オリ主が挑む定礎復元   作:大根系男子

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GWとは何だったのか(哲学)

今回は全編にわたってグロ描写あるのでご注意ください


災厄の目覚め、汝の名は敵対者

「其れには小羊のような角が二つあって……あって……ううむ、その次は何だったかなっ!はっはっは!私としたことがいやはやとんでもない間違いだ!すっとぼけて死徒の前で使徒の様にふるまって見せてもいやはやどういう事だろう!私としたことが!すっかりこの先を忘れてしまったじゃあないか!」

「竜の様に物を言った、だ伯爵よ。安心するといい、儂もすっかり忘れていた。煩いのはその『自動車』だけでなく、貴公の口から洩れるその語り(騙り)もだったことを今頃になって思い出したところだ」

「ほう!ほう!それは大変大層結構ではないですかな、元帥。嗚呼慎ましくも人の世を離れて浅ましく生きる月の子!……ああ、あんまり怒らないでくれ私の口が大層ご機嫌に回るのは君だってよく知っているだろう?」

 

機嫌良さそうに笑う妙齢の男と対照的に悩まし気に額を抑える老人。

一見するとちぐはぐな組み合わせであり、そして互いにこうして顔を突き合わせるのすらそうそう多いことではなかった。

その二人が、珍しく、そう珍しく。

この世の何処とも決して言い切ることができない、例えるならば世界の果て、星の内海、夢幻と断じられた理想郷、そんな花園でティーテーブルを囲んでいた。

 

「貴公を招待したという話は聞いていなかったのだがな」

「君を笑いに来たのさ、元帥。いやだってそうではないだろうか、もうどうしようもなくなった世界に何時までも未練たらしく観測を続けるなんて、何時もの君じゃあり得ないと思ってね。一体全体これはどういう事だろうか、まるで私が思い描くペテンでも茹った君の灰色が思い浮かんだわけじゃないだろう?それとも……本当にそんなペテンを書き起こしてしまったのかい?」

 

一頻り微笑を浮かべたまま喋り切ると、伯爵と呼ばれた男は老人の眼をじっと見つめる。

それは真か贋かを見抜く目利きのようでもあって、次に使う玩具を選ぶ子供のようでもあった。

そんなじっとりとした視線に、深々と溜息をつき老人はゆっくりと口火を切った。

 

「……ペテンだ、伯爵。終わった物語の続きを望む、それもどうしようもない程に完結してしまった物語の続きだ。なら、その後に来るのは如何したって二次創作(ペテン)であろうよ」

「違いない!貴方の言う事は尤もだ元帥。で?何かね、貴方が望む最良が、貴方が守ろうとした世界(人理)を何もかも滅茶苦茶にしてくれたあの()()を覆す、そんな出来の悪い奇跡(ペテン)が起きるとでも?」

 

その問いへの答えは花の香りと共にやってきた。

 

「いいや伯爵、それは違うとも」

「おや、花の。久しぶりだ、()()()()()()()()()()()()()()。それはそれとして、さっきの答えを早く教えてくれないか?君の手に持った、メイソンの女王か、素晴らしい、こんな世界でそんな素敵なものにありつけるなんて私のような庶民にとってはこの上ない至福だよ。勿論、庶民なんて生物はこの世にはもう何処を探したっていないのだがね。嗚呼そうそう、忘れていたよ君のその白い手に持った紅茶の香りで思い出したんだが私も如何やら喉が渇いていてね、それも至極。出来るならこの喉に突っかかってしまった疑問を洗い流してから、その紅茶を頂きたいだのが?」

「……いやぁ、ボクも大概狂言回しとしては自信があったけれど君を前にすると聊か以上に自信を無くすよ、伯爵」

「褒めたってもう何も出せないんだがなぁ」

「喋りすぎだって言ってるのさ、根無し草」

 

白地に淡いヘザー()の混じった麗しい少女は椅子を引きながらやれやれと溜息をついた。

それに老人は鼻を鳴らし抗議する。

 

「貴様も客を呼ぶなら少しは上等なやつを選べ。こういう手合いを一度呼ぶと何時まで、何処までもついてくるぞ」

「忠告ありがとう、元帥。とはいえボクも今回招待したのは彼ではなくて錠前の君だったんだが、まあいいさ。()()()どちらに転んでも茶飲み話だよ」

 

そう言ってからいい匂いだと嬉し気に口元を綻ばせ少女は紅茶(香気)を楽しむ。

 

「おや?君は随分と彼のことを気にかけていたと思っていたがね?」

「……耳が早いじゃないか、伯爵。流石長いこと浮世を歩き続けていると違うね」

「おいおい、私を誰だと思って……いかんいかん、これはいかんな。私としたことが不要なところで楽しくも残念な形で話が逸れてしまった。これでは私の喉が癒されないじゃないか」

「良いではないか、貴様はもう少し黙るということを覚えた方がいい」

「はっはっは!いやいや貴殿の礼装(アレ)に比べれば私のお喋りなど小鳥のさえずり程でしかないさ。それで?今回の悲劇はどんな喜劇に変わるんだい?」

 

それに微笑みを崩さないまま、少女は答える。

酷く当たり前のように、無味乾燥として実に荒涼とした寂しい返事を。

 

「変わらない、もう変えられないのさ伯爵」

「ほう、ではどうして?」

 

その返答が意外だったのか、それともそうでなかったのか。

伯爵と呼ばれた男は内心のただの一つの陰りも光も見せないまま、甚だ愉快だとでも言いたげに聞く。

どうして、と。

では何故未練がましく観測を続けるのか、と。

それに、少女は眼を細めまるで大事にしまった幼少の頃の思い出を語る老女の様に、

 

「決まっている、()()()()()()()()()()

 

艶やかに馴初めを語る花嫁の様に、

 

「人でなしの僕らにとって、人であることを態々捨てでも人であり続けようとする。そんな愚かで馬鹿馬鹿しくて、けれどどうしようもなく不器用な姿は嫌味なほどに魅力的に映るものさ」

 

初めて恋した人のことを母親に話す童女の様に、

 

「きっと何も変わらなくても、何も変えられなくても。それでも彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()戦い続ける。たったそれだけでも僕にとっては見るに値する。そしてこれは君も知らないとっておきだ、胸躍らせてみるといい。誓っても言えるよ、最後に笑うのは彼だ」

 

笑顔で告げた。

 

「では、観測を始める(愉しむ)としようじゃないか。星読みの定めを受け、冠位に挑む彼らの物語を。そしてそれに小指の爪を突き立てるあの愚かな少女の話を。明けない夜はないのだから、今回もきっと上手くいくさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――一時承認を確認、深層突破率27.6%。

 

また、音が鳴ってる。

 

―――クラス変更開始、スキル再設定

 

ぎしりと軋む。

 

―――存在偽証確認、五感の再接続を開始

 

きちりと悲鳴が上がる。

 

―――自己認識の改竄及び擬似霊核の修復を停止

 

ぐちゃりと、

 

―――クラス設定完了、変更後の個体名を『忘却のアルターエゴ(ギネヴィア)』に再設定

 

ナニカが潰れた気がした。

 

 

 

まあいいや。

だって何だか、その音を聞くたび(壊れるたび)胸が熱くなる(子宮が疼く)

 

そうだ、どうだっていいんだ。

久しぶりなのだ、こんないい気分なのは。

口から洩れる呼気が熱を帯びているのを()()()

咥内に残る血の残り滓、塩気を帯びたそれを舌で転がし()()()

真昼の太陽に照らされた世界が眼に焼き付き色と形を()()()()

鉄と火と血の混ざった戦場の匂いが鼻の奥まで伝わり()()()()

 

嗚呼、分かる。

嗚呼、理解できる。

嗚呼、感じることができる。

 

覚えている、これが生の実感。

脳がクリアだ。

失っていた五感が、まるで息を吹き返したように、まるでたった今誕生したように、歓喜の声を上げる。

感動と、そして寒気がするほど熱を帯びた憎悪。

相反する筈の感情。

けれど二人は互いに手を取って傷を舐めあう恋人のように、同時に確立する。

 

嗚呼、良い気分だ。

本当に最高だ。

 

だって。

 

今感じているあらゆる出来事が鮮明に見える。

感情の猛りが力強く早鐘を打つ。

マシュを傷つけられたという事実が、取り戻した五感を通してよりはっきりと認識させられて。

だからもっとずっとはっきりと。

 

 

 

憎悪(灯火)が燃え上がっているのだから。

 

 

 

「……なんだ、お前は」

 

問いが聞こえた気がした。

返事をするのも億劫だ。

馬鹿馬鹿しい。

 

「あはっ」

 

笑いが零れて、ついでに身体も動いてしまった。

 

「ッ!?」

 

一歩を踏み出す。

加速。

風を感じられて気持ちいい、そしてこんな速さでマシュを甚振っていたのだと思って胸が痛い。

だから死ね。

右腕を振り下ろす。

王剣は何処かに転がっているのだろう。

別にいい。

だって今は、立派な爪があるもの。

気づいたら生えていたそれを目の前まで迫った女目掛けて振るが、あらら、躱されちゃった。

 

「憤ッ!」

 

アルテラの呼吸と共に剣が振られる。

極光は独立した生物のように有機的な動きで空間を走る。

アルテラ、軍神の申し子、神の鞭。

その異名の通り、剣の如き鋭さを持った光の鞭が襲ってくる。

 

「あははっ」

 

横薙ぎ、頭上、背面。

時に細く、時に太く。

魔力量まで精緻に操作することでその動きは人智を超えた速度と複雑さを生む。

当然、今までなら避けられなかった。

ステータスを2ランク押し上げる破格の宝具を使ってなお三騎士より一歩も二歩も下がった場所にしか立てない自分では不可能だった。

 

ああ、うん、昔の話ね。

今は違う。

 

「くっ!?」

 

踏み出した一歩で光の檻を軽く飛び越える。

踏むは舞踏。

一歩を織る。

左の頰すれすれに虹の熱量が奔るがその感覚が愛おしい。

グリッサードは心地よく、身体と意識が世界すら置き去りにする。

 

「あはははっ!」

 

いつの間にか生えている爪がぎちぎちと喜びの声を上げる。

唸りを上げてそれを振り下ろし、ああ避けられちゃった。

ざぁんねん。

でも大丈夫、私はそんなんじゃ諦めないの!

だって、うちの子を怪我させたのだから!

 

「これはッ!?」

 

避けたすぐその後、私が晒す隙を見もしないまま虹の閃光を流星の様にアルテラが放つ。

避ける必要はなし、腕を交差させ頭部(霊核)を守りそのまま吶喊する。

光の矢の狙いは確か。

腕を焼き焦がしながら貫いてくる。

腹を抉り飛ばしながらその隕鉄さながらの熱量で燃やしてくる。

でも構わない。

ああ痛い、痛い、痛い。

けど構わない、こんな痛みどうってことない。

 

「ぐぅッ!蟻がッ!!」

 

目の前でアルテラの右腕を吹き飛ばす。

勢い余って自分の右腕まで千切れてしまったが、まあいいか。

 

アルテラの剣と残った左手の爪が交差する。

頭を胴を脛を、幾度となく剣が襲い掛かる。

それを去なし防ぎ、時にアルテラの身体に爪痕を刻む。

手刀がアルテラの腹部を狙えばそれを指事叩き折る様に蹴り飛ばされる。

剣が顔へと迫れば、頬を引き裂かれながら牙で捉え、その隙にアルテラの膝を蹴り砕く。

 

そんな応酬を幾度もした。

私は嫌なぐらい魔力があって、アルテラも聖杯から魔力の供給がある。

肉体の修復と再生を繰り返しあい、ケダモノの様に貪るように殺しあう。

 

「チッ!英雄現象(ノーブルエフェクト)ッ!砕けッ!軍神の(フォトン)ッ―――」

 

らちが明かないと、そう思ったのだろう。

腰定めに構え、魔力を漲らせるアルテラ。

宝具の真名開放。

魔力の補助があったとはいえ雷神の戦車を打ち破った秘技。

きっと私の身体を塵すら残さず消し飛ばしてしまうだろう。

 

「きひィッ!」

「レッ!?なにをッ!?」

 

させないけどね。

ゆっくりと螺旋を描き、それに伴い魔力を充填していく神剣。

だからすぐにその場に飛び込んで、回転する剣に身体を突き刺した。

 

「ゲェハハハハハハッッッ!!!」

 

内臓を引きちぎり、その速さよりも早く肉体を再生させて螺旋の動きに待ったをかける。

ぐちゃぐちゃに飛び散る肉片、それを通して周囲一体に魔力霧散の呪詛を駆ける。

自分の魔力なんて必要ない。

宝具と物理的に繋がっている今、魔力なんて幾らでも汲み取れるのだから。

 

「化け物がァッ!」

 

アルテラが淡い新緑にも似た魔力で私の身体を弾き飛ばす。

剣から無理やり引き抜かれ、肉片をまき散らしながら私は瓦礫の中まで叩き込まれた。

 

「……げひゃッ」

 

距離が離れた。

極光の嵐が撓り、周囲一帯を吹き飛ばす嵐となって私がいる廃墟諸共迫る。

 

「あっぶない、ナアッッ!!」

 

()()に掴んだ壊れた扉。

魔力を通し強化の術式を即席で施して廃墟から外に出る。

極光の熱量でまるで蜃気楼のように周囲の景色はねじ曲がって見える。

酷いわ、折角目が見えるようになったのに。

ああ、哀しい、とっても悲しいわ。

 

だから、

 

「げひゃ」

 

もう生えていた右腕を再び切り落とす。

最後の繋がりのように切れた断面どうしから溢れた血が線を結ぶ。

 

繋がれ(霊子再構築)

 

それを利用する。

まるで長い血管でもあるかのように千切れた断面が流れる血の鎖によって繋がる。

うんうん、これでよし。

さあ、遊びましょ?

 

飛べ(跳躍・飛翔・打撃)

 

血の鎖を手繰り、虹の鞭へとぶつける。

 

「ッ!?」

 

勿論そのまましたら痛くて私、わたし、ワタシ……あれ?

私、うーん、わたしのおなまえなんだっけ?

いいや、そんなことよりいま、

 

「楽しいものねッ!」

 

右手に掴んだままの壊れた扉は鈍器と化し、鞭を弾きながらアルテラへと迫る。

 

「こ、のッ!」

「げはぁッ!」

 

ぶつかり、傷つけあい、幾度も血と虹は砕きあいながらワルツを踊る。

でも、良いのかしら?

あんまりそっちばかり見てると、

 

「はい、捕まえた♡」

 

左腕も切り落として作った血の鎖に絡み取られちゃうのよ?

 

「はいじゃあ……死んじゃえ」

 

空へと振り上げて、それから思い切り地へと振り下ろす。

嫌な音がする。

振り下ろす。

心地の良い音がする。

振り下ろす。

誰かの悲鳴が聞こえる。

 

「げはっ」

 

叩きつける。

誰かがそうされていたから。

叩きつける。

大切な人がそうされたから。

 

「げははっ」

 

殺す。

そう必ず。

私が、私を、私のすべてを。

 

「ゲェッハッハッハッハッハッハッッ!!!」

 

奪おうとした奴は必ず殺す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度振り下ろしたのだろう。

何度打ち付けたのだろう。

忘れるほどに。

無我夢中で、心の底から気持ちが良い程に。

ただ一心にたたきつけ続けた。

それでも足りない。

気が付いたら辺りは真っ赤になっていて、アルテラはもう居なかった。

 

手が止められない。

 

可笑しいな。

どうして私はこんなことしてるんだろう。

ふと気が付けば、ずるりと腕からこぼれる音がした。

すっぽ抜けた様に両腕が空を舞っている。

 

「あー……」

 

切れた断面から血がだらだらと流れる。

鈍い音共に頭皮ごと千切れる様にして角と耳が地面に落ちて、硝子のように砕けて消えた。

千切れた場所から延々と血が流れて、彼女(ア■ト■■)が好きだと言ってくれた金色の髪が真っ赤に染まる。

あれ?

 

「うー……」

 

彼女(ア■ト■■)って誰だろう?

うん、うん、うん?

うーん。

分からないから仕方がないな。

 

腕を拾いに行かなくちゃ。

そうだ、私は完全無欠でいなくちゃいけない。

そうしないと民が心配する。

そうだ、そうだ、そうしよう。

なのに、気づいたら私の身体が斜めになっていて、それを理解した時にはもう地面に蹲ってしまっていた。

可笑しいな、どうしたんだろう。

そう思って元気のない脚を見れば、壊死したように腐り堕ちていた。

なんでだろう、なんででしょう。

どうして、こんな風になっちゃったんだろう。

 

誰かの悲鳴が聞こえる。

誰かが急かすような声が聞こえる。

誰かが、とっても大切な人がギネヴィア(誰か)の名前を呼んでいる。

でもそれが誰だか分からない。

目の前に来たその子は、泣きながら私の下に近寄ってくる。

 

「……ああ、そうか」

 

そうだ、これじゃあ駄目なんだ。

私はこれじゃあ駄目だ。

早く早く、立ち上がって立香を守らないと。

マシュとの約束を守らないと。

立香もマシュも、みんな私の大事な人を傷つけるあいつらを、あの女を殺さないと。

そうしないとまた失う、また零れていく。

 

だから、()()()()()()()()

 

「……ネヴィアッ!」

 

叫ぶ声がする。

どうでもいい。

そんなことより立香達を守らないと。

守るために元気にならないと。

そのための栄養が目の前に居るじゃないか。

細い首も、優しそうな顔も、ゼンブゼンブ栄養(魔力)満点ダ。

その目がナニカを心配するように揺れる。

どうしたんだろう?

何故餌がそんな顔をするのだろう。

顔を伏せる私に近づく瞳がとっても愛おしくて、どうしようもなくはしたないのだけれど、子宮が叫ぶ。

肢体が欠けて芋虫みたいになった私を泣きながら抱き寄せる優しいアナタ。

 

でもごめんなさい。

牙はないけれど、鈍い歯ならちゃんとあるの。

そう思って口を大きく開いて、()()の表情を確かめながら。

けれど、そんな顔をさせることが絶叫したくなるほど否定したくてたまらなくて。

 

結局、その顔をなかったことにするために喰らいつこうとした。

 

「残念ですよ、ギネヴィア……」

 

そう誰かの声が聞こえて、首に冷たい何かが奔って。

 

「……あ」

 

大事な誰か(立香)の泣きそうな顔を見ながら、私の意識は飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泡が弾けた。

眼を開く。

無機質で近未来的なその場所が、カルデアなのは分かるのだけれど、けれど自分の知る場所ではなかった。

窓も無く、扉もない。

特異点に飛び込むその前から爆破されて崩壊しかけたカルデアの修復をしてきた自分の知らない場所だった。

 

そして己の服もいつもと違った。

第三再臨で変わってしまった、生前騎士を弔う為に身に纏っていた喪服ではない。

白い服だ。

けれど、そうだ、何となく引っかかるけれど前に来たあの真っ白な服とは違う。

魔力を通さない繊維と術式で編まれた、そんな嫌な服。

 

全くなんだというのだろうか。

これではまるで、

 

「おや、眼を覚ましたかい?」

 

音もなく誰かが入ってくる。

 

「お陰様でね?何でこんな所に居るのか分からないけど、もしかして私負けたのかしら?」

 

カルデアに戻っているというのはそういうことなのだろう。

不甲斐ない。

直前の戦闘は覚えていないが、どうやら負けておめおめとカルデアに帰還してしまったらしい。

入って来たレオナルドの表情は硬いが、立香に何かあったのならこんな呑気に私を見舞うこともないでしょうし、まあ致命的な事態ではないんでしょう。

そう思っていると、レオナルドは表情を変えないまま私に声をかけた。

 

「……覚えていないのか?」

「……何をよ、生憎こんな場所に連れ込まれてこんな恰好させられてるのだって意味わかんないのに、何があったかなんて分かるわけないでしょ?」

 

その返答にレオナルドはただ事務的に私に事実を突きつけた。

 

「覚えていないかい?君があの戦闘王と戦い、そして討った時の事を」

 

何を、そう言い返そうとして酷く嫌な音が頭からした。

誰かの悲鳴にも似た頭痛が脳を軋ませる。

 

「君は第二特異点でセイバー、真名アルテラとの戦闘に勝利した。文字通り完膚なきまでに相手を破壊し尽くした」

 

やめて、そう誰かが叫んでいる。

愉しいと、私が嗤っている。

 

「そして……」

 

やめて、そう口に出そうして喉の奥から出るはずもない吐瀉物が迫る感覚に声が出せない。

 

「マスター、藤丸立香へその牙を突き立てる程に暴走したことを。……君は何一つ覚えていないかい?」

 

 

 

 

 

 

「……う……あ……」

 

覚えている。

()()()()を。

()()()()()()()を。

 

覚えている。

 

「その様子なら思い出したようだね、結構だ……本来メンタルケアはロマ二の仕事だが端的に言って今の君は危険過ぎてね、餓えた獣の前に人を置き去りにする程優しくはない。ここに私が来たのも温情だと思ってくれ給え。さて」

 

レオナルドはそう前置きをして、何の感情をこめないまま話を続ける。

 

「結論から言おう、サーヴァント」

 

それはどこまでも当たり前で、至極真っ当で当然のことだった。

マスターに歯向かった愚かな下僕への、極々普通の処断であった。

 

「本日より君には全特異点復元までの期間中の謹慎並びに特異点攻略への参加の半永久的禁止を命ずる」

 

誰だってそうする。

だからこそ理解できるし、己のやってしまったことの重さを再認識させられた。

だけど続く言葉は、その比ではなかった。

分かっていたはずだ。

誰を傷つけたのか。

誰を苦しめたのか。

誰を、誰の約束を、信頼を。

誰の心を一番に傷つけたのかなんて、考えなくたって理解できる。

 

だからそう。

それは、一番私の胸に刺さる言葉だった。

 

「私達ではない、これは」

 

 

 

---君のマスターからの命令だよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっぱやるからにはとことんしなきゃね!という地雷原を華麗にワルツする所業が今回のお話でした。
これ書く直前にCCCイベやったのが原因だったなんてことはないです、多分。

さて、話は変わりますが以前アンケートをお願いした短編なのですがもうしばらく待ってやってください。
というのも現状どう書いても3章・4章のネタバレ祭りになってしまいもう少し削らないととてもじゃないですがお見せできない感じになってしまいました。
ごめんなさい。
もうしばらく待ってやってください。

そして最後になって申し訳ないのですが、前回の感想ありがとうございました。
お返事するのが遅くなってしまい申し訳ありません。
何分返事が遅くて申し訳ないのですが、ハーメルンでどこまで書いていいのか分からない素人なので感想で「これぐらいなら原作でもあるしオッケーやろ」とか「せやかて工藤、これはあかんて」とか「愛歌ちゃんprpr」とか書いてくださるととっても助かってます。
本当に皆さんいつもありがとうございます!

ではまた明日か明後日に

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