無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

パウロ「ルディなんか悩んでるな…まあどうしょうもないときは自分から言うだろ」
シルフィ「本当に後悔しないの?」
ルディ「分かったよ……俺はヒトガミと戦う。後悔しないよう本気で」

今回もまた説明回みたいなの。
前話のアンケートですが答えて下さってありがとうございます。選択肢が一個少なかったですね。『今のままでいいよ』(どちらでもいい)なのか『今のままでいい』(今の戦闘回数が丁度いい)なのかが分からなかった。
ということなので、アンケートは戦闘シーンは今のままよりちょっとだけ増やすことにします。少な目が良いと希望して下さった方もすみません。アホみたいに増やしはしないので許してください何でもしますから!


6話 『謝罪』

 

 

 

 ヒトガミと戦うことを決めたルーデウスだが、どうやって戦えばいいのかすら分からない状態だ。

 こんな状態では何も出来ないため、まずはヒトガミのことを知る必要がある。

 旅の疲れやパウロたちが歓迎してくれてることもあるため、別の日にリベラルの元へ行くとしよう。

 ルーデウスはそう考えた。

 

 そして後日。

 みんなに相談があると告げた彼は、リベラルとの場に同行して欲しいとお願いする。

 もう自分だけの問題ではないため、全員に情報を共有する必要があると考えたのだ。

 彼らはふたつ返事で答えてくれた。

 パウロは「女の相談か?」なんて茶化しながら背中を叩いてきた。もちろん、緊張を解すためだと分かっていた。

 ルーデウス自身も決断してからは霧が晴れ渡ったかのように穏やかな気分だったので、笑って受け流すことができた。

 

「今日は随分と大所帯ですね……」

 

 リベラルの家へと到着し、出てきた彼女は何の準備もしてなかったのかラフな格好で出迎えた。

 流石に家の中は狭いと判断したのか、庭へと案内される。

 全員分の椅子を土魔術で自然と作った彼女は腰掛け、全員に座るように促す。

 

「さて、おかえりなさいと言うべきですかね。ルディ様、シルフィエット様、ロキシー様。無事で良かったです」

「お久し振りですリベラルさん。貴方の助言のお陰で水王級に至れました」

「ロキシー様なら私が何かをしなくても到達出来たでしょう」

 

 ロキシーの言葉に笑顔でうんうんと頷きながら、彼女は他の人達にも視線を向ける。

 

「シルフィエット様もブエナ村の頃のままでしたらかなり厳しい旅路になってたでしょうけど……大きく成長したようですね」

「ルディとロキシーがいたから」

 

 えへへ、とはにかむ彼女に、リベラルは可愛いものを見る目になる。

 言葉通りシルフィエットは能力以外に、精神的に大きく成長を果たした。幼馴染の男の子に依存していた少女はもういなくなったのだ。

 

「そしてルディ様。なんか随分と格好よくなりましたね。キスしませんか?」

「え? いいんですか? じゃあドロッドロの濃厚なキスでお願いします。ついでに胸も触っていいですか?」

「あっ? えっ、いや」

 

 からかうつもりで冗談を言ったリベラルだったが、アッサリ対応された挙げ句に反撃を受けて動揺してしまう。

 そんな彼女に追い打ちを掛けるかのように、ニヤニヤした表情を浮かべたパウロが口を開く。

 

「おいおい、それなら俺も混ぜてくれよ」

 

 リベラルがヤラシイことに慣れていないことに気付いたのだろう。息子のための意趣返しの台詞だった。

 しかしパウロはその発言の後、リーリャと全く動けない筈のゼニスに両足を思いっ切り踏み付けられていた。

 ルーデウスもシルフィエットとロキシーにジト目で見られていた。

 アイシャもいつの間に知識を付けていたのか「お兄ちゃんのえっちー」なんてことを言っている。

 何も反応しなかったのはノルンだけである。無垢な幼女だけが唯一の救いであった。

 可愛かったのでほっぺにキスをしたらはしゃいだので更に癒やされた。

 

「コホン。それで今日は皆さんで来られましたが用件はなんでしょうか?」

 

 気を取り直し、リベラルはパウロへと問いかける。ゼニスの診察日ではないし、ルーデウスが到着したにしても全員でやってくる必要もない。

 パウロも同行して欲しいと言われただけで詳しいことは知らないため、ルーデウスへと視線を向けた。

 

「……実は、リベラルさんに謝りたいことがあります」

「私にですか?」

「はい。最初から順番に説明していきます――」

 

 そして、彼はリベラル以外の皆にも分かるように、ヒトガミとの最初の邂逅から説明していく。

 転移事件発生直後のこと。

 剣神に遭遇したこと。

 その後に仲間になるよう脅されたこと。

 特に最後の脅しには心底参り、ヒトガミに従いリベラルを殺そうと考えてしまったことを謝罪する。

 

 その話を無言で聞いていたリベラルだったが、それより先にパウロが反応した。

 今までに見たことがないほど、彼は怒っていた。

 

「おい……ふざけてんじゃねぇぞ……!!」

 

 底冷えしそうなほど怒りに満ちた声をあげたパウロは、うつむきながら身体を震わせていた。

 これほどまでの感情を見たことのないルーデウスは、その様子に思わず怯んでしまう。

 

「ヒトガミの野郎、俺だけじゃなくルディにも関わってやがったのか?!」

 

 パウロの怒りの理由は、自身もまたヒトガミと関わりがあったからに他ならない。

 転移事件直後から関わりがあったということは、彼と同時期にルーデウスと関わっていたということ。

 そして家族を救う手助けをすると言っておきながら、ルーデウスを始末しようと剣神を差し向けていた。

 とんだ道化だった訳だ。

 敵になったとしてもすぐに害することが出来るよう関わっていたのだろう。

 

 ヒトガミの言葉に惑わされ、一時とはいえリベラルを疑ってしまった。

 あのときの自分をぶん殴りたい気持ちだった。

 それと同時に、ヒトガミへの敵対心を大きく増やす。

 

「えっと、父様もヒトガミから何かされてたんですか?」

「ああ、似たような感じだよ」

 

 ルーデウスは父親が怒った理由がヒトガミと関わっていたからだとは思わず、ポカンとした表情を浮かべる。

 自分が特別だと心の奥底で思っていた訳ではないが、あのような存在の干渉を受けているのは自分だけなのかも知れないと思っていたのだ。

 結局、自分の父親という身近な存在にもちょっかいを出していた訳だ。

 ルーデウスはヒトガミのことを最初から詐欺師だと思っていたが、その所感は間違いではなかったらしい。

 

「それで、ヒトガミとは一体何なんですか? 何で敵対してるんですか?」

「比較的シンプルな理由ですよ。ヒトガミの打倒は龍族の悲願だからです。なので自分の身を守りたいヒトガミは龍族を攻撃するんですよ」

「それだけ聞くと龍族が悪い気がするんですけど」

「どちらが悪いかの詳細は分かりません。単に争いが泥沼と化してるだけですよ」

 

 彼女は父親であるラプラスから六面世界の頃の話を聞いてるが、全ての事情を識ってる訳ではない。

 あくまでもラプラス主観の話である。

 どうせヒトガミが悪いんだろうな、とは思いつつも最初の切っ掛けは不明なのだ。

 

「将来的に脅威となる存在を潰そうとしてるので、私も特にヒトガミに何かした訳じゃないですし」

 

 リベラルの言うように、彼女はヒトガミに対して直接何かをしたことはない。内心バカにしたり、将来ぶっ潰してやる、なんてことを思ってはいるが。

 未来視によって先に攻撃を仕掛けてくるため、当事者は特に何かをした認識がないので泥沼化しやすいのだろう。

 リベラルも先に仕掛けられた側の人間である。

 本来はヒトガミのことは放置しようと考えていたのに、敵対する原因を作ったのがヒトガミなのは皮肉と言うべきか。

 未来視のせいで余計な敵を作ってるんじゃないかと考えてしまう。

 

「ルディ様も遅かれ早かれ敵対することになってたと思いますよ?」

「そうですか……」

 

 彼女の言う通り、本来の歴史ではルーデウスは悲惨な道を辿ることになる。

 最愛の人を奪われ、子どもも奪われ、守るべきものを全て失った未来のルーデウスが修羅の道を歩む世界もあった。

 態々そんな道を経験する必要はないのだ。魔石症も未然に防ぐため、そのような未来を経験させるつもりは毛頭なかった。

 

「ヒトガミの使徒になったとしても破滅しかしないでしょうし」

 

 使徒になった者は、基本的にオルステッドの未来への布石を潰すために動くことになる。

 

 が、冷静に考えて欲しい。

 

 ヒトガミが「この世界を滅ぼせる」と断言する程の強さをオルステッドは持っている。

 そんな存在へと直接妨害を仕向けたり、布石を潰すために行動させているのだ。

 ヒトガミの使徒がどうなるかなんて目に見えてるだろう。運が良ければ見逃されるが、基本的には死ぬ。

 更には未来のルーデウスや故郷を奪われたギースのように、大切なものを失う始末だ。

 ヒトガミの『信頼させる呪い』という詐欺師のような特性のせいで、誰もが口車に乗せられていると考えると不憫で泣けてくる。

 

「……リベラルさん」

 

 そんなことを考えていると、ふとルーデウスが暗い表情で口を開く。

 

「どうしましたか?」

「ヒトガミは倒せる存在なのでしょうか? そもそもどこにいるんですか?」

 

 ルーデウスの一番の不安はそこにあった。

 決して手の届かない場所から攻撃され続けるのではないかという不安があったからこそ、リベラルと敵対しそうになっていたのだ。

 

「疑問に答えましょう。まず皆さんはこの世界が六面世界だったことをご存知ですか?」

「昔見た本でそのようなことが書かれていたような気がします……」

 

 リーリャの答えに、彼女は頷く。

 

「今はもう崩壊していますが、かつて世界は『魔の世界』『龍の世界』『獣の世界』『海の世界』『天の世界』……そして今私たちがいる『人の世界』に分かれてました」

 

 いきなり壮大な話となったため、少し呆気にとられるルーデウスたちだったが、話を遮らずに黙って聞き続ける。

 

「『人の世界』以外が崩壊し、それぞれの世界が融合する最中、初代龍神とヒトガミが戦いました」

「…………」

「結果、龍神は死亡しましたがヒトガミは『無の世界』に封印されることとなったのです」

「……『無の世界』?」

「六面世界の中心。要はサイコロの真ん中ですね。

 転移事件を経験された人なら分かる人もいると思いますが、転移中に通る白い空間こそが『無の世界』ですよ」

 

 リベラルの説明に、転移事件を経験した何人かがハッとした表情を浮かべる。

 転移遺跡を利用していたパウロは特に覚えているようだった。

 

「まあ、龍神の施した封印があるので転移でヒトガミの元へ向かうことは出来ませんけど」

「ってことは、今からヒトガミの所に行ってみんなでぶっ倒すってことは出来ないんですね」

 

 残念そうに呟くルーデウスだったが、それに対してリベラルは首を横に振る。

 

「――不可能なのか、と言われれば、多少の準備は必要ですがヒトガミの元に行くことは出来ますよ」

「え? 行けるんですか?」

「初代龍神の施した封印を解く術は分かっていますし、そのためのアイテムも揃えられます」

 

 封印を解くには五龍将の秘宝が必要であり、ラプラスの持つ秘宝だけはどうしても現在入手することは出来ない。

 しかし、リベラルは五龍将の秘宝の代用品となるものを持っているため、別にラプラスの復活を待つ必要はないのだ。

 

「まあ、戦うのはオススメはしません。ヒトガミは曲がりなりにも“神”なのですから。私よりもずっと強いですよ」

「……そんなにですか?」

「今この場にいる全員で戦いを挑んでも勝てないでしょう。やらなければ分からないのは確かですけど」

 

 ラプラスから伝え聞いた初代五龍将は、間違いなく現在の七大列強以上の力を持っていた。ラプラスですら一番弱い状況だったのだ。

 そんな彼らが揃って初代龍神へと挑んだにも関わらず、全く歯が立たなかった。

 その龍神に不意打ちとはいえ致命傷を与え、その後に真正面から戦い抜いているのだ。

 ヒトガミと普通に戦えば、負けるのは目に見えるだろう。

 

「そもそも――私自身の命を対価にする必要があるので封印は解きたくないんですけどね」

 

 彼女の中にある龍神の神玉。

 それを用いれば代用品とすることが出来るのだった。

 もちろん、リベラルの言葉通りその選択は死を意味する。

 彼女としてもまだ死ぬわけにいかないのだ。

 何せ、“ナナホシと交わした約束”をまだ果たしてないのだから。

 それさえ果たせれば、命を差し出してもいいと考えていた。

 

「それは、僕も嫌ですね」

「ふふ、そう言って下さるなら幸いです」

 

 そういう理由であれば彼らも納得する。

 しかし、根本的なことが解決した訳ではない。

 

「それではヒトガミとやらを倒すのにはどうすればいいのでしょうか?」

 

 ロキシーの疑問に、リベラルは悩むような仕草を見せる。

 

「そのアイテムを確実に入手出来るのは約百年後になります。基本的には防戦一方になりますね」

「百年後……遠すぎて想像出来ないです」

 

 代用品でも開発出来れば時間の短縮は出来るだろうが、それでもどれほどの時間が掛かるのか想像は出来ない。

 本当の意味での神が命を賭して作り上げた封印だ。簡単に解除出来ないのは当然だろう。

 そして、防戦一方という言葉に喜ぶ人間もいないだろう。シルフィエットが困ったような表情で口を開く。

 

「じゃあ、ボクたちは何も出来ないの?」

「いえ、そんなことはありません。ヒトガミは強力な未来視を持ってるが故に、自分の未来を変えるために使徒を動かします。

 駒取りと同じですね。ヒトガミの使徒を邪魔すれば、未来のヒトガミが段々と苦しむことになります」

 

 それに、ヒトガミはこちらをずっと相手することが出来ない。

 

「そもそも今代の龍神の相手でいっぱいいっぱいですからね。こちらに気を掛ける余裕なんてヒトガミにはないんですよ」

「……というと?」

「ルディ様に後悔させるだとか、使徒を送り込み続けるだとか言われたようですが、そんなのはハッタリです」

 

 ヒトガミにとってルーデウスは確かに脅威だが、最優先の対象ではない。それよりもオルステッドの方が脅威なのだ。

 なんせ彼はヒトガミと対面するところまでの道筋を確立している。既に喉元まで食い込まれているのに、それを放置する訳がないだろう。

 更に言えばリベラルもいる。使徒を4人ずつしか動かせないヒトガミに対応するのは困難だ。

 

「そう、ですか」

 

 ヒトガミと戦う決意をしたルーデウスからすれば、呆気ない状況とも言えるだろう。

 しかし、彼も将来的に危険な存在と認識されているので、完全に放置されるということもないのだ。

 

「今回のように不意に使徒を送り込んでくることもあるでしょう。それに対処する必要はあります」

「……それもそうですね」

「でもよリベラル。ルディのように剣神が現れたりしたら、俺でも対処出来るか分からねぇぞ?」

「ふむ」

 

 リベラルだってずっと同じ場所にいるとは限らない。所用でシャリーアから離れることもあるだろうし、その間に強力な使徒が現れれば対処が難しいだろう。

 パウロも七大列強なんかが現れれば力不足だと自覚しているため、頭をポリポリと掻きながら呟いた。

 それに、誰が使徒になるのか分からないのだ。戦える者はともかく、ゼニスが狙われたりしたらひとたまりもない。

 

「でしたら、守護魔獣を召喚するといいでしょう」

「守護魔獣?」

「ペルギウス様の12の使い魔のようなものです。まあペットみたいなものと思ってもらえばいいです」

 

 ルーデウスはペルギウスを見たことはないが、その伝説のことは知っている。

 なんとなく前世にあった某運命のゲームのような主従関係になるのかな、などと思う。

 

「さてと、ちょっと待ってて下さいね」

 

 そう告げたリベラルは立ち上がり、家の中へと入っていく。

 しばらく待つと、巻物のようなものを手にして戻ってきた。

 

「どうぞ」

「これは?」

「今しがた話題に挙がった守護魔獣の召喚魔法陣です」

「おお」

「魔力を込めながら、家族を守る存在をイメージするか言葉にすれば召喚出来る筈です」

 

 ルーデウスも多少は召喚魔術を習っている。そんな彼が中身を確認しても、なんかそれっぽい模様があるな、程度の認識しか出来なかった。

 シルフィエットやロキシーも後ろから覗き込んでいたが、彼と同じように難しくて分からない様子だった。

 

「何かコツとかありますか?」

「そうですね。ルディ様はドルディアの村に行かれたと聞きましたが、聖獣と呼ばれる存在のことは覚えてますか?」

「あー、何か大きい犬ですよね? 懐かれてた記憶はありますね」

「そのワンちゃんをイメージして魔力を注げば問題ないですよ」

 

 はぁ、と気のない返事をする彼に、リベラルは苦笑する。

 

「聖獣は強いですよ。本来の力を取り戻したときの姿を知ればビックリすると思いますよ」

「そんなにですか?」

「獣族から特別視されているのには理由があるんですよ。聖獣とは世界を救うとされる獣……ですが、その正体は初代獣神の因子を持つ獣です」

「えっ?」

「どういった経緯でそうなったのかは私も分かりませんが、聖獣は神の力を持っているんですよ」

 

 そこまで言われれば納得せざるを得ないだろう。

 あの犬っころに神の力があるとはにわかに信じ難いが、態々そのような嘘を付く意味もない。

 素直に信じたほうが気も楽だろう。

 

「では、ありがたく貰いますね」

「ええ、どうぞ。聖獣を召喚すればヒトガミも家族に手出し出来なくなりますよ」

 

 受け取ったルーデウスは懐へと仕舞い込んだ。

 そして、少し戸惑うかのように彼女へと視線を合わせる。

 

「思えば、リベラルさんにはお世話になりっぱなしですね」

「ん? いきなりどうしましたか?」

 

 キョトンとした表情を見せるリベラル。

 だが、ルーデウスは最初に言ったように、謝罪したい気持ちもあってここに来たのだ。

 

「昔からずっと、僕や家族はリベラルさんに助けられてばかりでした」

「…………」

「転移事件後も、教わったことを実践することで窮地を切り抜けることが出来ました」

「それは貴方の力でもありましたよ」

「いえ、僕だけでは厳しい場面もありました。特に、今話したドルディアの村で北聖と戦った時は本当に危なかったです」

 

 大森林の雨季前に獣族の子どもと聖獣を攫いに来た盗賊たちの中に、大物が紛れ込んでいたのだ。

 北聖ガルス・クリーナー。自身よりも格上の剣士を相手に、ルーデウスは見事に勝ちきったのである。

 その際、リベラルの教えた重力魔術や電撃魔術が大きく役立つことになった。

 

「ロキシー先生のように、リベラルさんもまた僕は尊敬している人です」

「それは光栄ですね」

「でも、ヒトガミの脅しにアッサリ屈してしまい、リベラルさんを本当に殺そうと何度も考えてしまいました」

 

 実際に彼が行動に移し、リベラルを殺すことが出来たのかは分からない。真正面からは確実に無理でも、寝込みを襲うことは可能なのだから。

 ヒトガミの言う通り、ルーデウスは間違いなくリベラルを始末出来る可能性のある人物だった。

 

「シルフィに説得されなければ……本当にどうしていたか分かりません」

「…………」

 

 今ならそれがどれほど馬鹿げたことなのか分かる。

 ヒトガミに従えば、破滅しかなかっただろう。

 それにゼニスの治療も出来なくなり、家族は誰一人として笑うことの出来ない結果になっていた筈だ。

 そんな馬鹿な未来に自ら歩もうとしていたことが、ルーデウスはどうしても許せなかった。

 

「もしも殺せと言われていた相手がロキシー先生だったりしたら、多分僕は迷わずヒトガミに逆らっていたと思います」

「正直ですね」

「リベラルさんの強さもあったでしょうけど、僕は恩人である貴方にそのような行動をしようとしてました……申し訳ございませんでした」

 

 頭を下げて謝るルーデウスに、彼女は「うーん」と困った表情を浮かべる。

 行動に移されなかったのだから、別に何かを思うようなことはなかったのだ。

 

「ルディ様、私は別に気にしてませんよ。そもそも貴方が何かをしたとしても、それはヒトガミが悪いんですから」

「……でも、気が収まらないです」

「でしたら、貴方の納得出来る形で誠意を見せればいいですよ。私はそれをちゃんと受け止めますから」

「……はい!」

「はい、この話はおしまいです。誠意を見せるのは別の機会でいいですよ」

 

 当然ながらそうなる。

 ルーデウスは罪悪感を抱いているのだ。

 一人で解消することが出来ないなら、師匠としていくらでも手を貸そう。

 元より、本当に襲われていたとしても気にはしなかった。

 どちらにせよ、彼はヒトガミの被害者なのだから。

 

「話が変わりますが、あなた方は今後どうする予定ですか?」

 

 あなた方、というのはルーデウス、シルフィエット、ロキシーの3人に向けられた台詞である。

 パウロたちは住む場所を手にしているが、3人はそういう訳でもない。

 ルーデウスはパウロの元で寝泊まりすればいいだろうが、残りの2人はいつまでも頼りっきりになるわけにもいかない。

 ここに残るにせよ、去るにせよ、どうするのだろうとリベラルは疑問に思ったのだ。

 

「ルディ、シルフィ。せっかくだ。昔に言ってただろ? ラノア魔法大学に行きたいって」

「ああ、そんなこと言ってたような気もしますね」

「行きゃいいじゃねぇか」

「へ?」

「今のお前たちは共依存してる訳でもねぇ。なら丁度良いじゃねぇか」

 

 あっけらかんと告げるパウロに、ルーデウスたちはどうするかと思案する。

 

「それにロキシー」

「はい?」

「教員でも目指せばどうだ?」

「突然ですね……」

「ルディもそれを望んでるぜ?」

「えっ?」

 

 唐突に話を振られ、ルーデウスは頓狂な声をあげる。

 パウロへと視線を向ければ、ウインクしてきた。

 どうやらシルフィエットとロキシーの2人の恋路を応援するつもりらしい。

 援護射撃してくれたのだろうが、誰を選べばいいのか決めきれてない彼からすると展開が早すぎた。

 

「まあ、今すぐ決める必要もないしな。しばらくはウチでゆっくり過ごせばいいさ」

「……分かりました。お言葉に甘えさせてもらいます」

 

 キラッと擬音が聞こえそうなほどにはにかむパウロに、ルーデウスはまあいいかと思う。

 2人と過ごす日々は楽しいと感じているのだ。

 彼女たちと学校生活を送れるのであれば、前世のような思いをすることもないだろう。

 というか充実した青春を送れそうである。

 本当に通うかはまた後日決めればいい。

 それよりも、同居出来ることの方が嬉しい話だ。

 

 ルーデウスは……否。

 ロキシーとシルフィエットもまた、ブエナ村で過ごしていた日のことを思い返し、懐かしい気持ちになった。

 

「ああ、ルディ様」

 

 そこへ不意にリベラルから声を掛けられる。

 

「どうしましたか?」

「もしラノア大学に入学されるのでしたら、サイレント・セブンスターと仲良くなって欲しいです」

「サイレント・セブンスター?」

「ええ、ヒトガミを倒すために必要な人物です」

 

 そう言われれば、仲良くする他ないだろう。

 具体的にどう必要になるのかも気になるところだ。

 

「倒すのにどういったことで必要となるんですか?」

「彼女は今代の龍神との連絡手段を持つ唯一の存在です。ヒトガミを倒すには龍神オルステッド様の協力が必要不可欠ですから」

「なるほど」

 

 リベラルの言葉に、彼は納得する。

 オルステッドという人物についての詳細は知らないが、ヒトガミと敵対していることは聞いている。

 更にリベラルよりも強いということもだ。

 それならば断る理由もないだろう。

 

「分かりました。友人となれるように頑張ります」

「きっと打ち解けられますよ」

 

 そうして、リベラルとの話は終了した。

 

 

――――

 

 

 家の中の椅子に座ったリベラルは、一人思案する。

 今のところ、ほとんどが想定通りに進んでいる。

 ルーデウスがヒトガミに脅され、敵対しそうになったことも想定内のことだ。

 

「…………」

 

 本来の歴史でも、ヒトガミは脅すことでルーデウスをオルステッドと戦わせたのだ。

 そのため、どこかのタイミングで同じようなことをすることは分かっていた。最悪、不意打ちで最大級の魔術を打たれることも想定していた。

 結果、襲われることなくシルフィエットによって説得された訳だが。

 

 もちろん、想定外のこともいくつかある。

 昔にノルンを使徒として伝言扱いされたこともそうだし、パウロに猜疑心を植え付けられたことも想定していなかった。

 今回、剣神によってルーデウスが生殺与奪を握られたことも想定外だ。

 結局無事だったので良かったが、何か違和感を覚える結果でもある。

 

「まあ、守護魔獣も召喚しますし対応出来るでしょう」

 

 聖獣がいれば、ヒトガミは家族に手出しを出来なくなる。それは本来の歴史でも実証済のことだった。

 後はナナホシと会い、オルステッドの誤解を解くことが出来れば勝利したも同然となる。

 後もうちょっとなのだ。

 もうすぐで全てを終わらせることが出来る。

 

「後10年。それまでの間に、準備は整えられると思いますが……ヒトガミ次第ですかね」

 

 ヒトガミの行動の多くは読めていたが、これからもずっと読みが当たるとは限らない。

 外れれば一歩後退することもあるし、場合によっては全てが台無しになる可能性もゼロではない。

 一個一個丁寧に、ヒトガミの手を潰すのだ。

 

「まあ、今は素直にルディ様たちと再会出来たことを喜びましょう」

 

 そして、彼女はまた研究へと取り掛かった。




今回も推敲なしです。誤字脱字あれば申し訳ない。

Q.聖獣。
A.独自設定。でも聖獣には特別な力がありそうなんですよね。ヒトガミが手出し出来ないって相当ですよ。原作で盗賊に捕まってたのだけは何故かわからないですけど…。

Q.ノルンとアイシャ。
A.空気でしたが今回ずっとリーリャとゼニスの側にいました。アイシャはともかく、ノルンは話を全く理解出来てないです。

Q.ルーデウス。
A.罪悪感MAXで実は苦しんでいた。そのため謝罪をしたかった。誠意の見せ方はまた別の機会に。

Q.ラノア魔法大学に行くんか。
A.行きます。これも運命ですね。

Q.パウロのアシスト。
A.作中に記載したように、シルフィエットとロキシーが息子に気があることに気付いていた。そのためアシスト。早く孫の顔が見たいなぁ、という訳ではないがルーデウスを純粋に応援している。

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