Scene28 変わりゆく日常~Change World~
あのバカンスから数日後、俺は日本一と一緒に各国を渡り歩きつつ、クエストをしてシェアの会得に貢献している所だ。そう、何不自由なく、何時も通りの事をしているだけだ。しかし、そんな日常が壊れていく事など…況してや、この世界であんな状況になるなど思っていもいなかったからだ。
「………。何か、最近変じゃない?」
「ああ、俺も思っている所だぜ…。」
それから数ヵ月が経ち、ある事に気づいたのだ。ここ数ヵ月、各国の女神を見ていない。正確には、女神候補生のみの活動報告のみで、女神の活動報告が途絶えている事だ。女神通信という情報が全く更新されていない事に、周りの人達もざわついている状況だ。あの更新頻度の高いベールさんすら、更新が止まっているのだ。そして何より、プラネテューヌは女神候補生の活動報告が全くないという事だ。あの真面目なネプギアからの報告が出てないという事だけでも可笑しい。更に不思議な事は、ゲイムギョウ界の中心部分であろう場所。プラネテューヌ、ラステイション、ルウィーでは山に囲まれているから見る事は出来ないが、リーンボックスからは見る事が出来る。そう、なんだか禍々しい感じが漂っている。
「一体何が起きてるんだろ?」
「俺に言われても、俺が知りてぇくらいだ。」
「ん~…、こういう時は、女神様に何かあったのかな?」
「まぁ、それが無難だろうな。」
そう言って、リーンボックスの教会へと向かう事にした。
【リーンボックス教会】
「こっちの資料は終わったぞ!」
「そっちの資料はどうなっている!」
「次、次、次!!」
「………。なんだか慌ただしいね。」
「ああ………。」
特に問題も無く、リーンボックスの教会へと来た。だが、違和感があるのは確かだ。妙に慌ただしいと言うか忙しいと言うか…。そんな中にスミレの姿も居た。何時もの服装ではなく職員の服装だ。具体的には、チカさんが着ている職員服の上半身の露出部分を抑えた感じだ。本人曰く“恥ずかしくてあまり着たくはない。”とは言っていたが、着こなしている所を見ると、只事ではないのかもしれねぇな。スミレが居たのに気づいた日本一が、スミレに声を掛ける。
「おーい、スミレちゃーん!」
「あ、日本一さん。それに、ジンさんも…来てたのですね。」
「よう。…どうした、そんな恰好して。」
「えっと…、色々とありまして、ええ…。」
「色々?色々って何?」
「それは…。」
「あら、貴方達は…。」
そうしていると、チカさんが此方にやって来た。
「あ、チカ姉さん。」
「どもっす。この慌ただしさは何ですか?」
「色々立て込んでいる、としか言えませんわね。さぁ、スミレ。次の仕事が入ってるから、グズグズしてられないわよ。」
「は、はい!…すみません。これで失礼しますね。」
そう言って、チカさんはスミレを連れて奥へと行ってしまった。
「結局、この慌ただしさは何なんだろう?」
「ただ、何つーか…はぐらかされた感じもするな。」
さて、どうしたものか…。他の教会に行っても同じ感じではぐらかれちゃうか?首を突っ込んでは行けない気がするが、好奇心により真相を確かめたい気が先立っている。そうなると、当てになるのは…。
「で、どうするの?」
「そうだな…。俺はプラネテューヌに行ってみる。兄貴なら何か知ってるかもな。日本一はどうする?」
「ん~…。難しい話は苦手だから、アタシはこのままクエストを受けるよ。」
「OK。何か分かったら連絡するわ。」
日本一にそう告げた俺は、単身リーンボックスからプラネテューヌへ向かう事にした。嫌な感じが的中しなきゃいいんだが…。
――――――――――――――――――――
【プラネテューヌ教会】
何事もなく、プラネテューヌの教会に着いた。ラステイションに経由する為、ラステイションの教会も覗いてみたが、リーンボックスと同じく慌ただしい感じをしていた。で、プラネテューヌも同じと言ったところか。
「あ、ようこそ。ご用件は何でしょうか?」
「兄貴…じゃなかった。補佐の獨斗さんはいますか?」
「申し訳ありません。獨斗さんは只今、依頼の為外出中…。」
と、職員に話していると、後ろの扉が開く。
「今戻ったぞ。」
「あ、獨斗さん。お客様ですよ。」
「俺に客?…ジンじゃないか。どうした、女神様にダンスの誘いでもしに来たのか?」
「んな訳あるか!アンタに聞きたいことがあって来た。」
「俺に聞きたい事…?」
そう言うと、兄貴は口に手を当て少し考えた後、職員に問いかける。
「何処か、空いている個室はあるか?」
「個室…ですか?…ああ、ここなら空いてますよ。」
「助かる。…付いてこい。」
そう言われ、兄貴に誘導され教会内の個室へと入り椅子に座る。
「…俺に聞きたい事とはなんだ?」
「率直に言うとだな…教会のこの慌ただしさは何なんだ?それと、ここ数ヵ月、女神様を見ていない。」
「………。」
そう言うと、兄貴は黙り込んだ上に舌打ちとため息をする。…何か気に障ったことでも言っちまったのだろうか。暫くすると、何かのスイッチを切るような音と共に、兄貴が口を開く。
「録音機能を切った。お前を信頼して言う。今から話す事を口外しない事。」
「………。」
俺は息を飲む…。エンデの前に立っていた時とはまた違った雰囲気を兄貴から感じる。それだけやばい話なのだろうか。だが、好奇心が勝っている為に俺は頷く。それに続きて兄貴も頷く。
「…いいだろう。」
そう言って、少し溜めを入れ兄貴は話を続ける。
「今、各国のシェアが低下しているのは知っているな。」
「ああ。ギルドで依頼を完了しても減っていく一方だった。」
「…俺もギルドで依頼を熟しているがな…。全ては第三勢力によって拒まれている。」
「第三勢力…?」
「そうだ。そして、各国の女神が候補生しか活動報告がないという事。…いや、プラネテューヌは例外だな。表向きは、ある極秘事項によって教会内に籠っている。プラネテューヌは女神候補生も籠っている事になっている。」
「ああ、そう聞いている。」
「………。実際は違う。」
「な、なんだって?」
「表向きの事は、国民の不安を取り除く為だ。実際には、女神は不在だ。…不在は違うな。囚われている…というべきか。プラネテューヌは、女神も、女神候補生も、今は居ない。」
「…は?」
兄貴の直球ストレートのような発言に、困惑と驚きを隠せない。そう、まるで俺がやって来たゲームのあらすじに近いからだ。ノーマルエンドしかやってないんだがな…。
「………。全ては此奴が原因だ。」
そう言って、懐からある黒い携帯機器を出してくる。
「これは…最近、巷で流行っている携帯機じゃねぇか。」
「そう。これはそのプロトタイプだ。全ては此奴が原因だ。此奴は“マジコン”。第三勢力の“犯罪組織マジェコンヌ”によって生み出された代物だ。」
「マジコンだって…!!」
その名前を聞いた途端、俺は無意識に机を強く叩き立ち上がっている。
「…知っているようだな。」
「知っているも何も、これNG品じゃねぇか!なんで持ってんだよ!!」
「裏社会のルートから仕入れたものだ。アイエフはこの事は知らないが、イストワールは、俺がこれを持っている事を知っている。」
「随分とあっさり言うじゃねぇか…。」
「言っとくが、俺は犯罪組織に貢献はしてないぞ。此奴は対策の為に入手した。」
「ああ、なるほど…。」
それを聞いて内心はホッとはするが、女神が不在というのはまだ聞いていない。
「さて…。ここからは数ヵ月前の話になる。」
「数ヵ月…?」
「女神の活動報告が出なくなったという頃の“前の話”だ。」
そして、兄貴の口から出た内容は、驚くべき事実だった。
――――――――――――――――――――
【数ヵ月前:プラネテューヌ教会】
ギョウカイ墓場から戻って来た俺は、そこで起きた話をする。中央辺りで見た謎の彫刻岩、犯罪組織、そして、ギョウカイ墓場で見た謎の女性による宣戦布告とも取れる内容…。アンチクリスタルは直ぐにルウィーへ届けられたが、その内容が内容だけに会議が行われた。ここからは、その会議から一週間後の話となる。
5人分の転送用シェアエナジーを用意し、万全の準備をした4女神のネプテューヌ、ノワール、ブラン、ベール。そして、プラネテューヌ女神候補生であるネプギアによる編成でギョウカイ墓場に向かい、犯罪組織マジェコンヌを早い段階で壊滅させる作戦を決行する事となっている。最初は俺も同行すると言ったが、簡単に何度も行けるような場所ではない事と、身体の精密検査では問題はないにしろ安静を命じられた。何より、俺に対して女神の面目が!とか言うのもある。
「それでは皆さん、準備は宜しいですか?」
イストワールが5人に言うと、全員がイストワールを見て頷く。確かに、向こうからの宣戦布告に対してそれに答える。そして、それに対して俺も協力をし万全を期して女神の補佐をした。それでも、何処か腑に落ちない…と言うよりは、以前リーンボックスの時と同じ不安な感じが抜けない。
「…大丈夫よ、えい君。パパッと終わらせて、直ぐ戻ってくるから。」
不安そうな表情をしていたのか、俺を安心させるかのように、女神化しているネプテューヌが俺の型に手を乗せて言う。そして、5人はギョウカイ墓場へと転送される。
――――――――――――――――――――
「………。そして、今に至るっつー訳か。」
「そして、今や此奴が当たり前のように普及し、ギョウカイ墓場が浮上してきている。俺の居た世界に比べれば、まだまだ可愛い方だが、状況は最悪だ。主力である女神は囚われ、プラネテューヌは両女神とも不在…。」
信じられねぇ事が起きている。今まさに、この展開はmk2、Re;Birth2のような展開になっている。だが、兄貴なら何とかしてくれるんじゃないかと思っていた。そもそも、この人ならそれが発覚したら直ぐに出向くような人だと思っている。
「…なんで兄貴は助けに行ねぇんだ?」
「ああ…、本当なら直ぐにでも行く気だったが、イストワール…教祖様に無断での戦闘を禁じられている。出兵の許可も下りない訳だ。」
恐らく、4女神でも敵わない相手が兄貴一人で勝てるわけがないみたいな事なんだろう。だが、納得出来てねぇのか、右手を力強く握りしめており、グローブの擦れる音がする。
「………。今話せる事はこれで全部だ。他になにかあるか?」
「いや、もう十分だ…。」
正直、俺もこんな事になるのは予想外であり、未然に防ぐことが出来なかった自分に苛立ちをする。こんな事しても解決しねぇのにな…。
「なんか、悪かった。今日は帰るわ。」
「そうか…。」
そう言って俺は個室から出ようとする。
「一つ、伝えておく。」
「………何をだ?」
「必ず成し遂げるという意思を持て。意志さえあれば、必ず何かが出来る。そして、何があっても目を逸らすな…。」
「あ、ああ…。」
急に兄貴に言われた事に俺は若干戸惑う。何故だろう。まるで何かを覚悟したかのように聞こえてしまう。そして俺に何かを託しているのか?それとも、何か起きるのか?正直今の俺にはさっぱど分からない。そして俺は個室から出て、今回の件は内密にすることにした。
それから数日後。兄貴…もとい、獨斗永守が行方不明になったと言う情報が入った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今回はある意味、第二部の序章に当たるような話の為に、少々短くなってしまいました。そして、内容から分かるように主役が暫く”永守”から”ジン”に切り替わります。