ヒトガミ「帰ったらラプラスに襲われるよ(意味深)」
リベラル「へ、変態だー!」
ラプラス「誠に遺憾である」
ついつい感想にあったのをあらすじに使用。ギャグセンスないからアイディア頂けるのは嬉しい限りです。
薄暗い洞窟の中に、ひとつの光源があった。パチパチと小さな音を響かせ、焚き火の前で一人の少女が暖を取っている。
リベラルだ。彼女は思案していた。
もう一度、考えていた。
人神の助言の意味を。
「……駄目ですね。何がしたいのかサッパリです」
一体、どのような考えがあって、リベラルにすぐさまラプラスの元へと帰るように告げたのか。
それに、そのように伝えたのに、物理的に龍鳴山へと戻れないのだ。意味不明すぎるだろう。
もしや、ただ単にからかってきただけではないのかとも思える。
もしくは、こうして悩ませること自体が、目的か。
いずれにせよ、戻れないのだから、ラプラスを待つ以外の選択は出来ない。
「…………」
衝動的にラプラスの元から、飛び出してしまったリベラルだが、別に一人で生きていくことが困難な訳ではない。
ラプラスによって鍛えられた彼女は、十分すぎる生存能力を持ち合わせている。故に、帰らなくていいのであれば、このまま一人で過ごしたいと考えていた。
どうせ、帰れば延々と鍛練をさせられる。今はまだ存在しない『七大列強』のような化物たちと、戦わされることも目に見えている。
何が悲しくて、態々死地へと向かわなくてはならないのか。ヒトガミの使徒に勝てる保証など、どこにもないのに。
それに、あのラプラスでさえも、ヒトガミの使徒に敗北を喫することになる。リベラルがどれほど強くなっても、安心することなど出来やしないだろう。
「……ハァ」
人神の話では、ラプラスはリベラルを捜すとのことだ。己の使命を、より確実にするために。
(捜さないで欲しい…)
それが、溜め息を溢した彼女の、率直な思いであった。
龍族の過去を知っていても、父親の未来を知っていても、命を賭けるのは嫌だった。
リベラルは自由に生きたい。いや、自由でなくてもいい。必要最低限、自身のやりたいことが出来れば、それで構わない。
しかし、ラプラスの役目を引き継ぐのは駄目だ。いや、やはり役目を引き継ぐこと自体は構わないかも知れない。
転生者であるリベラルだけにしか、出来ないこともあるだろう。それならば、構わないのだ。
そんな僅かな一部分だけであるのならば。
しかし――『魔龍王』を引き継ぐのは無理だ。
例え、第二次人魔大戦でラプラスを救ったとしても、ヒトガミは彼を殺すまで延々と手の届かぬ場所から、一方的に攻撃を続けるだろう。
ラプラスを救うことは、実質不可能である。ラプラスが敗北するのは、ほぼ確定事項だ。
もしも彼を助けられるとすれば、それはオルステッドのようにループをするか、テンプレ主人公のような馬鹿げたチートを持つかだ。
ふざけるな。
そんな力があれば、そもそもこんなことになってなどいない。リベラルでは救えないのだ。
そもそも、記憶を失った技神が技の研鑽を続けるので、リベラルが引き継ぐ必要などない。
本来ならば、引き継ぐ必要はないのだ。
だが、ラプラスは違う。
もしも自分がいなくなれば、リベラルが跡を引き継ぐことを願っている。期待されているのだ、彼女は。
その期待が――とても怖かった。
そう、怖かった。
リベラルは、ラプラスの使命を受け継ぐことに耐えられない。
龍神の願い。五龍将の無念。龍族の悲願。父親の希望……。
どうして、彼らの想いを背負えようものか。
その責務に、突き進めようものか。
それら全てを抱えるには、あまりにも長く、重すぎる。
彼らだけではない。その他にも、騙された人々はいる。神々も騙されている。誰もが怒り、憎しみ、悲しみ、嘆き、奪われていった。
それら全ての想いを引き継ぎ、乗り越え、決着をつけなければならない。耐えきれる訳がないだろう。
あまりの重圧に、潰れてしまう。
彼らの歴史を紡ぐには、覚悟が足りなかった。リベラルには、その全てを背負うことなど出来やしなかった。
だって――彼女の背中はあまりにもちっぽけで、たった一人しか背負えないのだから。
「……本当に、どうして、私なんかがリベラルとして生まれたのでしょうね…」
力なく溢す。
人を殺す覚悟をしていても、そんな使命を抱える覚悟なんて、出来る訳がない。
彼女は生まれてから、常々考えてきた。
もしも、ラプラスの娘でなければ。
もしも、使命を背負わなくて済むならば。
未来を知っていなければ。
転生なんてしてなければ。
本来のリベラルであったのならば……。
どのみち、それらはもしもの話でしかない。既に過ぎてしまった話だ。
どれほど拒絶しても、現実は変わりやしない。
「……ん?」
ふと、洞窟の外から音が響く。
そのことに気付いたリベラルは、そちらに顔を向け、警戒しながら立ち上がった。
魔物であれば、撃退するのみ。
野盗でも、同じく撃退するのみ。
静かに構え、耳を澄ませるリベラルは、ひとつの足音を聞いた。
カツカツと一定のリズムを刻み、ゆっくりと彼女の元へとやって来る。
やがて、その音の主は姿を現した。
「……想像よりもずいぶんと早いですね、ラプラス様…」
ある意味、予想通りであったリベラルは、肩の力を抜いた。しかし、まだ彼と対面することに気持ちの整理が付けられていない。
僅かな緊張感を持って、彼女は声を掛けた。
「――――」
そんなリベラルに対し、ラプラスは返事をしなかった。
目を見開き、何かに絶句している様子を見せている。
「ラプラス様…?」
「貴様は…」
「……?」
小さく呟かれた言葉に、リベラルは首を傾げ、
「貴様は誰だ――!!」
瞬間、目にも止まらぬ速さで接近したラプラスに首を掴まれ、とてつもない力で壁に叩きつけられた。
「がはぁ!」
「答えろ…貴様は何者だ…!」
何とかして掴まれた手を解こうと藻掻くも、彼の手は微動だにせず、益々力が込められる。
リベラルは苦しみに呻き、意味なき言葉を溢す。
何故こんなことを?
どうして?
これが人神の予言なのか?
苦しみながらも、何とかこの状況に陥った原因を、考え続けていたリベラルであったが、
「――その魂は…何だ…? リベラルを乗っ取っている貴様は誰だ…? 私の娘をどこにやった…!」
ラプラスの言葉を聞き、頭が真っ白になった。
――――
ロステリーナに見送られ、龍鳴山からサレヤクトと共に飛び立ったラプラスは、まずは元の位置へと戻って行った。
元々、リベラルと合流しようと考えていた場所だ。彼女がサレヤクトとはぐれてしまった場所から推測し、どの辺りでいなくなったのかを、先に調べる。
すると、ラプラスにはリベラルの痕跡や気配が見えた。
僅かに地面に血の染み付いた場所だ。そこから、リベラルは別の方角に進んで行ったことを理解する。
「リベラル…一体どこへ…?」
戦闘があった痕跡は見られない。ただ、己の意思でどこかへ向かったことだけが分かった。
ひとまず、リベラルが無事かも知れないという希望が涌き出ると同時に、どうしていなくなったのかという疑問が涌き出る。
だが、痕跡があるので、捜索は難しくない。
ラプラスは魔眼の力を使い、サレヤクトと共にリベラルの気配を追って行った。
サレヤクトの背に乗り、数時間ほど飛行を続けると、とある山に辿り着く。
名もなき山だ。
特に標高も高くなく、狂暴な魔物が住み着いてる訳でもない。
どこにでも見かける、普通の山である。
そして、その山の中腹に、ポッカリとひとつの洞穴があった。
リベラルの気配は、その先にあった。
ラプラスは迷うことなく降り立ち、サレヤクトに入口の見張りを頼み、中へと入って行く。
「……ふむ」
中を探索しながら、ラプラスはふと昔のことを思い出す。
己が『五龍将』となり、『魔龍王』の名を授けられる切っ掛けとなった事件を。『剛龍王』クリスタルを殺害した下手人を、躍起になって探していた頃のことを。
あの時もまた、魔眼の力を用いて、ここと同じような山に辿り着き、洞窟の中を探索した。
もちろん、その時に引き連れていた部下たちもいなければ、洞窟が人工的でもないのだが。
ただ、なんとなく。
人神に誘導されてしまったあの時と、状況が似ているように感じたのだ。
「……いるな」
警戒しながら奥へと進んで行けば、益々リベラルの気配が強くなるのを魔眼が捉える。
己の娘がいることはほぼ確実だろうと、ラプラスは強く確信した。
「……しかし、何だこの気配は…?」
リベラルが無事だという事実に、安心感で気が抜けそうにもなる。だが、ラプラスは娘のものとは別の、異質なナニかを魔眼で捉えていた。
再び警戒心を高め、更に奥へと進めば、焚き火でもしているのか、揺らめく炎の影が視界に映る。
「……想像よりもずいぶんと早いですね、ラプラス様…」
リベラルは、あまりにも呆気なく見付かった。
心配するのが烏滸がましく感じるほど、無事な姿を見せて。
「――――」
しかし、ラプラスは目の前の事実に絶句していた。
驚きで目を見開いてしまい、心臓が高鳴るのを自覚する。目の前の現実を認めたくない気持ちが湧き出し、思考するのに僅かな時間を要した。
魔眼で見たリベラルの姿は、致命的におかしかったのだ。
ラプラスが魔眼を介して、己の娘を見るのは確かに今回が初めてだった。
そんな眼に頼らずとも、普段から気配の察知は出来る。魔力を感じ取ることは出来る。龍気を感じ取ることも出来る。
だからこそ、目の前にいる己の娘の異常さに気付いた。
外側の力は、普段から感じるものと同じなのに――内側の力は別人だったのだ。
まるで、
何者かが寄生し、力を利用しているかのように歪な魂。
そう、己の娘は、別の“ナニかが成り代わっていた”のだ。
そのことを理解したラプラスは、沸々と煮えたぎるかのような怒りが湧き出し、怒気に身を染める。
「……ラプラス様…?」
不思議そうなリベラルの声が響く。
己の娘と、同じ声で喋っている。
「貴様は…」
「……?」
仕草すらも、同じだ。
その事実に、怒りが止まらない。
憤怒が心を燃やし尽くす。
ラプラスがリベラルと共に歩んだ時間は、たったの百年すら経過していないほどに短い。悠久の時を生きる彼にとって、それは刹那とも言えるほどに、短い時間。
確かに、リベラルとはほとんど鍛練でしか関わっていない。正直な話、ラプラスは己の娘の好物や、好きな物すら知らない。
だが、違うだろう。そんなものは関係ないのだ。己の娘を大切に思うことに、時間など関係ないだろう。好きなことすら知らないが、それも関係ないのだ。
父と娘。
たったそれだけの関係なのかも知れない。
けれど。
それこそが。
何よりも大切な繋がりだった。
「貴様は誰だ――!!」
とても堪え切ることが出来ず、ラプラスは怒りを爆発させた。
凄まじい速度で移動し、驚いた表情を浮かべる、リベラルの姿をした“ナニか” の首を掴む。そして、そのまま壁にあらんかぎりの力で叩き付けた。
「がはぁ!」
痛みによる叫び声を上げていた。
そんなことお構い無しで、ラプラスは首を掴む手に力を込めた。
苦しそうな顔で呻き声を漏らしていたが、力は一切弛めない。
「答えろ…貴様は何者だ…!」
ラプラスは怒気を孕ませた声で、正体を問いただした。
手に込めた力を弛めることはなかった。そんな状態では、答えたくても答えることすら出来ないだろうに。
だが、彼はあまりの怒りで冷静さを失い、そのような些細な事実に気付くことが出来なかった。
「――その魂は…何だ…? リベラルを乗っ取っている貴様は誰だ…? 私の娘をどこにやった…!」
叫び。心からの叫びだ。
使命の為か。父親としてか。
だが、どちらにせよ些事でしかない。その嘆きの結果に、大差はないのだから。
リベラルは、怯えるかのような様子を見せた。唇を震わせ、忙しなくあちこちに視線を動かす。血の気の引いた顔色で、真っ青だ。
傍目から見ても、動揺していることは明らかだった。
「……あ、ぅ…ぐぅぅ…」
「ああ、そうか、私としたことがうっかりしていたね。これでは話したくても話せない訳だ」
苦しそうにずっと呻くリベラル。
ラプラスは力を込めすぎていたことに気付いた。力を弛めると同時に、反対の壁へと思い切り投げ捨て、
「これで話せるだろう?」
「がっ…ぁぁ…」
虫のように感情のない目で、冷徹に見つめた。
「さて、君が何なのか早く答えて欲しい。今なら答えられるだろう。君は答えるべきだ。私の質問に答えてくれ。さあ、早く答えろ。貴様は誰だ? 貴様は何だ?」
まるで、羽根をもぎ取ったトンボを見下ろすかのように、観察していた。なのに一切の隙なく、油断なく、まるですぐにでも処理が出来るように。
壁に投げ捨てられたリベラルは、フラフラと覚束無い足取りで立ち上がる。けれど、恐怖でからだを震わせながらも、口を開いた。
「わた、私は…リベラルです…」
「そんな答えは聞いてない」
ラプラスは再びリベラルへと超速で接近した。そのままの勢いで腹部に掌底を叩き込む。
そんなものをぶちこまれた彼女は、何の抵抗も出来ぬまま衝撃を全身へと行き渡らせ、吐血した。
それだけで済む訳もなく、衝撃によって吹き飛び、奥の岩肌へとからだを激突させる。肉の抉れる嫌な音を響かせて。
「ああぎゃあぁぁぁぁ!!」
絶叫を上げるリベラル。痛みに苦しみ藻掻き、その場でのたうち回っていた。
そんな光景を、ラプラスは黙って見つめる。
…僅かでも受け身を取っていれば、もう少し軽傷で済んだだろう。
あまりにも無抵抗に岩肌へと激突していたことに、場違いにもそう思ったラプラスは、既視感のような感覚を覚えていた。
だが、すぐに雑念だと切り捨てる。
「…もう一度問う。貴様は誰だ?」
「えぐ…ぅ…リベラル…ですよ。ラプラス様…」
苦痛に顔を歪めながらも、ガタガタと足を震わせて再度立ち上がったリベラルに対し、
「――紛いものが私の娘を騙るな!!」
ラプラスは怒声を上げた。
我慢ならないのだ。
このような存在が、己の娘と同じ姿で、同じ声で喋ることに。
彼にとって、リベラルとは宝物だ。
大切なもののひとつ。
それが汚されて、怒らぬ訳がない。
そう、先程から感じる苛立ちは、それが原因だ。原因の筈なのである。
なのに、どうしてか。
偽物の姿が、妙に見覚えのある動きをしていたのだ。まるで、本物をトレースしたかのように、だ。
「私は、リベラルですよ…!」
「黙れ!」
リベラルは何度も同じことを答える。
そのことにラプラスは心を抉られる。
みたび超速で接近し、先程のように掌底を放った。だが、あまりにも不用意で、単調すぎたのか、今回は別の結果となる。
返されていたのだ。
力の
このままでは自身の力を反転されるだろう。ラプラスは中空に吹き飛ばされることを察知し、微かに動く。
刹那の間に、返される
あまりにも圧倒的で、卓越した技だ。ラプラスはそこで止まることなく、カウンターへの反撃を放つ。
「あぐぅ!」
それを避けられる訳もなく、リベラルはまた吹き飛ばされた。受け身を取ることも出来ず、地面をゴロゴロと転がっていく。
ぼろ雑巾のような姿になっていた。
それは、どこかで見たことのある光景だった。
どこだったか。
リベラルだ。
今まで組手をしていた時に見た光景だ。
「あ、うぅ…話を聞いて下さいよ…ラプラス樣…」
今度は立ち上がらない。
地面に倒れたまま、リベラルは声を上げていた。
「私は…生れた時からリベラルですよ」
「ならば、私の魔眼に映る歪さは何だ?」
「……それは…私が……転生、してるからです…」
自白した。
目の前の存在は、言ってしまった。
認めたくない事実を。
「『転生法』か」
「それとは違いますけど…そう大差はないかも知れませんね…」
「……貴様は、最初から私の娘だったと…?」
「そう言ってるじゃないですか…」
リベラルの言っていることが事実かどうか。そんなもの、事実だろう。
神々が存在した、太古から生きてきたラプラスは、だからこそ事実だと理解させられる。
『転生法』とは、龍神が編み出したものなのだ。神が作り出した奇跡の技。人神であれど、そう易々と真似出来ないだろう。
リベラルがいなくなってからの僅かな間に、魂を乗っ取る術など存在しない。
そう――リベラルは最初から
その事実に、心が揺らぐ。
何をすればいいのか分からない。
棘が刺さったかのような感覚を覚えた。
「確かに…私は紛いものかも知れません…」
「そう、だな…」
認めたくなくても、それが事実なのだと、理解してしまう。フラリと力が抜け、頭が白く染まることを自覚した。
あまりにも残酷な現実だ。ただ、その事実を受け入れられなかった。
転生とは、別の生命体を乗っ取るものだ。本来の魂を奪い取り、その者になりすますものだ。
即ち、本来のリベラルという存在は、もういない。
いないのだ。
ラプラスの本当の娘は。
この世のどこにも。
死んでしまってるのだから。
「それでも…私はラプラス様の娘です」
なのに。
それなのに。
弱々しい姿で、けれど強い意思を持って、リベラルはそう言った。
「――――」
上手く物事を考えることが、出来なかった。疑問すら沸き上がることがない。
ここまで思考が停止してしまったのは、初めての出来事であった。声を出すことも出来ず、何かを思うことも出来ず、ただただ茫然とした。
「今までずっと、ラプラス様のことを父親だと思ってましたよ。優しさを見せてくれず、ずっと厳しかったですけど……嫌になって逃げ出してしまいましたけど……」
それでも、リベラルの言葉が心に染み込む。
「それでも、私にとって、この世界で唯一の家族なのですよ…!」
彼女は、ラプラスの娘だ。
全てを失ってしまったラプラスの、唯一の家族。
たった一人の娘。
心が折れてしまいそうになった時に生まれた、一筋の希望。
そんな彼女が、ボロボロの姿で必死に懇願している。
誰がこんな姿にしてしまったのか。
ラプラスだ。
ラプラスが、こんな姿にした。
「――――」
確かに紛いものかも知れない。
魂は歪だ。
本来の魂を乗っ取っているだろう。
それでも、自分の娘だ。
今まで自分が育ててきた娘なのだ。
彼女と共に、今までずっと過ごしていた。
それは、揺るがない事実。
「私にとっての父親は、ラプラス様しか、いないのですよ……」
望んで生まれた訳ではない。
生まれたくて、生まれた訳でもない。
それでも、たった一人の父親だ。
だから。
「だから――ごめん、なさい……お父様ぁ…」
気付けば、リベラルは泣いていた。
顔をクシャクシャに歪めていた。
酷い涙声で、懇願していた。
ラプラスは、己の娘の泣き顔を見たことがない。
鍛練でどれほど傷付こうが。不満を溢していようが。リベラルが泣き出すことは、一度もなかった。
その娘が、泣いていた。
許して欲しいと涙を流して。
どうしてか。
そんなの簡単だ。
ラプラスの娘として生まれたことを、謝罪していた。
「――……」
その姿を見て。
ラプラスは。
「……私は帰るよ…リベラルがどうするかは好きにしたらいい」
煮え切らぬ台詞だった。
それだけを告げて、洞窟の外へと出ていった。
心情の描写がムズいぃ。上手く書ける人ほんと羨ましいなぁ…。