ここに来て、どういう展開に持ち込むか行き詰まっております…。
「どうした…あと1分で約束の30分が経過するぞ。」
「はぁ…はぁ…お黙り…!」
ある場所で、教祖の箱崎チカがフードとマスクを被っている人物、ハーミットに戦いを挑んでいた。相手が犯罪組織の一員と分かっているからこそ、熱くなる理由にはならないが―――――
「30分、私は一切の攻撃をしない。その間に一撃でも与えてみろ。達すれば知っている情報を話す。」
戦闘前にこのようなことを言われ、明らかに条件としてはチカの方が有利と思える。しかし、蓋を開けば攻撃を当てるどころか、受け流しもすることなく掠ることもできていない状態である。当たったとしても、相手のロングコートの下半身部分だけであり、肉体へは当てることが出来ていない。同時に焦りもある。30分経過後の、ハーミットからの攻撃が未知数であり、ハーミットの部下と思われる、フードを被った女と二足歩行のネズミが奥地へ向かって行った事。その二人はリーンボックスのゲイムキャラを既に持っていたのだ。長期戦になれば、此方が不利になるのも見えているうえに、ゲイムキャラに何を仕出かすかも分からない。
「でしたら、お姉さまから授かった奥義で、貴方に一撃を当てる…いえ、倒しますわ…!」
そう言うと、持っている槍を扇風機の如く片手で回転させ、槍を敵に向かって振り回す。
「(むっ…早い…。)」
大振りに見えるが、実にコンパクトで且つ最短距離で次々と槍の薙ぎ払いと高速突きを繰り出す。故に、ハーミットは短剣を取り出し受け流しを使わざるを得ない状況になった。
「見えましたわ…!!」
「クっ…!!」
高速に振り上げられた槍が、ハーミットの持っている短剣を上空へ吹き飛ばす。
「勝機…魂ごと吹き飛びなさい!!」
チカは、自身の槍に魔力を注ぎ込み、その槍をハーミットに向けて投げる。並大抵の相手なら一撃で葬れる程の威力を持っているその槍は、ハーミットの身構えた右手の平に当たる。
「…見事だ…これは流石に命の危険を感じた。」
「そんな…!!」
当たった瞬間、チカは一撃を与えたと安堵したが、その安堵は一瞬にして不安へと変わる。普通であれば腕ごと貫いているはずの槍が、ハーミットの握り拳の背中部分で止まっている。槍の勢いで手袋が散りとなり、現れたその腕にも驚く。模様のようなものが青白く光り、まるで龍や悪魔の手とも思える右腕を確認する。
――――――――――
【リーンボックス:協会】
「そう…貴女にはそんなことがあったのね。」
「その後は、あなた達が見つけ出した通りよ。」
一度、本物の教祖である、箱崎チカさんを協会に戻ってきた俺達は、あの場所で何があったかをチカさんから情報交換ということで聞くことにした。まさか、ハーミット…獨斗がそこまでするなんて、とでもじゃねぇが信じられねぇ。本来であれば、数日前にリーンボックスから連絡を入れて呼ぶ予定だったが、拉致られてしまい本人からの伝達はできなかったと言う。ある意味、イストワール様に連絡が入ってこっちに依頼が来たのは奇跡的に近いとか。とは言え、スミレからSOSが来ていなくても、ゲイムキャラを探すためにリーンボックスには必然的に向かわなければならなかったし、ここに来るのが早くなっただけにすぎねぇ。…しかし、一点気になるところがある。ギョウカイ墓場の情報を持っているのに、一向にギョウカイ墓場で何があったか教えろとチカさんが言ってこない。
「なるほどね…それじゃあ、こっちは他の教祖同様、ギョウカイ墓場のことを話しといた方がいいわね。」
「あ、はい。えっと…。」
チカからの情報をある程度聞いた後、ゲイムキャラの居場所を聞く前に、アイエフがギョウカイ墓場のことを言った方がいいと判断し、ネプギアがそのことを話そうとする。
「その必要はないわ。…恐らく、最新の情報よ。」
予想外の返答だった。まさか情報を知っているというのだ。あくまで出回っている情報は、ネプギアが救出できたことのみ。それはプラネテューヌで聞いた時と、今まで訪れた際に話した教祖達のみが知っている情報…それを知っているというのだ。しかも、現段階での情報を事細かく話してくれる。
「…チカ、その情報はどこから出てきたのかしら。」
「犯罪組織のハーミット…いえ、獨斗永守からよ。」
『なんだって…!?』
遂にハーミット自ら正体を明かしたと言う。正体を隠し通せなくなったか、または正体を隠す気がなくなったかは定かではねぇが、明かした上で数日前のギョウカイ墓場で捕まっている四女神の状態を言ったという。写真も見せられ、100%信用は出来ないが戻ってこない以上信じるしかないとか…。
「…以上が、あなた達に見つかる前にあった出来事よ。正直、アタクシも彼が犯罪組織側にいるなんて想像もつかなかったわ。5pb.の売り上げ事件や、ズーネ地区の件ではそんな人には見えなかったのだけど…。」
やはりというべきか、今までの獨斗の活躍を聞く限り、犯罪組織側に寝返る要素が見当たらない。人は見かけによらないとも言えるが、俺の訓練に付き合ったり、四カ国の職員からの信頼も厚かったのにだ。こればかりは本人に聞くしかねぇが、口が堅いのも承知の上だ。
「それは兎も角、一刻も早く下っ端を見つけなければならないわね。リーンボックスのゲイムキャラを持っているなら尚更ね。」
「でも、どうやって見つけるです?」
「地道に情報収集…?」
「その必要はないわ。戻ってきて早々悪いけど、アンダーインヴァースに向かってくれるかしら。アタクシが捕まる前から、そこに関係者以外が出入りしているっていう情報があったわ。そうよね、スミレ、ケイブ。」
「うん、間違いないよ。昨日も関係者以外が立ち入りしたって情報が入ってる。」
「しかも、チカが言ったフードの女とネズミもそこに立ち入ったという情報が入ってるわ。」
どうやら、既にどこに潜んでいるかというのは大体割り出しているようだ。
「でも、ゲイムキャラを壊したところで、こっちには治す方法があるから、壊したところで無意味だよね?」
「まぁ、確かにそうね…。それに、教祖の言ったのが正しければ、まだ壊されてない。」
「でも、どうして今回はすぐに壊さなかったんです?」
「そこまでは、アタクシにも分からないわ。ただ、良い報告として受け入れることは出来ないのは確かよ。」
「…他に使い道がるってことか…。」
まぁ良いニュースと悪いニュースがごっちゃまぜになった状態だな。壊れてないから、治す手間は省けるが、逆に今度は何をしてくるかという不安がある。
「まだ道はあったよな。その方向に行く必要があるってことだな。」
「ええ、お願いするわ。」
「それで、そっちから協力は何かある?」
「申し訳ないけど、スミレが頑張ってくれたから最悪の事態は免れてはいるけど、支援する程の物資は今のところ提供は出来ないわ。だから、リーンボックスからは、スミレをあなた達の冒険に派遣するわ。」
「だ、大丈夫なの?」
「大丈夫だからの判断よ。お姉様の為にも貴女の力を奮いなさい。
「…分かった、チカ姉さん。行ってくるよ…!」
「頼むわよ。それからケイブ、確か話によれば、リーンボックスに他の女神候補生もいるのよね?」
「ええ、そっちに向かう前にはラステイションの女神候補生。昨日はルウィーの女神候補生もいたわ。」
「なら、彼女達にも協力を促すようお願いするわ。」
「分かったわ。」
…まるでラスボスに行く前の会議をしているような雰囲気だな。その指示に圧巻してこっちは口出しできない状態でいる。だが、これはこれで話が早く済みそうだ。
―――――――――
【リーンボックス:アンダーインヴァース】
俺達は再び、アンダーインヴァースへ向かった。こちらに襲い掛かってくるモンスターを蹴散らしつつ、奥へ奥へと向かう。教祖のチカを助け出した場所から更に先へ進む。
「…正体がバレた上に、教祖まで取り返された…相変わらず使えないっちゅね。」
「っるせぇ!アタイは変装するなんてガラじゃねぇんだよ!」
聞き覚えのある声がし、顔を見合わせ、こっちからしたという感じで声のした方へ向かう。そこには、確かにリンダとワレチューが居た。話を聞いていると、どうやら上司からゲイムキャラの破壊を禁じられているらしい。だが、一番合わなければならない奴はそこにはいない。
「(…ゲイムキャラに、何か仕出かす前に止めに行った方がいいわね。行くわよ。)」
アイエフの指示に全員が一致し、一人と一匹の前に出ていく。
「そこまでよ!」
「おわっ!またテメぇ等か!!どうしてここに居やがる!!」
「ああっコンパちゃん!そっちから会いに来るなんて…感激っちゅ!」
「デメェの頭の中はお花畑か!おい、なんでここが分かったんだ!」
「あなた達がここに出入りしているという情報が、前々からこっちに入ってたのよ。」
「それだけ大声で話し合ってるなら、探す手間が省けるってものよ。」
「くっ…足跡消しは完ぺきだったはずなのに…。」
いつもの犯罪組織二人がそこにいる。だが、その二人はゲイムキャラを持っていない。しかし、小手が反応している以上近くにいるのは分かっている。恐らく奴がいる…。
「出てこいハーミット!…いや、獨斗…いるのは分かっている!!」
突然俺がそう叫んだ為、全員が驚いてしまうが、さらに驚くべきことが起きる。岩陰からハーミットこと獨斗が出てきたからだ。しかも、左手にゲイムキャラを持っているのだった。
『…!?永守(さん)…。』
「やはり、来たか…。」
「やっと…追い詰めたぞ、獨斗。」
「追い詰めた…?違うな。俺がここに来るように誘き寄せたんだ…。」
「な!じゃあテメェがこいつらに情報を漏らしたのか!!」
「漏らさなくても何れはバレる。奴らの情報網はそれ程のものだ。それが少し早くなっただけに過ぎない。」
「あれが…獨斗永守…?」
「…信じられない…あの人が…。」
REDとスミレがそういうのも分からなくない。確かに、奴から闇の力的なのが溢れている感じがするが、嘗ては俺達側にいた人物なのだから…。それと、正体を隠す気はないようだが、未だにマスクはしている。
「永守さん、ゲイムキャラさんを返してほしいです!」
「ああ…コンパちゃんの為なら、返すっちゅ!いくらでも、今すぐ返すっちゅ!」
「…持っているのは俺だが…。」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ、この発情ネズミがっ!はいそーですかって事で渡す訳ねぇだろが!そーだろ?」
だが、次の瞬間驚くべき行動を目にする。なんと、獨斗がゲイムキャラをこっちの頭上あたりに投げてきたのだ。
「な…!!」「ああ…!!」
ゲイムキャラは、ネプギアの1、2歩あたりに落下するように落ちていく(何故かリンダが驚いている…打合せしてねぇのか?)。それと同時に、俺の足も動いていたが、一番近くにいたREDとスミレの方が早くネプギアの前に立っていた。何故なら…。
「わぁ!!」
「危なかった…。まさかゲイムキャラを釣りに使うなんて。」
「もー!なんでこんなことするのかな!!」
ネプギアの前に立っている二人の前には、あの円月輪のように使っていた帽子が落ちていた。むしろ、ネプギアに対して強烈な殺気を出していたからか、アイエフもネプギアの前に立とうと動いていた。ゲイムキャラはネプギアがしっかりキャッチしている。
「永守…!アンタ、自分が何したか分かってるの!!」
「犯罪組織として、女神を殺す…。当たり前のことだ。」
殺す…。獨斗を知っている人物からしたら信じられない言葉だ。奴は、倒すとは言うが、殺すとかは早々言わない人物だ。だが、今のアイツは平然と殺害予告をしてきた。
「殺すって、アンタって奴は…!」
「おいおいおいおいおい!てゆーか、なんでゲイムキャラ返してんだよ!!」
「女神が来たら、返す指示っちゅよ?」
「はぁっ!?聞いてねーぞ!!」
「聞いてないのが悪いっちゅ。だから下っ端って言われるっちゅ。」
「ああ…聞いてねぇアタイが悪いかもしんねえが、テメェに言われると二割増しムカつくぜ…。」
どうやら、俺達が来たら元からゲイムキャラを渡す予定だったようだ。だが、それを釣り餌に使ってくるのは予想外だったのは確かだ。
「あの、大丈夫ですか?痛いこととか…されてませんか?」
≪はい、私は平気です。有難う御座いました、女神候補生。≫
「わ、私のこと知ってるんですか?」
≪貴女の中から、他のゲイムキャラがいるのを感じます。それに…。≫
パチンッ
そんな指を鳴らすような音が聞こえる。音のした方を見ると、獨斗が指パッチンをしていたのが分かる。それと同時に、後ろから走ってくる音がする。軍のような迷彩柄服にフルフェイスマスク…まるでゲ〇ム兵のような奴らが20、30人と来た道を阻むよう銃を向けてくる。
「テメェ等、勝手に話進めてんじゃねぇぞ!タダで帰すと思ってんのか?」
「そんな訳ないよ!最初っからボッコボコにするつもりだもん!」
「チカを誘拐した上に騙して、そしてリーンボックスをめちゃくちゃにした…。少々好き勝手やり過ぎたのだから、覚悟して貰うわよ。」
「二人とも、凄い闘志ですぅ。」
「まぁ、これだけやらかしたら、もっと痛い目見ないとダメそうね。」
一応、その考えには同感だ。とは言え、獨斗は奴らに賛同しているのかが分からない。
「すまねぇが、奴は俺に遣らせてくれ。」
「…勝算はあるの?」
「奴には借りがある。」
「まぁいいわ。その代わり、あの下っ端とネズミが片付いたら加担するわよ。」
「ああ。」
アイエフとそう交わしつつ、ネプギア達と下っ端事リンダの6対2、そして、3年前の特訓での付き合いや模擬戦では、一度も勝ったことのない獨斗との1対1で挑む。
「一人で挑む気か。」
「できれば、アンタとは戦いたくねぇが、一つだけ教えてくれねぇか。何故、女神を裏切るような…犯罪組織に居やがる。」
「…当ててみな。南の国に招待するぞ。」
どうやら、答えるつもりはないようだ。ま、端から分かってたこどだがな。
「ハーミット様、援護します!」
「銃を下ろして下がっていろ。お前達は邪魔をするな。向こうにだ。」
「しかし…!!」
「向こうはサシで勝負する気でいる。ならば、それに答えるまでだ。」
これ程、奴が有利な条件を下ろしていく。有難いが、自ら不利になるような状況に追い込んでいるのか?さっぱり分からねぇ。まぁ、こっちとしては有難ぇ事だ。そして、ガンマンが撃ち合いの決闘をするかの如く、お互いに立ち会い武器を身構える。向こうは、SAAと変身後にしか出せないはずの影剣を携えている。
「行くぞ!」「来い…!」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!