リベラル「ゼニスを連れて途中まで同行します」
ルイジェルド「フィットア領到着後もデットエンドの契約3年延長した」
ルーデウス「ルイジェルドの協力します」
今回はクレアを書くのに非常に苦労しました。なんかよく性格というか、この場面ではこういう言動をするだろうな、というのがいまいち掴めず。それと、リアルが忙しくて中々執筆出来ていない状態が続きます。申し訳ございません。
幼少期リベラルイメージ画像
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使用させていただいたメーカー:「テイク式女キャラメーカー」
キャラメイキング楽しくてつい作ってしまいました。
ルーデウスたちとリベラルの話し合いも終わり、後は準備を整えて出発するだけ、とは行かず。
ミリス神聖国から出発し、ラノア王国へとゼニスを連れて行くために、やらなくてはならないことがある。
ゼニスは実母であるクレアとまだ会っていないのだ。流石にパウロは既に何度か会って娘が行方不明であることを伝えているが、捜索済みであることは未だに伝わっていない。
パウロがしばらく鬱になっていたことと、仕事が溜まってしまったことのふたつが主な原因だ。
出発する前に、状況と事情の説明をしなくてはならないだろう。
「それで、ルディ様は何故まだお会いしてないのですか?」
ルーデウスにとっては祖母であり、クレアにとっては孫である。
しかし、どういう訳かミリス神聖国にそれなりに滞在している筈の彼も、まだクレアと会っていないというのだ。
「そりゃそうですよ。僕だって祖母のことを知ったのが最近なんですから……」
ルーデウスは何とも言えない表情を浮かべる。
クレアと喧嘩別れしたゼニスは、あまり実家の話をしていなかったため、ルーデウスが詳しく知る機会がなかった。
更に言えば、エリスを送り届けることを優先していたため、気が回らなかったのだろう。パウロが伝えていないことも原因だ。
仕方ないと言えば、仕方のない事情であった。大体パウロが悪いのだ。
ともあれ、行かないという選択肢にはならないため、彼もクレアと会う準備をする。
「でも、すんなりいけるか分からないですよね?」
パウロからクレアがどういう性格か聞いておいたため、ルーデウスは不安そうな表情を見せる。
頑固で厳しい人物、と言われると、銀緑色のリベラルに対しての偏見が強い可能性が高い。彼女がラプラス戦役で活躍した『銀緑』だとハッキリ知れば手のひらを返すかも知れないが。
しかし、廃人のようになってしまった娘を連れて行かれる、となると喧嘩別れしていたとしても簡単には頷かないだろう。
「分からなくても、私はこの国でゼニス様の治療をするのは無理ですけどね」
「はは……とりあえず、門前払いにはならないようにしないとですね」
なんて口にするが、流石にそうならないだろう。当然ながらラトレイア家には訪問することを事前に通達しているし、向こうも分かった上で招待しているのだ。
パウロを門前払いすることはあっても、リベラルは銀緑と確認が取れれば追い返されないだろう。とはいえ、どのような反応を見せるかまでは分からない。
「待たせたな」
既に礼服に身を包んでいる二人は、扉の先から出てきたパウロへと目を向ける。娘たちやリーリャも既に正装になって外で待っているので、彼が最後だ。
真面目な格好をしているパウロを見るのが地味に初めてのルーデウスは、普段と違う立派な姿に感嘆の声を漏らしていた。
「中々様になっていますね」
「そりゃ元貴族だからな。ちゃんとした格好じゃねえと次こそ追い返されちまう」
どうやら前回は鬱状態のままクレアと会っていたようで、その時は無精髭にヨレヨレの服だったようだ。
それでよく門前払いされなかったなと二人の胸中を占める。
「みんなも待ってるので早速行きましょう」
「おう」
今回はグレイラット家が全員揃って向かうのだ。パウロも気合いが入ってる様子だった。
しかし、そこに水を差すような発言が出る。
「……私、行きたくない」
「……私も行きたくない」
まだまだ幼いノルンとアイシャが、非常に嫌そうな表情を見せてそう言った。
発言こそしてないが、リーリャも難しそうな表情を浮かべている。
「だっておばあちゃん意地悪だもん……」
どうやらラトレイア家でふたりは散々な目に合ったらしい。感情に素直な年頃であることもあり、否定的な気持ちが強めだ。
どう考えても呑んだくれていたパウロの方が、クレアのヘイトが向いてそうではあった。しかし、そんなことはなかったのだろうか。
それとも、ダメな父親だったせいで余計に娘たちに強く教育しようとしてしまったのか。
どちらにせよ、マイナスイメージが定着してしまっていた。
「大丈夫ですよ。いざとなったら僕が助けますから」
「ほんと?」
「約束しますよ」
本来の歴史と違い、妹たちに嫌われることなく仲良くなっているルーデウスがふたりを宥める。
しばらく何かを話していたが、ノルンとアイシャは納得してくれたらしい。アイシャはルーデウスに笑顔で抱きついていた。
どうやら、パウロやリーリャが声を掛けなくとも、彼ひとりで宥められるほどに頼もしい兄になっているようだ。
そんな様子を見つつ、パウロがリベラルの側へと近付く。
「以前の俺は酒浸りだったからな。あんまりにもダメな父親だったから、クレアが何とかしてノルンを引き取ろうとしてたよ」
「ノルン様だけですか?」
「そりゃここはミリス教が盛んだからな。アイシャは妾の子扱いで歓迎されてなかったよ」
貞操観念の強いミリスではノルンが優遇されるのは仕方ないことだろう。
それよりも、そんな状況を作り出してしまったパウロにリベラルは呆れる。
「まあ、今回は上手くやるさ」
「ならいいんですが」
そんな会話をしつつ、馬車に乗りラトレイア家へと向かう。
道中ではルーデウスがクレアの人物像について細かく話を聞き、パウロやリーリャと何度もどういうところに気を付ければいいか、などの礼儀作法を質問していた。パウロは答えられてなかったが。
途中からはアイシャもその会話に混ざっていたが、礼儀作法だけならば既にルーデウスよりも知識を有しているようだ。
いつの間にか問題形式になっていたが、ノルンもそれに混ざって早押しクイズみたいになっていた。
結果は一位がアイシャ。二位がノルン。三位がルーデウスである。
とは言え、負け続きで泣き出しそうになったノルンに、ルーデウスが勝利を譲ったような形であった。
その頃にはノルンとアイシャもすっかり行きたくないという気持ちも薄れたようだ。
「着いたぞ」
そんな道中を過ごしつつ、ラトレイア家へと到着する。
大きな門、門の両脇にたつ獅子の像、門から入り口へと続く長い石畳の道、道の途中にある噴水、変な形に刈り揃えられた芝。
そして、その奥に白く綺麗なお屋敷。
訪問に対応していた衛兵は、見違えたパウロに驚いた様子を見せていたが、それだけだ。
それからしばらく待つと、屋敷から衛兵や執事が出迎える。
「ゼニス様。ようこそお帰りくださいました。我ら一同、心よりお待ち申し上げておりました」
頭はゼニスへと下げられていた。
もちろん、そのことに対して気にする者もいない。
そして、そのまま案内されて中へ入ろうとするが、
「申し訳ありませんが貴方はしばらくお待ちください」
リベラルだけ止められてしまう。
確かに銀緑であることをラトレイア家に伝えているが、所詮は手紙のやり取りだけだ。
魔族にしか見えないのだから、確かな身分を証明しなければそうなるだろう。
リベラルは懐からとある紋章を取り出し、執事へと渡す。
「これで私の身分の証明になると思います」
「これは……」
リベラルが見せたのは甲龍王の紋章だ。
アスラ王国でなくとも、ペルギウスの名は絶大なものである。
今の時代を甲龍暦と名付けられる程に、ペルギウス・ドーラの存在は大きい。
それに、今は偶々だが空中城塞ケイオスブレイカーが何とか目視出来る距離にあるのだ。余計にその偉大さが伝わる。
そんな人物の身分を見せているのだ。
紋章を持っている以上、彼女が銀緑であろうとなかろうと、丁寧にもてなさなければならない人物であった。
「……本物で御座いますか?」
「もしも本物でなければ、私はペルギウス様の名を騙る不届き者ですね」
まあ借りパクしたものですけど。
そんな言葉をリベラルは飲み込む。
「分かりました。大奥様にはお伝えします。どうぞ、リベラル様もお入り下さい」
そのまま通され、不安そうに見守っていたパウロたちと合流する。
「危うく私が門前払いされるところでしたね」
「お、おう……」
パウロたちもリベラルがそのようなものを持っているとは思っておらず、驚いた様子を見せてた。
「……リベラルが甲龍王の仲間なんだって改めて実感したよ」
「フフフ、貴方のことを私の下僕として迎い入れても構いませんよ。ほら、3回まわってワンと言いなさい」
「バカ言うな」
なんてふざけたやり取りをしつつ。
屋敷の中へと案内される。
案内された先は応接室で、リベラルたちはそのまま席に座っていった。
「大奥様、こちらです」
しばらく待つと扉が開き、先程の執事と白髪の混じった金髪の神経質そうな初老の女性――クレアが入ってきた。
それに合わせてこちらも全員立ち上がり、パウロが代表して口を開く。
「お義母様、本日はお日柄もよく――」
「……ふん、多少は小綺麗な格好が出来るようですね」
パウロらしからぬ丁寧な挨拶は遮られ、クレアは見下したかのような言葉を吐き捨てる。
そのまま立ち上がった全員を一瞥すると、彼女は車いすに座るゼニスの前へと歩いていく。
「……ふん、無様な姿になりましたね。見たことですか。私の言うことを聞かずに逆らうからそうなるのです」
廃人のようになってしまった娘に対して、罵声を浴びせるクレア。ゼニスはそれに対して相変わらず反応しなかったが、パウロは聞き捨てることが出来なかった。
怒気を含ませ、今しがた無視した彼女へと声を荒げる。
「おい、それはねえだろ? 久し振りに会った娘に……こんな姿になったゼニスに対して何だよそれ?」
「貴方は外見を整えても、中身は変わらないのですか。声を荒らげないで下さい」
「ああ!?」
クレアの馬鹿にするかのような発言に、パウロは思わず詰め寄ろうとする。しかし、それをルーデウスが間に割って止めた。
彼を含めた他の者たちはパウロほど顔には出てなかったが、それでも不服そうな雰囲気が見て取れる。
もっとも、パウロが最初に怒ってなければ他の誰かが声を荒げただろう。
間に入ったルーデウスは胸に手を当てて軽く会釈をした。
「はじめましてお祖母様、ルーデウス・グレイラットと申します」
彼も内心穏やかではなかったものの、第一印象だけで相手を拒絶しないように意識して過ごしている。
ゼニスとの間に何か合ったからこその反応かも知れないのだ。クレアのことを何も知らないのだから、まずはそれを知る必要があると冷静になるよう努めていた。
「ルーデウス……長男ですか。顔はそこの男に似てますが、礼儀は私の娘に似て少なからずあるのですね。しかし挨拶に来るのが遅いのでは?」
「それは……まあ、そこの男が何も話さず塞ぎ込んでいたので」
「……なるほど。それでは仕方ありませんか」
以前までのパウロがどれほど憔悴していたのかは知っていたため、クレアも納得を示す。当時は門前払いこそしなかったが、ろくな反応を示さなかったため彼に業を煮やして最終的に追い出していた。
だからこそ、あの状態から立ち直らせたルーデウスのことを内心で評価する。
「そのことはともかく。お祖母様は母様がどこに転移していたかはお聞きしてますか?」
「いいえ。ただ、ベガリット大陸の迷宮都市ラパンにいるとだけ」
「その通りです。ただ補足すると、過去に誰も攻略することの出来てない『転移の迷宮』の最奥に囚われていたそうです」
それはただ迷宮都市ラパンにいるだけだと思っていたクレアにとって、寝水に耳だった。
「態々そこまで出向き、迷宮を踏破し、ミリスまで護送したリベラルさんにとっても、先程の発言はあまりにも失礼ではないですか?」
彼の示す先には、不満げな表情を見せるリベラルがいた。
彼女としても、先程の発言はかなり不快であった。ルーデウスが取り持とうとしなければ、文句のひとつは溢していただろう。
武に疎いクレアでも、迷宮探索がどれほど危険であり大変であるのか理解出来る。そもそも、ラパンからここまで来るのにもかなりの時間が必要だ。
相当な労力が伴ったことは容易に想像できるだろう。
リベラルが強いだとか、そんなことは関係なく大変だったのは事実なのだ。
ゼニスへの対応は、確かに配慮に欠けていた。
「なるほど……確かにその通りです」
リベラルが何者なのかは、先程執事から聞いていた。その上でゼニスを優先してしまったのだから失態だろう。
「私の名はクレア・ラトレイア。神殿騎士団・剣グループ『大隊長ラージリーダー』カーライル・ラトレイア伯爵の妻です。
現在は、この屋敷を切り盛りさせていただいています。先ほどの失礼は、平にご容赦を」
「私はリベラルと申します。ラプラス戦役では『銀緑』として名を馳せました。
現在は懇意にしているグレイラット家の家族の捜索を行ってましたが、無事に見つかりましたので次はゼニス様の治療を考えております」
お互い挨拶を交わし、一息つく。
『銀緑』の名はもちろんクレアも知ってはいたが、迅速に家族の捜索を終えていることから想像以上に優秀な人物であることは窺い知れた。
彼女は頑固な人物であったが、ゼニスを救出していたことに関して素直に感謝する。
「では、どうぞ、皆様お座りください」
「はい、失礼します」
全員が席に着いたことを確認すると、お茶が運ばれてくる。クレアはそれに一口つけると、ゼニスを見ながら口を開いた。
「それで、本日はどのようなご要件で? ノルンさんとアイシャさんへの教育日ではなかった筈ですが」
ゼニス発見の報告であることは聞いているが、それだけならこんな大人数で訪れる必要もない。
娘が見つかったというのに素っ気ない態度だが、今の時期のクレアはゼニスに対して複雑な心境となっている。
家を飛び出して冒険者となり、消息を絶ったことは今でも許してないし、話し合いくらいはしてやろうかという考えでいたら、心神喪失の状態で帰ってきたのだ。
もちろん悲しみもあったが、意固地で見栄っ張りな性格が、尊大な態度を取らせた。素直に喜ぶことが出来ない状態だったのだ。
「それについてだが……ついてですが、ひとまず捜索団の活動のために俺とリーリャ、アイシャとノルンはしばらくこの国に残らせてもらう」
パウロの目的である家族の捜索は完了した。しかし、家族や親しい人が転移事件に巻き込まれたのは彼一人ではない。
家族とゆっくりと過ごしたいのは山々なのだが、捜索団のリーダーとしてこの国までやって来たのだ。自分だけが先に離脱する訳にもいかない。
一応と言ってはなんだが、親しくしてくれたブエナ村のメンバーを捜したい気持ちはあるのだ。
そう考えると、この国を中心に行方不明者を捜すのが丁度いいだろう。
パウロの言葉に頷くクレアだったが、すぐに己の娘の名前が挙がらなかったことに気付く。
「ゼニスはどうするつもりですか?」
「それについては私から説明します」
発言をしたリベラルへと、全員の視線が向く。
彼女は以前にパウロたちにした同様の説明をクレアたちへ行う。
ゼニスが神子になっていること。それによって今の状態に陥っていること。治すためにシャリーアに向かうこと。そして自分は魔族として扱われるので、この国では治療に専念出来ないこと。
説明を聞かされたクレアだったが、当然というべきかとても納得したような様子ではなかった。
「ーーゼニスが神子になっている……にわかには信じられない話です。心を読むと言いますが、証拠はあるのですか?」
「論より証拠です。好きな数字を念じて下さい。ゼニス様なら当てることが出来ます」
本来よりも軽症となっているゼニスは、簡単な意思疎通なら可能となっている。緩慢な動きだが、日常生活に必要な動作も自分で行うことが出来る。
ゼニスは夢心地のような現実の中で、かつてのような思考力がある訳ではない。それでも自分の現状を理解出来てる程度には、現実を認識出来ているのだ。
クレアとゼニスは何度か数字のやり取りを行う。何気なく選んだ数字や、記念日などの数字。敢えて数字を選ばないという意地悪な選択や、簡単な数字。
ゼニスはそれを一度も間違えずに全て当てた。
それを見ていたルーデウスたちも、実際にここまで当てられるとは思っていなかったのか、驚いた表情を浮かべている。
意外なことと言えば、当てられたクレアは虚偽の報告を一切しなかったことだ。
当てられたことに対し眉をひそめる様子を見せていたが、何度も数字を選んでいた。
やがて、小さく溜め息を吐いたクレアは、
「もう結構です。ゼニスが神子となり心を読めることは十分に理解出来ました」
そう告げ、目を伏せるのだった。
「パウロ」
「なんだ?」
「あなた方がこの国に残り、捜索団として活動することは分かりました。ノルンとアイシャについても、今まで通り教育は続けます」
別に今までラトレイア家から大きな支援を受けていた訳ではない。フィットア捜索団として、グレーな活動も行ってきた。
そのことは、クレアも知っていることだった。
しかし彼女の応答は、それを黙認するという意味であった。
そのことを理解したパウロは数巡ほど固まるも、すぐに真面目な表情を浮かべて頭を下げる。
その後、クレアはリベラルへと視線を向けた。
「ラトレイア家が全面的な支援をすれば、外見的な差別への対処は十分に可能と思います」
クレアの提案は、至極真っ当なものだった。
ゼニスに対して複雑な感情を抱いていようとも、やはり彼女も母親なのだ。娘は介護を必要とする状態なのだから、手の届く場所に居て欲しかったのだろう。
しかし、リベラルは首を横に振る。
「ペルギウス様がアスラ王と対等な立場でありながら、その地位から離れた理由はご存知でしょう。
銀緑である私が食客として居座れば、クレア様の意思などと関係なく周囲の思惑に関わる可能性があります」
「それは……」
「それに、私は自分の髪の毛のことを気に入ってます」
リベラルは髪をクルクル弄りながら話す。
自分の髪色は嫌いではない。むしろ、好きだった。
今は会うことの出来ない、親愛なる父親からの授かりものだ。
ミリスの事情は理解しているので、魔族に近しい髪色の者への差別があるのは仕方ないことだと思っている。だが、理解はしても納得は出来ない。
ハッキリ言って、髪のことで差別されるのは不愉快だった。
「申し訳ございませんが、魔法都市シャリーアで治療を行いたいです」
「しかし……」
差別のことに関しては、クレアが頑張ったところでなくすことは出来ないだろう。
リベラルの拒絶の意思に対して、彼女は狼狽える。
クレアは気丈で冷たさを感じさせる態度を取っていた。しかし、いざゼニスが離れた地に行ってしまうのだと思うと、離れたくない気持ちが湧き出てきたのだ。
今のクレアは、少しばかり情緒が不安定になっているのだろう。ラトレイア家を切り盛りする人間として、どこか一貫性が欠けつつあった。
そしてそれを、彼女自身も自覚する。
どうにかしてゼニスを傍に置きたいという欲求を抑え込み、唇を噛み締める。
いつの間にか娘へと伸ばそうとしていた腕を引っ込め、一度深呼吸をしたクレアは、リベラルへと向き直った。
「え?」
だが、その数巡の間に、ゼニスがクレアの目の前に立っていた。
驚くクレアを他所に彼女は儚い笑顔を浮かべ、優しく抱きついた。
「――――」
呆気に取られたクレアは固まったまま抱擁を受け入れ、静かな時間が過ぎ行く。ルーデウスたちも言葉を発さず、静かにその様子を見守る。
やがて、抱擁を止めたゼニスは元の位置へと戻った。
「…………」
そのまま無言でいたクレアはゆっくり目を閉じ、小さな溜め息をひとつ溢す。
「こうして娘と抱擁したのはいつ振りでしょうか。貴方は随分と大きくなってしまったのですね、ゼニス」
自分にも他人にも厳しいクレアは、娘を抱きしめた経験がほとんどない。
正直なところ、抱きしめたことがあったかどうかすら記憶が曖昧だった。
「私は今でも貴方を馬鹿な娘だと思っています。冒険者などにならず、この国で過ごしていれば転移事件などに巻き込まれることもなかったでしょうに」
一番目をかけていた娘が、一番望まぬ結果に終わった。
それが、誰よりもショックだったのだ。
「ゼニス。貴方はそんな状態になって尚、私の教育が間違っていたと思うのですか?」
クレアとしては、自分の教育は正しいのだと今でも信じている。
だが、喧嘩別れしてしまった娘は、未だに己とは違う意見なのだろうか。
「…………」
ゼニスはその言葉に反応を示さなかった。
言葉が届いていないかのように、無反応だった。
クレアは再び口を開く。
「貴方は今、幸せですか?」
だが、その言葉には反応を示した。
両隣にいるパウロやルーデウスの手を握り、彼女はまるで転移事件前のような――花のように咲き誇る笑顔を一瞬だけ見せた。
「……なるほど、分かりました」
その反応で、ゼニスの気持ちはよく分かった。
クレアは再びリベラルへと向き直ると、頭を下げた。
「娘の治療を、よろしくお願いします」
クレアは今でも自分の言葉が正しいと思っている。
だが、娘が幸せだと思っているのならば、それで良いのだろう。
「お任せ下さい。定期的に手紙は送りますし、治療が終わればお連れします」
こうして、ラトレイア家での話し合いは終結した。
Q.甲龍王の紋章借りパクしたん?
A.ペルギウスは戦友であるリベラルのことを信頼してるので、基本的に彼の名を使うことを許してます。本当にダメなものはちゃんと管理してるし、リベラルにもしっかり伝えてます。
Q.ルーデウスなんでラトレイア家のこと知らんのや。
A.ゼニスがほぼ話題にしなかった&パウロが鬱で話さなかったため。また、テレーズとも会っていないので全く気付いてなかった。