無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

パウロ「北帝を撃退したぜ」
ロキシー「どうしてこんな私をそこまで尊敬してるのですか?」
ルーデウス「ロキシーとシルフィエットと結婚する」

あけましておめでとうございます。今年も完結目指して更新していきたいと思います。
執筆が遅いですが、のんびり見守ってくださると幸いです。


10話 『披露宴の始まり』

 

 

 

「――ということがあったんです」

 

 スペルド族の村の治療と、ソーカス草の入手。そのふたつの目的を無事に果たしたリベラルは、無事にラノアへと帰還する。

 そこで彼女がいない間に起きていた出来事を、ルーデウスから聞いていた。

 

「北帝が暗殺しに来た、ですか……」

 

 そのことにリベラルは首を傾げる。

 ヒトガミの仕業であることは明白だが、かなり強引に盤面を進めようとしている印象だ。

 遠い国から遥々暗殺のためだけに来ても失敗することは明白なのに、何がしたかったのだろうか、という感じである。

 とは言え、話を聞く限りあと一歩というところまで手を伸ばしていたことも事実。

 そのことに彼女は顔をしかめていた。

 

「……後でオルステッド様とも相談してみましょう」

 

 異国の地での暗殺の何が難しいのかと言われれば、支援者がいないことが大きな理由だ。

 見知らぬ土地で1から情報を集めるとなると、多大な時間が掛かる。

 それに、オルステッドやリベラル、聖獣レオがいるとなると、潜入や変装も困難だろう。

 にも関わらず、一直線にアリエルの元へと向かい、逃走も手際良く行えたとなると、内通者がいるとしか思えなかった。

 

 もちろん、この街の隅々から末端の人間全てを知ってる訳ではないので、絶対に紛れ込んでいないとは言わない。

 しかし、明らかにリベラルとオルステッドのいないタイミングを狙われていたのだ。

 更に言えば、アリエルの行動まで知られていたと思われる。でなければ、生徒会室に真っ直ぐ向かわないだろう。

 そうなると末端の人間ではなく、アリエルやルーデウスに近しい者……ラノア大学の誰かがヒトガミの使徒である可能性があった。

 

 詳しく調べておく必要があるな、と考える。

 念のため、ザノバやクリフなどの特別生たちが使徒になってないかの確認も必要だろう。

 オルステッド曰く、彼らも使徒になる可能性があるとのことなのだから。

 

「まあ、その話は一旦置いておきましょう」

 

 オルステッドはまだ帰ってきていないため、相談は出来ない。

 ここで悩んでいても一向に分からないため、北帝のことは後回しとする。

 今回は全員無事だったので、素直にそのことに安堵してもいいだろう。

 それに、リベラルの方は無事に目的を達成できたのだから。

 

「ソーカス草で作ったお茶です。ルディ様も飲みますか?」

「あー、いえ、今は喉が乾いてないので大丈夫です」

 

 ソーカス草はそれなりの量を持ち出したため、ストックに余裕がある。栽培もしていくため、他者に振る舞うだけの余裕があった。

 ルーデウスは遠慮していたが、既に彼の家族にもお裾分け済みである。

 ナナホシには後ほど飲んでもらう予定だった。

 

 そしてスペルド族の村であるが、そちらは無事に疫病が完治することとなった。予想通り、ドライン病だったのである。

 ソーカス草を飲んだスペルド族は、体調が回復していったのだ。もちろん全員ではないものの、経過は良好となっていた。

 医師団の者たちもしばらく残って治療してくれるとのことなので、恐らく大丈夫だろう。

 

 ルイジェルドはしばらくスペルド族の手伝いをするとのことで、残ることになった。

 その際にオルステッドの味方をするようにお願いしておいたため、将来的にも心強い存在となってくれるだろう。

 スペルド族は感謝しながら、仲間になってくれることを約束してくれた。

 オルステッドもきっと喜ぶ筈だ。

 

 リベラルはニマニマ笑みを浮かべながら、報告するときのことを考える。

 

「そして……遂にヘタレウス・グレイラットを卒業しましたか」

 

 結婚パーティの招待状を受け取ったリベラルは、からかうかのようにそう告げた。

 それに対し、ルーデウスも調子に乗りながら答える。

 

「この度――シルフィエットとロキシーのふたりと結婚することになりました!」

 

 まさか同時に結婚するとは思わなかったが、とても喜ばしいことだ。

 シルフィエットやロキシーとは付き合いもあるので、彼女も一安心である。

 

「もうヘタレウスとは呼ばせない。俺はリア充になったんだ!」

「ヒューヒュー! ハーレムだ!」

「いやー、リベラルさんお先に悪いですね! 俺みたいに良い相手見つけて下さいね!」

「は?」

「大丈夫ですよ。リベラルさんならきっと見つけられますって」

「うわ、マウントうっざ」

 

 イラッとしたリベラルは、彼の腕をつねる。

 手加減してつねったとはいえ、彼女の握力はゴリラ並だ。

 ルーデウスは「いだだだだ!!」と叫びもがく。

 しばらくして何とか謝罪の言葉を絞り出したことで、リベラルは渋々解放するのであった。

 

「ふぅ……マイホームを用意しましたので、そちらでパーティをする予定です」

 

 詳しく話を聞けば、本来の歴史と同様に『狂龍王』カオスの家をマイホームにしたようだ。

 人形も見付けたし、そこからも魔導鎧や義手の作成に再度取り掛かることにしたとのこと。

 順調に本来の歴史を辿ってくれていることに安心しつつ、更に話を聞いていく。

 

「マイホームを用意したのであれば、パウロ様とは別の場所で暮らすんですか?」

「いえ、みんなと話し合ったんですけど、一緒に暮らすことにしました。母さんのこともありますから」

「あー、そうでしたね……治療はあともう少しなので待ってて下さいね」

「期待してます」

 

 そういう事情であれば、仕方ないだろう。

 ルーデウスは前世とは違い、家族の大切さについて理解したのだ。出来る限りの手助けをしたい気持ちがあるのだろう。

 リーリャやパウロに全て押し付けて出て行くのは出来なかった訳だ。

 

 しかしまあ、親がいることで子作りし辛い環境になった訳だが、そこまでリベラルが気にするのは無粋だろう。

 本来の歴史通り、彼らの子どもが無事に生まれることを祈るしかない。

 

「参加者は誰を予定してるんですか?」

「父さんたちと、特別生のみんなと、アリエル王女、リベラルさんです」

「オルステッド社長は?」

「え? あの人は呪いがあるから人前に出るのは無理なんですよね?」

「まあそうですけど、招待されたらきっと喜びますよ。周りに配慮してコッソリ様子を窺うだけにするでしょう」

「そういうことでしたら」

 

 オルステッドは孤独に生きてきたので、こういった催しに招待されたことはほとんどないだろう。

 孤独である辛さは彼女も知ってるので、是非とも招待してほしかった。

 

 そして省略されているが、特別生枠にジュリやエリナリーゼも当然入っている。

 

「静香は来るって言ってましたか?」

「招待状は受け取ったので、来ると思いますよ」

「それは良かったです」

 

 彼はリベラルとナナホシの関係性を深くは知らないため、随分と気にかけてるように見えるだろう。

 ルーデウスは同郷ということもあるため、彼女の言いたいことは分からないでもなかった。

 

「仲良いですね」

「ルディ様も仲良くして上げて下さいね。表には出さないでしょうけど、きっと喜んでますから」

「ふたりが百合百合してたら挟まっていい?」

「それは死刑です」

「そんなー」

 

 という訳で、彼女は招待状を受け取るのであった。

 

 

――――

 

 

 パーティ当日。

 リベラルは真っ直ぐ会場には向かわず、ナナホシの元へと向かっていた。

 どうせなら彼女と共に行きたかったのだ。帰郷の気持ちが強いので、この世界の人とはあまり仲良くしようとしないだろう。

 しかし寂しがり屋であることは知ってるので、放っておく気はなかった。

 

 いつもの研究室まで足を運ぶと、ナナホシは丁度身支度をしているタイミングであった。

 そのためもうしばらく待つと、彼女は扉を開けて出てくる。

 

「……待たせたわね」

「早めに来ましたからね。気にしてませんよ」

 

 ナナホシは暖かそうな服をたくさん着込み、モコモコしていた。部屋から出ることが少ないので、寒さには弱いのだろう。

 迷わないようにリベラルがリードしながら、会場へと向かっていく。

 

「結婚なんて……ルーデウスは、本気でこっちで生きていくつもりなのね」

 

 抑揚のない声で、彼女はポツリと呟く。

 帰りたいナナホシからすれば、その気持ちは分からないのだろう。

 リベラルも彼女を帰すことを目的としているため、そのことを否定するつもりはない。

 

「転生と転移ですからね。私やルディ様は帰ったところで居場所はありませんから」

「……それもそうね。ごめんなさい」

「謝る必要はありませんよ。私もルディ様も、帰りたい気持ちを理解してるからこそ、手伝ってるんですから」

 

 ルーデウスは昔とは違い精神的に成長しているため、ナナホシの気持ちに寄り添った考え方が出来るようになっている。

 同郷であるため、互いに邪険に思っているということもないだろう。

 

「大丈夫ですよ静香。元の世界に必ず返してみせますから」

「……ありがと」

「まあ、私は何も手助けしてないんですけどね。ハッハッハ」

「…………」

 

 ジトッとした目をしたナナホシに無言で腕をつねられ、リベラルは「痛い痛い」ともがきつつ謝罪をする。

 とはいえ、手伝えない理由については説明されてるため、文句を言うことはない。

 ただウザかったのでつねっただけである。

 

「今回は素直に祝いましょう。私にとってはカワイイ弟子で、あなたにとっては友人なのですから」

「……そう思ってるから参加するのよ」

「わー! 素直な静香かわいいー!」

「毎回どういうテンションで言ってるのよ。情緒不安定なの?」

 

 相変わらずナナホシの前では様子がおかしくなるリベラルに呆れつつ、ふたりはパーティ会場へとたどり着いた。

 家の前でまごつくこともなく、ノックをするリベラル。

 少しすると、ルーデウスが出迎えるのであった。

 

「ようこそ、本日は来てくださりありがとうございます」

「ふたり同時に結婚するとは思わなかったわ。でも、その……おめでとう」

「おお、ありがとよナナホシ。今日はゆっくりしていってくれ。ポテチとかも用意したからな」

「あなたも作れたのね」

「芋を薄く切って油で揚げて塩をまぶすだけだしな」

 

 地球でのおかしがあることで、少しだけ嬉しそうなナナホシ。それだけでも来た甲斐があったのだろう。

 頬が緩んでいることがふたりの目からも分かった。

 

「それに、リベラルさんも来てくれてありがとうございます」

「私は君が生まれた時から、君のことを知っている。来るのは当然でしょう」

「黒幕ムーブですか?」

 

 そんなやり取りをしつつ、奥へと進んでいく。

 中にはクリフとエリナリーゼ以外の人が来ており、各々で会話をしていた。

 ルーデウスは準備もまだあるため、軽く会話をすると離れてしまうのであった。

 リベラルが周りを見渡していると、ザノバがすぐに反応して近寄ってくる。

 

「おお、リベラル先生! お久しぶりです!」

「りべらるせんせ。こんばん、は」

「リベラル殿、お久しぶりです」

 

 彼以外にもジュリとジンジャーのふたりが挨拶をしてきたため、彼女も挨拶を返す。

 

「聞きましたよザノバ様。この家でカオス様の遺品を見つけたらしいですね」

「耳がお早い。見つけたのは人形だったのですが、そこから色々な着想を得ることが出来ましてな……」

「ほうほう、今度見に行ってもいいですか?」

「断る理由も御座いません! 是非いらして下され!」

 

 ザノバは上機嫌な様子だ。

 彼からしたらルーデウス以外に自分の芸術を理解してくれる人物なのだから、好感度が高いのだろう。

 彼の視線がリベラルの隣へと向く。

 

「それとそちらは……」

「……サイレントよ」

 

 ナナホシは無愛想に答えるだけだった。

 しかしザノバはそれに気にした様子を見せない。こう見えて彼は人の機微を読み取ることが出来るので、そっとすることを選んでいた。

 

 リベラルはナナホシに耳打ちをする。

 

「静香、ザノバ様は行き詰まった研究に新たな視点を教えてくれます。少しくらい仲良くして損はないですよ」

「……あなたが教えてくれたらこんなに回りくどいことをしなくてもいいのに」

「私が全部教えたら、失敗する原因が分からないまま完成してしまいますからね」

「ハァ……」

 

 彼女は面倒そうにしつつも、リベラルの言葉に従いザノバの元へと行くのであった。

 

 その姿を見送りつつ、リベラルは本来の歴史で起きる出来事を思う。

 時期は違うものの、研究の第一段階に躓くことになるナナホシは、感情を決壊させて暴れ回った後に諦観してしまうのだ。

 今回はリベラルという未来からの存在がいるためそうなってはいないが、それでも小さくない絶望を味わうことになるだろう。

 リベラルは転移装置の開発に大きく干渉しないことにしているが、ナナホシの絶望した姿は見たくない。

 

 転生前のことを思えば当然だろう。

 リベラルはナナホシの最期を見てしまっているのだ。

 この世界では、彼女を一度たりとも絶望させるつもりはなかった。

 

「…………」

「リベラル様、ご健勝なようで何よりです」

 

 そうして物思いに耽っていたところに、アリエルたちが挨拶をしてくる。

 

「あ、アリエル様どうも。勧誘は順調ですか?」

「順調ですよ。ルーデウス様は無事に引き入れることが出来ましたし、フィリップの方も順調に味方を増やしているそうです」

「それは良かったです」

「これも全てリベラル様のご助力による賜物ゆえ……」

 

 実際にどう思っているのかは不明だが、リベラルの手助けが大きいことは事実だ。

 ルーデウスはともかく、フィリップがアスラ王国で味方を増やしているのは非常に大きく助かっているだろう。

 表立って動けないものの、それでもいるのといないのとでは大違いだ。

 更に言えば、北神が護衛についてることも心強いだろう。北神によってフィリップが暗殺される可能性が非常に低くなっている。

 北帝オーベールなどの奇抜派に関しては、北神カールマンが居たからこそ生まれた派閥だ。

 彼らも暗殺しろと言われてもやり辛いだろう。

 

「先ほどの方はどなたか教えて頂いてもよろしいですか?」

「彼女はサイレント・セブンスターですよ。と言っても政治方面には絶対に関わってくれないと思いますが……」

「そうですか。それでも数々の素晴らしい功績を残された方です。お話だけでもよろしいでしょうか?」

「それを止める権利は私にありません。ここにいる以上、誰かに話し掛けられることは覚悟してるでしょう」

「それでしたら、失礼します」

 

 そう告げたアリエルは、護衛を伴ってナナホシの元へと向かっていった。

 話し掛けられているナナホシは、相変わらず無愛想で自分から口を開こうとはしないものの、反応は必ずしている。

 この様子なら大丈夫だろうと安心するのだった。

 

 ザッと周りを見渡せば、リニアとプルセナもいた。

 しかしそのふたりはリベラルと視線が合うと、縮こまるかのようにコソコソと視線を逸らすのであった。

 どうやら以前のパンツ騒動でコテンパンにされたことがトラウマのようだ。

 おちょくりに行こうかと思ったが、リベラルに声を掛けてきた存在がいたため諦める。

 

「リベ姉さん!」

「ん? あぁノルン様。しばらく見ない間に大きくなりましたね」

「?? 何を言ってるんですか? お母さんの治療をしに来る時に毎回顔を合わせてますよね?」

「まあそうなんですけど、何となく言っただけです」

 

 彼女の言う通り、治療の際には彼らの家族と顔を合わせている。

 そのため、別に久し振りでも何でもないのだが、ちゃんと顔を合わせながら言葉を交わすのが久し振りに感じたため言ったのだ。

 

「それよりも、今回の結婚どう思います?」

「どう、とは?」

「シルフィ姉さんとロキシーさん……ひとりを選ばずふたり同時に結婚するなんて、不誠実と思いません?」

「あー……そうですね……」

 

 ノルンはミリス教徒であるため、今回の結婚に対して反対とまでは言わないものの、不満があるようだった。

 リベラルは今でこそ多様性を受け入れてるので不快に思うことはないが、現代社会の常識が残っている頃であれば同じ感想を抱いただろう。

 なので、彼女の思いを理解することは出来る。

 

「本人たちが納得してるのであれば良いんじゃないですか? ミリス教徒ではないですし」

「それは、そうですけど……」

「ゼニス様やリーリャ様のことも思い出して下さい。あの方々はブエナ村で文句を言ってましたか?」

「言ってはいませんけど……」

「それなら良いじゃないですか。シルフィ様やロキシー様が不満を溢したりしていれば、その時にガツンと文句を言ってやりましょう」

「……うん、そうですね。そうしてみます」

「その時は私も一緒に文句を言いますよ」

 

 ノルンはその言葉に納得したようで、力強く頷いていた。

 

「ところでアイシャ様とリーリャ様は? 姿が見えませんが、やはりお手伝いでもされてるんですか?」

「そうですよ」

「それなら後で挨拶するしかないですね」

 

 リベラルは最近のアイシャのことを思い浮かべる。

 リーリャはともかく、アイシャはリベラルに対して完全にお客様モードになってしまったため、会話が上手く弾まないのだ。

 教育の賜物でキッチリ線引をするようになったからこそだが、ルーデウスの前で見せる姿を見ると羨ましく感じてしまう。

 息ピッタリにやり取りし、以心伝心してるかのような姿が見られるので、リベラルも同じことをしたい限りである。

 

 アイシャの立ち位置としては、自分の父親を治療してくれる医者という形になるので、丁寧に接するのは当たり前であるのだが……。

 まあ、そんなことを愚痴っても仕方ないだろう。

 気を取り直したリベラルは、ノルンと共にパウロの元へと向かうのだった。

 

「よおリベラル! 飲んでるかー?」

「お父さん! まだ始まってないのに何で飲んでるんですか!」

「かてぇこと言うなよノルン。息子の晴れ舞台だぜー? 無礼講だよ」

 

 傍に近寄ると、酒気を帯びた顔でパウロはそう告げる。

 まだ完全に酒は回ってなさそうであり、ほろ酔いといったところだろう。

 上機嫌な様子にノルンは呆れつつも、それ以上の文句は言わない。

 

「なあゼニス。別にいいよなー?」

「…………」

「ほら、母さんもいいってよ」

「いや、言ってませんよね!?」

 

 隣にいたゼニスに語り掛けるパウロに、ツッコミを入れるノルン。

 とはいえ彼の言うように、言葉にはしていないもののどことなく喜んでるように見えた。

 

 リベラルはゼニスの正面に行き、目線の高さを合わせる。

 長らく彼女を見てきたため、魔眼を使わずとも

言いたいことは何となく読み取れるようになったのだ。

 

「ゼニス様、こんばんは」

「…………」

「ふふ、ルディ様も成長しましたよね。本当にあっという間です」

「…………」

「もちろん私も嬉しいですよ。小さい頃から見てきましたからね」

「…………」

 

 ゼニスは微笑んだ。

 僅かな表情の変化だったが、それでも明らかであった。

 そのことにパウロとノルンは目を見開き、更に声を掛けていく。

 家族だけの時間にした方がいいだろうと判断したリベラルは、そっとその場から離れていくのであった。

 

 そのタイミングで新たな人物が到着する。

 エリナリーゼとクリフだ。

 アイシャに案内されてきたふたりは、キョロキョロと参加者と席を確認している。

 席へと座る前に、リベラルは歩み寄った。

 

「こんばんは」

「あらリベラルじゃないですの。こんばんは」

「リベラル? なんだ一体?」

 

 着席前にやって来たことに不思議そうな表情を浮かべるクリフにアイコンタクトを送りつつ、エリナリーゼへと視線を合わせる。

 その様子にクリフはハッとした様子を見せた。

 恐らく以前のやり取りを思い出しているのだろう。

 彼の想像通り、リベラルはそろそろ己の家族と向き合う覚悟を決めていた。

 

「今夜は月が綺麗ですね」

「……? いきなりどうしましたの?」

「後でお話ししたいことがあります。いつでも構いませんので時間を開けてもらってもいいですか?」

「あらあら、告白ですの?」

「そうですね……告白みたいなものです」 

「いけませんわ! わたくしにはクリフがいますの!」

 

 腕を抱き、腰をクネクネさせるエリナリーゼに、クリフは思わず口を挟んでしまう。

 

「リーゼ、そういう意味じゃないと思うぞ」

「んもう、分かってますわよ。ただのスキンシップですわ」

 

 そう告げた彼女は別の方を見る。

 視線の先にはシルフィエットがいた。

 

「わたくしの用事が終わった後でしたら構いませんわ」

「分かりました。用事の後にお願いします」

 

 タイミングはいつでもいいため、リベラルはその言葉に了承する。

 それを傍で見守っていたクリフは何の話をするのか理解したため、エリナリーゼの隣に並んで口を挟む。

 

「リベラル、僕も一緒に聞いていいか?」

「もちろん構いませんよ。クリフ様はエリナリーゼ様を支えると誓ったんですから」

 

 そのやり取りにエリナリーゼは目を白黒させる。

 自分だけ事情を理解していないのだから仕方ないだろう。

 後で話をすることになったため気になってはいたが、彼女は口にすることなく席へと向かっていった。

 

 参加者全員が揃ったため、ルーデウスとシルフィエット、ロキシーの3人が前に出てくる。

 彼は本日の主役なので、音頭を取ってくれるのだろう。

 飲み物のコップも行き渡ったところで、彼は咳払いをひとつし、口を開いた。

 

「本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。

 改めて宣言致しますが、私ルーデウスと、こちらのシルフィエットとロキシーのふたりと結婚することになりました」

 

 ルーデウスは緊張しているのか、顔を真っ赤にしなが喋っていた。

 人前で喋る経験も少ないため指先が震えていたが、ふたりが手を握りサポートする。

 微笑ましい光景だ。

 

「ひとりだけを愛しないことに言いたいことがある人もいると思う。けど、俺はふたりを幸せにしたい」

 

 赤面していたルーデウスだったが、徐々に臆することなく言葉に力が宿っていく。

 

「今までの俺は、空っぽだった。明確な目標もないままがむしゃらだった。

 道に迷ったり、答えに迷ったり、生き方に迷ったり、分からないまま過ごしていた。

 20年も生きてない若造だけど……色々と苦労もしたと思う。

 けど、そんな俺を支えて助けてくれたのがふたりなんだ。

 だから俺は、ふたりに恩返しがしたい。

 ふたりを幸せにすることが、俺の目標になったんだ」

 

 彼は周りを見渡した後、フッと笑みを浮かべる。

 

「まあ、なんだ。

 俺は、ふたりとやっていく。

 何かあったら力になってくれ。よろしく」

「当たりめぇだろ! 俺の息子の行く末に、乾杯だ!」

「乾杯!」

 

 既に酒を飲んでいたパウロが、酒盃を持ち上げた。

 それに合わせて、全員が酒盃を持ち上げる。

 

 こうして、ルーデウスの結婚を祝う会食が始まるのであった。




「あ、オルステッド社長が窓から覗いてる」フリフリ


Q.やっぱりヒトガミの使徒がどこかにいる?
A.いるんじゃないでしょうか。知らんけど。

Q.社長。
A.披露宴に誘われてますが、呪いのこともあるため会場には入らずコッソリ中の様子を窺ってます。描写はしてませんがそれに気付いたリベラルが手を降っていたり。

Q.パウロたち引っ越しするのか。
A.作中の説明通り、ゼニスの介護のためです。彼らは仲が良いので現実の姑問題のようなことに発展することは皆無です。快く了承しています。

Q.パウロの借金。
A.闇金リベラルくんから借りてるため、最終的に身体で支払うことになります。

Q.リベラルが助けた親衛隊はどうなった?
A.つなぎで冒険者をしており、ルード傭兵団が出来たらそちらに移籍することになりました。

Q.今ってどれくらいの時期なの?
A.原作だとゼニスの救出のため転移迷宮に潜ってるくらいの時期ですが、かなりアバウトに時間が過ぎてるのであまり参考にはなりません。

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