オリ主が挑む定礎復元   作:大根系男子

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随分と遅くなってしまいましたが、またよろしくお願いします

今回から暫く藤丸先輩視点です


門番は誰かーact.1

―――ゴメンナサイ。

その一言に込められた重みが胸に突き刺さって。

私はまた、呼吸の出来ない水底に沈んでいく。

深く、深く、ただ深く。

誰も居ない、誰も見えないその場所に。

ただただ悔恨を抱いたまま沈んでいくのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「眠れないんですか?先輩」

 

ぼーっと焚火を見つめていると柔らかい、ほんの少しハスキー気味な声が聞こえてきた。

マグカップを手渡しながら、私の隣に座る後輩の姿をちらっと見てから私は湯気を立てるそれを受け取った。

少しの間、無言が続く。

長い付き合いというわけじゃない。

たまたま道端で知り合った人が魔術師だったらしくて、それで魔術回路だとか言うのが欠伸交じりに目を覚ましたから、それこそ本当に偶然見かけたチラシに応募してそのまま長期休暇を利用して外国の雪山くんだりまで来て。

それから気づけば人類最後のマスターなんていう大層な肩書を背負ってタイムスリップを繰り返して。

まだ半年にも満たない、そんな短い付き合いだ。

それでも一緒に戦ってきたから、今此処に居ないギネヴィアと合わせて三人であの燃える街を駆けずり回ったときからマシュとはずっと一緒だ。

だから、今の無言は息苦しいものじゃない。

 

だから、この息苦しさはマシュの所為じゃない。

私が、藤丸立香が勝手に抱えて勝手に苦しんでる、そんな身勝手な感情の所為だ。

 

「……ギネヴィアさんは」

 

黙ったままの空気がマシュの言葉でぷつんと弾けた。

 

「……まだって、ロマンが」

 

通信越しの固い声と表情が私の頭を過ぎる。

それが無理してるんだって、言われなくたって分かる。

ロマンだって、ダヴィンチちゃんだって、他のみんなも。

ギネヴィアのことを本気で恐れてるわけじゃない。

あの時、ボロボロ泣きながら戦うあの子の事を心配しなかった人はきっといない。

そうだ、あの時みんなは誰もが怖くてそれ以上に寂しかった。

あんな風に、まるで壊れた機械みたいに戦うギネヴィアのことが、それをさせてしまった自分たちのことが悔しくて。

そしてそんな風に自分たちの知らない誰かになってしまったようなあの子が、何処か遠くに行ってしまったように思えて。

すごく、すごく。

寂しかったのだ。

 

そう、みんなは。

 

「大丈夫ですよ、先輩。きっとすぐにまた元気な顔を見せてくれるはずですから!」

「……うん」

 

そうだ、みんなは心配してる。

優しい、あのカルデアで小さな身体でいつも幸せそうに笑っていた彼女が傷ついた今をきっと、すごく心配してる。

 

「……明日には形ある島に向けて出発です。恐らくは六日ほどはかかるだろうと、ネロ皇帝も仰っていました……長旅になります。ですから先輩も、もう寝ましょう?」

「……うん」

 

マシュだって目を覚ました時に話を聞いてすごく取り乱していた。

きっと今だって、自分の所為だってすごく悩んでる。

 

「大丈夫です、きっと私たちは勝ちます……私も、もう絶対に負けませんから」

「……うん」

 

でも私は。

 

「だから……お休みなさい、先輩」

 

私は、怖い。

 

「……うん、お休み。マシュ」

 

怖いと、思ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃虚を辿る御伽の国の夢は見れたか?

虚飾の群れを這いずる悲痛は感じたか?

虚栄に満ちた従卒とのお出掛けはお気に召されたか?

 

ならいいさ。

随分長いこと待たせたんだ。

こっから先はノンストップだ、奴さんが目を覚まして陳腐で見飽きた逆転劇になっちまうか。

それとも口も手も早い保護者に縊り殺されるか。

はたまた本当の本当に目を覚まして、過程も結果も努力も希望も繁栄も。

それこそ人理も世界も、泣き疲れた意気地無しの癇癪で何もかも御破算になっちまうか。

 

見てみようじゃないか。

目一杯に虚飾で飾り立てて。

気色ばんで絶望を縫い付けて。

艶やかに、艶やかに汚泥を唇に差して。

呪いを押し固めた憎悪の灯火でその瞳を濡らして。

そんな致命的に終わってる端切れを繋いだぬいぐるみが転がり堕ちる様を。

 

そら見せてくれよ、人類最後のマスターちゃん。

あんたが最後の希望なら。

あんたが最後の輝きなら。

あんたが本当に灯火なら。

なけなしの勇気を振り絞って、寝た子を叩き起こして魅せてくれ。

きっとざまぁない程、痛快な自業自得が見れるだろうからよ。

 

そんじゃあ気前良く一丁おっ始めるとしようぜ。

痛快で気色悪い、世界で一番矮小な戦争。

あんた達が喉から手が出る程待ち望んだ答え合わせの一欠片だ。

気持ちよく泣き喚こうぜ。

お涙頂戴の三文芝居だ、腹抱えて嗤おうや。

 

てなわけでだ。

 

---さあ、聖杯戦争を始めよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん、ぱ……」

 

誰かの声が耳を擽る。

 

「……んぱいッ」

 

聞いたことがある。

 

「先輩ッ!」

 

だってそれは可愛い私の後輩の声なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「指示をッ!此処は敵に囲まれていますッ!」

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!数はッ!」

 

ほんの少し前までただの学生で、何時ものようにくだらない話をしていた自分はもういない。

飛び起きざまにマシュへ声をかけて脳みそをひりつかせながら動かす。

 

「はいッ!数、骸骨兵三十!私たちを中心に取り囲んでいます!」

「最悪ッなら!マシュ、()()()!!」

「了解!」

 

嫌っていうほど見た骸骨兵の大きさを頭に描いて、それからマシュのステータスを思い出して。

取り合えず、マシュに抱きかかえてもらってこの場から離脱することを選択する。

ぎゅっと力強く、それでも優しく抱きしめてもらって私たちは空へと跳ね上がる。

 

くるっと弧を描きながら囲みを超えて一番手薄な場所へと着地。

そのままマシュに抱きかかえられたままその場から逃げる。

 

「状況が全く見えないけど、何がどうで、此処はどうなってんの!?」

 

風を切る音に負けないよう声を張り上げて尋ねる。

自分が寝ていた間に一体何が起きたというのだろう。

というより、此処は。

 

この見覚えのない、まるでガラクタを押し固めたようなこの場所は一体何処なのだろう。

 

「分かりませんッ……先程まで私と先輩は確かに古代ローマに居た筈なのに……今居るこの場所はまるで……」

 

そうだ、此処はローマなんかじゃない。

見慣れた建物が見える。

まるで雪でも振ったように白く柔らかい何かに覆われているけれど、見間違えるはずがない。

高層ビル。

電信柱。

駅のホーム。

そして掠れて殆ど読めないけれど、日本語で書かれた標識。

どれもこれも絶対に何百年も前の外国にある筈のないもの。

 

だってそれは、私の現代日本(故郷)の物なのだから!

 

「ッ!先輩、敵が!」

 

荒い息で私を抱き留めながら走り続けていたマシュが急に足を止める。

目の前から忽然と、まるで初めからそこにいたように襤褸衣を纏った他の特異点で見た姿よりもずっと小さい、まるで子どものような骸骨兵が現れる。

 

「迂回は!?」

 

手に持った物も違う。

小さなシャベル。

ガラスの破片。

鉄の棒。

石ころ。

ただの包丁。

纏う襤褸衣すら赤やピンク、黄色に水色と統一感がない。

一緒なのは骨の身体と、そしてその頭に被った()()()()()

そんな姿の敵はそれぞれが違う獲物を手にしてこちらを嗤って見ている。

 

正直気分はよくない。

けどそんなことより今はこの状況を打開しなくてはいけない。

それが私の、マスターの務めなんだから。

 

そう思って、じくりと何かが痛むけれどそれも無視する。

そんなことに構っていられない。

分かってるけど、今はそんなことよりも生き延びること。

考えたって、自分にはどうしようもないのだから。

 

「……無理です。前方に三十、後方から先程の三十。それから、今魔力反応を確認しました」

 

続きは聞かなくても分かった。

まるで泣いているような笑い声が、まるですぐ傍にいるような感覚で両横から襲ってきた。

 

「詳しい数は分かりませんが、恐らくどちらも同じ数が」

 

つまり前後左右が三十ずつ、足してみたら百二十の敵の軍勢が居る。

脚から嫌な振動が伝わる。

武者震いだよなんて言えればいいのに、ちょっとそんな余裕はなさそうだ。

だけど、そんな泣き言言ってられない。

 

『泣くなとは言わない。笑い続けろとも言わないわ』

 

ほんの少し前、魔術の訓練中にあの子が言ってくれた言葉がある。

 

『誰だって弱音を吐きたい時がある。誰だって苦しい時がある。立香、今の貴女の立場なら猶更でしょう』

 

なけなしの魔力で何とか作成しても大した礼装が出来なくて凹んでた私にかけてくれた言葉。

 

『そんな時は思いっきり吠えてやりなさい。むかつく、腹立つ、悔しい。何でもいいわ、思いっきり吠えるの。それですっきりしたらまた前を見て進むのよ』

 

吼えろと、そう言っていた。

 

『辛いなら辛いと言えばいい、苦しいなら苦しいと言えばいい。でもね、辛い事や苦しい事、そんな理不尽に負けるだなんてそれこそ業腹じゃない?……業腹っていうのはね、えとね、ちょームカつくってことよ』

 

辛いことをあるがままに受け入れるのではなく、苦しいと蹲るのでもなく。

見っとも無くてもいいから、そんな辛さを罵倒してやれと、そう教わった。

情けなくても、格好悪くても。

 

『だから吠えてやりなさい。喉の奥から魂を震わせて、巫山戯るな、お前達なんか負けてたまるかって叫ぶのよ。泣いたりするのは最後までとっておくの』

 

泣き言漏らして耳を塞ぐ惨めさよりもずっと、私の性に合っている。

 

『いい立香?良い女の涙は宝石よりも価値あるもの、心底惚れた相手を想う時に流すもの。そんな大切な物を理不尽な現実に、自分を苦しめる相手なんかにくれてやるなんて勿体無いのよ』

 

だから私は泣かない。

絶対に泣き言なんて吐かない。

こんな詰まらない場所で宝石を配ってやるほど心の財布を緩くない!

 

「……切り抜けるよ、マシュ」

「はいっ!先輩」

 

嬉しそうな力強い返事が返ってくる。

私を片腕で抱いたまま、それまで前を覆い隠すように構えていた盾を鋭く敵へと向ける。

突撃(チャージ)、一点突破。

あいにく私は唯のしがない女子高生だ、元はつくが。

有体に言って大した戦術とか考えられない。

だから真っすぐ突き進む。

 

「此処が何処だか知らないし、これっぽっちも分かんないけど」

 

そんな雑な戦い方を嗤うのだろうか。

骸骨たちが甲高い、それこそ本当に子どもみたいな声で嗤ってくる。

でも、別にいい。

勝手に笑ってろ。

こんな所で止まれるか。

 

「私達をッ」

 

さあ何時ものように大見得切って吠えるんだ。

負けてたまるかと心の奥底から叫ぶんだ。

それがきっと私に出来る、誰にも負けない強さなんだから。

 

さあいつものように進むんだ!

 

「止められると思うなッ!」

 

 

 

 

 

 

 

「良き啖呵だ、勇士よ。なればこそ、ワシの槍も映えるだろう」

 

髑髏の嗤い声なんかとは違う。

凛と張りのある綺麗な声。

まるで舞台女優みたいに透き通って誰もを魅了するような、そんな女の自分から見ても色気のあるその声の持ち主は少し離れたビルの上から此方を見据えながら立っている。

 

「如何な異境、魔境と言えど我が技の冴えに曇りは無く。()()()()()達ではあるが、まあ佳い。寸分違えることなく、その悉くを影の国へと連れて行こう」

 

音も予兆もないまま、これまでみたどのサーヴァントの動きよりも綺麗な所作で高く宙へと跳ぶその人。

三流魔術師の私でも分かる。

現にマシュは私をしっかり抱き寄せて盾を頭上に構えてる。

大きな川が音を立てて流れるように溢れる魔力。

紫色の全身タイツっていう、大分エロい格好のその人は。

 

蹴り穿つ(ゲイ・ボルク)---」

 

まるで蝶のように軽やかに宙を舞って。

円を描いて回るその槍の石突きを、蹴り飛ばした。

 

死翔の槍(オルタナティブ)ッッ!!」

 

もう槍の形なんて見えない。

真っ赤な流れ星になったそれは、気づけば数えるのも馬鹿らしくなるぐらいに枝分かれして豪雨のように私達を取り囲んだ髑髏兵に降り注いだ。

 

轟音を伴って地面が陥没する。

無事なのはそれこそマシュと私の居る場所だけ。

それ以外はまるで爆弾でも落ちてきたように綺麗さっぱり焼け野原になって、おまけに大きなクレーターが幾つもできている。

 

宝具、何だと思う。

げい・ぼるく、なんていう宝具はちっとも知らないけどきっと凄い英雄なんだと思う。

その凄い宝具を使った、きっと、多分、恐らく凄い知名度の英雄さんはいつの間にかビルから飛び降りて

私たちの目の前に立っている。

 

「着いて来るがいい、幼き勇士達よ。お前たちが真実、この世界の最後の希望であるというなら」

 

そう言って彼女はくるりと背を向けて歩いていく。

足元でちっぽけな白が小さく揺れた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奇縁も此処に極まるか、つくづく儂も運が良い。嗚呼いい、名は既に知っておる。お主が藤丸立香、そしてそこの娘がマシュ・キリエライトだったな」

 

着いて来いと無下も言わさず黙々と歩いて辿り着いたのは廃墟。

って言ってもこの場所は何処も彼処も廃墟だらけで、だからもっと詳しく言うならここは小さな教会だった。

歩き通して漸くベンチに腰を下ろした私たちに向かってドスケベスーツを着た彼女は口を開いた。

 

「お主たち二人は夢の中に在りながらにして、とあるモノの内面世界に訪れた稀人だ。機構(システム)としての仕様なのだからそれ自体には小言を言う必要はない。これはお主たちのよく知る者が仕組んだこと、()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ」

「……あなたは、一体……何方ですか?魔力の在り方は確かにサーヴァントに近しいですが、何かが、決定的に何処かがズレているような……いいえ、今まで私たちが出会った誰とも違う、その筈なんですが……」

 

違うと思います……記憶はあやふやで上手く言えませんが、そう口ごもるマシュ。

私も同じ思いだった。

何処かであったことがあるような、だけど何といえばいいのか分からない。

答えは頭の出口まで来ているのに、そこから意固地になって出てきてくれない。

そんな気分だ。

 

そんな曖昧で、訳の分からない私たちの気持ちを察してか多分ランサーの、サーヴァントはゆっくりとまた口を開いた。

 

「ふむ、確かに誰と問われれば名を明かさなくてはな。私の宝具を見たところで、真名に辿り着けというのも無理な話か。何分あれは、私以外にも使える者がいるのでな」

 

うむうむと腕組をして納得したように頷いてからその凛とした薄紅の瞳が私たちの方をしっかりと見た。

 

「しかし、思えばこの名を自ら明かすことなどこれまでの生で終ぞ無い話だ。これもまた奇縁故の幸運か……よもや誰もが知る死にこびりついた我が名を懇切丁寧に語る時が来るとは」

 

ほんの少し嬉しそうに口元を緩めてから、気持ちのいいくらい張りのある、けど落ち着いた大人の声で彼女は語った。

 

 

 

「名乗りもまたケルトの誉れよ。畢竟と言えど此処は正しく戦場、誉れ高くも浅ましい()()を奪い合うこの世で最も歪な()()()()の最中。故にだ」

 

淡々と静かに彼女は私たちに名を告げた。

 

「影の国より罷り越した、女王スカサハ。此度の戦では槍兵の器にて現界している。よろしく頼むぞ、カルデアの少女達よ」

 

スカ、サハ……。

 

困った、誰だろう。

何かデデーンとか凄い効果音ありでどや顔をしてくれたけど私の知らない英雄だった。

けどマシュはそうではなかったようで、物凄く驚いた顔でスカサハと名乗った彼女の方を見ている。

 

「スカサハ……ッ!?ケルトの母、古い地母神にして数多の英傑豪勇を鍛え上げた戦神!そして、神殺しを成した神霊級の超人ですか!?」

「え、なに、やっぱりすごい人なの?」

 

そう言うと滅茶苦茶目をきらきらさせて、それからちょっぴり早口でマシュが解説してくれた。

 

「はい先輩!ギネヴィアさん達の活躍を記したアーサー王物語、その源流に当たるものがケルト神話ですがその中でも特にアルスターサイクルと呼ばれる1世紀頃の物語群で活躍された限りなく神霊に近い大英雄です!」

 

訂正、大分早口です、うちの可愛い後輩。

 

「ダン・スカーやスカイと呼ばれ他文化における冥界に相当する影の国の女王にして、ケルト神話最大の大英雄クー・フーリンの師と知られます。そして自身もまた数多の神霊や魔獣を討ち滅ぼしたまさしく最上級の英雄!」

「う、うん」

「それだけじゃありません!!」

 

そうだった、この子こういう話大好きな子だった。

たまに勉強会するとギネヴィアより詳しい時もあって、びっくりしていたのを思い出す。

そして思い出すのと同時に、冷たい罪悪感が胸に押し込められた気がして、すごく嫌だった。

 

「北欧神話における巨人スカジの狩猟や山の女神としての側面と同一視、若しくは習合した存在とも考えられていて、そこからトゥーレ協会が死守しているともされる智慧の大神が刻んだ魔術刻印(原初のルーン)を会得したともされる神代クラスの大魔術師!!言わば戦闘における万能の人、無双の女戦士です!!!」

 

そんな自己嫌悪染みた罪悪感を拭っている間もマシュは一頻り喋って、戦闘直後でもないのに肩で息をしている。

まあでもよく分かった。

 

如何やらスカサハという目の前の彼女はとんでもなく凄い人らしいということが!

 

「うむ、そちらの娘はよく勉強をしているな。正解だ、点数でもやると……いかんな、そんな悠長なことをしていると()()()()()()()()()()()

「夜が、終わる?」

 

その疑問に、うむと頷くスカサハ。

 

「言ったであろう、此処は夢の中であり同時にとあるモノの内面世界、謂わば心の内だ。そしてこの世界にお主たちを送り込む機構(システム)が機能するのは夢を見ている間、即ち眠っている時間だけだ」

「あれ?なら私たち此処に来てから随分時間が経ったけど……もう目を覚ましてる時間じゃ」

「いいや、それはなかろう。此処と彼方では時間の概念が違う。此処は随分と時間の流れが緩やかでな、まだ起きることもあるまいよ」

 

さて、そう言ってスカサハは何もない空中に指を走らせる。

 

「わぁ……」

 

マシュの驚いた声。

私も同じだ、目の前で指を走らせただけで地図を描くなんて……。

 

「っ……」

「先輩っ?どうかなされましたか?」

「あはは、大丈夫大丈夫。ちょっとお腹減っちゃってさ」

「そうでしたか……申し訳ありません、夢の世界だからか私も携帯食料を所持していなくて……」

「もー、本当に大丈夫だよ!ごめんね、心配させちゃって」

 

ずきりと胸が痛む。

魔術を見ただけでここには居ないどっかの誰かさんの顔を思い出して、やはり胸が苦しくなった。

 

「……成程、それで私か。悪意に溢れておる癖に、随分と親切な配役ではないか」

 

ぽつりと漏らしたスカサハ。

その言葉の意味を訊ねて少しでも気を紛らわせようとするけど、それより前にスカサハは地図を指で差しながら話し始めた。

 

「よく聞け、立香、マシュ。この世界は魔術(システム)によって成り立つ場所。お前たちもよく知るとあるモノの夢の宮、虚構の都だ。そしてこの場所の本質は人である者ならば誰もが持つ心の奥底、精神の根幹を映し出した物。であるからこそ、其処には誰もが立ち入ることが出来んし、誰も入れぬように固く閉ざされている」

「では、今私たちが此処に居るから先程のように襲撃を」

「いいや、それは違う。本来であればお主たちは第三者が招いた稀人であれど敵の介在など有りはしない。時間はかかれど、お主たちはあの少女の心の内と対面することができただろう」

「ッ!……その、少女って」

 

きっとマシュも同じことを思ったはずだ。

思い浮かんだのはあの空色の少女の事だった。

泣き虫で、お転婆で、その癖責任感だけは強いから空回りする、そんな少女。

私の、大切な人のことだった。

 

けれどスカサハはその疑問に答えてくれなくて、そのまま話をつづけた。

 

「ワシもそう詳しくは知らん、何せこの魔術(システム)が起動した直後に呼び出されたものでな。知っていることと言えば、呼び出された我らの前には無数の亡者が群れを成していたという事、そしてそんな存在が呼びだれる様に()()された術式の原型がどう云った物であったかの残滓程度だ」

「術式の……改竄、ですか?」

「そうだ。先も言ったように此の場にお主たちを呼び出した魔術(システム)とその使用者に悪意はない、だがその後に何者かによって術式が改竄され気が付けば今のように亡者の溢れる場所となってしまった。そして改竄されたことで招聘された亡者達が心の内を喰い破らんとした。故、それを堰き止める門と守護者が必要だった」

 

それが私だ、そう言ってスカサハは軽く言った。

目を凝らして見ればスカサハの戦衣装には真新しい小さな傷がある。

本人の身体には傷一つないがきっと激しい戦いがあったのだろう。

 

「私が呼ばれたのもそうだな、偏に『門』と関わりのある存在であったが故だろうな。無論、既に終わった話ではあるが……兎角我らは亡者からこの内面世界を守るために召喚されたのだ」

「我ら、って事はスカサハ以外にもまだサーヴァントがいるの?」

「うむ、おるぞ。ワシを除けば残り二騎、『門』という概念そのものと縁深い英傑がな」

 

ぱちりと指を鳴らすと虚空に二色の火が灯る。

一つは橙、小さく揺れる腕のような形をした火。

もう一つは黄金、力強く全てを照らす星のような火。

 

「東方の魔物、そして太古の名君。どちらも一騎当千の英傑だが、今此の場には居ない。否、此処には居られなくなった」

「居られなくなった?」

「ああ、そうだ。お主達で言うならほんの数刻前、時間の流れの違うここでは二日も前になるがそれまで我らはだだっ広い暗闇の中で各々含みはあれど()()()()()()()()()()()()()を守っていた。だが、恐らくお主達の意識が完全にこの内面世界に接続した瞬間にワシ以外は弾き飛ばされたどころか暗闇すら開けてな、気づけばこの有様よ」

 

そう言って地図に手を当てるとまるで写真のように先程までいた廃墟の街が映し出される。

 

「この吉兆の若草(シャムロック)もまた同じよ、荒廃した街に無際限に咲く小さな花弁」

 

そう摘まんでこちらに見せてくれる花は、先程見た街を覆っていた『白』の正体。

 

「クローバー、でしたか。文献で何度か目にしたことがあります」

「うん、多分あってると思う」

 

勿論その名は知っている。

小さい頃、自分も何度も摘んでは花冠を作ったり、四葉のそれを探したのだから。

 

「幸運の象徴がこうも咲き誇っているというのも、随分と酷な話だが……うむ、今はそれほど必要な話でもないか」

 

静かに映し出された街並みを見ている私たちの様子に満足したのか、どこか学校の先生が教科書を捲る様に地図の形を変えた。

 

「そして暗闇が晴れた後、つまり今お主達が居るこの世界の構造は」

 

こうだ、といって見せてくれた地図は三つに分かれている。

 

「一つ目は今居るこの廃墟、もう少し歩けば門へと辿り着く。そこを守る門番を倒せば次の舞台(ステージ)へと進むこととなる」

「門番、ですか」

「嗚呼、ワシもお主達と合流する前にほんの少し遊んでみたが……うむ、飾らず言うなれば敗北した程よ」

「スカサハさんがですかっ!?」

 

あっけらかんと笑うスカサハにマシュが驚きの声を上げた。

私も同じ気持ちだ。

あまりスカサハの事はよく知らないがそれでもあの宝具の威力や綺麗な動きの所作を見ていると負けるなんてちょっと想像できなかった。

 

「あれぞ正しく、この内面世界の歪みの象徴、亡霊の極点だ。まさかこの歳で、擬きとは言え()()を見ることになるとは思いもしなかったものよ」

 

はっはっはと軽く笑うスカサハに何か言おうとして、ふと意識が遠のいていく感触がした。

マシュも同じようで、額に手をやってまるで眠気に耐える様にしている。

その様子を眺めているうちにも、どんどん意識が遠のく。

 

「む、もう夜更けか。男女の逢引きは綺羅星の如く時が過ぎ去るものだが、幼き勇士との語らいもまた同じか」

 

「立香、マシュ。お主達はまた明日の夜もこの場を訪れる、そして次こそあの門を越えねばならん」

 

「お主達もまた心に傷がある。その胸の内に後悔を宿している。なればこそ、この世界でそれを鍛え上げるとよい」

 

「その果てに殻に籠った大馬鹿者を救い出すのもまた一興だろうさ」

 

その言葉を最後に私たちの意識は浮上して、眩い朝日の輝きで目を覚ましたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クローバー。

和名をシロツメクサ。

学術名をTrifolium repens。

地を這う茎から伸びた複葉が四枚の物は幸運を齎すとされる。

 

その花言葉は『幸運』、『約束』、『私を思って』。

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――『復讐』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




イベントを書く余裕がないなら本編に盛り込めばいいじゃない!
というわけでCCCイベ+スカサハ体験クエスト+羅生門イベ他の闇鍋イベントです。

暫くオリ主の主人公らしい活躍はポイーで、藤丸先輩とマシュのコンビに頑張ってもらいます。
大丈夫、ちゃんとオリ主も活躍しますよ(味方とは言ってない)

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