超次元ゲイムネプテューヌ~闇夜の円舞曲~   作:KeyMa

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Scene60 欲望の氷解~SevenWiseMan~

 

 

【ルウィー教会:大広間】

 

「ブラン様。職員の報告通り、女神一行が教会内に入ってきた模様です。」

「そう…分かったわ。」

「…本当に、やられるのですか?報告によると、女神3人に、傭兵のような男が1人いると…。」

「何人来ようと関係ないわ。それとも“わたしが負ける”とでも言いたい訳?」

「い、いえ!そんなお心算は…!」

 

ルウィー教会の中でも、最も高位の人物が入るような大広間に、赤と白を基準としたルウィーの女神ブラン(・・・・・)。そして、大臣と呼んでいる小太りの男が報告をしている。どうやら、永守達がルウィーの教会に入って来た事が、既に周知されているようだ。そして、この世界のブランは、その4人に対して真っ向から迎え撃とうと考えているようだ。

 

「しかし、女神3人を抹殺するとなると、如何にブラン様がお強いといえど、荷が重いのでは?それに、傭兵も加担するとなると、1対4、一般人の視点から見ても、分が悪いと…。」「抹殺なんてしたら、一部の人々からだけでなく、2カ国からも批判が集まってしまうわ。そう、これは圧倒的武力を見せて、二度とルウィーに手出しするなと言う意味で、痛めつけるだけよ。」

 

どうやら、ブランと大臣の考えは若干のすれ違いがあるようだ。大臣はここへ来た国のトップを潰すと言う考えていたが、当のブランはあくまで自らが頂点に立つことが相応しいというのを証明する、力量の差を見せつけるという考えでいた。だが、この考えに大臣は不服と見ている。

 

「ですが、それでは少々甘いのでは?生かしておけば、力を付けたり、対策を練ってきた際に、再びルウィーの脅威になるとも…。」

「そうはさせないわ。わたしがしっかりしていればいいだけの事よ。」

「…お言葉ですが、しっかりしていなかったから、今日のような出来事になってしまった訳でして…。」

「…なんだと?」

「す、すみません、言葉が過ぎました…!!ですが、女神に苦言…ではなく、指摘をするのも、この国の大臣としての役目と考えてまして、その―――――」

 

自らも国のトップであるブランの補佐という立ち位置もあり、お互いに切磋琢磨すべきという事も兼ね報告をしている。しかし、その言葉が気に障ったのか、怒りマークがより一層増えていく。

 

「大臣だからって、調子に乗ってんじゃねーぞ。この国を築き上げたのは、誰の御蔭だ…?」

「あ、は、はい!!それは紛れもなくブラン様で…。あー…私めは万が一に備え、色々と準備が御座いますので、これで失礼します!!」

「…ちっ、言ってくれるじゃねーか…。でも、それも今日までだ。わたしが負ける訳がねー…万が一なんて起こさせねー…。わたしは…この世界の唯一の女神なんだ…!」

 

逃げていくように退席する大臣を見つつ、ブランは握り拳をより一層噛み締めるように強く握る。どんな相手が来ようと、負ける訳がない。そんな強い信念を持ちつつ、一行が来るのを待ち構えるのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【ルウィー教会:通路】

 

入口から正面突破…と言う訳ではないが、待受けの職員(強引)に女神ことブランが教会の何処にいるか聞き、ノワールの(半場脅しに近い)話し合いにより差し出された地図を見つつ、教会内を歩いている。しかし―――――

 

「教会というよりは、戦国時代の屋敷だな。」

「見て、あの出入口が大広間のようね。」

 

暫く歩き、地図上に示してあるそれらしい場所。襖のような扉を開け、中へ入る。

 

「ここが、女神様が普段居ると言われた“大広間”ですね。」

「ホントだぁ~、広~い。」

「どうやら、お待ちかねのようね。」

 

ノワールがそう言い、大広間の上段にあたる場所に視線を向けている。そこには、女神化したブランであろう“ホワイトハート”が、臨戦態勢で待ち構えていた。

 

「待ちくたびれたぜ。途中でリタイアしてたら、こちとら準備していた甲斐がねーからな。」

「その口ぶりだと、ここまで来ることは予想済みってことね。」

「(何で女神化してるのだか…)それで、女神様は何故、臨戦態勢なのか…。」

「てめーが雇われた傭兵か。ふんっ、傭兵を雇わないと勝ち目がねーって訳か。」

 

どうやら、傭兵という形で俺の存在は知られているようだ。強ち間違いではないが、4対1にも関わらず随分と強気な発言をしている。

 

「そんな訳ないわ。私一人でも十分勝てるわよ。」

「ふん、その強気が仇になっても知らねーぞ。」

 

互いの挑発に近い発言で、一瞬にしてピリピリした空気になってしまう。そんな中、ナナがノワールの肩に手を添える。

 

「の、ノワールさん。挑発に乗ってどうするんですか…こっちは聞きたい事があって来たんじゃ…。」

「分かってるわよ、聞きたいことが山ほどあるのは確かだけど…。」

「はん、なってねーな。聞きたいことがあるのに、その態度はねーだろ。“お願いします女神様”ぐらい、言えねーのか。やっぱり、てめーらは女神に相応しくねーな。」

「な、なんですって…!?」

「ん~あたしは、ノワールちゃん達含めて、皆と仲良くできれば、それでい~よ~。」

「う、嬉しいのですが、この場で言う事でしょうか…。」

「そうよ、こんな後ろと繋がりのある奴なんかと、仲良くなんて出来ないわよ!」

「…だが、話し合いで解決できれば一番ベストだとは思うが?」

「それが、新米の考えか。そいつは無理な相談だぜ。雇った傭兵ですら、平和ボケしやがっ

て。より一層気にいらねーな。」

 

どうやら、端から平和的解決をする心算はないようだ。おまけに、こっちのノワールも挑発にのるように、やる気満々なオーラを出している。

 

「無駄話がしすぎたな…準備しな。てめーら纏めて相手してやる。ルウィーの…この世界で唯一の女神の力、見せてやるぜ!」

「ふん、いいわ。元より文句だけじゃ気が済まなかったのよ。そっちがその気なら…!」

 

互いに何始まるんです?という感じで身構えた…その時、廊下からドタドタッと大人数で此方に向かっている足音がする。「ガラッ」という掛け声と共に、襖を勢いよく開ける人物が現れる。

 

「こらー!!勝手に始めてるんじゃないわよ!!」

「ほぇ?アブネスちゃん~?」

「な、何故…貴女がここに?」

 

そこに現れたのは、嘗てルウィーの誘拐事件で突撃取材をしてきた“アブネス”そっくり…いや、ここの世界のアブネスなのだろう。その後ろから、二頭身のネズミ…ワレチューが、サイズに見合わないカメラを担いで現れる。

 

「何よアンタ、アタシの顔になんかついる訳?」

「………。」

 

目で驚いて凝視してしまったが、頭では理解した。同一人物ではないとは言え、こうなると…この世界にもネプテューヌが居る可能性がある。女神であるかどうかは分からないが…。

 

「まぁいいわ。ほら、ネズミ!さっさとカメラの準備!!」

「ぢゅー…なんでオイラが、こんな力仕事しないとならないっちゅか…。」

「あ~!ネズミさんだぁ!でもぉ、なんでここに居るのぉ?」

「別に居たって可笑しくないじゃないの。この国と七賢人がグルなのは、分かり切ってた事なのだから。」

「人聞きわわりーな…組んでるんじゃねー。同じ目的だから、ちょっとばかし協力してやってるだけだ。」

「ふーん、こんな連中と手を組む貴女の方が、よっぽど女神に相応しくないんじゃない?」

 

裏があるかは分からないが、ノワールの調べ通り七賢人と繋がりがあるのは確かなようだ。ホワイトハートの言葉通りなら、表面上協力しているという形なのだろう。ノワールの挑発にのるように、ホワイトハートが戦斧を構え力強く握っているのが分かる。

 

「…新米の癖に生意気な事、言ってんじゃねー。わたしはな…ずっと一人で、一つしかない国を守り続けてきたんだ。国民の願いの為なら、あらゆる手段を使うまで…そんな昨日今日女神になったばかりのてめーらに、言われる筋合いはねーんだよ!!」

「でも、そんな連中に貴女、押され気味なのよ?偉そうに言えるのかしら?」

「てめー…!!」

 

挑発に挑発を重ねていく合戦が続いていく。一体あとどれくらい挑発という単語を述べればいいのだか…。

 

「ん~…。」

「………?どうした?」

「プルちゃん、考え事ですか?」

「んん?考え事って言うよりは~…なんかぁ、ブランちゃんが可哀そうに見えて~…。」

「は、可哀そう?んな事言ってる暇があるのか?」

 

何を考えてるか分からないが、ノワールが敵として見ているブランを可哀そうだと言っている。それを他所に後ろ…アブネスとワレチューがガヤガヤやっているのが聞こえ、何かスタンバイし始める。

 

「全国のみなさーん、こんにちわっ!毎度御馴染み、七賢人のアイドルのアブネスちゃんでーっす♪急に放送始まって、皆びっくりしちゃってると思うんだけどぉ。もっとびっくりしちゃうことが始まるゾ!なんと、なんと!今アタシの目の前で、女神同士のガチンコ対決が、行われようとしてるんでーっす!!それから、どっちの国が雇ってるか分からない傭兵が1人!彼の実力は果たして…そっちも注目したいところでーっす!!」

 

カメラに向かって放送を始めるアブネス。全国…と言うことは、生放送をしている事か。おまけに、何処で入手したのか、俺の情報もリークされている。突然の事に、ノワールやナナが戸惑うのが分かる。

 

「ほ、放送…?」

「ど、どういう事…まさか、中継されている!?」

「ああ。てめーらをぶっ飛ばす瞬間を、世界中の奴等に見せてやろーと思ってな。」

「や、やだ。テレビ初デビューなのに私、普段着で来ちゃったじゃない…。髪の毛も大丈夫かしら…。」

「これ、映ってるのぉ?べたべたぁ~。」

「わ、わ!や、止めるっちゅ!!」

「ぷ、プルちゃん。悪戯はダメですよ!!」

「こらー!勝手に触るなー!指紋が付くでしょーがー!!」

 

…俺の考えが正しければ、これから戦闘が始まると考えている。ゲイムギョウ界に来て、こういう雰囲気は何度も味わったが、どうも慣れないな。

 

「…つくづく緊張感のねーな、てめーらは…。」

「そいつは同感だ。新米と言われても仕方ない。」

「あ、貴方どっちの味方よ!仕方ないじゃない、計画されてない状況は慣れてないのだから…。」

 

そう言いつつ深呼吸したノワールは、落ち着きを取り戻したのかノワールの身体が光に包み込まれ、現れたのは白いツインテール、肩部分がはだけている灰色を基準としたバトルスーツに身を包んでいる。恐らく、これがこっちのブラックハートなのだろう。

 

「いいわ、折角用意してくれた舞台なんだし…ルウィーの女神が無様に倒される姿を、世界中に知らしめてやるんだから!!」

「ほざけ。口だけ達者なトーシローが…わたし以外の女神は必要ねーってことを、分からせてやるぜ!!」

「ほら、貴女達もさっさと変身しなさい!ほら、貴方もよ!!」

「いいの~!!」

「えぇ…全国放送中に、プルちゃんが変身して大丈夫なのでしょうか…?」

「…何?」

 

分かり切っていた事だ。口出しせずに見届け、挑発合戦の末の殴り合いのような状況へ発展。おまけに、ブラックハートとなったノワールは、俺の知っているブラックハートに比べると、相当強気になっているのが分かる。プルルートとナナに女神化を促しているうえに、俺にも加担しろと言う。お互いの意志や、信念を掛けた戦いなのだろう…俺も下らない戦いは幾つもやってきたが、相手が気に入らないから、理由もなく潰す…手合わせとして戦ってみたい気持ちはあるが、ここまで下らない戦いは初めてだ。俺からしたら無意味な戦いに過ぎない。…が、向こうから先に手を出すのであれば話は別だ。この右腕の力を試すには都合がいい相手だが、この戦いで冒険の書に記されていない能力が覚醒するのであれば、それはそれで今後の情報収集でも個人的には役に立つ。本来であれば戦う必要のない相手ではあるが、ブランの標的が俺だけに定まるようにする為、俺はノワールに対してこう答えよう―――――

 

「断る。」

「なっ!?あ、アンタ…!!」

「どういうお心算で…!?」

「ん~?えー君は戦わないのぉ?」

 

俺の言葉に、全員が凍り付いた空気になったのが分かる。これから戦うムードで俺も参加しろというのに、不参加を希望と言う水を差すような事をしたのだから。

 

「なんだぁ?ここにきてビビってんのか?」

「…恐れてなどない。加担するの気も起きないだけだ。」

「何…?」

「世界の滅亡を掛けてるわけでもない。バトルロワイヤルでもない…俺から見たらこの戦いは無意味だ。」

「てめー…女神の何が分かるってんだ。わたしにとっては意味があるんだよ!!」

「全部は分からない。エスパーではないからな。だが、まともに話し合いもせず、“こんにちは、死ね”だからな。ここにいる黒い女神もここまで頭でっかちとは思ってなかった。」

『なんですって(なんだと)…!』

「そういう訳だ。俺はお暇する―――――」

 

昔の“感情を抑え込む”を実行していたら、こうはいかなかっただろう。これが、感情を抑えていない本来の俺かは分からないが…。兎も角この空間から出るように、背中を向けた次の瞬間だった。背中越しに殺気を感じ、ホワイトハートことブランが近づいているのが分かった。俺に向かって戦斧が振り下ろされるが、振り下ろされる反対側に移動。ついでに、避けれるぞというサインを込め、ブランの腰にタッチしつつ、大広間の上段まで一気に逃げる。そして、戦斧が振り下ろされ畳が歪むと同時に、急に振り下ろされる事を想定していなかったノワール、プルルート、ナナは驚きながらも左右に避ける。カメラを持ってる二人組も驚いたが無事のようだ。もうこうなったら仕方ない。無力化して事を収めるしかない。

 

「ちょ、ちょっとぉ、危ないじゃない!!」

「あ、アンタ…女神でもない相手に…!!」

「うるせー!!てめーだって参加させようとしてたじゃねーか!!それにな…わたしを馬鹿にしやがって…許さねーぞ!!」

「口じゃ勝てないから武力行使か…。後ろを向いた相手に攻撃するのは、確実に相手を倒す為には十分だが、殺気が強過ぎる。戦闘は経験不足か。」

「黙れ!!ぜってー許さねーからな…てめーをぶっ飛ばしてから、新米共を蹴散らしてやる!!」

 

ここまで、すんなり挑発に乗って標的が俺になるとは思わなかった。が、こんな下らない事で女神同士が戦い合うくらいなら、俺がその不満を買い取ろう。

 

「ちょっと!何、勝手に私の相手を取ってるのよ!!」

「そーよ!!これから女神同士のガチンコバトルが撮れると思ってたのに…!!」

「…そこの女神様は俺をご所望だ。手出しはいらない。」

「無駄口叩いてねーで構えやがれ、この天狗野郎が!」

「………。」

 

言われた通り俺は拳を前に出し、攻撃の構えに入る。隠密に動くべきだが、カメラで撮られてしまい顔が割れてしまったのだから、俺の意志で動くまでだ…。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「…いいわ。そこまで言うのなら、見せてもらいましょ。貴方の実力ってやらを…。」

「うぅ~、変身できなかったからぁ、モヤモヤする~。」

「我慢しなさい…、私だってモヤモヤするんだから。」

 

今、私の目の前で傭兵として同行していたエースさんが、ルウィーの女神と1対1で勝負をしようとしている。加勢は無用とは言われましたが、いざと言う時の為に準備をしておきましょう…。ノワールさんも興ざめしたのか、一時的に変身を解除している。

 

「おらぁっ!!」

 

先に手を出したのは、血気盛んであるホワイトハートからだった。身の丈程ある戦斧を軽々と振り回してエースさんを狙う。しかし、エースさんも言うだけあってか、その攻撃をひらりと避け続ける。避ける事に専念しているのか、それとも攻撃する隙がないのか、エースさんは避け続け、遂に壁越しに追い込まれる。

 

「………。」

「馬鹿、何やってるの!!」

「自分から窮地に…!?」

「これで、終いだっ!!」

 

仕留めた!と思ったのか、強烈な横スウィングをする。ですが、それを読んでいたのか、エースさんは壁を蹴ってホワイトハートの上を飛び、背後へと周り込む。

 

「ちっ、ちょこまかと動きやがって…避ける事に関しては褒めてやるよ。」

「…そいつは、どうも。」

「仕方ねー…。本当はそこの新米共にも隠しておくべきだったが、此奴をお見舞いしてやらぁ!」

 

そういって、ホワイトハートは戦斧を両手に持ち大きく振りかぶった後、自らも回転して勢いをつけている。ブンブンっと強烈な音が鳴り響き、その威力は絶大であると分かる。その回転をしたまま、エースさんへと向かって行く。

 

「くたばりやがれ、テンツェリントロ―――――」

 

大きく振り下ろそうとした戦斧を、なんとエースさんは足で受け止めてしまった。その突蹴りにも勢いがあったのか、ぶつかったと同時に強烈な風圧が広がる。

 

「なっ!!馬鹿な!!」

「流石に、そいつを直撃させる訳にはいかない。」

 

そして、受け止めた戦斧を蹴り飛ばしつつ、エースさんは距離を取る。しかし、何かがつっかえている感覚がする。さっきから防御一択なのもあれですが…まるでホワイトハートの攻撃、行動を知り尽くした動き。一度シミュレートで戦ったかのような動きをしています。

 

「ナナちゃん、どうしたの~?そんな怖い顔してぇ。」

「…え、こ、こわい、ですか?」

「もしかして、自分より強い人が現れたと思って、悔しがってるの?」

「いえ、そういう訳では…。」

 

そう、何と言いますか…あの戦い方を何処かで見たことがある(・・・・・・・・・・・)…そんな感覚が…。

 

「てめー…さっきから避けたり防いだりしかしてねーじゃねーか…何故戦わねー!!」

「元々、女神同士が戦う理由なんてない。だから、ここで争う必要もない。」

「っ!!ざけんな!!人を挑発しといて…気に入らねーんだよ!!」

「…あの馬鹿…余計怒らせてるじゃない…。」

 

余計にキレさせてしまったのか、手加減無用とも言える構えをしている。流石のノワールさん若干イライラしている。

 

「だがな、まともに戦ったらてめーの思う壺だ。だったら…」

 

そう言いホワイトハートは、通常の振りかぶりのような構えに入る。一見普通の構えであるが、何かしてきそうな予感はある。力を溜めて、そのまま先ほどとは違う回転攻撃を仕掛けてくるのではと考えた。

 

「ぶっ飛びやがれっ!!」

「…っ!!(早い…!!)」

 

しかし、私の予想は外れた。ノーモーションで戦斧をエースさんへと投げたのだ…!!そして、予想外なのはエースさんもそうだ。右手が光出し、棒状の両先端に刃がついた武器を呼び出し、戦斧を受け止める。

 

「がら空きだぜ!!」

 

その隙を逃さなないかの如く、ホワイトハートは握り拳を作りエースさんの顔面に右ストレートを放つ。クリーンヒットしたように、エースさんは横に一回転回り顔を下に向けている。エースさん自身、あんな武器を隠し持っていたのを知らなかったが、そんな事より二人は戦いの方に夢中になっていました。

 

「うわぁ、二人共すご~い。」

「何関心してるのよプルルート。あの馬鹿、真面に受けてるのよ!!」

「…待ってください、まだそうと決まったわけじゃなさそうですよ。」

 

そう、ホワイトハートが“やったぜ!”という表情ではない。まるで当てたは当てたが、クリーンヒットしていないと言う感じでした。

 

「当たる瞬間に、体ごと回転して威力を軽減させたか。だがなぁ、ようやく武器を出したな。だがな、これで対等だとは思ってねー。まだ何か隠してんだろ?」

「…何のことだ。」

「とぼけんじゃねー。その右腕から感じる力。わたし達とは似て非なる物…ただの飾りじゃねーんだろ?」

 

どうやら、戦ってるホワイトハートが一番わかっているようで、何かまだ隠しているらしい事を仄めかしている。

 

「………。いいだろう、どうなっても知らないぞ。」

 

そう言い、エースさんは右手を高く上げる。次の瞬間、私達とは似て非なる光に包まれ、そこに現れたのは、白を基準とした鎧のようなのに身を包み、白い仮面をつけたエースさんと思われる人物が現れる。

 

「うわぁ~、かっこい~!」

「何よ…あれ…。」

「凄い、力です…。」

 

エースさんから溢れるシェアエナジーのような、それでいて負の力も流れているような…全く異質な力だというのは一目でわかりました。

 

「…あまり長くこの状態を保ってられない。さっさと決着をつけるぞ。」

「ふん、てめーに言われなくても、後ろに控えてんのが本来の目的だからな。さっさと引いてもらうぞ!!」

 

そう言いつつ、ホワイトハートはエースさんに突進のような速度で戦斧を構えつつ急接近する。それに合わせるように突如左手を前に出し、何か火の玉のようなのが見えたのですが、それを力強く握り子爆発と強い光が放たれる。

 

『うわっ!!』

 

急な光に目を閉じてしまった。ホワイトハートも奇襲のように受けてしまい、目を瞑ってしまっている。

 

「がっ!!」

 

そして、目が見えるようになっての第一声が、ホワイトハートに拳を当てているエースさんだった。拳、平手、平手、蹴り、拳、手刀…まるで、少林寺とも言えるコンボ技を繋げている。そして、最後に背負い投げのようにホワイトハートを、畳に叩きつけるのでした。

 

「うああああああっ!!」

 

畳の床が小さいクレーターの如く、めり込むように陥没している…その威力で砂埃が舞い上がっている。エースさんの鎧が消え、すかさず体制を立て直し、短剣と銃を構えて降伏を促すように構える。

 

「くっ…た、立てねー…わたしは…負け…た…?」

「(…済まないブラン…手加減できなかった。)」

 

エースさんが何か呟いたようにも見えましたが、それ以上に、能力はあったとはいえ、ホワイトハートの表情は、たかが人間に負けてしまったという苦痛を感じている。そんな時、後ろのアブネスさんが、ホワイトハートの元へ近づいてきました。

 

「なんと、なんと、負けたのはルウィーの女神!!ルウィーの女神の完全敗退でーっす☆ほーら、見て見て!長い事、偉そーに上目遣いだった女神も、こーんな情けない姿に!!きゃーっだっさーい!!かっこわるーい!!」

 

そして次の瞬間、ホワイトハートの変身が解け、女神前と思われる姿になってしまう。

 

「力が…信仰心が…なくなっていく…。」

「なんかムカつくわね、あいつ…。ルウィーの女神を庇おうとは思わないけど。」

「でもぉ、あの子ちょっとやり過ぎかなぁ?」

「ええ、あまり見ていて気分がいいものではないですよ。」

「………。まさか、俺でなくてもこうなる事を…。」

「ん~何のことかな~。アブネスわっかんなーっい☆」

 

そんな中、一人の男性がこの部屋に入ってくるなり、ホワイトハートの元へ寄ってくる。

 

「おやおや…ブラン様…、負けてしまいましたか…。」

「大臣…わ、わたし…。」

「まぁ、相手が違うのは予想外でしたが、貴女が負けることは想定内でしたよ。」

「な、なに言ってるの…このままじゃ、国が…ルウィーが…。」

 

何やら仲間同士の女神様と大臣のはずなのに、不穏な空気になっています…。そして、何かに気づいたエースさんが口を挟む。

 

「大臣…アンタの掌に踊らされていたという事か。この国を我が物にする為に…。」

「ほう、物分かりのいい…。そう、この国は、わしの好きなようにさせて貰うからな。」

「え…?大臣…?」

「大臣…?違うなぁ…わしの名は、七賢人が一人、アクダイジーンじゃっ!!」

 

…ノワールさんの言っていたことは間違いではなかったようです。ただ、ホワイトハートこと、ブランさんの様子を見る限り、大臣が七賢人の一人だったという事は知らなかったと思われる。

 

「そんな…貴方が…!!」

「はぁ…何よ…身内の事情も見破れないなんて、タダの自業自得じゃない。」

「…それは、ノワールさんも一緒では…あの警備人…。」

「うっ、五月蠅いわね!!あれはあれで、敵ではなかったんだからいいじゃない!!まぁいいわ、聞きたい事があったけど、聞く必要も無くなったわね。さぁ、帰るわよ。」

「帰るのぉ?ブランちゃんが可哀そうだよぉ。」

「何よ。敵に塩を送る気?元々そういう訳できたんじゃないんだから。」

「おっとぉ、この事を広められてしまっては困るのでね…。おい、お前達っ!!」

 

アクダイジーンの合図と共に、ルウィーの兵士が大勢、大広間へと雪崩れ込んでくるように周囲を囲んでしまう。

 

「わわわ、人がいっぱーいっ!!」

「凄い数…!!しかも、かなり訓練されているようですね…。」

「ふん、戦ってないんだから、この人数大したこと―――――」

 

っと、ノワールさんが何時もの強気ムードで強行突破しようと考えていた矢先、エースさんはなんと、銃の弾薬を全て抜き取ってアクダイジーンに渡していたのでした。それを見た私達は驚きを隠せず、ノワールさんはキレているように見えた。

 

「くくくく…物分かりが良い。部下にほしいくらいだ。」

「そいつは断る。」

「ちょっ、何してるのよ!!貴方も、さっきの変身みたいなので切り抜けられるでしょ!!」

「…出来たなら、こんな事はしない。意図して解除した訳ではないのだから。」

 

その言葉を聞いて、私達も変身を試みる…が、ダメ!!

 

「な、ど、どうして…!!」

「無駄だ、こんな事もあろうかと、お前達の変身を封じる物を用意しておいたのだよ。まぁ、この男にも通じるとは思っていなかったがな…。お前達、此奴等を牢屋にぶち込め!逃げられない様にな…。」

 

なんてことでしょう…罪を犯したわけでもないのに、捕まってしまうなんて…。これから私達どうなってしまうのでしょうか…。

 

 

 

 

 

 


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