リベラル「ラノア王国に向かいます」
エリス「残された家族よ……私は父様を助けるわ」
ルーデウス「エリスいなくなったと思ったらシルフィとロキシーが現れた」
今回は恒例の状況説明回。
それはさておき。
低評価来るとやっぱりショボーンとなりますね。低評価理由の大半はリベラルの行動理念関係なので、一章のラプラスと和解した時に飛ばさず書けば良かったと後悔。
今回の章の終わり頃に、リベラルの行動理念について明記します。
また、明日から実習が始まるので添削せず何とか形にして投稿しました。いつもより短くてすまぬぅ!
実習の関係上、スマホもほぼ触る暇がなくなるので1ヶ月近く次話作成率が進行しないと思います…。
1話 『状況確認』
甲龍歴422年。
転移事件から5年が経過した。
通称『フィットア領転移事件』から五年が経過した。
領主サウロス・B・グレイラットは死亡。
その息子であり、城塞都市ロアの町長、フィリップ・B・グレイラット及びその妻も死亡。
その報告のしばらく後。
フィリップの娘エリス・B・グレイラットも死亡したと報告された。
それにより、ダリウス・シルバ・ガニウス上級大臣は資金援助をうちきった。
個人で捜索活動を続ける者はいたが、フィットア領捜索団は事実上解散。
難民キャンプはその活動を捜索から開拓へと移行していった。
こうして、アスラ王国にとっての転移事件は終了した。
――――
ここはラノア王国の北端に位置する大都市。
魔法都市シャリーア。
ネリス公国、バシェラント公国との国境線ギリギリに存在する魔法三大国の中枢だ。
魔術に関するありとあらゆるものが凝縮されて詰め込まれた魔法都市と呼ばれている。
この都市には魔法三大国と魔術ギルドが合同で管理しているため、領主が存在しない。
街の構造はミリシオンを参考にされていて、最新式の耐魔レンガで組まれた魔術ギルド本部を中心に、東にはラノア魔法大学を中心とした学生街。
西にはネリス魔道具工房を中心とした工房街。北には商業ギルドを中心とした商業街。
南には外から来る者や冒険者を迎え入れる宿場街がある。
ラノア魔法大学がどんな種族でも拒むことなく迎えていることから、様々な種族が暮らしている。
そんな都市の外れに、一軒家がポツリとあった。
庭もあるその家は、一人で暮らすにはあまりにも大きい家だ。
家族前提で過ごすなら快適な広さと言えよう。
交通の利便性さえ度外視すれば中々良い家だ。
そこに彼女――リベラルは生活していた。
「…………」
その肝心のリベラルは机に座り、何かを書いていた。
彼女の周りにはビッシリと文字の書かれた紙が乱雑に置かれている。
集中した様子で書き続け、周辺の環境にも気付いている様子がない。
そこから更に数時間ほど書き続けたところで、リベラルはようやく肩を伸ばして一段落ついた様子を見せる。
「ん、ふぁ……今どれくらいの時間でしょ」
散らかった書物を整頓し、彼女は窓の外を覗く。
既に夕暮れ時となり、雲のない空に赤色を残していた。
ご飯の用意をしていなかったな、と思いそのまま一階へと降りていく。
リビングへと向かうと、そこには車いすに座っているゼニスと仮面を被った金髪の男――アルマンフィがいた。
「…………」
アルマンフィは何かを堪えるように身体を震わせている。
リベラルはどうしたのだろうかと白々しく口を開いた。
「発情期ですか?」
「訳のわからんことを言うなぁ! このアルマンフィは誇り高きペルギウス様の下僕! 決して貴様の下僕ではない!」
「でもそのペルギウス様公認ですよ?」
「黙れぇ!!」
色々とストレスが溜まっているのだろう。
アルマンフィはリベラルへと殴り掛かろうとしては停止、という行動を繰り返していた。
残念ながら召喚された彼は、契約によりリベラルへの暴力を禁じられている。
彼の不思議な挙動は、殴りたいのに強制的に動きを止められていることによって生じていた。
リベラルが態々町外れの家で過ごしているのは、理由があってのことだ。
とは言え、単純な理由だった。
魔術の実験をする際に、周辺への被害を出さないため。
鍛錬と技術の発展によって身体を沢山動かすため。
そのために人のいない場所の家を買い取り、便利な足として光の速度で移動出来るアルマンフィを召喚していた。
もちろん、先程の発言通りペルギウス公認である。
流石に毎日は無理だったが、週に数回アルマンフィは家の手伝いのためにやってくることになっていた。
「今日のやるべきことは全て終えた! 早く……早く俺に帰れと命令しろ……!」
「あっ、晩ご飯作っといて下さい」
「貴様ァァァァ!!」
だが、悲しいかな。
命令に逆らうことの出来ない彼は、怨めしい悲鳴をあげながら光の速さで料理を始めた。
下ごしらえや包丁さばきは文字通り光速であったが、煮たり焼いたり漬けたりといった工程は光速で出来ない。
アルマンフィのご飯はなんだかんだで時間が掛かるのであった。
その間にリベラルは自宅に届けられていた手紙を確認する。
1枚目の差出人はパウロ。
結局フィットア領民捜索団は解散となった。
正式に打ち切られたのは最近と言えるタイミングだが、団長の座は他のものに託して既に捜索を止めていたようだ。
辞めるにあたってのトラブルは色々とあったようだが、最終的には平和的に見送られることとなったらしい。
パウロがどうしても見つけたい存在は既に見つかっている。
結局、ブエナ村の人々は無事に発見されたり死亡確認されたりしつつも、全員の安否確認が出来たらしい。
そうなった以上、パウロのモチベーションも維持出来ないだろう。
むしろ、十分すぎるほど貢献したくらいだ。
手紙を出したのと同時期に、シャリーアへと向けて家族全員で出発したと記載されていた。
まだまだ子どものノルンとアイシャもいるため、旅路は時間の掛かるものとなっている筈だ。
しかし、そう遠くない時期にパウロたちはシャリーアにやってくるだろう。
2枚目の差出人はルーデウス。
ルイジェルド、シルフィエット、ロキシーたちと共に『デッドエンド(仮)』として活動。
予定通り冒険者として活躍すると同時に、人助けを積極的に行ってたらしい。
一箇所に留まらず、色んな場所を旅しながらやっていたようだ。
唯一ランクの低かったシルフィエットも無事にAランクの冒険者となり、ランク差による問題も解決。
吟遊詩人たちのハートを掴んだのか、色々な場所で『デッドエンドのルイジェルドは名誉を取り戻すために戦い、同胞を救うために優秀な医者を求めている』といった感じの内容が広まっていた。
もちろん、シャリーアにもその名声が届いており、リベラルも微笑ましく聞いていた。
彼との契約期間は終えてるのでパーティーは既に解散し、シャリーアに向かっているとのことだ。
その割には未だにやって来ていないことに疑問を感じるが、ルーデウスならば大丈夫だろうと考える。
シルフィエットとロキシーのことに余り触れていないことが気になったものの、解散している訳ではないので思考から外す。
取りあえず、ルーデウスたちも遠くない時期にやって来るだろう。
因みにパウロとルーデウスの2人は、転移遺跡の場所を把握出来てないので地に足をつけて来る必要がある。
3枚目の差出人はシャンドル。
北神二世には依頼を頼むと同時に、住居予定の地も教えているため手紙のやり取りが可能であった。
更に言えばアリエル王女も既にラノア大学におり、リベラルが支援者であることを知っている。
既に顔見せも済んでおり、両者の状況について把握済みだ。
シャンドルたちはアリエルを王にするため、アスラ王国で裏工作や敵対者の排除に精を出していた。
第一王子派である上級大臣ダリウス・シルバ・ガニウスを失墜させるため、トリスティーナのことは伝えてある。
今回の手紙には、そのトリスを保護出来たという内容が記されていた。
今はトリスを確保したためなのか追手の追撃が激しいため、しばらく隠れている状況のようだ。
エリスのことも書かれており、ギレーヌにより剣聖として認められたことと、シャンドルが北聖と認めたことも書かれていた。
実戦による死線を多く潜り抜けた影響か、エリスの成長が今尚続いているらしい。
今後の方針はトリスには安全な場所にいてもらう必要があるため、アリエルの元へと送り届けることにした、とのことだ。
彼らもそう遠くない時期にやって来るだろう。
手紙の内容を読み終えたリベラルは、一息吐いて思考する。
(ほとんど予定通り、ですかね)
以前のように、ヒトガミがノルンに干渉するといった誤算もない。
その肝心のヒトガミも、直接使徒をぶつけてくるだけなので取り除く布石もほとんどない。
特にアスラ王国への対策が順調に進んでいるのはいいことだ。
デリックも死んでいないため、アリエル王女は王としての志というものに対しての意識も芽生えている。
ヒトガミの妨害はあれど、オルステッドとペルギウスの協力を得られれば間違いなく王位を継ぐことが出来るだろう。
(これならばオルステッド様とも問題なく関係を築ける筈です)
ラノア大学には既にサイレント・セブンスターこと七星 静香が在籍している。そしてまだ彼女とは会っていない。
なので、必然的にオルステッドとの繋がりも持ててない。
オルステッドに関しては、元々の予定通りにコンタクトを取るつもりだ。
ナナホシが彼をいつでも呼び出せるため、中継役として頼るつもりだった。
流石に手紙などのやり取りを挟んで事情を伝えれば、前回のように問答無用で襲ってくることはないだろう。
というか、ペルギウスを通してリベラルのことが既に伝わっている筈なので、同じ結果になることはあり得ない。
ペルギウス本人からも悪くはない感触だったと聞いたし、料理を作っているアルマンフィも多分大丈夫だろう、などと言っていた。
それでも尚、本気で襲い掛かってくるのようであれば、諦めて一人でヒトガミと戦うしかない。
そしてもう一つは――
(……そろそろ静香と向き合わなければなりませんね)
ここに至るまで、父親であるラプラス以外でリベラルの目的は誰も知らない。
ラプラスと和解した日に、彼女たちは話し合った。
己の目的はヒトガミ打倒の邪魔になってしまうのだろうか、と。
それは分からない、と言われた。
未来を作るのは
だからこそ、リベラルは試行錯誤して考え付いた道筋を伝えた。
その結果、ラプラスからそれなら大丈夫だろうというお墨付きを貰う。
何せ彼女は考える時間だけはずっとあったのだ。
己の知る未来とのシュミレートをし続けていた。
そしてその想定通りに事は進んでいる。
自覚はあるのだが、ナナホシとリベラルの関係性は非常に重い。
重たすぎて拒絶されかねないが、当事者であるナナホシには知って欲しいことがあるのだ。
彼女に全てを知ってもらうタイミングは決めている。
――オルステッドと会うときだ。
ナナホシ、ルーデウス、オルステッドの3人には聞いて欲しかった。
その時に、リベラルという存在について明かす。
「おいリベラル。出来たぞ」
「はーい」
そうして思考に耽っていたところで、アルマンフィから声が掛かる。
手紙は保管し、テーブルへと向かうとオムライスが2人前作られていた。
リベラルが調理を教えたこともあり、今ではすっかり世界有数の料理人となったアルマンフィだ。
ゼニスとリベラルの分があり、精霊であるアルマンフィは食事を必要としないので用意されていない。
彼は、やるべき仕事は終わったのでさっさと帰るのかと思うのだが、腕を組んで2人を眺める。
「どうした? 食べないのか?」
「いえ、いただきます」
「そうしろ。料理が冷めてしまう」
座りもせずに料理を眺めていたことを不審に思ったアルマンフィから声が掛かったので、リベラルはゼニスの介助をした後に席につく。
彼は変わらず腕を組んで2人を眺めるばかりだ。
リベラルとゼニスはそのことを気にすることもなくオムライスを口に運ぶ。
「美味しいです。調味料の配分がまた正確さを増しましたね」
「フンッ……ペルギウス様の下僕たるもの、この程度当然だ」
「でも料理の感想待ってましたよね?」
「……黙れ」
料理の美味しさに頬を緩めるゼニスを見て、アルマンフィも満足気な雰囲気を出す。
早く帰りたがってた割には食事のことが気になっていたらしい。
ツンデレとはこのことなのだろうか。
結局、アルマンフィはご飯を食べ終わるのを待ち、食器洗いまでしてくれるのであった。
彼はとても優しかった。
「では、今度こそ俺は帰るぞ」
「ありがとうございました」
「ふん……」
光速で飛び立つツンデレアルマンフィを見送ったリベラルは、続いての作業としてゼニスの容態の確認を行う。
ミリス神聖国やその道中では、魔眼をずっと使用していた影響で体調を崩してたりしていた。今ではその時のことを反省し、魔眼は必要最低限しか使用しないことにしていた。
というのも、ゼニスが無理をするなと怒っていたからだ。体調を崩していたことに気付いていた彼女は、自分のために無理をしていることが嫌だったらしい。
リベラルと考え合った結果、日常的な会話が伝わらない場面があっても構わないとゼニスは告げた。
そのため、今では体調管理などのタイミングでしか魔眼を使わないことになっていた。
「……ん、特に問題はなさそうですね」
診察を終えたリベラルはそう告げる。
ゼニスの治療に関しては今のところ順調だ。
パウロたちに告げていた治療期間は最低でも10年。
既に5年が経過して折り返し地点となっている。
だが、シャリーアに来てからは誰にも邪魔されずに集中して取り組めていたお陰か、もう少し早く治療出来そうな手応えがあった。
もしもルーデウスがラノア大学に入学すれば、卒業する頃には治せるかも知れないと考えた。
「…………」
ゼニスがニッコリしながら手を握り締めてきたので、リベラルも笑顔を返しおっぱいに顔を埋める。
この柔らかいお餅に顔を埋めると安心感が凄かった。
研究漬けで疲れていたので、少しばかりの充電だ。
決して疚しい気持ちはない。
それはさておき、今後の展開について考える。
といっても、しばらくは平和になる予定だ。
ルーデウスたちが来ればラノア大学への進学を勧め、その傍ら治療の準備を進めるだけ。
静香へのコンタクトはルーデウスを経由して行い、オルステッドとしっかり話し合う。
静香の転移の研究は口出ししすぎないように見守り、観察に留める。
フィリップとのやり取りを進めつつ、アリエルの行動経過に異変がないか確認。
時おり空中城塞に赴き、文献を読み漁ったり。
鍛錬以外に血生臭いことは起きない予定だ。
少なくとも、この地から離れない限り武力行使による妨害は来ないだろう。
ヒトガミもリベラルの目的を知る余地がないため、大きく逸れることはない。
唯一の不安は、静香との関係性だけだと考えていた。
リベラルの今までの動向を考えれば、不信感しかないだろう。ヒトガミ並に怪しい気がしてままならなかった。
といっても、そのためにオルステッドたちと話し合いの場を設ける予定なのだが
それを踏まえた上で、不安な要素があるのが困りものだ。
しかし、それはリベラルの約束を果たすのに必要な工程。
互いの信頼関係が影響する話なので、ここでウダウダ考えても仕方のないことだ。
次に考えるのはヒトガミ打倒に必要なことだ。
ヒトガミの戦闘能力は不明なものの、恐らくオルステッドとリベラルの2人が万全な状態で相対すれば勝てる、と思う。
そしてその状況に至るために障害となるのが、魔神ラプラスだ。
というかそれ以外の障害は無いと言っても過言ではない。
アリエルをアスラ王にするのは、魔神ラプラスが復活した時の備え。
パックスをシーローン王にするのは、魔神ラプラスの復活位置を固定するため。
オルステッドは既にヒトガミに至るまでの道筋を見付けており、後は魔神ラプラスさえどうにかすればいい段階に至っているのだ。
今の彼がしている布石の大半は、ラプラスの復活位置を固定出来なかった時の備えに過ぎない。
そして肝心のパックスだが、ロキシーが関わらなかったことによりオルステッドの知る歴史通りに進む可能性が高かった。
リベラルの知らない歴史は、オルステッドがカバー出来る。
ならば問題ない筈だ。
ヒトガミを打倒するという誓いは順調に進んでいる。
「ん、ありがとうございましたゼニス様。充電完了です」
「…………」
取り敢えず今出来ることと言えば、ゼニスの治療と日々の鍛錬だ。
ルーデウスたちが来るまでは、しばらくのんびりと出来るだろう。
スペルド族の治療もあるので、また文献とにらめっこする日々が続く。
それまで無職の生活でも堪能しよう。
ルーデウス来たら本気出す。
リベラルはそんな感じの気分だった。
Q.なんでまだナナホシと会ってないん?
A.リベラルは自分が胡散臭くなっていると思っているため、ルーデウスを介して知り合った方が円滑に関係を築けると思っている&何度も同じ事情の説明を省くため。
Q.オルステッド…ペルギウス曰く悪くない感じだったんかい。
A.というか突然の遭遇が両者にとって想定外だっただけで、仲介役いれば普通に話聞いてくれる。
Q.アルマンフィ。
A.ツンデレ。
Q.唐突なタイトル回収。
A.特に意味はない。ただの文字数稼ぎ。