無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

ルーデウス「ロキシー人形は尊いのです。あなたもロキシー教に入信し幸せになりませんか?」
ナナホシ「ポテトチップス美味しかったわ」
リベラル「静香に会うのは社長が来てからです」

いざ書こうとすると、キャラクターたちの口調が分からなくなる。あると思います。
また、エリナリーゼの一人称を修正したと報告しましたが、原作をもう一度確認すると、最初は『私』でしたが、途中から『わたくし』になってたので時折入れ混じらせるようにしました。


9話 『特待生たちとの交流』

 

 

 

 いつものように研究やパウロへの鍛錬を行っていたリベラル。

 その日はいつもとは違う来客が来るのであった。

 

「ルディ様、いらっしゃい」

「おはようございます。今日は一緒に来てるのが3人いるんですけど……大丈夫ですか?」

「学友ですか? ええ、構いませんよ」

「ありがとうございます」

 

 リベラルのその言葉に、ルーデウスは「外で待ってるので呼んできます」と告げて退席する。

 それからすぐに、面長で丸い眼鏡をつけた男、炭鉱族の幼女、決して美女ではないが気遣いのできそうな女性がいた。

 彼女が首を傾げると、前に出たルーデウスが紹介を始める。

 

「はいじゃあザノバからお願いします」

「シーローン王国第三王子、ザノバ・シーローンである」

 

 自己紹介をした彼は、とてもウズウズした様子でリベラルを見つめていた。

 まさか私に惚れたか? なんて馬鹿な思考をするが、惚れているのは別のことである。

 

「リベラル殿の作った作品を鑑賞しましたぞ!」

「こらこらザノバ。この方は俺の師匠なんだ。先生と呼びなさい」

「リベラル先生の作品……師匠に負けず劣らずな素晴らしい出来であった!」

 

 純粋な称賛は嬉しいがこそばゆい気持ちになる。

 彼女は感謝の言葉を告げつつ、気恥ずかしそうに頬を掻いていた。

 

「しかし、師匠の人形の方が工夫点は多かったかと」

「はぁ」

「余が師匠の人形を見たとき……感動しました」

「はぁ」

「たったひとつのホクロで、全体の印象を塗り変える工夫……余の人形への世界は変わりました」

「はぁ」

「リベラル先生は師匠の師匠です。

 片手間などではなくしっかり作れば、誰も見たことのない素晴らしい人形を作れるのでしょう。

 いつかその手腕を見ることを楽しみにしてますぞ!」

「あっ、はい。頑張ります」

 

 残念ながら、リベラルにそこまでの期待に答える力はない。

 確かに人形の材質や形はルーデウスと同等以上の物を作れるだろう。

 しかし、人形や芸術への造詣が深い訳ではない。

 工夫のない人形を作るので精一杯なのであった。

 悲しいことに、ルーデウスの作る人形を超える代物を完成させるのは現時点では不可能だった。

 そんなことを知らないザノバは、ニッコニコな笑みを浮かべていた。

 

 気を取り直した彼女は、残りのふたりへと視線を向ける。

 

「自分は第三王子親衛隊に所属しているジンジャー・ヨークと申します」

「ご丁寧にどうも。ゆっくりくつろいで下さい」

「いえ……自分のことは気になさらないで下さい」

 

 本来の歴史では、ジンジャーはルーデウスの家族の護衛をしていたためこの時期にシャリーアにはいない筈だった。

 しかし、アイシャとノルンは既にこの地にいるため、護衛などする必要がなかった。

 そのため、ラノア魔法大学へと留学しに来たザノバの護衛騎士として、そのままやってきたのである。

 

 彼女は護衛らしく前に出ようとはせず、いつでもザノバを守れる位置へと一歩身を引いていた。

 

『ジュリです』

 

 自力で人形を作ることが困難なザノバは、奴隷に技術を教えることで専属人形技師を作ることにした。

 そのためにジュリエットは購入され、まだ日が浅いこともあり基礎的な知識がないため獣神語しか喋れない。

 

『はじめましてリベラルです。可愛いですね、抱き枕にしてもいいですか?』

『……いや、です』

 

 当然ながらリベラルも獣神語を習得しているので話し掛けたが、ジュリエットは怯えるかのように一歩身を引いた。

 そのやり取りにルーデウスは苦笑しながら口を開く。

 

「今日来たのはザノバとジュリに土魔術についてよければリベラルさんからも教えて上げてほしくて来たんです」

「ああ、人形製作するためですね。ルディ様がある程度教えているでしょうし、新しいことはあんまり教えられないかもしれませんよ?」

 

 ザノバは魔術と細工への適性が皆無だったため、ジュリエットを育てることにした。

 今の発言通り、人形作りに関してはルーデウスの方が得意である。

 知識的なことをあまり言えないため、そのように告げるがザノバは笑顔であった。

 

「ハッハッハ、こうして話を聞けるだけでも楽しいものです故、あまり気にせずともよいですぞ」

 

 本人がいいならそれでいいか、と思い、リベラルも話ししていく。

 ザノバは人形に対しての知識を熱心に求めているためか、質問を沢山してくるので彼女も話しやすく感じた。

 態々メモを取りながら、ジュリエットにも時おり声を掛けている姿は好ましく映る。

 

 そんな楽しそうにしている姿を見て、リベラルはふと思う。

 

「本当に楽しそうですね」

「当たり前です。余は好きなことを聞いているのですから」

「それもそうですね」

「リベラル先生にも趣味はあるのではないですか?」

 

 趣味、と言われ彼女は考える。

 リベラルの過ごす大半の時間は研究と鍛錬だった。

 どちらも嫌々やってる訳ではないが、それが趣味なのかと言われれば否定するだろう。

 必要だからやっているのであり、それらが目的でやっているのではない。

 忙しい身ではあるものの休息の時間はあった。

 息抜きに何かするのもいいかな、なんて考える。

 

「特に趣味と言えるようなものはないので、この機に色々とやってみるのもいいかもしれませんね」

「おお、それが宜しいでしょう」

「ありがとうございますザノバ様」

「でしたら、人形なんてどうですかな?」

 

 ということで、新たな趣味になればいいとザノバはマシンガントークで話し始めた。

 細かい造形についてや、ロキシー人形がいかに素晴らしいかなど。

 それはもう止まることなく話し続けた。

 気が付けばジュリエットは寝ているし、ルーデウスも話半分に別のことをしていた。

 真面目に聞いてるのもジンジャーだけである。

 

 眠らなかった彼女を褒めるべきだろうか。

 リベラルは人形が少し苦手になってしまった。

 

 それなりの時間話し続け、正午ほどの時間になったところでルーデウスがようやく話を止めるのであった。

 

「そういえばなんですけど」

 

 ふと口を開いたルーデウスに、リベラルは視線を向ける。

 

「エリナリーゼさんが結婚を前提にお付き合いしてる奴がいるんですよ。俺が仲介したんですけど、どうにも上手くいってるみたいです」

「…………え?」

 

 彼の言葉に、思わずリベラルは固まった。

 いや、彼女の知識としてそれは知っていることであった。

 けれど、唐突であったため変な声を出してしまったのだ。

 

「クリフ・グリモルって奴なんですけど」

「……………なるほど。そうですか」

 

 知識通りであり、少し冷静になる。

 そして彼女は思うのだ。

 

 クリフ・グリモルに一度会おう、と。

 

 

――――

 

 

 翌日、リベラルは早速行動に移った。

 

 恐らく昼食であろう時間帯にラノア魔法大学へと向かい、エリナリーゼとクリフのふたりを探す。

 制服姿でもないため、周りからジロジロ見られるが彼女は気にせず中を歩き回る。

 学生たちに特待生たちの居場所を聞きつつ、しばらく歩く。

 

 そして食堂と思われる場所で、エリナリーゼとクリフを見つけた。

 ふたりは人目をはばからずイチャイチャした様子を見せ、互いに「あーん」食べさせ合うようなバカップルぶりを見せている。

 公衆の面前で凄いな、なんて思いながらも近付いていった。

 

「あらリベラルじゃないですの。こんなところまで来てどうしましたの?」

「ん? 彼女は誰なんだ?」

「わたくしの友人ですわ」

 

 友人という言葉を聞き、クリフは口に入っていた食物を飲み込み彼女へと向き直る。

 

「食事しながらの挨拶ですまない。僕はクリフ・グリモル。エリナリーゼの婚約者だ」

「食事中に来たのは私なので気にしなくて構いませんよ。ご紹介された通り、私はエリナリーゼの友人のリベラルです」

 

 ご飯を食べてる途中なので、彼女はエリナリーゼの隣に座った。

 ふたりに許可を取り、昼食を少しだけつまませてもらいながらふたりの関係性について話す。

 

「それにしても、いきなり婚約なんてしててビックリしましたよ」

「あらあら、嫉妬ですの?」

「まあそうですね。エリナリーゼが取られてしまうのはちょっと嫉妬しちゃいます」

 

 そこまで素直に言われると思ってなかったエリナリーゼは、少しだけ驚いた様子を見せる。

 

「ずいぶんと素直ですのね」

「ふふ、それだけ貴方のことを想っていたってことですよ」

「駄目ですわ。私にはクリフがいますの。貴方の気持ちには応えられませんわ」

「いや、誰もそこまでは言ってませんけど」

 

 からかい、それに突っ込みを入れる。

 そんな微笑ましいやりとりを、クリフも穏やかな表情で眺めていた。

 婚約した影響か、今の彼は人の上に立とうとする子どもっぽい性格も丸くなってきていた。

 

 それからしばらく他愛ないやり取りを行い、食事が終わるのを待つ。

 食べ終わったタイミングで、エリナリーゼは本題へと切り出した。

 

「それで態々学校まで来てどうなさいましたの?」

「それはもちろん、婚約したと聞いたので居ても立っても居られなかったんです」

「さっきのは本気で言ってましたのね」

 

 エリナリーゼは少し不思議に感じていた。

 確かにリベラルのことは友人だと思っているが、ここまで強く思われるほどに関係を持っていただろうかと。

 そういえばと思い出す。

 一番最初に出会ったのは転移事件後のフィットア領だ。

 そこで彼女はエリナリーゼを見た途端泣き出し、いなくなった妹と似ていると言っていた。

 リベラルの発言は、恐らくその妹と重ねて見てるからこその反応か、とひとり納得する。

 

「実はクリフ様に用がありまして」

「僕に?」

「ええ、そうです」

 

 唐突に名前が出され、素っ頓狂な声を出すクリフ。

 エリナリーゼは先ほどの予想をしていたため、そこまで驚きはなかった。

 

「ちょっと2人きりで話せませんか?」

「あらあら愛の告白でもされるかも知れませんわね」

「もしそうだとしても、僕はエリナリーゼ一筋さ」

「いや、愛の告白じゃないんで」

 

 そんなやり取りをしつつ、リベラルとクリフは2人きりになれる場所へと移動する。

 最後までエリナリーゼにからかわれたのはご愛嬌だろう。

 

 クリフに場所を確認しつつ、誰も使ってない部屋へと入りドアを閉める。

 周りに誰もいないことを確認出来た彼女は、真剣な表情を浮かべ口を開いた。

 

「本来であれば私が口出しすることではありません。ですが、それでも確認したいことがあるんです」

「なんだ?」

 

 リベラルの真面目な様子に、クリフも真面目な様子となり彼女を見据える。

 

「エリナリーゼと婚約するという話ですが、あの子を決して悲しませないと誓えますか?」

「なにを言ってる。当たり前だろう!」

 

 先ほどの台詞通り、リベラルがこのようなことを言うのはお門違いだ。

 ロステリーナは彼女の義妹であったが、記憶を失ったエリナリーゼはそうではない。

 そして記憶を失い、呪いすらも放置しているのだ。

 そんなリベラルが口を挟むのはおこがましいことである。

 

 クリフについての知識も当然ながらあった。

 この先エリナリーゼの呪いを解くために魔道具の作成に取り掛かるし、呪いに対しての理解も十分あった。

 命を掛けて彼女を守ろうとするし、誰よりも真摯に向き合うことも知っている。

 

 だが、ここは未来の知識とは違う世界。

 クリフのことは知っているが、それでも自分の目で見極めたい。

 わがままに過ぎないが、自分自身でクリフの考えを知りたいのだった。

 

「この先、もしかしたら彼女に危険が迫ることもあるでしょう。その時に命を掛けて守れますか?」

「愚問だな。守るに決まってるだろう!」

「では、試させてもらいます。私にもう一度同じ台詞を言ってみせて下さい」

「なにを――」

 

 クリフが言い切る前に、リベラルはかつて父親(ラプラス)から貰った腕輪を外す。

 龍鳴山で暮らしていた頃の、遥か昔から付けていた呪いを緩和するための腕輪を。

 

 この世界のあらゆる生物に嫌悪されるか恐れられる呪いを持った彼女が、クリフの前に立っていた。

 

 

――――

 

 

 ぐにゃりと、リベラルの姿が歪む。

 それと同時に、世界が黒く染まる。

 視界に映るのは闇だけの世界。

 

 そんな世界でドロドロと彼女の姿は崩れ、虚空に顔だけが浮かび上がる。

 瞳は真っ黒に変色し、そこから更に闇が広がりクリフは吸い込まれていく。

 

「――……っ!? ぅ!!」

 

 いや、吸い込まれてなどいなかった。

 そのように感じただけであった。

 けれどそれでも世界は変わらず、闇が崩れ落ち肩に伸し掛かる。

 未知の体験に彼は跪いてしまうが、視線だけは目の前から離すことが出来ない。

 何が起きてるのかも分からないまま、リベラル……否、黒いバケモノが口を開いた。

 

 もう一度言ってみろ。守ってみせると。

 

 耳元でささやかれているかのように、不透明な声が頭から離れない。

 闇は深淵に移り変わり、最早自分のことすら分からなくなる。

 けれど、目の前にいるバケモノの姿だけは鮮明に映っていた。

 髪の毛が抜け、皮膚が溶け、骨だけに変化し、ケタケタと笑う。

 手を伸ばしたバケモノに、クリフは死を予感する。

 

 カタカタ、

 カタカタ、

 ケテケテ、

 

 音が変わり、闇に飲まれた骸骨は巨大な獣に変化した。

 猟奇的で、冒涜的な、巨大な目玉が彼を見据える。

 ガチガチと彼は身体を震わせるが、現実は変わらない。

 まるで触手のような黒いナニカが迫り――。

 

「それでも、ぼ、僕は、リーゼを愛、あいしてる……」 

 

 クリフの返答を聞いたリベラルは、腕輪を嵌めた。

 

 

――――

 

 

「それでも、ぼ、僕は、リーゼを愛、あいしてる……」

「そうですか」

 

 流石に無理かな、なんて思っていたリベラルだったが、クリフは見事に返答することが出来た。

 腕輪を外したことで、リベラルの姿がどのように見えていたのかは分からないが、それでも意思を見せたことに彼女は満足する。

 

 呪いの効果がなくなり、正気に戻ったクリフはしばらく身体を震わせていたが、やがて心を落ち着かせる。

 

「……い、今のはなんだったんだ?」

「私の呪いですよ。あらゆる生物に嫌悪される呪いです」

「バカな……あれが呪いだって……?」

 

 彼が何を見たのか分からないが、納得した様子はなかった。

 彼女としてはその事実に首を傾げてしまう。

 

 かつてロステリーナは腕輪のないリベラルに話し掛けることも出来ていた。

 盗賊たちは「死ねやぁ!」と叫びながら襲い掛かってきた。

 魔王とその親衛隊は「恐ろしい御方」と呼びながら会話出来た。

 

 そのためめちゃくちゃ効果が高い訳ではなかったのだと思うのだが、クリフには効果てきめんだったようである。

 悪いことをしたな、と思い、謝罪の言葉を掛ける。

 

「あなたが本気でエリナリーゼを愛しているか知るためにさせてもらいました。申し訳ございません」

「いや……あぁいや、少し状況に追い付けないんだ。ちょっと待ってくれ」

「どうぞ」

 

 何度か深呼吸をしたクリフはようやく整理出来たのか、小さな溜め息を吐いた。

 やがて、リベラルへと視線を向ける。

 

「それで、何でこんな試すようなことをしたんだ?」

「私に取って、エリナリーゼは特別な存在なのです。

 だからこそ先ほども言いましたように、あなたが本気であることを確かめたかった」

「特別? 友人じゃないのか?」

 

 不思議な様子を見せる彼に、リベラルは隠し事をせず答えることにした。

 ここまで真摯にエリナリーゼのことを思っているクリフは、過去のことを知る権利がある。

 実際に関わり彼の人となりを見たことで、この男になら話してもいいと思ったのだ。

 

「私はあの子が記憶を失う前から関わりのある存在……エリナリーゼは私の義妹だったんです」

「…………なんだって?」

 

 その答えはあまりにも予想外だったのだろう。

 唖然とした表情を見せていた。

 

「何でそのことを伝えてあげないんだ!?」

 

 彼の疑問は最もだろう。

 だが、リベラルにも事情があるのだ。

 

「あの子が記憶を取り戻すことで、戦いの世界に身を置くことになるかもしれないからです」

「どういうことだ?」

「詳細は省きますが、彼女は私や私の父親のために戦うことを選び、出来ることを行うことにしました」

「それで?」

「あの子は私たちの戦いに参加することを決意しましたが、記憶を失ったことでその争いから身を引くことが出来てるんです」

 

 龍鳴山にいた頃のロステリーナは、とても優しく戦いのことを知らない子であった。

 今のエリナリーゼはSランクパーティーとして名を馳せるほどに強くなったが、ヒトガミとの戦いに巻き込みたいとは思わなかった。

 純粋にリベラルのわがままなのだ。

 

 エリナリーゼには幸せな道を歩んで欲しかった。

 

 態々龍族の宿命に付き合う必要はない。

 記憶がなくても、エリナリーゼはロステリーナだったのだから。

 仮に何らかの理由で記憶を取り戻し、再び戦う道を選べば全力で守るだろう。

 けれど、思い出す必要はないのだ。

 ラプラスはいなくなり、サレヤクトも散ってしまった。

 記憶を取り戻しても、辛いことの方が多い。

 リベラルの義妹であることなど、今のエリナリーゼには不要な情報なのだ。

 

 もちろん、自分本位な言い分であることは分かっている。

 それでも彼女には危険な目にあって欲しくなかった。

 

「だからこそ、エリナリーゼには今を生きて欲しいんです」

 

 昔のように暮らせるのならばそれはいいことだ。

 だけど、昔の記憶が彼女にどういう影響を及ぼすか分からない。

 そのことで苦しむかも知れないし、逆にアッサリと受け流すこともあり得る。

 だが、記憶を取り戻せば龍族の使命に巻き込まれることになるのだ。

 態々離れられたのに、重荷を増やす必要もないだろう。

 

「クリフ・グリモル。

 敬虔なミリス教徒であるあなたにこのようなことを言う必要もないでしょう。

 ですが、それでも言わせて下さい。

 エリナリーゼを傷付けるようなことがあれば、あなたを決して許さないと」

 

 彼ならば幸せにすることは出来る。

 そのことを知ってはいるが、本人の口からも言葉を聞きたかった。

 

「当たり前だ! 僕はそんなことする訳がない!」

「それを聞いて安心しました」

 

 リベラルは小さく微笑み、2人の関係を祝福した。

 

 

――――

 

 

 その後、クリフはエリナリーゼの元へと帰っていった。

 他にも色々と聞きたいこともあっただろうが、それはまた追々と説明することを伝えると引き下がった。

 

 ここでの用事も済んだため、リベラルは帰宅することにする。

 ナナホシのことも気にはなるが、オルステッドがいるタイミングの方が説明しやすいことも多々あった。

 今会いに行ってもややこしくなるだけなので、素直に帰ることにする。

 

 そして学内を歩いていたリベラルだったが、意図せずとある人物に絡まれることになるのであった。

 

「そこの女、ちょっと待つニャ」

 

 別にやましいことをしていた訳でもないが、ひとりの女生徒に呼び止められ足を止める。

 振り返れば2人の獣族の少女がいた。

 猫耳を生やした少女――リニアと、犬耳を生やした少女――プルセナだ。

 彼女たちは何故か手にパンツを握り締めながらこちらへと歩み寄ってきた。

 

「?? なんでしょうか?」

 

 状況が見えないため、疑問符を浮かべてしまうのも仕方ないだろう。

 そんな彼女に対し、リニアが口を開く。

 

「ここは部外者の立ち入り禁止ニャ」

「そうなの。入っちゃ駄目なの」

「え? あー、それはすみません」

 

 至極当然な注意に、リベラルは頭を下げて謝罪する。

 そのことに「フン」とリニアは鼻を鳴らし、隣にいたプルセナが手を前に差し出す。

 

「通行料は今履いてるパンツなの」

「…………はい?」

 

 その言葉の意味を理解するのに、数秒の時間を要した。

 パンツ。

 それも今履いてるものが欲しいと言われたのだ。

 目の前にいるのが男子生徒であったのならば、問答無用で殴り倒していただろう。

 しかし2人は女子生徒だ。

 もしかしたら何かしらのやむを得ない事情により、下着を欲している可能性もある。

 

「……因みに通行料が何故パンツなのかお伺いしても?」

「うるさいニャ。この新品のパンツやるからさっさとズボンを脱いでパンツ寄越すニャ」

「???」

 

 言葉の意図を理解出来ず、更に疑問符を頭に浮かべるリベラル。

 新品のパンツを渡すということは、用があるのは使用済みの下着だと言うことだ。

 どう考えてもいかがわしい用途に使われる未来しか見えなかった。

 

「嫌に決まってるじゃないですか」

「てめぇ、あちしの言うこと聞けニャいのか?」

「ファックなの」

「言うこと聞く方がおかしいでしょう」

 

 渋られることも考慮していたのか、リニアはやれやれと面倒そうな仕草を見せる。

 

「あちしの言う意味が分からニャいか? 部外者であるお前がここを通ることを黙ってやる代わりに、パンツを寄越せって言ってるだけニャ」

「通報されたくないなら渡す方が賢明なの」

 

 まさかの脅迫である。

 2人はニヤニヤした表情を浮かべながらリベラルを見つめた。

 まるでエロ同人誌のような展開だ。

 このまま貞操まで奪われるかも知れない。

 同性にそんなことを言われるのは、別の意味で怖かった。

 

 そんな怯えるかの様子に、自分の方が格上だと勘違いしたのだろう。

 リニアは面倒そうに手を伸ばしてきた。

 

「もういいニャ。さっさと交換させるニャ」

 

 もちろん、脱がされる気はないのでサッと避ける。

 避けられると思わなかったのか目を丸くするリニアだったが、すぐに彼女を睨み付けた。

 

「ニャんで避けるニャ」

「せめてパンツを求める理由を教えてくれませんか?」

 

 いや、リベラルは未来の知識によりある程度の理由を把握し始めていた。

 それでも確認をしたのは、最終警告の意味合いでもあった。

 これ以上のセクハラ行為を、彼女は許容する気がなかった。

 

「ボスに渡すの」

「ボス?」

「あちしらのボスはパンツが好きニャんだ。だから献上するニャ」

「…………」

 

 彼女らの言うボス――ルーデウスには後でお仕置き……否、パウロたちにこのことを伝えなければならないなと考える。

 ルーデウスがパンツを集めるように指示をするとは思えないが、それでも2人と交流があることは知っている。

 2人の暴走を止められないのは、ルーデウスの責任でもあるだろう。

 他にも下着を取られた被害者もいると思われるため、彼には存分に反省してもらおう。

 

「お二人のパンツを献上したらどうです?」

「それは嫌ニャ」

「ボスは巨乳が嫌いなの。その点あなたの貧乳は合格点なの」

「その乳もぎますよ? 後パンツに胸の大きさ関係ないですよね?」

 

 リベラルは自らの胸が絶壁であることを自覚してるが、特にコンプレックスではない。

 それでも面と向かって言われれば傷付くのである。

 

「いいからさっさとパンツ寄越すニャ!」

「あなた方のパンツを献上して下さい。私はお断りです」

「それなら通報するの」

「…………」

 

 ふと冷静に考えると、リニアとプルセナの行為はただの性犯罪である。

 一度2人を叩き潰した方が周りも幸せなのでは? と思った。

 そこからはリベラルも方向性をシフトチェンジする。

 

「ふん、そんなに私のパンツが欲しいなら無理やり剥ぎ取ることですね」

「ニャ、ニャんだと〜?!」

「ファックなの」

「変態なんかに私は屈しません。ほら、さっさと掛かってきて下さい」

 

 指をチョイチョイと動かすと、2人は青筋を立てながら睨み付けてきた。

 恐らく変態扱いされたことが嫌だったのだろう。

 しかしパンツを要求される方がもっと嫌である。

 

 ドルディア族の中では、腐った果実を相手の頭部に叩きつける行為が決闘の作法になるらしい。

 水魔術で果物を模した水玉を浮かべ、それをヒョイとリニアの顔面に投げつける。

 当然ながら躱されてしまったが、その意味を理解したのだろう。

 

 リニアの瞳孔がスッとすぼまった。

 フーッと怒りの息を吐き、尻尾がピンと立てる。

 

「上等ニャ! 裸に剥いて水ぶっかけてやるニャ!」

「リニアはすぐにキレる……ファックなの」

 

 プルセナはそうつぶやきつつ、牙をむき出しにしながら口元に手を当てた。

 吠魔術だ。

 特殊な声に魔力を乗せることで、相手の平衡感覚を奪う厄介な魔術である。

 

 その予備動作と同時に、リニアが真横にステップしながら拳を振り被っていた。

 ヒョイと身を躱しながら、足を出すことでリニアはバランスを崩して前に転けそうになながらも堪える。

 背後に回っていたリベラルはその隙を見逃さず、スカートの下へと手を伸ばしてパンツに手を掛けた。

 

「スカートってパンツを盗って下さいって言ってるような格好ですよね」

「ニャ!?」

「ズボンでも履いてから出直して下さい」

 

 そのままリニアの背中を押すことで、彼女は前方に倒れてしまう。

 そしてリベラルの手にはリニアのパンツが握られていた。

 戦利品ゲットである。

 

『ウオオオオォォォォォン!』

 

 それと同時に息を溜めきったプルセナの吠魔術が響き渡った。

 魔力の乗せられたその遠吠えはリベラルの三半規管を狂わし、平衡感覚を狂わせ――なかった。

 いつの間にか耳栓をしていた彼女は、なんともない様子でケロッとしていた。

 彼女の吠魔術は届いてなかったのである。

 

 リベラルは大きく息を吸い込んだ。

 

『アオオオオォォォォォン!』

 

 魔力の乗せられたその遠吠えは、リニアとプルセナの三半規管を狂わし、平衡感覚を狂わせた。

 2人は地面に倒れ込み、何とか動こうと手足を動かすが起き上がることが出来ない。

 それどころか声を出すことすら出来ない。

 そんな2人に歩み寄ったリベラルは、プルセナからもパンツを剥ぎ取った。

 

「パンツを盗ろうとしたんです。当然ながら盗られる覚悟もしてましたよね?」

 

 2人のパンツを器用に指先でクルクルと回しながら、色や柄を観察する。

 

「2人とも白色ですか。汚れが目立ちやすいので気を付けて下さいね」

「っ! ぅ!」

「――ぃ! ゃっ!」

 

 窓の外から下を見れば、丁度ルーデウスが外を歩いていた。

 タイミングがいいなと思いつつ、リベラルは外にパンツを放り投げた。

 舞い落ちた2枚のパンツはルーデウスの頭上へと舞い落ちる。

 それを視界に収めた彼は、凄まじい手の速度でパシンと受け止めた。

 今までで一番速かった。

 あの速さで剣を振るえば、光の太刀でも放てたのではないかと思うレベルだ。

 

 彼は手元にあるものがパンツであることに気付いたらしい。

 上を見上げると、落としましたよと言わんばかりにパンツを掲げてきた。

 そして声が届くように話しかける。

 

「これ! もしかしてリベラルさんのですか!?」

「ルディ様、それは貴方の学友からのプレゼントです! 脱ぎたてホヤホヤですよ!」

「な、なんだってー!? 因みにパンツの持ち主は美人ですか!?」

「猫耳と犬耳の女生徒です! 何でも『ボスのために献上するニャ!』とのことですよ!」

「リニアとプルセナですか!? 分かりました! 後で洗濯して返します!」

「そうですか! お二人にはお伝えしておきますよ!」

 

 ガラガラと窓を閉めたリベラルは、未だに地面に倒れているリニアとプルセナに視線を向けた。

 

「ということで、あなた方のボスには私から献上しておきました。後で返してもらうといいでしょう」

「ぱ、パンツはもういらないニャ……」

「そうなの……新しいのを買うの……」

 

 男の手に渡った下着を履こうとは流石に思わないらしい。

 悲しそうな声色であった。

 しかし自業自得である。

 

「これに懲りて、人のパンツを盗ろうとしないことですね」

 

 その後、リニアとプルセナは今回の件がトラウマになったのだろう。

 2人が女子生徒からパンツを要求する姿は見られなくなるのだった。

 

 こうして、リベラルの手によって学園の風紀はひとつ正された。




Q.ルディの一人称。
A.学校に行きだし、友達が増えたことによって『僕』から『俺』という話し方に変化しつつある。確かこれくらいの時期から敬語が減ってきてたような気がします。

Q.リベラルの呪い。
A.※実際にクリフのように見える訳ではありません。個人差があります。

Q.エリナリーゼの記憶戻さんのか?
A.何だかんだ言ってますが、最終的に本人に選択を尊重します。望めば戻すための手伝いをします。

久し振りに文字数が一万を超えました。
文字数少ない方が皆さんは読みやすいのかな?
またアンケートでも取ろうかな…。

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