超次元ゲイムネプテューヌ~闇夜の円舞曲~   作:KeyMa

46 / 83
Scene42 記憶は突然に~Revive~

 

 

【リーンボックス:教会裏】

 

「確かに、完璧な変装だ。…声以外はな…。」

「うっせ!声帯変換機を作ってる暇はなかったんだよ…。」

 

目の前にいるリンダは、誰がどう見ても完璧な教祖チカそのものだった。残念ながら、声帯変換装置は小型化に間に合わず、地声で何とかするという事になった。

 

「…しかし、女神達を足止めさせるにしては、派手にやり過ぎだ。万が一死人が出てしまったらどうする心算だ?」

「アタイがやった訳じゃねぇんだ。そこは加担してる奴らに言えっての。そもそも、テメェの正体がバレてんじゃねーかよ…そっちこそどうする心算だよ。」

「私は火葬屋か何かか?そっちの方は少し予定が早くなったまで…計画は続行だ。」

「そうかい…。まあいい、アタイは戻るぜ。面倒くせぇが、誰かが来た時の対応しなきゃなんねぇからな。」

 

そう言いつつ、リンダは教会の方へと戻る。そして、黒装束に身を包む俺は…顎に手を当てて考える。

 

「(爆発した飛空艇に奴が居たとは…行動力はネプテューヌ並と考えてもいい。)」

 

居合わせていた訳ではないが、偶々飛空艇の爆発を見てしまい、影潜りで飛空艇内部に侵入した後、ジンが飛空艇の床に倒れていたのを見つけた。救出した後、再び影に潜り込み事が無かったように立ち去る。情報源として手土産と盗聴器を入れておいたが、盗聴先の会話で奴が“記憶喪失”になっている事を聞く。しかし、口調とかを聞いた限りでは、完全な記憶喪失という訳じゃなさそうだ。

 

≪ん?ねぇジン。首元に何かついてるよ?≫

≪…あ≫

≪失礼するわ…これは、盗聴器…!?≫

 

次の瞬間、盗聴器が壊れるような音が聞こえ、盗聴先から音が聞こえなくなる。まぁ、バレるのは時間の問題だと考えていから仕方ない。しかし、再び考えてみる。記憶喪失になるには脳震盪や心的外傷によるPTSD等が考えられる。だが、外傷どころか、強打された跡や出血は見られなかった上に、心的外傷を起こすほど軟でない…となると、記憶があったりすれば、厄介ごとになると言う人物がいるという事になる。だが、記憶から該当する人物が浮上しない。そんな事を考えていると、無線機から連絡が来ている。

 

≪貴様の言う通り、犯罪神様に異質なのが混ざっていたのを確認した。≫

 

連絡相手は、マジックからであった。犯罪神ユニミテス…お浚いになるが、嘗てゲイムギョウ界を混沌に陥れた存在。その力は自分一人で戦って勝てるか分からない程。しかし、現在進行形で異質な力を放ち続けている。それは、自分に良く似た、数年前に戦ったことのある奴に酷似した力を…。

 

≪だが、計画に変更はない。引き続き、貴様の好きなように女神と戦え。≫

「変更は無しか。」

≪…我々の目的は、犯罪神様の復活。そこには、女神が死ぬか、我々が死ぬか…それだけだ。例え、本当の犯罪神様でなくてもだ…。≫

 

好きなように…か…。

 

「人質を取られている奴に言う事か…。」

≪やはり、貴様は気にしているのか。≫

「まぁな。…一つ聞きたい事がある。飛空艇を爆破した奴がいるそうだが、誰がやったか心当たりはあるか?」

≪いや、我々は悪魔で直接対決を望んでいる。不意打ち等あり得ん。≫

「…それを聞いて安心した。引き続き、やるべき事をやる。」

 

そうして無線機を切る。確信は無いが心当たりが一つ増えた。それでも、俺には今、役割というのがある。…だがその前に、確認しなければならない事がある…。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

【リーンボックス:ガペイン草原】

 

どうやら…偉く頭を強打されたようだ…たんこぶは無いが未だに痛む。俺は医務室みたいなところに運ばれ、周りには俺の事を知っていると言う女性達から話を聞く。俺は飛空艇に乗って“リーンボックス”という所に来た。そして、レースライダー姿の子が言うジンとは、恐らく俺の事らしい。だが、俺は何故こんなところに居るのか、どういう理由で来たのか全く思い出せねぇ…。頭を強く打った拍子に記憶を失ったと考えた方がいいのかもな。

 

それから一晩休み、翌日の昼過ぎにリーンボックスのダンジョンの一つであるガペイン草原という所に来ており、特命課の任務として、ケイブさんと、スミレさんと同行している。因みに、午前中は俺がこの世界が今現在どうなっているのか、俺が何故プラネテューヌの女神候補生である“ネプギアさん”と、旅をしているのかを簡単に説明を受ける事となる。ケイブさんの話によると、ここガペイン草原は、元々リーンボックス内でも比較的安全なダンジョンであり、初心冒険者が実力を上げるだけでなく、ベテラン冒険者が新米を育てる為の練習場でもあった。しかし、リーンボックスのシェアの低下だけでなく、数日前に教祖のチカさんが、犯罪神崇拝の許可が相まって、今や中堅、上級冒険者じゃない限り立ち寄れない程に、モンスターが狂暴化していると言う。ケイブさん曰く、秩序が乱れようとも国民の生活水準を上げる為の苦渋の選択だと言う。スミレさんもそれには同意している。一応今回の調査も教祖のチカさんの依頼によるものだ。…ただ、俺の顔を見るや、急に焦るなり落ち着きがないように思えた。

 

「モンスターをリーンボックスに入れさせないと言う事もあるけど…リーンボックスのシェアを回復させ、再び活気あった時に戻す…それが、私達がやるべき事よ。」

 

そうケイブさんは、ダンジョンに行く前に語る。記憶が吹っ飛んでいる俺からしたら、あまりピンと来ない。戦う事で活気が戻る…この世界の仕組みだと分かっていても理解し難い。…だが、完全に記憶が吹っ飛んだ訳じゃねぇようだ。理解は出来ないが、胸の奥底にそれに共感しようと言う気持ちがあるように思える。そもそも、最初このダンジョンに同行する事はケイブさんとスミレさんに止められていた。だけど―――――

 

「血生臭い感じじゃねぇが、俺の過去には戦う事が正義であり使命だと感じている。それが俺の本性ならば、戦いの中でこそ記憶が蘇るに違ぇねぇ…。」

 

それで、二人が同行する事で渋々承諾し、実力を見ることも含めここに来ている。また、スミレさんの話によると、俺は彼女に色々戦う為のイロハを教えていたらしい。

 

「私の戦い方を見ていれば、思い出せるのではないでしょうか?」

 

という信憑性は薄いものの、何かに切っ掛けになる可能性はあると思い、俺もそれには納得する。そして、ガペイン草原に出現している“ひこどり”、“ひまわりん”、“カボチャもん”と言った見た目が可愛らしいモンスターと渡り合う。完全に記憶が吹っ飛んだわけではないと言った通り、体はある程度、戦う為の方法が染みついているのか迫り来るモンスターを所持している短剣や斧で切り裂いていく。一方、スミレさんは弓を構え、的確にモンスターの弱点と思われる場所に矢を当てていく。ケイブさんは二枚刃剣のような大鋏で、モンスターをすり抜けていくように切り裂いていく。…まぁ、何故俺はこんな短剣や斧を複数持っているのか分からないが…。

 

「…確かに、動きは何処かぎこちない感じはするものの、中堅冒険者として捉えるなら問題ない感じね。」

「それでも、私の知っている戦い方とは違います。私が覚えている戦い方は、その腰に備えてる鞭を主体として戦っていました。」

「…この鞭が主力?」

 

そう言われつつ、腰に身に付けている縄上の鞭を手に取ってみる。確かに、手に馴染む感じはするし、何か力が秘められているのは分かるが、俺は調教師やドSじゃねぇから、どうも扱う事に抵抗が出てしまう。本来の俺がこれを振り回しているのを想像してみたが…うーん、どうもしっくり来ない。

 

「それはさて置き、貴方の協力もあってモンスターの数は減ってきているわ。…最も、特命課所属で行動出来る人が少ない事に変わりはないのだけれど…。」

「…そんなに酷ぇのかよ。」

「ええ…今はスミレの御陰で、2人で協力し合ってはいるけど、実質特命課で動けるのは私1人と言っても過言ではないわ。」

 

…他人事のように聞いてはいるが、深刻な人数不足だという事が伺える。もしこれが企業だったら頭を抱えてしまう程になっちまうな。それから暫く先に進み、目的の場所に着く。

 

「あれが、チカ姉さんが言っていた討伐対象ですね。」

「エレメントドラゴン…。ここに住み着くようなモンスターではないはずね。」

 

どうやら、ガペイン草原で初心冒険者を悩ましている存在が、目の前にいる“エレメントドラゴン”というモンスターらしい。確かに、見た目はファンタジーに出てきそうなごく一般的な龍と思える存在だ。それでいて、危険種という上位モンスターでないと言う。確かに、そんな存在が初心者マップにいるんじゃ、初心者泣かせになるな。

 

「スミレ、いつも通り私が前衛に出るわ。貴女は女神化して一撃必殺をお願い。ジン、貴方はスミレの護衛をお願いするわ。」

「…一人で前衛に出て大丈夫なのかよ。」

「大丈夫。いつも通りやれば、僕達は無傷で終わりますよ。」

 

スミレさんが女神化を始め、プロセッサユニットというのが装着される。その姿にドキッとする。先程の恰好とは違い、露出は少ないが見事なプロポーションで、レオタードのようなスーツがそれをより一層強調させている。彼女等にとってはこれがいつも通りの戦術なのだろう。そう思っている内に、女神化したスミレさんが、光る弓を構え、矢を射る構えを取り、ケイブさんがエレメントドラゴンに正面から向かっていく。エレメントドラゴンがケイブさんに気付き、口から多数の炎の玉を吐き出す。

 

「その程度の弾幕で、私を捉える事は出来ないわ。」

 

ケイブさんの回避技術は、当に芸術と言っても過言ではなかった。散弾のように吐かれる炎の玉に対し、ギリギリの隙間を見つけてその穴を通るように回避していく。

 

「沈みなさい…。」

 

弾幕のような攻撃を回避しつつ、エレメントドラゴンの首元を横切るように、持っている鋏を切り裂くように振りぬく。その攻撃を受けたエレメントドラゴンは首を上に向ける。

 

「…貰った…。」

 

女神化したスミレさんが矢を放ち、エレメントドラゴンの手前で矢が3つに分裂する。それが顎、首、胸に刺さるとエレメントドラゴンが、モンスターを倒した時同様、大量の結晶片となり消えていく。それを確認すると、ケイブさんがこっちに戻ってくる。

 

「流石ねスミレ。前衛も後衛も問題無さそうね。」

「もう、大丈夫。修行の成果、出てきている。」

 

さっきと打って変わって、まるで機械のような喋り方をするスミレさんだが、女神化すると態度とかが変わると聞いているから、そういう風なのだと受け取る。しかし、何かが突っかかるような感じはあった。そんな事を考えていると、女神化状態のスミレさんが話しかけてきた。

 

「何か、閃いた…?」

「…いや…思ったよりは…。」

「………。」

 

何処か残念そうな顔をしている。恐らく、戦闘風景を見れば思い出せると踏んでいたのだろう。“さぁ、戻ってチカに報告するわよ。”とケイブさんが言い、スミレさんが女神化を解除しようとした時、ケイブさんの足が止まる。

 

「あ?どうしました、ケイブさん?」

「待ってスミレ…そのままでいて。」

「………、何か…?」

「…そこに隠れてないで出てきなさい。ずっと見ていたわね…。」

 

ケイブさんがそう言うと、直ぐ近くにある巨木の裏から人が現れる。

 

「特命課だけあって流石だ。そして、女神候補生スミレ…3年前と打って変わって腕を上げたな…。」

 

その巨木の裏から出てきた人物、まるで暗殺者ですよと言ってもいい恰好をしている。そして、顔をマスクで隠しており、ボイスチェンジャーを使っているようで、機械合成の声で話しかけている。それを見たケイブさんとスミレさんは、その人物に対して身構える。

 

「貴方ね…ガペイン草原入口からずっと付けてきたのは。」

「…何者…?」

「タダの見学者だ。」

「その恰好では説得力はないわね。」

「だろうな…。」

 

俺から見ても、その人物は異質な雰囲気を出しているのが分かる。だが、この人物を見た途端、何か引っかかるものが増えていた。

 

「…で、あんた…何者だ…?」

 

それを言った途端、その人物は俺の方に首を向ける。

 

「な、なんだよ、俺の顔になんかついてんのか?」

「………。そう来たか。」

 

…やはり…?一体こいつは何を言ってるんだ?そんな感じでキョトンとしていると、俺の足元にナイフが刺さっているのを見る…

 

「…な!!」

 

が、そのナイフを見ると同時に、俺の体は地面に吸い込まれていた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

私の目の前で、突如地面に刺さったナイフに驚くと同時に、ジンさんが地面に吸い込まれているのを目撃する。そのナイフの出どころも見ている為、女神化状態の私は、黒服の男に向けて矢を射る。

 

「!?」

「…確かに腕を上げたな。並の相手なら受けてる。」

 

その黒服の男は、右手で私が放った矢を根元から握って受け止めている。

 

「暫く、ジンを借りる…また会おう。」

「待て…!!」

 

その男がジンさんの事を知っている事にも驚いたが、逃げ出そうとする為にもう一度矢を放つが、その男はジンさん同様地面に吸い込まれるように消えて行ってしまった。

 

「消えた…!!」

「待ってスミレ…深追いは禁物よ。それに、あの転送的なの…何処かで見た事があるわ…。一度戻って、チカに報告すると同時に、資料を調べるわよ。」

「………。」

 

その言葉を聞き、女神化を解除する。ジンさんが誘拐されたに等しいけど、僕もあの転送法には見覚えがある。そう考え、ジンさんの無事を祈りつつ、ガペイン草原を後にするのだった。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

「うぉ…!!」

 

足元から吸い込まれたと思った次の瞬間、急に風景が変わると同時に、上に押し出されるように別の場所に出てくる。周囲を見渡すが、黒い壁に黒い天井、黒い床…当に何もない空間だ。そして、目の前にさっきの男が同じように現れる。

 

「アンタ、初めて会う俺に一体何の用があるってんだ。」

「…初めてではない。」

「なんだって、俺の聞き間違いか?」

「いや、お前とは何度も会っている…数年前からな…。」

 

目の前に居る男が、此方に向きつつ歩いてくるのを見るや、俺は短剣に手を添えて身構える。だが、向こうは歩みを止める気は全く無いようで近寄ってくる。

 

「武器を納めろ。お前と戦う気はない。」

「そう言って油断刺せる気か?見た目からして、どう考えても犯罪組織の一人にしか見えねぇよ。」

 

そう言いつつ俺は短剣を持って、目の前の男に戦いを挑もうとする。そして、短剣を水平に突き刺すように振る。…だが、その振る腕を捕まれた上に、護身術のような動きで持っている短剣を打ち落とされる上に突き放される。

 

「く…!?」

「動きは速いが、記憶喪失前とは比べものにならない程落ちている。」

「アンタ、一体何を知ってるってんだ…!」

「説明しても時間の無駄だ。このまま女神と一緒に居ても一生記憶が目覚める事はないだろう。…そういう呪いを受けているのだから。」

「呪い…?」

 

呪いと聞いて驚きを隠せない。俺…死ぬのか?

 

「生死に関わる事ではない。だが、お前が居ると目障りだという人物が居る。」

「俺の存在が目障りと思う人物…?」

 

そうすると、目の前の男が左手を俺に差し出してくる。

 

「握れ。」

「握ってどうするんだ…まさか、記憶を直すと?」

「大体合っている。お前にある呪いを打ち消し、記憶を掘り出す。一瞬であらゆる事がフラッシュバックのように襲いかかる。最悪、後遺症が残る可能性がある。だが、さっきも言った通り、このままではお前は一生記憶をなくしたままになる。それも、日が進むにつれ記憶は無くなっていく。」

 

確かに、一生記憶を失っているのも…自分が誰なのか分からないまま死ぬのも、正直言って負に終えない。しかも、男の話の通りであれば、俺は日に日に記憶を失う事になるらしい。そいつだけは勘弁だ…。俺は男の左手を握る事にした。

 

「…いいんだな?」

「ああ、構わねぇ…。それに、アンタなら問題なく出来るんだろ?」

 

そうして、男は右手を眉間辺りに当てて何かを念じるように構える。

 

「…!?あ…ぐ…ぅ…!!」

 

まるで、フラッシュバックの如く俺の脳内に情報が流れてくる感覚になる。ある女性と冒険していた記憶。ある町で男と出会った記憶。そして…。

 

「うぅ…はぁ…はぁ…俺は…。」

 

余りにも急激な事で脳が追い付いていない感覚に陥り、崩れてしまう。俺は…俺の名は…ジン…。そうだ…俺は…。

 

「お互い、死んでも失うものはない。だが、お前には未来があり、それを切り開く道標にもなる。…頼んだぞ、ジン。彼女等の手助けをしてくれ…。」

 

その言葉を聞き終えると同時に、俺の意識は遠のいていく…。一体、お前は…何を隠しているんだ…。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

…記憶が蘇るの早くね?っと思う人もいるかと思いますが、自分が知っているアニメでは、ある1話の中盤で記憶を失い、次の話の前半で蘇るというのを見ているので、ありかなとは思っております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。