超次元ゲイムネプテューヌ~闇夜の円舞曲~   作:KeyMa

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Scene25 希望~The Moment of Truth~

 

 

 

ズーネ地区の廃棄物処理場にて、ゲイムギョウ界の運命を左右するであろう戦いが始まろうとしていた。ネプギアを筆頭に、今回の主犯であるマジェコンヌ似立ち向かおうとした際、側近と思われる“エンデ”という者に永守とジンが反対方向へ吹き飛ばされてしまう。エンデと同族であるニグーラにより、壊滅してしまった地球、そして死んでいった仲間達の無念を晴らす為、右も左も分からずゲイムギョウ界に舞い降りた永守。転生し新しい人生を歩もうとするも、第二の家族とは言え、エンデにより殺されてしまった事により、エンデに復讐を誓ったジン。幸か不幸か、目的は違えど標的が一緒であり、運命的に出会ったこの二人は、ゲイムギョウ界の運命を掛けた戦いに巻き込まれることとなる。

 

 

 

 

 

そして今、永守とジンは、エンデに立ち向かおうとする………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジンが、マジェコンヌの何かを言おうとした時に、念動力(テレキネシス)に似たエンデの能力により、結界の真上を通り過ぎた先に吹き飛ばされてしまう。

 

「ジン、大丈夫か。」

「イテテテ…すっげぇ吹き飛ばされたけど、俺は大丈夫だぜ。」

 

そう言って、直ぐ立ち上がった俺は、ジンに手を伸ばし起き上がらせる。結界から少し離れてしまうが、辛うじてネプギア達が戦おうとしているのが見える。ここで、ジンが言いかけた事を聞いてみる。

 

「ジン、マジェコンヌの事を知っているのか?」

「ああ、元いた世界にあったゲームの話だがな…。姿形がそっくり、というより本人に違いねぇ…。もし本当なら、奴の能力は“コピー”だ。」

「吸い込んで飲み込んだら、その力をコピーするのに近いな。」

「あ~………。まぁ、確かに似ているが、アイツは触れた物やデータがあればコピーをしてしまう厄介な野郎だ。」

 

 

 

 

 

しかし、そんな会話に割り込むように、エンデが上から降ってくる。なんと、足には骨のようなものが6本生えており、それが着地と同時に地面に突き刺さる。

 

 

 

 

 

「ふぅん…やっぱり君の居た所はクレーターにしておくべきだったかな?」

「な…!?」

「少し見ない内に、妙な変わり方してるな。新手のファッションか?」

「流石は永守…。こんな姿を見ても怯えたりせず冗談を言うんだね。でも、その余裕もいつまで持つかな?」

 

エンデから明確な殺意が出ているのが分かる。腑に落ちないな。最初は俺を仲間にするとか確保とか言いつつ、今は俺に対しても殺意を放っているのが分かる。

 

「俺を仲間にするのは諦めたのか?」

「残念ながら、諦めざるを得ない事になってるからね。本来であれば、呪いの支配を流し込んで契約が完了する…はずだった。」

「はずだった…?」

「そう、はずだったんだよ。まさか女神の力も紛れ込んでいるとはね。紛い物とは言え衝突する力、相反する力…。二つ合わさった時の爆発力は絶大だけど、同時に使用者の肉体も、精神も崩壊させる。いやはや、素材としては最高級だったけど、器としては不合格…。本当に残念だよ。」

「兄貴、俺思ったんだが…。此奴、俺が思ってた以上にやべぇんじゃねぇか…?」

「だろうな。俺達の事を玩具としか見てないようだ。」

 

今まで戦ってきた相手は、狂っているのも居たとは言え、何かしらの目的があっての行動だ。だが、此奴は今まで出会った奴とは明らかに違う。自らの欲望や快楽を得る為には手段を択ばない。気に入った物は溺愛し、気に入らない物は捨てる。それこそ、子どもが玩具を扱うようにだ。

 

「だが、それでも分からないな。」

「何がだい?」

「お前程の力があれば、一人でこのゲイムギョウ界を吹き飛ばす事ぐらい容易いはずだろう?だが、何故人々を…、俺を巻き込む上に、女神達を巻き込んだ。」

 

今更どういう理由があっても、此奴は消さなければならない。だが、幾らサディストとは言え、此奴も何かしらの復讐とかがあって動いてるはずだ…。だが、奴から出て来た言葉は以外なものだった。

 

「なるほど、なるほど。確かにね。僕がどうして直ぐ玩具を壊さないかね…。それはね、復讐だよ。僕を…いや、僕達を作ったにも関わらず、用が無くなったら、ゴミ屑のように抹消しようとした人類に…。」

「おいテメェ、作られたってどういう事だ…?」

「そうだよ、僕達は作られた存在だよ。初代女神によってね。知っているはずだよ。遥か昔のゲイムギョウ界は、女神同士の戦いが繰り広げていた。それこそ破壊の限りを尽くすように…。」

「まさか、お前は“タリ”の…。」

 

タリ…ルウィーで調べた内容としては、今のプラネテューヌから少し離れた場所にあり、初代女神が争っていた女神戦争の中でも常勝と言われており、その勢力は絶大であり他の3女神も中々手を出せなかった国。だが、独裁政治により、重労働は当たり前でありつつ人体や怪物実験も行っており、やがて市民によるクーデターが起きた…記録にはそうなっている。しかし、タリと言った瞬間、エンデの表情が変貌する。

 

「その国の名を言うな!!あのクソ女神は、勝利が確信に迫った瞬間、僕達4人をゴミのように捨てた…。最高傑作とか言っといて杜撰(ずさん)な扱いだよ。」

「待て…、その前にクーデターがあったはずだ。」

「そう、あったねそんなのが。…まぁ、主犯は僕だけどね。その後、誤算だったのが女神達全員が協力し合った事だけどね。その妹と裏切者によって封印される…。全く持って不愉快だよ。そうだよ、君の中にある力がそうだよ…。」

 

エンデはクーデターの事を言いつつ、俺に指を差す。それと同時に俺は右手で自分の胸に手を当てる。俺の中に宿るラリマーハートことセグゥと、闇の力を持つゼロ。まさか…。

 

「そう、それだよ。君の中に眠る二つの力…。憎い二つの力…。タイム・ポータルから戻って来た裏切者は“正義に目覚めたから”とかふざけた事言ってたっけ…。」

「お、おい兄貴。アイツの言ってる事って何だよ…。」

「………。そのままの意味だ。」

 

俺の中に眠る二つの力。エンデを含めた終焉(エンド)を犠牲になりつつ封印した力になる。何の因縁かは知らないが、再びその力が目の前にあるってことになる。

 

「だが、僕はあの間抜けな人間から解放された時に気づいたんだ…。全世界の人類。そう…女神も、人間も、存在する価値すらない!!それが、全世界の真実なんだよ。」

「何だよ…テメェも結局は、今の世の中が気に入らねぇって事か?」

「人間の価値とかは、お前が決めるものじゃない。」

「この世はね…力ある者が正義なんだよ。あのおばさんが言うように、力がある者が全てなんだよ。そうだ…、正義を振りかざすように、僕達を力で滅ぼし封印をした女神や人間、裏切者のようにね。………下らない話はここまでにしようか。」

 

そう言ってエンデは俺を見つつ指を差す。

 

「君に個人的な恨みはないけど、数百年間の恨みを晴らし、破滅へと導いてあげるよ。」

 

そう言って、エンデの両手から赤と黒色の光が出始める。まさか、深紅の石と漆黒の石か?あの石をどうにかしないと勝ち目はないだろう。

 

「ジン。奴を女神達の元に行かせた時点で負け確定だ。ここで食い止めるぞ。」

「きっつぃ条件だな全く。なら、大技を決めてぇから、時間を稼いでくれねぇか?」

「分かった、俺が囮になる。」

 

そう言って俺はエンデに向かって歩く。

 

「へぇ…。何を相談したか知らないけど、僕と一騎打ちするって訳?」

「いや、3人だ。俺の魂、そして女神の加護と、この右腕だ。」

 

そして、右腕をペンダントのある胸元に向ける。

 

「ゾディアーク…解放っ!!」

 

力が溢れると同時に、俺の周囲に黒い光が集まり、弾けると同時に服装が変化する。それと同時に、地面から出て来た2本の黒い霊剣のような“影剣”を取る。

 

「さぁ、始めようか。」

「それが、裏切者から貰った力…。姿は違うけど、能力はそのままなんだね。でも、姿は殺し屋みたい。さて、君は何処まで扱えるのか…な…!!」

 

その言葉と同時に、エンデから無数の骨の槍が放たれる。それを持っている影剣で受け流しつつ接近する。エンデの周囲を周っているジンもしっかりターゲットに入っているが、影剣を投げてそれを阻止する。

 

「くっ…!ちょこまかとしつこいね。」

「何も力を付けてなければ回避は難しいな。だが、今の俺にとってこの単純な攻撃はいなせる。」

「言ってくれるね…!!なら、ギアを上げるまでだよ!!」

 

やそう言ってエンデから放たれる槍の速度が上がる。だが、力は相当なものだが、攻撃方法は至って単純。そこに大振りのような太い骨の槍が迫ってくる。

 

「そこだ…!」

 

その太い槍を回避しながら、エンデに向かって影剣を投げつける。影剣はエンデの顔面目掛けて飛んでいくが、それを弾かれる。だが、俺の狙いはそれじゃない。

 

「残念、急所狙いは分かっていたーーーーー何処だ…!!」

「ここだ…。」

 

にゅるり、と言う感じが合うだろう。そんな感じでエンデの下から現れ、大型マグナムを足元の骨や、足を狙う。

 

「ふんぬぉおおおああ!!」

 

残影…と言うより影潜りに近い、ゼロの能力の一つ。影がある所でなら、影に潜り込み、影を辿る事が出来る。丁度、太い槍の下の影を、影潜りとして利用させて貰った。やはり、至近距離では弾丸を弾くことは出来ないらしい。その弾丸はエンデの体を貫通し、体に穴を開けている。今まで強力な攻撃を受けた事がないのか、まるで素人戦士が初めて重い攻撃を受けたかのような反応をしている。

 

「兄貴、離れてくれ!!」

 

ジンの声に反応するように、俺はジンと入れ替わるように離れる。すると、ジンが経った場所を中心に十字架のような光が現れる。

 

「闇へ還れ…、グランド、クロスッ!!」

 

その声と共に、ジンを中心とした十字架の光が更に強くなり、当たりを焼き尽くすような音も聞こえてくる。その光が収まるとジンの周辺以外は、十字を描くように周辺のガラクタやゴミから焼け焦げたような跡と共に一部が消滅している。俺は変身中の仮面を取り、意識を元の姿に集中させてゾディアーク状態を解除し、ジンの元へ寄る。

 

「見事な技だ。…いや、技と言うよりは魔法か、呪文か。立てるか?」

「ああ、なんとかな。切り札があるなら出し惜しみしたくはないんでね。兄貴こそ、あんな切り札があるとはな。」

「…あれは、切り札と言うモノじゃない。」

「それでも、今はアンタの力なんだろ?」

「あの姿を見ても、引いたりはしないんだな。」

「馬鹿いうなよ兄貴。最初に言ったろ?兄貴の意志があるのなら、兄貴…だろ?」

 

超能力という魔法とは別の異質な能力に加え、人間を辞めてしまったに近い状態の俺を、俺として見るかどうか…。俺は良い仲間を持ったと思う。性格は違えど、暗殺術や感情を捨ててしまった俺を、受け入れてくれた剣士と同じだ。

 

「さて兄貴、次の相手はマジェコンヌだな。」

「そのようだな。だが、俺は奴が死んだかどうか確かめてから行く。」

「何言ってるんだよ。アイツは周囲を見ても見えない。つまり死んだに近い。」

「それでもだ。確認しなければならない。」

「あーあー…分かったよ。満足したら直ぐ来てくれよ?」

「ああ…。」

 

そう言うとジンはネプギア達が戦ている方へ走っていく。俺は銃を構えつつ焼け焦げた周囲を散策する。何もないように見えたが、目を凝らすと何か光っているのが見える。その光っているのを拾い上げる。

 

「…深紅の石…か?」

 

エンデが持っていた錬金術による、賢者の石の課程で生まれた石の一つ。多くの命を生贄として誕生した呪われた石だ。この石は存在してはいけない、直ぐに破壊しなければならない。

 

「………クッ………。」

 

俺は何故か躊躇ってしまう。この石に含まれている魂は、嘗てS.T.O.P.等が守ろうとした市民。それだけじゃない。戦死した仲間の魂も生贄にされている。

 

「………、済まない。」

 

右手に力を入れ、深紅の石を粉々にする。粉々になった石を掌に広げていると、オーロラのようなものが、複数上空に向かっていく。…成仏したのだろうか。その後漆黒の石も散策しようとするが見当たらない。そんな時、後ろの方から悲痛な声が聞こえてくる。

 

「だめぇえええええ!!!!」

「…ネプテューヌか…!!」

 

後ろの方を向くと、結界の色が禍々しい色に変化しているのがここからでも見て取れる。一体何が起きたというんだ。俺は結界の方へ走り出そうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぉおッ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走り出そうとした瞬間。足と胸の辺りから激痛が走る。骨の槍が俺の体を貫通している。後ろを見ると、密着するかのようにエンデがいる。…いや、エンデだったであろう者だ。姿がドラゴンとガーゴイルを足したような姿になっている。

 

「クソっ…気配はなかったのに、何故…生きている…!」

「くくっ、想定以上の深手を負った際、リミッターが外れるようになっててね。もう、人の姿には戻れないけど、手加減も出来ないからね。」

「迂闊だ…通りで、漆黒の石が、見つからない訳だ…。」

「その通り、漆黒の石は今や僕と同化している。それに…これから先、仲間に出来ない以上、君は邪魔な存在だからね。」

「だが、候補生達は、女神化している…。簡単に勝てると…思うなよ…!ぐあ…あ…!!」

 

その言葉に反応するかのように、刺さっている骨の槍を更に深く差してくる。太くなっている分更に抉れていく痛みを感じる。

 

「漆黒の石を、深紅の石と一緒にしないで欲しいね。この石は、アンチクリスタルとも相性が良くてね。この環境は僕にとっては生まれ故郷に近いといってもいい…。」

「クソ…!!」

「しかし、不死身の男と言われていただけはある…。並の人間なら胸を貫かれた時点で瀕死なのにね…。まぁいいや、話にも飽きた…。君の死に様をお仲間に見せないとね。」

「なに…を…?」

「だから、さっさと死ね…!!」

「ぐあぁあああ…!!」

 

骨の槍から複数の刃が現れ、俺は投げ捨てられるかのように骨の槍から引っこ抜かれ結界側へ投げ飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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四女神の妹達が全員女神化し、更にベールの新たなる女神候補生になると誓ったスミレこと、グリーンシスターも含め戦力が大幅に上がった。全員の連携攻撃により、マジェコンヌに攻撃をする隙を与えない一方的な展開となっている。そして、ネプギアの攻撃がマジェコンヌの腹部にクリーンヒットした…。

 

「くくく…今のは中々痛かったぞ。だが、その程度でこの私は倒せんぞ!!」

「ど、どうして…!倒せたと思ったのに…!」

「聞いている感じが少なくなっている…。」

 

全員が決まったと思ったように見えた。しかし、攻撃は一方的に与える事は出来ているものの、その全てが致命打には至っていない。それどころか、スミレが言うように時間が過ぎていく事に、マジェコンヌの攻防が徐々に高まっているように見えている。だが、不安要素はそれだけではなかった。

 

「冷たい…。」

「わたくし、既に感覚がありませんわ…。」

「えぇええ!!」

「そうね、麻痺し始めて来た…。」

「全身を絡め取られる前に、なんとかしないと…!」

 

ネプテューヌ達が囚われている、結界内部に溜まっている黒い液体が、ブランとベールの足元近くまで溜まっていくと同時に、四女神に複数の黒い手のような物体が、まるで能力を吸収するかのように絡まっていく。

 

「ネプ子!!」

「あ、アイちゃん!!」

 

コンパがワレチューの気を引き付けている間に、アイエフが結界に近づく事に成功する。そして、そこに丁度ジンが滑り込むように現れる。

 

「アイエフさん!これは…!!」

「ジン!!…永守は?」

「兄貴は調べ事があるって、まだ向こう側にいますぜ。多分直ぐ来るだろう。」

「あまり時間がないから仕方ないわね。ネプ子!イストワール様からメッセージがあるの!!」

 

アイエフが懐から端末を取り出し起動すると、イストワールが端末上に現れる。

 

≪皆さん、アンチクリスタルの件で大変な事が分かりました…。≫

 

イストワールの口から、アンチクリスタルの正体が開かされる。アンチクリスタルは、触れている、又は結界のような展開されている内部にいる間、女神とシェアクリスタルとのリンクを妨害する特徴がある。それだけでなく、行き場を失ったシェアエナジーをアンチクリスタルに置き換え、密度の濃いアンチエナジー程シェアエナジーを蝕むだけでなく、女神の命も奪うと語られる。

 

「なんだよ…それ…!」

「じゃあいーすん、どうすればいいの!」

≪今の所、対処法はありません。3日程あれば…。≫

「ベール!!」

 

ネプテューヌの悲鳴のような声が響く。アンチクリスタル内の黒い液体が、既にベールとブランの胸元まで溜まっており、その溜まる速度が最初の比にならない程早くなっている。ネプテューヌはベールの手を、ノワールはブランの手を掴み少しでも持ち上げようとする。だが、健闘虚しくブランとベールは沈んで行ってしまう。

 

「だめえええええええ!!!!」

「えっ!!」

「お、お姉ちゃん!」

「そんな…!」

「何なの、あれ…!」

「わ、わかんない…!」

「くくく、アンチクリスタルはああやって女神を殺すのだ。」

 

候補生達は、アンチクリスタルの方に気を取られてしまい、マジェコンヌから放たれる技を直で受けてしまい地面に吹き飛ばされる。アンチクリスタルの結界を破壊する為、アイエフは銃を連射、ジンは鞭やあらゆるサブウェポン、そこにコンパも参戦し巨大な注射器を突き刺す。だが、壊れる気配は全くなく、コンパの注射器の先端が折れてしまう。

 

そんな絶望が近づくように見える中、更なる絶望とも言える光景が現れる。

 

「………。帽子…?兄貴のか…?」

 

ジンの足元に風に流されてくるかのように飛んで聞いた一つのトラベルハット。それは永守が普段から被っているものだった。次の瞬間、アンチクリスタルの上段に何かがぶつかったような衝撃が走り、アイエフ達の目の前に落ちてくる。

 

「がっ…!!」

「え…!?」

「な…!!あ、兄貴…!!」

 

エンデによって吹き飛ばされた永守がそこにいた。腹部、肩、足に鋭利な刃物でズダズダに引き裂かれたような状態になっている。永守は、アンチクリスタルの方に手を伸ばしている。

 

「ね、ネプテューヌ…ノワール…ブラン…ベール…。」

「喋らないで…!コンパ…!」

「は、はいです…!」

 

コンパが永守の元へ寄り、状態を見る。だが、ズダズダに引き裂かれた部分が多すぎる為、外科手術をも困難な状態。しかも、現状では呪術道具もない上にコンパは、応急手当までであり外科手術の資格がない為実行できない。コンパから言わせれば、そんな状態でも生きている方が不思議なくらいである。

 

「ど、どうしよう…このままじゃ、永守さんが…!」

「くぅ…永守、死ぬんじゃないわよ!」

「俺が…最後までいれば…!」

「…!!」

「どうしたの、コンパ…!」

「え、永守さんが…、永守さんが…!」

 

先程まで力強く握られていた手に全く力が感じられず、それどころか力が無くなったかのように手が下がっている。

 

「そん…な…。」

「お、おい…冗談だよな。兄貴…。」

 

だが、全員に更なる絶望とも言える存在が現れる。永守が吹っ飛んできた方向から重々しい足音がしアイエフ達の方へ向かっているのが分かる。そしてガーゴイルとドラゴンを掛け合わせたような姿のエンデと思われる怪物が現れる。

 

『な…!!』

「ふぅん、やっとくたばったんだね。本当しつこかったよ。」

「エン…デ…!きさまぁああああああ!!!」

「雑魚には興味ないよ。」

「あ、足が…!」

 

立ち向かおうとしたジンの足が突如止まり、止まらない冷汗が出ている。恐怖で足が全く動ない状態となっている。

 

「まぁ、女神達も終わったようだし。僕はこの特等席で候補生達が死ぬのを見るよするよ。」

 

そのエンデの言葉を聞き、アンチクリスタルの方へ振り向く。そこにはネプテューヌ達の姿は既に見えず、ただただ黒い液体が溜まっている。ネプギアの悲痛な声がただ響くだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「(どこだろう…ここ…。)」

 

深い、何処までも深いと思うような暗い空間の中、ネプテューヌがゆっくりと目をあけ目覚める。何所を見渡しても、果てしなく続く闇しか見えない。

 

「(わたし、死んじゃったのかな…?)」

 

自分の置かれている環境にふとそう思ってしまう。助けようと思った仲間を助けることが出来なかった上に、自分までも飲み込まれてしまった。そんな先程までの光景を鮮明に覚えているのもあるだろう。

 

だが、微かにだが、力強く今をも生きようとする心音、全身を駆け巡る血の流れをネプテューヌは感じる。

 

「(うぅん…違う、わたしは死んでなんかない…。でも、なんで?シェアエナジーは…もう、届かないのに…。)」

 

 

 

 

 

「(いいや、届いてるさ。)」

「(!?)」

 

突然と聞き覚えのある声のした方へ眼を向けるネプテューヌ。そこにいるはずもない永守がいた。それだけではない。知らない二人もおり、ノワール、ブラン、ベールを導くように集まり、ネプテューヌ、ノワール、ブラン、ベールは互いに手を繋ぐ。

 

「(これは、一体…?)」

「(わたし達、アンチクリスタルに飲み込まれて…。)」

「(ええ…それで終わったかと…。)」

 

四女神全員が、今の状況を飲み込めていない感じである。飲み込まれて死んでしまったと誰もが思っていたからでもある。

 

「(えい君、どういう事なの?それに、その二人は?)」

「(ああ…この二人は…)」

「(いいのですよ、永守。私達は、名乗る程の者ではありませんし、今や存在してはいません。)」

「(そうだな。今や永守の一部だからな。)」

 

名乗ろうとはしなかったが、4人は何となくだが察した。永守の今の力の源となっているのは、この二人が関係しているのだと。そして、手を繋いでいて気が付く。失っていたシェアエナジーが体中に流れ込むような感覚を、そして感じる温もり…。

 

「(暖かい…。)」

「(力が戻ってくる感じ…。)」

「(癒されますわ…。)」

「(………。そっか、わたし達…。)」

 

ネプテューヌ達の体が光り出し、闇の中にある一つの光のように周囲を照らす。

 

“絆”という名のシェアエナジーと共に…。

 

「(行ったか…。)」

「(流石ですね。今の女神達は強い…。)」

「(永守、また無茶をするつもりだな?)」

「(ああ。覚悟は出来ている。)」

「(………。止めはしませんが、貴方も只で済むとは思えません。)」

「(分かっている。だが、この命の炎が燃え続ける限り、今の俺は女神達の進む道を切り開くまでだ…。)」

「(分かりました。但し、貴方が死んでしまったら、きっと彼女達は悲しみます。)」

「(全員生還して、ハッピーエンドを迎える…。それだけだ。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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全員が絶望している中、マジェコンヌが悲観しているネプギアに向かって、斧を振り下ろす。

 

「何…!」

 

だが、マジェコンヌはその振り下ろした撃を受け止められたことに驚く。

 

「馬鹿な…!何故受け止められる!」

 

ネプギアから湧き上がってくる力に驚き、マジェコンヌは後退する。絶望に満ちていたはずの妹達から、希望が溢れているのを察知したのである。

 

「「お姉ちゃん達は…まだ戦っている。永守さんも…!」

「アタシ達だって…。」

「絶対に…。」

「負けない…!」

「何故だ…何故立ち上がる…!お前達の姉は死んだのだ!なのに、何故…!!」

「全身全霊を持って、貴方を倒します!!」

 

次の瞬間、ネプギア達5人から溢れ出る程の光が周囲に充満する。それは、周囲のアンチエナジーを浄化するかのように広がっていく。

 

「こ、これは…!シェアエナジーの、共鳴…!」

「す、すげぇ…。」

「あんなに…。」

「輝いているです…。」

 

周辺か輝きに充満していくと同時に、マジェコンヌのプロセッサユニットに異変が起きる。アンチエナジーが弱まった事より、プロセッサユニットを展開する為の力が無くなっている為崩壊してく。

 

「むむ、これはちょっと予想外だね。流石にこれは動かないと…――――――!!」

 

状況が一気に逆転している為に、エンデも黙っていられなくなった為立ち上がる。だが、エンデの目の前に立ちはだかる人物がいる。

 

『え、永守(さん)!!』

「あ、兄貴…!!」

「………、帽子を………。」

「あ、ああ…。」

 

そこには、仮面が無くフードがはだけている為、白色の髪が(なび)くゾディアーク化状態の永守が立っており、傷跡はあるものの、深手はなくなっている。そして、ゆっくりとだが、確実にエンデの方に歩いていく。

 

「永守…まだ、生きていたのか…!!」

「ああ…。貴様は俺達の悪夢だ。貴様が生きている間は、墓場に言ってもぐっすり眠れない…。」

「………。でも、君に残されているのは、何もない。僕には勝てないさ。」

「あるさ。俺の命の炎がな…!」

 

永守が身構えた瞬間、永守から闇の力だけでなく、シェアエナジーが溢れているのが分かる。光と闇の混合…それは、あらゆる事でタブーであり相容れぬ存在の二つを同時に発動している事に鳴る。今の永守は、爆発的に戦闘能力が向上しており“アイツ一人でいいんじゃないかな?”とも言える雰囲気になっている。だが、同時に体内で火薬を爆発し続けているような状態である。それは即ち―――――

 

「(これは…!力が漲ってくるが想像以上にきつい…。全身が炎で焼き尽くされるような感覚だ…!持って数秒か…。)」

「な…!!永守、何をしているのか、分かっているのか…!!」

「だからこそだ…。貴様を倒す為の、全身全霊の力だ…!………お前達はネプギアの方に行ってくれ。」

 

アイエフ達はただ事じゃない事を察知した為、その場から離れる。そして、永守は持っていたトラベルハットに風の力だけでなく、影の力と女神の力が混合され、白黒に輝く鎌鼬のようなものになる。

 

「くたばれ…!」

「何かと思えば、今更そんな攻撃など防ぐ必要も―――――」

 

エンデの左腕にトラベルハットが通り過ぎた瞬間、エンデの左腕がズレ落ちる。

 

「な、なにぃいいいいい!!!!」

 

リミッターが解除されているエンデは、あらゆる攻撃に対して絶対的防御力を誇っている為に、永守の攻撃による今の光景が信じられないとなっている。

 

「驚いている暇があるのか…?」

「!?」

 

永守は影潜りによって既にエンデの目の前に接近していた。更に、永守の両手足には黒い炎が纏ってありその状態でエンデを殴りつける。一方的な展開であり、オラオラ状態でもある。

 

「ぐふぅ…!」

 

そこには、ボロぞうきんのようになっている瀕死のエンデの姿があった。

 

「バカな…僕は…全世界を喰らうはずの存在が…こんな、ちっぽけな奴に…!」

「人間の底力…舐めんな…。」

「君は…人間ではない…!」

「だろうな…。だが、それでも…俺を支えてくれる、仲間がいる…。」

「だが、僕を倒した所で…、君自身は、何も救われない…!それに、僕は、簡単には滅びない…!」

「そうか…。」

 

そうして、永守はホルスターから2丁銃を抜き、エンデに向けて構える。銃の先端に何かのエネルギーが貯まるように光り出す。

 

「消え失せろ…。」

 

エンデに向けて強力な白と黒のエネルギー波が放たれ、断末魔と共に消え去る。それと同時に後ろの結界が崩壊すると共に大爆発が起きる。爆発が収まると、そこには一つのクレーターが出来ていた。アンチクリスタルの結界、強敵だったマジェコンヌとエンデの姿もなかった。そして、勝利の光とも言える朝日が昇る。勝ったんだ…ゲイムギョウ界を脅かす存在に…。

 

「お姉ちゃん…何処なの…ねぇ…。」

 

だが、喜ばしい事だが妹達の顔は浮かない。そう、助けるべきはずの存在である姉達の姿が見当たらない。そして、離れてろとアイエフ達に言った永守の姿も…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここよ、ネプギア…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝日が照らす上空の方から、聞き覚えのある声がした。そして、絶望から希望へと変わる瞬間でもあった。そこには、女神化して宙に浮かぶ四女神の姿と、パープルハートとグリーンハートの肩を借りているゾディアーク状態が解けた永守の姿もあった。四女神達が妹達の元へ寄り、それぞれ感動の再会とも思う形で抱き合う。無事、全員生還した上でゲイムギョウ界の明日を救ったのだと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~あ…負けちゃったんだ。ま、向こうは向こうで面白かったけど、ここはこれで面白い物も見れたしいっか。それに、置き土産もあるみたいだし、まだまだ楽しめそうだ。」

 

その輝かしい勝利を収めている女神達を、上空から見ている本に乗っている黒い妖精の姿があった。そして、ある黒い石の欠片を持って何処かへ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「シェアクリスタルが燦々(さんさん)と輝いてるよ!」

「ホントだぁ。前と余り変わらないみたい。」

「私も心配はしたのですが、シェアは余り下がらなかったみたいなんです。」

 

あの激戦から数日後、各々自分の国へと戻りシェアエナジーを確認すべく教会に戻ることとなった。あんな写真が出回っていたんだ。影響が出ているか恐れていたが、プラネテューヌは、どうやらそんな心配はなかったようだ。俺の髪が茶髪から白髪になってしまった事なんてどうでもいいことだ。因みに、セグゥとゼロは、今の所俺の右腕に宿っている形になっており、茶髪から白髪になったことを聞いてみたが原因は不明。恐らく、女神化とゾディアーク化と相容れぬ存在の力を同時に使っての、後遺症だろうという事で片付けられる。それ以外は今の所目立った外傷もないが、もう一度使ったら今度こそ心身に影響が出て、廃人になるかもしれないと警告は受けた。まぁ、そんな事はいい。全員が無事、故郷に戻れたんだ。今はそれだけでも十分過ぎるな。

 

「まぁ、これもわたしの人徳がいいからかなぁ?」

「余り期待されてなかったともとれますが…?」

「まぁまぁ、下がらなくて万々歳って事で!」

「とは言え、ネプテューヌさん。仕事をサボった分だけ、下がる事を忘れてはいけませんからね。もう少し永守さんを頼らないようにしないと…。」

「うぐっ…。ま、まぁそれはそれ、これはこれで…。」

「まぁ情報によると、他の国も劇的に下がっている事はないようだな。」

 

それから、他の国のシェアも微々たる程下がっていたが、リーンボックスはあのVRを国民向けに発表し信頼とシェアを獲得。ルウィーは、女神ブランの顔印を模した“ブランまんじゅう”を発表。美味しいとの評判もそうだが、可愛さもあり人気を獲得。ラステイションは、ユニが女神化出来たこともあり、ノワールと共にクエストを熟してシェアを元通り以上にしたと言う。プラネテューヌは…上記の会話の通り何時も通りである。また、宿敵を倒した今、俺はフリーになったが今の所はプラネテューヌに居る予定だ。ジンはまた日本一と、各国を回って正義の元シェアの会得に貢献しているとか。スミレは正式に女神候補生となり、不安はあったが国民からは受け入れて貰えた形となる。各々転生者側も生きる道はある。俺には帰る場所はないが、ここでの出会いは何かの縁だと思い、このゲイムギョウ界に止まる事を決意する。

 

この決意が新たなる戦いに巻き込まれる事になろうとは、この時の俺含め全員が気づくことなど出来なかった。

 

 

 

 

 

 




【用語集】

○アイツ一人でいいんじゃないかな?
 仮面ライダーBLACKRXの”ここはRXに任せよう”という台詞がコラージュされた台詞の一つ。実物は見たことはないが、公式もこの台詞を使ったらしいです。

○オラオラ状態
 ジョジョの奇妙な冒険の、空条 承太郎のスタンド”スタープラチナ”が拳撃の連打時に発せられる台詞のイメージ。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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