

 

剣と槍が交差する。

もう無茶苦茶なのだろう。

矢継ぎ早に剣や槍を召喚しては乱暴にフェルグスを攻撃している。

それでもその速さは素人の私から見ても明らかにオイフェに軍配が上がる。

 

「何もかもを投げ出して耳を塞ぎたくなることもある……だが!」

「Ut videntes Jesum!」

 

だけどフェルグスはそれを全て経験を以って捌き切る、受け流す、そして反撃する。

だから無傷。

圧倒的な速さを以てしても敵わない、これがフェルグス・マック・ロイ、これが赤枝の騎士団!

 

「真っ直ぐに!ただ走り抜ける!それこそが王道!それこそが人の道!」

「Semper collaetemur!」

 

そして告げられる言葉はなぜか、ううん、きっと私たちに贈られる言葉(エール)

 

「この快感に勝るものなど!人の一生にある筈もないッッ!」

 

だって、こんなにも、

 

「愛を秘め、覚悟と矜持を抱き、(誇り)を握るッ!そうして最後まで意地を張り続ける(走り続けるから)からこそッッ!戦い(人生)は心地よいッ!この上なく、どんな美酒にも勝る幸福で照らしてくれるのだァッッ!!!」

 

聞くだけで力が湧くんだからッ!

 

憤と力を込めて削り砕く勢いでフェルグスが横薙ぎの一撃をオイフェへと叩き込む。

それを新たに召喚した盾で防ぐけれど、その勢いは止まらず盾ごとオイフェを叩き飛ばした。

その姿を見送りながら、

 

「いやぁしかし、宝具も足りん、経験も浅い。何より主人も居ないと来た!やはり以前見た姿より幾分以上にも劣る物よなぁ」

 

とはいえ油断はよくないなとごちるフェルグスの言葉、そしてパスから通じる炎に応える。

 

「ならばここは一つ、()()()()()といこうか」

点火(Access)、瞬間強化ッ!……やっちゃえ叔父貴ッ!」

「応さ!さぁて―――」

 

不敵な笑みを浮かべその手に持った剣を天高く掲げる。

フェルグスのその様子にオイフェは逃げ出そうとするが、

 

「AaaAAAAAAAAa!!」

「悪いが此処は引けないな、キャスターッ!」

「そういうわけだ、付き合ってもらうぞ。我が不肖の妹の贋作よッ!」

 

ディルムッドと瞬時に私の隣から距離を詰めたスカサハがそれを止める。

 

そして祝詞が口火を切られた。

 

「真の虹霓、螺旋の真髄を御覧に入れよう」

 

螺旋を描く剣がゆっくりと回転を始める。

 

「是為るは古より謳われし星の結晶」

 

静かに告げる主人の言葉に籠る熱い熱風。

その熱を受けて回転という動作で空間を歪めながら光を迸らせる。

 

「無限と連なる聖剣、魔剣。其の原典たる剛剣よォッ!」

 

その光は虹。

七色に輝く、青空に架かる奇跡の象徴。

 

「唸れ螺旋ッ!吼えよ虹霓ッ!目覚めよ我が魂ッ!」

 

その回転は暴風を巻き起こす勢いへと変貌し大地と大気を支配する。

 

「喜べ!我らの主人は佳い女子だ!いざ!アルスター男児の意地を見せつけようぞッッ!!」

 

その輝き、その回転、その男気が今、

 

螺旋(カラド)―――ッ」

 

臨界した。

 

虹霓剣(ボルグ)ッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

叩き下ろした剣はその勢いで大地を砕いて突き刺さっている。

フェルグスは剣をまじまじと見てから、

 

「ふむ、手応えがちと軽かったか……()()()()()()()()、か……」

 

呟いた。

 

もし油断があったのなら此処だったのだろう。

オイフェもそれが分かったのだろう。

三騎の内、最高火力を連続で武具を召喚し続けて、それでも足りず幻霊を新たに貪り再生することで何とか凌いだ。

だから、好機だったんだろう。

オイフェは槍も、武器も、何もかもかなぐり捨てて、オイフェ(ギネヴィア)は真っ直ぐに私へと向かって駆けだした。

 

「ッ!先輩ッッ!!」

 

その速さは閃光だ。

大事な後輩(マシュ)の声が聞こえる。

駆け出し盾で迫るオイフェを防ごうとするけど、競り負けて弾き飛ばされた。

 

ああもう次の瞬間には此の首に噛みつきに来るのかもしれない。

瞬きだって許してくれないかもしれない。

いや、意外と時間はあるのかもしれない。

そんなの誰にも分からない。

 

嗚呼、怖い。

怖い。

怖い。

死にたくない。

嫌だ。

 

 

 

―――だけど。

 

 

 

「もう眼を逸らさない」

 

そうだ。

逸らしたくない。

気持ち悪いこともあるだろう。

怖いこともあるだろう。

嫌なことも、嫌いだと思う事もあるだろう。

それが人間、それが私だ。

 

でも。

それでも。

そうだとしてもッ。

 

「私は」

 

認めよう、私はギネヴィアが怖い。

そして、そんな風にギネヴィアの事を思ってしまう自分も許せない。

だからこそ、それを認めて、肯定したまま会いに行く。

 

「もう自分の弱さ(醜さ)から逃げ出さない!相手の醜さ(弱さ)を否定しない!」

 

自分の願い。

会ってギネヴィアに何を言いたいかなんてわからない。

あのごめんなさいになんて返すのかなんて決めてない。

でもそんなのどうだってよかったんだ。

 

だって―――ッ

 

「私とアンタは友達でしょ?ね、ギネヴィア」

 

友達だもん。

 

「Sit laus Deo Patriッッ!!!」

 

そう言ってる間に首元までオイフェ(ギネヴィア)の手が迫っていた。

怖い、けど目を逸らさない。

負けない。

友達だから、それもひっくるめて抱きしめて見せる。

 

そうだッ。

これがッ、

 

「私の覚悟だァッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

「良くぞ吼えた」

 

 

 

 

 

 

風が吹いた。

 

「Summo Christuッッッ!??」

 

私に迫ったその手が一瞬で視界から消える。

その刹那、朱色の輝きが自分の横を通り抜けていったのが分かった。

声をした方を見る。

 

「目を逸らさない、か。お前らしい答えだ、マスター。嗚呼、実に好いものだ……故にこそ」

 

既に態勢は第二射を放つための物へと変わっている。

その静かで、けど激流みたいに激しい闘志がパスを通して理解できる。

 

「幕引きとしよう」

 

その手に握る槍。

 

「Spiritui sanctoッッ!!」

 

それを限界まで引き絞るスカサハに私も応える。

 

「令呪を以って」

「気高き誇りを示した勇士への返礼だ、貰って逝け―――ゆくぞ」

 

「藤丸立香が命ずる―――ッ!」

「此の一撃、手向けとして受け取るがよい―――ッ!!」

 

溢れる魔力に空中で貼り付けとなっているオイフェ(ギネヴィア)が叫びをあげてもがく。

でも、遅い。

私は、私たちはもう、止まらない。

 

「ギネヴィアを助けてッ!」

貫き穿つ(ゲイ・ボルク)―――ッッ!!」

 

そして今、

 

「Tribus honor unusッッ!!」

 

真紅の槍の真価がこの世界に顕現した。

そしてそれはつまり、

 

死翔の槍(オルタナティブ)ッッッ!!!」

 

私たちの勝利を示すことに他ならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……ここで別離(別れ)だ、マスター」

 

スカサハの一撃、真名開放でオイフェの形を模した泥は風化するように灰となって、まるで初めからいなかったように消えてしまった。

あれだけ沢山いた幻霊ももう居ない。

後に残ったのは私たちだけだ。

 

「何となく、そんな気がした」

「そうか」

「うん」

 

言葉数は少ない、だけどそれで十分な気がした。

周りを見る。

フェルグスもディルムッドも、勿論スカサハも満足げにこちらを見ている。

そして私も十分だった。

言葉は、この先私が歩いていくための道標はもう十分この人たちから貰えた。

 

「門を開ければ、そこから先は新たな世界だ―――忘れるな、臆し恐れても」

「進み続ける、だよね?」

「……言うようになったではないか」

 

ふふっと上品に笑いを漏らすスカサハに自分もつい笑ってしまう。

そこでふと、気になっていた、私に肩を預けて()()()()ぐったりとしている後輩について尋ねた。

 

「マシュは―――」

()()()()()()()()()()()()()。安心せよ、彼方の世界(現実)に戻れば問題はない」

「……そっか」

 

ほんの少し、沈黙が流れた。

少しだけ意識が揺らぐ。

そろそろ目が覚める時間なのだろう。

だから、そうなる前に三人にしっかり言わなくちゃ。

 

それはごめんなさいでも。

お世話になりましたでもない。

 

「ありがとう、三人とも―――それじゃあ、行ってきます!」

 

精一杯の感謝としっかり歩いていける姿を。

 

「ああ、行ってこい」

「ご武運を、マスター。貴方と共に戦えて、俺は幸せでした」

「達者でな、また会おう!」

 

心地の良い高揚で、心がポカポカする。

その心地よさを感じながら、

 

「応!」

 

力強く答えて私は門を開けて、

 

 

 

「……へ?」

 

 

 

先程までの廃墟とは一変した景色に呆けたまま、現実へと帰還した(目を覚ました)のだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

如何して、でしょうか。

要らぬ言葉。

要らぬ希望。

要らぬ輝き。

 

どれも、これも、()()()には不要でしかないのに。

 

如何して、邪魔をするのでしょうか。

如何して、苦しめるのでしょうか。

如何して、傷つけるのでしょうか。

 

あの子の復讐の灯()はこんなにも美しいのに。

 

嗚呼嫌です。

嗚呼苦しいです。

 

泣かないで、愛しい人。

泣かないで、恋しい人。

泣かないで、私の英雄。

 

嗚呼、貴方にも見せてあげたかった。

 

この美しい人を、この輝きを。

 

それなのに、どうしてでしょうか。

どうしてどうして、邪魔を、する人が居なくならないのでしょうか。

 

本当に私、

 

 

 

 

 

 

「困ってしまいます―――」

 

 

 

 

 

 

その言葉を最後に輝く顔が一つ目の試練と称した世界から誰も居なくなった。

残るのは、槍によってその心臓を破壊された、物言わぬ三騎の英霊だけだった。

 

 

 

 

 

 

 




???「やはり吾の出番か。いつ出立する?吾も出演しよう」

というわけで次回以降からマシュ編が始まります。
今回と同じく3話完結になりますがもう少し短くなるよう心がけるのでお許し下さい。

……正直今回は主人公の真名のヒントやら伏線やらばら撒きまくったせいで長くなってしまいましたが、次回以降はそういうのあんまりいらないのできっと短くなるはず(願望)

次回は今週末に必ず、必ず、必ず!投稿しますのでもうしばらくお待ちくださいな(`・ω・´)







ちなみに今回登場したサーヴァントはマシュとギネヴィアを除いて4騎ですよ

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