無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

リベラル「スペルド族の疫病はドライン病の可能性ありです」
ルイジェルド「ならば治すための方法はあるのか?」
リベラル「ソーカス草取りに空中城塞経由しますので、同胞の看病をお願いします」

文章に詰まったら一生詰まる病に掛かりました。
そんなときは一度作品から離れるといいでしょう…なんていって離れるとずっと離れてしまうので、頑張って治しました。
誰か褒めてくだちぃ。


5話 『魔王再臨』

 

 

 

 帰らずの森の中を移動するリベラルは、すぐに七大列強の石碑を発見していた。

 スペルド族の疫病の症状が深刻だったため、行きしなのように目を瞑って透明狼の相手をせず、魔眼を開いて蹴散らしていた。

 魔眼の力もフル活用したため、発見には然程の時間は掛からなかったのである。

 

「光輝のアルマンフィ。参上」

 

 早速アルマンフィを呼び出した彼女は、手短に用件を伝える。

 

「お久し振りですアルマンフィ様。魔大陸に至急行かなければならないので、空中城塞の転移陣の使用許可を貰ってきて欲しいです」

「何が……いや、分かった」

 

 普段はふざけたやり取りが多いが、今回は真面目な様子だったため彼は無駄口を叩かず言うことに従う。

 返事をしたアルマンフィは、転移に必要な媒介を渡すと、文字通りの光速となって目の前から飛び立っていった。

 しばらくすると、触媒から反応があったため抵抗せずに受け入れる。

 

 ちょっとした浮遊感の後、リベラルは空中城塞へと転移された。

 

「ようこそリベラル様」

「シルヴァリル様、お久し振りです。申し訳ございませんが急ぎですので案内お願いします」

「……分かりました」

 

 そうして案内された彼女は、謁見の間へと辿り着く。

 中へと入れば、王座に肘を付いているペルギウスがリベラルを見つめていた。

 

「久しいな、リベラル。急ぎの用があると聞いたがどうしたのだ?」

「お久し振りですペルギウス様。足代わりにするようで心苦しいのですが、魔大陸への転移陣を使わせて下さい」

「それは構わぬが……何があった?」

「ラプラス戦役にて、魔神との最終決戦に助太刀したスペルド族の男を覚えてますか?」

 

 彼女の言葉に、ペルギウスは不可解そうな表情を浮かべながらも答える。

 

「ルイジェルド・スペルディアか。奴がどうしたというのだ?」

「実は彼の一族……スペルド族全体が原因不明の病に掛かりまして」

「ほう」

「病気の正体の予想は何とかつけられましたので、治療するための薬を至急取りに行きたいのです」

「…………」

 

 その話に、彼は鋭い眼光で彼女を見つめた。

 ペルギウスは魔族嫌いであるため、魔族を救うための行動を面白く思ってないのだろう。

 もちろん、リベラルはそんなことで怯んだりしない。

 彼女もまた、沈黙の中返答を待ち続ける。

 

「貴様くらいだな。我に向かって物怖じせぬのは……」

「私の中のペルギウス様は、まだまだ昔のようにわがままで弱っちいガキンチョのままですからね」

 

 どれほどの時間が経とうとも彼が後から生まれた以上、リベラルの過ごした年月を超えることはない。

 戦争時の未熟だった頃のペルギウスを知っている彼女にとって、歴史に名を残すような人物になろうとも可愛い弟のような存在だ。

 

「ククッ、言ってくれるな。ならば生意気な口を叩く貴様に転移陣を使わせる訳にはいかんな」

「あっ! 嘘、嘘です! ペルギウス様最強! 素敵! カッコいい! だから転移陣使わせて欲しいです!」

「貴様の言葉からは誠意を感じられん」

「くっ、何が望みですか?」

「1分間、我の椅子代わりとなれば考えてやろう」

 

 愉快そうに笑うペルギウス。

 これはなにも彼が変な趣味を持っているからではない。

 ウルペンや北神一世が生きていた頃の話だ。

 彼はこのようにリベラルにからかわれ、喧嘩をしてはボコられていた。

 そしてその度に、椅子代わりにされてウルペン達と談笑するという屈辱的な経験があったのである。

 つまり、昔にされたことの意趣返しであった。

 

「仕方ありませんね。ペルギウス様の変態的な欲求を満たして上げましょう」

「その強がりがいつまで続くか見ものだな」

「さっ、どうぞ」

 

 サッと四つん這いになるリベラル。

 ペルギウスは何も言わずそこに座った。

 

「やーん、ペルギウス様おっきいですー。潰れちゃいそうですー。もう許してくださーい」

「…………」

 

 豪華な諸葛の間で、人間椅子に座る二人の姿。

 それを見守る十二の使い魔たち。

 

 リベラルは特に羞恥心を感じてないのか、棒読みの台詞を溢していた。

 ペルギウスも別に趣味ではないので楽しい訳でもなかった。

 彼としては、リベラルの悔しがる表情を見たかったのだ。

 決してこんな棒読みの台詞を聞くためではない。

 昔の意趣返しすることで謝らせようとしたのに、何も堪えた様子がないため恥をかいたのはペルギウスだった。

 

 無言でリベラルから離れた彼は、玉座へと戻った。

 

「つまらん」

「ふっ、まだまだですね」

「黙れ」

 

 ハァ、と深い溜め息をついたペルギウスは、忌々しそうに彼女を睨み付ける。

 リベラルはニコニコとした表情で彼を見つめるだけだ。

 

「もうよい。転移陣なぞ好きに使うといい」

「ありがとうございます」

 

 結局、ただただからかわれただけのペルギウスは、疲れたようにそう呟くのであった。

 

 

――――

 

 

 リベラルは空中城塞の地下にある転移魔法陣を使い、早速魔大陸へと移動した。

 転移先はもちろん、旧キシリカ城のあるリカリスの町の近くだ。

 城の中にソーカス草が栽培されている。

 詳しい場所は分からないものの、探せば見つかるだろうと考えていた。

 

「ふっ……よっと!」

 

 転移魔法陣のある場所は外への道が封鎖されていたため、リベラルは全身に力を込めて固く閉じられた扉を開く。

 外へと出れば、眼下には赤茶けた大地。

 巨大な石がゴロゴロと転がる、高低差の大きな地平が広がっていた。

 その先の坂の上へと登っていけば、そこからリカリスの町を見下ろすことが出来た。

 

 斜面を降り、クレーターの外周をぐるりと回って、入り口へと向かう。

 入口には門番がふたり立っていたが、それを見たリベラルは苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。

 

 トゲトゲとした漆黒の全身鎧に、フルフェイスの兜を被っていたのだ。

 普段ここにいる門番は、このような格好をしていない。

 この特徴的な格好をした兵士を、リベラルは知っていた。

 

「何故アトーフェ様の兵士がいるのですか……」

 

 かつての記憶が蘇る。

 ラプラスに初めて龍鳴山から連れ出された日、リベラルはかの魔王に強制的に徴兵されそうになった。

 とはいえ、ラプラス戦役にて何度か戦い、仕返しは既にしたので今となってはただの思い出である。

 

 彼女が言いたいのは、時期的にアトーフェラトーフェはまだリカリスの町に来ていないと思っていたのだ。

 本来の歴史では、アトーフェが受け取る筈だったお酒をキシリカが飲み干したことが原因で怒るのだが、もっと後だと思っていた。

 

 何かしらの理由があり、この地にいるのだろう。

 

「あ、お疲れ様でーす」

「ああ、お疲れ様」

 

 普通に挨拶しながら入ると、そのままスルーされたので彼女は門を通り抜けることが出来た。

 門番たちは互いにお喋りに興じており、全く警戒されてる様子がなかったのである。

 

 町の中は特に変わった様子もなく、ただアトーフェの兵士を時おり見かけるくらいだった。

 誰かを探しているという様子もなく、余り者を警備に回しているかのようなザルさだ。

 状況を把握するため、リベラルは近くにいた兵士へと話し掛けた。

 

「すみません」

「どうした」

「もしかしてこの町にアトーフェラトーフェ様が来られてたりするんでしょうか」

「ああ、来てるぞ。キシリカ様と宴会をしている」

 

 兵士のその言葉に、彼女はふむふむと考える。

 少なくとも、お酒を奪われたとかそのような理由で来た訳ではなさそうだ。

 

「何か目出度いことでもあったのですか?」

「いや、突発的なものだ。たまたま我等の元に辿り着いたキシリカ様は、どういう訳かみすぼらしい格好で飢えていた」

「はぁ」

「食事を分け与えたが……お礼にキシリカ城で酒盛りでもしようという話になったのだ」

「なるほど……ありがとうございます」

 

 その説明に何となく話の流れを掴む。

 元々キシリカが乞食のような生活をしているのは、魔神ラプラスによって影が薄くなったことと、魔族が権利を得た平和な時代のため相手にされなくなったからだ。

 飢餓によってうっかり死んだこともあるらしい。

 恐らくキシリカ城に行っても相手をされなかったのだろう。

 悲しい話である。

 

 たまたまアトーフェたちと出会ったのであれば、彼女たちの力を借りて自分のお城に戻りたかったのかも知れない。

 観光地になってるとは言え、自分のお城なのだから食べ物くらいは保管してるだろう。

 飢えを凌ぐための手段として考えたのかも知れない。

 推測なので事実は知らないが、リベラルはそう考えた。

 

「ところでお前……何処かで見たことあるような気がするな……」

 

 リベラルは銀緑としてラプラス戦役に参戦していたので、同じく参戦していたアトーフェの兵士たちは彼女のことを見たことがあるのかも知れない。

 怪訝な表情で顔を観察してくる彼らに対し、リベラルはキリッとした表情で答える。

 

「私、アトーフェラトーフェ親衛隊の大ファンなんです!」

「お、おお?」

「鎧越しでも分かります……とても過酷な訓練をされて来たのでしょう」

「おお……そう、そうなんだよ! 分かってるなお前!」

「サインください!」

「いいだろう!」

 

 嬉しそうな雰囲気を隠しきれず、上機嫌にサインをする親衛隊。

 

「ヨシッ!」

 

 ということで、リベラルは疑われることもなくその場を切り抜けた。

 そのまま兵士に見送られながら、先へと歩いていく。

 

「さて、アトーフェ様がいるようですがどうしましょうかね」

 

 北神カールマンは死去する前にアトーフェとの殺し合いを禁じたが、それはペルギウスだけにされた約束だ。

 リベラルは特にそんな約束をされてないため、遭遇すれば戦闘になる可能性が高い。

 過去のやり取りを考えれば、説得が無意味なことは言わずとも分かるだろう。

 とは言え、リベラルとしては魔王と戦闘になってもならなくてもどちらでもよかった。

 ソーカス草はなるべく早く回収すべきだが、彼女の最終目標であるヒトガミの打倒を見据えるならば戦うのも悪くない。

 

 リベラルは技神と同じく、技術の研鑽と伝授という使命がある。

 しかし、ふたりの大きな違いを挙げるとするならば、それは危険を避けるかどうかだ。

 技神は伝授することを重要と考えており、ラプラス戦役にも参加しなかったように、リスクを避ける傾向がある。

 リベラルは研鑽することを重要と考えており、戦争にも参加して実戦でもその技術を磨いてきた。

 

 アトーフェは北神カールマンと結婚し、現在は不死疵北神流を扱える数少ない内の一人となっている。

 リベラルも扱えないことはないが、ベガリット大陸のヒュドラ戦で見せた『八双<ハッソウ>』くらいしか使えない。

 彼女の放つ技はどちらかと言えば魔術寄りであり、呪術にて呪いを纏うことで再生能力を封じてるかのような仕組みだった。

 だが、本当の不死疵北神流は魔術などではなく、純粋な剣術にて不死を無効化する。

 そこにまで至ってないため、是非とも扱えるようになりたかったのだ。

 そのためには、やはり直接その剣技を味わう他ないだろう。

 

「…………」

 

 考えた結果、戦闘に陥ったら応戦しよう、というほとんど考えてないような結論に至った。

 どちらでもいいと思っているのだから、当然の帰結と言えよう。

 

 取りあえず城のどこにソーカス草栽培されてるのかまでは分からないため、上から探すことを決めた。

 その場で土魔術を使用し、カタパルトを作成。

 それに乗った彼女はそのまま発射される。

 宙に投げ出されたリベラルは、そのままキシリカ城の屋根上に着地し、そこから中へと入って行くのであった。

 

「(他の二人が見るだろうから)ヨシッ!」

「(前と後ろも見るだろうから)ヨシッ!」

「(前二人が見てるだろうから)ヨシッ!」

 

 中の警備はこのような感じでザルである。

 そもそも観光地になってるキシリカ城に忍び込むような者なんていないし、魔王に喧嘩を売るバカもいない。

 そのような先入観もあるため、仕方ないと言えば仕方ないだろう。

 壁際で銅像の真似をしていたリベラルは、警戒せず過ぎ去っていく親衛隊たちに気を抜いてしまう。

 

 上階からソーカス草を探していった彼女は、特にヒヤッとする場面もなく1階まで辿り着くことが出来た。

 ついでに、希少性のある物品も盗めるだけ盗んでおいた。

 

「……地下への入口付近で宴会してますね」

 

 気配を辿れば、玉座でもなくただの通路で何故か酒盛りをしていた。

 近付いてみると、アトーフェが親衛隊を巻き込んでずっと酒を浴びるように飲んでいる姿が見られた。

 その側でキシリカが素っ裸で踊っている。

 中々カオスな状況だ。

 しかし、素通りするのは難しい。 

 

「ヨシッ! ……ぐえっ!?」

 

 仕方ないので近くを歩いていた親衛隊を背後から襲い、装備を剥ぎ取る。

 それらを装着して変装したリベラルは、そのまま酒盛りをしている彼女たちの横を通り抜けていった。

 特に誰かに気付かれた様子もなく地下へと入れるのであった。

 

「ありましたありました」

 

 黄土色の葉をしたしなびたアロエのようなものを見つけたリベラルは、それをポーチに詰めれるだけ詰め込む。

 鎧の外にパンパンになったポーチがあるため違和感は強いが、スペルド族の全員にソーカス茶を振る舞う必要がある。

 栽培に失敗する可能性も考えれば、出来る限り多く持ち帰りたいのだ。

 

「さっさと帰りましょうか」

 

 このまま順調にスペルド族の村へと戻れれば、約一週間で往復出来たことになる。

 これほど早ければ流石に既に全滅してました、なんて事態には陥らないだろう。

 念のため地下通路の奥を調べてみたが、崩落しており先に進めなかったため、来た道を引き返すことにした。

 

「ファーハハハ! 気持ちいい飲みっぷりじゃのうアトーフェ!」

「アーッハハハハハ! お前のようなアホウに負けるつもりはないからなぁ!」

 

 未だに裸のキシリカと、軽装のアトーフェがずっと酒を飲んでいる状況だった。

 周りを囲む親衛隊たちは「イッキ! イッキ!」などと煽っている。

 先ほどと変わらぬ様子だ。

 

「いやぁ、キシリカ様の裸も悪くないなぁ」

「役得だな」

「うっ、ふぅ……幼女の裸なんてどうでもいいだろ」

「あんなチンチクリンがキシリカ様だなんて未だに信じらんねぇよなぁ」

 

 キシリカの裸に欲情してる者もいるのが不憫である。

 それを咎めることも、告げ口することも出来ないのは口惜しい。

 

 そうして、そそくさと何食わぬように通り抜けようとしていたリベラルだったが、

 

「おい! そこのポーチをパンパンにしてるお前!」

 

 酒盛りをしていたアトーフェに呼び止められてしまうのであった。

 バレてしまったかと、彼女は腹をくくる。

 振り返れば、アトーフェは酒を片手に手招きしていた。

 

「なんで兜を被ってる! ここは酒を飲む場だぞ! さっさと脱いでこっちに混ざれ!」

 

 別にバレた訳ではなさそうだが、どこかに行こうとしていたことが不審に見えたらしい。

 こうなってはもうどうしようもないため、彼女は素直に兜を脱いで近付いていく。

 

「お、おお……お前は!」

「…………」

「いや、気のせいか!」

「あ、はい」

 

 リベラルはラプラス戦役にてアトーフェと戦ったことがあるため、顔を覚えられていると思っていた。

 実際にペルギウスと共に何度か痛い目に遭わせたこともあるし、恨まれていると思っていた。

 だが、彼女はそんなことを全て忘れてしまったらしい。

 

「おお、リベラルか! こんなところで何をしておるんじゃ! もしかして宴に参加しに来たのか!?」

 

 隣にいたキシリカは、当然ながら名前を覚えていた。

 しかし、その名を聞いたアトーフェは顔を歪ませる。

 

「リベラルだとぉ!! 誰だそれは!」

「アトーフェ様、銀緑でございます」

「なにィ!? 訳の分からんことを言うな! 銀緑は男だぞ!!」

「…………?」

 

 唐突に告げられた言葉に、リベラルは頭に疑問符を浮かべた。

 しばらく意味が分からず考えたが、ふと思い出す。

 かつてラプラス戦役に参加した彼女は、自身の正体が分からぬように様々な情報をばら撒いた。

 曰く、架空の人物。ウルペンの恋人。魔族の裏切り者。魔神の娘。龍神の後継者。人族と魔族の二重スパイ……それ以外にも、正体は数多く呼ばれていた。

 その中にひとつ、流した記憶のない情報もあった。

 

『銀緑は男である』

 そんな情報だ。

 

 当時は気にしなかったが、思い返すとモヤモヤした気持ちが湧いてくる。

 私のどこをどう見れば男と勘違いするのだろうか、と。

 しかしそれは、目の前にいる魔王が原因でばら撒かれた情報なのだと理解した。

 

「銀緑は男だった! オレが間違ってるって言いたいのか!?」

 

 間違ってるのはオメェだよ。

 その一言を親衛隊は誰も口にしなかった。

 

「間違ってるのはお前じゃ馬鹿」

 

 代わりにキシリカが告げるのであった。

 周りの親衛隊たちは「あーあ、言っちまったよ」と顔を背けてしまう。

 当然ながら、その言葉にアトーフェは顔を赤くしながら怒り出す。

 

「うるっせぇ! 馬鹿じゃねえ!」

「ファーハハハ! 性別すら見分けがつかんとは頭だけじゃなく目も馬鹿になったようじゃな!」

「黙れぇ!」

 

 激しく言い争うふたり。

 その間にソロリソロリとリベラルは後ろに下がっていく。

 

「待てお前!」

 

 アトーフェに呼び止められてしまい、逃走に失敗するのであった。

 

「元はと言えば貴様が男と名乗ったのが悪いんだ!」

「名乗ってませんけど」

「うるっせぇ! どっちなのかハッキリしろ!」

「女ですけど」

「だったらなんで男の格好してやがった!」

 

 リベラルは特に男装した記憶はないが、アトーフェの中ではそうなってるらしい。

 自分の想像を他者に押し付ける理不尽に、彼女はゲンナリする。

 

「オレを馬鹿にしてるのか! 馬鹿にしてるんだな!」

「むぎゃ!」

 

 キシリカに蹴りを入れてから、ズンズンと歩み寄って来るアトーフェラトーフェに、リベラルはもはや諦観の念を抱いた。

 周りの兵士たちも、特にそれを止めようとしない。

 むしろ、リベラル――銀緑がいたことに対して強い警戒を示し、既に剣を引き抜いていた。

 

(……懐かしいですね)

 

 龍鳴山から降りた彼女が最初に出会った強者が、魔王アトーフェラトーフェであった。

 このやり取りも、過去のものと大差ない内容である。

 

 当時のリベラルは未熟であり、魔王を相手に何も出来ずにいた。

 襲われそうになった時、監視役として上空にいたサレヤクトによって窮地を救われてなければ、今頃どうなっていたか想像も出来ないだろう。

 そして今はそのサレヤクトも居らず、正真正銘敵地に一人でいる状況だ。

 リベラルを助けてくれる存在はいない。

 

 だが――

 

(ちょっとくらい、昔の仕返しをしてもいいですよね?)

 

 ラプラス戦役では何度か戦ったが、それは義務的なものだった。

 けれど、今から行うのは私的なものだ。

 

 不敵な笑みを浮べたリベラルは、ズンズンと歩み寄るアトーフェを見据える。

 

「オレは馬鹿じゃねぇ!!」

 

 勢いのまま振り抜かれた拳に、彼女はそっと撫でるように掌を当てた。

 それだけで拳を振るったアトーフェは体を竜巻のように回転させ、吹っ飛んだ。

 

 クルクルと回転したアトーフェは、そのまま地面に激突して首の骨があらぬ方向に折れ曲がった。

 親衛隊たちは、その光景に時を止めたかのように固まる。

 

 

「その程度で死ぬわけがないでしょう――久々に遊びましょうか、アトーフェ様」

 

 

 その言葉に立ち上がった彼女は、折れた首の位置を戻しながらリベラルを獰猛な表情で睨み付けた。

 

「アーッハハハハハ! その技……確かに銀緑だな。いいだろう! カールとの盟約はペルギウスだけだった! 貴様は殺してやる!」

 

 アトーフェは親衛隊へと視線を向ける。

 

「ムーアァァァ! 剣を寄越せぇ!」

「ハッ!」

「貴様は勇者でも英雄でもない。手加減してやる必要もないだろう!」

 

 剣を手にしたアトーフェ。

 周りを取り囲む親衛隊。

 

「オレは不死魔王アトーフェラトーフェ・ライバック!

 親父がどれだけ苦心しても勝てなかった龍族のお前を、代わりにぶち殺してやる!」

 

 咆哮する魔王に、リベラルはいつものように力を脱いて構えるのであった。




安定の推敲なしです。
いつもの誤字脱字を修正してくださる皆様、ありがとうございます。

Q.アトーフェとキシリカなんで宴会してる?
A.独自解釈ですがキシリカって社長がループしても特定の行動をしてなさそうな気がするんですよね。ずっと乞食して宛もなくフラフラしてるので。なのでたまたまアトーフェと遭遇し、原作と勝手にズレてしまったという感じになってます。

他にも疑問点がありましたら感想欄にどうぞ。

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