ダリウス「リベラルがアリエルたちを皆殺しにするとかヒトガミに言われた」
フィリップ「久し振りの出番ゲット」
エリス「ルーデウス結婚したのね。でも私にも結婚申し込んできたからヨシッ!」
ずっと喉が痛くて勉強が捗りません。コロナではありませんでした。
暖房つけすぎたことによる乾燥が原因と思いますので、皆様も乾燥には気を付けて下さいね。
ラノアから少し離れた空き地。
そこにふたりの人物がいた。
リベラルとオルステッドだ。
彼女は己の持つ技術を、龍神である彼に伝授している。
既に幾つもの技を教えており、今は改良した『剥奪剣界』を披露していた。
初見では術者が動けることに驚いた様子を見せる。
原理を説明し、何度か見本を見せた後、彼にも実践してもらう。
当然のように一発で成功するのであった。
「なるほど、こうか」
「流石です社長!」
「しゃちょ……まあいい」
オルステッドはリベラルの持つ技術を、まるでスポンジのように吸収していた。
それは神の血を引くからこそなのか、それとも彼特有の戦闘センスによるものかは分からない。
しかし、オルステッドは最強の名に相応しい才能があることは確かだった。
「これらの技に名前はあるのか?」
「私はネーミングセンスがありませんし、つけてませんよ」
「なんだ、つまらんな……俺が名付けてやろうか? そうだな……」
「名付けるのは構いませんが、全部につけるつもりですか?」
「いや、流石にそこまでの時間はないな」
「それなら、今回は諦めて下さい」
オルステッドは目を細め笑っていたが、リベラルの言葉にどこかションボリした様子を見せる。
雰囲気だけとも言える変化だが、申し訳ない気持ちになるので勘弁して欲しかった。
「まあ、行き詰まった時の気分転換に名付けましょうか」
「そうか、そうだな」
再び柔らかい雰囲気になったことに、リベラルは内心微笑ましく感じる。永い時間をひとりで過ごした体験があるため、彼の気持ちは分からないでもないのだ。
ちょっとだけ面白くなってきた彼女は、その後もわざと拒否したり、逆に受け入れたりと繰り返す。
態々魔眼まで解放し、感情の揺れ動きを観測して楽しんでしまう。
そんなことをしていると、最終的にからかわれていることに気付かれ、怒られてしまうのだった。
「しかし、よくそこまでの技術を集めたな」
「時間は沢山ありましたからね。知らない技術もあるのなら幸いです」
「ああ、俺の知らないものは多くあった」
「それに、歴史への影響もなかったでしょう?」
「よく調整出来たものだ」
過去に告げたように、リベラルは『魔龍王』としての側面もある。
即ち、技術の伝授と回収だ。
彼女は回収しかしていないため、オルステッドの知る歴史と齟齬のない技術しかこの世界にはなかった。
回収方法も、以前に告げた通りである。
様々な使い手たちの癖やアレンジしている技術から、新たな技を派生させてきたのだ。
過去にリベラルと戦った際に、初見の技が惜しみなく使われていれば、さしものオルステッドも危なかっただろう。
様子見もせずに戦ったのだから、初見殺しされる可能性もあった。
「それと、これを渡しておこう」
「はい」
オルステッドは身に付けていた腕輪を外し、それをリベラルに渡す。
腕輪はヒトガミの未来視から守るために、装着した人物を理から僅かに外す力が備わっている。
本来の歴史ではルーデウスに渡される筈だったそれは、彼女に渡されることとなった。
「こういうものは私の得意分野です。量産出来るようにしますので期待しといて下さい」
「任せた」
彼の持つ知識では、その腕輪を量産することが出来なかった。
しかし長い歴史で失われた技術を持つリベラルなら、可能性があった。
それに、彼女自身も腕輪を作るための知識に当てがあるのだ。
リベラルがラプラスより賜った腕輪……ではなく、その身に宿す龍神の神玉。
彼女も理から外れた存在であり、神玉があるからこそヒトガミの未来視から逃れられているのだ。
そして龍神の神玉をリベラルは龍鳴山で過ごしていた頃から研究しており、ある程度の前知識がある状態だった。
「今後はリベラル博士とお呼びください」
「下らんことを言うな」
「さっき社長も『俺が名付けてやろう、キリッ』とか言ってましたよね」
「…………次の話に行くぞ」
「あっ、逃げた」
ふざけていると話が進まないため、素直に言うことを聞く。
「俺の呪いについてだが……どうにか出来そうか?」
オルステッドは『他者から恐れられる呪い』があり、それが原因で数多のループで仲間を中々作ることが出来ずにいた。
その呪いを解消する術を手にすれば、彼の行動の選択肢が大きく広がる。
仮に負けたとしても、今後は大きなアドバンテージとなるだろう。
「呪いについても私の専門です。恐らくどうにか出来るでしょうが……ちょっと多忙になりますね」
「ムッ、それもそうか」
「布石潰しの頻度が落ちますが、どうしますか?」
「ルーデウスもいる。しばらくは任せておけ」
現在のリベラルは、パウロへの鍛錬、ゼニスの治療、魔術の研究、ナナホシの異世界転移装置、ヒトガミの未来視から逃れる腕輪と、多くのことに手を出している。
ゼニスはもう少しで治療の目処が立つため、流石に手放すことは出来ない。
魔術研究はヒトガミと戦うために必要となるため、今後もずっとしていく必要がある。
腕輪は言うまでもないだろう。
パウロとナナホシの件は優先順位を下げられるが、それ以外は難しい。
更に言えば、エリナリーゼの呪いについてもどうにかしていく予定を考えているため、多重課題となっている。
「まあ、私の腕輪を参考にすればどうにかなるとは思いますし、大丈夫でしょう」
「そうか」
リベラルがラプラスから貰った腕輪は、彼女の恐れられる呪いを抑えるためのものだ。
もしもこれでオルステッドの呪いを解消できるなら、大きな時間短縮となるのだが、効果については既に確認済である。
ルーデウスとリベラルが龍神オルステッドと組んだことは、当然ながら周囲に伝達している。
まだ顔合わせしてない者が大半だが、それはさておこう。
前日にクリフを呼び出し、呪いの説明をした後にオルステッドを見てもらったのだが、残念ながら腕輪の効果はなかったのだ。
クリフは恐怖に顔を歪めつつ、一緒に研究することを約束してくれた。
流石はエリナリーゼの婿だ、と称賛しつつ、ちゃっかり人手の確保はしているのであった。
「他の方々とも早く顔合わせ出来たらいいですね」
「ああ……そうだな……」
どこか寂しそうな目を見せるオルステッドに、リベラルはふと思ったことを口にする。
「オルステッド様は、私にどのような立場でいて欲しいですか?」
「何が言いたい? ハッキリ言え」
「静香の友達である『銀緑』としての私か、それとも――五龍将としての使命を果たす『二代目魔龍王』としての私か」
「――――」
彼女の言葉に、オルステッドの雰囲気が変わった。
鋭い眼光でリベラルを睨み付け、明らかな怒気が見て取れる。
しかし、彼女はその程度で怖気付くことはない。
「私はお父様によって保険として生み出された存在。お父様がいなくなった以上、私は魔龍王を継ぐ立場にあります」
「やめろ」
「もしオルステッド様が望むのであれば、私は心臓を捧げましょう」
「――やめろと言っている」
ピシャリと、話は止められた。
一触即発な雰囲気だ。
だが、リベラルはフッと笑う。
「失礼しました。そうですね、私としても静香を元の世界に帰すまでは『銀緑』でいたいです」
「…………」
「ですが、私が『銀緑』である必要がなくなった時……もう一度お話しましょう」
「…………」
オルステッドは返事をすることなく黙り込んでしまった。
彼の事情を知ってるため、リベラルも何も言わない。
何度もループして世界をやり直しているオルステッドは、きっと五龍将たちに幾度となく助けられたことだろう。
だが、ループしていく中で、ヒトガミに至るには五龍将を殺さなくてはならない真実に辿り着いた。
苦悩したことだろう。
恩人であり、恩師であり、友人である彼らの屍を乗り越えなくてはならない事実に。
心が張り裂けそうになっただろう。
その残酷な運命を呪ったことだろう。
だからこそ、これ以上の五龍将をオルステッドは必要としていない。
リベラルはそのことを分かっていた。
分かっていながらそのことを告げたのは、理由がある。
オルステッドの手足となることをラプラスが望んだからだ。
故にこれは、父親の願いを叶えるための問い掛けだった。
(それに、私も今は銀緑でありたいことは確かですからね……)
リベラルは、まだ伝えてないことがあった。
それは、自身に宿る龍神の神玉についての詳細だ。
ヒトガミの元に至るためには、五龍将の秘宝が必要である。
オルステッドは既に3つの秘宝を回収しており、残りはペルギウスとラプラスの持つ秘宝となった。
ラプラスに関しては約100年近く先のことであり、現在入手出来ないからこそ失敗してループしてしまう最大の原因となっている。
だが、リベラルの持つ龍神の神玉も――秘宝の代用品として使えるのだ。
ヒトガミの権能を防ぐためだけの物ではない。
文字通り彼女の心臓を捧げることで、オルステッドは今すぐにでもヒトガミの元に至れるのであった。
それを告げなかったのは、リベラルの我が儘である。
ナナホシを帰還させるためにこの世界にやって来たため、死ぬのであればせめてその後にしたかったのだ。
ナナホシを帰還させれば――その事実を告げようと考えていた。
「さて、と」
リベラルは手をパンッ、と叩き、話を切り替える。
「先ほどの話は無かったことにして、次の議題に移りましょう」
「……そうだな」
オルステッドも態々話を蒸し返す気はないため、素直に頷く。
「社長の魔力問題についてですが、対応策も考えれたらと思ってます」
「…………そうか」
「……? どうしました?」
「いや、続けてくれ」
当然のように社長呼びを止めないため、オルステッドは呆れた表情を浮かべていた。
そのことに気付いてないリベラルは、疑問符を浮かべながらも話を続けていく。
「社長の魔力の回復速度が遅いのは、ループをするための術式に魔力を使っているからですね?」
「そうだ」
「他者の魔力を充填させて発動することは出来ないでしょうか?」
それが出来るのであれば、一気に魔力関係は解消するだろう。
もちろん、オルステッドがそのことを試さなかった訳がなかった。
「不可能だ。そもそも任意で解除出来るものでもない。途中で死んだとしてもループ出来るよう、常に魔力が使われている」
「でしたら、他所からの魔力を用いて戦闘を行うことは出来ませんか?」
リベラルが思い浮かべるのは、技神ラプラスだ。
彼は魂を半分に裂かれた影響で、魔力を失った。
それでも魔石を使用することで最低限の魔力を確保し、己の持つ技術を最大限活かすことで高い戦闘力を保っている。
そのことを思い尋ねたのだが、彼は首を横に振った。
「魔石を使えば出来んことはないが……全力の戦闘を行うことは現実的ではない」
「まあ、それで大魔術をポンポン放つことは出来ませんもんね」
もしもそんなことが出来るのであれば、剣士の時代はとうに終わっていたことだろう。
「うーん……でしたら電池のように多量の魔力を蓄積させられる魔導具を作れば出来ますかね?」
「ムッ……それは、考えつかなかったな」
「えー、マジっすか社長……」
かなり単純な方法を挙げたため、まさかの返答にリベラルは微妙な表情を浮かべた。
しかしオルステッドが思い浮かばなかったのも、無理はないだろう。
電池のようなものを作ったところで、供給が追い付かないのだ。
特にオルステッドは魔力が回復しないため、自身の力で充電させることが出来ない。
他者から恐れられ協力を得られない以上、考え付かないのは仕方のない話だった。
「じゃあ、それも作ってみましょう。私とルディ様がたくさんの魔力を充填出来ますからね」
「頼む」
「そこまで多量の魔力を回復させた例はないので、実験をしていく必要もありますが」
もしも成功すれば、オルステッドも全力の戦闘を行えるようになる。
失敗した時は次のループにルーデウスやリベラルがいない可能性が高いため、活かせなくなってしまう。
それでも有用なのは変わりない。
開発することが出来れば、ラプラス戦役が発生しても有利に立ち回れるだろう。
「取りあえず、研究が必要なものはこれくらいですか」
「ヒトガミの企みを潰すにはもっと必要だが、仕方あるまい」
「流石に時間が足りませんからね」
リベラルの開発は、主にオルステッドそのものの強化であり、布石潰しに直接関係はない。
布石潰しには特定の魔導具が必要となったりする場面もあるのだが、彼女だけではそこまで手は回らなかった。
「以前に言っていた、傭兵団についてはどうだ?」
「ルード傭兵団ですか。あれはリニア様のカリスマによって集められた人選と、アイシャ様の手腕によって成り立ったものですので、現時点では作れないでしょう」
「似たような組織を作れるのならば、そちらでも構わない」
その提案に、リベラルは難しい表情を浮かべる。
彼女はオルステッドよりも他者との関わりが大きく、紛争地帯にて部下を率いる経験もあった。
それでも何かの経営をした経験はないため、組織を作ったとしても継続出来るのか不安があったのだ。
ルーデウスを通してアイシャに経営を依頼してもいいのだが、リニアがいなければ取り纏めることが出来ない可能性がある。
「うーん……それでしたらそれまでの繋ぎとして私兵でも作りますか?」
「私兵か。あてはあるのか?」
「アトーフェ様と戦った際に付いてきた親衛隊がいますので、彼らを雇えるかもしれません」
無理やり親衛隊にされた者たちの契約を破壊したため、多くが故郷へと帰っていった。
リベラルに恩を返すために付いてきた者たちもおり、彼らは取りあえずいつでも呼び出せるように冒険者として放流している状態だ。
そこまで多くない人数だが、それでもいるだけマシだろう。
「ならば、奴らを私兵として雇うか」
「報酬も用意しなきゃですね」
「ルード傭兵団が出来上がるまでの間なら問題ない」
オルステッドは多くの資産を所有しているが、無限にあるわけではない。
これからも様々な形で金銭を使う可能性があるため、使い過ぎない方が無難だろう。
やはり金銭を生み出すことの出来るルード傭兵団の方が、コスパが良いのは当然の話だった。
「彼らは不死瑕北神流を多少扱えるので、社長が扱えないのでしたら習っておくのもありですよ」
「扱えないものは確かにある。習うのもありか……」
偶々手に入れた戦力であるものの、ルード傭兵団と違ったメリットがあることも確かだ。
オルステッドにとっては有用であることには変わりなかった。
「折角です。ルディ様やその身内も鍛えてみますか?」
「俺がか?」
「もちろん、呪いをある程度軽減してからの話ですが」
その提案に、彼は怪訝そうな顔を見せる。
「リベラル、お前が既に鍛えているのだろう。俺まで関わる必要はあるのか?」
「そりゃあ、複数人で教えた方が違う視点が生まれますし、効率的になるでしょう」
「……そうか。ならば俺も教えるとしよう」
そう告げたオルステッドは、どこか嬉しそうな様子だった。
「ん、後は私の切り札とかその辺りですかね」
「以前に言っていたものか。構わないのか?」
「もちろん構いませんが……これはオルステッド様に扱えるものではありません」
「ほう」
その言葉に、彼は興味深そうに目を細める。
まるで試されてるかのような台詞だったため、プライドを刺激されたかのような気分だったのだろう。
とは言え、扱えないというのは語弊がある。
扱うのに多大な魔力を要したり、そもそも扱う必要がないのだ。
リベラルは己の持つ切り札、奥の手、禁じ手をそれぞれ説明していく。
全ての説明を聞き終えたオルステッドは、納得したかのように頷いた。
「なるほど……確かに俺では扱えんな」
「それに使い勝手も悪いですからね」
彼女の持つ術は、どれも事前準備を必要とする。
事前に場所の決められた決戦のような場面なら扱えるが、突発的な遭遇戦には対応していない。
更に言えば、大きな代償を必要とするため使いたくなかった。
それでも発動さえ出来れば――神刀を抜いたオルステッドですら勝てないだろう。
「私は後2回変身を残している……その意味が分かりますか?」
「話が事実であれば、俺の『
「所詮は劣化コピーでしかありませんが、それでもヒトガミとの戦いに付いていけるとは思います」
彼女の切り札と奥の手は、どちらもオルステッドの『固有魔術』には及ばない。
だが、神の力を持つふたりの戦いに介入出来るだけの力はあるだろうと考えていた。
「そして禁じ手は……ループに影響を及ぼす可能性がある以上、使えんな」
「そうなりますが、本当にどうしようもない状況に追い込まれた時には使いたいと思います」
「仕方あるまい」
もっとも、使わないに越したことはない。
リベラルとしては、切り札とは使わせられた時点で負けだと考えている。
それだけ追い込まれているということなのだから。
故に、予定や計画にそれらは考慮せず進めていく必要があるのだ。
「最後は、内通者の可能性についてですかね」
「そうだ。現時点でオーベールが暗殺しに来るということは今までに一度もなかった。それでも来た以上、疑わねばならんだろう」
「はぁー、ほんと面倒ですねヒトガミ」
ヒトガミの使徒は、誰もがなってしまう可能性を孕んでいる。
ヒトガミの持つ『信頼される呪い』と、彼自身の話術によるものが原因だ。
本来の歴史でもオルステッドが言ったように、ザノバやクリフといった身近な人物が操られてる可能性もある。
披露宴の際に魔眼を用いて確認はしたためなっていないとは思うものの、魔眼も絶対的なものではない。
オルステッドの腕輪を量産出来れば解決する問題ではあるが、今はどうしようもないことだった。
「疑わしい人の目星とかありませんか?」
今までのループの中で、似たようなことがあったかも知れない。
そう考えてオルステッドに尋ねるのだが、彼は視線を斜め上にし、考えるポーズを取る。
「……いや、この国にそのような人物はいない」
「候補とかもありませんか?」
「ギースはどうだ? 奴が使徒であったことは、俺も知らない情報だった。今は何をしている?」
未来のルーデウスの日記を読んだため、オルステッドは彼が使徒だったことを知った。
だが、ミリス神聖国で別れて以来、リベラルも彼とは会っていないのだ。
「現在は消息不明です。少なくとも、この国には来てない筈です」
「会ったことがあるのならば、何故その時に始末しなかった?」
「魔眼で確認しても、ヒトガミのことを知らない様子だったためです」
「疑わしいのならば、始末するべきだったな……」
「申し訳ございません」
ギースを見逃した理由は、それ以外にもある。
当時はパウロが落ち込んでいたタイミングだったため、彼を始末するとルーデウスの行動にも影響が出ると考えたためだ。
パウロからの不信感も高まり、今の環境を作り出せなかった可能性があった。
「やはり、ギース様は使徒ですかね?」
「可能性は高いだろう」
「よく私の魔眼からすり抜けたと褒めるべきですかね」
もしもギース以外も可能であるのならば、リベラルの魔眼は役立たずとしか言えない。
それをフォローするようにオルステッドは口を開いた。
「奴には催眠魔術がある。魔力を用いなくとも自分自身を騙す術があるのだろう」
「なるほど……」
「本当に使徒でない可能性も確かにあるが、俺はそうだと考えている」
当時は一切考慮していなかった考えだ。
自分の失敗を理解したリベラルは、ションボリしてしまう。
やれやれといった様子で、オルステッドは溜め息を吐きながらも続ける
「安心しろ、俺も今気付いたことだ。これまでに尻尾を掴ませなかった理由にも合点がいった」
「……ありがとうございます」
フォローするかのような言葉に、彼女は思わず微笑んでしまう。
だが、彼が言ったことも事実だ。
今までにギースを疑い、殺したことすらあった。
それでもギースはヒトガミの使徒であることを隠し通した以上、催眠によって自分自身を騙している可能性が高いだろう。
むしろ、その情報をもたらしてくれたリベラルに感謝をしていた。
「消息が分からないのならば、裏から行動を起こしているかも知れん。ルーデウスにも見掛けたら捕まえるよう伝えておけ」
「分かりました」
他にも、今回起きた暗殺についての狙いを話し合ったりしたものの、結論は出なかった。
態々この遠い異国に、オーベールを送り込むメリットなんて分かる訳がないだろう。
アリエルを暗殺する以上の目的があるとは思えなかった。
「それとここ最近、布石を潰そうとする俺の元に使徒が現れん」
「それは……」
「ああ、何か仕掛けてくるかもしれん」
オルステッドはこまめに自分の都合のいい状況を作り出そうとしていたが、言葉通り何の妨害もなく行えていた。
恐らく使徒を別のことに動かしているからだろう。
数多のループの中で、それをオルステッドは経験したことがあった。
「……強力な使徒を一気にぶつけてくるかもしれん。気を付けておけ」
「社長は魔王と剣神と北神をぶつけられたんでしたっけ」
「そうだ。流石に相応の魔力を消費させられた……」
その言葉に、リベラルは今後のことを考える。
その上で使徒の候補に目星をつけるのだった。
「ルディ様を狙った剣神と、消息を絶ったバーディガーディ様が使徒ではないでしょうか?」
「なるほど、そうなると残りはダリウスか」
「状況的にそうかと」
「ならば、内通者はどうだ?」
「……剣神を使徒から外した、とかですかね」
「判断出来んな」
結局、現状の情報だけでは分からないことが多い。
だが、今上げた人物たちが一気に襲い掛かってくる可能性はあるだろう。
「予想通りバーディガーディ様が使徒であれば……闘神鎧は回収されてますかね」
「分からん。俺は闘神とは戦ったことがないからな」
「もし立ちはだかってきたら――私に相手をさせてくれませんか?」
それは、リベラルの切実な願いだった。
闘神バーディガーディは、父親の仇なのだ。
闘神は乗り越えなければならない壁である。
もちろん恨みはあるが、私怨だけで戦うつもりはない。
キシリカの願いもある。
ならば闘神に勝利することで、ラプラスを超えたことを証明しよう。
「いいだろう」
「ありがとうございます」
こうして、話し合いは終了した。
見直しなんてなかった。
Q.リベラル博士。
A.多重課題で死んでます。やること多いので進捗は遅いでしょう。
Q.切り札とかの詳細。
A.まあ、ほとんど答えを告げてますね。古龍の物語を読んだ方なら分かるかと思います。寿命削って使いますので、実戦ではまだ使ったことがありません。
Q.ギースの催眠魔術。
A.ギースが今までオルステッドから使徒認定されなかったのは、これが原因ではないかと考えてます。リベラルにも通用するので、いやらしいこと出来ちゃいます。知らんけど。
Q.社長呼び。
A.将来のオルステッドコーポレーション社長なので、呼んでます。ルーデウスもたまにそう呼ぶため、本人はむず痒く思っている。
Q.ヒトガミの使徒の切り替わり。
A.孫の手様が公開したものが『ヒトガミの使徒』のwikiにありますので、そちらをご参照ください。因みに、自分はそんなものがあるとは知らずに過ごし、そして今日知りました。