ルーデウス「アリエル王女に協力することになった」
アリエル「ロキシーとシルフィエットも勧誘したい」
オーベール「暗殺しにきたで」
筆が……筆が進まない!!でも今年はせめてもう一話更新したいから今年最後の挨拶はしない!動け我が手よ!奏でろ我が妄想よ!深夜テンションの今なら書けるはずだ!
ということで、何とかもう一話今年中に上げられたらと思ってます。出来なかったら申し訳ない。
――全く持って無謀な任務であるな……。
アリエル王女のいる生徒会室へと駆けて行く傾奇者――北帝オーベール・コルベットは内心でやれやれと愚痴る。
彼がアスラ王国から遠く離れたこの地にいるのは、当然ながら自分の意思ではない。
己の雇い主である、ダリウス・シルバ・ガニウス上級大臣からの依頼が原因だ。
第一王子グラーヴェルを王にするためにアリエルを狙うのは構わないが、いくらなんでもこのような任務を言い渡されるとは思わなかった。
もちろん、彼もその依頼には反対した。
不可能だと。
北帝であり世界有数の実力者ではあるものの、他国にいる重鎮の暗殺に戦闘力など当てにならない。
出来ないことをする必要もないため、オーベールは元々断ろうと考えていた。
しかし、ダリウスより勝算はあると説得され話を聞くことになったのだ。
彼の話では、ラノア王国に“内通者”がいるという話だった。
それもアリエル王女と定期的に会話するほど親しい者であると。
そんな人物がいるのであればソイツが暗殺すればいいだろうと思ったが、どうにも出来ない事情があるとのことで断念することになったらしい。
詳しい理由は分からないが、潜入したオーベールに直接的な支援が出来ないことに関係するとのことだ。
その代わり、非常に多くの情報をダリウスを通してその“内通者”からもらった。
アリエルの1日の行動パターン。
護衛の数に見張りの交代時間。
交友関係や近隣にいる実力者。
ラノア王国の立地や人気のないタイミング。
潜入や暗殺をするには非常に有用な情報が沢山あったのだ。
中でも一番危険であった『龍神』オルステッドと、『銀緑』リベラルがしばらく離れる時期まで情報として提供されていた。
更に言えば、追手を撒きやすい退路まで教えられてしまったのだ。
そこまでお膳立てされてしまえば、断ることも出来ないだろう。
情報があっても難しいことに変わりはないため、オーベールは渋々受け入れるのであった。
「しかし、これは厳しいな」
息を乱さずに駆け抜ける彼は、現状を冷静に分析する。
そもそも今回この大学まで来ていたのはアリエルを暗殺するためでなかった。
いくら情報があるにしても、実際にこの目で確かめるまでは安心することは出来ないからだ。
話に聞く協力者の顔も名前も知らないのに、その情報だけを元に動くことは出来ないだろう。
そのため、下見のために来たのだが……敢え無く見つかってしまったことは誤算だった。
潜入ではなく変装して行くべきだったかと、彼は自らの判断を悔いる。
先ほどのルーデウスの魔術により、様子を見に来た生徒の何人かにオーベールたちの姿は見られてしまったのだ。
アリエルに暗殺のことを知られれば警戒して守りを固められるし、姿を隠すことも考えられるだろう。
そのため、今アリエルを殺らなければ暗殺に失敗するという焦りがあった。
「情報通りならば、今いるのはアリエル王女と3人の護衛だけである。手筈通りに行くぞ」
追従する部下のふたりに合図を送ると、彼らは頷き先行して五階にある生徒会室に辿り着く。
部屋の周りに別の生徒がいないことを確認すると、そのまま扉を開け放った。
中にいたのはアリエルとルーク、デリックとトリスティーナ。そしてロキシーもその場にいた。
「!! 何者だ!?」
扉が開かれれば気付くのも当然だろう。
異国の地に突然現れた襲撃者に驚愕しながらも、ルークたちは素早く剣を引き抜いていた。
だが、それよりも早くにオーベールが4本の苦無を投げ付けていた。
ロキシーがいることは誤算だったため、彼女以外を狙って投擲される。
「くっ……!!」
一番早く反応したのはデリックだった。
彼は真っ先にアリエルに飛び付き、苦無からその身を守った。その代償として背中に刃が突き刺さる。
ルークとトリスティーナは素早くしゃがむことで回避していたが、そこにふたりの暗殺者が駆け出した。
オーベールもアリエルとデリックを始末しようと剣を引き抜いたが、そこに冷気を纏った魔術が走る。
「『
魔術を放ったのはロキシーだ。
突然の出来事に困惑しながらも、状況を理解して援護することを決めたらしい。
当然と言うべきかオーベールは回避するが、アリエルかロキシーのどちらを狙うか一瞬迷ってしまう。
事前の情報としてロキシーのことは知ってるため、背を向けてまでアリエルを狙って大丈夫なのかという不安があったのだ。
ルークとトリスティーナも始末されることなく粘っているため、援護も期待出来ない。
更に言えば、急いで駆け付けてきたため野次馬……大学の生徒たちも戦闘音に気付き集まりつつあった。
アリエルと無関係であろうと、止めようとする者が出てくるだろう。
事が大きくなりすぎるとラノア王国の正規兵まで出張ってくる可能性もあるため、他の者を巻き込みすぎる訳にいかない。
時間を掛けてる暇はないと思い、アリエルを一撃で仕留めようとオーベールは考える。
「『
「ぬおぉ!?」
追加でロキシーより放たれた紫電が、彼の腕を撫でた。
ルーデウスが編み出したその魔術を、彼女は教え受けていたのであった。
当然ながらオーベールはそれが見えていたし反応もしていたが、その魔術の性質までは理解してる筈もない。
受け流した筈なのに、右腕が痺れてしまうのであった。
「くっ……『黒煙』」
オーベールは地面に何かを叩きつけた。
バフンと粉っぽい音が響き、周囲が一瞬にして黒い煙に包まれる。周囲の状況が見えなくなってしまう。
室内であったため、風魔術による換気によって煙を晴らすことも出来ない。
広範囲の魔術を使おうにも、アリエルたちを巻き込む可能性がある。それによってロキシーの魔術は完全に封殺された。
最早アリエルの暗殺を阻む者はいない。
「覚悟!」
「『泥沼』」
が、室内全ての地面が変質し、その場にいた者たちは足を取られてしまう。
オーベールは回避しようとしたが、足場全てが変わったため避けようがなかった。
上半身は無事なため先ほどのように苦無を投げようとするが、
「『土壁』」
恐らくアリエル近辺に出現した土の壁によって防がれるのであった。
「ロキシー! アリエル様! 無事ですか!?」
ルーデウスの声が響き渡る。
差し向けられた暗殺者のひとりを倒し、早急に駆けつけてきたのであった。
黒煙によって状況は確認出来ないものの、ある程度の妨害には成功していた。
「ルディ! この煙をどうにかして下さい!」
「分かりました! 伏せてください!」
ロキシーたちは頭を下げ、オーベールたちも魔術が放たれると思いその場にしゃがみ込む。
その瞬間に、彼らの頭上を何かが通り抜ける。
放たれた魔術は生徒会室の壁を大きく破壊し、外界との通路を露わにした。
生徒会室は校舎最上階の一番奥にあるため、当然ながら高所にあり風が強く靡く。
黒煙は晴れたものの、あまり状況が進展したとも言えない。
だが、オーベールはルーデウスを警戒し、すぐには動かなかった。
彼の逸話をこの地に来るまで何度も聞いたため、あまり不用意なことが出来なかったのだ。
室内で魔術師を相手に負けるとは思わないが、自暴自棄になって自爆覚悟の大魔術を使われればひとたまりもない。
「むぅ」
もうひとつ言えば、彼としてはモチベーションが上がらなかった。
遠い異国の地まで来るのに体力は多少なりとも消耗しているし、元々乗り気な任務でもなかった。早々に見つかったため、予定とも違う状況になっている。
そうした心理的な重なりが、オーベールに隙を生み出す。
「フロスト・ノヴァ」
呪文と共に、足元の泥沼が凍り付いていく。
無詠唱により威力や範囲を操れる彼は、味方を巻き込まぬように暗殺者のいる場所までを凍結させた。
オーベールは凍り付いた泥の上に移動して回避したが、残りの暗殺者は足を固定されそのままルークたちに斬られてしまう。
ルーデウスはその隙にロキシーの傍まで移動していた。
「皆さん大丈夫ですか?」
「こっちは大丈夫だ。しかしデリックが……」
「ロキシー、彼を診て上げて下さい」
「分かりました」
この場で治癒魔術を使えるのはルーデウスだ。
ロキシーも簡単なものなら出来るようになっているが、状態によっては手に余るだろう。
だが、正面から目を離すことが出来ない以上、彼女に頼まざるを得なかった。
「気を付けて下さい。あれは『孔雀剣』オーベールです」
「『孔雀剣』?」
「北帝です」
トリスティーナの言葉に、ルーデウスは緊張した顔付きとなる。
リベラルや剣神のせいで感覚が麻痺しそうだが、北帝は北神流の中でも五指に入る強さを有するのだ。
そのふたりには及ばないかも知れないが、恐らくルイジェルドよりも強いかも知れない相手。
ルーデウスは過去に何度もルイジェルドと手合わせをしたが、勝利どころか一発も当てられた試しがない。
そんな彼より強いかもしれないオーベールを相手に、僅か数メートル程度の距離での室内戦。
――確実に負ける。
今はどういう訳か立ち止まっているが、このまま戦えば勝機がないことはハッキリしていた。
だからこそ、考える時間が必要だった。
ルーデウスは魔術を発動し、ロキシーたちの傍に生成した土で文字を作りながら口を開く。
生成した文字は、次に行う行動を伝えるためのものだ。
「狙いはアリエル様ですか?」
「愚問であるなぁ、ルーデウス・グレイラットよ」
「……仮に王女を殺したとして、ここから逃げられるとでも?」
「某だけなら可能だ」
最初にルーデウスに襲い掛かってきた者は気絶させてるので生きているが、先ほどルークたちに斬られたふたりは絶命している。
既にオーベールだけの状況となってるため、彼の実力ならば確かに逃げ切れるだろう。
「第一王子側に付くのは何故ですか? お金ですか?」
「まあ、そうであるな」
とてもシンプルで分かりやすい理由だった。
その言葉にアリエルが反応を示す。
「では、それ以上の報酬と地位を約束しますので私の元に来ませんか?」
「魅力的ではあるが断る」
「……それは何故?」
「義理くらいあるだろう。某は雇われてる途中故、乗りかかった船には最後まで乗る責任がある」
「それでしたら、そちらの契約が終わり次第私の元に来ませんか?」
「ほう、おかしなことを言う。それはまるで某に殺されることもなく、そして殺すつもりもないと言っているように聞こえるな」
「互いに生きてたらの話です」
アリエルの台詞に、オーベールは思わず笑い出してしまう。
「面白い。互いに生きていればアリエル殿の話に乗ろうではないか」
「それには現状をどうにかしなければなりませんがね」
「違いない」
話は終わりだと言わんばかりに剣を構えるオーベールに、ルーデウスは慌てる。
「待って下さい! この流れで戦うつもりですか!?」
「当たり前であろう。理由は言ったばかりであるぞ」
「それならば何故最初から全力で来なかったのですか? 北帝である貴方の力量であれば仲間のふたりを失う前に対処出来たでしょう!」
彼の言う通り、本来ならば一瞬で片の付く状況だった。
室内戦でロキシーやルークを突破することなんて簡単だっただろう。
だが、明らかに緩慢な動きだったからこそルーデウスは間に合ったのだ。
「それは自分で考えよ」
オーベールの足に力が入る。
距離を詰めるための予備動作に気付いた彼は、話し合いでの解決を諦めざるを得なかった。
「じゃあもういいです。さようなら」
「ぬぅ!?」
ルーデウスの言葉と共に、互いの間に壁が生成される。
もちろん、その程度では障害になり得ないだろう。
オーベールは一瞬にして土壁を斬り裂いた。
「いない?」
しかし、彼の眼前には誰ひとりいなかった。
ルーデウスやロキシーだけならまだしも、アリエルとその護衛もおらず、破壊された壁から外の風景を映し出すだけであった。
僅かな困惑が駆け巡るが、すぐに崩れた壁から外の状況を視認する。
「無茶をしますなぁ」
外を見下ろせば、全員で落下していく姿を目視することが出来た。
ここは五階であり、そのまま地面に衝突すれば間違いなく絶命するだろう。
様子を窺っていたオーベールだったが、彼の眼前に変化が現れる。
壁が変形し、大きな滑り台となったのだ。そこに水魔術による水流を流し、滑り降りていったのだ。
ルーデウスたちが確実に生き残ることを予期した彼も、五階から飛び降りる。
「追い掛けないで欲しいんですけどね!」
地上に無事到着したルーデウスは、オーベールが飛び降りたことに気付く。すぐさま魔術によって作り出した滑り台を解除した。
だが、オーベールが大の字に身体を広げると、まるでウイングスーツのように服に膜が現れ、そのまま滑空していく。
「!! 『
このまま無事に着地されると不味いと考えたルーデウスは、火聖級魔術による広範囲の迎撃を行った。
極めて広範囲に炎を行き渡らせるその魔術は、滑空していようが避けられぬ状況を生み出す。
仮に避けられたとしても、ウイングスーツのようなその服まで無事では済まないだろう。
オーベールは炎に包まれたかのように見えたが、空中で体勢を整えながら剣を一閃させる。
迫る炎は綺麗に真っ二つとなり、その隙間をすり抜け一直線に滑空を続けていた。
「くっ!」
風聖級魔術を使おうとしたが、ロキシーやアリエルを巻き込むことを危惧し別の魔術を使用する。
『突風<ブラスト>』によって風の向きを変えたことにより、オーベールはそのまま気流に流され別の方向へと滑空していく。
とは言っても、そこまで距離は稼げていない。
約30メートル程度だろうか。
北帝を相手するには微妙な距離と言えよう。
「ルーク先輩! 俺が殿を努めます!」
「分かった! 死ぬなよ!」
負傷したデリックを支えながら、アリエルたちは後退していく。
恐らく学生の多い場所に逃げるだろう。
人混みに紛れれば、流石に手出し出来ない。
それに音を聞き付けて人が集まってくる筈なので、それまでの辛抱だ。
「ルディ! 援護します!」
「ロキシー先生も……いえ、分かりました。ありがとうございます」
これほどの騒ぎを起こしたのだ。
1分程度で人は集まるだろうと考えていた。
とは言え、剣士との戦いは刹那の奪い合いである。
とても長い1分間になるだろう。
ルーデウスは『明鏡止水』に加え、結界魔術による肉体操作によって潜在能力を解放する。
近寄られたら負けてしまうが、それでも備えられるだけ備えておく方がいいだろう。
「いざ」
着地したオーベールが剣を構える。
そして、駆けた。
「『泥沼』!」
地面がぬかるみと化す。
オルステッドやリベラルに教わった定跡だ。
妨害しつつ、距離を開けたまま魔術を一方的に放てれば勝つことが出来る。
そう考えていたが、オーベールは懐から浮き輪のような靴を取り出し履き替えると、特に沈むこともなく駆け始めた。
まるで忍者が使う水蜘蛛だ。
しかもスムーズな動きで早い。
剣士じゃなくてまんま忍者じゃないか、と思ってしまう。
「勇壮なる氷剣にて彼の者に断罪を! 『
隣で援護をしていたロキシーの魔術が放たれる、
八つ裂き光輪のような氷刃が射出されたが、オーベールは滑るように左右に動いて躱す。
直後にルーデウスは無詠唱による『電撃』を放った。
ふたりの眼前は泥沼であり、伝導した電撃が一瞬にしてオーベールに到達する。しかし、彼は無反応だった。
「なっ!?」
「残念ながらゴム製でなぁ」
電撃に関しては、生徒会室で受けたばかりの魔術である。
警戒していたからこそ、対策を講じていた。
水蜘蛛を履いてるため想定よりも距離を詰めるのに時間が掛かってるが、あと20メートルほどだ。
「ロキシー! 合わせます!」
既に次の詠唱に入っていたロキシーのタイミングに合わせ、ルーデウスは両手を構える。
右手は岩砲弾、左手は大火球。更にロキシーの氷霜刃も同時に放たれる。
当然と言うべきか、迫る魔術は呆気なく避けられてしまうが、彼の放った魔術はただの魔術ではない。
炸裂岩砲弾だ。
本来の歴史でもダリウスとオーベールに放たれたそれは、対象者の近くで爆発して破片が襲う。
それだけではなく飛んでいた大火球に対し、
「『
こちらも爆発することで、爆風がオーベールに襲い掛かる。
炸裂した岩砲弾と爆発した大火球に挟まれたオーベールは、その予兆を感じ取っていたのかいつの間にか脱いでいた服を受け流すかのように振り回す。
しかし、その程度で防げる訳もない。
炸裂した岩砲弾の破片の幾つかはオーベールの腕や足に刺さり、爆風によって泥沼に転んでしまう。
――よし、このまま凍り付かせれば――。
そう思考したルーデウスの眼前に、投げられていた剣が迫っていた。
「――――」
明鏡止水により予測能力が向上していようとも、潜在能力の解放により動体視力が上がっていようとも、意識の隙間というものは必ず存在する。
ルーデウス本人ですら認識出来ないその刹那を、オーベールは見切っていた。
完璧なタイミングの投擲。
気付くのにほんの0.1秒遅れたルーデウスは、必死に身体を逸らそうとする。
だが、間に合わないのだ。
刹那を奪い合う剣士の領域に、魔術師である彼の世界は遅すぎた。
そうして剣の切っ先がルーデウスの身体に向かい――
「ルディ!!」
――横からロキシーに突き飛ばされる。
けれど無事ではなかった。
彼女の太ももに剣が深々と突き刺さる。
ふたりして地面に倒れ込んだが、起き上がったルーデウスはすぐさまその事実に思考が支配されてしまう。
「ロキシー!」
「わ、わたしのことよりあちらを!」
彼女の声に反応してそちらを向けば、既に体勢を立て直したオーベールが迫っていた。
残り10メートルほどだ。
先ほどの魔術により手足を負傷しているにも関わらず、その動きは変わらず速かった。
これ以上踏み込まれれば剣士の間合いとなる。
そこまで行けばルーデウスに勝ち目はない。
『
水の塊を発生させ対象を押し流すその魔術は、彼が発動することで激流のような大量の水が放出される。
「ぬおぉぉっ?!」
唐突に滝のような激流が広範囲に現れれば、躱すことも出来ないだろう。十分に引き付けられたため選択肢もない。
オーベールは水流に飲まれ、押し返されていった。
その隙に、再度ロキシーの様子を窺う。
「……え?」
彼女の太ももの傷口は、紫色に染まっていた。
すぐに毒であることに思い至った。
オーベールの剣には、毒が塗ってあったのだ。
「ふむ、そろそろ潮時であるな……」
立ち上がっていたオーベールは、こちらに向かって来てなかった。
まだ1分は経過していないものの、アリエル王女はほぼ見失い、生徒たちも集まりつつあったからだ。
暗殺の任務は失敗と言えよう。
故に、諦めたのだ。
「ちょっ……まっ……」
そのことに気付いたルーデウスは焦る。
解毒魔術は扱えるものの、全てを扱える訳ではない。
解毒するには、最低でもそれが何の毒であるかを知っていなければならないのだ。
使用してきた毒なんて分かる訳がない。
そんなルーデウスの思いとは裏腹に、オーベールは背を向け走り去ろうとする。
いや、駄目だ。
ここで逃がすとロキシーが不味い。
絶対に止めなければならない。
「待て!!」
彼は咄嗟に岩砲弾を放つ。
背を向けているのだから簡単に当てられると思った。
けれど、背後から飛来した岩の塊を、オーベールはなんなく回避した。
その後に何度も放つが避けられる。
土壁を作り出したが、それもアッサリ斬り倒される。
焦りにより明鏡止水も維持出来ず、思考も単調になってしまう。
ルーデウスはオーベールを追い掛けていた。
否、追わざるを得なかった。
ロキシーを見殺しにすることは出来ないからだ。
いつの間にか、両者の立場が逆転していた。
「誰かロキシー先生を診てください!!」
ルーデウスは集まりつつあった生徒たちに呼び掛けつつ、オーベールを追い掛ける。
泥沼を警戒しているのか水蜘蛛の靴を履いたままなため、見失うほどの速さではなかった。
そうして追い掛け、大学を抜け、人気のない路地に差し掛かり――
「……ひとりで追い掛けて来るとは不用心であるな」
当然というべきか、オーベールは逃走を止めるのであった。
投擲した剣は回収出来てないため、短剣のような苦無を構える。
完全に一対一の状況だ。
ルーデウスもこうなることは分かっていた。
分かっていたが……それでもロキシーを助けるためだ。
更に言えば、毒のことを知るためにオーベールを殺す訳にもいかない。
いつの間にか、ほぼ詰みとも言える状況に追い込まれてしまった。
「冥土の土産に毒の詳細を教えてくれません?」
焦る気持ちを抑えつつ、ルーデウスは状況を少しでも進展させようとする。
「某に勝てれば教えようではないか」
「……ハンデ下さい」
「断る」
そしてオーベールは駆けようとし、
――アオォォォォォォン!!
獣の咆哮が、響き渡った。
凄まじい気配を撒き散らし、何かが迫りくる。
オーベールの視線は、そちらへと向いた。
「――ルディ!! 無事か!!」
そしてやって来たのは、聖獣レオとパウロだった。
主人の危機を察知した守護獣が、パウロを連れて駆け付けてきたのである。
予想外の援軍であったが、非常に心強い存在であった。
「む」
オーベールも予想外だったのだろう。
撤退するべきか悩んでいる様子だった。
その間に、パウロがルーデウスの横に並び立つ。
「よぉルディ。こんなところで何してんだ? 正義の味方ごっこか?」
「違います。真面目にしてください。相手は北帝です」
「え……まじか?」
「まじです」
「まじかよ……」
そう言いつつ、彼は一歩前に出る。
それはルーデウスを守れる前衛の位置だった。
「それで、俺はどうすればいい?」
「……助けて下さい。ロキシーが危ないんです」
その言葉にパウロは目を見開き……ニヤリと表情を変える。
「――おう、父さんに任せろ」
パウロは剣を引き抜き、北帝と相対した。
前書き通り、深夜テンションで仕上げました。穴や抜け、誤字脱字あれば申し訳ない。
Q.オルステッドのヒトガミジャミング効果は?
A.原作において実際にどの程度の距離までジャミング出来るか不明なため、今作でもその効果範囲も曖昧です。
検証も出来ないでしょうし、多分オルステッドも範囲については知らないんじゃないでしょうか。
Q.内通者?一体誰なんだ…。
A.8章くらいで明らかにする予定です。
Q.室内で泥沼を使ってる…?
A.ルーデウスは態々土を発生させてから泥沼にしたのだと解釈してください。
Q.オーベール。
A.作中で記載したように、モチベーションがあまりありません。そのため、アリエル王女を仕留められる機会を何度か逃してます。
Q.オーベールの戦闘スタイル。
A.NINJA。
Q.何でレオとパウロ来たの?
A.守護魔獣であるレオがロキシーのピンチを感じとったのでパウロを引っ張って行ったら、誰かを追うルーデウスを見掛けたためです。