掛け声と共に、走り出すジンと獨斗永守ことハーミット。互いの武器を持ち、すれ違うように武器を振り、金属音が鳴り響く。
「ひゅうっ!アンタのそれに耐えられるだけの強度はあるな、この紋章剣は…。」
「何故、鞭で攻撃しない。」
「アンタだって、短剣じゃねぇしな。それに、俺だって演技の為に剣道やってたんだ。ま、挨拶代りのようなもんだ。ここから、全てをアンタにぶつける。」
ジンはそう言い、右手に何時もの鞭を持ち、左手に手投剣を持つ。それを見たハーミットは、影剣を短剣風に変え、SAAを左手に握りなおす。
ジンは、手投剣三本の同時投げを仕掛け、永守の方へ飛んでいく。それをひらりと交わし永守は銃を撃つ。それを予測していたジンは屈みこむ。そして、無助走から急加速スライディングをする。その攻撃を予測してはいないものの、人間離れした反射神経により、ハーミットは前宙で回避する。互いに体制を戻した後、互いにフックを放ち腕と腕が衝突、更に互いの短剣を振り下ろし、互いにそれを鷲掴みする。
「やるな…この短期間で、ここまでやれるとはな。」
「アンタこそ、なんで今のが避けれるんだよ畜生め。そもそも半分ぐれぇはアンタが細工したんだろ。」
「………。」
ハーミットが黙り込んだ瞬間、握られている短剣を思いっきり引き抜き、そのまま前蹴りをし腹部分に命中する。その勢いでハーミットは少し後退する。
「ハーミット様っ!!」
「援護しますっ!!」
「!?」
犯罪組織の部下がジンに向けて持っている突撃銃を構え、狙いを定めている。
「手を出すなといったはずだ…。」
「う…しかし…。」
「そーだぜ、なんで手ぇ出させねぇんだよ!」
隣から余裕そうなリンダの声がし、ジンがそっちを見る。女神化したネプギア、スミレがいるにも関わらず、ネプギア達はリンダとワレチューに苦戦している。
「おいおいおいおい!何で下っ端があんな強ーんだよ!」
「コイツ等、ゲイムキャラの力を取り入れたのよ…!」
「なん…だ…と…!?」
リンダとワレチューは、ただ単に敗北や捜索をしていた訳ではなかった。本来であれば、女神や選ばれし者のみが取り入れられるゲイムキャラの力。それを自分達にも使えるように改良を施し取り入れている。
「向こうがサシで勝負を挑んでいる。俺もサシで勝負する事を望んでいる。お前も、手出しなしで勝ちたいだろう。」
「まぁ、それもそーだな!」
ネプギア側の戦闘が再び再開される。それでも、押され気味になっているのに変わりはない。
「…アンタも、取り入れてんのか?」
「…相性が悪く使い物にならない。だが、なくても十分だ。」
ハーミットが銃を閉まって拳と拳をブツケルと、両手に炎が燃え上がる。
「何故だ、何故そこまでして犯罪組織に手を貸しやがる!」
「世界を救う為だ…。この世は所詮、力が全てだった。そして今、この世界を制するのは目に見えて分かる。」
「世界を…救う…?何馬鹿な事言ってやがる。力で制するなんて間違ってるぜ!」
「正しくても、価値の無いものがある。間違っていても、価値はある。俺の心は今こう叫んでいる。もっと、力を…。」
そういいつつハーミットは右手を出し、握り拳を作っている。なんだこの違和感は…確かに目の前にいるのは獨斗に間違いない。だが、まるで獨斗自身が叫んでいるのかが分からない。
「…アンタ、そりゃ間違ってるぜ。その間違った考え、俺がぶち壊し―――――なっ!!」
言いたいことが山程あるのだが、ハーミットは会話を中断するかのように、猛スピードで飛び掛かってくる。それに反射するように身構えるも、既に拳は顔面の前に来ていた。
「あっつ!!」
だが、直ぐ様首を去なし、辛うじて耳を掠る程度で難を逃れる。しかし、直ぐに右拳によるアッパーを受けてしまう。天井にぶつかる前に足を天井につけ、体制を整えハーミットに特攻する。
「ぬうぁあああ!」
「とぅぁあ…!」
互いに空中で殴り合いを始める。
「ハーミット様も強いが、あの男もやる…。」
「お、落ちながら戦っている。」
犯罪組織の部下達は、女神とリンダ達の戦いを見つつも、ジンとハーミットの戦いを見ている。部下の一人が言うように、周りから見れば落ちながら戦っているようにも見える。互いに交わしながら殴り合い、アッパーで空中に浮かばせたあと、飛び上がり空中で殴り合いをまたしても始める。
「遅い…!!」
「ぐあっ…!」
その殴り合いを先に制したのはハーミットで、ジンは地面に叩きつけられる。
「な、なんだ…戦いづれぇ…。」
「勝てると、思っているのか?」
「まだだ…この手が、足が動く限り、抗ってやる。」
ジンは立ち上がり、鞭を構える動作に入る。それを見たハーミットも身構える。ジンは戦っている最中に気付いている。戦っている最中に、ハーミットは状況によって戦闘スタイルを変えている。よくある空手のような型と思えば、ダンサーのような舞のモーションといった予測不可能な攻撃をしてくる。それも、まだ手合わせしたことのない型ということもあり、非常に戦いにくい状態である。それでも、ジンは持っている鞭と、紋章による鞭を振り続け攻撃を仕掛けるが、ハーミットによる双影剣や受け流しで防がれてしまう。接近されては格闘で勝負を仕掛ける。互いに蹴りや殴りをするも、ハーミットの方が技術的にも優勢であり、互いに数発ずつ受けているものの、手数では圧倒的に負けている。
「あぁ…!!」
「す、スミレ、ネプギア…!!」
リンダの攻撃を受けて吹き飛んできたネプギアとスミレに、ジンは思わずそっちに目が行ってしまった。もう一方の戦いを見て、一方的な戦いにはなっていないものの、アイエフとREDはボロボロになっており、ネプギアとスミレも立ち上がるも、不利になっているのが目に見えて分かる。…この一瞬の隙を、ハーミットは見逃さなかった。
「しま…くぁ!!」
ジンは、ハーミットの方へ視線を戻すと、こっちに向かって影剣が投げられる。それを弾く為に鞭による振り上げを放つ。だが…
「(な!!き、消えた!!)」
なんと、飛んできた影剣が途中で霧のように消滅する。そんな防御態勢に入るのも難しいところに、ハーミットが滑り込むような突蹴りをかます。
「うぉあああっ!!」
その蹴りを受けてしまったジンは、転がるように後ろへ吹き飛ばされる。それと同時に武器も落としてしまい、ハーミットがそれを掴み見下ろすように奪われた武器を向けつつ、ジンの胸を踏みつける。
「がぁっ…!!」
「どうした。お前の力はこの程度なのか。」
「げほっ…くっそぉ…まだ…だ…!!」
ジンは痛む身体に鞭を打つように、ハーミットによって踏まれている足首あたりを両手で掴み、歯を食いしばりつつ握力を込める。
「っ…!!」
痛みを感じたのか、ハーミットは掴まれた手を振りほどくように後方へ飛ぶ。その掴まれた足首あたりから若干の出血がみられる。
「…恐ろしい力だ。圧迫させて内部を傷つけるとはな。」
「(な、何となく思い出してやったが、決まった…圧撃…。)」
ふらふらとした状態でジンは立ち上がるも、ハーミットはまだまだピンピンしている。ダメージも積み重なっており、既にきつい状態だ。
「(この戦い…無謀だったのか…?)」
最初こそ、互角に戦える展開に見えていたものの、徐々に劣勢へと立たされていくのを実感している。それでも、諦めなければ何か起きる。それを信じて再び立ち上がる。
だが、誰も考えていなかったであろうことが、今起ころうとしている―――――
「くぁ…!!な、なんだ…頭が…!!」
「(奴の体内からアンチエナジーの力が出ている。呪印は相殺したが…まさか、別の呪印もあったのか…!?)」
突如頭を抱え、苦しむジン。完全に予想していなかったのか、ハーミットもただ事ではないとみる。
≪コロセ…スベテヲハカイシロ…。チカラヲ、カイホウシロ…。≫
「やめ…ろ…!俺は…そんな気…など…!」
―――――コロセ、ヨクボウノママニ…
―――――コロセ、ショウガイヲハイジョスルタメニ…
―――――コロセ、ミズカラノネガイヲカナエルタメニ…
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…!!」
突如、ジンが黒いオーラに包まれる。悲痛の叫びと、その異常な光景に、リンダとワレチューによって痛めつけられたネプギア達含め、全員がジンの方に目を向ける。その黒いオーラを取り入れ出てきたジンは…、肌が黒くなっており、白目部分は黒く染まり、眼球は赤く光っている。そして、目元から血涙が出たような跡が浮かび上がっている。更に右腕が、鬼のような手に変形している。
「(これは、ゾディアーク化か…!?奴め、復讐の為にこんなのを用意したのか…!!)」
「おいおいおいおい…!!なんだよありゃあ!!」
「ちゅ…!ぶ、不気味っちゅ…!!」
『ジ、ジン(さん)…!!』
「う、うああああああ化け物おおおおおお!!」
「っ!?止せ!!」
全員が、その異質な、今まで感じたことのない力を目のあたりにし、驚いている。そして、犯罪組織の部下数名が、恐怖の余りにジンに銃を向け、ハーミットの制止を無視し銃撃する。
「…え?」
銃弾の嵐の中、凶暴化したと思われるジンが、銃撃した犯罪組織の一人の目の前まで急接近し、首元を掴まれ溶岩路へと投げ出されてしまう。
だが、間一髪のところ、ハーミットがワイヤーフックのようなのを使い、その投げられた人物を救出し元の位置へ戻る。戻ると同時に、ハーミットは銃をジンに向けて撃つ。だが、簡単に避けられてしまい、標的がハーミットへと移るように、暴走しているジンはハーミットに向けて牙を向ける。
「そんな…ジンさんが…。」
ネプギア達は驚いている。自分達と同じ目的を持っていた人物が、変わっていて且つ犯罪組織にいるとは言え、一般人に手を出し、しかも殺そうとしたのだから…。
「…既にお前達の敵う相手ではない。お前達は全員逃げろ。」
「し、しかし…!」
「おい!それじゃあこっちの戦力が減っちまうじゃねぇか!!」
「そんな事を言っている場合ではない…。リンダ、お前も分かっているはずだ。」
「う…。」
「お前達は死ぬことが任務ではない。さっさとここから立ち去れ。」
その言葉に応じるように、犯罪組織の部下達は足早にその場を立ち去る。
「うぅ、ジン…さん…!」
「ジンさんを…止めなくちゃ…。」
「だ、ダメです!傷を癒すのが先です!」
ただ事ではないとわかっていても、ネプギア達はリンダの攻撃によって立ち上がるのが困難な程に痛めつけられ、コンパの治療を受けている。そして、リンダ、ワレチューも標的を女神からジンへと変えようとしている。
「おい、アタイらも手を貸すぞ!」
「オイラも協力するっちゅ!」
「手出しはいらない。そこの特等席で見学していろ。」
ハーミットはリンダとワレチューの協力を拒否する。そして、フードとマスクを外す。
『っ!永守…(さん…)!』
肌の色がリンダのように灰色になっているが、その顔立ちは、ネプギア達全員が知っている“獨斗永守”本人であり、90%が100%本人だと認識する。永守は、右手に付けている手袋を取る。そこには、ジンとは似て非なる右腕が存在していた。
「あまり使いたくはないが、お前を止める今の材料はこれしかない。悪く思うなよ。」
そういうと、永守は右手を天高く上げる。それと同時に、ジンが黒いオーラに包まれたのと同じように、永守も黒いオーラに包まれる。その姿は、3年前のズーネ地区で宿敵エンデを倒したゾディアーク時の姿そのものだった。
「コロス…スベテヲ…ハカイ…スル…。」
ジンは永守に向かって急接近し、永守は無言で影剣を複数出し、自分の周囲を回転するように展開し、両手に影剣を持つ。だが、ジンは回転している影剣を無視するように殴り掛かってくる。
「(リミッターを外しているのに、間に合わない!!)っ!!」
受け流すのは無理と判断した永守は、影剣を利用し防御するも、その重量級の攻撃を防ぎきることが出来ず、体制を崩すことはないものの、後方へ下がってしまう。
「ボクシングなら、確実にワンパンKOだな。」
「コロス…コロス…コロス…!」
「おい!煽ってる場合か!!」
「…冗談も聞こえないか。」
そして、二人の戦いは続く。力のジン、技の永守といったような応酬が繰り広げられている。それでも、永守の方が有利であることに変わりはない。だが―――――
「(くっゾディアークの使い過ぎか、体中が悲鳴を上げ始めてやがる。だが、ここでジンを止めなくては…。)」
ジンがゾディアークに耐えられなくなり死んでしまう。
「おらあああああああ!!」
「っ!!」
なんと、リンダが不意打ちの鉄パイプを、ジンの首元へと振り下ろしたのだ。だが、ジンが堅いのか、振られた鉄パイプが少しひん曲がってしまう。
「な…に…!!」
「な、なにやってるっちゅか!!」
「…コロス…。」
「あ…。」
ジンに攻撃をしたリンダがターゲットになったのか、紋章を展開し剣を生成、それをリンダに向けて突き刺そうとする。
「…ごふ…。」
「な…!!」「あ、兄貴!!」
『え、永守(さん)!!』
リンダの目に前に空間異動で瞬時に来た永守は、リンダの身代わりのように、胸部へと剣が突き刺さっている。そこから生々しく血が滴っており、口からも吐血している。
「な、なんでアタイを…!!」
「…仲間…だろが…。」
今まで、非協力的だったのだろう、その永守の行動にリンダが驚いてしまう。永守はその攻撃に耐えられなかったのか、その場に仰向けに倒れてしまう。
「コロス…。」
「っ!!」
そして、ジンの暴走は止まることなく、リンダに向けて鞭に手を掛けようとしていた…その時だった。
「何か、聞こえてくる?」
「歌…?」
「この…歌声は…。」
どうやら、来た道から歌声のようなのが聞こえてくる。スミレはその歌声に聞き覚えがある。
「この歌…なんだか、勇気が…力が湧いてくる。」
「あれ、下っ端にボッコボコにされたところが、痛くない?」
「気のせいじゃない…わね。」
「な…なんだ…?力が…抜けていく?」
「…ちゅ?ちゅぅ…力が、抜けていくっちゅ…。」
ネプギア達は力が漲ってくるだけでなく、傷も癒えている。対するリンダとワレチューは力が抜けていくような感覚に襲われている。
「作戦って、5pb.ちゃんを…。」
スミレは歌声の正体に気付いていた。その言葉を聞いて、ネプギア達もその歌声の主を思い出す。肝心のジンを見ると、変身が溶けているように見え、その場に倒れこんでしまう。
「ジンさん…!」
倒れこんだジンに向かって、スミレが走り出す。全員それに合わせるかのように、ジンに向かって走り出す。
「…気絶してるだけ…。」
「さっきの変な感じもしないわね。」
どうやら、アンチエナジーが消えたようで、元の姿に戻っている。今は力の使い過ぎかのように気絶していると、コンパが見極める。
「くっそぉ…なんだよ、これ…!」
『アイスコフィン!!』「X.M.B.!!」
『え?ギャーッス!!(ぢゅーーーーーー!!)』
突然、来た道から極太レーザーと巨大な氷の塊が、リンダとワレチューを襲い、モロに受けたのか伸びてしまう。
「やった!当たった!」
「ネプギアちゃん、大丈夫?」
「ラムちゃん、ロムちゃん…それに、ユニちゃんも…。」
「ヒーローは遅れてくるもの…でしょ?」
「わぁ、嫁がいっぱい来たー!」
「女神候補生達が…全員いるです。」
「これは一体…。」
「間に合った…というべきかしら。」
女神候補生の後ろから、ケイブが現れる。そのケイブの背後には、5pb.がいる。そして、倒れているジンに向かって日本一が飛び出して行く。
「…なるほどね。教祖が言っていた作戦ってのはこのことだったのね。」
「ええ…。ただ、もう少し早く行ければ状況は更に有利だったかしら。」
「へーきよ!ネプギアなら耐えてくれるでしょ!」
「アンタなら負けるわけないわよね?」
「ら、ラムちゃん…ユニちゃんも…(おろおろ)。」
「…心なしか、なんか酷いこと言われたような…?」
「…私は何も言われてない…。」
「話しているところ申し訳ないけど、犯罪組織の主犯は何処に?」
「えっと、あっちの方に…あれ?」
ユニ達によって吹き飛ばされたはずのリンダとワレチューの姿はそこにはいなかった。更に、永守の姿もそこにはなかった。
「安心している最中に逃げたのね…不覚だわ…。」
「でも、ゲイムキャラは無事なのね。」
≪はい、貴女方のおかげです。本当に助かりました。なんてお礼を言えばいいか…。≫
「気にしないでください。悪いのは全部、犯罪組織なんですから…。」
無事…というわけではないものの、リーンボックスのゲイムキャラの協力を得る為、ネプギア達は、今回のことを報告する為にリーンボックスの教会へ戻ることを決める。