無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

リベラル「ナナホシのグルメ」
ナナホシ「ハフッ、ハフッ」
ペルギウス「美味すぎる!」

おまたせしました。
国家試験も終えたので、何とか投稿。
短いですが、これにて七章は終了です。これ以上やると冗長になる&ほのぼの平和ギャグを上手く書けそうにないためです。
また、今話から八章の間だけ『前回のあらすじ』とあとがきの『Q&A』は一時的にしません。適度な緊張感は必要だよね、ということです。


6話 『ターニングポイント・ヨン』

 

 

 

 リベラルの1日に決まったルーティンはない。

 

 その日ごとに進捗状況を踏まえて研究をしたり、余暇として冒険者の真似事をしたりすることもある。

 とはいえ、1週間という区切りで見れば、固定で行っていることもあった。

 パウロの稽古だったり、ゼニスの治療、ナナホシとの食事や格闘術の伝授だ。

 オルステッドと共に未来への布石を作りに行くこともあるため、彼女が家にいる日もバラバラである。

 

 連絡手段として既に七大列強の石碑を応用した連絡板が作られているため、情報のやり取りは可能だ。

 遠くに行った際くらいにしか使わないため、数日空けてる程度の時は活用されないので、あまり使用はされていなかったのは余談だろう。

 

 本日はパウロへの稽古をしていた。

 流石に成長速度は早くないが、それでも彼は着実に強くなりつつあった。

 

「中々良い動きですね」

「人のことボロボロにしときながらよく言うよ……」

 

 パウロは別に地頭は悪くないため、戦闘理論を教えればそれを活用することが出来る。

 型や思考を反復練習させるような、現代でもよくある練習方法を取り入れて教えていた。

 しばらくしてからは実戦形式の稽古を行い、既に彼を何度か叩きのめした後である。

 

 一番最初に稽古を行ってから数年経過していることもあり、当時に比べて著しく成長しただろう。

 リベラルは彼が既に王級の域に達していると感じており、世界でも上から数えた方が早いほどの実力を手にしたと言える。

 稽古の相手がリベラルであるため、パウロはその実感はあまりないものの、そのように太鼓判を押されて嬉しそうにしていた。

 

「ルディとか知らない間に強くなってたからな。これなら大丈夫そうだよな?」

「近距離からなら流石に勝てるでしょうけど、距離があったら無理だと思いますよ」

「……まじか?」

「現時点で勝てるのは……予想ですが七大列強や魔王くらいでしょう。それでも絶対ではないと思います」

 

 極めた魔術で一番恐ろしいのは、その火力と範囲の広さだろう。

 周囲への被害を考えなければ、オルステッドも魔力を使って全力で戦わねば対処出来ぬほどだ。

 条件さえ整えば七大列強にも負けないだろう。上位陣には勝てないが。

 

 ルーデウスならば広域に地形を変化させることも可能だし、核爆弾のような破壊力のある魔術も放つことが出来る。

 本来の歴史でもミリス神聖国の庭園のほぼ全域に泥沼を発生させることが出来ていた。本気でやればもっと広範囲に効果を出せるだろう。

 それほどの泥沼に対応出来るのも、王竜剣を持つ北神二世くらいだ。後は水神が相手だと、攻撃が当てれないと思われるので、魔力か体力が尽きるまでの耐久勝負になる可能性があるくらいだろうか。

 魔術を使えなければ、そもそも距離を詰めることが出来ないのである。もちろんこれは周囲への影響を考えなければの話なので、そのような戦い方は出来ないのだが。

 

「嘘だろ、そんなに強いのかよ……」

「まあ、ただの予想なので実際にどうなのかは分かりませんが」

 

 こうなれば剣術だけは絶対に負けないようにしよう、と思うパウロであった。

 もっとも、ルーデウスは魔導鎧の製作に着手しているのだ。それが完成すれば近接戦でも勝てるかどうか怪しくなるのだが、それはまだ未来の話である。

 

「あ、リベラルさん!」

 

 と、そこへ話に出ていたルーデウスが遠方からやってきた。

 遠くから手を振りながら歩いてきた彼に、リベラルやパウロもどうしたのだろうかと首を傾げる。

 やがて近くまで来たところで、彼女が先に声を掛けた。

 

「何かありましたか? 態々ここまで来るなんて珍しいですね」

「実は相談がありまして……」

 

 珍しい発言に目を丸くさせながら、リベラルはルーデウスの話を聞いていく。

 聞けば、ブエナ村にいた頃のような悩みを抱えていた。どうやら魔術の成長に限界を感じているらしい。

 現在の彼は、召喚や治癒といったもの以外の攻撃系の属性は全て帝級に至っている。この世界でも五指に入るほどの超火力を持っているだろう。

 そんな彼がまだ更に上を目指したいのかと、リベラルは呆れた目を向けるしかなかった。

 

「神級魔術を扱いたいということですか?」

 

 人族の身では、神級魔術を使うことが出来ない。その身が魔力に耐えきれないからだ。

 もし使いたいのであれば、古代魔族の秘術である肉体の作り変えを行う必要がある。その上で制御するための魔法陣も用意する必要があるのだ。

 

「いえ、流石にそれは求めてません」

「ふむ」

「俺の魔術なんですけど……避けられる頻度が増えてきてるんです」

「なるほど、もっともな悩みですね」

 

 ルーデウスは岩砲弾を得意としているが、電撃を扱うことも多々ある。それでも容易に受け流したり、避けたりする相手がいることも確かだ。

 なんなら、魔物にすら避けられることもある始末だ。少なくとも、Aランククラスの魔物は岩砲弾を避けることが出来た。

 贅沢な悩みとは言えないだろう。

 魔術師は一撃が大きいかわりに、次弾に時間が掛かるのである。一撃を外すことは、大きな隙を見せてしまうことに他ならない。

 

 リベラルは少し悩んだ後、何を教えるかを決める。

 空中に岩砲弾を5つ同時に生成してみせた。

 パウロやルーデウスはそれに驚いた表情を見せる。

 

「同じことが出来ますか?」

「やってみます」

 

 ルーデウスは何とか岩砲弾を生成しようとしていたが、両手で2つの岩砲弾を作ることが精一杯な様子だった。

 原因について、リベラルはすぐに気付いた。

 

「手以外の場所で魔術を発動出来ますか?」

「……もう一度やってみます」

 

 ということで、再び魔術を発動させようとするルーデウス。しかし、それは本来の歴史でのように、発動させることが出来なかった。

 理由についても明白だ。腕から放つものという刷り込みがあり、そこから以外で放てなくなったのだろう。

 リベラルはラプラスによって手からでなくても放てるように鍛えられたため、特に労せず出来る。

 だが、手から放つことに慣れているルーデウスは、そう簡単には出来ないだろう。利き手でない方で箸を扱うように、一夜で出来るようなものではない。

 矯正することは出来るが、努力が必要となるだろう。

 

「これが出来れば両手を自由に動かしながら魔術を扱えるようになりますので、戦い方に幅が広がる筈です」

「コツとかありませんか?」

「慣れるまで時間を掛けて努力するしかないでしょう。やり方のイメージもルディ様なら想像出来るでしょう」

 

 彼女と同じことが出来れば、今よりも実力は格段に上昇するだろう。

 

「まあ、単純に質量を増やしたいのであれば、魔道具を使うことをオススメしますが」

「魔道具……その手がありましたか」

 

 本来の歴史でも使われたルーデウス専用の魔道具。

 いくつもの魔道具を束ねてリミットを解除することで、ガトリング銃のような連射性を持った岩砲弾を放つことが出来る。

 魔導鎧と組み合わせればオルステッドでさえ無傷で凌ぎ切ることが出来ないのだから、その性能と破壊力は言わずもがな知れよう。

 

「どうすればいいのかイメージ出来ました。ありがとうございますリベラルさん」

「構いませんよ。貴方は私の弟子なのですから」

 

 ニッコリと微笑んでみせると、ルーデウスは感動したかのように破顔させ、バッと腕を広げる。

 

「師匠!」

「おお、我が弟子よ!」

 

 2人して抱き合い、茶番を行う。

 

「なに意味不明なことしてんだ……」

 

 それを隣にいたパウロが呆れた表情で見つめてるのであった。

 

 

――――

 

 

 リベラルの居宅にいたパウロたちだが、そのまま解散するということはなかった。

 今度は彼女がパウロの居宅へと向かうのであった。ゼニスの診療のためである。

 道すがら、雑談しながら向かって行く。

 

「ふと思ったんですけど、リベラルさんとオルステッドさんって結局どっちの方が強いんですか?」

 

 ルーデウスがポツリとそのような言葉を溢した。

 以前にリベラル本人からオルステッドの方が強いという話を聞いたものの、やはりオルステッドの実力を見ていない以上ピンとこないらしい。

 それに魔力の回復が遅いことで全力の戦闘が出来ないこともあり、状況次第ではリベラルの方が強いのではないかと思ったのだ。

 パウロはオルステッドと未だに会ったことすらないため蚊帳の外となっているが、問い掛けられたリベラルが一番分かるだろう。

 

「間違いなくオルステッド様ですよ」

「じゃあ、オルステッドさんが全力を出せないと仮定したら?」

「事前準備ありで戦えるなら、私になるでしょう」

 

 これに関しては、以前オルステッドに話した通りである。

 それについては彼自身も勝てないであろうと認めていた。

 

「どちらも魔力無しの純粋な技量対決なら?」

「それは、何とも言えませんね。ただ闘気の使用がありになれば普通に負けます」

 

 技量勝負になれば、初見の技に対応しなければならないオルステッドの方が不利になるだろう。

 以前に教えたばかりなので完全な初見ではないものの、実戦で使われるとなると話は変わる。

 初見殺しが成功すればリベラルが勝てるが、失敗すれば地力の差で負けるという見解だ。

 

 闘気に関しては、リベラルは『龍聖闘気』を使えないため大きな差が開く。

 リベラルの闘気も弱くはないが、光の太刀を防げるほどではない。また、光の太刀を素手で放てるほど硬くもならない。

 その時点でどうしようもない差が生まれるだろう。

 

「まあ、互いに手合わせくらいはしますが、本気でやり合うこともないですからね」

「2人の手合わせ見てみたいですね」

「俺も興味あるぞ」

「パウロ様は呪いの影響を受けるので無理ですよ」

「チッ、仕方ねぇか」

 

 とまあ、そんな感じの会話をしながらパウロの家へと到着する。

 中へと入ると、アイシャとリーリャが出迎えた。

 

「お帰りなさい旦那様」

「おかえりお兄ちゃん! ご飯にする? お風呂にする? それともあ・た・し?」

「馬鹿なこと言うな。リベラルさんも来てるんだぞ」

「あっ、ほんとだ。テヘッ」

 

 今度はリベラルが蚊帳の外となってしまったが、挨拶をして彼女も家の中へと入って行く。

 

「ノルン様はいないのですか?」

「ノルン姉はまだ帰ってきてないよ!」

「そうですか」

 

 そんなやり取りをしつつ、ゼニスのいる場所へと向かう。

 部屋の中へと入れば、ゼニスは車イスに座りながらのんびりと庭の景色を眺めていた。

 入ってきたことに反応はなかったものの、声を掛ければ顔をそちらに向けることは出来ている。

 まあ、いつも通りの様子であった。

 

「ゼニス様、こんにちは。今日も診察しに来ましたよ」

「…………」

 

 このように挨拶をすれば、ゼニスは微笑み返す。

 パウロたちには退室してもらい、リベラルは早速治療するための調整を始めた。

 

 基本的には魔眼を使用し、魔力の流れに合わせて術式の流れも調整していく形だ。

 既に最終段階とも言えるところまで治療は進んでいた。

 今回の調整で、治療するための日にちが決定する。

 パウロたちにはまだそのことを伝えてないため、結果次第でサプライズとして伝えられるだろう。

 

「ゼニス様は、治ったら何がしたいですか?」

「…………」

「なるほど、パウロ様とのデートですか。お熱いですね」

「…………」

「息子と娘たちとも一緒に街を見回りたいですか。ふふ、きっと良いところに案内してくれますよ」

 

 感情を読み取りつつ、会話していく。

 ゼニスは未来の話をするとき、いつも楽しそうな感情を見せるのだ。

 こんな身体になっても、彼女は暗い姿を見せることなく明るい。

 

「……よし、と。今日はこれくらいですかね」

 

 しばらく調整を行い、キリのいいところで本日の診療を終える。

 本当ならば数時間程度ではなく、もっと長い時間行いたいところなのだが、ゼニスの体力の問題もあるので注意が必要だった。

 彼女は主張が出来ない状態なので、毎回決められた時間でやるべきことを行うようにしているのだ。

 

 外で待機していたリーリャへと声を掛け、本日の診察が終了したことを伝える。

 それからしばらくすると、パウロたちが中へと入ってくるのだった。

 

「リベラルさん、お母さんはどうでしたか?」

 

 最初に声を掛けてきたのはノルンだった。

 どうやら既に帰って来てたらしい。

 本日で大体の目処が立つと伝えていたため、その表情はどこか緊張している。

 彼女の後ろに控えていたパウロたちも、同様の表情を浮かべていた。

 

「ノルン様、帰ってきたんですね。しばらく見ない内にこんなに大きくなって……」

「……あの、この前の披露宴でも同じようなこと言ってませんでしたか……?」

「いえいえ、ほんと大きくなりましたから」

 

 ノルンは現在12歳である。

 赤子の頃から見てきたリベラルに取って、確かに大きくなったのは事実だろう。事実だろうが今言うことでない。

 それとは別に、彼女の胸が既に膨らんできている事実に何とも言えない気持ちとなってしまうのだ。

 

「馬鹿なこと言ってねぇで早くゼニスの状況を教えてくれよ」

 

 急かすパウロに謝罪をしつつ、リベラルは咳払いを1つして気を取り直した。

 

「診療とは称してますが、私が行ってるのはゼニス様を直接治療するものではありません。

 神子となった異常な魔力を解決するために必要な情報を収集しているのです」

「ああ、それは前に聞いたからそれは分かっている」

「魔法陣によってその魔力の矯正を行うので、それまではゼニス様が変化することはありません」

 

 何度も治療して段階的にゼニスの魔力を調整してもいいのだが、その方法だと時間が今よりもずっと掛かる。

 そのため、リベラルは一発でズバッと治そうとしているのだ。もちろんリスクはあるものの、それは段階を踏んでも変わらないというのが彼女の見解だった。

 リベラルが行うのは古代魔族の扱う肉体変化にも似ているため、経験や知識の多い方法で行いたいのだ。

 

「それで、どうなんですか?」

 

 ルーデウスの問い掛けに、リベラルは頷く。

 

「半年以内に完成し、ゼニス様を回復させることが出来ます」

 

 その言葉に、その場にいた者たちは息を呑んだ。

 

「……本当か? 本当に半年以内に治せるのか?」

「はい、既に最終段階まで移行してます。後は細かい調整をしてゼニス様の体調にさえ合わせれば、ですね」

「…………」

 

 転移事件が起き、変わり果てたゼニスと再会してから約6年。

 治すのに10年は掛かると言われた。

 けれど、当初告げられた治療予定の日よりもずっと早い年数だった。

 

 パウロは信じられないかのように唖然としつつ、ゼニスへと視線を向ける。

 ヨロヨロと彼女の元へと近付き、その手を握り締めた。

 

「なぁゼニス、後もうちょっとだ。後もうちょっとで治るんだってよ」

「…………」

「治ったらよ、家族で旅行でもしようぜ。ルーデウスも、ノルンも、アイシャも、みんな大きくなったんだ」

「…………」

「後はお前だけだゼニス。お前さえ治れば……バラバラになった家族がみんな揃うんだ」

 

 転移事件が起きてから約8年だ。

 その間、パウロはずっと家族が揃う日を待ち続けていた。

 けれどそれも、ようやく終着点が見えたのである。

 

 そんな彼の傍へと、ノルンとアイシャ、ルーデウス、そしてリーリャが寄り添った。

 彼らは言葉を発することはなかったが、パウロと同様にその日を待ち続けていたのだ。

 そしてパウロがどれほどの苦痛を抱えていたのかを知っているのだ。

 

「すごい……ゼニスさん、本当に治るんだ」

「当たり前です。私に二言はありませんよ」

「それは、良かったです。ブエナ村で過ごしていた時のあの人が戻ってくるのですね」

 

 シルフィエットとロキシーはその光景を見ながら、感慨深そうにそう呟いた。

 2人もブエナ村でのゼニスを知っているからこそ、その言葉には確かな実感がこもっている。

 きっと昔のことを思い出しているのだろう。

 リベラルも情景を感じる。

 

 半年以内で治ると彼女は告げたが、まだ具体的な日数は決まっていない。

 何度か調整を重ねれば、詳しい日程も決まるだろう。

 

「では、私はそろそろお暇しますね」

「リベラル様……本日もありがとうございました」

 

 リベラルは退室し、その場を後にした。

 

 

――――

 

 

 取りあえず、リベラルはゼニスと親しいエリナリーゼにもそのことを報告する。

 彼女は驚きと喜びを混ぜたかのような表情を浮かべ、リベラルにお礼の言葉を述べた。

 当然のことをしたまでなのだが、素直にその言葉を受け取る。

 エリナリーゼは『黒狼の牙』のメンバーにも報告したがっていたが、いないものはどうしようもないだろう。

 タルハンドは放浪してるし、所在不明だ。ギースは言うまでもないだろう。

 クリフも素直に治療出来ることを祝福してくれた。

 

 その後はエリナリーゼの呪いをどうにかするための相談も受け、しばらくそこで時間を過ごすことになった。

 

「ここをどうするかで迷っているんだ……」

「そこはもっとコンパクトに纏めてみてはどうでしょうか。立体構造の魔法陣を利用すれば可能だと思いますよ」

「ああ、そうか! そしたらこの空いたスペースに別のものを入れられるようになるのか!」

「その通りです」

 

 クリフは優秀なため、アドバイスをするとすぐにその意図を理解してくれる。

 そうして順調に開発していく彼の姿を見ていると、きっと本来の歴史ではエリナリーゼの呪いを解消することに成功するんだろうな、という想像をしてしまう。

 本来の歴史とズレている部分もあるため、自分が原因で作成失敗、という事態に陥ることだけは避けなくてはならない。

 

 そんな感じで、エリナリーゼとの関わりの時間も過ぎていった。

 リベラルも呪子といえる存在のため、試着に付き合わされたのはご愛嬌だろう。

 呪子としてのタイプは全く違うのだが、オムツ型の試作品を装着させられることとなった。

 その姿を見たエリナリーゼに爆笑されてしまい、恥ずかしさで死にそうになるのだった。

 

 また別の日には、ザノバの元で『魔導鎧』に関する助言をしたり、ジュリにも魔術のことを教えたりもした。

 魔導鎧に関してはザノバ、クリフ、ルーデウスの3人で協同して作成しているものの、本来の歴史と違いヒトガミの助言がない。

 そのため、リベラルが積極的にアドバイスする必要もあった。

 本来であれば既に完成しているであろう時期だが、まだ出来上がる段階まで来ていない。

 とはいえ、アスラ王国に行く前までには完成する予定だ。

 

「さて、静香の様子も見に行きますか」

 

 ナナホシは日本の味を恋しく思っているため、ルーデウスか自分が会いに行くときには和食を持っていくようにしている。

 今回はおでんを用意していき、空中城塞で温めるという形にした。

 それを食べたナナホシは、頬を緩ませながら匂いも堪能している様子だった。

 

 当然のようにペルギウスも食べに来るのだが、必ずといっていいほどダメ出しを一言付け加えてくる。

 そのため、腹いせに辛子を大量に詰め込んだ巾着を食べさせるという嫌がらせもしておいた。

 キレたペルギウスに襲われるという事態に陥ったが、返り討ちにしたので良しとしよう。

 

「研究の方は順調ですか?」

「そうね……まだまだ時間は掛かりそうだけど、完成には近付いていってるわ」

「ふふ、それはよかったです」

 

 ナナホシは基本的に空中城塞で過ごしており、たまにペルギウスからもアドバイスを頂いているようだ。

 そのお陰で行き詰まることもなく、研究を続けていけてるらしい。ペルギウス本人からも状況を確認しているため、間違いないだろう。

 

「じゃあ、少しばかり運動でもしましょうか」

「……お手柔らかにお願い」

 

 以前に約束していた護身術も忘れず教えていく。

 内容も比較的シンプルなものを選んだ。

 金的などの急所を狙うようなものを教えつつ、それでも対処出来ないとき用のものも教えた。

 一番は逃げ足を速くすることなので、早く走るためのコツや、鍛えておくことで速くなれる筋肉も鍛えていく。

 

 とはいえ、ナナホシは非力なため、それだけでもすぐに息切れしてしまうのは仕方ないだろう。

 そこまでガチガチに教えている訳でもないため、リベラルは文句を言ったりせず優しく教えていくのであった。

 

「ハァ……ハァ……」

「今日はこれくらいにしておきましょうか」

 

 空中城塞はかなり広いので、短距離走をするくらいの余裕はある。

 辛子を食べさせられたりしているペルギウスだが、何だかんだ言いつつその程度のことは許してくれるのだ。

 

「シャワーでも浴びて一緒に汗でも流しましょうか」

「…………」

「ルディ様の家にでも行きますか? それとも空中城塞のを使わせてもらいますか?」

「……いや、何で一緒に入ろうとするのよ」

「いいじゃないですか同性なんですから。何も減りはしませんよ」

「あなたの目つき、何かイヤらしいのよね……」

「ひどい! 私はもっと静香と親睦を深めたいだけなのに!」

「……はぁ、分かったわよ。今回だけよ」

「ありがとうございます!」

 

 その後、お風呂場でじゃれ合ったら静香にメチャクチャ怒られた。

 しばらく口を聞いてもらえなくなるだが、それは自業自得だろう。

 

 

――――

 

 

 そんなのんびりとした日々を、リベラルは過ごしていた。

 そしてその日々の出来事を、記録として纏めていく。

 

「……ふぅ。今日の分はこれくらいですかね」

 

 ブエナ村にいた頃からしていた習慣だ。

 ブエナ村で書いた分の記録は、転移事件が早まったこともあり消失することとなった。

 しかし、ラノア王国に来てからの分はちゃんと保存しているし、龍鳴山で過ごしていた頃のものも龍鳴山にキチンと保存している。

 

 本日分を書き終えたリベラルは、筆を置いて身体を伸ばす。

 凝り固まった骨や筋肉が解れていき、じんわりした気持ち良さが全身を駆け巡る。

 

「今のところは全部順調ですね」

 

 ゼニスの治療に目処は立った。

 ヒトガミの邪魔は出来ているし、逆に布石を置くことも出来ている。

 アリエル関係も順調であり、アスラ王国の問題もこのまま行けば苦労せず解消することが出来るだろう。

 オルステッドの問題に関する研究も少しずつだが、ちゃんと進めていくことが出来ている。

 ナナホシの転移装置も、全て順調だ。

 

 このまま行けば、リベラルは全ての目標を達成することが出来るだろう。

 そして、ナナホシと交わした約束と、ラプラスとの誓いも果たせる日は遠くない。

 

「ふふ、楽しみですね」

 

 ペラペラと、書き記した記録を閉じる。

 そのまま書庫へと記録を戻し――。

 

 

「――ん?」

 

 

 ふと、違和感を感じて振り返った。

 もちろん、誰もいないし何かがあるわけでもない。

 リベラルが座っていた椅子と机、そして記録として書かれた本が乱雑に置かれてあるだけだ。

 

「…………」

 

 何故か分からないが、妙な胸騒ぎがした。

 己の気配察知をすり抜け、誰かがこの場で何かを出来るわけもない。

 キョロキョロと見渡しても、隠れられるスペースがある訳でもない。

 

「気のせいですか……」

 

 リベラルは扉を開けて出て行こうとし、

 

「まあ、誰もいませんよね」

 

 再び振り返ったのだが、もちろん誰もいないのだった。

 そんなことは分かり切っていたことだ。

 

 ここ最近、睡眠をあまり取っていなかったため疲れているのかも知れない。

 そう思ったリベラルは扉を開け、出て行くのであった。

 

 

 

 

 七章 “禍福は糾える神の如し” 完

 

 

 

 

――――

 

 

 分岐点(ターニングポイント)は既に過ぎ去っていた。

 

 とても大切な分岐点だ。

 全ての運命が決まると言っても過言ではなかった。

 だが、既に過ぎ去った分岐点は、巻き戻すことが出来ないのだ。

 

 ヒトガミの力を、私は知っている。

 知っているのに、気付くことが出来なかった。

 

 ヒントはいくつもあった。

 例えば、ルーデウスが剣神に襲われたこと。

 聖獣の様子がおかしかったこと。

 内通者によってこちらの行動が筒抜けになっていたこと。

 

 他にもたくさんあった。

 なのに、私は、私たちはそこから答えを導き出すことが出来なかった。

 

 平和に甘え、実力に驕り、侮ってしまったのだ。

 幸せは徐々に崩れていくこともあれば、唐突に壊れることもある。

 

 これは、応報だ。報いだ。

 

 何度も強く誓い、何度も約束した。

 けれど結局、私は何も果たすことが出来ない。

 現実は残酷で、理不尽で、不条理で、そして救いがないのだ。

 

 

 

 

 そして、数ヶ月後――シルフィエットと、ロキシーが魔石病に掛かったという報告を受けた。






「ねえ、君たちさぁ……僕のことを舐めてたよね?」

「どうせ何も出来ないって、舐めてただろ」

「まあ、いいさ」

「君たちが馬鹿なお陰で、僕は予定通りに事を進められたよ」

「あ り が と う」

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