無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

ルイジェルド「俺は留守番か」
リベラル「ソーカス草取りに行きまーす」
アトーフェ「お前銀緑か?銀緑なのか?銀緑は男だろ?」

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6話 『不死魔王VS銀緑』

 

 

 

 ――不死魔王アトーフェラトーフェ。

 

 彼女は昔から生きている古代魔族であり、人魔大戦も経験している存在だ。

 当時からその不死性と強力な闘気によって、数多の人族を打ち砕いてきた恐怖の象徴である。

 

 本来の歴史ではルーデウスと2回戦い、2回ともルーデウスが勝利を掴む結果になっていた。

 それだけ聞けば、魔王と言っても大したことのない実力なのかと思う者もいるかも知れないがそんな訳ない。

 アトーフェはその不死性に自信があったり、魔王と勇者の関係性を大切にすることから油断が多いだけである。

 ペルギウスにも「油断をするのは貴様ら不死魔王の血族のお家芸」などと馬鹿にされたりしているが、それでも戦争を当然のように生き抜いているのだ。

 言い換えれば、油断していても死なないのである。

 

 歴史上、彼女を真正面から打ち倒したのは魔神ラプラスと、北神カールマン・ライバックのふたりだけであった。

 

 ラプラス戦役ではその不死性に物を言わせた戦闘に、彼女をサポートする親衛隊。

 そのふたつが合わさることでとてつもない強さを発揮した。

 親衛隊も不死性を持つものが多く、普段はふざけていても戦場では非常に多くの戦果を上げていたのだ。

 更に言えば、アトーフェはラプラス戦役よりもずっと強くなっている。

 北神一世であるカールマンと婚約したことによって、彼の持つ不死瑕北神流をも身に付けることとなった。

 

 最強の肉体に、最強の技術。

 更に親衛隊のサポートも受けるアトーフェの実力は――本物の七大列強と遜色ない実力だった。

 

 

――――

 

 

 アトーフェは大剣を上段に構えながら、歩み寄っていた。

 そしてリベラルは、それがただの剣術でないことを知っている。

 不死瑕北神流の一撃である『不帰(フキ)』だ。

 不死に死を与える一閃であり、奥義のひとつ。

 

 アトーフェは臨機応変な応用力が要求される北神流を使いこなすことは出来ないが、それでも基本的な奥義くらいは使えるのだ。

 更に、親衛隊も不死疵北神流を扱うことが出来る。

 

「!!」

 

 目の前のアトーフェに集中していたリベラルだが、横合いから炎が放出されたことに気付く。

 素早く水の魔術にて相殺するが、その瞬間に魔王の一閃が襲い掛かる。

 

「むっ!?」

 

 だが、その一撃は僅かに上体を後方に下がることで、地面を叩き付けることとなった。

 元々の重心を後ろに置き、身体だけを前方に置いていたことで、アトーフェが距離感を見誤ったのだ。

 その間に、リベラルは腕を大きく振りかぶっていた。

 

 右手は白く発光し、眩しい光が周囲を照らす。

 

「甲龍手刀『一断』」

 

 しかし振り抜かれた手刀は、アトーフェの首をはね飛ばすには至らず、中心付近で止まってしまう。

 にたぁ、と顔を歪ませたアトーフェは、彼女の腕ごと肉体を再生させて拘束するのだった。

 

「捕まえたぞ」

「いや、それは悪手でしょう」

 

 瞬間、拘束されているリベラルの腕から、マグマのように燃え盛る炎が放出される。

 超高温のそれはアトーフェの体内で爆発し、胴体から上をバラバラに炭化していった。

 もちろん、リベラルの右腕も無事では済まず、真っ黒に燃え焦げてしまう。

 だが、気にした様子も見せず、左腕で残った下半身を粉砕しようとし――。

 

「させん!! 『水砲(スプラッシュフロウ)』!」

 

 そうなることを予期していたのだろうか。

 既に詠唱を終えていたムーアの手から、圧縮された大量の水が放たれていた。

 それに気付いた彼女は左腕を方向転換させ、射線上に置く。

 それによって斜めへと射線はズレるが、炎と水がぶつかることによって水蒸気が発生するのであった。

 

(視覚妨害……やはりムーア様は厄介ですね)

 

 目の前にいるアトーフェはともかく、水蒸気によって辺りにいた親衛隊を見失ったリベラル。

 次の瞬間には、全方位から様々な魔術が襲い掛かる。

 

 彼女は未だ再生中であったアトーフェの足首を左手で掴んだ。

 

「!! はな――」

「魔王防壁!!」

 

 力任せにアトーフェの足を引っ張ったリベラルは、そのまま振り回して魔術を防いでいく。

 更には回転した風圧で水蒸気も晴れていった。

 盾代わりにされたアトーフェは、魔術と急激な遠心力によってボロボロになってしまう。

 全ての魔術を防げば、そのままムーアに向かってアトーフェをぶん投げた。

 

「ぐっ!」

 ムーアはそれを受け止めようとしたが、勢いに負けて壁に激突してしまう。

 彼らが立ち上がるよりも先に、リベラルは魔術による追撃を行った。

 

 火系統上級魔術『溶岩(マグマガッシュ)』。

 

 高熱を秘めたる溶岩がアトーフェたちへと向かって放出されるが、そこに親衛隊のひとりが飛び出し身を挺して防ぐ。

 黒鎧は魔術ダメージを半減させるためバラバラになるという事態にはならなかったが、飛び出した男は真っ黒に焦げながら弾け飛んだ。

 それを合図にするかのように、3人の親衛隊がリベラルへと飛び掛かっていく。

 

 ご丁寧に、先ほどのアトーフェと同じ『不帰(フキ)』を扱っていた。

 

(普段は馬鹿にされてますが、部下に不死疵北神流を教えてるのは優秀ですよね)

 

 魔眼を開いた彼女は、受け流そうとした瞬間に腕を切り落とされる未来を予期する。

 囲まれた状態では避けきれないと判断し、土魔術によって自身をカタパルト発射。

 そのまま空中から戦線離脱して距離を取りつつ、右腕を治癒魔術にて治した。

 そこに複数の魔術が放たれていたが、それは難なく受け流す。

 

「銀緑ィィ!!」

 

 既に立ち上がっていたアトーフェが、激昂しながら突進していく。

 周りの親衛隊もそれに合わせるかのように、魔術を放ったり北神流の構えを取って追従する。

 

「冷静さを欠いてませんか?」

「うるせぇぇ!!」

 

 言葉と同時に、無詠唱による岩砲弾を放った。

 それは親衛隊が放った魔術を打ち破りながらアトーフェへと迫り、

 

「見切ったぁ!」

 

 残像を残して動いたアトーフェは、岩砲弾を後方へと逸していた。

 打ち漏らしていた魔術への対処をしてる間に、アトーフェは間合いへと入り込む。

 最小限の動きで振るわれる刃を躱すが、やって来た親衛隊に囲まれてしまう。

 突きや上段、横振りと様々な方角から振るわれる。

 

「――全然足りません」

 

 リベラルがしたのは、ただその場で回転するかのように腕を一振りしただけだった。

 誰かに触れたわけでもない。

 だというにも関わらず、その場にいたアトーフェを含む親衛隊は勝手に転がってしまう。

 

「?!」

 

 ダメージは特になかった。

 しかし、まるでリベラルの動きに誘導されるかのように、身体が地面に倒れてしまうのだ。

 

 魔眼を開いた彼女は、全ての流れが可視化されている。

 力の流れに、魔力の流れ。

 それらを自身の動きで誘導して制御することで、完全なる合気を体現していた。

 

「『鯨波(ゲイハ)』」

 

 近くにいる者は確実に無力化し、着々と動ける親衛隊の数は減っていく。

 無論、それを黙って見ていた訳ではない。

 魔術で応戦したり、剣術で斬り伏せようとした。

 それら全ては難なくいなされてしまい、ムーアは焦りを隠すことが出来ない。

 

「うがぁぁぁぁ!」

 

 突進してきたアトーフェが剣を振り下ろす。

 あまりの威力に床が陥没し、クレーターが出来上がる。

 だが、リベラルは身体を僅かに逸らすだけで避け、アトーフェを蹴り飛ばす。

 

 ムーアの放った炎が迫るが、半円に腕を振るえばその軌道上に魔術は誘導され、そのまま彼の元にブーメランのように帰っていく。

 他の魔術もリベラルが腕をひとつ振るうだけで、全て軌道が逸れていった。

 

「お前の攻撃は非力すぎる!」

 

 すぐに復活したアトーフェが、再び間合いへと入る。

 今回は学習したのか、ようやく縦振り以外で剣を振るった。

 もちろん、それは簡単に避けられてしまう。

 

「フハハハハハ! 死ねぃ!」

 

 そんなことを気にした様子は見せず、アトーフェは何度も剣を振るった。

 調子も上がってきたのだろう。

 段々と速度が上がっていき、残像すら残さぬほどその動きは加速していく。

 縦、横、斜め。

 最早目で追うことすら出来なくなる。

 

 残っている親衛隊も、魔術を遠巻きに放っていた。

 氷の矢が、炎の矢が、岩砲弾が、雨のように降り注ぐ。

 

 けれど――当たらない。

 

 アトーフェの剣技も、親衛隊の魔術も、まるですり抜けてるかのように届かない。

 最小限の動きで、紙一重の回避が続く。

 本当に、少しなのだ。

 たった数ミリで彼女に届く筈なのに、その僅かな距離が果てしなく遠かった。

 リベラルは、未だに掠り傷すら負っていない。

 

「『発勁(ハッケイ)』」

「うぐぅ!?」

 

 アトーフェは目にも止まらぬ速さだったが、リベラルもまた速かった。

 一歩踏み込むだけで懐に入り込み、魔術を避けると共に添えた手でアトーフェを弾き飛ばす。

 再度親衛隊の魔術の射線上に晒され、ボロボロになっていくアトーフェ。

 

「アオォォォォォォォン!!」

 

 『吠魔術』。

 圧倒的な声量で発せられた咆哮は、まるで質量を持っているかのように大気を揺らした。

 周りにいる親衛隊は、それに対応出来ずに大きく硬直してしまう。

 

「私の攻撃が非力すぎる、ですか」

 

 リベラルの身体が、仄かに白色に発光する。

 

「これを受けても同じことを言えますか?」

 

 既に再生し、立ち上がっていたアトーフェへと掌を向けた。

 

 

「――龍族固有魔術(オリジナルマジック)『龍門解放』」

 

 

 ――光が、前方を埋め尽くした。

 視界に映る全てを破壊し、圧倒的破壊痕がそこに残る。

 

 アトーフェは意外と言うべきか、避けていた。

 彼女の魔術に危機感を感じたのかは不明だが、横に大きく飛んでいたのだ。

 しかし足が消滅しており、それが再生する様子も見られない。

 

「こ、の……!!」

「まだやりますか?」

「当たり前だぁ!!」

 

 アトーフェは自身の腰を斬り、自身を真っ二つにした。

 すると下肢はぶよぶよの肉塊と化し、ぐねぐねとうごめきながら腰に引っ付くと、下肢を形成する。

 だが、元々の大きさの三分の一程度の身長になっていた。

 

「おいおい、まだあんなのと戦わなきゃいけないのか?」

「いやぁ、これは無理だろ」

「アトーフェ様が再生出来ないの初めて見たぞ」

「鎧も意味をなさないな。なんだ今の魔術……」

「おい諦めるな! 掛かれお前たち!」

「いや、俺は倒れた奴らの介抱しないといけないし……」

「あ、俺もその手伝いしなきゃいけないし……」

「じゃあ俺も」

 

 親衛隊は戦意喪失してる者もいるが、リベラルは油断せず周囲への警戒も怠らない。

 かつてラプラスからプレゼントされた腕輪に手を伸ばすと、それを外した。

 その身に宿す『恐怖される呪い』が、周囲の者たちを威圧する。

 更に先ほどまでの圧倒的な戦力によって、親衛隊は恐怖に身を震わせ動けなくなってしまった。

 

 そんな彼らへと、彼女は再び掌を向ける。

 

「12の精霊よ、その力の象徴を示せ。『破壊(ドットバース)』」

 

 光の奔流が一部の親衛隊を飲み込んだ。

 けれど特に外傷を負ったわけでもなく、先ほどの破壊痕を残したわけでもない。

 親衛隊は何が起きたのか分からず、首を傾げていた。

 

「今のは契約を破壊する魔術です」

「!!」

「アトーフェ様に無理やり契約を交わされた者がいることは把握してます……契約が破壊された以上、今がチャンスかも知れませんね?」

 

 その言葉に、彼らは目を見開く。

 大半は好きで魔王の親衛隊をやっているが、そうでないものもいるのだ。

 特に人族は嘆くものが多くおり、帰れなくなったことに絶望してる者もいた。

 

 アトーフェは押されており、親衛隊の多くも無力化されている。

 そんな状況下で契約がなくなれば、どうなるかなど言わずとも知れよう。

 人族の親衛隊は、互いに顔を見合わせて頷いた。

 

「少しの間だけ他の親衛隊を任せます。そうすれば、アトーフェ様の元から逃して上げますよ」

「本当か……? 帰れるのか……?」

「帰りたくないなら私が貴方がたの相手になるだけです」

 

 そこまで言われれば、選択肢はひとつしかなかった。

 

「ワコ村に……帰れるのか!」

「馬鹿野郎お前俺は帰るぞお前!!」

「やったあぁぁぁぁ!!」

 

 リベラルの言葉に歓喜した彼らは、そのまま魔術を放とうとしていた親衛隊に魔術を浴びせかける。

 魔王の元から逃げ出せることに希望を見出し、完全にリベラルの側に付くのであった。

 

「き、貴様ら……!!」

「すんませーんムーア様! 今日限りで親衛隊辞めまーす!」

「自由だあぁぁぁぁぁ!!」

 

 そして、親衛隊はアトーフェの援護が出来なくなった。

 それにより、彼女はリベラルとのタイマンを強制される。

 

「銀緑ィィ……!!」

「先ほどまでの速さがなくなってますよ」

 

 姿が小さくなったアトーフェは、彼女の発言通り弱体化していた。

 不死魔王は小さくなれば速さが上昇するなんてことはないのだ。

 彼らは細胞ひとつひとつに力を宿しているため、量が減れば必然的に弱くなる。

 

 先ほどまでの精彩さを欠いたアトーフェは、技術だけでなく力もリベラルを下回っていた。

 何度倒されても立ち上がるが、完全に子どもを相手にするかのような状態だ。

 更に言えば彼女は油断をしておらず、全ての動きに完璧な対応をしていた。

 

「準備完了です」

「!!」

 

 一瞬の隙をついたリベラルは、アトーフェの剣を掴むとそのまま蹴り飛ばす。

 剣を奪われ吹っ飛んだ彼女は、地面をしばらく転がり続けた。

 もちろんその程度でやられる訳もなく、立ち上がろうとしたアトーフェだったが、何かにぶつかってしまう。

 よく見れば、いつの間にか光り輝く壁が彼女を囲んでいたのだ。

 

 

「結界だとぉ!?」

 

 

 ――聖級結界魔術。

 物理と魔力を遮断するその障壁は、不死魔王を完全に無力化する。

 外部からならともかく、内側にいるアトーフェにはどうすることも出来なくなった。

 

「昔の仕返しであって、別に殺したい訳じゃないですからね。何で負けたか、明日まで考えといてください。そしたら何かが見えてくるはずです」

「くそがぁぁぁ!!」

 

 叫ぶアトーフェを傍目に、彼女は未だ残っている親衛隊に視線を向ける。

 ムーアが必死に応戦していたが、彼らの装着している黒鎧は魔術に対して耐性を持つ。

 優秀な魔術師ではあるが、如何せん相性が悪く、元部下たちを押し切ることは出来ずにいた。

 

「くっ……ここまでか……」

「いきなり喧嘩をおっぱじめてすみませんね」

 

 全ての親衛隊を無力化したリベラルは、最後にムーアへと発勁を放ち吹っ飛ばす。

 壁に激突した彼は、地面に倒れ伏すとそのまま動かなくなるのだった。

 

 そして彼女は、魔眼を閉じた。

 

 

――――

 

 

 アトーフェたちを倒したリベラルだったが、ソーカス草を入れていたポーチを守り切ることは出来なかった。

 無惨にボロボロとなったため、再度ソーカス草を取りに行った。

 採取し終えたリベラルが戻ると、帰郷を望む親衛隊たちが何故かキシリカを取り囲んでいる。

 どうしたのかと思い様子を窺うと、ぷりぷり怒っていた。

 

「くぅ……宴が台無しじゃ馬鹿者!」

「いやぁ、俺たちは悪くないんで」

「そっすよ。悪いのは銀緑っすよ」

「そーだそーだ」

「俺たちに怒るんじゃねー!」

 

 幼女を取り囲む彼らは、全ての罪をリベラルに擦り付けていた。

 実際に間違いではないし、スマートに切り抜けなかったのは彼女なので文句は言えない。

 小さく溜め息を吐いたリベラルは、親衛隊のひとりを背後からカンチョーして悶絶させる。

 

「帰りたいのでしたらそれ以上は言わないようにしましょう」

「ヒェッ」

 

 反射的にお尻に手を回した親衛隊たちはさておき、リベラルはキシリカへと向き直る。

 

「リベラルお主! 何てことをしてくれたのじゃ!」

「すみませんキシリカ様。ついカッとなって……」

「嘘付け! お主はもっと理性的じゃろ!」

「いえいえ私は本能的ですよ。あー、キシリカ様可愛いからお持ち帰りしたいですねー」

 

 素早く背後へと回り込んだリベラルは、そのままキシリカを抱き締めた。

 長らく風呂を入ってないことや、宴で酒を飲みすぎたのか残念ながら良い匂いとは言えない。

 しかし、幼女であることで全てのマイナスはプラスとなるのだ。

 抱き締めながら座り込んだ彼女は、キシリカを存分に堪能するのであった。

 

「ええい! 離さんか!」

「我が龍神流拘束術から逃れられるなら逃れてみるがいい!」

「しばらく見ない間にずいぶん気色悪くなったのう!」

「これが私の素です」

「なんと」

 

 拘束から抜け出そうとしばらく抵抗していたが、キシリカはやがて諦める。

 観念したかのように力を抜いた彼女は、そのままリベラルを見上げた。

 

「それにしても、一体何をしに来たのじゃ? アトーフェのアホに喧嘩を売りに来ただけではあるまい」

「私の友人や仲間たちがドライン病に掛かったんで、治すためにソーカス草を取りに来たんですよ」

「ほうかほうか、お主が仲間の為に動いたのか。昔に比べて棘がなくなったの。それは良いことじゃ」

 

 うむうむと頷く仕草を見せていたが、キッと睨みつける。

 

「それならば、何故戦いになったのじゃ?」

 

 よほど宴会を楽しんでいたのだろうか。

 キシリカは恨みがましそうに彼女を見るのだった。

 

「すみませんキシリカ様。ついカッとなって……」

「嘘付け! お主はもっと理性的じゃろ! じゃなくて、さっき言ったことじゃろそれ!」

「アトーフェ様なら会話がループするのに……それを断ち切るなんて……!」

「お主アホになったのか?」

 

 なんてやり取りをしつつ、咳払いをして気を取り直したリベラルは正直に答える。

 

「まあ、将来ヒトガミと戦うことに向けての鍛錬ですよ」

「うむ、別の場所で別のタイミングでやって欲しかったのう」

「それは本当に申し訳ないです」

「取りあえず、離してくれんかの」

 

 素直に謝罪したリベラルが拘束を解くと、キシリカは向き直るように座った。

 

「さて……リベラルよ」

「どうしましたか」

「…………」

 

 先ほどまでの雰囲気とは一転し、どこか話しづらそうな様子のキシリカ。

 何から話すか考えていなかったのか、言葉に詰まっているようだった。

 首を傾げつつも、彼女の言葉をゆっくり待つリベラル。

 やがて、意を決したかのように口を開く。

 

「ここ最近、バーディを見ておらんか?」

「見てませんが……それがどうしましたか?」

「……ここで宴会する前、妾は一度バーディの元に向かったのじゃが、奴はずっといないようだったのじゃ」

「…………」

 

 リベラルの場合、ここ最近ではなくラプラス戦役後にその姿を見たことはなかった。

 不死魔王バーディガーディはラプラス戦役にて、ラプラスによって殺されそうになっていた。

 しかし終戦後にバーディガーディなどの穏健派の魔王たちと、人族の間で条約が交わされているため、死亡した訳でもない。

 少なくとも、ここ数年の間はバーディがいたことは確からしい。

 

 キシリカが言葉に詰まっていた理由を察したリベラルもまた、口を閉じてしまう。

 彼女の言いたいことを分かってしまったのだ。

 

「あの方は目立つ存在ですが、どこからも目撃情報がないのは不思議ですね」

「うむ、不思議じゃが……妾たちは経験があるだろう」

 

 キシリカの言葉に、リベラルは思い出すかのように呟く。

 

 

「……――第二次人魔大戦、ですか」

 

「そうじゃ」

 

 あの頃は、闘神バーディガーディと龍神ラプラスの戦いを避けるために、鎧を手にしてないバーディを先に確保しようと動いた。

 結局、ヒトガミの手によって逃げ延びたバーディは、龍鳴山でリベラルを打ち倒し、本来の歴史を辿ることとなった。

 今回は特にバーディを捕まえようなどとしてないが、それでも行方不明となってるのは昔のことを思い出さざるを得ないだろう。

 

「まあ、ヒトガミが関係してるとは限りませんよ」

「うむ、そうじゃな! 案外辺境地で酒を飲み漁ってるだけかも知れんしのお。ファーハハハハハ!」

 

 互いにそう口にしたが、もちろん楽観的に考えてる訳ではない。

 バーディガーディが今更ヒトガミの頼みを聞く理由もないだろう。

 そんな考えもある。

 しかし、キシリカは過去に殺される原因となり、リベラルは父親を失う原因となった。

 彼本人も痛い目に遭い、ヒトガミを恨むこととなったのだ。

 故に、ヒトガミの使徒になどなって欲しくないという願いがあった。

 

「…………」

 

 けれど、そんな願いと違う結果であるのならば――。

 

「リベラルよ」

「なんですか?」

「もし、もしもバーディがヒトガミの使徒になっておったら……殺さないで欲しいのじゃ」

「…………」

「無茶な頼みなのは分かっておる。じゃが、妾たちは同じ過ちを繰り返す必要もあるまい」

 

 第二次人魔大戦では、ヒトガミ以外の誰も得をしない結末となった。

 龍神ラプラスは魔神と技神に魂を引き裂かれ、バーディは守ろうとしていたキシリカごと失くしてしまった。

 

 戦時中なので妥協は出来なかっただろうが、それでもこのような結末に至る必要はなかったのだ。

 

「アトーフェとの戦いは見ておった。今のお主なら殺さずとも容易に制圧出来るであろう」

「それもそうですね」

 

 リベラルはずっと力を磨き続けてきた。

 龍鳴山で誓ったのだ。

 誰が相手であろうが、二度と負けないと。

 

 その甲斐もあってか、彼女はこの世界で最上位の実力に至れた。

 あらゆる戦い方に、技術を身に付けた。

 卑怯とも言える戦い方をすることもあるが、リベラルには矜持があるのだ。

 

 何千年にも渡り磨き続けたこの技術は――決して誰にも負けないと。

 

「まあ、バーディ様がヒトガミの使徒になったとは限りません。出会ったら昔のことは水に流し、仲直りでもしますよ」

「うむうむ、そうするといい! 仲良しになるのはいいことじゃ! ファーハハハハハ」

 

 そうして話し合いは終わり、リベラルはスペルド族の村へと戻ることとなった。

 アトーフェの元親衛隊は全員人族であったため、ペルギウスに事情を説明することで故郷の近くに転移されていった。

 意外と言うべきか、中には故郷に行かずリベラルに仕えようとするものもいた。

 そうした者たちはラノアへと向かわせ、将来建設予定のルード傭兵団として使うことにしたのだった。




Q.不帰、龍門解放、破壊(ドットバース)。
A.『不帰』は不死に疵を与える剣術。原理は不明。現在のリベラルは扱えません。オリジナル技です。
『龍門解放』は龍族に宿る力を解放した魔術。名前はオリジナルです。ラプラスが魂を引き裂かれる原因となったもの。力の流れをコントロールすることで、オルステッド社長VSルーデウスの時のように光の奔流として扱える。コミック版では第二次人魔大戦でラプラスがそれを使って不死魔王たちを消滅させまくっていた。
『破壊(ドットバース)』はペルギウスと協力して開発したオリジナル技です。12の精霊の力を一部扱えるようになります。

Q.アトーフェ再生せずに身体ちっさくなったけど、ずっとそのままなの?
A.独自解釈ですが、ご飯食べて寝てたら成長して元の大きさにいずれ戻ります。

Q.アトーフェと親衛隊と不死疵北神流を合わせると本物の七大列強に匹敵するみたいなこと書いてあったけど、リベラルが圧倒的すぎん?
A.本物の七大列強とはラプラス戦役でお亡くなりになった方々のことですが、それでも上位と下位では実力差があると考えてます。
魔神ラプラスを相手に、北神と龍神、甲龍王の3人が揃っていたのに勝ち切れてなかったためです。
また、相性の差もあると考えてます。
今回はリベラルが相手でしたが、それ以外だとアトーフェを倒したり封印したり出来ないため、最終的に完封されると考えてます。不死瑕北神流を扱える北神だったからこそ、アトーフェを倒して婚約したと考えてます。

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