超次元ゲイムネプテューヌ~闇夜の円舞曲~   作:KeyMa

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Steam版ネプVⅡRが発売されました。
マイペースながら攻略中です。




Scene61 白き天使喰らう獅子~NoEscape~

 

 

【ルウィー教会:牢獄A】

 

ルウィーの教会に乗り込み、女神であるブランと殴り合いをした。思惑とは多少異なってはいるが、結果からして七賢人の狙い通りの流れとなってしまった。そして、抵抗できない状態へと追い込まれ、ルウィー教会の牢屋へと入れられている。

 

「(…一人で入るには随分と広すぎるな。)」

 

恐らく、数人を入れる為の牢屋なのだが、一斉に入れられてしまうと何を仕出かすか分からない俺だけが、彼奴等から離れた場所に入れられている。サイドバックとベストを剥がされ、見た目上は何も装備してない状態だ。しかし、妙だ。女神化ではないにしろ、ハードフォームは女神寄りの能力という事になる。一番の問題は、女神化を防ぐ技術をこの世界でも確立しているという事。一般的に広まってないとなると、七賢人というのが独自で開発、又は何処からか仕入れて使ったというのが妥当か。何方にせよ厄介な相手であるのには違いない。

 

「(しかし、この牢獄に警備が居ないとは…。余程、自信有りの傑作なのか。)」

 

試しに牢屋の鉄柵を広げようとしたが、ビクともしない。女神を同じ牢屋に居れるくらいだ。それを想定して作られたと考えるべきなのだろう。鍵自体は、至ってシンプルな鍵穴式だが、そこも鉄柵から手を出しても届かないような位置に作られている。が、届けば話は別…ロックピックがあれば一番なのだが、それを持ち合わせていない。となると、やることは一つ。

 

「念動力で何とかしてみるか。」

 

牢屋の鍵穴付近に右手を近づけ、念動力でガチガチと動かす。思惑通り、頑丈さを優先して鍵自体は単純だからか、ロックピックの感覚で開けられそうだと確信する。

 

………

……

 

ガチャリッ

 

「(念動力も、問題無さそうだ。)」

 

ここから出て、彼奴等を助けに行くのもいいが、アクダイジーンが何を考えているかを調べる必要もある。大臣をやっていたくらいだ…大臣用の執務室が地図にあるのは確認済みだから、そこへ行ってみるのもいい。一般人用の地図にそれを乗せる必要はあったのかはまぁ置いておこう。

 

「何やら、お困りのようですわね。」

 

開けた牢屋に手を掛けようとした時、聞き覚えのある声と共に見覚えのある人物が現れる。

 

「…生きていたのか。」

「酷いですわ、第一声がそれなんて…勝手に殺さないで欲しいですわ。」

 

ルウィーの教会に行く前に、迷子になったプルルートと合流した際に現れた“ベール”が目の前に居る。ここに居るという事は、ずっと後を付けていたという事か?

 

「まさか貴方に、あのような力があるなんて驚きでしたわ。」

「覗きか。」

「あの…さっきから言い方が酷いですわね…。」

「それで、閉じ込められた男に何の用だ?まさか、助けに来たと言うのか?」

「半分は当たってますわ。」

 

そう言って、ベールが腰あたりから鍵束と、俺が持っていた装備を手に見せびらかしている。そしてベールが条件のような事を言いだす。

 

「そいつは…。見張りはどうした。」

「ふふっ、少し手こずりましたけど、この程度、朝飯前ですわ。」

「で、要求は?」

「…単刀直入に言いますわ。ここから出す代わりに、貴方が欲しいですわ。」

「…は?」

「…失礼しましたわ。ちょっとからかい返しただけですわ。そう、貴方のお力(・・・・・)が欲しいのです。エースさん。」

「………。」

 

ブランとの闘いを覗いていたのであれば、(偽名…と言うよりはコードネームだが)名前は割れてしまっているようだ。

 

「確信ではありませんが、貴方は昨夜に突如現れた…違いますか?」

「どうしてそう思う。俺は旅をし、偶々女神と一緒に行動してここを訪れただけだ。」

「でしたら、態々ルウィーの門を強行突破する必要はありませんわ。それに、色々と調べてみたのですが、貴方の住民票的な情報がどこにも存在しませんわ。…となると、貴方は伝説の書に記されていた存在か、何かですわ。」

「(…伝説の書?ここでも、何か起きようとしているのか。)」

 

“生きる意志を探せ”だのと言われたが、またしても厄介ごとに巻き込まれる予感がする。俺にはどうも普通の生き方(・・・・・・)とは縁がないようだ。…しかし、伝説の書か。もし七賢人もこの事を知っているのであれば、調べる必要がある。となれば、この牢屋での長居は無用と考え、念動力で開けて置いた牢をガラガラッと開ける。当然、ベールは”何事!”という表情をしている。

 

「な、あ、開いて…!?」

「伝説の書の人物かどうかは分からないが、装備を持ってきてくれたことには感謝する。リーンボックスの女神ベール(・・・・・・・・・・・・・)さん。」

「あ、貴方、何故それを…!!」

「貴女の”乙女の秘密”のように、”漢の秘密”というものだ。まぁ、そっちの条件を飲むのも、今の俺にとっては構わないが、此方も願い事がある。」

「………。その、お願い事とは?」

「出来るのなら、他の女神と協定なり、協力をして欲しい。」

 

前の世界の事を考えるのであればそうあってほしいものだが…。

 

「…半分は飲めるかもしれませんが、全部は無理ですわ。我が国が、一番であることを示すまでは…。」

「そうか…。」

「まぁ、何かの縁という事ですわ。貴方のお仲間さんは出してあげますけど、この国を助けるまではしませんわよ。」

「構わない。そっちにも、やるべき事があるのだろう。」

 

そう言いつつ、装備を差し出してくれたベールから、装備を受け取り身に着けなおす。サイドバックにベスト、銃に無線機…全て揃っている。

 

「ところで、貴方はこれからどうする御心算でして?」

「大臣の部屋で情報を集める。奴が何を企んでいるか、組織との繋がりを知れば、ある程度対策は出来る。」

「…分かりましたわ。それでは、またお会いしましょう。」

「ああ…。」

 

そう言って、ベールは別の方向へと走り出していった。…地図は頭の中に叩き込んである。アクダイジーン…アンタの身ぐるみ、何処まで剥がせるか分からないが、隅々まで調べさせて貰う。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

【ルウィー教会:牢獄B】

 

七賢人の罠に嵌り、プルちゃん、ノワールさん、ブランさん、そして私”ナナ”の4人が同じところへ閉じ込められている。案の定危険と見做したのか、エースさんのみ離れた場所へ連れていかれてしまった。

 

『………。』

 

何と言いますか、ノワールさんからしたら敵であるブランさんがいるのもあって、非常に気まずい雰囲気であります…。

 

「あ、あの…兎に角、ここから出る方法を考えましょう…!ブランさん…ここから出る方法とか、分かります?」

「………。」

 

近づいた時、一瞬だけ目が合った気がしたものの、話している最中に目を逸らされてしまう。その態度に、“アハハ…どうしよ…”っと苦笑が零れてしまう…これは、聞きだすには骨が折れそう…。

 

「あのねぇ、質問ぐらい答える事は出来るでしょ?それとも、その御口はお飾りなの?」

「………。」

「何よ…大ベテランの女神様は、私達新米女神に口答えする気にならないみたいね。」

「………。」

「全く…言い返すくらい出来ないのかしら。これじゃあ、私が一方的に話してるだけじゃないの。ほら、何か言いなさいよ!」

 

私の流れに便乗して、ノワールさんも痺れを切らしたようにブランさんに話しかけるも、私と同じ反応でだんまりを突き通す心算でいるようです。そんな状況の為か、ノワールさんのイライラ度が徐々に上がっていき、乱暴な言い方になっていってる。

 

「ま、待ってください。一方的では、何処で返答すればいいかわかりませんよ。」

「それにぃ、ブランちゃんが可哀そうだよ~。」

「…何で、私が悪いって感じに責められてるのよ…悪いのは全部コイツでしょ!!」

 

あくまでも、ブランさんが原因だと突き通していくみたいですね。“俺は悪くねぇ!!”みたいな…。そうしているうちに、ブランさんの様子が変わり俯き始める。

 

「…う…ひっ…ぐすっ…」

「…え、ええええ!?な、何急に泣き出してるのよ!!」

「無理もないですよ。私達からしたら悪とは言え、今まで信頼していた相手に裏切られ、シェアも失われ、この仕打ちですから…感情が滅茶苦茶な状態だと思いますよ。」

「…なんか遠回しに、ディスられてる気もするんだけど…。」

「ブランちゃん~、泣かないで~…。」

 

ブランさんの事が心配になったのか、プルちゃんがブランさんに手を伸ばす。ですが、プルちゃんの手を触らないでと言わんばかりに、無言で力強く払い叩く。

 

「いたぁっ~!!」

「ぷ、プルちゃん…!!」

「だ、大丈夫、プルルート!?」

「平気ぃ、びっくりしただけだよ~。」

「あ…あなた達が…せいで…ひっ…わたし、一人でずっと…がんばって…ひっく…」

 

体育座りで顔を俯き、泣きながら何かを訴えている。泣きながら言っているせいで、一部聞き取りにくい所があります。ただ、プルちゃんだけは何かを感じ取ったのか、再度近づいてしゃがみ、同じ視線になりつつ語ろうとしてる。

 

「うんうん…そっかぁ~。頑張ってきたんだねぇ~。」

「だって…ひっく…この大陸…女神が…えぅ…わたし、しか…だから…。」

「うんうん~。」

「なんか、分からないうちに、プルルートが語り合ってる…。」

「………。プルちゃん、負担になってしまいますが、ここはお願いしていいでしょうか?」

「うん、いいよぉ~。」

 

私とノワールさんで、ブランさんの心を開かせるには少々難易度が高いと思い、ここは意思疎通が出来ているプルちゃんに託すことに…。上手く事が進むのであれば、エースさんが言っていた協力関係を結べる可能性が見えてきます。

 

「お手本とか…相談できる人とか…全然…なりたくてなったんじゃないのに…。でも…なっちゃったから…いっぱい勉強して…。」

「ブランちゃんは偉いんだねぇ~。あたしもそぉだけど、全然お勉強はしてないよぉ~。」

 

そんな流れで、プルちゃんがブランさんの話に乗っている…。そうして分かってきたことは、離れてしまう人もいたが、ずっと一人でルウィーを支えてきた。その実績を、プルちゃんのプラネテューヌ、ノワールさんのラステイションと僅か数十か月で、ルウィーがやってきたことを成し遂げてしまった。尚且つ、プラネテューヌとラステイションが協力関係であるこも相まって、急成長するラステイション。シェア自体は非常に少ないものの、そこから下回らないプラネテューヌに嫉妬していたのかもしれません。

 

「う~ん、でもぉ…それって楽しくないよねぇ?」

「…楽しく…?何言ってるの…意味が分からないわ…。」

 

…確かに話を聞いていると、只々プレッシャーを背負いながらやってきたという印象があります。それは、ノワールさんも同じことですが、志が高く、常に最新を取り入れていく努力も相まっての自信があってこそ…。対してプルちゃんは…うん、余り仕事してませんね。でも、なんだかんだシェアが落ちるようなことはしていませんし、プラネテューヌだけでなく、私やノワールさん、イストワール様と一緒にいるのも楽しいと言う。…そこは少し照れますね…。

 

しかし…プルちゃんの次の発言で、私は一瞬、ノワールさんに至っては一時停止したかのように固まり慌てだしてしまう。

 

「んっとねぇ…えーっと…、んぅ…上手く言えないよぉ…。ねぇ、ナナちゃん、ノワールちゃん、ちょっと変身するねぇ~。」

「へ…変身…!?」

「え、えええ!?ど、どうぞ…って、な、何気軽に言って―――――」

 

ですが、ノワールさんの願いは叶わず、プルちゃんは変身し…あの姿へと変わるのでした。

 

「ん~…これで、じぃっくりお話出来るわねぇ…ブランちゃん…うふふふ…。」

「ひっ!!な、なに…この悪寒…。」

 

プルちゃん…いえ、プルルートことアイリスハート…普段ののほほんとしたプルちゃんとは思えない、鞭を持ったドS女王様とも言える女神へと変わってしまった。案の定、ブランさんは怯え、この空間が凍てつくような空気へと変わる。

 

「プル…ちゃん…。」

「もぉ~…なんで唐突に変身するのよぉ!!」

「仕方ないじゃない。変身をお預けされてたし、お話するならこっちの方がぁ、都合がいいしねぇ。」

「何か、不穏な言葉が聞こえたんですけどぉ!」

 

…ですが、逆を言えば、包み隠さず本音をぶつけ合うのであれば、プルちゃんからしたら都合がいいのかもしれません。

 

「…分かりました。プルちゃん、お願いしますね。」

「うふふ…任されちゃったぁ。じゃあ、遠慮なくお話しちゃうわね。」

「な、ナナぁ!!何言ってるのよ!!」

 

プルちゃんに対しての発言に反対気味なノワールさん。申し訳ないですが、少々首を引っ張手ヒソヒソ話で話しかける。ここは意思疎通が出来ているプルちゃんに任せるのと、万が一があったら、私達も変身してプルちゃんを止める…という事で渋々ノワールさんも納得し、見守る事にする。

 

「ほぉら、ブランちゃん。顔上げて…あらあら、泣き腫らしてお目めが真っ赤っか…。」

「な…なんだ…よ…。て、てめーなんか、怖かねーぞ…!!」

「ふふ、意地を張ってるブランちゃんも可愛い。けどぉ…あたし、わかっちゃってるから、そんな虚勢張らなくてもいいのよ。」

「きょ、虚勢…わたしが…!?ふ、ふざけんな!!」

「ほぉら、意地を張らないの。本当のブランちゃんは、弱気で内気でうじうじした可愛らしい女の子…。」

 

ブランさんの態度からして、プルちゃんの言ってることは強ち間違ってはないのかもしれません。しかし、言ってる事が徐々にドSっぽくなっていく。一人で苦労して頑張ってるのに、私達のように仲良く楽しくしているのに、簡単成し遂げたのが気に入らない。そんな気持ちだから、他の国に抜かされたり、悪い人に騙さてしまった…と、そんな事を言っていたら、ブランさんが図星を着かれ言い返せない顔をして、また泣いてしまう。

 

「さ…流石ドSモードのプルちゃん…侮れませんね…。」

「何関心してるのよ!もぅ、収集つかなくなってるじゃない…。プルルート、もうその辺で…。」

 

我慢の限界なのか、ノワールさんが制止させようと動き出す。が、その必要はなくなるのでした。

 

「だ・か・らぁ…。あたし達がお友達になってあげるわ。」

「…え…?」

「聞こえなかった?今日から、あたし達はお友達…もう羨ましがる必要は無いわ。」

「な…なんで急に…や、やっぱり、わたしの事を馬鹿にして…!!」

「もう、そんなんじゃないわよぉ。あたしね、ブランちゃんのこと気に入っちゃったの。…ダメかしら?」

 

ブランさん困惑、私とノワールさんも困惑…。同盟という堅苦しさのない感じですが、まさか単刀直入のように言うとは…。プルちゃんの女神中は、見慣れたとは言えますが流石のこの対応にはまだまだ慣れません。こういう時のプルちゃんは、何か考えてそうで怖いんですよね…。

 

「…ナナ…顔に出てるわよ。何か考えてるんじゃないかって…。」

「え…へ…?」

「もう、さらっと失礼な事考えてるんじゃないわよ…。」

「ナナちゃぁん、ノワールちゃぁん。」

 

そんなヒソヒソ話をしていたら、プルちゃんが私とノワールさんを呼ぶ。急に振られてしまったからか“は、はい!!”と気を付けしつつ甲高い声が出てしまった。

 

「あたしねぇ、お友達の為に、お手伝いしてあげたいの。この国を取り返す、ね…。当然、二人も手伝ってくれるよねぇ…?」

 

笑顔でそう答えてくるプルちゃん。言ってることには同意しますが、その笑顔が妙に怖いですよ…!!ですが、エースさんが言っていた対話をすることで、ブランさんがどういう人物か分かりましたし、ここは協力して困難を突破する必要がありますからね。それに、困ってる人を見捨てるのは、女神としてどうかと思いますし―――――

 

「友達を助け、国も取り返す…それでいきましょう、プルちゃん。」

「あ、や…別にそこまでしなくても…」

『…ね?ノワールちゃん?(ノワールさん…?)』

「…ふ、二人して顔を近づかせないでよ…!!うぅ…確かに、七賢人よりはマシだけど…もう!わかったわよ…ルウィーを取り返せば、四角かったのが全てが丸く収まるんでしょ!!やってやろうじゃないのよ!!」

 

何やら自暴自棄っぽくなってるのですが、ノワールさんも同意しこの場は収まるのだった。プルちゃんも変身を解き、何時ものプルちゃんへ戻る。

 

「えへへ~、よろしくね。ブランちゃん~。」

「あ、う…こ、こちらこそ、よろしく…。」

 

緊張の糸が切れたのか、ブランさんは、照れつつもプルちゃんと握手をしている。私もブランさんに軽く挨拶をしておく。プルちゃんのようにはいきませんでしたが、“よろしく”は言ってくれましたのでいいでしょう。

 

「…で、一応聞くけど、私達閉じ込められてて、まずは脱出しないといけないけど、内側から開ける方法や、抜け道ってのは無いの?」

「ない…と思うわ。この牢屋は、全て大臣の指示によって作られてるから…。」

「そうなりますと、ブランさんはここの全体像に詳しくない…?」

 

私の返答に対して、ブランさんは“うん”と言いつつ頷く。全員で変身して扉を破壊するという案も出ましたが、ここに女神を閉じ込めている以上、それも想定内ではないか…ノワールさんも同じことを考えていたらしく止められる。八方塞がりな上に突破口がない…さて、どうしたものでしょう…。

 

「…ふふ、何やらお困りのようですわね。」

 

全員でここを出る方法を考えていると、後ろの方…正確には牢屋の門前に見知らぬ人物が立っていた。金髪の長い髪型、清潔で整ったドレスを身に纏っている女性がそこにいた。…いえ、待ってください。何処かで見たような…。

 

「あ~、あの時のおねえさんだぁ~!」

 

プルちゃんは会っているような事を言う。そうだ…、プルちゃんを探している時、プルちゃんとエースさんの二人に接触していた人…だと思う。後姿しか見てないから、断定は出来ないですが、プルちゃんが言うのであれば、間違いないのでしょう。

 

「で、一体何しにきたのよ。」

「あらあら、水臭いですわね。あなた方が色々としているお陰て、こうして助け出せるのですから。」

 

そう言いつつ、その女性が取り出したのは鍵束。ブランさんが“どうしてそれを”と言うが、“細かい事は気になさらない。”と言いつつ牢屋の鍵を開けてくれる。

 

「はい、開きましたわ。」

「わ~い、おねぇさん、ありがと~。」

「何者かは分かりませんが、助かりました。」

「いえいえ、お気になさらず。」

 

その間に、プルちゃんはブランさんを引き連れて先に脱出をする。けど、ノワールさん同様、気になる事がある。

 

「ここには見張りもいたはず。一人で全員倒したの?」

「…ええ、まぁ多少骨は折れましたけれど。」

「あなた…何者?」

「それは乙女の秘密ですわ。」

「私からも一つ。…付き添いで男性が一人いるのですが、その人は見ませんでしたか?」

「ええ、見ましたわ。最も、わたくしが来る前に自己解決してまして、“大臣の身ぐるみはかずそー!“っと意気込んでましたわよ。」

 

なんて行動の早い…。とは言え、無事ならそれでいいでしょう。“あなたの事、覚えておくわ”とノワールさんが言いつつ、その場を後にする。私も感謝の意を込め、礼をしその場を後にするのでした。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【ルウィー教会:大臣室】

 

牢獄から抜け出した後、周りに見つからない様に塀を乗り越え、塀を渡り歩きつつ再びルウィーの教会へ戻り、記憶した道を頼りに進みつつアクダイジーンが使っていた部屋に辿り着く。何やら、ここに来る前に不思議な寒気がした。しかし、どういう訳か見張りは居るようで居ないような程度の警戒。その為、少し隠れる程度でここまで来れた。

 

「これはまた…随分と古いPCだ。」

 

如何にも、執務室と言える場所に本棚、書庫、そして古いPC。資料でしか見た事がない5.25インチと3.5インチのフロッピーディスクとMOディスク。PCはスリープモードだった為、画面はついたが当然の如くログインパスワードが必要となる。古いPCだからか、USB系の挿し口がない。ハッキングしようにもそんな技術は持ち合わせていない。…ネプギアに頼んでハッキングシステムを導入したスマホでも頼んでみるか…そんな危ない事を思ってしまった。

 

「………。仕方ない、暗証番号のヒントになる物を探そう。俺だったら何処に隠す…?」

 

本棚、書庫、執務机の引き出しを開けて調べてみる。だが、殆どは経営処理や、建設許可書と言った業務に関する処理書のコピーしか見つからない。恐らく原本は金庫とかにあるのだろう。管理やセキュリティ面は徹底しているようだ。

 

「…日記か…?」

 

暗証番号のヒントを探している中、執務机の引き出しに日記のようなのを見つける。小さな南条鍵が掛けられてるあたり、中身は他人に見られたくないのかもしれない。

 

「(乙女の秘密ならぬ、漢の秘密か…。)」

 

念動力で鍵を開け、中身を開く。就任してしばらくしてから付けているらしく、殆どが女神ブランに対するものと、七賢人に対する愚痴だ。意外と苦労してるんだなと、共感できるところもあるが、気になる文章を見つける。

 

 

―――――G.C.1991/YY./DD

―七賢人の体制も整い、今後の活動に目途が付いた。伝説の書に関する“災いが訪れる時、英雄か悪魔かが現れる”というのは、まだまだ調べている最中となる。あの女とネズミは、資料集めには向いていない為、あの男の言う通り当分は女神メモリーの回収に当たることになるだろう。

 

―――――G.C.1992/Y/DD

―新たに女神が誕生したのか、新しい国がルウィーの南に誕生した。驚くべきことは、短期間でルウィーに匹敵する程のシェアを会得しているという事だ。ルウィーの一部の住人も、その新たに誕生した国に引っ越している者も少なくない。もう一つの国は兎も角、我が計画としては、その国に好き勝手にシェアを持っていかれる訳にはいかぬ。あの男に相談しつつ、工作員を送り対策をしなければならぬ。

 

―――――G.C.1992/Y/D

―プラネテューヌという国近くで、強力な反応があった。あれが、伝説の書に記されていた英雄か悪魔かは分からぬ。女神は放置と言うが、七賢人として調査する必要がある。工作員を派遣した方がいいだろう。そして、あの女の活躍もあってか、一時的に変な事になってたこともあるものの、女神メモリー事態は十分溜まってはいる。だが、使う対象はまだ決まっていない。メリットはあるが、現時点ではデメリットの方が大きすぎる。あの女に使うには、女神になったとしても、年齢的に女神としてはどうかと思う。使う時は慎重にならなくては…。

(日付なしで次のページへ書かれている。)

―我が国に女神一行が訪れる事となった。どうやら、計画を早めなくてはならない。七賢人の配下となる女神を誕生させつつ、ルウィーを乗っ取らなければ、野望は叶わぬ。手順は逆になるが、手始めにルウィーを我が七賢人の拠点となる様に仕向けなければ…。国民を納得させれば、新女神はその後でも十分事足りる。

 

「(新女神、6人目の女神を誕生させる気か。)」

 

気になるのはいくつかあるが、日記に記述されている日付のG.C.1992…つまりここは、1992年。俺が居たところは確か、G.C.2012あたりだったはず…。並行世界か過去の世界かは分からずとも、俺からすれば過去の世界になるという事か?

…話を戻すか…以前聞いた女神メモリーのデメリットを考えれば、使った後に自分達を襲う化け物になる可能性もある。そう考えれば迂闊には使えないだろう。だが、七賢人と言う体制を表舞台に出てきて、何がしたいのかまではこの日記だけでは読み取れない。最も、何をしたいかは、当然世界征服といったところか。そして、自分達の都合のいい女神を誕生させ、国を確立させる。女神が存在する世界であればそんなところか。

 

「この考えが正しければ、止めるべきなのだろう。」

 

そう考え、日記を元に戻し部屋を後にしようとする―――――

 

「…なんだ…?」

 

突然、無線機からコールサインのような音が流れる。無線をONにしても、殆どがノイズで聞こえない状態だが、微かに何か…誰かが話しかけている声が聞こえる。

 

「……え……、……、……と…………。」

「…誰だ?ノイズが酷くて聞こえない。………、切れたか。」

 

応答という形で声を出してみたが、ノイズのせいで向こうが聞き取れているか分からず、電波障害のように無線が切れてしまう。…兎に角、壊れている訳じゃないし、手掛かりにもなる可能性はある。もう暫くは所持しておこう。部屋を後にし、アクダイジーンを探すことにしよう。出来る範囲で奴から情報を集めるのが手っ取り早い。

 

 

 

 

 

【ルウィー教会:外郭】

 

大臣室を後にし、見張りが何人かいたがやはり手薄だ。これから何かやる為なのか、人員を割いているのかもしれない…。その為、とても隠れるには向いていたい衣装であるが、兎に角隠れることは苦になっていない。…が、意外な事に直ぐ見つかる。

 

「う~む、いかんのぅ。どうもバランスが悪い…むむむ…。」

「いい加減にするっちゅ!!何時まで確認すれば気が済むっちゅか!!」

「声…?………、アクダイジーンとワレチュー…兵士が数人か。」

 

柱に隠れ、顔を少しだし様子を見る。どうやら先ほどのカメラを使って撮影をしようとしている。さしあたり、全国放送出来るカメラだから、自らが新しく国を治める的な放送をするのだろう。

 

「そう急かすな。全国民の前に姿を見せる大舞台なんじゃぞ。髪型や衣装ぐらいビシッと決めて置かんと…。」

「おっさんの髪型なんて、誰も気にしないっちゅよ…おいらは早く帰りたいっちゅ!!」

「仕方なかろう。急遽予定変更でこのようになってしまったのだから、髪を整える時間など無しに急いで来たのだぞ?」

「そんなん知らないっちゅよ!!そうしている間に、何か起きて、あの…ドS女神でも来たら…あぁ…ガクブル…。」

 

どうやら、さっさと始めればいいものを、身支度を気にしてか放送はまだ始まっていないらしい。ここのベールが、上手く事を運んで牢屋の鍵を開けていれば、ワレチューの言うガクブルが訪れる事になる。そうなったらご愁傷様だ。…まあいい、姿を出すなら頃合いだろう。

 

「ふふっ心配無用じゃ。あの牢は長年女神に仕え、その特性を見出し、対女神ともいえる特注品…。幾ら女神が束になろうと、抜け出すことなど断じて…」

「…中々の演技派なんだな。」

『っ!?』

「ぬぅっ!?ま、まさか、たかが人間後時に、あの牢を脱出してきたというのか!?」

 

当然、出てこれると思っていなかった人物が現れたのだから、当然驚きを隠せてはないだろう。周囲の警備兵もざわついている。何人かは俺に向けて銃を構えて、止まれと言う。それをアクダイジーンが止めに入る。

 

「待て、撃つな!!…貴様、どうやってあの牢を出てきた?まさか破壊してきたとでも言うのか?」

「いや、さっきの対女神と言うだけあって、壊すのは不可能だった。だが、耐久面を重視しすぎたのか、鍵開け出来てしまうのなら話は別だ。まぁ、メタ発言をするなら、物語的に脱出しなければ、話が進まない。」

「ぬぅ、言われてみれば…わしとしたことが、なんと迂闊…!!」

 

一応言っとくが、マイナスドライバーとヘアピンがあれば簡単な鍵程度なら開けられる。そう訓練されたのだから…。が、流石に道具なしでは、念動力で開けるしか手段がない。そこは伏せて置こう。

 

「ま、待つっちゅ!そうなると、あの女神達も脱出している可能性があるっちゅよ!!お、おいらは一足先に失礼するっちゅ!!」

 

そう言って、ワレチューはその場を後にしていった。ネズミだけあって逃げ足は速い。だが、アクダイジーンは追い詰められたと言う感じは一切していない。それどころか、不敵に微笑んでいる。

 

「…まぁいい、カメラ担当など誰でも構わぬのだから。」

「どういう事だ。」

「なぁに、貴様はあの女神達に、傭兵として雇われているのだろう?それも、保護という形である故に、契約金すら出ておらぬだろう?」

「………。」

 

この男、情報収集に関しては長けているのか。それとも、情報収集を得意とする仲間がいてリークしているのか。

 

「何が言いたい。」

「貴様ほどの技量の持ち主を、タダ働き同然とするには勿体ない程の逸材だ。」

「…俺に七賢人、もしくはアンタの部下になれと?」

「ふふふ…理解が早くて結構。結論から言えばそうだ。なぁに心配するな。女神と違って、契約金からありとあらゆる支援…全て弾むぞ?」

 

確かに、話からしたら破格の商談ともいえる。だが、ここで条件を飲んでしまえば、ルウィー以前に、情報や俺の目的が見えなくなってしまう。それに、この手の場合、断ると言えば容赦はなないのだろう。だが、あえてこう答えよう。

 

「断る、と言ったら…。」

「この状況でそう答えるか。度胸も備わっている。…だが、冗談は止しておくのだな。」

「………。」

「そうか…仕方あるまい。惜しい逸材だが、この事を知られた以上…死んでもらうしかあるまいのぅ。」

 

その言葉を聞いた警備兵達は、再び俺に銃を向けてくる。相手は6人…身なりや構えからして、恐らく警備兵の中でもエリートと言ったところか。

 

「馬鹿な男だ。大人しく条件を飲んで、我々と共に働けばいいものを…。」

「やれやれ…断られたら直ぐ仕返しか。」

「どうやら、死に急ぎたいらしいな。」

 

逃げ場無しか…。何方にせよ、戦わずして情報を聞き出せる相手ではないのは、端から分かっていた事。今更驚くことなどない。

 

「喧嘩を売ったんだ…ウォーミングアップ等なしだ。」

 

俺は身構え、目の前の6人と戦う事を決断する。

 

 

 

 

 

 


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